解説

生物進化に伴う硫酸イオン代謝と代謝変換酵素の多様な生理機能硫酸転移酵素の多種多様な生理機能

Multiple Functions of Sulfate Ion Metabolism During the Evolution: Multiple Functions of Cytosolic Sulfotransferases, SULTs

Katsuhisa Kurogi

黒木 勝久

宮崎大学農学部

Takuyu Hashiguchi

橋口 拓勇

宮崎大学農学部

Yoichi Sakakibara

榊原 陽一

宮崎大学農学部

Published: 2020-09-01

生体内に存在する遊離の硫酸イオン(SO42−)は生体外異物や内在性ホルモン,タンパク質などさまざまな生理活性物質の機能制御に役立っている.硫酸基を生理活性物質に付加する役割をもつ硫酸転移酵素は大腸菌などの細菌から,真菌類,植物,魚類,哺乳動物など生物界に広く存在している.特に,植物モデルであるシロイヌナズナや魚モデルであるゼブラフィッシュ,哺乳動物モデルであるマウスおよびヒトでの研究が精力的に行われてきている.本稿では硫酸転移酵素の種特異的な機能や普遍的な機能に関して概説するとともに,植物,魚類,哺乳類における硫酸転移酵素の最近の知見を紹介する.また,最近発見されたα,β-不飽和カルボニルを標的とする第3の硫酸化反応に関しても紹介する.

Key words: 硫酸イオン; 代謝; 硫酸転移酵素

硫酸イオンの活性化経路と硫酸化反応

われわれの体内ではさまざまな分子に硫酸基が転移される反応が行われている.化学的に正確に記すと硫酸基ではなくスルホン基(–SO3H)の転移となるが,ここでは一般的に使われる表現として「硫酸基(–SO3H)の転移」と記す.この硫酸基転移反応は「硫酸化(sulfation/sulfonation)」と呼ばれ,触媒酵素は硫酸転移酵素(sulfotransferases)と呼称される.しかし,われわれは硫酸イオンを直接,基質分子に転移することはできない.体内の硫酸イオンはまず,2分子のATPと反応して硫酸ヌクレオチドPAPS(3′-ホスホアデノシン5′-ホスホ硫酸)へと変換される.このPAPSに変換することでわれわれ生物は初めて硫酸イオンを基質分子に転移することができる(図1図1■硫酸基転移反応(硫酸化)と硫酸転移酵素グループ).そのため,PAPSは活性硫酸とも呼ばれる.硫酸転移酵素がこのPAPSから硫酸基(正確にはスルホン基:–SO3H)を基質のヒドロキシル基またはアミノ基に転移することで,基質分子にはネガティブチャージが付されることになる.そのため,硫酸化は基質分子の生理機能を制御する機能をもつ酵素反応である.硫酸化される基質分子は非常に多様で,軟骨や皮膚,角膜などの結合組織に存在するコンドロイチンやヘパランなどのグリコサミノグリカン(多糖類)を始め,血液凝固因子(タンパク質)や神経伝達物質,内分泌ホルモン,薬物,ポリフェノールなどが知られている(1)1) S. Hemmerich, D. Verdugo & V. L. Rath: Drug Discov. Today, 9, 967 (2004).

図1■硫酸基転移反応(硫酸化)と硫酸転移酵素グループ

生体内の硫酸イオンは硫酸基としてさまざまな分子に転移される.この反応には硫酸基供与体であるPAPS(3′-ホスホアデノシン5′-ホスホ硫酸)が必要となる.硫酸転移酵素は大きく分けて3種類のグループに分けられ,標的となる基質が異なる.

硫酸イオン利活用と代謝経路の多様性

硫酸イオン(SO42−)は生命を維持するために必要不可欠なイオンであり,欠乏は胎児や幼児の軟骨組織や骨形成不全,臓器発達遅延を引き起こす(2)2) P. A. Dawson: Cell Dev. Biol., 22, 653 (2011)..植物も同様に,土壌中からの硫酸イオン供給がシステインとメチオニンなどの含硫アミノ酸生合成と成長に欠かせない(3)3) F. R. Capaldi, P. L. Gratão, A. R. Reis, L. W. Lima & R. A. Azevedo: Trop. Plant Biol., 8, 60 (2015)..微生物も植物と同様の理由で硫酸イオンは必要であり,一部の微生物(硫酸還元菌)に至っては硫酸イオンを還元し硫化水素を生み出す過程をエネルギー産生として利用する「硫酸呼吸」によって生命エネルギーを確保している(4)4) G. Muyzer & A. J. Stams: Nat. Rev. Microbiol., 6, 441 (2008)..このように,硫酸イオンは微生物からヒトまで,進化の過程に合わせながら実に多様な役割を果たしている.

地球の時系列になぞらえて考えると,硫酸イオンの利活用法は非常に興味深い.前述のように硫酸イオンを地球で使い始めた生物の一種として硫酸還元菌が想定される.硫酸還元菌では,硫酸イオントランスポーターの働きで硫酸イオンを菌体内に取り込むことから硫酸イオンの利活用が始まる.硫酸イオンはATPスルフリラーゼによって,硫酸ヌクレオチドであるAPS(アデノシン5′-ホスホ硫酸)へと一旦変換される.このAPSはAPS還元酵素により亜硫酸へと還元された後に,亜硫酸還元酵素とシトクロムC3により硫化水素へと変換される(図2図2■生物種によって異なる硫酸イオンの利活用).硫酸イオンを硫化水素に異化することでエネルギーを作り出している.この菌は酸素があると生育できない嫌気性細菌であるため,非常に原始的な細菌であると考えられる.硫酸還元菌は硫化水素を利用することはできないが,緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌は硫化水素を電子受容体に用いることで二酸化炭素を炭水化物へと同化し,化学エネルギーを得ている(5)5) D. Pokorna & J. Zabranska: Biotechnol. Adv., 33, 1246 (2015)..いわゆる光合成細菌である.地表上の分子状酸素が増えるに従い,好気的条件下でも生育できる生物も出現するが,分子状酸素を用いて硫化水素を酸化する硫黄細菌とともに,土壌中や水中の硫黄循環を担っている(5)5) D. Pokorna & J. Zabranska: Biotechnol. Adv., 33, 1246 (2015).

図2■生物種によって異なる硫酸イオンの利活用

硫酸還元菌は硫酸イオンを電子受容体とした「硫酸呼吸」によりエネルギーを確保している.細菌ではAPSからPAPS合成経路が追加され,生物によって還元できる硫酸ヌクレオチドが異なる.さらに,硫化物イオンに還元後はシステイン合成に利用される.一方,PAPSは「硫酸化」の硫酸基供与体として機能する.植物も細菌と同様の経路をもつがPAPSを還元することはできないため,合成されたPAPSは「硫酸化」だけに利用される.動物はシステイン合成経路がなくなり,取り入れた硫酸イオンは「硫酸化」だけに利用されるようになる.

多くの通性嫌気性・好気性細菌や植物は硫酸還元菌がもつ硫酸イオンの還元経路をさらに発達した経路をもつ(3, 6)3) F. R. Capaldi, P. L. Gratão, A. R. Reis, L. W. Lima & R. A. Azevedo: Trop. Plant Biol., 8, 60 (2015).6) D. Thomas & Y. Surdin-Kerjan: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 61, 503 (1997)..取り入れた硫酸イオンはAPSへと変換された後,2通りの還元代謝経路をたどる(図2図2■生物種によって異なる硫酸イオンの利活用).一つは硫酸還元菌と同様なAPS還元経路による硫化物イオン(S2−)合成経路である.この経路は植物や藻類,緑膿菌などが有している.2つ目はAPSキナーゼによるAPSのリン酸化で合成されるPAPSを還元することで硫化物イオン(S2−)を合成する経路である.この経路は大腸菌や酵母,カビなどが有している.この経路の違いは単純にAPS/PAPS還元酵素の基質特異性の違いによるもので,同一の相同遺伝子であると考えられ,アミノ酸配列の違いからAPS還元グループとPAPS還元グループに分けられている(7)7) S. Kopriva, T. Büchert, G. Fritz, M. Suter, R. Benda, V. Schünemann, A. Koprivova, P. Schürmann, A. X. Trautwein, P. M. Kroneck et al.: J. Biol. Chem., 277, 21786 (2002)..この硫酸イオンからの硫化物イオンの還元経路は,細菌類や菌類,植物に普遍的に存在する経路であるが,キイロタマホコリカビやトキソプラズマといった原生生物から哺乳動物などの動物には存在しないことが知られている(8)8) N. J. Patron, D. G. Durnford & S. Kopriva: BMC Evol. Biol., 8, 39 (2008)..ただし,APSやPAPSを合成する経路は存在しており,APS/PAPS還元酵素遺伝子がゲノムより抜け落ちたことが原因だと考えられている.硫化物イオンまで還元された硫黄は次に,システイン合成酵素の働きでO-アセチルセリンに組込まれ,システインとなり,メチオニンやグルタチオンなどの原料となる.このように,硫酸イオンは多くの微生物や植物にとってはシステインやメチオニンなどのアミノ酸合成に必要不可欠な材料である.硫酸イオンを硫酸ヌクレオチド(APS, PAPS)に変換して還元するのは,一見無駄なように思われる.しかし,硫酸イオンは非常に安定であるため,より不安定な亜硫酸イオン(SO32−)への直接還元は吸アルゴン反応にあたり,NADP/NADPHによる還元反応にはATPの化学エネルギーの利用が不可欠となる.ただし,直接的な還元反応の平衡定数は小さいものとなり,非常に効率の悪いものとなる.そこで,ATPの化学エネルギーを取り入れた硫酸ヌクレオチドに変換し,速やかに還元酵素の働きでNADPHを介してスルホン基(–SO3H)を脱離させることで効率的に亜硫酸イオンへと変換している.

藻類を除く原生生物と後生生物は,前述のとおり硫酸ヌクレオチドの還元経路は存在しない.さらに,APS合成酵素とAPSキナーゼが融合した一つのPAPS合成酵素(エクソン1–6: APSキナーゼ,エクソン6–13: APS合成酵素)へと分子進化しているため,硫酸イオンから合成されるAPSはそのまま速やかにPAPSへと変換される(8, 9)8) N. J. Patron, D. G. Durnford & S. Kopriva: BMC Evol. Biol., 8, 39 (2008).9) K. Kurima, B. Singh & N. B. Schwartz: J. Biol. Chem., 274, 33306 (1999)..合成されたPAPSは硫酸転移酵素の硫酸基供与体として利用され,さまざまな分子に硫酸基が付与されるようになる(1)1) S. Hemmerich, D. Verdugo & V. L. Rath: Drug Discov. Today, 9, 967 (2004).図2図2■生物種によって異なる硫酸イオンの利活用).この硫酸化は動物だけでなく,微生物や植物にも普遍的に起こる反応であり,これらの種において,硫酸イオンはまさに多種多様な生理機能を有していることになる.元々は呼吸やエネルギー確保のための硫酸イオンが,生物進化に伴ってアミノ酸合成に必要になり,自らタンパク質などの栄養源を取り入れることができる動物においてはその必要もなくなり,硫酸化にのみ利用されるようになっていったと考えられる.

硫酸転移酵素

前述したように,硫酸転移酵素は硫酸基(–SO3H)をさまざまな有機分子のヒドロキシル基またはアミノ基に転移する酵素である(1)1) S. Hemmerich, D. Verdugo & V. L. Rath: Drug Discov. Today, 9, 967 (2004).図1図1■硫酸基転移反応(硫酸化)と硫酸転移酵素グループ).この酵素はその細胞内局在性の違いから大きく分けて2通りに分けられる.一つ目は細胞膜結合性の硫酸転移酵素で,主にゴルジ体内腔に局在している.基質の違いから,タンパク質のチロシン残基に硫酸基を転移する翻訳後修飾としての硫酸化を触媒するタンパク質チロシン硫酸転移酵素(Tyrosylprotein sulfotransferases; TPSTs)とグリコサミノグリカンなどの糖鎖修飾を触媒する糖鎖硫酸転移酵素群(Carbohydrate sulfotransferases)に分けられる(図1図1■硫酸基転移反応(硫酸化)と硫酸転移酵素グループ).翻訳後修飾としてのチロシン硫酸化は細胞膜タンパク質や分泌タンパク質(ペプチド)に起こり,受容体機能制御やリガンド機能制御のほか,ウイルス感染,分泌制御や血液凝固因子の機能制御など,タンパク質とペプチドの生理機能制御を担っている(10)10) M. J. Stone, S. Chuang, X. Hou, M. Shoham & J. Z. Zhu: N. Biotechnol., 25, 299 (2009)..糖鎖の硫酸化はコンドロイチン硫酸やヘパラン硫酸などのグリコサミノグリカン合成経路の一つであり,硫酸基はタンパク質硫酸化と同様に,受容体とリガンドの機能制御のほか,ウイルス感染や免疫細胞の結合,細胞接着などに重要である(11)11) M. Kusche-Gullberg & J. Kjellén: Curr. Opin. Struct. Biol., 13, 605 (2003)..2つ目は細胞質に局在する細胞質硫酸転移酵素(Cytosolic sulfotransferases; SULTs)で,代謝型の内分泌ホルモンや薬物,ポリフェノールなど代謝反応としての硫酸化を担っている(12)12) M. Suiko, K. Kurogi, T. Hashiguchi, Y. Sakakibara & M. C. Liu: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 63 (2017).図1図1■硫酸基転移反応(硫酸化)と硫酸転移酵素グループ).本稿では,細胞質硫酸転移酵素,SULTs,に絞って,その多様な機能性を概説する.

微生物における細胞質硫酸転移酵素の機能

大腸菌やユーバクテリアなどの常在菌から,マイコバクテリアのような病原性細菌,酵母やカビなどの真菌,藻類など多くの微生物が硫酸転移酵素を有していることが報告されている(13~16)13) G. Malojčić, R. L. Owen, J. P. Grimshaw, M. S. Brozzo, H. Dreher-Teo & R. Glockshuber: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 19217 (2008).14) J. D. Mougous, C. J. Petzold, R. H. Senaratne, D. H. Lee, D. L. Akey, F. L. Lin, S. E. Munchel, M. R. Pratt, L. W. Riley, J. A. Leary et al.: Nat. Struct. Mol. Biol., 11, 721 (2004).15) D. Zhang, Y. Yang, J. E. Leakey & C. E. Cerniglia: FEMS Microbiol. Lett., 138, 221 (1996).16) C. L. Ho: Front. Plant. Sci., 6, 1057 (2015)..しかしながら,あまり研究が進んでいないため,その生理機能についてははっきりわかっていない.これまでのところ,高等生物に見られるようなTPSTs, CHSTs, SULTsなどの分類ははっきりしていないが,細菌類においてタンパク質チロシン・糖鎖・低分子基質の硫酸化活性と硫酸転移酵素遺伝子がそれぞれ散発的に報告されつつあるため,早い段階から細胞質硫酸転移酵素と膜結合型硫酸転移酵素に分岐していたことが考えられている(17~19)17) G. Malojčić & R. Glockshuber: Antioxid. Redox Signal., 13, 1247 (2010).18) J. D. Mougous, R. E. Green, S. J. Williams, S. E. Brenner & C. R. Bertozzi: Chem. Biol., 9, 767 (2002).19) S. W. Han, S. W. Lee, O. Bahar, B. Schwessinger, M. R. Robinson, J. B. Shaw, J. A. Madsen, J. S. Brodbelt & P. C. Ronald: Nat. Commun., 3, 1 (2012)..細菌における細胞質硫酸転移酵素の特徴として,硫酸基供与体としてPAPSを利用することができない点が挙げられる.その代わり,p-ニトロフェニル硫酸などのフェノール性の硫酸化化合物の硫酸基を基質分子に転移することができる.エピネフリンやステロイド,ポリフェノールなどに硫酸基を転移する活性があることが酵素学的研究により示されてきた一方,生理的基質とその機能は2010年までは全くわかっていなかった.しかし,この10年で細胞質硫酸転移酵素は微生物が作り出す抗生物質(ascamycin, liposidomycins, caprazamycins)の生合成と代謝過程にかかわっている報告がなされつつある(20~22)20) L. Kaysser, K. Eitel, T. Tanino, S. Siebenberg, A. Matsuda, S. Ichikawa & B. Gust: J. Biol. Chem., 285, 12684 (2010).21) X. Tang, K. Eitel, L. Kaysser, A. Kulik, S. Grond & B. Gust: Nat. Chem. Biol., 9, 610 (2013).22) C. Zhao, J. Qi, W. Tao, L. He, W. Xu, J. Chan & Z. Deng: PLOS ONE, 9, e114722 (2014)..このことから,微生物の生命活動に特徴的な抗生物質の合成と不活化に重要な役割を果たしていることが想定されている(図3図3■生物種によって異なる細胞質硫酸転移酵素(SULTs)の機能).

図3■生物種によって異なる細胞質硫酸転移酵素(SULTs)の機能

細菌のSULTsはPAPSを直接的な硫酸基供与体としてではなく,フェノール性化合物の硫酸体を供与体として基質分子に硫酸基を転移することができる.その生理機能として抗生物質合成にかかわることがこれまでのところ知られている.植物ではさまざまな外的ストレスに応答する植物ホルモンの代謝を担うことで,ストレス応答機構の一端を担っていると考えられている.脊椎動物では,内分泌ホルモンや食事由来成分,薬物などの代謝を担うことで生体の恒常性維持に機能している.

植物(シロイヌナズナ)における細胞質硫酸転移酵素の機能

動植物の細胞質硫酸転移酵素は略号として「SULT」を用い,アミノ酸配列が45%のホモロジーを示すものを同一のfamily,さらに60%以上のものをsubfamilyとして分類し,クローニングの報告された順と系統樹をもとに1から番号を付すことになっている(23)23) R. L. Blanchard, R. R. Freimuth, J. Buck, R. M. Weinshilboum & M. W. Coughtrie: Pharmacogenetics, 14, 199 (2004)..植物に関してはSULT201ファミリーから順に番号を付けることになっている(参照:表1表1■SULT分類・命名法の主な特徴).しかし,植物ではSULT命名法に従った系統的な分類がなされておらず,酵素名も「SOT」として名付けられてきた(24)24) M. Klein & J. Papenbrock: J. Exp. Bot., 55, 1809 (2004)..そこで,われわれはシロイヌナズナのDNAデータベースから遺伝子情報をマイニングし,系統樹解析と相同性から再分類を行った(25)25) T. Hashiguchi, Y. Sakakibara, Y. Hara, T. Shimohira, K. Kurogi, R. Akashi, M. C. Liu & M. Suiko: Biochem. Biophys. Res. Commun., 434, 829 (2013)..その結果,シロイヌナズナにはSULT201B1から203A2までの18遺伝子が3つのfamilyと7つのsubfamilyに分類されることが判明した.そのなかから2遺伝子を新たにクローニングし,酵素の諸性質を明らかにした(25, 26)25) T. Hashiguchi, Y. Sakakibara, Y. Hara, T. Shimohira, K. Kurogi, R. Akashi, M. C. Liu & M. Suiko: Biochem. Biophys. Res. Commun., 434, 829 (2013).26) T. Hashiguchi, Y. Sakakibara, T. Shimohira, K. Kurogi, M. Yamasaki, K. Nishiyama, R. Akashi, M. C. Liu & M. Suiko: J. Biochem., 155, 91 (2014)..当研究室ではこれまでに計9つのシロイヌナズナSULTのクローニングと諸性質の解析に成功している.その結果,SULT202A1やSULT202E1が植物フラボノイドやフラボノールの硫酸化を担う酵素であることがわかった(表2表2■SULT分類・命名法の主な特徴).植物体内におけるフラボノイドは感染防御や根粒菌との情報伝達,オーキシンの輸送制御などにかかわることが知られている(27)27) M. L. Falcone Ferreyra, S. Rius & P. Casati: Front. Plant Sci., 3, 222 (2012)..フラボノイド硫酸化の機能はまだはっきりしていないが,多くのフラボノイド硫酸体が植物体から検出されている(28)28) Y. C. Teles, M. S. R. Souza & M. D. F. V. D. Souza: Molecules, 23, 480 (2018)..われわれはフラボノイド硫酸化の機能解明に着手しており,フラボノイドがもつオーキシン輸送作用の制御をキャンセルするデータを得ており(未発表),フラボノイドの機能を制御していると考えている.また,植物フラボノイドのほとんどは配糖体として存在している.そこで,われわれはSULT202B7がフラボノイド配糖体特異的な酵素活性を有していることを明らかにした(26)26) T. Hashiguchi, Y. Sakakibara, T. Shimohira, K. Kurogi, M. Yamasaki, K. Nishiyama, R. Akashi, M. C. Liu & M. Suiko: J. Biochem., 155, 91 (2014)..配糖体の硫酸体はシロイヌナズナでは検出されていないが,オジギソウの葉が閉まる動きを誘導する分子であるPLMF-1はフラボノイドの一つ没食子酸配糖体の硫酸体であることがわかっており,硫酸基はその生物活性に重要であることが報告されている(29)29) L. Varin, H. Chamberland, J. G. Lafontaine & M. Richard: Plant J., 12, 831 (1997)..フラボノイド配糖体の硫酸転移酵素が同定されたことから,今後その生理機能が明らかにされていくと想定されている.このほか,植物SULTsの特徴的な機能として,植物ホルモンであるブラシノステロイド(ストレス耐性誘導や伸長促進)やヒドロキシジャスモン酸(ストレス耐性誘導や果実熟化)を代謝することで,その生理活性を負に制御することが知られている(30, 31)30) M. Rouleau, F. Marsolais, M. Richard, L. Nicolle, B. Voigt, G. Adam & L. Varin: J. Biol. Chem., 274, 20925 (1999).31) S. K. Gidda, O. Miersch, A. Levitin, J. Schmidt, C. Wasternack & L. Varin: J. Biol. Chem., 278, 17895 (2003)..また,植物がもつ耐虫防御機構を担っているグルコシノレートや浸透圧保護剤として機能するコリン硫酸体の合成を担っていることなども報告されている(32, 33)32) M. Piotrowski, A. Schemenewitz, A. Lopukhina, A. Müller, T. Janowitz, E. W. Weiler & C. Oecking: J. Biol. Chem., 279, 50717 (2004).33) A. D. Hanson, B. Rathinasabapathi, J. Rivoal, M. Burnet, M. O. Dillon & D. A. Gage: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 306 (1994)..植物における低分子化合物の硫酸化研究はあまり進展していないため,わかっていないことも多いが,植物がもつ外的ストレス応答機構に硫酸化がかかわっていると考えられており,その機能は植物種間でも多様性があると想定されている(図3図3■生物種によって異なる細胞質硫酸転移酵素(SULTs)の機能).

表1■SULT分類・命名法の主な特徴
1. オルソログ遺伝子は生物種を超えて同一名
*パラログ遺伝子も存在するため判別困難例もある
2. 動物のSULTには1–200までのfamily名を付す
3. 昆虫SULTは101以降のfamily名を付す
4. 植物のSULTには201以降のfamily名を付す
5. 原核生物や原生生物,菌類のSULTには未適応
表2■SULT分類・命名法の主な特徴
生物種SULT family isoform基質
1. 植物(シロイヌナズナ)
SULT201B1~201B3デスルホグルコシノレート
SULT202A1~202E1ブラシノステロイド,フラボノイド
SULT203A1~203A2ヒドロキシジャスモン酸
2. 魚類(ゼブラフィッシュ)
SULT1ST1~ST9モノアミン,甲状腺ホルモン,エストロゲン,フラボノイド,フェノール性薬物
SULT2ST1~ST3胆汁アルコール,コルチコイド
SULT3ST1~ST5コレステロール,アンドロゲン
SULT4A1未確定
SULT5A1胆汁アルコール
SULT6A1フェノール性化合物,没食子酸化合物(EGCG)
3. 哺乳動物(マウス・ヒト)
SULT1A1~E1モノアミン,甲状腺ホルモン,エストロゲン,ビタミンE, フラボノイド,フェノール性薬物
SULT2A1~B1コレステロール,胆汁酸,アンドロゲン,コルチコイド,ビタミンD
SULT3A1~A2*ナフトール,ナフチルアミン
SULT4A1未確定
SULT5A1*アンドロゲン
SULT6A1未確定
*ヒトではfamily全体が偽遺伝子となっている.

脊椎動物における細胞質硫酸転移酵素の機能

細胞質硫酸転移酵素(SULTs)のみならず多くの薬物代謝酵素は生物種毎の機能の多様化が知られている.これまでに,マウスやラット,ヒトをはじめとした多くの哺乳動物でSULTsの機能解明研究が行われている.そこで,われわれはSULTsの網羅的な生理機能解明のために,ゼブラフィッシュやマウス,ヒトの3種におけるSULTsの酵素学的な諸性質と新たな機能性に関する研究を行ってきた.これまでの研究成果から,神経伝達物質であるモノアミン・カテコールアミンや甲状腺ホルモン,ステロイドホルモンの機能制御のほか,生体外異物である環境汚染物質やポリフェノール化合物,薬物の代謝などは脊椎動物のSULTsが普遍的に有している生理機能として明らかにされつつある(12, 34)12) M. Suiko, K. Kurogi, T. Hashiguchi, Y. Sakakibara & M. C. Liu: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 63 (2017).34) K. Kurogi, T. A. Liu, Y. Sakakibara, M. Suiko & M. C. Liu: Drug Metab. Rev., 45, 431 (2013).図3図3■生物種によって異なる細胞質硫酸転移酵素(SULTs)の機能).

1. ゼブラフィッシュ

ゼブラフィッシュは硬骨魚類研究のモデルとしてだけでなく,胚発生を研究するうえで重要なモデル生物として長年利用されてきたモデル脊椎動物である.特に,SULTsは他の薬物代謝酵素と異なって胎児期や幼児期から強く発現しており,その発現が年齢とともに徐々に減少していくことがヒトでの研究で示されてきた(35)35) E. L. Stanley, R. Hume & M. W. Coughtrie: Mol. Cell. Endocrinol., 240, 32 (2005)..そこで,ゼブラフィッシュをSULTの機能性研究の有用なモデル生物であるかを検討すべく,遺伝子クローニングと発現解析,酵素諸性質の解析を行った.これまでのところ,SULT1からSULT6まで6 family,計20種の遺伝子が発見されている(34, 36)34) K. Kurogi, T. A. Liu, Y. Sakakibara, M. Suiko & M. C. Liu: Drug Metab. Rev., 45, 431 (2013).36) T. A. Liu, S. Bhuiyan, M. Y. Liu, T. Sugahara, Y. Sakakibara, M. Suiko, S. Yasuda, Y. Kakuta, M. Kimura, F. E. Williams et al.: Curr. Drug Metab., 11, 538 (2010)..遺伝子familyレベルではゼブラフィッシュからヒトにおいてよく保存されていることが明らかになっている.そのため,フェノール性の化合物を基質とするSULT1 family,ヒドロキシステロイドを基質とするSULT2 family,アミン類を基質とするSULT3 familyなどは広く保存されている(表2表2■SULT分類・命名法の主な特徴).しかし,60%の相同性で分類しているsubfamilyでは哺乳動物のSULT遺伝子とは別のクラスターを形成することになり,個別遺伝子の相同性を遺伝子配列だけで明確にすることはできない.そのため,酵素の基質特異性を考慮してカテコールアミンを硫酸化するSULT1A3と同様な機能を有する相似機能酵素としてzfSULT1ST3を位置づけている.同様に,甲状腺ホルモン硫酸化酵素SULT1B1の相似機能酵素としてzfSULT1ST5,エストロゲン硫酸化酵素SULT1E1の相似機能酵素としてzfSULT1ST6の生理機能研究を進めている.一方,zfSULT2とzfSULT3 familyはゼブラフィッシュに特徴的な性質をもつことがわかっている.哺乳動物ではSULT2はヒドロキシステロイド,SULT3はアミン化合物の硫酸化を担っている.しかし,ゼブラフィッシュではSULT2とSULT3は共にヒドロキシステロイドの硫酸化を担っている.その基質特異性を詳細に検討した結果,zfSULT2は胆汁アルコールというゼブラフィッシュ特有の胆汁塩の側鎖のヒドロキシル基を特異的に硫酸化すること,zfSULT3がヒドロキシステロイドの硫酸化を担うことが明らかとなった(37, 38)37) K. Kurogi, M. D. Krasowski, E. Injeti, M. Y. Liu, F. E. Williams, Y. Sakakibara, M. Suiko & M. C. Liu: J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 127, 307 (2011).38) K. Kurogi, M. Yoshihama, A. Horton, I. T. Schiefer, M. D. Krasowski, L. R. Hagey, F. E. Williams, Y. Sakakibara, N. Kenmochi, M. Suiko et al.: J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 174, 120 (2017)..脂質の消化吸収に機能する胆汁塩は生物種によって,その化学構造が多様であることが昔から知られている.特に,ゼブラフィッシュは哺乳動物がもつ胆汁酸ではなく,胆汁アルコールが主成分である.そのため,ゼブラフィッシュでは胆汁塩合成の分子進化に伴って硫酸化する酵素も独自に進化を果たしたことが考えられた.この酵素の発現をモルフォリノアンチセンスオリゴを用いて阻害した結果,尾ひれの構造異常をきたすことが明らかとなった(未発表データ).ゼブラフィッシュの胆汁アルコール硫酸体は胆汁酸受容体であるFXRのアゴニストとして報告されており(39)39) E. J. Reschly, N. Ai, S. Ekins, W. J. Welsh, L. R. Hagey, A. F. Hofmann & M. D. Krasowski: J. Lipid Res., 49, 1577 (2008).,FXRアゴニスト活性の低下が尾ひれの構造異常を引き起こしたのではないかと考えている.SULT遺伝子の中で機能が明らかでない遺伝子の一つにSULT4A1がある(40)40) Y. Sakakibara, M. Suiko, T. G. Pai, T. Nakayama, Y. Takami, J. Katafuchi & M. C. Liu: Gene, 285, 39 (2002)..この遺伝子は脳特異的に発現していることとヒトゲノムの精神疾患関連領域に存在することから統合失調症に関係することが考えられている(41)41) M. D. Brennan & J. Condra: Am. J. Med. Genet. B. Neuropsychiatr. Genet., 139, 69 (2005)..zfSULT4の遺伝子機能阻害実験を行ったところ,前脳・中脳・後脳などの異常が発達段階で確認されたが,成長に従って正常化していった(未発表データ).最近,別の研究グループから,SULT4の変異ゼブラフィッシュを用いた研究が報告された(42)42) F. Crittenden, H. R. Thomas, J. M. Parant & C. N. Falany: Drug Metab. Dispos., 43, 1037 (2015)..日中における活動の抑制が確認されたことから,神経や運動機能との関係性が考えられている.これらの結果がヒトのSULT4遺伝子の機能解明の糸口として期待されている.

2. 哺乳動物(マウスとヒト)

マウスやヒトはゼブラフィッシュと同様にSULT1からSULT6まで6つのfamilyを有している.しかし,ヒトSULT3とSULT5は偽遺伝子となっており,ヒトで機能するSULTはSULT1, SULT2, SULT4, SULT6の4 familyだけとなっている(表2表2■SULT分類・命名法の主な特徴).われわれの研究グループを含め,これまでにマウスでは21種類,ヒトでは13種類のSULT遺伝子が報告されている(12)12) M. Suiko, K. Kurogi, T. Hashiguchi, Y. Sakakibara & M. C. Liu: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 63 (2017)..ヒトとマウスの酵素諸性質を解析することで,SULTsの多様な機能を明らかにしてきた.特に,胆汁酸の硫酸化に関しては,ヒトでは3位のヒドロキシル基に起こる硫酸化がマウスでは7位に起こることを酵素学的な解析から明らかにした(43)43) T. Shimohira, K. Kurogi, M. C. Liu, M. Suiko & Y. Sakakibara: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 1359 (2018).図4図4■生物種によって異なる胆汁酸硫酸化).ゼブラフィッシュの胆汁アルコール硫酸化を加えて考えると,胆汁酸硫酸化の生理的意義が生物種によって異なっていることがわかる.われわれは最近,ヒトのSULT酵素を用いて,これまでに報告のなかった数々の新しい硫酸化反応を報告してきた.たとえば,エタノールの硫酸化やオピオイドやアルツハイマー薬などの硫酸化のほか,ビタミンEやビタミンDの硫酸化代謝経路なども明らかにしてきた(44~48).特に,ヒドロキシル基とアミノ基に続く第3の標的官能基としてα,β-不飽和カルボニル基に着目しており,ヒドロキシル基もアミノ基も含まないアンドロステンジオン(4-androstene-3,17-dione)やプロゲステロン(progesterone)が硫酸化反応を受けることを最近報告している(49)49) T. Hashiguchi, K. Kurogi, T. Shimohira, T. Teramoto, M. C. Liu, M. Suiko & Y. Sakakibara: Biochim. Biophys. Acta, Gen. Subj., 1861, 2883 (2017).図5図5■新たな第三の硫酸化反応).その反応機構は不明な点もあるが,現在のところ,ケトステロイドの6位の炭素に結合しているプロトンを活性中心のアスパラギン酸が引き抜くことで,ケト型からエノール型への異性化を誘導しカルボニル酸素原子の硫酸化を触媒しているのではと想定している.本機構はこれまでに提唱されていない全くの新規硫酸化反応機構であり,ステロイドに限らずそのほかのα,β-不飽和カルボニルを含む化合物も硫酸化を受けることが考えられる.実際に,われわれはいくつかのα,β-不飽和カルボニル化合物が硫酸化を受けることを確認しており,今後,この第3の硫酸化反応の全貌と生理機能が明らかにされることが期待されている.

図4■生物種によって異なる胆汁酸硫酸化

ゼブラフィッシュでは胆汁アルコールが胆汁塩の主成分であり,胆汁塩としてのミセル機能が弱いため消化吸収作用が十分ではない.側鎖のヒドロキシル基が硫酸化を受けることで初めて胆汁塩としての機能を発揮する.マウスでは毒性の高い2次胆汁酸の生成抑制のために機能しており,ヒトでは2次胆汁酸の代謝促進に機能している.

図5■新たな第三の硫酸化反応

硫酸化は標的官能基はアミノ基(–NH2)とヒドロキシル基(–OH)である.われわれは最近,第三の標的官能基としてa,b-不飽和カルボニル基が硫酸化を受けることを発見した.ケトステロイド以外にもさまざまな分子が硫酸化による機能制御を受けていることが想定されている.

おわりに

硫酸化は元々,原始の生物が硫黄同化のために必要な代謝経路の派生経路として生み出された反応と考えられる.進化の過程において,動物が硫黄同化経路を失ったことで,硫黄同化の代謝中間体として生み出された硫酸ヌクレオチド(PAPS)は専ら硫酸供与体として機能するようになった.硫酸化反応はこれまで植物と動物を中心に研究が盛んに行われていたが,細菌における機能も明らかにされつつあり,今後はより広い生物種で硫酸化の機能解明研究が進められるものと考えられる.生物が進化するうえで,硫酸化がどのような機能変遷を経ているかが今後より明確になるものと期待している.近年,「トクホ」や「機能性表示食品」の普及に伴いポリフェノールなどのファイトケミカルの生体内代謝が着目されるようになってきた.特に,硫酸体やグルクロン酸体は血中ポリフェノールの主要な化学形態であるため,その代謝機構と生理機能に注目が集まっている.薬物や内分泌ホルモンの機能制御のみならず,今後は食品成分由来の機能性成分の硫酸化による機能制御機構も重要な研究領域になると考えられている.

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