Kagaku to Seibutsu 58(10): 571-578 (2020)
セミナー室
ストリゴラクトンの構造多様性と植物界における分布および生理作用ストリゴラクトンの構造多様性から植物における役割を考察する
Published: 2020-10-01
© 2020 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2020 公益社団法人日本農芸化学会
ハマウツボ科のストライガ(Striga)属およびオロバンキ(Orobanche)属の根寄生雑草は,農耕地に侵入し,世界各地で甚大な被害を与えている.特に,サハラ砂漠以南のアフリカ諸国で猛威を振るっているS. hermonthicaとS. asiaticaや,地中海沿岸諸国を中心として世界中に分布しているO. crenata, O. cumana, O. foetida, Phelipanche ramosa, P. aegyptiacaが重要な根寄生雑草として知られている(1)1) C. Parker: Weed Sci., 60, 269 (2012)..これらの根寄生雑草が常に宿主植物の近傍にのみ生息することから,宿主植物と根寄生雑草の間に何らかの相互作用があることはすでに18世紀に報告されていた.20世紀前半からその相互作用に関する化学的な解析が始まり,20世紀中頃には根寄生雑草の種子発芽が種々の植物の根から分泌される化学物質によって誘導されること示されたが,活性本体は不明であった(2)2) X. Xie, K. Yoneyama & K. Yoneyama: Annu. Rev. Phytopathol., 48, 93 (2010)..1950年代前半にS. lutea(S. asiatica)が米国の南北カロライナ州にもち込まれ,トウモロコシ栽培への被害が急速に広がったことが契機となって(3)3) A. V. Tasker & J. H. Westwood: Weed Sci., 60, 267 (2012).,Striga種子発芽刺激物質の探索研究が活発となった.その結果,1966年CookらがS. lutea(S. asiatica)の種子発芽刺激物質を単離・構造決定し,strigolと名付けた(4)4) C. E. Cook, L. P. Whichard, B. Turner, M. E. Wall & G. H. Egley: Science, 154, 1189 (1966)..その後,sorgolactone(5)5) C. Hauck, S. Müller & H. Schildknecht: J. Plant Physiol., 139, 474 (1992).,alectrol(6)6) S. Müller, C. Hauck & H. Schildknecht: J. Plant Growth Regul., 11, 77 (1992).(orobanchyl acetate)(7)7) X. Xie, K. Yoneyama, D. Kusumoto, Y. Yamada, T. Yokota, Y. Takeuchi & K. Yoneyama: Phytochemistry, 69, 427 (2008).などのstrigol類縁体がStrigaの宿主植物の根浸出液から単離・構造決定された.Butlerは,Striga種子発芽刺激活性を有するstrigolの構造類縁体をストリゴラクトン(strigolactone; SL)と名付けた(8)8) L. G. Butler: “Allelopathy, Organisms, Processes and Applications,” ed. by K. M. Inderjit, M. Dakshini & F. A. Enhelling. American Chemical Society, 1995, p. 158..その後現在までに,各種植物の根浸出液から30種類以上の多種多様なSLが単離・構造決定されている(9~13)9) 来生貴也,謝 肖男:植物の生長調節,51, 111 (2016).10) X. Xie: J. Pestic. Sci., 41, 175 (2016).11) Y. Wang & H. J. Bouwmeester: J. Exp. Bot., 69, 2219 (2018).12) K. Yoneyama, X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, T. Nomura, Y. Nakatani, K. Akiyama & C. S. P. McErlean: J. Exp. Bot., 69, 2231 (2018).13) K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 45, 45 (2020)..
Strigolをはじめとする天然SLは,3環性の母核(ABC環)にブテノライド(D環)がエノールエーテルを介して結合した基本骨格を有し,A環およびB環がさまざまな化学修飾を受けている.しかし,このような基本骨格を有するとは考え難い天然SLの存在も示唆されていた(12)12) K. Yoneyama, X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, T. Nomura, Y. Nakatani, K. Akiyama & C. S. P. McErlean: J. Exp. Bot., 69, 2231 (2018)..
2012年,SL生合成における重要な中間体であるcarlactone(CL)が発見された(14)14) A. Alder, M. Jamil, M. Marzorati, M. Bruno, M. Vermathen, P. Bigler, S. Ghisla, H. Bouwmeester, P. Beyer & S. Al-Babili: Science, 335, 1348 (2012)..CLはそれまで知られていた天然SLとは異なり,A環と,エノールエーテルを介して結合したD環の部分構造を有するものの,B環とC環はもっていない.CLの発見を契機として,3環性の母核をもたないSLが次々と発見され,SLの化学構造について新たな展開がもたらされた.すなわち天然SLは,ABC環をもつ典型的SL(canonical SL)と,ABC環をもたない非典型的SL(non-canonical SL)に分類することができる(15)15) S. Al-Babili & H. J. Bouwmeester: Annu. Rev. Plant Biol., 66, 161 (2015)..
1966年にstrigolが報告されて以降,2012年までに単離・構造決定された天然SLは,6-5-5員環あるいは7-5-5員環の3環性のABC環にエノールエーテルを介してD環が結合している.このような基本骨格を有するSLを,典型的SL(canonical SL)と呼ぶ.典型的SLは,5-deoxystrigol(5DS)と4-deoxyorobanchol(4DO)のように,C環の立体化学が異なる2つのグループに分けられる(13, 15, 16)13) K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 45, 45 (2020).15) S. Al-Babili & H. J. Bouwmeester: Annu. Rev. Plant Biol., 66, 161 (2015).16) X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, K. Uchida, S. Ito, K. Akiyama, H. Hayashi, T. Yokota, T. Nomura & K. Yoneyama: Mol. Plant, 6, 153 (2013)..すなわち,C環がα配位のorobanchol-type SLと,β配位のstrigol-type SLである.なお,すべての天然SLにおいて,D環のつけ根の2′位の不斉炭素の立体配置はRであり,CLの立体化学(C-11R)が保持されている(17)17) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014)..
被子植物では,イネやキュウリはorobanchol-type SLを,ワタ,ソルガム,イチゴはstrigol-type SLを生産している.タバコは両タイプのSLを生産するが,品種間で各タイプのSL分泌に顕著な量的差異が認められた.バーレー種タバコのみちのく1号では,strigol-type SLとorobanchol-type SLの生産量は同程度であるのに対して,黄色種タバコのつくば1号が生産するstrigol-type SLは,orobanchol-type SLの1%に過ぎない(謝,未発表).一般に,SLの生産はリン酸欠乏や窒素欠乏により促進されるが(18~20)18) K. Yoneyama, K. Yoneyama, Y. Takeuchi & H. Sekimoto: Planta, 225, 1031 (2007).19) K. Yoneyama, X. Xie, D. Kusumoto, H. Sekimoto, Y. Sugimoto, Y. Takeuchi & K. Yoneyama: Planta, 227, 125 (2007).20) J. A. López-Ráez, T. Charnikhova, V. Gómez-Roldán, R. Matusova, W. Kohlen, R. De Vos, F. Verstappen, V. Puech-Pages, G. Bécard, P. Mulder et al.: New Phytol., 178, 863 (2008).,両タイプのSLを生産する植物種において,栄養条件がどちらか一方のタイプのSL生産により大きな影響を与える場合がある.たとえばタバコでは,リン酸欠乏下でstrigol-type SLの分泌量が1,000倍以上に促進されたが,orobanchol-type SLの分泌量にはほとんど変化がなかった.すなわち少なくともタバコでは,strigol-type SLおよびorobanchol-type SLの生合成がそれぞれ個別に制御されていることが示唆される(謝,未発表).
SLの立体化学は,根寄生雑草種子に対する発芽刺激活性に大きな影響を与える(21)21) J. W. J. F. Thuring, G. H. L. Nefkens & B. Zwanenburg: J. Agric. Food Chem., 45, 2278 (1997)..立体異性体の発芽刺激活性に100倍以上の差が認められる場合もある.さらに,SLの細胞間輸送においても,SLの立体化学が重要であることが明らかとなっている(22)22) X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, T. Nomura, K. Akiyama, T. Asami & K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 41, 55 (2016)..たとえば,イネ,ソルガム,タバコの根部に,安定同位体ラベルSLの4種の立体異性体を処理した場合,(2′R)の立体配置を有する天然型SLのみが,根部から地上部へと輸送された.また,イネやソルガムのように,それぞれorobanchol-type SLあるいはstrigol-type SLのどちらか一方のタイプのSLを生産する植物では,C環の立体化学も認識され,イネではorobanchol-type SLのみが,ソルガムではstrigol-type SLのみが輸送された.このように,SLの根部から地上部への輸送は,構造・立体化学特異的であることが明らかとなった(22)22) X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, T. Nomura, K. Akiyama, T. Asami & K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 41, 55 (2016)..なお,筆者らが実験に用いたソルガムの分泌する主要なSLはstrigol-type SLの5DS(19)19) K. Yoneyama, X. Xie, D. Kusumoto, H. Sekimoto, Y. Sugimoto, Y. Takeuchi & K. Yoneyama: Planta, 227, 125 (2007).とsorgomol(23)23) X. Xie, K. Yoneyama, D. Kusumoto, Y. Yamada, Y. Takeuchi, Y. Sugimoto & K. Yoneyama: Tetrahedron Lett., 49, 2066 (2008).であったが,根寄生雑草Striga耐性品種は,Strigaに対する発芽刺激活性の弱いorobancholを主要なSLとして分泌している(24)24) D. Gobena, M. Shimels, P. J. Rich, C. Ruyter-Spira, H. Bouwmeester, S. Kanuganti, T. Mengiste & G. Ejeta: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 4471 (2017)..
非典型的SLは,エノールエーテル−D環の部分構造をもつが,3環性のABC環構造をもたない.この意味において,非典型的SLは典型的SLに比較するとはるかに構造多様性に富んでおり,今後,より多くの非典型的SLが単離されるものと予想される.
最初に発見された非典型的SLはSLの生合成中間体CLである.カロテノイド生合成欠損変異体やカロテノイド生合成阻害剤を用いた実験結果から,天然SLはカロテノイドから生合成されることが示唆されていたが(25)25) R. Matusova, K. Rani, F. W. A. Verstappen, M. C. R. Franssen, M. H. Beale & H. J. Bouwmeester: Plant Physiol., 139, 920 (2005).,生合成経路の詳細は不明であった.2012年,大腸菌に発現させたSL生合成酵素を用いたインビトロ実験から,SL生合成仮想中間体としてCLが報告された(14)14) A. Alder, M. Jamil, M. Marzorati, M. Bruno, M. Vermathen, P. Bigler, S. Ghisla, H. Bouwmeester, P. Beyer & S. Al-Babili: Science, 335, 1348 (2012)..その後,CLは植物の内生物質であり,SL生合成中間体であることが確認された(17)17) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014)..さらに,CLのチトクロームP450(MAX1)酸化によって得られるcarlactonoic acid(CLA)やmethyl carlactonoate(MeCLA)が,CLの下流の代謝産物として同定された(26)26) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014)..ミヤゴクサ,トウモロコシ,ヒマワリ,イヌカタヒバ,ポプラなど多くの植物種が根からCLAを分泌している(10, 12)10) X. Xie: J. Pestic. Sci., 41, 175 (2016).12) K. Yoneyama, X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, T. Nomura, Y. Nakatani, K. Akiyama & C. S. P. McErlean: J. Exp. Bot., 69, 2231 (2018)..これまでに,セイヨウチャヒキからavenaol(27)27) H. I. Kim, T. Kisugi, P. Khetkam, X. Xie, K. Yoneyama, K. Uchida, T. Yokota, T. Nomura, C. S. McErlean & K. Yoneyama: Phytochemistry, 103, 85 (2014).,ヒマワリからheliolactone(28)28) K. Ueno, T. Furumoto, S. Umeda, M. Mizutani, H. Takikawa, R. Batchvarova & Y. Sugimoto: Phytochemistry, 108, 122 (2014).,トウモロコシからzealactone(29, 30)29) X. Xie, T. Kisugi, K. Yoneyama, T. Nomura, K. Akiyama, K. Uchida, T. Yokota, C. S. P. McErlean & K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 42, 58 (2017).30) T. V. Charnikhova, K. Gaus, A. Lumbroso, M. Sanders, J.-P. Vincken, A. De Mesmaeker, C. P. Ruyter-Spira, C. Screpanti & H. J. Bouwmeester: Phytochemistry, 137, 123 (2017).とpyranozealactone(31)31) T. V. Charnikhova, K. Gaus, A. Lumbroso, M. Sanders, J.-P. Vincken, A. De Mesmaeker, C. P. Ruyter-Spira, C. Screpanti & H. J. Bouwmeester: Phytochem. Lett., 24, 172 (2018).ミヤゴクサからlotuslactone(32)32) X. Xie, N. Mori, K. Yoneyama, T. Nomura, K. Uchida, K. Yoneyama & K. Akiyama: Phytochemistry, 157, 200 (2019).が非典型的SLとして単離・構造決定されている.そのほか,シダ植物,ポプラ,ブナ,セイタカアワダチソウ,タンポポなどの根浸出液には,少なくとも20種類以上の非典型的SLが含まれている(謝,未発表).典型的SLの基本的な構造である5DSや4DOがC19化合物であるのに対し,CL, CLAを除く非典型的SLはC20化合物である.このことは,非典型的SLはSLの生合成経路における最初のC20化合物であるMeCLAを経由して生合成されていることを示唆している(12, 13)12) K. Yoneyama, X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, T. Nomura, Y. Nakatani, K. Akiyama & C. S. P. McErlean: J. Exp. Bot., 69, 2231 (2018).13) K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 45, 45 (2020)..興味深いことに,非典型的SLを主要なSLとして分泌する植物種からは,典型的SLが検出されないか,4DOまたは5DSだけが検出される傾向がある.たとえば,セイヨウチャヒキ,トウモロコシとセイタカアワダチソウからは,典型的SLは全く検出されなかった.一方,ミヤゴクサからは5DSが,ポプラとタンポポからは4DOが検出されたが,対応する水酸化体であるstrigolやorobancholは検出されなかった(謝,未発表).
代表的な典型的SLであるorobancholは多くの植物種から検出され,植物界に広く分布しているのに対して(10, 12)10) X. Xie: J. Pestic. Sci., 41, 175 (2016).12) K. Yoneyama, X. Xie, K. Yoneyama, T. Kisugi, T. Nomura, Y. Nakatani, K. Akiyama & C. S. P. McErlean: J. Exp. Bot., 69, 2231 (2018).,典型的・非典型的SLの共通の前駆体であるCLやCLAを除き,非典型的SLは,単離された植物種以外の植物では検出されていない.このことは,これらの非典型的SLは,その植物種に特異的なSLであることを示唆している.
SLのシグナル伝達系に関与する遺伝子の系統進化の解析から,SL(恐らく非典型的SL)は7.5億~12億年前には存在していたと推定されている(33)33) M. T. Waters, C. Gutjahr, T. Bennett & D. C. Nelson: Annu. Rev. Plant Biol., 68, 291 (2017)..藻類以外のコケ植物を含む陸上植物は,SL生合成酵素であるD27, CCD7, CCD8, MAX1をもっている(例外的にゼニゴケはCCD8,ヒメツリガネゴケはMAX1を欠いている)(34)34) C. Walker & T. Bennett: bioRxiv, 228320 (2017)..すなわち,アーバスキュラー菌根菌(AM菌)との共生が始まる4.6億年前には,SLは根圏に存在していたことになる.陸上植物はその後の進化の過程でそれぞれの種特異的な非典型的SLを創りだし,その後,さらに進化した植物種は何らかの理由で(たとえば,互いの認識ツールとして)典型的SLを生みだしたのかもしれない.
前述のようにすべてのSLはブテノライドのD環がエノールエーテルを介して結合した部分構造を有しており,この部分構造はSLの活性発現に必須であるとされている.このエノールエーテル結合は求核試薬との反応性が高く,水やアルカリなどで容易に開裂する.そのため,SLは土壌中で分解せずに拡散する範囲は根からせいぜい2~3 mm程度と想定され,この不安定さが,絶対寄生性の根寄生雑草や絶対共生性のAM菌にとって,近傍の生きた根の存在を示す宿主認識シグナルとしてのSLの有効性を保証している.
一般的に非典型的SLは典型的SLより化学的に不安定である.表1表1■ストリゴラクトンの水溶液中における半減期では,各種SLの1 µM水溶液を調製し,6時間毎の残存量からおおよその半減期を求めた.中性条件(pH 7.0)における5DSの半減期は約36時間に対し,CLではわずか3時間である.典型的SLでは,水酸基の導入によって安定性が低下するが,水酸基が酢酸エステルで保護されると安定性が上昇する.また,orobanchol-type SLよりstrigol-type SLのほうが安定性が若干高い傾向がある.いずれのSLも微酸性(pH 5.0)では比較的安定であるが,塩基性(pH 9.0)では急速に分解し,数時間で半減した.比較的安定な合成SLであるGR24では,加水分解によってD環が外れてABC-CHOが生ずるが,天然SLの場合,特に非典型的SLでは,分解生成物は同定できなかった.
SLs | Half-life (h) | |||
---|---|---|---|---|
Acidic condition (pH 5.0) | Neutral condition (pH 7.0) | Alkaline condition (pH 9.0) | ||
(+)-GR24 | 216 | 144 | 36 | |
2′-epi-GR24 | 216 | 144 | 36 | |
Canonical SL | 5DS | 72 | 36 | 6 |
4DO | 72 | 24 | 6 | |
Strigol | 24 | 18 | <6 | |
Orobanchol | 24 | 12 | <6 | |
Solanacol | 42 | 30 | <6 | |
Strigyl acetate | 30 | 24 | <6 | |
Orobanchyl acetate | 30 | 24 | <6 | |
Solanacyl acetate | 42 | 36 | <6 | |
Non-canonical SL | CL | 3 | 3 | <1 |
CLA | 42 | 12 | 1~3 | |
Me-CLA | 36 | 18 | 1~3 | |
Zealactone | 36 | 18 | 1~3 | |
Lotuslactone | 36 | 18 | 1~3 | |
各ストリゴラクトンのアセトン溶液をpH調整した純水に加え1 µM溶液を調製した(アセトン濃度は0.1%).3時間後,以降は6時間ごとにサンプリングし,LC-MS/MSで残存量を調査した.測定開始後の水溶液のpHは調整していない. |
なお,このようなSLの安定性は,根圏における活性に影響を与えると考えられるが,根圏は弱酸性であるため(35)35) C. Bertin, X. Yang & L. A. Weston: Plant Soil, 67, 67 (2003).,SLは,水溶液中よりも安定なのかもしれない.
SLの最古の生理作用は根圏におけるAM菌の宿主認識シグナルであると考えられるが,化学物質としてのSLは,根寄生雑草種子の発芽刺激物質として最初に発見された.SLは根圏には4億年以上前から存在していたので,AM菌以外の土壌生物に対して何らかの生理活性を示すと考えるのが妥当であろう.実際に,AM菌以外にも,根粒菌の共生もSLによって促進される(36, 37)36) M. J. Soto, M. Fernández-Aparicio, V. Castellanos-Morales, J. M. García-Garrido, J. A. Ocampo, M. J. Delgado & H. Vierheilig: Soil Biol. Biochem., 42, 383 (2010).37) E. Foo & N. W. Davies: Planta, 234, 1073 (2011)..各種の植物病原菌の感染にも影響を与えると報告されているが,詳細は不明である(38)38) J. A. López-Ráez, K. Shirasu & E. Foo: Trends Plant Sci., 22, 527 (2017)..また,土壌センチュウの感染に間接的に影響するとの報告もある(39)39) Z. Lahari, C. Ullah, T. Kyndt, J. Gershenzon & G. Gheysen: New Phytol., 224, 454 (2019)..
このような根圏におけるSLの生理活性のなかでも,AM菌の菌糸分岐活性と根寄生雑草種子の発芽刺激活性は特異性が高い.実際にSLの探索研究は,これらの活性を指標として進められてきた.これまでに単離されている天然SLはすべて,AM菌の菌糸分岐活性と根寄生雑草種子の発芽刺激活性を示す.なお,植物は単独ではなく,複数のSLを混合物として分泌しており,SL混合物の量的および質的差違と,AM菌および根寄生雑草の宿主認識との関連性は興味深い.
植物体内においてSL(あるいはSL関連化合物)は地上部枝分かれを制御する植物ホルモンとして機能している(40, 41)40) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pagès, E. A. Dun, J.-P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J.-C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).41) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008)..またSLは,根の形態形成,二次成長,光形態形成,種子発芽,葉の老化,非生物的ストレスに対する耐性にもかかわっている(2, 13, 15, 33)2) X. Xie, K. Yoneyama & K. Yoneyama: Annu. Rev. Phytopathol., 48, 93 (2010).13) K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 45, 45 (2020).15) S. Al-Babili & H. J. Bouwmeester: Annu. Rev. Plant Biol., 66, 161 (2015).33) M. T. Waters, C. Gutjahr, T. Bennett & D. C. Nelson: Annu. Rev. Plant Biol., 68, 291 (2017)..
前述したように,植物は単独のSLではなく,複数のSL混合物を根から分泌している.これまでの研究から,SLの主な生産部位である根部に含まれるSLのプロファイルは,根から放出されるSL混合物と同一であるが,個々のSLの割合が多少異なることもある.
天然のSLは既に30種類以上単離されており,さらに同数程度のSLの存在が示唆されている.なぜ植物はこのように多様なSLを生産するのであろうか? また,ジベレリンのように130種類以上が存在する植物ホルモンでも,活性本体はごく限られており,SLにも植物ホルモンとしての活性本体が存在すると考えられる.前述の様に,既知の典型的SLおよび非典型的SLの多くは,植物種に特徴的なものもあり,植物界に普遍的に存在するのは,SL生合成中間体であるCLおよびその酸化生成物であるCLA, MeCLAと,それらの水酸化体である(42~44)42) L. Baz, N. Mori, J. Mi, M. Jamil, B. A. Kountche, X. Guo, A. Balakrishna, K. P. Jia, M. Vermathen, K. Akiyama et al.: Mol. Plant, 11, 1312 (2018).43) N. Mori, A. Sado, X. Xie, K. Yoneyama, K. Asami, Y. Seto, T. Nomura, S. Yamaguchi, K. Yoneyama & K. Akiyama: Phytochemistry, 174, 112349 (2020).44) K. Yoneyama, K. Akiyama, P. B. Brewer, N. Mori, M. Kawada, S. Haruta, H. Nishiwaki, S. Yamauchi, X. Xie, M. Umehara et al.: Plant Direct, 4, e00219 (2020)..すなわち,植物ホルモンとしての活性本体は,これらの中に含まれている可能性が極めて高い.なお,これまでの多くの生理研究では,天然SLではなく,合成SLであるGR24のラセミ混合物あるいは4種の立体異性体混合物が使用されているため,SL本来の作用とは異なる現象あるいは影響が観察されている可能性を否定できない.この意味において,可能であれば天然SL,少なくとも天然型のGR24を用いた生理試験の実施が望ましい.さらに農業生産場面へのSLの利用を視野に入れると,各種の生理作用におけるSL混合物の役割の解明とともに,それぞれの生理作用について,最も重要なSLを明らかにする必要がある.
欧米を中心に,SLアゴニストおよびSL機能制御剤の農業への利用に向けた応用研究が精力的に進められている.日本国内でも,AM菌共生の促進や環境耐性の付与へのSLアゴニストなどの利用研究を推進すべきである(45)45) K. Yoneyama, X. Xie, K. Yoneyama, T. Nomura, I. Takahashi, T. Asami, N. Mori, K. Akiyama, M. Kusajima & H. Nakashita: Pest Manag. Sci., 75, 2353 (2019)..
Reference
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