Kagaku to Seibutsu 58(11): 628-634 (2020)
セミナー室
典型的ストリゴラクトンの生合成新たに解明された生合成機構とその応用展開
Published: 2020-11-01
© 2020 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2020 公益社団法人日本農芸化学会
ストリゴラクトン(SL)生合成の重要な中間体であるcarlactone(CL)やcarlactonoic acid(CLA),およびそれらの生合成遺伝子が発見され,SL生合成への理解は急速に進展している.根寄生雑草の発芽刺激物質として知られていたSLは,2008年に,植物の枝分かれを抑制する内生の植物ホルモンとして再発見され,これを契機に,生合成経路の解明が飛躍的に進展し多くの生合成遺伝子が同定されてきた.ABC環を有する典型的SLの生合成経路では,BC環形成機構の解明が重要な課題であったが,近年,複数の植物種でBC環形成を伴う典型的SLの生合成経路が明らかになりつつある.本稿では,筆者らが最近明らかにした典型的SL,orobancholと5-deoxystrigol(5DS)生合成について紹介しつつ,SL生合成に関する最新の知見を解説する.また,生合成研究から見えてきた根寄生雑草に対する新たな防除戦略の可能性について紹介する.
SLが植物ホルモンとして同定される以前から,さまざまな植物で枝分かれ過剰変異体が見いだされており,シロイヌナズナではmore axillary growth(max),イネではdwarf(d),エンドウではramosus(rms),ペチュニアではdecreased apical dominance(dad)と命名されていた.カロテノイド生合成阻害剤であるフルリドンを処理した植物体や,カロテノイド生合成変異体の根滲出物では,根寄生雑草に対する発芽刺激活性が低下することから,SLはカロテノイド由来の化合物であることが示唆されていた.2008年に,枝分かれ過剰変異体のうち,カロテノイド酸化開裂酵素(CAROTENOID CLEAVAGE DIOXYGENASE; CCD)の2種の遺伝子,CCD7(MAX3/D17/RMS5/DAD3)とCCD8(MAX4/D10/RMS1/DAD1)がSL生合成に関与することが明らかになり,SLはカロテノイド由来の植物の枝分かれを抑制する新たな植物ホルモンであることが証明された(1, 2)1) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pagés, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).2) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008)..その後,シトクロムP450であるCYP711AをコードするMAX1遺伝子や鉄キレート型タンパク質をコードするD27遺伝子もSL生合成に関与していることが判明し,2012年には,D27によるall-trans-β-カロテンの9-cis-β-カロテンへの異性化とそれを基質とするCCD7, CCD8による連続的な酸化開裂により,carlactone(CL)と名付けられた生合成中間体が生成されることがin vitroで実証された(3)3) A. Alder, M. Jamil, M. Marzorati, M. Bruno, M. Vermathen, P. Bigler, S. Ghisla, H. Bouwmeester, P. Beyer & S. Al-Babili: Science, 335, 1348 (2012)..CLは,イネおよびシロイヌナズナの代謝物として実際に植物体内に存在し,CCD8が欠損したイネd10変異体において13C標識したCLが典型的SLへ変換されたことから,CLが内生のストリゴラクトン生合成中間体であることが証明された(4)4) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014)..さらに,シロイヌナズナのmax1(Atcyp711a1)変異体ではCLが過剰に蓄積されていたことから,AtCYP711A1はCLを基質とすることが示唆された(4)4) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014)..その後,さまざまな植物におけるCYP711Aサブファミリーの生化学的機能解析が行われ,CYP711Aの共通の機能として,CLの19位炭素の3段階酸化を触媒し生成物としてcarlactonoic acid(CLA)を与えることが明らかとなった(5, 6)5) A. Abe, K. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014).6) K. Yoneyama, N. Mori, T. Sato, A. Yoda, X. Xie, M. Okamoto, M. Iwanaga, T. Ohnishi, H. Nishiwaki, T. Asami et al.: New Phytol., 218, 1522 (2018).(図1図1■ストリゴラクトン生合成経路の概略図).また,シロイヌナズナではCLAのメチルエステル体であるmethyl carlactonoate(MeCLA)の存在が報告されている(5)5) A. Abe, K. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014)..MeCLAはさらに,2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼ(2-oxoglutarate-dependent dioxygenase; DOX)のDOXC54クレードに属するLATERAL BRANCHING OXIDOREDUCTASE(LBO)と名付けられた酵素により分子量が16増加した化合物に変換される(7)7) P. B. Brewer, K. Yoneyama, F. Filardo, E. Meyers, A. Scaffidi, T. Frickey, K. Akiyama, Y. Seto, E. A. Dun, J. E. Cremer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 6301 (2016)..最近,この化合物がMeCLAの1′位炭素が水酸化された化合物,1′-HO-MeCLAであることが,重水素標識したMeCLAを基質としたLBO酵素機能解析により明らかになった(8)8) K. Yoneyama, K. Akiyama, P. B. Brewer, N. Mori, M. Kawano-Kawada, S. Haruta, H. Nishiwaki, S. Yamauchi, X. Xie, M. Umehara et al.: Plant Direct, 4, e002219 (2020)..興味深いことに,MeCLAはCLやCLAとは異なり,in vitroにおいてSL受容体であるD14との相互作用が認められている(5)5) A. Abe, K. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014)..これは,MeCLAが枝分かれ抑制にかかわる活性型ホルモンの一つとして機能する可能性を示している.一方で,lbo変異体はほかのSL生合成変異体と比較すると弱いながらも枝分かれ過剰な表現型を示し,内生MeCLAは野生型と比べ過剰に蓄積していることが明らかになっている(7)7) P. B. Brewer, K. Yoneyama, F. Filardo, E. Meyers, A. Scaffidi, T. Frickey, K. Akiyama, Y. Seto, E. A. Dun, J. E. Cremer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 6301 (2016)..このことから,LBOの代謝産物である1′-HO-MeCLAや,より下流の代謝産物が枝分かれ抑制ホルモンとして機能している可能性が考えられる.
典型的SLの生合成経路は,C環がα配置のorobanchol-type SLのみを生産するジャポニカ種のイネ(Oryza sativa)で初めて明らかにされた(9)9) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014).(図1図1■ストリゴラクトン生合成経路の概略図).2014年に2つの研究グループが,それぞれ,シロイヌナズナとイネのCYP711Aサブファミリーの酵素機能解析について研究結果を報告した.シロイヌナズナのAtCYP711A1は先述のとおり,CLをCLAに変換する酵素であることが明らかにされた(5)5) A. Abe, K. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014)..一方で,イネのCYP711Aサブファミリーのうち,OsCYP711A2/Os900が,CLからCLAを経由して,典型的SLである4-deoxyorobanchol(4DO)までの変換を触媒すること,さらに,オルソログであるOsCYP711A3/Os1400が4DOの4位炭素の水酸化を触媒し,orobancholを生成することが明らかにされた(9)9) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014)..CLAとorobanchol生合成経路の発見以降,CLAの18位炭素の水酸化による18-hydroxy CLAの生成と,それに続く環化によって典型的SLが生成されると考えられてきた.多くの論文では,18-hydroxy CLAのプロトン化によって環化反応が開始されるモデルが考案されている(図2図2■推定BC環形成機構中のAのモデル).
経路AではCLAが18-hydroxy CLAに変換され,それに続くBC環形成反応により典型的SLが生成される.経路Bでは,CLAが18-hydroxy CLAを経由し18-oxo CLAにまで変換されることで,BC環形成に伴い4位に水酸基が残る.
CYP711Aサブファミリーは植物界に広く存在しており,その機能の多様性と典型的SL生合成との関係性が注目されてきた.同サブファミリーの機能として,たとえばイネの場合とは逆に,strigol-type SL生成のためにC環がβ配置となるようBC環を形成する機能や,あるいは,タバコなどorobanchol-typeとstrigol-typeの両タイプの典型的SLを生産する植物種の存在を考慮すると,立体制御を伴わないBC環形成を触媒する機能が考えられる.しかし,これまでにさまざまな植物種の同サブファミリーの酵素機能が調べられてきたが,典型的SLへの変換を担う酵素は,現在のところイネのほかに,シダ植物の一つであるイヌカタヒバ(Selaginella moellendorffii)のSmCYP711A17v1およびSmCYP711A17v3で見いだされているだけである(6)6) K. Yoneyama, N. Mori, T. Sato, A. Yoda, X. Xie, M. Okamoto, M. Iwanaga, T. Ohnishi, H. Nishiwaki, T. Asami et al.: New Phytol., 218, 1522 (2018)..この酵素もイネと同様にCLから4DOまでの変換を触媒することが示されている.一方で,調べられたCYP711AサブファミリーはいずれもCLからCLAへの変換を触媒し,これは同サブファミリーの保存された機能と考えられる.つまり,CYP711Aサブファミリーが触媒する典型的SLの生成はむしろ例外的であると言える.また,インディカ種のイネ品種Balaは,OsCYP711A2/Os900およびOsCYP711A3/Os1400遺伝子を欠損しているのにもかかわらず,4DOやorobancholを微量に生産している(10)10) C. Cardoso, Y. Zhang, M. Jamil, J. Hepworth, T. Charnikhova, S. O. N. Dimkpa, C. Meharg, M. H. Wright, J. Liu, X. Meng et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 2379 (2014)..このことから,CYP711Aサブファミリー以外に,典型的SL生合成に関与する植物界に広く存在する酵素遺伝子があると考えられた.
マメ科であるササゲ(Vigna unguiculata),アカクローバー,エンドウや,ナス科のアカピーマンといった植物では,植物体に投与したCLAがorobancholへと変換されるが,4DOの投与ではorobancholは生成されない(11, 12)11) M. Iseki, K. Shida, K. Kuwabara, T. Wakabayashi, M. Mizutani, H. Takikawa & Y. Sugimoto: J. Exp. Bot., 69, 2305 (2018).12) K. Ueno, H. Nakashima, M. Mizutani, H. Takikawa & Y. Sugimoto: J. Pestic. Sci., 43, 198 (2018)..つまり,イネで見いだされていたCLAから4DOを経由しorobancholが生合成されるという経路とは別に,CLAから直接orobancholへと変換されるという経路があると示唆されていた.筆者らは最近,この変換にかかわる新たな典型的SL生合成酵素として,双子葉植物に広く保存されているCYP722Cサブファミリーを同定した(13, 14)13) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019).14) T. Wakabayashi, K. Shida, Y. Kitano, H. Takikawa, M. Mizutani & Y. Sugimoto: Planta, 251, 97 (2020)..
筆者らは,ササゲにおいて,投与したCLAのorobancholへの変換がシトクロムP450の阻害剤であるウニコナゾールPで阻害されたことから,シトクロムP450がこの変換に関与すると考えた.そこで,SL生産量が異なるいくつかの栽培条件でササゲを栽培し,その根を用いたトランスクリプトーム解析を実施した.既知のSL生合成遺伝子と共発現するシトクロムP450遺伝子としてVuCYP722Cを選抜し,その酵素機能をin vitroで調べた結果,VuCYP722CはCLAを基質として,orobancholおよびC環の立体配置がorobancholとは逆向きのジアステレオマー,ent-2′-epi-orobancholをほぼ1 : 1の比で生成した.さらに,その酵素反応生成物には18-hydroxy CLAと思われる化合物も含まれていた.ササゲと同じくorobancholを生産しているナス科のトマト(Solanum lycopersicum)のSlCYP722Cもin vitroでVuCYP722Cと同様の酵素活性を示した(13)13) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019)..これらのことから,筆者らはVuCYP722CおよびSlCYP722Cの機能は,CLAの18位炭素の2段階酸化であると考えている.すなわち,図2図2■推定BC環形成機構のBのモデルで示すように,CLAはまず,18-hydroxy CLAを経由しアルデヒドである18-oxo CLAに変換される.その後の18-oxo CLAの自発的な環化によりBC環が形成される.図2図2■推定BC環形成機構のAで示したモデルとは異なり,18位炭素のアルデヒド基のカルボニル酸素がプロトン化された場合,環化反応後,酸素はB環上に水酸基として残り,生成物としてorobancholを与えることになる.このBC環形成の際に,立体制御されないまま環が形成されるため,C環の立体がそれぞれ逆向きのorobancholとent-2′-epi-orobancholが生成すると考えられる(図2図2■推定BC環形成機構).しかしながら,ササゲとトマトの根滲出物や植物体からent-2′-epi-orobancholが検出されない.このことから,VuCYP722C, SlCYP722Cと協調的に働くBC環立体制御因子がこれらの植物には存在するのではないかと筆者らは考えている.また,orobanchol-typeとstrigol-type SLのどちらも生産する植物種では,BC環立体制御因子が欠損しているため,これら両タイプのSLが生産されている可能性が考えられる.
さらに,トマトにおいてこの酵素遺伝子をCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集でノックアウトすると,ノックアウト体の根滲出物ではorobancholが検出限界以下となり,代わってCLAの蓄積が確認された.このことから,植物体において,SlCYP722CによるCLAからorobancholへの直接的な変換を触媒する機能が証明された(13)13) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019)..
CYP722Cサブファミリーは,orobanchol-type, strigol-typeのどちらのタイプのSLを生産するかにかかわらず,双子葉植物に広く保存されている.このことから,同サブファミリーがさまざまな植物の典型的SL生合成に関与しているのではないかと考えられた.そこで筆者らは,strigol-typeの5-deoxystrigol(5DS)を生産するワタ(Gossypium arboreum)のGaCYP722Cに着目し,その酵素機能を解析した.ワタ植物体にCLAを投与すると5DSが生産されることから,GaCYP722Cの基質もCLAと想定し,in vitroでの酵素機能解析を行った.興味深いことに,GaCYP722CはCLAを基質として5DSへの変換を触媒するものの,生成物として4DOを与えなかった(14)14) T. Wakabayashi, K. Shida, Y. Kitano, H. Takikawa, M. Mizutani & Y. Sugimoto: Planta, 251, 97 (2020)..つまり,GaCYP722Cは,VuCYP722C, SlCYP722Cとは異なり,in vitroで立体選択的なBC環形成を触媒することが示された.GaCYP722Cは,図2図2■推定BC環形成機構のAに示したモデルのように,CLAを18-hydroxy CLAに変換し,それに続くBC環形成反応を触媒していると考えられる.筆者らのVuCYP722C, SlCYP722Cの発見に続いて,5DSを生産するミヤコグサ(Lotus japonicus)において,Lotus retrotransposon 1(LORE1)挿入によるLjcyp722c変異体の根滲出物中では5DSが検出されないことが報告された(15)15) N. Mori, T. Nomura & K. Akiyama: Planta, 251, 40 (2020)..ミヤコグサのMAX1は,CLからCLAだけでなく18-hydroxy CLAへの変換も触媒すると報告されていることから(16)16) N. Mori, A. Sado, X. Xie, K. Yoneyama, K. Asami, Y. Seto, T. Nomura, S. Yamaguchi, K. Yoneyama & K. Akiyama: Phytochemistry, 174, 112349 (2020).,LjCYP722Cもまた,CLAあるいは18-hydroxy CLAを基質として5DSへの変換を触媒すると想定される.
このように,CYP722Cサブファミリーは,植物が生産する典型的SLのC環の立体配置にかかわらず,その生合成に関与する重要な酵素であると考えられる.CYP722Cサブファミリーの酵素活性は,VuCYP722C, SlCYP722Cなどのorobanchol生成と,GaCYP722C, LjCYP722Cなどの5DS生成とに大別される.触媒部位でのアミノ酸残基の違いやタンパク質の立体構造の違いという点で触媒活性に違いが生じていると考えられるが,これらの点は今後明らかにされるべき課題である.また,多くの双子葉植物はCYP722CとCYP722Aを有するが,シロイヌナズナではCYP722Aのみであり,イネ科植物はCYP722Bのみを有している.CYP722AやCYP722BのSL生合成への関与や,その酵素機能についても今後明らかにされることが期待される.
SLの生理機能はさまざまであるが,どの種類のSLがそれぞれの機能を主として担っているかは不明な点が多い.しかし,CYP722Cの発見によりその一端が明らかにされつつある.
トマトのSlCYP722Cノックアウト体の根滲出物に含まれるSLプロファイルは先述のとおり大きく変化しており,この変化は根寄生雑草種子に対する発芽刺激活性にも反映された.すなわち,典型的SLが欠損しているノックアウト体根滲出物の根寄生雑草に対する発芽刺激活性は,野生型と比較して大幅に低下した(図3A図3■SlCYP722Cノックアウトによる影響).一方,興味深いことにトマト植物体地上部の枝分かれには,ノックアウト体と野生型で顕著な違いは認められなかった(13)13) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019).(図3B図3■SlCYP722Cノックアウトによる影響).このことは,トマトの枝分かれ制御にorobancholが必須ではないことを示している.典型的SLの欠損が枝分かれに影響を及ぼさないことから,枝分かれ抑制ホルモンの実体は,ABC環を持たない非典型的SLに由来する化合物であると筆者らは考えている.MAX1遺伝子の変異が枝分かれの増加を引き起こすことから,枝分かれ抑制ホルモンはCLAから派生する化合物と推定される.典型的SLは土壌中へより安定した構造で分泌されるために生合成され,根圏シグナル物質として植物–微生物間および植物–植物間のコミュニケーションに関与している可能性が考えられる.CLAを分岐点として,土壌中でシグナルとして働く典型的SLと,植物体内でホルモンとして働く非典型的SL関連化合物とに作り分けられているのではないだろうか.
作物の根から分泌される発芽刺激物質を抑制し,根寄生雑草への抵抗性を向上させるというアプローチは古くから行われてきた.アフリカ諸国の重要な穀物の一つであるソルガムでは,1992年にSRN39という品種のストライガ(Striga hermonthica)種子に対する発芽刺激活性が,ストライガ感受性品種と比較し低いことが見いだされ,実際にストライガ耐性品種として栽培されている(17)17) D. E. Hess, G. Ejeta & L. G. Butler: Phytochemistry, 31, 493 (1992)..その後の遺伝学的解析により,原因遺伝子として,硫酸転移酵素ドメインをもつタンパク質をコードするLOW GERMINATION STIMULANT 1(LGS1)が見いだされた.このLGS1遺伝子に変異が生じると,根から分泌されるSLの総量は変化しないものの,生産される主要なSLが5DSから,C環の立体配置が異なるorobancholへと変化する(18)18) D. Gobena, M. Shimels, P. J. Rich, C. Ruyter-Spira, H. Bouwmeester, S. Kanuganti, T. Mengiste & G. Ejeta: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 4471 (2017)..ストライガに対する発芽刺激活性は,orobancholよりも5DSの方が高い(19)19) S. Nomura, H. Nakashima, M. Mizutani, H. Takikawa & Y. Sugimoto: Plant Cell Rep., 32, 829 (2013)..したがって,lgs1変異体では,SLプロファイルの変化によって,ストライガに対する発芽刺激活性が低下し抵抗性が付与されたと考えられる.ソルガムにおいて,典型的SLへの変換を担う酵素や,LGS1の生化学的機能は不明であるが,LGS1はBC環が生成される際の立体成制御因子として機能している,あるいは直接BC環の立体生成に関与していると考えられる.
ソルガムlgs1変異体での結果は,根寄生雑草耐性作物の育種へ向けた重要な知見を与えた.その一方で,この結果はソルガム特異的な現象であると考えられ,発芽応答性の異なるさまざまな根寄生雑草に対する防除戦略を考えるうえでは,より汎用性の高いアプローチが必要であると思われる.その一つとして,筆者らが考案する作物に典型的SLを作らせないというアプローチは新たな防除戦略となる可能性を秘めている.トマトのSlCYP722C遺伝子ノックアウト体は,典型的SLが欠損することで,実際にトマト生産に被害を及ぼしているPhelipanche aegyptiacaの発芽が抑制される.加えて,地上部で枝分かれが増えることもない.根寄生雑草の発芽抑制が作物の抵抗性付与につながることは先述のソルガムで実証されていることからも,CYP722Cサブファミリーの触媒によって典型的SLが生合成される植物では,この遺伝子を欠損させることで,枝分かれの形態形成を維持したまま根寄生雑草に対する抵抗性を付与できる可能性が高い.今後,実際に抵抗性がどれほど付与されるか,作物としての形質に影響が出ないかなど,根寄生雑草の新たな防除戦略としての有効性を実証していきたい.
このように,典型的SLの生合成経路の解明が進むに連れて,その知見を根寄生雑草の防除に活かす展望が開けてきた.今後,SL生合成研究を基盤としたますますの応用・実践的な研究の進展が期待される.
典型的SLの生合成研究は,ここ数年で急速に発展しているが本文中に紹介したとおり残された謎も多い.特に,BC環形成時の立体制御は残された大きな課題である.また,近年相次いで発見されている非典型的SLの生合成経路は,典型的SLと比べると未解明な部分が多い.さまざまな活性をもち,多様な構造を有するSLであるが,それら個々の化合物の生理機能はいまだ謎が多く,枝分かれ抑制ホルモンとしての機能を担っている化合物の正体も明らかになっていない.個々の生理機能を担っている化合物を明らかにすることができれば,植物の形態や根圏環境を人為的に調節する道が開けると考えられる.個々のSL生合成経路の解明や枝分かれ抑制ホルモンの実体の追求はSLの応用展開を目指すうえでも重要な研究課題であり,今後本分野のさらなる研究の進展が期待される.
Acknowledgments
本研究は,地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS, JPMJSA1607)の支援を受けて行われました.