セミナー室

緑茶のストレス軽減および抗うつ作用

Keiko Unno

海野 けい子

静岡県立大学・茶学総合研究センター

Published: 2021-01-01

はじめに

これまでに緑茶中の主要なアミノ酸であるテアニンに着目し,そのストレス軽減作用について実験動物を用いた研究や臨床研究で明らかにしてきたが,緑茶を摂取した場合にもテアニンと同様のストレス軽減効果が期待できるか検討した.その結果テアニンの抗ストレス作用は,緑茶の主要成分であるカフェインやエピガロカテキンガレート(EGCG)の共存により大きく阻害されることや(1)1) K. Unno, A. Hara, A. Nakagawa, K. Iguchi, M. Ohshio, A. Morita & Y. Nakamura: Phytomedicine, 23, 1365 (2016).,テアニンについで多く含まれるアミノ酸のアルギニンがテアニンの作用に協同的に作用することを見いだした(1)1) K. Unno, A. Hara, A. Nakagawa, K. Iguchi, M. Ohshio, A. Morita & Y. Nakamura: Phytomedicine, 23, 1365 (2016)..そこで緑茶中のカフェインを低下させた「低カフェイン緑茶」を水で淹れることによりEGCGの溶出を低下させた場合や,テアニンを多く含む抹茶や白葉茶についてストレスに対する作用を検討したので紹介する.

緑茶成分間の相互作用

生体にストレスが負荷されると典型的なストレス応答反応として副腎肥大が生ずることを利用して,実験動物を用い緑茶成分のストレス軽減作用ならびに成分間の相互作用を検討した.マウスを用いてオスの縄張り意識を利用したストレスを負荷したとき,テアニンによる副腎肥大抑制作用はカフェインあるいはEGCGの共存で強く抑制されることが明らかとなった(1)1) K. Unno, A. Hara, A. Nakagawa, K. Iguchi, M. Ohshio, A. Morita & Y. Nakamura: Phytomedicine, 23, 1365 (2016)..一方ガレート基をもたないエピガロカテキン(EGC)は,低濃度ではストレスを軽減する作用を示すとともに,テアニンに対しては何ら妨害作用を示さないことが明らかとなった(1)1) K. Unno, A. Hara, A. Nakagawa, K. Iguchi, M. Ohshio, A. Morita & Y. Nakamura: Phytomedicine, 23, 1365 (2016)..またテアニン以外の遊離アミノ酸について検討したところ,グルタミン酸やグルタミンにはストレス軽減効果は認められなかったが,アルギニンは優れたストレス軽減効果を示すことが明らかとなった(1)1) K. Unno, A. Hara, A. Nakagawa, K. Iguchi, M. Ohshio, A. Morita & Y. Nakamura: Phytomedicine, 23, 1365 (2016)..そこでテアニン,カフェイン,EGCG, EGCおよびアルギニンについて共存による影響を検討した.ここで用いたテアニンの投与量(3.2 mg/kg)は,ヒトでは成人で200 mgに相当し,これはサプリメントとしてテアニンが一般的に用いられている用量である.アルギニン量は,緑茶中におけるアルギニンがテアニン量の1/2程度であることに基づき設定した.その結果,テアニンに対して5倍量のカフェインが共存した場合,テアニンによる副腎肥大抑制効果が打ち消されてしまうことが示された(図1図1■テアニンの副腎肥大抑制効果に対するカフェイン,EGCG, EGCおよびアルギニンの作用).カフェインに対し1/10量のアルギニンだけでは十分ではないものの,テアニンとアルギニンの両者の共存においてカフェインの作用が打ち消され副腎肥大が抑制されることが示された(図1図1■テアニンの副腎肥大抑制効果に対するカフェイン,EGCG, EGCおよびアルギニンの作用).EGCGに対しても,テアニンとアルギニンが協同的に作用することが明らかになった.またEGCもテアニンと協同的に作用することが見いだされた(図1図1■テアニンの副腎肥大抑制効果に対するカフェイン,EGCG, EGCおよびアルギニンの作用).

図1■テアニンの副腎肥大抑制効果に対するカフェイン,EGCG, EGCおよびアルギニンの作用

データはmean±SDとして示した.#, p<0.05(テアニン(3.2 mg/kg)と比較),*, p<0.05.(文献1より)

低カフェイン緑茶によるストレス軽減効果

テアニンのストレス軽減作用に対し,カフェインやEGCGが抑制的に作用することから,緑茶中のカフェインおよびEGCGを低下させることにより相対的にテアニンの効果が高まることが期待された.そこで,摘み取った茶葉を熱水で処理することにより茶葉中のカフェインを当初の1/3~1/4に低下させた「低カフェイン緑茶」を作製した(1)1) K. Unno, A. Hara, A. Nakagawa, K. Iguchi, M. Ohshio, A. Morita & Y. Nakamura: Phytomedicine, 23, 1365 (2016)..カフェインやガレート基を有するEGCGは低温では顕著に溶出量が低下するが,アミノ酸類やEGCは水温の影響がほとんど見られないことから(2)2) M. Monobe, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 2501 (2010).,水で淹れる「水出し」とすることによりEGCGの溶出量は低下し,相対的にテアニン,アルギニン,EGCの溶出量は高まった状態となる.このようにして作製し製茶した低カフェイン緑茶を用い,20代,40~50代(中高齢者)および80~90代(高齢者)の参加者に低カフェイン緑茶の「水出し」を飲んでいただき,ストレスや睡眠への影響を観察した(3~5)3) K. Unno, H. Yamada, K. Iguchi, H. Ishida, Y. Iwao, A. Morita & Y. Nakamura: Biol. Pharm. Bull., 40, 902 (2017).4) K. Unno, S. Noda, Y. Kawasaki, H. Yamada, A. Morita, K. Iguchi & Y. Nakamura: Nutrients, 9, 777 (2017).5) K. Unno, S. Noda, Y. Kawasaki, H. Yamada, A. Morita, K. Iguchi & Y. Nakamura: J. Clin. Biochem. Nutr., 61, 210 (2017)..ストレスの程度は唾液中のアミラーゼ活性を測定することにより評価するとともに(唾液アミラーゼモニター,ニプロ(株),大阪),アンケートにより主観的ストレスや疲労感の程度を調べた.

その結果,いずれの年代においても対照群に比べ低カフェイン緑茶を摂取していた群で,唾液アミラーゼ活性により評価したストレスが軽減していることが明らかとなった(図2図2■低カフェイン緑茶によるストレス軽減効果).また20代では主観的なストレスの程度をVAS(Visual Analogue Scale)を用いて数値化して評価した場合に,低カフェイン緑茶摂取群で有意にストレスの程度が低下していた(3)3) K. Unno, H. Yamada, K. Iguchi, H. Ishida, Y. Iwao, A. Morita & Y. Nakamura: Biol. Pharm. Bull., 40, 902 (2017).図3図3■低カフェイン緑茶による主観的ストレスと疲労感への効果).中高齢者では疲労の程度を,厚生労働省が策定した「労働者の疲労蓄積度診断チェックリスト」を用いて評価した結果,月曜の朝の疲労感が低カフェイン緑茶摂取群で有意に低下していた(4)4) K. Unno, S. Noda, Y. Kawasaki, H. Yamada, A. Morita, K. Iguchi & Y. Nakamura: Nutrients, 9, 777 (2017).図3図3■低カフェイン緑茶による主観的ストレスと疲労感への効果).金曜日の夕方の疲労感には違いは認められなかった.月曜の朝に不調を感ずる人は多くいることから,低カフェイン緑茶のこの抗疲労効果は重要であるかもしれない.

図2■低カフェイン緑茶によるストレス軽減効果

低カフェイン緑茶摂取群では,対照群に比べ唾液アミラーゼ活性の増加が抑制されていた.低カフェイン緑茶(3 g)に水500 mLを加えた.対照群として20代では麦茶(水出し),40~50代では一般煎茶(水出し),80~90代では煎茶(湯)とした.(文献3~5のデータを改編)

図3■低カフェイン緑茶による主観的ストレスと疲労感への効果

データはmean±S.E.M.として示した(*, p<0.05).(文献3, 4より)

低カフェイン緑茶の睡眠に対する作用

睡眠時の脳波を,簡易睡眠計(スリープスコープ,スリープウェル(株),大阪)を用いて測定した.睡眠には個人差があったが高齢者では,予定していた時間よりも早く目が醒めてしまう「早朝覚醒」が,低カフェイン緑茶摂取群で抑制されていた(5)5) K. Unno, S. Noda, Y. Kawasaki, H. Yamada, A. Morita, K. Iguchi & Y. Nakamura: J. Clin. Biochem. Nutr., 61, 210 (2017)..中高齢者でも時間は短いが同様の効果が認められた(4)4) K. Unno, S. Noda, Y. Kawasaki, H. Yamada, A. Morita, K. Iguchi & Y. Nakamura: Nutrients, 9, 777 (2017)..また高齢者では,通常の緑茶を摂取していたときに比べ低カフェイン緑茶に切り替えたことによりストレスが軽減していた参加者ほど,睡眠に関する種々のパラメーター(睡眠時間,中途覚醒,睡眠効率,入眠潜時,ノンレム睡眠)に改善が認められた(5)5) K. Unno, S. Noda, Y. Kawasaki, H. Yamada, A. Morita, K. Iguchi & Y. Nakamura: J. Clin. Biochem. Nutr., 61, 210 (2017)..また中高齢者では,低カフェイン緑茶の摂取量が多い参加者ほど,睡眠の質の高さを示すノンレム睡眠の割合が高まっていた(4)4) K. Unno, S. Noda, Y. Kawasaki, H. Yamada, A. Morita, K. Iguchi & Y. Nakamura: Nutrients, 9, 777 (2017).図4図4■低カフェイン緑茶によるノンレム睡眠の増加).この試験はクロスオーバー試験という同一被験者での試験であったことから,統計的精度は高いと考えられる.

図4■低カフェイン緑茶によるノンレム睡眠の増加

睡眠時におけるノンレム睡眠の割合が高いほど,深い眠りとなっていることを意味する.N2およびN3はノンレム睡眠を示す.(文献4より)

抹茶のストレス軽減作用

抹茶は,収穫前の約20日間遮光を行うことにより茶葉中のテアニン量の低下を防いでいることから,煎茶に比べ茶葉に含まれるテアニン量が多くカテキンは少ないが,カフェインを多く含んでいる緑茶である.しかし栽培条件や収穫時期などにより,抹茶に含まれるテアニンやカフェイン,カテキンの量にはかなり違いがあるのも事実である.そこでいくつかの抹茶についてストレスを軽減することができるか,実験動物を用いて評価した.その結果抹茶中に含まれるテアニン(T)とアルギニン(A)の和に対する,カフェイン(C)とEGCG(E)の和のモル比を示す「CE/TA比」が2以下の抹茶では,マウスのストレスによる副腎肥大を抑制することができた.一方,2より大きい抹茶ではストレスによる副腎肥大を抑制することができないことが明らかとなった(6)6) K. Unno, D. Furushima, S. Hamamoto, K. Iguchi, H. Yamada, A. Morita, H. Horie & Y. Nakamura: Nutrients, 10, 1468 (2018)..抹茶中のカフェイン量には抹茶の種類による違いはあまり見られなかったが,テアニンとEGCGの割合は大きく変動していた(6)6) K. Unno, D. Furushima, S. Hamamoto, K. Iguchi, H. Yamada, A. Morita, H. Horie & Y. Nakamura: Nutrients, 10, 1468 (2018)..またアルギニン量はテアニンに比例して変動したが,品種間や茶種間で差が大きい成分であることが報告されている(7)7) 池田奈実子,堀江秀樹,向井俊博,後藤哲久.茶業研究報告,78, 67–75 (1993)..日本国内ならびに海外で販売されている抹茶についてCE/TA比を比較した結果,日本国内で販売されていた76銘柄中32銘柄はCE/TA比が2以下であった(6)6) K. Unno, D. Furushima, S. Hamamoto, K. Iguchi, H. Yamada, A. Morita, H. Horie & Y. Nakamura: Nutrients, 10, 1468 (2018)..一方海外で販売されていた67銘柄ではCE/TA比が2以下のものは1銘柄のみであった(6)6) K. Unno, D. Furushima, S. Hamamoto, K. Iguchi, H. Yamada, A. Morita, H. Horie & Y. Nakamura: Nutrients, 10, 1468 (2018).

実際にヒトにおいてCE/TA比が2以下の抹茶でストレスが軽減されるのか調べた結果,CE/TA比が1.79の抹茶3 gを水に懸濁して摂取した場合ストレス軽減効果が認められたが,CE/TA比が10.79の抹茶ではストレス軽減効果が認められなかった(6)6) K. Unno, D. Furushima, S. Hamamoto, K. Iguchi, H. Yamada, A. Morita, H. Horie & Y. Nakamura: Nutrients, 10, 1468 (2018)..現代の日本においては抹茶を飲む習慣はそれほど一般的ではないことから,次に抹茶を含む菓子類として摂取した場合も同様の効果が認められるか検討した.その結果クッキーとして摂取した場合も,CE/TA比が1.79の抹茶ではストレス軽減効果が認められたが,CE/TA比が10.79の抹茶ではストレス軽減効果が認められなかった(8)8) K. Unno, D. Furushima, S. Hamamoto, K. Iguchi, H. Yamada, A. Morita, M. Pervin & Y. Nakamura: Heliyon, 5, e01653 (2019)..抹茶の臨床研究では,茶席での抹茶1~2杯分を想定して1日に抹茶3~6 gを被験者に摂取していただいた.水に懸濁した場合,多くの被験者の抹茶摂取量はほぼ3 gであったが,クッキーの場合はほぼすべての被験者が抹茶として4.5 g相当を摂取した結果となった.今後はストレス軽減効果を期待して抹茶を摂取する際に,量的にどの程度の抹茶が必要であるのか検討する必要があるが,これまでの研究から少なくとも抹茶のCE/TA比には注意を払う必要があると考えられる.一般に,上級~中級の抹茶はCE/TA比が2以下のものが多かった.

白葉茶の抗うつ作用

茶樹を2週間ほど完全に遮光すると,一般の煎茶に比べてアミノ酸量を6~7倍に増加させることができる.このようにして作製された緑茶を「白葉茶」と言い,旨味の強い緑茶として注目されている(9)9) 森田明雄,一家崇志,國弘 彩,鈴木利和,大石哲也,小林栄人,中村順行.茶業研究報告,111, 63–72 (2011)..白葉茶では一般煎茶に比べテアニンが約5倍,アルギニンが13倍と増加しており(表1表1■白葉茶および煎茶中の成分比較),CE/TA比は1.12であったことからストレス軽減効果が期待された.そこで白葉茶について臨床研究を行なった結果,予想に反し一般煎茶と比べ有意なストレス軽減効果は認められなかった(10)10) K. Unno, D. Furushima, Y. Nomura, H. Yamada, K. Iguchi, K. Taguchi, T. Suzuki, M. Ozeki & Y. Nakamura: Molecules, 25, E3550 (2020)..そこで実験動物を用いてその原因の解明を試みた.

白葉茶では完全な遮光を2週間ほど行うことにより,可溶性タンパク質の分解が起こり,遊離アミノ酸組成が一般煎茶の場合と大きく異なる(10)10) K. Unno, D. Furushima, Y. Nomura, H. Yamada, K. Iguchi, K. Taguchi, T. Suzuki, M. Ozeki & Y. Nakamura: Molecules, 25, E3550 (2020).表1表1■白葉茶および煎茶中の成分比較).テアニンは量的には増加するが,一般煎茶に比べ全アミノ酸に占める割合はむしろ低下し,一方アルギニンやグルタミン,アスパラギン,アスパラギン酸などの割合が増加した(10)10) K. Unno, D. Furushima, Y. Nomura, H. Yamada, K. Iguchi, K. Taguchi, T. Suzuki, M. Ozeki & Y. Nakamura: Molecules, 25, E3550 (2020).

表1■白葉茶および煎茶中の成分比較
緑茶カフェイン (mg/L)カテキン(mg/L)
EGCGEGCECGECGCCG(+)C
白葉茶209.8150.4135.224.641.05.02.83.4
煎茶112.0134.2229.021.046.613.64.62.0
緑茶遊離アミノ酸(mg/L)
TheaArgGlnAsnAspGluSerGABATotal
白葉茶140.2 (0.388)69.9 (0.194)51.7 (0.143)33.8 (0.094)33.5 (0.093)19.3 (0.053)12.6 (0.035)0 (0)361.0 (1.00)
煎茶28.8 (0.538)5.4 (0.101)3.9 (0.073)0.7 (0.013)5.5 (0.103)6.9 (0.129)2.2 (0.041)0 (0)53.5 (1.00)
白葉茶または煎茶3 gに水500 mLを加え,時々撹拌し3時間後の溶出成分を測定した.EGCG, (−)-epigallocatechin gallate; EGC, (−)-epigallocatechin; ECG, (−)-epicatechin gallate; EC, (−)-epicatechin; CG, (−)-catechin gallate;(+)C, (+)-catechin; Thea, theanine; Arg, arginine; Gln, glutamine; Asn, asparagine; Asp, aspartic acid; Glu, glutamic acid; Ser, serine; GABA, γ-aminobutyric acid.(文献10より) 遊離アミノ酸のカッコ内の数値は,全アミノ酸量に対する割合を示す.

そこでテアニンのストレス軽減効果に対するアミノ酸の比率の違いの影響を検討した結果,アスパラギンやアスパラギン酸の増加はテアニンの作用を抑制することが見いだされた(10)10) K. Unno, D. Furushima, Y. Nomura, H. Yamada, K. Iguchi, K. Taguchi, T. Suzuki, M. Ozeki & Y. Nakamura: Molecules, 25, E3550 (2020)..次に白葉茶および一般煎茶に含まれる割合でテアニン,アルギニン,カフェイン,EGCGを溶解した水をマウスに与えた.白葉茶ではCE/TA比が1.12であり,また一般煎茶のCE/TA比は4.47であったが,いずれもストレスを軽減できなかった.そこでカフェインとEGCGを減少してCE/TA=0.42とした場合,有意なストレス軽減効果が認められた(10)10) K. Unno, D. Furushima, Y. Nomura, H. Yamada, K. Iguchi, K. Taguchi, T. Suzuki, M. Ozeki & Y. Nakamura: Molecules, 25, E3550 (2020)..また,カフェインやEGCGに比べるとアスパラギン酸のテアニンに対する影響は小さいことも見いだされた.低カフェイン緑茶などのデータと合わせて考えると,茶溶出液の場合はCE/TA比が0.54以下では効果があるが,0.9以上ではストレス軽減効果が見られないことが示唆された.これらのことから,抹茶の場合と茶溶出液の場合ではストレス軽減効果が期待されるCE/TA比に違いがあることが明らかとなった.茶溶出液と抹茶との作用の違いについては今後さらなる検討が必要である.

ところでうつ病は最も一般的な精神疾患で,ストレスはその重要な危険因子である.これまでに緑茶の摂取がうつ病を予防することが報告されており(11)11) D. O. Rothenberg & L. Zhang: Nutrients, 11, 1361 (2019).,その要因として緑茶中のカフェインやカテキンの関与が示唆されている.白葉茶では一般煎茶に比べてカフェインが多いことから,実験動物を用い白葉茶の抗うつ効果を検討した.その結果白葉茶を摂取していたマウスではうつ様行動が有意に低下することが明らかとなった(10)10) K. Unno, D. Furushima, Y. Nomura, H. Yamada, K. Iguchi, K. Taguchi, T. Suzuki, M. Ozeki & Y. Nakamura: Molecules, 25, E3550 (2020)..一般煎茶にも有意ではないが同様な効果が認められた(10)10) K. Unno, D. Furushima, Y. Nomura, H. Yamada, K. Iguchi, K. Taguchi, T. Suzuki, M. Ozeki & Y. Nakamura: Molecules, 25, E3550 (2020)..これらのことから,白葉茶の場合はストレス軽減効果よりむしろ抗うつ効果が期待されることが明らかとなった.実験動物を用いた検討で,テアニンは神経の興奮/抑制の調節に関与しているNpas4(neuronal PAS domain protein 4)の発現に影響を及ぼすことが見いだされている(12)12) K. Unno, A. Sumiyoshi, T. Konishi, M. Hayashi, K. Taguchi, Y. Muguruma, K. Inoue, K. Iguchi, H. Nonaka, R. Kawashima et al.: Nutrients, 12, 174 (2020)..またカフェインやEGCGは脳内の主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の発現を高める一方,抑制性の神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)に対しては抑制的に作用することが報告されている(13, 14)13) J. John, T. Kodama & J. M. Siegel: Physiology, 307, 704 (2014).14) C. W. Chou, W. J. Huang, L. T. Tien & S. J. Wang: Synapse, 61, 889 (2007)..アルギニンは一酸化窒素(NO)やポリアミンなどの重要な代謝物へと変換されることから,中枢の機能調節に重要な役割を担っていると考えられる(15)15) P. Vemula, Y. Jing, H. Zhang & J. B. Jr: Amino Acids, 51, 513 (2019)..これらが作用したときに総合的に脳がどのような興奮/抑制の状態となるのか,さらなる検討が必要である.

まとめ

ストレス軽減効果に着目して緑茶の脳に対する作用を評価したとき,緑茶溶出液ではテアニンとアルギニンの和に対する,カフェインとEGCGの和のモル比であるCE/TA比は0.5以下であることが望ましいことが明らかとなった.抹茶の場合はCE/TA比が2以下であればストレス軽減効果が認められたことから,抹茶の微細粉末の状態が吸収や代謝に及ぼす影響について今後さらなる検討が必要である.

一方,ストレスが負荷されたときの生体の応答として,興奮状態になる場合もあれば抑うつ状態になる場合もある.これにはストレスの状況や個人による感受性の違いなど複雑な要因が関与するが,いずれにおいても脳内の興奮と抑制のバランスを保つことは,心身の健康を保つうえで非常に重要であると考えられる.緑茶は食品であるが,緑茶に含まれるテアニンやカフェイン,EGCG,アルギニンの組成の違いにより実際にストレスが軽減されたり睡眠に影響が生じたりすることなど,その機能性が明らかとなった.さらに,うつ状態が軽減される可能性も示唆された.したがってストレスを抱えたときには抹茶,夕方には良い睡眠のために低カフェイン緑茶,起床時には気持ちを高める煎茶や白葉茶など,状況に合わせた緑茶の選択が心身の健康増進に寄与するものと考えられる.今後食品成分がもつ機能性について,さらなる解明が進むことが期待される.

Acknowledgments

臨床研究にご協力いただきました被験者の皆様に深く感謝申し上げます.また本シリーズの原稿作成にあたりご助言を賜りました,静岡県立大学茶学総合研究センターセンター長中村順行特任教授に厚く御礼申し上げます.

Reference

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