解説

腸内細菌と宿主との相互作用にかかわる分子機構細菌の消化管への定着

Molecular Details of Gut Bacterial-Host Interactions

Keita Nishiyama

西山 啓太

慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室

Nobuhiko Okada

岡田 信彦

北里大学薬学部微生物学教室

Published: 2020-11-01

ヒトの消化管には膨大な数の腸内細菌が棲息している.腸内で細菌が単独で棲息していることは少なく,多くは宿主の上皮細胞や粘液に接着したり,細菌同士で凝集塊を形成し共生している.これらの相互作用には,菌体表層のさまざまなタンパク質が接着因子としてかかわる.さらに最近の研究により,粘液と腸上皮の僅か数ミリメートルの空間のなかで,細菌は自らの接着因子の発現を制御し,能動的に定着していることや,腸内細菌が作り出す代謝産物が,ほかの細菌の刺激因子となり接着因子の分泌に影響を及ぼすことが明らかになってきた.これらは細菌がもつ腸内環境への適応機構であり,生体内での細菌の様子を知るうえで非常に重要である.本稿では,Bacteroides属やBifidobacterium属の大腸における接着機構を中心に,最新の知見を紹介したい.

Key words: 腸内細菌; 腸管定着; 接着因子; 共生; ムチン層

大腸における細菌の定着

ヒトには自身の細胞数を遥かに超える細菌が棲息し,生体各所で細菌叢を形成する.特に小腸から大腸は,一定の温度や低酸素環境が維持され,宿主から栄養成分が供給されるため,細菌にとって良好な生育環境となる.実際,ヒト大腸では,細菌の密度は1011/gにも達し,Bacteroides属やClostridium属などの偏性嫌気性細菌が優勢となる(1)1) G. P. Donaldson, S. M. Lee & S. K. Mazmanian: Nat. Rev. Microbiol., 14, 20 (2015).

消化管は,杯細胞から分泌されたムチン糖タンパク質がゲル状の粘液層(ムチン層)を形成し上皮を被覆する.ヒトの大腸ムチン層は,0.7~1 mmにもなり,宿主細胞への細菌の侵入や排泄物による物理的接触から腸上皮を保護する生体防御物質としての役割をもつ.ムチン層には,Akkermansia muciniphila, Bacteroides acidifaciens, Bacteroides fragilis, Bifidobacteriumに代表されるムチンを分解し炭素源として利用できる細菌が多く分布する(1)1) G. P. Donaldson, S. M. Lee & S. K. Mazmanian: Nat. Rev. Microbiol., 14, 20 (2015).図1図1■大腸における腸内細菌の局在).

図1■大腸における腸内細菌の局在

(a)FISH法による大腸ムチン層における細菌の検出.Bacteroides属(赤),MUC2ムチン(緑),DAPI(青)を示す.(b)大腸における細菌の局在.

Bacteroides属細菌は,全遺伝子の20%近くが多糖の資化に関連する遺伝子をもつ典型的なムチン分解菌である(2)2) N. D. Schwalm 3rd & E. A. Groisman: Trends Microbiol., 25, 1005 (2017).図2a図2■Bacteroides fragilisの多糖分解システムに示したpolysaccharide utilization locus(PUL)は,Bacteroides属に特徴的な多糖分解クラスターである.ムチンは,PULにコードされたsulfataseやfucosidaseなどの菌体外酵素で分解された後,基質結合因子SusDと膜貫通装置SusCからなるSusシステムを介し菌体内に取り込まれ,単糖または二糖に分解され糖源として利用される(図2b図2■Bacteroides fragilisの多糖分解システム).この一連の代謝は,two-component sensor regulator(TCS)の制御下にあり,多糖の分解産物を感知することでPULの発現量が増加する(3)3) N. A. Pudlo, K. Urs, S. S. Kumar, J. B. German, D. A. Mills & E. C. Martens: MBio, 6, e01282 (2015).

Bacteroidesが分解したムチン由来のシアル酸やフコースは,自身の糖源となるだけではなく,クロスフィーディングによりSalmonella TyphimuriumやClostridium difficileに利用され,異種菌株の腸内での増殖をサポートする(4)4) K. M. Ng, J. Ferreyra, S. K. Higginbottom, J. B. Lynch, P. C. Kashyap, S. Gopinath, N. Naidu, B. Choudhury, B. C. Weimer, D. M. Monack et al.: Nature, 502, 96 (2013).

図2■Bacteroides fragilisの多糖分解システム

(a)B. fragilisが有するpolysaccharide utilization locus(PUL)と,(b)PULによる多糖の分解過程.

ムチン層の深部に着目すると,陰窩にも特徴的な細菌叢が認められる.ワルチン・スタリー染色と16S rRNAプローブを用いたFISHによる組織学的解析から,Proteobacteria門に属するAcinetobacter属,Stenotrophomonas属,Delftia属の陰窩における局在が報告されている(5)5) A. Stedman, K. Brunner & G. Nigro: Cell. Microbiol., 21, 1 (2019).図1図1■大腸における腸内細菌の局在).これらは生育に酸素を必要とするためルーメンにはほとんど検出されないが,陰窩では上皮細胞から酸素が供給されるため生育が可能となり,陰窩内で細菌叢を形成できる(5)5) A. Stedman, K. Brunner & G. Nigro: Cell. Microbiol., 21, 1 (2019)..さらに,陰窩底部には腸管幹細胞(ISC)が近接するため,Acinetobacterの有するリポ多糖がISCへの物理的な刺激因子となり,細胞分化に影響を及ぼすことも示されている(6)6) T. Naito, C. Mulet, C. De Castro, A. Molinaro, A. Saffarian, G. Nigro, M. Bérard, M. Clerc, A. B. Pedersen, P. J. Sansonetti et al.: mBio, 8, e01680 (2017)..このように,大腸では,ムチン層から陰窩までの僅か数mmの空間に腸内細菌の棲み分けが存在する(図1図1■大腸における腸内細菌の局在).

細菌の接着因子

ここから細菌の接着因子について話を進めていきたい.細菌の表層には,さまざまな接着因子が存在する.具体的には,①フィラメントを形成する線毛,②細胞壁や細胞膜にアンカリングされた菌体表層タンパク質(トランスポーターや糖質分解酵素など),③S-layerタンパク質,④ムーンライティング因子と呼ばれる細胞質内タンパク質が挙げられる.これらの分布や発現は,菌種や菌株ごとに異なるため,細菌の性質に大きく影響する(1, 7~9)1) G. P. Donaldson, S. M. Lee & S. K. Mazmanian: Nat. Rev. Microbiol., 14, 20 (2015).7) K. A. Kline, S. Fälker, S. Dahlberg, S. Normark & B. Henriques-Normark: Cell Host Microbe, 5, 580 (2009).8) K. Nishiyama, M. Sugiyama & T. Mukai: Microorganisms, 4, 34 (2016).9) L. Etienne-Mesmin, B. Chassaing, M. Desvaux, K. De Paepe, R. Gresse, T. Sauvaitre, E. Forano, T. Van De Wiele, S. Schüller, N. Juge et al.: FEMS Microbiol. Rev., 43, 457 (2019).

細菌の接着因子を介した定着は,病原菌の表現型において理解しやすい.たとえば,コレラは,ヒトがVibrio choleraeに汚染された水や魚介類などを摂取することで感染し発症する.V. choleraeは,toxin-coregulated pili(TCP線毛)とN-acetylglucosamine結合外膜タンパク質の2つの接着因子を有し,ヒトの消化管下部の上皮細胞やムチンに接着することで病原性を示す.一方,接着因子が欠損したV. choleraeは消化管には定着できず通過菌となる(10)10) S. J. Krebs & R. K. Taylor: J. Bacteriol., 193, 5260 (2011).

また,大腸がん関連菌として知られるFusobacterium nucleatumは,腫瘍表面に発現するgalactose-N-acetylgalactosamine構造に対し,外膜タンパク質Fap2を介して接着する.一方,Fap2欠損やgalactose添加による中和は,F. nucleatumのがん細胞への接着を低下させ,さらに腫瘍形成に寄与すると考えられる炎症性サイトカインの産生が低下する(11)11) M. A. Casasanta, C. C. Yoo, B. Udayasuryan, B. E. Sanders, A. Umaña, Y. Zhang, H. Peng, A. J. Duncan, Y. Wang, L. Li et al.: Sci. Signal., 13, eaba9157 (2020)..このように,接着因子の有無は,病原菌としての表現型の鍵となるのである.

線毛を介した定着機構

次にBacteroides属やBifidobacterium属における線毛,糖質分解酵素,そしてムーンライティング因子の接着因子としての役割について紹介する.

線毛は,細菌において最も解析されている接着因子の一つである.1908年に大腸菌の赤血球凝集反応を促進するレクチン様の接着因子として線毛が報告されて以来,さまざまなタイプの線毛が見いだされている(7)7) K. A. Kline, S. Fälker, S. Dahlberg, S. Normark & B. Henriques-Normark: Cell Host Microbe, 5, 580 (2009)..線毛は,分子量数万のサブユニットの集合であり,重合の過程によりタイプが分類される(図3a図3■線毛の重合と電子顕微鏡による線毛の観察).グラム陰性菌ではペリプラズムでシャペロンにより各サブユニットが重合され,I型およびIV型線毛と呼ばれるファイバーが形成されるのに対し,グラム陽性菌では各サブユニットが細胞外に分泌された後にsortaseにより重合されることで線毛(sortase型線毛)が形成される(図3a図3■線毛の重合と電子顕微鏡による線毛の観察).たとえば,Enterobacteriaceaeに認められるI型線毛は,数百~数千コピーものサブユニットが重合し軸となり1本の線毛が形成され,その長さは数µmにもなる.そのため,先に述べた接着因子のなかでは唯一(S-layer結晶構造は除く),菌体表層に局在するファイバー状の形態を電子顕微鏡により観察できる.

図3b図3■線毛の重合と電子顕微鏡による線毛の観察Bifidobacterium longumの電子顕微鏡による観察像を示した.線毛の観察は,酢酸ウランやリンタングステン酸でネガティブ染色した菌体を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する方法が主流であるが,試料作製時にコーティングを工夫することで,走査型電子顕微鏡(SEM)でも十分観察可能である(図3b図3■線毛の重合と電子顕微鏡による線毛の観察).

図3■線毛の重合と電子顕微鏡による線毛の観察

(a)グラム陰性・陽性細菌における線毛の重合過程の違い.(b)Bifidobacterium longumのTEMまたはSEMによる観察像(TEMによる観察は,リンタングステン酸によるネガティブ染色を実施).

ヒトに共生する多くのBifidobacterium属は,sortase型線毛やVI型線毛に分類されるTad線毛を有し,Bifidobacteriumのマウス消化管や上皮細胞への接着因子として機能する(12)12) G. Alessandri, M. C. Ossiprandi, J. MacSharry, D. van Sinderen & M. Ventura: Front. Immunol., 10, 2348 (2019)..実際,B. longumのsortase型線毛の線毛構成タンパク質であるFimAサブユニットのブタ大腸ムチンへの解離定数(KD)は10−8(M)程度を示すことから,ムチンに対し比較的強い結合力を有する.興味深いことに,B. longumのFimAは,アミノ酸配列の多型から5種類に分類でき,ムチンに全く結合しない多型も存在する(13)13) K. Suzuki, K. Nishiyama, H. Miyajima, R. Osawa, Y. Yamamoto & T. Mukai: Biosci. Microbiota Food Health, 35, 19 (2015)..最近,Bifidobacteriumなどのプロバイオティクスの定着は,宿主特異性が強く影響することが臨床的に示されている(14)14) N. Zmora, G. Zilberman-Schapira, J. Suez, U. Mor, M. Dori-Bachash, S. Bashiardes, E. Kotler, M. Zur, D. Regev-Lehavi, R. B. Z. Brik et al.: Cell, 174, 1388 (2018)..筆者らは,このようなBifidobacteriumの宿主特異性を,各個人に発現するムチン糖鎖パターンの違いと,線毛の多型別の結合性から明らかにしたいと考えており,現在,糖鎖アレイを用いてFimAの各多型ごとの受容体解析を実施している.

また,B. breve UCC2003のTad線毛サブユニットであるTadEは,腸上皮細胞に対して物理的な刺激を与え,上皮細胞の分化を促す新たな役割も報告されている(15)15) M. O’Connell Motherway, A. Houston, G. O’Callaghan, J. Reunanen, F. O’Brien, T. O’Driscoll, P. G. Casey, W. M. de Vos, D. van Sinderen & F. Shanahan: Mol. Microbiol., 111, 287 (2019).

冒頭で示した,大腸陰窩に生息するAcinetobacter modestusAcinetobacter radioresistensもIV型線毛をもつため,陰窩での局在に寄与すると考えられているが(5)5) A. Stedman, K. Brunner & G. Nigro: Cell. Microbiol., 21, 1 (2019).,これらの線毛の役割は解析されていない.

糖質分解酵素を介した定着機構

Bacteroides属では,PULにコードされる糖質分解酵素や膜タンパク質が定着因子として報告されている.B. fragilisの遺伝子クローンライブラリーから,SusDとSusCを含む領域がcommensal colonization factor(CCF)として同定された(16)16) S. M. Lee, G. P. Donaldson, Z. Mikulski, S. Boyajian, K. Ley & S. K. Mazmanian: Nature, 501, 426 (2013).B. fragilisが定着したマウスに抗生物質を投与すると,B. fragilis野生株は,大腸のムチン層深くに入り込むことで抗生物質による殺菌を回避し,抗生物質投与を止めると再び増殖できる.一方,ccf変異株では菌数の回復は遅れる.そのため,CCFはB. fragilisのムチン層や腸上皮への局在にかかわる定着因子として特徴づけられている(16)16) S. M. Lee, G. P. Donaldson, Z. Mikulski, S. Boyajian, K. Ley & S. K. Mazmanian: Nature, 501, 426 (2013).

さらに最近,B. fragilisの2つの糖質分解酵素が定着因子として報告された(17)17) G. P. Donaldson, W. C. Chou, A. L. Manson, P. Rogov, T. Abeel, J. Bochicchio, D. Ciulla, A. Melnikov, P. B. Ernst, H. Chu et al.: Nat. Microbiol., 5, 746 (2020).B. fragilisを投与したマウスの大腸ルーメン,ムチン層,上皮細胞を分画し,各領域におけるB. fragilisの遺伝子発現解析(hsRNA-Seq)が行われた.その結果,sulfatase(BF3086)とglycosyl hydrolase(BF3134)の遺伝子発現が,ムチン層と上皮において顕著に上昇することが確認された.興味深いことに,これらの遺伝子発現はルーメン画分では変化せず,ムチン層や上皮細胞に近づいたときにのみ上昇すること,さらに,いずれの遺伝子変異株の定着性は,ムチン層でのみ顕著に低下することが見いだされ,糖質分解酵素であるBF3086とBF3134がB. fragilisの新たな定着因子として特徴づけられている(17)17) G. P. Donaldson, W. C. Chou, A. L. Manson, P. Rogov, T. Abeel, J. Bochicchio, D. Ciulla, A. Melnikov, P. B. Ernst, H. Chu et al.: Nat. Microbiol., 5, 746 (2020).

このようにB. fragilisが環境に応じて,定着に必要な遺伝子発現を変化させる適応機構の発見は,大腸における細菌の定着を理解するうえで新たな着眼点をもたらす(図4図4■Bacteroides fragilisの大腸ムチン層における適応機構).また,ここで紹介したB. fragilisの定着因子は,糖質分解酵素や膜タンパク質であり,線毛のように接着性に特化した因子ではなく,ムチンの資化性に及ぼす影響も大きいと推察される.一方,筆者らはBifidobacterium bifidumの細胞外酵素sialidaseは,ムチンの分解のみならず,シアロ化糖鎖や血液型糖鎖へ接着できるレクチン様の接着因子としての性質を見いだしている(18)18) K. Nishiyama, Y. Yamamoto, M. Sugiyama, T. Takaki, T. Urashima, S. Fukiya, A. Yokota, N. Okada & T. Mukai: mBio, 8, e00928 (2017)..PULを介したB. fragilisの接着機構はほとんど不明であり,どのような相互作用に基づくのか,さらなる解析が待たれる.

図4■Bacteroides fragilisの大腸ムチン層における適応機構

ムーンライティング因子を介した定着機構

Moonlighting factor(ムーンライティング因子)は,主となる機能に加え,異なる複数のはたらきを示すタンパク質の総称である.細菌の代表的なムーンライティング因子は,aldolase, glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, enolase, elongation factor Tu(EF-Tu),heat shock proteinが挙げられ,これらの因子は解糖系やタンパク質合成など細菌の生育に必須の役割をもつが,細胞外に分泌された後に菌体表層にとどまることで,接着因子として別の機能をもつことが知られている.これらの接着因子としての詳細な役割は,総説をご覧いただきたい(8, 19, 20)8) K. Nishiyama, M. Sugiyama & T. Mukai: Microorganisms, 4, 34 (2016).19) B. Henderson & A. Martin: Infect. Immun., 79, 3476 (2011).20) V. Kainulainen, T. Korhonen, V. Kainulainen & T. K. Korhonen: Biology (Basel), 3, 178 (2014).

一方,ムーンライティング因子の機能を解析する際に,しばしば問題となる点は,SecやTatなど既知の分泌配列が無いため,どのように菌体外へと移行するか不明であり,接着因子としての議論は,現象論の域に留まることが多かった.最近,筆者らは,B. longumにおけるムーンライティング因子の興味深い分泌様式を見いだしたので最後に紹介する.

ヒト大腸内細菌叢を模したファーメンターKUHIMMを用いて(21)21) R. Takagi, K. Sasaki, D. Sasaki, I. Fukuda, K. Tanaka, K. Yoshida, A. Kondo & R. Osawa: PLOS One, 11, e0160533 (2016).,便培養液と共にB. longumを培養すると,無数の膜小胞が産生されるダイナミックな現象を見いだした(図5a, b図5■Bifidobacterium longumによる膜小胞の形成).膜小胞を超遠心分離により回収し,質量分析によりタンパク質を同定した結果,膜小胞には分泌シグナル配列の無い細胞内タンパク質が多数含まれていた.そこで,表面プラズモン共鳴と質量分析を組合せたBIA-MS解析を実施したところ,ムチン接着性を示すGroEL, EF-Tu, transaldolaseなどのムーンライティング因子が複数同定できた.すなわち,B. longumにおいて膜小胞が運搬体となりムーンライティング因子を菌体外へと分泌する新たなプロセスを見いだすことができた(22)22) K. Nishiyama, T. Takaki, M. Sugiyama, I. Fukuda, M. Aiso, T. Mukai, T. Odamaki, J.-Z. Xiao, R. Osawa & N. Okada: Appl. Environ. Microbiol., 86, e01464-20 (2020).図5c図5■Bifidobacterium longumによる膜小胞の形成).さらに興味深い点は,B. longumによる膜小胞の産生パターンは,培養に用いたヒトの便依存的であった.これは,個人の腸内細菌の構成の違いにより代謝産物も変化するため,ある細菌が産生した代謝産物が刺激因子となり,B. longumの膜小胞の産生を促すという,代謝産物を介した新たな共生関係の存在を示している.

図5■Bifidobacterium longumによる膜小胞の形成

(a)ヒト便培養液を添加した培地で培養したB. longumの膜小胞(EV)の産生.(b)菌体表層からEVが分泌される様子.(c)EVを介したムーンライティング因子の分泌経路の模式図.文献2222) K. Nishiyama, T. Takaki, M. Sugiyama, I. Fukuda, M. Aiso, T. Mukai, T. Odamaki, J.-Z. Xiao, R. Osawa & N. Okada: Appl. Environ. Microbiol., 86, e01464-20 (2020).より改変引用.

最後に

本解説では,Bacteroides属やBifidobacterium属の大腸内での定着にかかわる接着因子の機能について述べた.細菌が宿主に接着するという現象は一見単純だが,そこには,多様なムチン糖鎖への結合や,刺激物質としての代謝産物の存在,さらに消化管での空間的な適応など,あらゆる要素が複雑に関与している.すなわち,細菌は,ほかの細菌あるいは宿主と共生関係を保ちながら,自身が棲息する環境において,むしろ能動的とも思えるほど適応性を発揮し定着する様子が明らかにされつつある.

このような共生関係の解析は重要視され,たとえばヒト大腸内細菌叢を模したKUHIMM培養系(21)21) R. Takagi, K. Sasaki, D. Sasaki, I. Fukuda, K. Tanaka, K. Yoshida, A. Kondo & R. Osawa: PLOS One, 11, e0160533 (2016).や嫌気性細菌とオルガノイドの共培養(23)23) N. Sasaki, K. Miyamoto, K. M. Maslowski, H. Ohno, T. Kanai & T. Sato: Gastroenterology, 159, 388 (2020).など,腸内の生態系を理解するためのデバイスが開発されている.

現在,シーケンス技術が発達し,さらに腸内細菌の新たな遺伝子操作技術も次々と確立され(24)24) C. J. Guo, B. M. Allen, K. J. Hiam, D. Dodd, W. van Treuren, S. Higginbottom, K. Nagashima, C. R. Fischer, J. L. Sonnenburg, M. H. Spitzer et al.: Science, 366, 6471 (2019).,接着因子を見つけることは決して難しいことではない.しかし,その接着因子が真にどのように機能するか,それは細菌間の相互作用あるいは宿主との共生関係をより深く理解する必要があり,ウェットな研究に基づく横断的なアプローチが重要と感じている.

Acknowledgments

本稿で取り上げた研究は,向井孝夫教授,杉山真言助教(北里大学),大澤 朗教授(神戸大学),高木孝士講師(昭和大学),清水金忠氏・小田巻俊孝氏(森永乳業)との共同研究により行われました.また,日頃の実験をサポートして下さった多くの研究者および学生の皆様に感謝の意を表します.本研究は,JSPS科研費(15H06581, 17K15249, 20K15438),公益財団法人発酵研究所,学校法人北里研究所の助成を受けたものです.

Reference

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