農芸化学@High School

寒天培地上のバクテリアの様々な対外戦略

秋山 裕紀

洛星中学校高等学校生物部

阿部 奏羽

洛星中学校高等学校生物部

Published: 2021-01-01

同じ環境に生育するバクテリアは,競合,協力,中立,共生などの相互作用をしている.われわれは,貧栄養土壌からのスクリーニングにより,数多くのコロニーが得られたChromobacterium haemolyticumBacillus thuringiensisおよび青紫色を呈するバクテリア(アメジスト菌と命名)の3種類に注目し,それらの相互作用を一つの寒天培地に2種類のバクテリアを接種し培養することにより観察した.C. haemolyticumB. thuringiensisの相互作用は,培地の組成や寒天濃度,および植菌時のコロニー間距離により異なり,前者が後者のコロニーの接近を阻む場合と,前者が後者のコロニーを囲み,内部に侵食する場合の2種類の対応が認められた.また,アメジスト菌とB. thuringiensisを同じ寒天培地上に植菌すると,互いに接する様子が観察され,アメジスト菌とC. haemolyticumを同じ寒天培地上に植菌すると,両者のコロニーが接触する前に,C. haemolyticumのコロニーの縁が青紫色に変化した.このように,バクテリアの組み合せによって異なる相互作用をすることが明らかとなった.

本研究の背景,材料および方法,結果と考察

【はじめに】

バクテリアは同一の生育環境に存在する他種のバクテリアと競合,協力,中立,共生などさまざまな形態の相互作用を示している.われわれはその様相に興味をもち,寒天培地上で観察しようと考えた.その際,もともと生育する菌種の少ない環境に由来するバクテリアであれば,その相互作用の様子が観察しやすいと考え,観察対象の取得を貧栄養の環境から試みた.

滋賀県南部に広がる田上丘陵は,通称「湖南アルプス」と呼ばれる低山で,風化花崗岩の真砂土からなる土壌環境にある.真砂土は貧栄養の土壌であり,実際にこの地を流れる沢の水の導電率を測定したところ23~39 μS/cmと非常に低い値を示した.栄養状態の良い土壌の導電率は高く,一般的な河川の上流で50~100 μS/cmの値を示すことが知られている(1)1) 美しい多摩川フォーラム:多摩川一斉水質調査.http://www.tama-river.jp/main/kannkyou/suishitsucyousa/dendouritsuH25.html.そこでわれわれはバクテリア間の相互作用の観察対象の菌株を得るために,この地を流れる沢の水際の真砂土に生息するバクテリアのスクリーニングを行った.その結果,コロニー数の多かったC. haemolyticumB. thuringiensis,および鮮やかな青紫色のコロニーを形成する未同定のバクテリア(アメジスト菌と命名)の3種類に注目した.これらのうち2種類ずつを同じ寒天培地に接種・培養し,形成されるコロニー同士の相互作用の様子の観察を行った.

【材料と方法】

1. 寒天培地の作製

今回用いた6種類の培地組成を表1表1■用いた培地の組成に記す.

表1■用いた培地の組成
培地番号No. 1No. 2No. 3No. 4No. 5No. 6
ペプトン濃度(%)1.01.01.01.01.01.0
寒天濃度(%)2.02.01.51.51.01.0
グルコース濃度(%)01.001.001.0

表1表1■用いた培地の組成に記載したNo. 1~6の組成の培地を入れたプレートを作製し,バクテリアを接種したプレートを30°Cの恒温器で培養した.

2. バクテリアのスクリーニング

湖南アルプスを流れる沢の水および水際の真砂土をプラスチック遠沈管に採取し,その上澄み50 µLをNo. 1培地を入れたプレートに播種した.得られたコロニーのいくつかを別のNo. 1培地プレートに移して4°Cで保存した.

3. バクテリアの接種

無菌爪楊枝の先に各バクテリアの菌体をつけ,No. 1~6の6種類の寒天培地に植菌した.接種のタイミングやコロニー間の距離についての条件は結果と考察に示した.

【結果と考察】

1. スクリーニングしたバクテリアの寒天培地上におけるコロニーの形状

湖南アルプスを流れる沢の水および水際の真砂土から3種類のバクテリアを取得し,うち2種類はChromobacterium haemolyticumBacillus thuringiensisであることが明らかになった.また鮮やかな青紫色のコロニーを形成する未同定のバクテリアをアメジスト菌と命名した.それぞれの寒天培地上でのコロニー形状を以下に示す.

C. haemolyticum: 橙色のコロニーを形成した.培地による形状の違いは認められなかった.

B. thuringiensis: No. 1, 3, 5の培地上ではレース状の白色コロニーを形成し,コロニーの直径は1日で約1 cm広がった.一方でNo. 2, 4, 6の培地上では,1日で直径が1~2 mm広がる白色コロニーを形成した.

アメジスト菌:鮮やかな青紫のコロニーを形成した.培地による形状の違いは認められなかった.このアメジスト菌は,コロニーの色からChromobacterium violaceumまたはその近縁種である可能性が高いと考えられた(2)2) 中山大樹:“環境調査のための微生物学”,講談社,1975.

2. 異なる接種条件によるバクテリアのコロニー形成の様子

取得した3種類のバクテリアについて,以下の3つの条件で接種を行い,コロニーの様子を観察した.

C. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種: 2種類の菌体を5 および10 mm離れた2つのポイントに接種し,14日間培養した.

<グルコース無添加条件(図1図1■グルコース無添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種および時間差接種試験)>C. haemolyticum(橙色)とB. thuringiensis(白色)のコロニーの様子は,培地の寒天濃度により変化が認められた.寒天濃度2.0%の培地上では,植菌距離10 mmとした場合にB. thuringiensisのコロニーがC. haemolyticumのコロニーとの間に間隙を作って広がった(図1(a)図1■グルコース無添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種および時間差接種試験:忌避対応).一方,寒天濃度1.5%の培地上では,C. haemolyticumB. thuringiensisのコロニーを囲んで侵食した結果,白色のB. thuringiensisのコロニーに混ざりあうように侵食する様子が観察された(図1(b)図1■グルコース無添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種および時間差接種試験,侵食対応).寒天濃度1.0%の培地上では,双方の菌株を植菌した距離によって対応が異なっていた.すなわち両者を5 mm離して植菌した場合は,C. haemolyticumによる侵食対応が認められたが,両者を10 mm離して植菌した場合はB. thuringiensisのコロニーに忌避対応が認められた(図1(c)図1■グルコース無添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種および時間差接種試験).このようないずれかの対応を決定する要因の一つは,C. haemolyticumのコロニーの大きさの違いと考えられ,コロニーの直径が大きい場合はB. thuringiensisによる忌避対応がとられるものと推察された.

図1■グルコース無添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種および時間差接種試験

プレート中のDおよびRはそれぞれC. haemolyticumおよびB. thuringiensisを接種したポイントを示している.(a)No. 1培地に同時接種し,10日間培養した.(b)No. 3培地に同時接種し,7日間培養した.(c)No. 5培地に同時接種し,7日間培養した.(d)No. 1培地に時間差接種した.C. haemolyticumをあらかじめ8日間培養してからB. thuringiensisを5 mm(上)または10 mm(下)離して接種し,さらに7日間培養した.B. thuringiensisを植え付けた時点でのC. haemolyticumコロニーの大きさを黒い実線で示した.

<グルコース添加条件(図2図2■グルコース添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種試験)>寒天濃度2.0%の場合,C. haemolyticumのコロニーと接触したB. thuringiensisのコロニーが僅かに橙色に変色している様子が見られた(図2(a)図2■グルコース添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種試験).寒天濃度1.5および1.0%の培地の場合,橙色のC. haemolyticumのコロニーがB. thuringiensisのコロニーを取り囲み侵食する様子が認められた(図2(b),(c)図2■グルコース添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種試験).寒天濃度2.0%に対する1.5および1.0%の結果の相違は,C. haemolyticumのコロニー成長の速度の違いと推察された.また,植菌した距離の違いによる差は認められなかった.したがって,C. haemolyticumの相手コロニーへの対応を決定する要因として,培地内のグルコースの有無が培地の寒天濃度より優先されるものと考えられた.

図2■グルコース添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種試験

プレート中のDおよびRはそれぞれC. haemolyticumおよびB. thuringiensisを接種したポイントを示す.(a) No. 2培地に同時接種し,10日間培養した.(b)No. 4培地に同時接種し,7日間培養した.(c)No. 6培地に同時接種し,7日間培養した.

C. haemolyticumB. thuringiensisの時間差接種: C. haemolyticumをNo. 1の寒天培地に植菌し,10日後,コロニー径が8 mmになった時点で,その縁から5および10 mm離れたポイントにB. thuringiensisを植菌し,さらに10日間培養した.C. haemolyticumをグルコースを含まない寒天濃度2.0%のNo.1培地に植菌し,コロニー径が8 mmになった時点でコロニーの縁から5および10 mm離してB. thuringiensisを植菌したところ,いずれの距離においてもB. thuringiensisのコロニーはC. haemolyticumコロニーと間隙をおいた状態で広がった(図1(d)図1■グルコース無添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種および時間差接種試験).この結果と同時接種の実験結果(図1(a)図1■グルコース無添加培地におけるC. haemolyticumB. thuringiensisの同時接種および時間差接種試験)と比べると,時間差接種の方がより顕著なコロニー間の距離の開きが認められた.また,B. thuringiensisのコロニーの大きさが同時接種よりも小さい場合にもC. haemolyticumは忌避対応を示したことから,C. haemolyticumの2種類の対応のうちどちらが選ばれるかは,相手コロニーの大きさより培地の寒天濃度の影響の方が大きい可能性が考えられた.

以上のようにコロニーが忌避するかあるいは侵食するかという異なった対応の原因は,C. haemolyticumB. thuringiensisのコロニーの成長速度が寒天濃度やグルコースの有無によって変化すること,また,異なる寒天濃度上で形成されるコロニー表面の物理的性質に違いが生じることにあることが推察される(3)3) 浅水俊平,尾仲宏康:生物工学,96,457(2018)..特に忌避対応については,前者のコロニーから,後者に対する何らかの忌避物質が出ているのかもしれない.こうした物質を介したやり取り(=相互作用)についても明らかにできれば,よりバクテリア同士の対外戦略を理解することにつながる.このように,環境の違いに応じてC. haemolyticumB. thuringiensisが異なる相互作用を示しそれぞれの勢力の均衡を保ってきたものと推察される.

③アメジスト菌とB. thuringiensisあるいはC. haemolyticumの同時接種: No. 1の寒天培地上に両者を10 mm離れた2つのポイントに植菌し,14日後のコロニーの様子を観察した.その結果,B. thuringiensisのコロニーはアメジスト菌のコロニーを避けず,かつアメジスト菌のコロニー内部に侵入せずに広がった(図3(a)図3■アメジスト菌とB. thuringiensisおよびC. haemolyticumの同時接種試験).これは,C. haemolyticumに対する対応と異なった.したがって,もしもアメジスト菌がC. haemolyticumと同属のCviolaceumだとすれば,同じ環境に生息する同属異種のバクテリアに対して異なる相互作用を示すことになり,たいへん興味深い.また同様の条件でアメジスト菌とC. haemolyticumを接種したところ,両者のコロニーが接触せずに,両者のコロニー径が約10 mmになった時点でC. haemolyticumのコロニーの縁が薄い青紫色を呈した(図3(b),(c)図3■アメジスト菌とB. thuringiensisおよびC. haemolyticumの同時接種試験).本結果は,現状では推測の域を出ないが,アメジスト菌がC. haemolyticumを染色した可能性や,C. haemolyticumが本来青紫色素を合成する機構をもっていて,アメジスト菌が遠距離からその機構を活性化した可能性などが考えられる.

図3■アメジスト菌とB. thuringiensisおよびC. haemolyticumの同時接種試験

プレートに記載されているCはアメジスト菌,RはB. thuringiensis,DはC. haemolyticumを示す.(a)No. 1培地にアメジスト菌とB. thuringiensisを同時接種し,10日間培養した.(b)アメジスト菌とC. haemolyticumを(a)と同様の条件で同時接種した.(c)(b)のコロニーの1組を拡大した.C. haemolyticumコロニーの左側の縁が薄い青紫色を呈している.

本研究の意義と展望

自然界では単一のバクテリアのみが生息する環境は非常にまれであり,他種のバクテリアとの相互作用は個々のバクテリアの生存戦略の重要な要素である.バクテリア同士の相互作用の理解は,微生物環境の理解とともに土壌改良などの応用につながることが期待される.今回の実験から異種のバクテリア同士の相互作用の様式が栄養条件のみならず,培地の寒天濃度のような極めて単純な物理的条件でも変わることが明らかとなった.このような知見は,目的とした特性に深く関与するバクテリアの存在比や形態を保持した土壌の調整に物理的諸条件を考慮することの重要性を示唆している.また,異なるバクテリア間の相互作用を明らかにすることでその対外戦略を理解することは,土壌環境にとどまらず,動物腸内など多様なバクテリアが高密度に生息する環境で生じる現象を理解し,たとえば有害なバクテリアを退治し,有用なバクテリアを積極的に生残させるなど,医療・衛生面への応用にもつながることが期待される.

Acknowledgments

C. haemolyticumを同定をしていただきました京都大学農学部の田中千尋教授ならびにB. thuringiensisを同定をしていただきました京都工芸繊維大学大学院応用生物学専攻の鈴木秀之教授に感謝申し上げます.

Note

本研究は,日本農芸化学会2020年度大会(福岡)における「ジュニア農芸化学会」(発表は新型コロナウイルス感染症対策のため中止)に応募された研究のうち,本誌編集委員会が優れた研究として選定した6題の発表のうちの一つです.

Reference

1) 美しい多摩川フォーラム:多摩川一斉水質調査.http://www.tama-river.jp/main/kannkyou/suishitsucyousa/dendouritsuH25.html

2) 中山大樹:“環境調査のための微生物学”,講談社,1975.

3) 浅水俊平,尾仲宏康:生物工学,96,457(2018).