解説

乳酸菌の産生する菌体外多糖の構造と機能性機能性多糖の生合成にかかわる酵素とその働き

Structure-Function Relationship of Exopolysaccharides Produced by Lactic Acid Bacteria: Understanding of Enzymes Catalyzing Synthesis of EPS

Chiaki Matsuzaki

松﨑 千秋

石川県立大学生物資源工学研究所応用微生物学研究室

Published: 2021-01-01

乳酸菌の菌体外多糖は,ヒトへのさまざまな機能性が報告されており,機能性食品や医薬・創薬への応用が期待されている.しかしながらこれら菌体外多糖の構造や物性,そして機能性は菌株レベルで異なっており,機能性の発現に重要となる構造的因子に関する知見は,現状,限られている.本稿では,菌体外多糖の構造や機能性に大きな影響を与えている,多糖を生合成する酵素について,近年明らかになったその作用機序および機能性に与える影響などを解説する.

Key words: 乳酸菌; 菌体外多糖; 機能性多糖; ホモ多糖体; ヘテロ多糖体

はじめに

微生物が菌体の外に産生する菌体外多糖(exopolysaccharides; EPS)は,微生物が自らを外的ストレスから保護するため,あるいは宿主などに接着するための因子として分泌されると考えられている多糖体である.EPSにはSphingomonas elodeaが産生するジェランガム,Xanthomonas campestrisのキサンタンガム,Agrobacterium属菌のカードラン,Leuconostoc属菌のデキストランなど,食品や医薬品産業に利用されているものが多い.EPSを産生する微生物の中でも乳酸菌は,発酵乳・漬物・アルコール飲料などの発酵食品の製造に用いられている長い食経験があるため,わが国では安全な食品素材として認識されており,アメリカ食品医薬品局(FDA)においてもGRAS(generally recognized as safe)として,また欧州食品安全機関(EFSA)においても安全な菌種として安全性適格推定(Qualified Presumption of Safety; QPS)リストに多くの菌種が挙げられている(1)1) European Food Safety Authority (EFSA): EFSA J., 11, 3449 (2013)..このような安全性の担保から,乳酸菌が分泌するEPSは食品添加物としてのニーズが高く(2)2) M. I. Torino, G. Font de Valdez & F. Mozzi: Front. Microbiol., 6, 834 (2015).,さらにヒトへのさまざまな有用な機能性(コレステロール値低下作用,抗腫瘍作用,抗酸化活性,免疫賦活作用,プレバイオティクス作用など)を有していることから,近年,非常に注目されている(3, 4)3) E. Zannini, D. M. Waters, A. Coffey & E. K. Arendt: Appl. Microbiol. Biotechnol., 100, 1121 (2016).4) Y. R. Saadat, A. Y. Khosroushahi & B. P. Gargari: Carbohydr. Polym., 217, 79 (2019)..しかしながら,EPSの有用な特性は,産生する菌株の違いのみならず,その培養培地の組成の変化によっても違いが生じ,これら特性の異なるEPSの間において糖の組成,電荷,糖の結合様式,分子量に相違がみとめられることから,EPSの構造と機能の関係性の解明が重要な課題となっている(5~7)5) F. Mozzi, F. Vaningelgem, E. M. Hébert, R. Van der Meulen & M. R. F. Moreno: Appl. Environ. Microbiol., 72, 4431 (2006).6) Y. Zhou, Y. Cui & X. Qu: Carbohydr. Polym., 207, 317 (2019).7) S. A. van Hijum, S. Kralj, L. K. Ozimek, L. Dijkhuizen & I. G. van Geel-Schutten: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 70, 157 (2006)..これまでEPSの生合成機構は未解明な部分が多く,そのことが構造と機能の関係性への理解を妨げてきたが,近年のEPS生合成に関する研究の深化により,分子レベルでの関係性の解明が可能となってきている.本稿では乳酸菌が産生するEPSの生合成機構と構造との関係性,およびその機能性に関する最近の知見を解説したい.

EPSを産生する乳酸菌として,Lactobacillus属,Lactococcus属,Leuconostoc属,Pediococcus属,Streptococcus属,Weissella属,Enterococcus属,Oenococcus属などに属する菌種が報告されているが,先に述べたようにこれら乳酸菌の産生するEPSの化学構造は非常に変化に富んでいる.物性・存在様式など,さまざまな基準からの分類が可能であるが,ポリマーを構成している糖の組成による分類が一般的である(4, 8)4) Y. R. Saadat, A. Y. Khosroushahi & B. P. Gargari: Carbohydr. Polym., 217, 79 (2019).8) P. M. Ryan, R. P. Ross, G. F. Fitzgerald, N. M. Caplice & C. Stanton: Food Funct., 6, 679 (2015)..すなわち,ポリマーを構成している繰り返し単位およびその生合成機構によってEPSは大きくホモ多糖体(homopolysaccharide)とヘテロ多糖体(heteropolysaccharide)に大別される.

ホモ多糖体

ホモ多糖体は単一の糖により構成された多糖であり,構成糖にはグルコースとフルクトースが挙げられ,分子量は106~109 Daの範囲で報告されている(2, 9)2) M. I. Torino, G. Font de Valdez & F. Mozzi: Front. Microbiol., 6, 834 (2015).9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017)..ホモ多糖体には,α-グルカン(D-グルコースがα-グリコシド結合したポリマー),β-フルクタン(D-フルクトースがβ-グリコシド結合したポリマー),そしてβ-グルカン(D-グルコースがβ-グリコシド結合したポリマー)があり,その生合成反応は単一の酵素によって触媒される(8)8) P. M. Ryan, R. P. Ross, G. F. Fitzgerald, N. M. Caplice & C. Stanton: Food Funct., 6, 679 (2015).図1図1■ホモ多糖体生合成の模式図).α-グルカンとβ-フルクタンはLactobacillus属,Leuconostoc属,Weissella属,Streptococcus属乳酸菌の菌体外に分泌される酵素によって合成されるが,β-グルカンはPediococcus属,Lactobacillus属,Oenococcus属乳酸菌の細胞膜に結合した酵素によって菌体内で合成される.

図1■ホモ多糖体生合成の模式図

a) α-グルカン生合成 b) β-フルクタン生合成 c) β-グルカン生合成GTF: グルコシルトランスフェラーゼ,FTF: フルクトシルトランスフェラーゼ

1. α-グルカン

乳酸菌が産生するホモ多糖体のなかで最も一般的にみられるのがα-グルカンである.α-グルカンは糖質関連酵素データベース(CAZy, http://www.cazy.org)の加水分解酵素ファミリー70(GH70)に属する酵素,グルコシルトランスフェラーゼによって合成される(図1a図1■ホモ多糖体生合成の模式図).本酵素の触媒反応は,基質のアノマー型が生成物でも保持されるアノマー保持型の二重置換機構(Double replacement mechanism)によって行われ,基質のスクロースを構成するグルコース基が,アクセプターであるグルコース鎖の非還元末端に転移付加し糖鎖を伸長させる.その酵素反応の特異性の違いにより,さまざまなタイプのα-グルカンが生成され,これまでに,α-1,6結合タイプ(デキストラン),α-1,3結合タイプ(ムタン),α-1,4/1,6結合タイプ(ロイテラン),α-1,3/1,6交互結合タイプ(アルタナン),α-1,3/1,6混合結合タイプなどが報告されており,さらにそれらの側鎖の割合や鎖長の変化によって,さまざまな物理化学特性をもつα-グルカンが生じる.2010年に最初のGH70酵素の結晶構造がLactobacillus reuteri 180由来の酵素において解析されて以来(10)10) A. Vujičić-Žagar, T. Pijning, S. Kralj, C. A. López, W. Eeuwema, L. Dijkhuizen & B. W. Dijkstra: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 21406 (2010).Leuconostoc属,Streptococcus属の酵素においても構造解析が行われ,生成するα-グルカンの違いに関与する酵素の構造基盤が明らかになってきている(図2図2■GH70酵素のドメイン構造).

図2■GH70酵素のドメイン構造

a) GH70酵素のアミノ酸およびドメイン配列の比較(GTF 180とのアライメントにより予測).分泌シグナルペプチドは灰色(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/で予測),ドメインVは赤,ドメインIVは黄,ドメインBは緑,ドメインAは青,ドメインCは紫で配色.黒三角は触媒残基を,星印はドメインVの糖結合ポケットを示す.b) GH70酵素のドメイン構造と作用機序.立体構造はL. citreum NRRL B-1299由来デキストラン合成酵素DSR-M(PBD:5NGY)より,a)のアミノ酸配列に対応してドメインごとに配色(PyMOLを用いて作製).配色はa)と対応しており,N末端はドメインVから始まりドメインCで折り返してC末端はドメインVに戻る.触媒ドメインであるドメインA(青)は,連結する糖の結合様式に重要である.またグルカン結合ドメインであるドメインV(赤)は複数の糖結合ポケットを持ち,ドメインAから伸長してくる多糖の保持に重要である.

GH70酵素は5つのドメイン(ドメインA, B, C, IV, V)で構成されており,N末端はドメインVより始まりIV→B→Aのあと,ドメインCで折り返したのち再びA→B→IVと重なり,C末端は再びドメインVに戻る(図2図2■GH70酵素のドメイン構造).活性部位はドメインA, B間に位置し,触媒部位を構成する求核残基のアスパラギン酸残基,酸塩基触媒残基のグルタミン酸残基,酵素反応の遷移状態を安定化させるアスパラギン酸残基はGH70酵素において保存されているが(11)11) M. Miao, B. Jiang, Z. Jin & J. N. BeMiller: Compr. Rev. Food Sci. Food Saf., 17, 1238 (2018).,ドナーやアクセプター基質が結合するサブサイト−1, +1, +2のアミノ酸残基は酵素間で異なり,そのためさまざまな糖の結合様式が生じる(12, 13)12) H. Leemhuis, T. Pijning, J. M. Dobruchowska, B. W. Dijkstra & L. Dijkhuizen: Biocatal. Biotransform., 30, 366 (2012).13) Y. Bai, J. Gangoiti, B. W. Dijkstra, L. Dijkhuizen & T. Pijning: Structure, 25, 231 (2017).

デキストランは,α-1,6結合グルコース鎖にα-1,3結合したグルコースがランダムに付加した側鎖構造を有するα-グルカンである.Vujičić-Žagarら(2010)(10)10) A. Vujičić-Žagar, T. Pijning, S. Kralj, C. A. López, W. Eeuwema, L. Dijkhuizen & B. W. Dijkstra: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 21406 (2010).は,Lactobacillus reuteri 180由来デキストラン合成酵素GTF180の部分結晶構造解析とイソマルトース,イソマルトトリオースとのドッキング解析により,ドナー基質の方向にアクセプター基質の6位の水酸基が位置する場合と,3位の水酸基が位置する場合があることを示し,1,3結合側鎖の形成反応における酵素の立体構造基盤を明らかにしている.同種異株の乳酸菌が産生するデキストランにおいて,水への溶解性や免疫増強活性が異なっており(14, 15)14) K. Wangpaiboon, N. Waiyaseesang, P. Panpetch, T. Charoenwongpaiboon, S. A. Nepogodiev, S. Ekgasit, R. A. Field & R. Pichayangkura: Int. J. Biol. Macromol., 152, 473 (2020).15) C. Matsuzaki, K. Matsumoto, T. Katoh, K. Yamamoto & K. Hisa: Biosci. Microb. Food H., 35, 51 (2016).,理由としてα-1,6とα-1,3結合の割合が関与していると考えられている.その結果に基づいて,サブサイト部位の変異導入による機能性の改変も試みられている.

アルタナンはα-1,6結合とα-1,3結合とが交互に繰り返された直鎖状のα-グルカンであり,アルタナンの重要な物理化学特性である微粒子形成や低い粘性は,この交互繰り返し構造に由来する(16, 17)16) K. Wangpaiboon, P. Padungros, S. Nakapong, T. Charoenwongpaiboon, M. Rejzek, R. A. Field & R. Pichyangkura: Sci. Rep., 8, 8340 (2018).17) G. L. Cote: Carbohydr. Polym., 19, 249 (1992)..Molinaら(2019)(18)18) M. Molina, C. Moulis, N. Monties, S. Pizzut-Serin, D. Guieysse, S. Morel, G. Cioci & M. Remaud-Siméon: ACS Catal., 9, 2222 (2019).Leuconostoc citreum NRRL B-1355由来のアルタナン合成酵素の結晶構造解析より,ドメインA, B間に存在する2か所のサブサイト+2(Zone 1とZone 2)の存在が,繰り返し構造の生成に重要であることを見いだした.一方のZone 1にはα-1,3結合のアクセプターが導入され,次のドナーとの結合の方向には6位の水酸基が位置する.対してZone 2にはα-1,6結合のアクセプターが導入され,次のドナー側には3位の水酸基が位置する.このように複雑な繰り返し構造の生成が,酵素の立体構造に制御されていることが明らかとなっている.

GH70酵素のドメインVは触媒活性には関与しないが,糖鎖結合部位を有しており,長い鎖長の糖鎖を合成するのに重要なドメインである.Claverieら(2017)(19)19) M. Claverie, G. Cioci, M. Vuillemin, N. Monties, P. Roblin, G. Lippens, M. Remaud-Simeon & C. Moulis: ACS Catal., 7, 7106 (2017).Leuconostoc citreum NRRL B-1299由来のデキストラン合成酵素DSR-Mを用いて,ドメインVの糖鎖結合部位が欠損した変異酵素が著しく鎖長の低下した多糖を合成することを示し,ドメインVの変異によって多糖の長さを制御できる可能性を明らかにしている.またMolinaら(2019)(18)18) M. Molina, C. Moulis, N. Monties, S. Pizzut-Serin, D. Guieysse, S. Morel, G. Cioci & M. Remaud-Siméon: ACS Catal., 9, 2222 (2019).も,Leuconostoc citreum NRRL B-1355由来のアルタナン合成酵素ASRのドメインV欠損変異酵素を用い,プレバイオティクス効果の高い短鎖のデキストランのみを合成することに成功している.高分子デキストランは製パン業界においてグルテンフリーのパンの食感向上に利用され,他方,低分子デキストランはプレバイオティクス効果が認められている(2, 20)2) M. I. Torino, G. Font de Valdez & F. Mozzi: Front. Microbiol., 6, 834 (2015).20) S. Galle & E. K. Arendt: Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 54, 891 (2014)..変異酵素を用いることにより目的の機能性をもつデキストランの安定生産が期待される.

2. β-フルクタン

乳酸菌が産生するβ-フルクタンにはβ-2,6結合したフルクトース鎖のレバンとβ-2,1結合したフルクトース鎖のイヌリンが存在する.ともに糖質関連酵素データベースの加水分解酵素ファミリー68(GH68)に属する酵素,フルクトシルトランスフェラーゼによって合成される(図1b図1■ホモ多糖体生合成の模式図).本酵素はGH70酵素と類似の触媒作用機構を有し,スクロースを構成するフルクトース基をフルクトース鎖に転移付加する酵素である.フルクトシルトランスフェラーゼの中でもレバンを合成する酵素はレバンスクラーゼ,イヌリンを合成する酵素はイヌロスクラーゼと呼ばれるが,触媒活性中心(求核残基のアスパラギン酸残基,酸塩基触媒残基のグルタミン酸残基,酵素反応の遷移状態を安定化させるアスパラギン酸残基)とアクセプター結合部位である+1, +2サブサイトの立体構造は共通して保存されており(21, 22)21) G. Meng & K. Fütterer: Nat. Struct. Mol. Biol., 10, 935 (2003).22) T. Pijning, M. A. Anwar, M. Böger, J. M. Dobruchowska, H. Leemhuis, S. Kralj, L. Dijkhuizen & B. W. Dijkstra: J. Mol. Biol., 412, 80 (2011).,糖鎖結合様式(β-2,6またはβ-2,1結合)を決定するアミノ酸残基は,活性中心から離れた部位に存在する可能性が指摘されている(22)22) T. Pijning, M. A. Anwar, M. Böger, J. M. Dobruchowska, H. Leemhuis, S. Kralj, L. Dijkhuizen & B. W. Dijkstra: J. Mol. Biol., 412, 80 (2011).

Strubeら(2011)(23)23) C. P. Strube, A. Homann, M. Gamer, D. Jahn, J. Seibel & D. W. Heinz: J. Biol. Chem., 286, 17593 (2011).Bacillus megaterium由来レバンスクラーゼにおいて,Charoenwongpaiboon(2019)(24)24) T. Charoenwongpaiboon, T. Sitthiyotha, P. P. N. Ayutthaya, K. Wangpaiboon, S. Chunsrivirot, M. H. Prousoontorn & R. Pichyangkura: Carbohydr. Polym., 209, 111 (2019).らはLactobacillus reiteri由来イヌロスクラーゼにおいて,生成するフルクタンが結合する連続したアミノ酸残基の存在を見いだし(サブサイト+3~+6),これら結合部位の立体構造的な要素がフルクタンの鎖長決定に寄与していることを明らかにしている.フルクタンはレバン,イヌリンともにプレバイオティクス効果を有するが,その効果は鎖長によって異なるため,鎖長の制御は効果的なプレバイオティクス生産のために重要である.Biedrzyckaら(2004)(25)25) E. Biedrzycka & M. Bielecka: Trends Food Sci. Technol., 15, 170 (2004).は長鎖イヌリンよりも重合度2~8のイヌリン様オリゴ糖がBifidobacterium longumおよびBifidobacterium animalisに対する増殖作用が高いことを示し,他方van de Wieleら(2007)(26)26) T. van De Wiele, N. Boon, S. Possemiers, H. Jacobs & W. Verstraete: J. Appl. Microbiol., 102, 452 (2007).は,ヒト腸管モデルを用いて,重合度3~60のイヌリンが,重合度2~20のイヌリン様オリゴ糖よりも,生体調節機能を有する短鎖脂肪酸であるプロピオン酸・酪酸の腸内細菌による誘導生産能が高いことを報告している.

3. β-グルカン

β-グルカンを産生する乳酸菌は,Pediococcus parvulus, Pediococcus damnosus, Pediococcus claussenii, Lactobacillus suebicus, Lactobacillus brevis, Lactobacillus diolivorans, Oenococcus oeniにおいて報告されており,いずれもアルコール飲料から単離されている.β-グルカンの生合成機構は,他のホモ多糖体とは異なっている.β-グルカンは,糖ヌクレオチドであるUDP-グルコースを糖供与体基質として膜結合型グルコシルトランスフェラーゼ(糖質関連酵素データベースの糖転移酵素ファミリー2に属する酵素)によって細胞内で合成されたのち,細胞外へ分泌される(図1c図1■ホモ多糖体生合成の模式図).しかしながら細胞外への排出機構については充分に明らかにされていない(27, 28)27) T. Karnezis, M. McIntosh, A. Z. Wardak, V. A. Stanisich & B. A. Stone: Trends Glycosci. Glyc., 12, 211 (2000).28) M. L. Werning, S. Notararigo, M. Nácher, P. Fernández de Palencia, R. Aznar & P. López: Food Additives, 83 (2012)..これらの乳酸菌はいずれも,β-1,3-結合グルコース主鎖にβ-1,2結合グルコース側鎖を有するβ-グルカンを産生する(28~32)28) M. L. Werning, S. Notararigo, M. Nácher, P. Fernández de Palencia, R. Aznar & P. López: Food Additives, 83 (2012).29) R. M. Llauberes, B. Richard, A. Lonvaud, D. Dubourdieu & B. Fournet: Carbohydr. Res., 203, 103 (1990).30) M. T. Dueñas-Chasco, M. A. Rodríguez-Carvajal, P. T. Mateo, G. Franco-Rodríguez, J. Espartero, A. Irastorza-Iribas & A. M. Gil-Serrano: Carbohydr. Res., 303, 453 (1997).31) I. Ibarburu, M. E. Soria-Díaz, M. A. Rodríguez-Carvajal, S. E. Velasco, P. Tejero-Mateo, A. M. Gil-Serrano, A. Irastorza & M. T. Dueñas: J. Appl. Microbiol., 103, 477 (2007).32) M. E. Fraunhofer, A. J. Geissler, D. Wefers, M. Bunzel, F. Jakob & R. F. Vogel: Int. J. Biol. Macromol., 107(Pt A), 874 (2018)..キノコや酵母の細胞壁成分である高分子β-グルカン(直鎖状β-1,3-グルコース鎖またはβ-1,6の分枝を含むβ-1,3-グルコース鎖)は,腸管上皮細胞に発現している自然免疫受容体デクチン1(Dectin-1)のアゴニストとして免疫シグナルを活性化するのに対し(33, 34)33) G. D. Brown, P. R. Taylor, D. M. Reid, J. A. Willment, D. L. Williams, L. Martinez-Pomares, S. Y. C. Wong & S. Gordon: J. Exp. Med., 196, 407 (2002).34) S. Cohen-Kedar, L. Baram, H. Elad, E. Brazowski, H. Guzner-Gur & I. Dotan: Eur. J. Immunol., 44, 3729 (2014).,海藻由来の低分子β-グルカンはデクチン1のアンタゴニストとして免疫を抑制することが知られている(35)35) C. Tang, T. Kamiya, Y. Liu, M. Kadoki, S. Kakuta, K. Oshima, M. Hattori, K. Takeshita, T. Kanai, S. Saijo et al.: Cell Host Microbe, 18, 183 (2015)..乳酸菌の産生するβ-グルカンにおいても,自然免疫受容体を介した機能性の発現が期待されている(36)36) G. Garai-Ibabe, M. T. Dueñas, A. Irastorza, E. Sierra-Filardi, M. L. Werning, P. López, L. Corbí & P. F. de Palencia: Bioresour. Technol., 101, 9254 (2010).

ヘテロ多糖体

ヘテロ多糖体は2種類以上の糖を構成成分とし,3~10糖からなる繰り返し単位が重合して作られる多糖であり,分子量は104~106 Daである(2, 9)2) M. I. Torino, G. Font de Valdez & F. Mozzi: Front. Microbiol., 6, 834 (2015).9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017)..主にグルコースやガラクトースが構成糖として存在するが,ほかにラムノース,N-アセチルグルコサミン,N-アセチルガラクトサミン,フコース,リボース,マンノース,N-アセチルマンノサミン,グルクロン酸などを含むヘテロ多糖体も報告されている(6, 9)6) Y. Zhou, Y. Cui & X. Qu: Carbohydr. Polym., 207, 317 (2019).9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017)..単一の酵素によって生合成されるホモ多糖体と比べ,ヘテロ多糖体の生合成機構は非常に複雑で,その解明の遅れは,多くの研究者の憂えるところである(9)9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017)..肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeにおいては,90に及ぶセロタイプ(serotype)のヘテロ多糖体生合成にかかわるオペロンを比較解析した結果より,細胞膜の内側で合成されたオリゴ糖が膜の外側へと反転する,Wzx(フリッパーゼ)/Wzy(ポリメラーゼ)依存型のEPS生合成機構が提唱されている(6, 9, 37, 38)6) Y. Zhou, Y. Cui & X. Qu: Carbohydr. Polym., 207, 317 (2019).9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017).37) S. D. Bentley, D. M. Aanensen, A. Mavroidi, D. Saunders, E. Rabbinowitsch, M. Collins, K. Donohoe, D. Harris, L. Murphy, M. A. Quail et al.: PLoS Genet., 2, e31 (2006).38) J. Nourikyan, M. Kjos, C. Mercy, C. Cluzel, C. Morlot, M. F. Noirot-Gros, S. Guiral, J. P. Lavergne, J. W. Veening & C. Grangeasse: PLoS Genet., 11, e1005518 (2015)..乳酸菌のヘテロ多糖体の生合成機構についてもこのStreptococcus pneumoniaeやグラム陰性細菌のEPS生合成遺伝子クラスターと類似した遺伝子クラスターを有していることから,現在,図3a図3■ヘテロ多糖体生合成の模式図のようなヘテロ多糖体の生合成機構がLactococcus属,Lactobacillus属,Streptococcus属に存在すると考えられている(6, 9, 39)6) Y. Zhou, Y. Cui & X. Qu: Carbohydr. Polym., 207, 317 (2019).9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017).39) Y. Wei, F. Li, L. Li, L. Huang & Q. Li: Front. Microbiol., 10, 2898 (2019)..その遺伝子クラスターにはEPS生合成のために重要な5つの構成要素,1)糖ヌクレオチド合成酵素,2)グリコシルトランスフェラーゼ,3)アッセンブリータンパク質,4)リン酸化制御システム,5)糖鎖修飾酵素が含まれている.

図3■ヘテロ多糖体生合成の模式図

a) Wzx/Wzy依存的EPS生合成機構が提唱されている6, 9, 37, 38)6) Y. Zhou, Y. Cui & X. Qu: Carbohydr. Polym., 207, 317 (2019).9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017).37) S. D. Bentley, D. M. Aanensen, A. Mavroidi, D. Saunders, E. Rabbinowitsch, M. Collins, K. Donohoe, D. Harris, L. Murphy, M. A. Quail et al.: PLoS Genet., 2, e31 (2006).38) J. Nourikyan, M. Kjos, C. Mercy, C. Cluzel, C. Morlot, M. F. Noirot-Gros, S. Guiral, J. P. Lavergne, J. W. Veening & C. Grangeasse: PLoS Genet., 11, e1005518 (2015)..b)ヘテロ多糖体のEPS遺伝子クラスターおよび産生EPSの繰り返し単位.遺伝子配列の模式図はStreptococcus pneumoniae D39 [NC_008533], Streptococcus thermophilus Sfi6 [U40830.1], Lactococcus lactis cremoris NIZO B40[AF036485.2]より,In silico Molecular Cloning(インシリコバイオロジー(株))を用いて作製.

1. 糖ヌクレオチドの合成酵素

ヘテロ多糖体は,UDP-グルコース,UDP-ガラクトース,dTDP-ラムノースなどの糖ヌクレオチドを糖供与体基質とする糖転移酵素によって合成される.糖ヌクレオチドを合成する酵素の遺伝子はEPS合成遺伝子クラスターに含まれている場合もあるが(図3b図3■ヘテロ多糖体生合成の模式図),糖ヌクレオチドの多くは細胞内のさまざまな生合成系における糖供与体として合成されており,これまでに報告されている11種類の構成糖のうち,少なくとも6種類の糖(ガラクトース,グルコース,ラムノース,N-アセチルグルコサミン,マンノース,リボース)は,細胞内の他の代謝系から供給された糖ヌクレオチドに由来していると考えられる(9)9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017)..そのため,ヘテロ多糖体の生合成は細胞内における糖およびエネルギー代謝系の影響を受けて,さらにEPSの生合成をコントロールする制御因子も存在する(9)9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017)..よって培地中の炭素源の違いによって生じる細胞内の代謝の変化は,EPSの生産量のみならず構成糖の組成(40, 41)40) J. C. M. C. Cerning, C. M. G. C. Renard, J. F. Thibault, C. Bouillanne, M. Landon, M. Desmazeaud & L. Topisirovic: Appl. Environ. Microbiol., 60, 3914 (1994).41) M. Polak-Berecka, A. Wasko, D. Szwajgier & A. Choma: Pol. J. Microbiol., 62, 181 (2013).や分子量(42~44)42) G. J. Grobben, W. H. M. van Casteren, H. A. Schols, A. Oosterveld, G. Sala, M. R. Smith, J. Sikkema & J. A. M. de Bont: Appl. Microbiol. Biotechnol., 48, 516 (1997).43) K. Fukuda, T. Shi, K. Nagami, F. Leo, T. Nakamura, K. Yasuda, A. Senda, H. Motoshima & T. Urashima: Carbohydr. Polym., 79, 1040 (2010).44) D. Li, J. Li, F. Zhao, G. Wang, Q. Qin & Y. Hao: Food Chem., 197(Pt A), 367 (2016).にも影響を与える.Lactobacillus casei CG11の産生するEPSは主にグルコース,ガラクトース,ラムノースを構成糖とするが,グルコースを炭素源とした場合と比較してラクトースを炭素源として菌を培養すると,収量は少ないがガラクトースの構成比が高いEPSが産生される(40)40) J. C. M. C. Cerning, C. M. G. C. Renard, J. F. Thibault, C. Bouillanne, M. Landon, M. Desmazeaud & L. Topisirovic: Appl. Environ. Microbiol., 60, 3914 (1994).Lactobacillus rhamnosus E/Nはラムノース・マンノース・グルコース・ガラクトースを構成糖とするEPSを産生するが,炭素源をガラクトースからグルコースやラクトース,スクロース,マルトースなどに変えることによって構成糖の割合は変化し,またその抗酸化活性も変化する(41)41) M. Polak-Berecka, A. Wasko, D. Szwajgier & A. Choma: Pol. J. Microbiol., 62, 181 (2013)..一方,Lactobacillus fermentum TDS030603の産生するガラクトースとグルコースを構成糖とするEPSにおいては,炭素源がガラクトース,ラクトース,グルコース,スクロースのいずれであっても糖組成に変化はなく,分子量とその粘性に変化が認められる(43)43) K. Fukuda, T. Shi, K. Nagami, F. Leo, T. Nakamura, K. Yasuda, A. Senda, H. Motoshima & T. Urashima: Carbohydr. Polym., 79, 1040 (2010).

2. グリコシルトランスフェラーゼ(糖転移酵素)

EPSの生合成は初めに,さまざまなグリコシルトランスフェラーゼによって糖供与体である糖ヌクレオチドから糖が順々に結合し,糖の繰り返し単位が合成される(図3a図3■ヘテロ多糖体生合成の模式図).この反応は細胞膜成分であるウンデカプレニルリン酸に,最初の糖ヌクレオチドの糖残基が1分子付加することから始まる.この反応を担う酵素はプライミング酵素と呼ばれ,糖ヌクレオチドの構成成分であるヘキソース1リン酸とウンデカプレニルリン酸との間のリン酸無水結合の形成反応を触媒する酵素である.本酵素はEPSの繰り返し単位を決定する最初の反応を担い(45~47)45) F. Stingele, J. W. Newell & J. R. Neeser: J. Bacteriol., 181, 6354 (1999).46) L. Pelosi, M. Boumedienne, N. Saksouk, J. Geiselmann & R. A. Geremia: Biochem. Biophys. Res. Commun., 327, 857 (2005).47) M. Dimopoulou, O. Claisse, L. Dutilh, C. Miot-Sertier, P. Ballestra, P. M. Lucas & M. Dols-Lafargue: Mol. Biotechnol., 59, 323 (2017).,その後,この単糖が1残基付加したウンデカプレニルリン酸に対して,順次,さまざまなグリコシルトランスフェラーゼがさまざまな糖ヌクレオチドを糖供与体として作用し,糖の繰り返し単位が合成される.Streptococcus thermophilus Sfi6のEPS合成遺伝子クラスターにおけるプライミング酵素はガラクトース1リン酸トランスフェラーゼ(galactosyl-1-P transferase)であり,その後,ガラクトシルトランスフェラーゼ(galactosyltransferase),α-1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(α-1,3-N-acetylgalactosaminyltransferase),β-1,3-グルコシルトランスフェラーゼ(β-1,3-glucosyltransferase)などのグリコシルトランスフェラーゼが作用する.そして合成される糖の繰り返し単位は,→3)-β-D-Galp-(1→3)-[α-D-Galp-(1→6)]-β-D-Glcp-(1→3)-α-D-GalpNAc-(1→となる(6, 9, 45, 48, 49)6) Y. Zhou, Y. Cui & X. Qu: Carbohydr. Polym., 207, 317 (2019).9) A. A. Zeidan, V. K. Poulsen, T. Janzen, P. Buldo, P. M. Derkx, G. Øregaard & A. R. Neves: FEMS Microbiol. Rev., 41(Supp_1), S168 (2017).45) F. Stingele, J. W. Newell & J. R. Neeser: J. Bacteriol., 181, 6354 (1999).48) F. Stingele, J. R. Neeser & B. Mollet: J. Bacteriol., 178, 1680 (1996).49) F. Stingele, S. J. Vincent, E. J. Faber, J. W. Newell, J. P. Kamerling & J. R. Neeser: Mol. Microbiol., 32, 1287 (1999).図3b図3■ヘテロ多糖体生合成の模式図).一方,繰り返し単位が→4)-β-D-Glcp-(1→4)[α-L-Rhap-(1→2)][α-D-Galp-1-PO4-3]-β-D-Galp-(1→4)-β-D-Glcp-(1→であるEPSを産生するLactococcus lactis subsp. cremoris NIZO B40においては,プライミング酵素のグルコース1リン酸トランスフェラーゼ(glucosyl-1-P transferase)と,グルコシルトランスフェラーゼ(glucosyltransferase),ガラクトシルトランスフェラーゼ(galactosyltransferase)の活性が確認されている(50~52)50) R. van Kranenburg, J. D. Marugg, I. I. van Swam, N. J. Willem & W. M. de Vos: Mol. Microbiol., 24, 387 (1997).51) R. van Kranenburg, I. I. van Swam, J. D. Marugg, M. Kleerebezem & W. M. de Vos: J. Bacteriol., 181, 338 (1999).52) R. van Kranenburg, H. R. Vos, I. I. van Swam, M. Kleerebezem & W. M. de Vos: J. Bacteriol., 181, 6347 (1999).図3b図3■ヘテロ多糖体生合成の模式図).ヘテロ多糖体の生合成機構が存在していても内在する糖転移酵素または供給される糖ヌクレオチドの関与により,ガラクトースのみを構成糖とするホモ多糖体も生成されることがLactobacillus delbrueckiiLactobacillus lactisで報告されている(5, 52)5) F. Mozzi, F. Vaningelgem, E. M. Hébert, R. Van der Meulen & M. R. F. Moreno: Appl. Environ. Microbiol., 72, 4431 (2006).52) R. van Kranenburg, H. R. Vos, I. I. van Swam, M. Kleerebezem & W. M. de Vos: J. Bacteriol., 181, 6347 (1999)..EPSの構成糖の違いは,その生理活性および物性にも影響を与え(53, 54)53) R. Tuinier, W. H. M. van Casteren, P. J. Looijesteijn, H. A. Schols, A. G. J. Voragen & P. Zoon: Biopolymers, 59, 160 (2001).54) P. Ruas-Madiedo, J. Hugenholtz & P. Zoon: Int. Dairy J., 12, 163 (2002).,先に述べたような抗酸化活性(41)41) M. Polak-Berecka, A. Wasko, D. Szwajgier & A. Choma: Pol. J. Microbiol., 62, 181 (2013).のみならず抗腫瘍活性(55)55) K. Wang, W. Li, X. Rui, X. Chen, M. Jiang & M. Dong: Int. J. Biol. Macromol., 67, 71 (2014).への影響も報告されている.Lactobacillus plantarum 70810は等しい分子量で構成糖(グルコース・マンノース・ガラクトース)の比率の異なる2種類のEPSを産生するが,それらは抗酸化活性と抗腫瘍活性に違いが認められる(55)55) K. Wang, W. Li, X. Rui, X. Chen, M. Jiang & M. Dong: Int. J. Biol. Macromol., 67, 71 (2014)..またLactobacillus helveticus MB2-1においても構成糖(グルコース・マンノース・ガラクトース)の比率の異なる3種類のEPSを産生し,抗ガン活性が大きく異なる(56)56) W. Li, W. Tang, J. Ji, X. Xia, X. Rui, X. Chen, M. Jiang, J. Zhou & M. Dong: Carbohydr. Res., 411, 6 (2015)..物性に関して,Tuinierら(2001)(53)53) R. Tuinier, W. H. M. van Casteren, P. J. Looijesteijn, H. A. Schols, A. G. J. Voragen & P. Zoon: Biopolymers, 59, 160 (2001).は,Lactococcus lactis subsp. cremoris NIZO B39由来の7糖の繰り返し単位からなるヘテロ多糖体において,側鎖末端のガラクトース残基を除去することによって,粘性の重要なファクターである鎖剛直性が低下することを明らかにしている.

3. アッセンブリータンパク質

合成された糖の繰り返し単位はフリッパーゼ(Wzx)によって細胞膜の内から外へ移行され,その後ポリメラーゼ(Wzy)によって各繰り返し単位の重合が行われ,さらに制御因子(EpsA)によってペプチドグリカン層への移行が調節されていると推測されている.これらの遺伝子はアッセンブリー機能を有する遺伝子群として区分されているが(57)57) Y. Kawai, J. Marles-Wright, R. M. Cleverley, R. Emmins, S. Ishikawa, M. Kuwano, N. Heinz, N. K. Bui, C. N. Hoyland, N. Ogasawara et al.: EMBO J., 30, 4931 (2011).,乳酸菌においてはいずれの酵素の機能もいまだ解析されていない.しかしながら,それら遺伝子の欠損はEPS生産に大きな影響を与える.Lactobacillus johnsonii FI9785はホモ多糖体とヘテロ多糖体の両方を産生するが,EpsA欠損によって両方の産生能が失われることから,EpsAは正の制御因子と推測されている(58)58) E. Dertli, M. J. Mayer, I. J. Colquhoun & A. Narbad: Microb. Biotechnol., 9, 496 (2016).

4. リン酸化制御システム

遺伝子クラスターの解析から,ヘテロEPS生合成機構にはリン酸化による制御システムの存在が推測されている.Streptococcus pneumoniaeにおいてこのシステムを司るタンパク質はCpsB, C, Dと呼ばれ,CpsC(transmembrane activation protein)とCpsD(チロシンキナーゼ)によって構築される自己リン酸化複合体はCpsB(ホスホチロシンホスファターゼ)によって制御されている.構成する3つの遺伝子群は乳酸菌の間で保存されているが,その機能解析はまだ一部でしかなされていない(38, 59, 60)38) J. Nourikyan, M. Kjos, C. Mercy, C. Cluzel, C. Morlot, M. F. Noirot-Gros, S. Guiral, J. P. Lavergne, J. W. Veening & C. Grangeasse: PLoS Genet., 11, e1005518 (2015).59) Q. Wu, H. M. Tun, F. C. C. Leung & N. P. Shah: Sci. Rep., 4, 4974 (2014).60) C. Grangeasse: Trends Microbiol., 24, 713 (2016)..Cefaloら(2013)(61)61) A. D. Cefalo, J. R. Broadbent & D. L. Welker: Can. J. Microbiol., 59, 391 (2013).は,Streptococcus thermophilus MR-1C由来Wzh(Streptococcus pneumoniaeのCpsBに対応)の大腸菌発現組み換え酵素においてホスホチロシンホスファターゼ活性を確認している.いくつかの研究結果から,このリン酸化制御システムはEPS生産量およびEPSの鎖長に影響を与えることが示唆されている.Benderら(2003)(62)62) M. H. Bender, R. T. Cartee & J. Yother: J. Bacteriol., 185, 6057 (2003).Streptococcus pneumoniaeのCpsC-D欠損株は,分子量の大きいEPSの産生能を失うことを報告している.また,Liら(2016)(44)44) D. Li, J. Li, F. Zhao, G. Wang, Q. Qin & Y. Hao: Food Chem., 197(Pt A), 367 (2016).も,Streptococcus thermophilus 05-34の産生するEPSにおいて,分子量の増加に伴いEpsC(Streptococcus pneumoniaeのCpsCに対応)遺伝子の発現量が増加していることが示され,EpsCが多糖の重合度を増加させると推察している.EPSの分子量の増加は,粘性の増加に寄与する(54, 63, 64)54) P. Ruas-Madiedo, J. Hugenholtz & P. Zoon: Int. Dairy J., 12, 163 (2002).63) E. J. Faber, P. Zoon, J. P. Kamerling & J. F. Vliegenthart: Carbohydr. Res., 310, 269 (1998).64) M. Higashimura, B. W. Mulder-Bosman, R. Reich, T. Iwasaki & G. W. Robijn: Biopolymers, 54, 143 (2000)..Higashimuraら(2000)(64)64) M. Higashimura, B. W. Mulder-Bosman, R. Reich, T. Iwasaki & G. W. Robijn: Biopolymers, 54, 143 (2000).は,Lactococcus lactis