Kagaku to Seibutsu 58(9): 537-543 (2020)
プロダクトイノベーション
明治ザ・チョコレートの開発フレーバーカカオ豆の香りに着目した新価値創出
Published: 2020-09-01
© 2020 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2020 公益社団法人日本農芸化学会
「明治ザ・チョコレート」は,2020年で発売7年目になる商品である.2016年にカカオ分70%のダークチョコレートとカカオ分50%のダークミルクチョコレートにリニューアルした.チョコレートの主な原料であるカカオ豆の香りに着目し,カカオ豆のなかでも特徴的な香味をもつフレーバーカカオ豆の魅力を引き出した.本商品は,ヨーロッパや日本のチョコレート好きの方々や食にこだわる方々に,その香味と手頃な価格で驚きをもって評価されている.一般に流通しているチョコレートのなかでは珍しく,バニラなどの香料を使用していない.良質なフレーバーカカオ豆の香味を引き出したビーントゥーバーチョコレートである.しかしながら,良質なフレーバーカカオ豆を作るためのさまざまな研究や活動や香味の説明がなければ,一般の板チョコレートと比較して価格が高いと判断されることも,まだまだ多い.
ビーントゥーバーチョコレートは,「カカオ豆(BEAN)から板チョコレート(BAR)になるまでの全工程を一つのブランドが一貫して手がけるスタイル」を表す.近年,アメリカや日本をはじめ多くの国々でビーントゥーバ—チョコレートへの関心が高まり,カカオ豆が作られている熱帯地域の生産地や生産者と消費するチョコレートをつなぐ,新たなキーワードになっている.明治のビーントゥーバーチョコレートの始まりは,90年以上も昔に遡る.カカオ豆から板チョコレートになるまでの全工程を手がけるビーントゥーバ—のスタイルは,明治のチョコレートづくりの歴史であり,差別化されたチョコレートを作り続けるために必要不可欠である(図1図1■2018年に発売された明治ザ・チョコレート).