農芸化学@High School

ハルジオンの抗菌作用病原体に対する防御と活用技術への可能性

齋藤 美弥

東京都立多摩科学技術高等学校(バイオテクノロジー領域)

熊代

東京都立多摩科学技術高等学校(バイオテクノロジー領域)

吉住 真奈

東京都立多摩科学技術高等学校(バイオテクノロジー領域)

Published: 2020-12-01

私たちは,雑草の生命力を調べるためタンポポとハルジオン,万年草の根を無菌培養した.実験としては,無菌培養に失敗してしまいタンポポと万年草はカビが生えてしまった.しかしながらハルジオンだけがカビが生えてない状態であった.この現象から私たちは,ハルジオンには抗菌効果があるのではないかと考えた.そこで大腸菌や黒麹菌,納豆菌を用いて抗菌効果を調べたところ各微生物の生育を阻害していることがわかった.次に,ハルジオンの抗菌効果のメカニズムを解明するためモデル生体膜を用いて実験を行った.その結果,ハルジオンの成分は脂質二重層を傷つけることがわかった.最後にHPLCにて分析し,ハルジオンにはクロロゲン酸が含まれていることがわかった.

イントロダクション

雑草は生命力が強く,草むしりの際も「根から抜かなければ,また生えてくる」と言われる.そこで私たちは,植物の根が何cm残っていると再び生えてくるのか疑問に思った.

はじめに,植物の根の再生能力を調べるため1, 2, 3 cmと長さを変えた試料で実験を開始した.また,土壌で実験を行うと,潅水や温度,湿度などの管理を一定条件にするのは困難であると考えて無菌培養に着目した.実験の試料としてタンポポ,ハルジオン,万年草を使用した.無菌培養を行ったことで私たちは偶然ハルジオンだけが抗菌効果があるのではないかと思わせる結果を得た.

本研究の目的

ハルジオンは観賞用として日本にもち込まれ,現在では帰化植物となっている.また,ハルジオンを観察すると病気になっていたり,虫に喰われていたりしているものが少なかった.そこで私たちは,植物から発散して微生物の活動を抑制するフィトンチッドの可能性や昆虫や微生物から身を守るために生成されるファイトケミカルの可能性などを考慮しながら,ハルジオンの生命力の強さを探るため実験を開始した.

実験方法および結果と考察

1. 抗菌作用の発見(無菌培養)

(1)雑草の生命力の強さについて

【目的】

私たちは,雑草の生命力の強さについて土に残る根の長さが関係しているのではないかと考えた.そこで試料の根を無菌培養することで植物の再生過程を観察することにした.

【試料】

タンポポ(1, 2, 3 cm),ハルジオン(1, 2, 3 cm),万年草(1, 2, 3 cm)

【培地】

MS(Murashige and Skoog)培地

【方法】

試料を水道でよく洗い,さらに中性洗剤で丁寧に洗った後,軽くキッチンペーパーで拭いた.次に,70%エタノールに1分間浸け,滅菌水でエタノールを洗い落とした後,次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度0.6%)に3分間浸けて殺菌を行った.塩素消毒後,3回滅菌水で洗浄した後,MS培地に植えて1週間様子を観察した.

【結果】

タンポポやハルジオン,万年草のすべての試料において成長がみられなかった.また,タンポポおよび万年草の試料はすべて無菌操作に失敗してカビが生えてしまった.しかし,ハルジオンの試料は1, 2, 3 cmのすべての試料において根の周辺にはカビが見られなかった (図1図1■(A)タンポポ,(B)ハルジオン,(C)万年草).

図1■(A)タンポポ,(B)ハルジオン,(C)万年草

【考察】

タンポポと万年草は,コンタミネーションが起きてしまったため無菌培養ができなかった.考えられる理由としては,植物の根は土壌中にあり,空気中より多くの微生物が存在した結果,葉片培養のための殺菌方法では微生物を殺菌しきれずにコンタミネーションが起きやすかったのではないかと思われる.しかし,同じ操作をしたはずのハルジオンだけコンタミネーションが起きなかった.これは,偶然コンタミネーションが起きなかったのか,または抗菌物質があるのか,どちらかの可能性が考えられる.

(2)ハルジオンの抗菌効果

【目的】

タンポポとハルジオン,万年草の根を無菌培養しようとしたところ,タンポポと万年草にはカビが生えたにもかかわらず,ハルジオンだけはコンタミネーションが起きなかった.そこで,ハルジオンの抗菌効果について調べた.

【菌株】

使用菌株は,大腸菌(Escherichia coli),黒麹菌(Aspergillus luchuensis),納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)の3種類を用いた.大腸菌は土壌や腸内など広範囲に分布している単細胞生物で,培地はデソキシコレート寒天培地を用いた.黒麹菌は多細胞生物で,培地はポテトデキストロース寒天培地を用いた.また,納豆菌の実験では,黒麹菌と同じポテトデキストロース寒天培地を用いた.

【方法】

大腸菌を用いた実験では,デソキシコレート寒天培地を溶解し大腸菌を混釈して平板培地を作製した.また,黒麹菌と納豆菌を用いた実験では,ポテトデキストロース寒天培地を滅菌し,平板培地を作製した後,黒麹菌や納豆菌をコンラージ棒で広げた.それぞれの培地の中央にハルジオンの根を刺したり,横に置いたりして37°Cで48 時間培養した.

【結果】

ハルジオンの根の切り口付近の大腸菌や黒麹菌,納豆菌は育成しなかった.

【考察】

ハルジオンの切り口付近には,微生物が生えなかった.このことからハルジオンには抗菌効果があるのではないかと考えられる.また,切り口からワサビに含まれるイソチオシアネートのような揮発性の物質が放出されていたのならば,培地全体の微生物に対して効果的である.しかし,今回は切り口付近しか微生物の育成を抑制する効果がなかった.よって,ハルジオンに含まれている抗菌物質は,揮発性でないと判断した(1)1) 一色賢司,徳岡敬子:食品と微生物,10, 1–6 (1993).

2. 抗菌効果のメカニズム

(1)ハルジオンが及ぼす生体膜への影響

【目的】

ハルジオンに抗菌効果があることがわかった.そこで,ハルジオンの成分は細胞膜に対してどのように影響があるのか調べることにした.

細菌の細胞膜は,リン脂質二重層から構成され多くの分子の透過障壁となったり,細胞への分子の輸送の場所となったりする.しかしながら,実際の生物の細胞膜を利用して実験を行おうとすると膜以外の不純物も多い(2)2) S. V. Albers, J. L. van de Vossenberg, A. J. Driessen & W. N. Konings: Journal and Virtual Library, 5, 813 (2000)..そこで,純粋にリン脂質二重層への影響を調べるためモデル生体膜を利用することにした(3, 4)3) T. Nakayama, K. Ono & K. Hashimoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 62, 1005 (1998).4) K. Kajiya, H. Hojo, M. Suzuki, F. Nanjo, S. Kumazawa & T. Nakayama: J. Agric. Food Chem., 52, 1514 (2004).

【試料】

ハルジオンの根,茎,葉の各部位を中性洗剤で洗い,乾燥させてから1 mmの幅に刻んだ.各部位をPBS(phosphate-buffered saline, pH 7.4)に浸して0.1 g/mLになるようにし,24 時間静置した.ろ紙およびメンブレンフィルター(0.45 µm)を通してろ過したものを試料溶液とした.なお,有機溶媒で抽出しなかった理由として,有機溶媒が試料溶液内に残ってしまうとモデル生体膜を壊してしまうためPBSを使用した.

【方法】

ナス型フラスコにeggPC(卵黄由来ホスファチジルコリン)を入れ,クロロホルムに溶かした状態からエバポレーターと真空デシケーターを用いてクロロホルムを蒸発させると共に内壁に均一に伸ばした.eggPCの濃度が10 mg/mLになるように0.001 mol/Lカルセイン-0.3 mol/Lグルコース溶液をナス型フラスコに加えて超音波洗浄機にかけた.さらに遠沈管に移しカップホーン型超音波発生装置(OUTPUT Control 10, DUTY 40)に15分間かけてSUV(small uni-lamellar vesicle)を作製した.PBSを加えてSUV内部溶液と濃度勾配をつけた後,遠心管に1 mLずつ入れて超遠心分離機(130,000×g, 20分間)をかけることで蛍光剤入りのSUVを沈殿させた.上澄み液を捨てた後,試料溶液を1 mL加えて,再び遠心分離(130,000×g, 20分間)にかけ上澄み液を回収した.カルセインは酸性で蛍光を発するため,回収した上澄み液0.5 mLに対して2.0 mLの0.1 mol/L HCl溶液を加えた後,励起波長494 nm,蛍光波長517 nmの条件で,SUVから漏出したカルセインの蛍光光度を測定した.また,総カルセイン量は,試料溶液を加える前の蛍光剤入りSUVを遠心分離で沈殿させてから回収し,エタノールでSUVを壊すことによってSUV内部に封入したカルセインの蛍光光度を測定した.

【結果】

SUVから漏出したカルセインの割合は,葉>茎≒根の順であった (図2図2■ハルジオン抽出液が及ぼす脂質二重層への影響).

図2■ハルジオン抽出液が及ぼす脂質二重層への影響

【考察】

蛍光剤封入モデル生体膜は,流動性があるため時間と共に内部の蛍光剤が少しずつ漏出する特性がある.カテキン類などでは蛍光剤の漏出を抑える効果があるのに対して,今回の実験試料であるハルジオンの成分は,根,茎,葉ともにモデル生体膜から漏出するカルセインの量が自然の漏出より多かった.このことから,ハルジオンの成分は,脂質二重層を傷つけている働きがあると考えられる(5)5) T. Hashimoto, S. Kumazawa, F. Nanjo, Y. Hara & T. Nakayama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 63, 2252 (1999).

3. 抗菌物質の特定

(1)抗菌ペプチドの可能性

【目的】

抗菌作用がある物質の一つとして抗菌ペプチドがある(6)6) F. Willem: Broekaert, Bruno P. A. Cammue, Miguel F. C. De Bolle, Karin Thevissen, Genoveva W. De Samblanx, Rupert W. Osborn & Dr. K. Nielson, Antimicrobial Peptides from Plants., 16, 297-323 (1997)..ハルジオンに含まれる抗菌物質が抗菌ペプチドである可能性を検討するため,ハルジオンに熱を加えて抗菌効果を調べる実験を行った.

【方法】

ハルジオンの根と茎を180°Cで20分間乾熱滅菌機を用いて熱を加えた後,冷却した.デソキシコレート寒天培地を溶解し大腸菌を混釈して平板培地を作製した.培地の中央に熱を加えたハルジオンの根や茎を刺して37°Cで48 時間培養した.

【結果】

大腸菌の生育に対して抑制効果が見られた.

【考察】

ハルジオンに熱を加えても抗菌効果を失わないことから,抗菌ペプチドの可能性が低くなった.

(2)総ポリフェノール量の測定

【目的】

抗菌作用がある物質に関して,1-(2)ハルジオンの抗菌効果において,植物の切り口付近のみ抗菌効果が現れたため,揮発性物質の可能性が低くなった.また,3-(1)抗菌ペプチドの可能性を調べた実験では,抗菌ペプチドの可能性も低くなった.そこで,抗菌作用がある物質にポリフェノールが関与しているのではないかと考え,フォーリンチオカルト法を用いてハルジオンに含まれる総ポリフェノール量を測定した(7)7) Determination of substances characteristic of green and black tea-Part 1: Content of total polyphenols in tea-Colorimetric method using Folin–Ciocalteu reagent, ISO., 14502-1 (2005).

【方法】

10%(v/v)フェノール試薬希釈液5 mLと試料1 mLを混合して5分間放置した.7.5%(w/v)炭酸ナトリウム溶液4 mLを加えて混合し,60分間放置した.分光光度計(吸光波長765 nm)で測定した.また,基準として没食子酸を用いた.

【結果】

ハルジオンの総ポリフェノール量は,葉>茎>根の順であった (図3図3■ハルジオンに含まれる総ポリフェノール量とHPLCによる分析).

図3■ハルジオンに含まれる総ポリフェノール量とHPLCによる分析

【考察】

ハルジオンには,ポリフェノールが含まれていることが確認できた.さらに,総ポリフェノール量および2-(1)のモデル生体膜を用いた実験では両実験結果とも葉の値が高かった.これらのことからハルジオンは,光合成で重要な葉を病気や昆虫から守る働きがあるのではないかと考えた.

(3)HPLCによる成分分析

【目的】

ハルジオンの抽出液をHPLCにて分析した.

【試料】

ハルジオンを中性洗剤で洗い,乾燥させてから1 mmの幅に刻んだ.花を除く葉,茎,根のすべての部位をPBSに浸して24 時間静置した.ろ紙およびメンブレンフィルター(0.45 µm)を通してろ過したものを試料溶液とした.なお,有機溶媒で抽出しなかった理由として,有機溶媒が試料溶液内に残ってしまうと3-(4)抽出液の抗菌効果の確認で微生物に影響があるためPBSを使用した.

【方法】

HPLC(Column ODS3, Mobile phase Phosphate buffer, Flow velocity 1.5 mL/min, Temperature 40°C, Detector UV 280 nm)にかけ,いくつかの純物質とハルジオンに含まれている成分とを比較検討した.

【比較】

抗菌効果があると言われているポリフェノールと比較するため,お茶やココアに含まれるエピガロカテキンガレートやエピカテキンガレート,コーヒーに含まれるクロロゲン酸やカフェイン酸,カフェイン,フェルラ酸を使用した.

【結果】

ハルジオンをHPLCにかけると多数のピークが検出された.しかしながら,24分ごろを目途にピークが現れなかった.このピークと最も近い溶出時間の物質がクロロゲン酸だったため,クロロゲン酸の溶出時間と再び照らし合わせた結果一致した.また,クロロゲン酸以外に比較した物質については,ハルジオンの抽出液の保持時間と一致するものが見当たらなかったり,保持時間が16分以内であったりしたため判別できなかった.

【考察】

クロロゲン酸と溶出時間が一致したことから,ハルジオンの成分にはクロロゲン酸が含まれている可能性が高くなった.

(4)抽出液の抗菌効果の確認

【目的】

HPLCで23から24分の間に溶出してきた抽出物を回収し,抗菌効果があるか確認した.

【方法】

溶媒にPBSを使用し,HPLCで23から24分の間に漏出してきた抽出物を回収した.次に大腸菌とデソキシコレート寒天培地を混合してシャーレにまき,回収した抽出液を染み込ませた直径8 mmのペーパーディスクをシャーレの中央に置いた.37°Cで48 時間培養した.

【結果】

直径8 mmのペーパーディスクの周りに幅が約4 mmの阻止円を確認することができた.

【考察】

クロロゲン酸と溶出時間が同じであった物質は,抗菌効果を確認することができた.一方,1 mol/Lクロロゲン酸も抗菌効果があり直径8 mmのペーパーディスクのまわりに幅が約5 mmの阻止円を確認した.クロロゲン酸は,微生物の膜を壊すことによって抗菌効果を発揮する特徴がある.今回の実験においては,HPLCでの溶出時間がクロロゲン酸と同じであったことと,モデル生体膜を用いた実験において脂質二重層を壊していたことからクロロゲン酸の可能性が高いと考えられる(8)8) Z. Lou, H. Wang, S. Zhu, C. Ma & Z. Wang: J. Food Sci., 76, M398 (2011).

4. まとめ

(1)ハルジオンには抗菌効果があることを発見した.また,そのメカニズムは脂質二重層を壊す働きがある.

(2)抗菌物質の一つとしてクロロゲン酸が考えられる.

5. 本研究の意義と展望

ハルジオンは,1920年代に観賞用として日本にもち込まれた.しかしながら,1980年代には,除草剤に耐性のある個体が出現し,雑草として関東地方を中心に全国への分布が拡大していった.現在では花屋に置かれることもなく,庭や街路樹の花壇,空き地などさまざまなところに生えている.そこで,ハルジオンの生命力の強さはフィトンチッドやファイトケミカル,抗菌物質の可能性等があるのではないかと考えた(9)9) 多紀保彦監修,財団法人自然環境研究センター編著:“決定版日本の外来生物”,平凡社,2008, pp. 364–365

今回,私たちは実験により,ハルジオンには抗菌効果があることを発見した.この結果は,観賞用から雑草として広がっているハルジオンの存在が,私たちの生活にとって活用できる植物へと価値観を変えることができたのではないかと思う.そして,今後の研究や開発にハルジオンの抗菌性が見直され,活用できる可能性を見いだした研究内容であると考えられる.

Note

本研究は,日本農芸化学会2020年度大会(福岡)における「ジュニア農芸化学会」(発表は新型コロナウイルス感染症対策のため中止)に応募された研究のうち,本誌編集委員会が優れた研究として選定した6題の発表のうちの一つです.

Reference

1) 一色賢司,徳岡敬子:食品と微生物,10, 1–6 (1993).

2) S. V. Albers, J. L. van de Vossenberg, A. J. Driessen & W. N. Konings: Journal and Virtual Library, 5, 813 (2000).

3) T. Nakayama, K. Ono & K. Hashimoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 62, 1005 (1998).

4) K. Kajiya, H. Hojo, M. Suzuki, F. Nanjo, S. Kumazawa & T. Nakayama: J. Agric. Food Chem., 52, 1514 (2004).

5) T. Hashimoto, S. Kumazawa, F. Nanjo, Y. Hara & T. Nakayama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 63, 2252 (1999).

6) F. Willem: Broekaert, Bruno P. A. Cammue, Miguel F. C. De Bolle, Karin Thevissen, Genoveva W. De Samblanx, Rupert W. Osborn & Dr. K. Nielson, Antimicrobial Peptides from Plants., 16, 297-323 (1997).

7) Determination of substances characteristic of green and black tea-Part 1: Content of total polyphenols in tea-Colorimetric method using Folin–Ciocalteu reagent, ISO., 14502-1 (2005).

8) Z. Lou, H. Wang, S. Zhu, C. Ma & Z. Wang: J. Food Sci., 76, M398 (2011).

9) 多紀保彦監修,財団法人自然環境研究センター編著:“決定版日本の外来生物”,平凡社,2008, pp. 364–365