セミナー室

植物のストリゴラクトン信号伝達メカニズム加水分解酵素型受容体DWARF14の機能解析

Rei Yasui

安井

東北大学大学院生命科学研究科

Yoshiya Seto

瀬戸 義哉

明治大学農学部農芸化学科

Shinjiro Yamaguchi

山口 信次郎

京都大学化学研究所

Published: 2020-12-01

はじめに

植物の根滲出液から発見されたストリゴラクトン(strigolactone; SL)は,ストライガに代表される根寄生植物やアーバスキュラー菌根菌に対するアレロケミカルとしてはたらくとともに,植物の枝分かれなどを制御する植物ホルモンとしても機能する.本シリーズではSL研究に関する最新の知見をトピックごとに紹介してきた.本稿では,植物のSL受容と信号伝達機構について取り上げる.現在までに,受容体をはじめとする主要なSLシグナル伝達因子は既に同定されている.しかし,SLがどのように受容体タンパク質に結合・認識されているか等の詳細なSL信号伝達メカニズムに関しては,受容体であるDWARF14(D14)がα/β-ヒドロラーゼファミリーに属するタンパク質であり,SLを加水分解する触媒活性を保持していることから議論が続いている.植物のSL信号伝達メカニズムを明らかにすることは農業分野に利用可能なSL機能制御剤の創薬にもつながる.本稿では,主要なSLシグナル伝達因子を紹介したのちに,D14によるSL信号伝達メカニズムについて,最新の知見を紹介したい.

3つの主要なSLシグナル伝達因子

枝分かれが過剰に形成される突然変異体として,シロイヌナズナのmore axillary growthmax),エンドウのramosusrms),ペチュニアのdecreased apical dominancedad)が知られている.また,イネの矮性変異体であるdwarfd)変異体の中にも枝分かれ過剰な表現型を示す変異体が含まれる.枝分かれ過剰突然変異体の中には,SLの生産量が顕著に低下しているSL欠損変異体が存在し,これらの変異体に外部からSLを投与すると枝分かれが回復する(1, 2)1) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).2) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008)..一方で,SLを投与しても枝分かれ過剰な表現型が回復せず,また,SL内生量が顕著に増加しているSL非感受性変異体も報告されている.これらのSL非感受性変異体の解析を通じ,3つの主要なSLシグナル伝達因子が明らかになった.本稿では,まず,これらの因子が発見された経緯や各々の機能を概説したのち,特に受容体であるD14の機能解析に関する重要な論文を幾つか取り上げ,これまでに提唱されてきたSL信号伝達メカニズムを紹介する.紙面の都合上,十分に紹介することができない論文もあることをご容赦いただきたい.

イネのd3,シロイヌナズナのmax2,エンドウのrms4は,いずれもSL非感受性の枝分かれ過剰変異体として同定された最初の変異体である(1, 2)1) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).2) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008)..これらの変異体の原因遺伝子は互いにオルソログの関係にあり,それぞれロイシンリッチリピート型F-boxタンパク質をコードしている.F-boxタンパク質はSkp1, Cullin, Rbx1とともにSCF複合体を形成し,ユビキチン結合酵素とともに標的タンパク質をユビキチン化して,26Sプロテアソーム系による分解に導く.F-boxタンパク質は幾つかの植物ホルモンのシグナル伝達因子の中にも存在しており,いずれの場合も,F-boxタンパク質依存的に負の制御因子が分解されることでホルモン信号が伝わる.したがって,SLの信号も同様のメカニズムによって伝達される可能性が示唆された.

続いて,イネのd14変異体がSL非感受性変異体として同定された(3)3) T. Arite, M. Umehara, S. Ishikawa, A. Hanada, M. Maekawa, S. Yamaguchi & J. Kyozuka: Plant Cell Physiol., 50, 1416 (2009)..原因遺伝子のマッピングを行った結果,D14はα/β-ヒドロラーゼファミリー,すなわち加水分解酵素に属するタンパク質をコードすることが明らかになった.α/β-ヒドロラーゼファミリーのタンパク質には酵素反応に重要な触媒三つ組残基(Ser, His, Asp)が広く保存されている.ジベレリンの受容体であるGIBBERELLIN INSENSITIVE DWARF 1(GID1)もこのファミリーに属するが,GID1では触媒三つ組残基のHisがValに置換し,触媒活性を失っている.一方で,D14においてはこれらのアミノ酸がすべて保存されており,D14は触媒活性を保持していると予想された.したがって,発見当初,D14の役割は「SLの受容体」あるいは「SLを変換して活性型ホルモンを生成する代謝酵素」のどちらかであると考えられた.これまでに,D14のオルソログとして,遺伝学的な手法で,ペチュニアのDAD2,エンドウのRMS3が同定されており,かつ,逆遺伝学的に見いだされたシロイヌナズナのオルソログはAtD14と呼ばれている.詳細は後述するが,いずれもSLに対する加水分解酵素活性を有することが明らかになっている.以下,イネのD14をOryza sativa D14(OsD14),OsD14およびそのオルソログがコードするタンパク質の総称をD14と表記する.

その後,イネのd53変異体がSL非感受性かつ優性の変異体として同定された.d53変異体の原因遺伝子は熱ショックタンパク質と低い相同性を示すが,さまざまな解析を通じて,D53はSL信号伝達におけるリプレッサーとして機能することが明らかになった.D53はSL依存的にOsD14と相互作用するとともに,D3依存的にユビキチン化され,プロテアソームによって分解される.d53変異体における変異型のd53タンパク質は,ユビキチン化が起こると考えられる領域に5つのアミノ酸の欠損と一つのアミノ酸置換による変異が生じており,SL存在下でも分解されない.その結果,SL信号伝達が恒常的に抑制された状態にある.上記のとおり,D14はSLに対する加水分解能を有しているが,SLと直接相互作用可能なことに加え,SL依存的にリプレッサーであるD53と相互作用する.これらの発見を機にD14はSL受容体として広く認められるようになった.

このように,3つのSLシグナル伝達因子が同定されており,これらの因子がSL存在下において協調的に機能することでSL信号が伝達される(図1図1■SL信号伝達の概要).しかし,D14がリガンド分子に対する触媒活性を保持した珍しいタイプの受容体であることから,D14のSL信号伝達能とSL加水分解酵素活性の関係については幾つかの異なる説が唱えられてきた.特に,D14によるSLの加水分解がその信号伝達には必須であるか否か,あるいはD14によってSLが加水分解される際,どのタイミングでホルモンの信号が伝達されるのか,という点は大きな議論となってきた.以下,これまでに発表されたD14の機能解析に関する論文のうち,特に重要なものについて,その内容を概説するとともに,最近の論文の中で提唱された幾つかのSL信号伝達モデルを紹介したい.

図1■SL信号伝達の概要

各SLシグナル伝達因子についてはイネの因子を用いて示した.

DAD2の機能解析

2009年にイネのd14変異体がSL非感受性変異体として報告された後,2012年にHamiauxらがペチュニアのD14オルソログであるDAD2の機能解析について報告した(4)4) C. Hamiaux, R. S. Drummond, B. J. Janssen, S. E. Ledger, J. M. Cooney, R. D. Newcomb & K. C. Snowden: Curr. Biol., 22, 2032 (2012)..まず,HamiauxらはDAD2のX線結晶構造解析を行い,DAD2は4つのαヘリックスからなるV字のLid構造を有することに加え,触媒三つ組残基は立体構造的にも保存されていることを明らかにした.また,DAD2は触媒三つ組残基依存的にSLアナログであるGR24をABC環部分とD環部分に加水分解する触媒活性を有しており,加水分解産物は少なくとも外部から投与した場合には枝分かれ抑制活性をもたないことが示された(図2A図2■A: D14とSLの加水分解酵素反応;B: DSF法によるD14とSLの相互作用解析).次に,Differential Scanning Fluorimetry(DSF)法によって,DAD2とGR24の相互作用解析が行われた.DSF法は低分子化合物を添加した際のタンパク質熱変性温度の変化を指標に,タンパク質-低分子間の相互作用を調べることができる手法である.本試験の結果,GR24添加時にDAD2の熱変性温度は低下することが明らかになった(図2B図2■A: D14とSLの加水分解酵素反応;B: DSF法によるD14とSLの相互作用解析).興味深いことに,触媒三つ組残基のSerおよびHisをそれぞれAlaに置換した変異型DAD2では,GR24依存的な熱変性温度の変化は認められなかった.続いて,DAD2のSL信号伝達への関与を検証するために,酵母ツーハイブリッド法によって,DAD2とペチュニアのMAX2/D3/RMS4オルソログであるPhMAX2の相互作用が調べられた.その結果,両者はGR24依存的に相互作用することが明らかになった.触媒三つ組残基のSerをAlaに置換した変異型DAD2は,PhMAX2との相互作用能も失っており,また,本変異体はdad2変異体の表現型を相補できなかった.すなわち,DAD2の有する枝分かれ抑制機能と加水分解酵素活性には関係があること,あるいはSer残基がSLとの結合に必要であることが示唆された.これらの結果から,DAD2はSL受容体として機能する可能性が高いことや,その信号伝達能にはDAD2の触媒機能が必要であることが示唆されたが,断定的な結論には至らなかった.

図2■A: D14とSLの加水分解酵素反応;B: DSF法によるD14とSLの相互作用解析

(ピークトップが熱変性温度を示す)

DAD2の機能解析の論文が報告されて以降,D14に関する論文が相次いて報告された(5~8)5) H. Nakamura, Y. L. Xue, T. Miyakawa, F. Hou, H. M. Qin, K. Fukui, X. Shi, E. Ito, S. Ito, S. H. Park et al.: Nat. Commun., 4, 2613 (2013).6) L. H. Zhao, X. E. Zhou, Z. S. Wu, W. Yi, Y. Xu, S. Li, T. H. Xu, Y. Liu, R. Z. Chen, A. Kovach et al.: Cell Res., 23, 436 (2013).7) L. H. Zhao, X. E. Zhou, W. Yi, Z. Wu, Y. Liu, Y. Kang, L. Hou, P. W. de Waal, S. Li, Y. Jiang et al.: Cell Res., 25, 1219 (2015).8) M. Kagiyama, Y. Hirano, T. Mori, S. Y. Kim, J. Kyozuka, Y. Seto, S. Yamaguchi & T. Hakoshima: Genes Cells, 18, 147 (2013)..それらのなかでは,D14とSLの複合体構造を明らかにしようとする試みが多くなされており,反応途中の状態と思われるものや(6)6) L. H. Zhao, X. E. Zhou, Z. S. Wu, W. Yi, Y. Xu, S. Li, T. H. Xu, Y. Liu, R. Z. Chen, A. Kovach et al.: Cell Res., 23, 436 (2013).,D環に由来する加水分解産物がポケットにトラップされた状態のものが報告された(5)5) H. Nakamura, Y. L. Xue, T. Miyakawa, F. Hou, H. M. Qin, K. Fukui, X. Shi, E. Ito, S. Ito, S. H. Park et al.: Nat. Commun., 4, 2613 (2013)..特に,加水分解産物の一つであるD環部分は,単独で投与した場合でも,高濃度においてはSL生合成変異体でみられる分げつの伸長を部分的に抑制することが明らかになり,D環部分が結合した状態こそがSL信号伝達における活性型構造であるというモデルも提唱されている(5)5) H. Nakamura, Y. L. Xue, T. Miyakawa, F. Hou, H. M. Qin, K. Fukui, X. Shi, E. Ito, S. Ito, S. H. Park et al.: Nat. Commun., 4, 2613 (2013)..しかし,それらの立体構造とSL信号伝達の関係を直接示すデータは得られていない.そのような中,2013年にリプレッサーであるD53が同定され,上記のとおり,D14はSL受容体として広く認められるようになった(9, 10)9) L. Jiang, X. Liu, G. Xiong, H. Liu, F. Chen, L. Wang, X. Meng, G. Liu, H. Yu, Y. Yuan et al.: Nature, 504, 401 (2013).10) F. Zhou, Q. Lin, L. Zhu, Y. Ren, K. Zhou, N. Shabek, F. Wu, H. Mao, W. Dong, L. Gan et al.: Nature, 504, 406 (2013)..しかしながら,依然,受容体としてのSL信号伝達能と加水分解酵素活性の関係については十分な解答が得られず,詳細なSL信号伝達メカニズムは不明のままであった.

CLIMモデル

2016年にD14のSL信号伝達メカニズムに関して,2つの論文が同時に発表された(11, 12)11) A. de Saint Germain, G. Clave, M. A. Badet-Denisot, J. P. Pillot, D. Cornu, J. P. Le Caer, M. Burger, F. Pelissier, P. Retailleau, C. Turnbull et al.: Nat. Chem. Biol., 12, 787 (2016).12) R. Yao, Z. Ming, L. Yan, S. Li, F. Wang, S. Ma, C. Yu, M. Yang, L. Chen, L. Chen et al.: Nature, 536, 469 (2016)..まず,de Saint Germainらは,加水分解されることで蛍光を発するSLアナログを独自に合成し,これを基質に用いて,RMS3の酵素試験を行った(11)11) A. de Saint Germain, G. Clave, M. A. Badet-Denisot, J. P. Pillot, D. Cornu, J. P. Le Caer, M. Burger, F. Pelissier, P. Retailleau, C. Turnbull et al.: Nat. Chem. Biol., 12, 787 (2016)..その結果,RMS3は1分子の基質に対してのみ反応するシングルターンオーバー酵素であることが示唆された.また,RMS3とGR24の酵素反応溶液をLC-MS/MSを用いて分析した結果,m/zが97増加したRMS3が検出され,詳細な解析により,触媒三つ組残基のHisにGR24のD環部分が共有結合していることが明らかになった.これらのことは,GR24のD環部分がRMS3のHis残基に結合し,酵素反応を不可逆的に阻害する可能性を示唆しており,筆者らは,RMS3にD環部分が共有結合した状態こそがSL信号伝達に重要である可能性を提唱した.

YaoらはD3とSkp1ホモログであるASK1(Arabidopsis Skp1 Homologs 1)を共発現し,GR24添加時に形成されるAtD14-D3-ASK1複合体のX線結晶構造解析を行った(12)12) R. Yao, Z. Ming, L. Yan, S. Li, F. Wang, S. Ma, C. Yu, M. Yang, L. Chen, L. Chen et al.: Nature, 536, 469 (2016)..その結果,この複合体においてはAtD14の立体構造がアポ型と比較して大きく変化している様子が観察された.まず,アポ型ではAtD14のV字のLid構造が開いた状態で存在していたが,複合体においてはV字が閉じたコンフォメーションに変化していた.また,Lid構造の閉鎖に伴い,活性ポケットの大きさがアポ型と比較して約5分の1程度に縮小していた.さらに,触媒三つ組残基のAspを含むループ領域については,対応する電子雲が観測されず,決まった立体構造をとらずフレキシブルな状態になっていることが示唆された.興味深いことに,構造変化したポケットの内側には余分な電子雲が観測されており,YaoらはこれをGR24のD環由来の分子が触媒三つ組残基のSerとHisを架橋している状態の構造であると同定した.また,YaoらもLC-MS/MS分析により,GR24のD環部分と思われる分子がAtD14の触媒三つ組残基のHisに共有結合していることを明らかにした.これらのことから,Yaoらは加水分解反応の途中でD14とSLのD環由来の分子の間で形成される共有結合中間体(Covalently Linked Intermediate Molecule; CLIM)こそが,D14の構造変化を誘導する活性型のホルモンとして機能するというメカニズムを提唱した(図3図3■CLIMモデル).これらの研究成果は,特にこれまでに捉えられていなかったSL信号を伝達している状態にあると思われるD14の構造変化を観察しており,本分野におけるブレイクスルーの一つであった.また,受容体が自ら活性型のリガンドを生成するというメカニズムは,少なくとも植物ホルモンの信号伝達において例がなく,筆者らはD14を「non-canonical」な受容体であると提唱した.

図3■CLIMモデル

イネのSLシグナル伝達因子を用いて示した.

一方で,Yaoらが獲得したAtD14–D3–ASK1複合体構造の解像度は3.3Åであり,ポケット内の低分子化合物を構造決定するには十分に高い解像度とは言えない.2018年にはCarlssonらがAtD14–D3–ASK1複合体の立体構造データを再解析し,AtD14の活性ポケットの内側の電子雲は提唱されたCLIMを当てはめるには小さく,タンパク質結晶化試薬に含まれるヨウ素イオンのほうがこの電子雲によくフィットすることを報告している(13)13) G. H. Carlsson, D. Hasse, F. Cardinale, C. Prandi & I. Andersson: J. Exp. Bot., 69, 2345 (2018)..また,D14とSLの加水分解酵素反応は非常に遅く,1分子の酵素が1分子の基質を加水分解するために要する時間は数分程度と推定されている.しかし,植物にSLを与えた際には,5から20分以内にD53が分解されることが報告されている(10)10) F. Zhou, Q. Lin, L. Zhu, Y. Ren, K. Zhou, N. Shabek, F. Wu, H. Mao, W. Dong, L. Gan et al.: Nature, 504, 406 (2013)..したがって,SL信号伝達にD14によるSLの加水分解が必要である場合,植物内における迅速なSL応答性と矛盾するようにも思われた.以上のことから,本モデルに関して,特にD14の構造変化を誘導する活性型のホルモン分子の構造については,さらなる検証が必要であると考えられた.

加水分解酵素機能非依存的信号伝達モデル

Hamiauxらの論文が発表された後,D14とSL関連化合物の相互作用解析にDSF法が広く用いられるようになった.本手法を用いて,さまざまなSL関連化合物とD14との相互作用が調べられた結果,生物活性を有する分子だけがD14の熱変性温度を低下させることが明らかになった(14)14) Y. Seto, R. Yasui, H. Kameoka, M. Tamiru, M. Cao, R. Terauchi, A. Sakurada, R. Hirano, T. Kisugi, A. Hanada et al.: Nat. Commun., 10, 191 (2019)..この結果は,D14の熱安定性が低下することとD14が受容体として信号伝達可能な状態に変化することには強い相関があることを示唆している.この関係に基づいて考えると,D14とSLの加水分解酵素反応において,どのタイミングでD14の熱安定性の低下を伴う構造変化が起きているのかを明らかにすることができれば,D14をSL信号伝達可能な状態に誘導している活性型ホルモン構造を特定することができるはずである.そこで,GR24添加時のAtD14の熱変性温度の低下と,AtD14によるGR24の加水分解酵素反応の進行を経時的かつ同時にモニターする実験が行われた.その結果,AtD14の熱変性温度の低下は反応開始時が最大であり,その後,GR24の加水分解に伴ってAtD14の熱変性温度の低下が見られなくなっていく様子が観察された.このとき,ABC環部分とD環部分はおおよそ同じ速度で生成されており,D環部分の生成が特に遅れることはなかった.これらの結果は,AtD14の熱変性温度を低下させている活性型ホルモン構造はGR24分子そのものであることを示唆している.同時に,D環部分が触媒三つ組残基のHisに結合するとしても,この状態は長くは続かずに生成物として速やかにリリースされることが強く示唆された.また,本試験ではAtD14の6等量のGR24を添加していたが,最終的にはAtD14によってすべてのGR24が加水分解されており,少なくともAtD14はGR24に対してはシングルターンオーバー酵素として機能しないことも明らかになった.

続いて,AtD14の触媒三つ組残基をそれぞれ別のアミノ酸に置換した点変異導入AtD14タンパク質の機能解析が行われた.その結果,これまでに機能解析の報告例がないAtD14;D218A変異型タンパク質は,他の変異型タンパク質と同じくSL加水分解酵素活性が顕著に低下しているにもかかわらず,SL依存的にatd14変異体の表現型を相補することが明らかになった.同様に,AtD14;S97C変異型タンパク質もSL加水分解酵素活性を失っているものの,部分的にatd14変異体の表現型を相補することが明らかになった.これらの結果は,SL信号伝達にD14のSL加水分解酵素活性は必須ではないことを示しており,やはりD14のSL信号伝達にはSL分子そのものを受容することが重要であると考えられた.一方,上記のとおり,Yaoらの報告したAtD14–D3–ASK1複合体中のAtD14においては,そのポケットサイズの著しい減少が見いだされており,SLそのものがD14の構造変化を引き起こすのではないか,という説と矛盾する.そこで,この立体構造データを再解析したところ,触媒三つ組残基のAspを含むループ領域の構造変化により,従来とは異なる方向にAtD14のポケットが拡張しており,そのサイズはアポ型に存在するポケットと同程度であることが明らかになった.分子ドッキング法によって,このポケットはSL関連分子を収容可能なサイズを有していることも示され,SLそのものがD14の構造変化を誘導できる可能性が支持された.

さらに,イネのd14変異体の枝分かれ過剰な表現型を示す新たなアレルとしてOsD14の233番目のArgがHisに置換したd14-2変異体が見つかっており,これを用いて,D14によるSL加水分解の生理的な役割が検証された.興味深いことに,OsD14, AtD14のd14-2型の変異導入タンパク質は,野生型D14と同等のSL加水分解酵素活性を有していた.したがって,この変異はD14の酵素活性には影響を与えず,SL信号伝達能のみを顕著に低下させると考えられた.そこで,d14-2型OsD14を野生型植物で高発現させた植物の表現型解析が行われた.その結果,作製した組換え植物は枝分かれ過剰な表現型を示すとともに,内生SL量が野生型植物と比較して減少していることがわかった.すなわち,d14-2型OsD14を高発現することにより,内生SLが加水分解されて減少し,その結果,枝分かれが過剰になったと考えられる.以上の結果から,D14のSL加水分解酵素活性はSLを不活性化する役割をもつ可能性が示唆された.

これらのことから,D14のSL信号伝達メカニズムについて,次のようなモデルが提唱された(図4図4■Setoらが提唱したD14のSL信号伝達メカニズム).まず,SL分子そのものがD14の活性ポケットに結合することでD14の触媒三つ組残基のAspを含むループ領域の構造が変化する.このループ領域の構造変化はD14のポケットを拡張させ,SL分子の移動とそれに伴うLid構造の変化を誘導する.この際,触媒三つ組が一時的に形成されなくなることでD14は酵素として不活性になる一方で,その他のSLシグナル伝達因子と複合体を形成し,D53などのリプレッサーの分解を導くことでSL信号が伝達される.その後,Aspを含むループ領域が元に戻ることで触媒三つ組が再形成され,それに伴って酵素機能が回復し,SLが加水分解される.一方で,SL分子の移動を直接的に示すデータや,これらのモデルを支持するような構造的データは得られていない.今後,OsD14–D3–D53複合体などのX線結晶構造解析を行い,D14にSL分子そのものが結合した状態が観察されることが,本モデルの証明には必要であると考えられる.

図4■Setoらが提唱したD14のSL信号伝達メカニズム

D14(左)にSL分子そのものが結合するとD14はSL信号伝達可能な状態になる(中央).(その他のSLシグナル伝達因子と相互作用が可能になる).SL信号伝達後,D14は元の立体構造に戻り,SLを加水分解して不活性化する(右).

上記の論文とほぼ同時期に,ShabekらはD3–ASK1複合体のX線結晶構造解析を行い,F-boxタンパク質であるD3のC末端側のαヘリックス(C-terminal α-helix; CTH)はD3のロイシンリッチリピートと相互作用している状態と,そうではなく自由な状態の2つの立体構造をとりうることを明らかにした(15)15) N. Shabek, F. Ticchiarelli, H. Mao, T. R. Hinds, O. Leyser & N. Zheng: Nature, 563, 652 (2018)..また,CTHはOsD14と相互作用することによってSLの加水分解酵素反応を阻害するが,この反応系にD53を加えるとOsD14の酵素活性が回復することが示された.さらにはCTHとOsD14のSL依存的な相互作用により,D53との複合体形成とプロテアソーム経路による分解が促進されることも示された.また,GR24添加時のOsD14–CTH複合体についてX線結晶構造解析が行われた結果,複合体におけるOsD14はLid構造が開いた状態,すなわちアポ型とほぼ同じ立体構造を有しており,OsD14の活性ポケットにGR24そのものに由来すると推定される電子雲が観察された.これらのことは,D3が異なる2つの立体構造を使い分けることにより,SLの加水分解やリプレッサーであるD53の分解を制御している可能性を示している.このモデルにおいても,D14によるSLの加水分解は信号伝達には必須ではないことが提唱されているものの,信号伝達時にD14の立体構造は大きく変化しない,という点で上記の論文のモデルとは異なっている.

今後の展望

以上のように,植物のSL信号伝達メカニズムについては,異なる複数のモデルが提唱されており,どのモデルが真実であるのかを明らかにするにはさらなる検証が必要である.最近では,Yaoらが提唱したCLIM構造の再解析により,GR24のD環由来の分子がSerとHisを架橋する形ではなくHisだけに結合した構造が,より観察された電子雲にフィットすると報告されている(16)16) M. Burger & J. Chory: Trends Plant Sci., 25, 395 (2020)..この解釈が正しければ,共有結合した中間体が重要な役割を担うという説が支持される.

今後の研究においても,これまで同様に構造生物学的なアプローチが強力なツールとなっていくことが予想される.一方で,タンパク質結晶構造解析を通じて得られる結果は動的なシグナル伝達過程における1枚のスナップショットであるため,結果の解釈には注意が必要である.また,このようなin vitroの解析には,その結果を裏付けるin vivoの結果を組み合わせていくことが重要である.今後,本分野の研究が進展し,議論の余地のない形で植物のSL信号伝達メカニズムが明らかになることを期待したい.紙面の都合上,詳細は割愛するが,D14のパラログにあたるHYPOSENSITIVE TO LIGHT/KARRIKIN INSENSITIVE2(以下,KAI2と表記する)ファミリーに属する幾つかの遺伝子は,根寄生植物Striga hermonthicaにおいては,独自の進化によりSL受容体としての機能を獲得したことも明らかになっている(17~19)17) C. E. Conn, R. Bythell-Douglas, D. Neumann, S. Yoshida, B. Whittington, J. H. Westwood, K. Shirasu, C. S. Bond, K. A. Dyer & D. C. Nelson: Science, 349, 540 (2015).18) S. Toh, D. Holbrook-Smith, P. J. Stogios, O. Onopriyenko, S. Lumba, Y. Tsuchiya, A. Savchenko & P. McCourt: Science, 350, 203 (2015).19) Y. Tsuchiya, M. Yoshimura, Y. Sato, K. Kuwata, S. Toh, D. Holbrook-Smith, H. Zhang, P. McCourt, K. Itami, T. Kinoshita et al.: Science, 349, 864 (2015)..詳しくはコラムに記載しているとおり,非寄生植物においてKAI2は,煙由来の発芽促進物質であるカリキンに加え,構造未知の内生リガンド,すなわち新たな植物ホルモン分子の受容体として機能することも報告されている(20~22)20) M. T. Waters, D. C. Nelson, A. Scaffidi, G. R. Flematti, Y. K. Sun, K. W. Dixon & S. M. Smith: Development, 139, 1285 (2012).21) C. E. Conn & D. C. Nelson: Front Plant Sci., 6, 1219 (2015).22) Y. K. Sun, G. R. Flematti, S. M. Smith & M. T. Waters: Front Plant Sci., 7, 1799 (2016)..KAI2もD14と同様に触媒三つ組残基が保存された触媒活性を保持した受容体であり,内生リガンドの同定はもちろん,D14と同じようにその信号伝達メカニズムに興味がもたれる.

植物ホルモンとしての機能が見いだされて以来,SL分野は飛躍的な進展を遂げたが,受容体研究に限らず激しい競争のために十分な検証を経ずに一部の結果が報告されてきた側面も否定することができない.今後,本分野のさらなる発展のためには,より慎重な姿勢で,残された課題に対して正しい答えを得ることが不可欠である.

Reference

1) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).

2) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008).

3) T. Arite, M. Umehara, S. Ishikawa, A. Hanada, M. Maekawa, S. Yamaguchi & J. Kyozuka: Plant Cell Physiol., 50, 1416 (2009).

4) C. Hamiaux, R. S. Drummond, B. J. Janssen, S. E. Ledger, J. M. Cooney, R. D. Newcomb & K. C. Snowden: Curr. Biol., 22, 2032 (2012).

5) H. Nakamura, Y. L. Xue, T. Miyakawa, F. Hou, H. M. Qin, K. Fukui, X. Shi, E. Ito, S. Ito, S. H. Park et al.: Nat. Commun., 4, 2613 (2013).

6) L. H. Zhao, X. E. Zhou, Z. S. Wu, W. Yi, Y. Xu, S. Li, T. H. Xu, Y. Liu, R. Z. Chen, A. Kovach et al.: Cell Res., 23, 436 (2013).

7) L. H. Zhao, X. E. Zhou, W. Yi, Z. Wu, Y. Liu, Y. Kang, L. Hou, P. W. de Waal, S. Li, Y. Jiang et al.: Cell Res., 25, 1219 (2015).

8) M. Kagiyama, Y. Hirano, T. Mori, S. Y. Kim, J. Kyozuka, Y. Seto, S. Yamaguchi & T. Hakoshima: Genes Cells, 18, 147 (2013).

9) L. Jiang, X. Liu, G. Xiong, H. Liu, F. Chen, L. Wang, X. Meng, G. Liu, H. Yu, Y. Yuan et al.: Nature, 504, 401 (2013).

10) F. Zhou, Q. Lin, L. Zhu, Y. Ren, K. Zhou, N. Shabek, F. Wu, H. Mao, W. Dong, L. Gan et al.: Nature, 504, 406 (2013).

11) A. de Saint Germain, G. Clave, M. A. Badet-Denisot, J. P. Pillot, D. Cornu, J. P. Le Caer, M. Burger, F. Pelissier, P. Retailleau, C. Turnbull et al.: Nat. Chem. Biol., 12, 787 (2016).

12) R. Yao, Z. Ming, L. Yan, S. Li, F. Wang, S. Ma, C. Yu, M. Yang, L. Chen, L. Chen et al.: Nature, 536, 469 (2016).

13) G. H. Carlsson, D. Hasse, F. Cardinale, C. Prandi & I. Andersson: J. Exp. Bot., 69, 2345 (2018).

14) Y. Seto, R. Yasui, H. Kameoka, M. Tamiru, M. Cao, R. Terauchi, A. Sakurada, R. Hirano, T. Kisugi, A. Hanada et al.: Nat. Commun., 10, 191 (2019).

15) N. Shabek, F. Ticchiarelli, H. Mao, T. R. Hinds, O. Leyser & N. Zheng: Nature, 563, 652 (2018).

16) M. Burger & J. Chory: Trends Plant Sci., 25, 395 (2020).

17) C. E. Conn, R. Bythell-Douglas, D. Neumann, S. Yoshida, B. Whittington, J. H. Westwood, K. Shirasu, C. S. Bond, K. A. Dyer & D. C. Nelson: Science, 349, 540 (2015).

18) S. Toh, D. Holbrook-Smith, P. J. Stogios, O. Onopriyenko, S. Lumba, Y. Tsuchiya, A. Savchenko & P. McCourt: Science, 350, 203 (2015).

19) Y. Tsuchiya, M. Yoshimura, Y. Sato, K. Kuwata, S. Toh, D. Holbrook-Smith, H. Zhang, P. McCourt, K. Itami, T. Kinoshita et al.: Science, 349, 864 (2015).

20) M. T. Waters, D. C. Nelson, A. Scaffidi, G. R. Flematti, Y. K. Sun, K. W. Dixon & S. M. Smith: Development, 139, 1285 (2012).

21) C. E. Conn & D. C. Nelson: Front Plant Sci., 6, 1219 (2015).

22) Y. K. Sun, G. R. Flematti, S. M. Smith & M. T. Waters: Front Plant Sci., 7, 1799 (2016).