巻頭言

農学・農芸化学教育とJABEE

Muneharu Esaka

江坂 宗春

広島大学名誉教授

Published: 2020-11-01

コロナ禍により,教育におけるICT活用が急激に進み,オンライン授業等,新しい教育のあり方,そして,その課題も浮き彫りになってきている.

私は,この3月,40年近く勤めた大学を定年退職した.日本農芸化学会には,学生時代から会員として活動させていただいた.中四国支部の設立(2001年4月)にかかわらしてもらったこと.中四国支部としての初めての全国大会(2004年度広島大会)を開催できたこと.たいへんであったが,いい思い出である.また,JABEE対応委員会の委員長を長年(2005~2019年度)務めさせていただいた.

JABEEは1999年に設立され,2001年度から認定が開始された.農学一般関連分野のJABEE審査のために,財団法人農学会技術者教育推進委員会が設立された.日本農芸化学もその所属学会の一つとなり,その対応のため,JABEE対応委員会が組織された.初代のJABEE対応委員長は元日本農芸化学会会長の清水 誠先生である.清水先生から,2代目の委員長を引き継いだ.委員長は,財団法人農学会技術者教育推進委員会の委員にもなり,JABEEの普及活動や農芸化学関係のJABEE審査にかかわった.審査員やオブザーバーの選出や,農芸化学会会員から審査員有資格者を増やす役目もあった.また,JABEE対応委員会としての活動として,全国大会時に教育シンポジウムを開催することになった.2007年度から,毎年全国大会時に教育シンポジウムを開催し13回も続いている.

JABEEは,大学・高専の理工学系を中心とした教育の質を高め,教育改革の先導を果たした.JABEE認定プログラムは世界に通用する国際的な技術者教育の質が保証されたプログラムと認められ,JABEE認定プログラム修了生は技術士資格第一次試験が免除されること(技術士補資格取得)等のメリットがある.しかし,大学や高専で認証評価等が義務付けられ,JABEE認定の有無にかかわらず,教育改革は進み,JABEE認定のメリットも理解されにくくなり,現在,JABEEは大きな壁にぶち当たっている.今年,設立20周年を迎えるJABEEの今後のあり方が問われている.

日本学術会議では,大学教育の分野別質保証に資するため,各分野の教育課程編成上の参照基準を作成するとともに,関連する事項について必要な審議を行うため,幹事会附置委員会として大学教育の分野別質保証委員会が設置された.2010年に「大学教育の分野別質保証の在り方について」が答申され,農学においても2008年に「農学教育のあり方」が報告された.また,2015年10月,日本学術会議農学委員会・食料科学委員会合同農学分野の参照基準検討分科会が「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準-農学分野-」を取りまとめ公表した.さらに,2017年には「生産農学における学部教育のあり方について」が日本学術会議農学委員会農学分科会から報告された.私もその昔参加していた全国農学系学部長会議の委員会でも,農学教育の方向性について議論してきている.これらの報告は,十分審議されたものであるが,その後,実際に農学教育の改善につながっているのかについては,多少懸念するところである.

これまで,農学一般関連分野のJABEEの審査・普及のための委員会であった財団法人農学会技術者教育推進委員会も,JABEEの推進や審査だけでなく,広く農学教育の推進を所掌する委員会とし,委員会名も,農学教育推進委員会に変わった.多岐で多様な農芸化学分野の教育のあり方を議論すること自体,難題であるに違いない.しかし,コロナ禍で教育のあり方も問われている今,農学教育・農芸化学教育のあり方についても,議論・検討し,農芸化学分野における未来ビジョンを創造しながら,人財育成を図っていくことを期待したい.