Kagaku to Seibutsu 59(2): 91-97 (2021)
セミナー室
ストリゴラクトン研究と農業のためのケミカルツールストリゴラクトン理解と応用のための道具作り
Published: 2021-02-01
© 2021 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2021 公益社団法人日本農芸化学会
ストリゴラクトン(SL)の発見に始まるSL研究進展の重要な要因の一つとして,SL様活性化合物の創製と利用を挙げることができる.代表的な例は本稿で述べられているGR24である.この化合物は根寄生雑草の発芽をSLと同様に誘導する化合物として開発されたが,その後AM菌の菌糸分岐誘導活性や植物ホルモンとしての活性も確認され,今や標準物質としてSL研究だけでなく,植物ホルモンのクロストーク研究にも広く利用されている.現在ではSLの機能を制御し観察できる多様な化合物が開発され,新しいSL研究のためのツールとして使われている.本稿ではこれら化合物の機能に触れつつ,今後の研究展開の可能性についても紹介する.
現在,SLの生理活性は,(I)ストライガ属やオロバンキ属の根寄生雑草に対する種子発芽誘導活性,(II)根共生菌であるArbuscular Mycorrhiza(AM)菌の菌糸分岐誘導活性,(III)枝分かれの抑制に代表される植物ホルモン活性,の3つに大別される.これら3つの生理活性を評価するためにはそれぞれ異なる生物種を用いた試験系が必要なため,ほとんどのSL様活性化合物は1つか2つの生理活性のみを指標に開発されてきた.歴史的な経緯をたどると,SLは根寄生雑草の種子発芽誘導物質として発見されたため,(I)を対象とした合成研究の歴史が最も長い.1966年にstrigolが単離され,次いで1972年にX線結晶構造解析により相対立体配置が解かれると,strigolそのものや,合成類縁体の研究が盛んに行われた(1~3)1) C. E. Cook, L. P. Whichard, B. Turner, M. E. Wall & G. H. Egley: Science, 154, 1189 (1966).2) C. E. Cook, L. P. Whichard, M. E. Wall, G. H. Egley, P. Coggon, P. A. Luhan & A. T. McPhail: J. Am. Chem. Soc., 94, 6198 (1972).3) A. W. Johnson, G. Rosebery & C. Parker: Weed Res., 16, 223 (1976)..その結果,現在でも利用されているGR24のほか,GR7やGR5といった合成化合物が開発され,ストライガの発芽誘導物質として作用することが確かめられた(4)4) A. W. Johnson, G. Gowda, A. Hassanti, J. Knox, S. Monaco, Z. Razawi & G. Roseberry: J. Chem. Soc. Perkin Trans, 1, 1734 (1981).(図1図1■SL様活性化合物の変遷).典型的SLの骨格として,6-5-5員環からなる三環性の構造をABC環と呼び,ラクトン環であるC環とエノールエーテル構造を介して結合したもう一方のラクトン環をD環と呼ぶ.初期の構造活性相関研究により,根寄生雑草の種子発芽誘導活性にはC環とD環がエノールエーテルを介して結合した部分構造が必須であると考えられた.その後,根寄生雑草の種子発芽誘導活性を指標とした合成SL研究が続けられ,C環に相当する骨格をもたないNijimegen-1や,エノールエーテルの代わりにオキシムエーテル構造をもつ化合物14などでも根寄生雑草の発芽を誘導することが示された(5, 6)5) G. H. L. Nefkens, J. W. J. F. Thuring, M. F. M. Beenakkers & B. Zwanenburg: J. Agric. Food Chem., 45, 2273 (1997).6) Y. Kondo, E. Tadokoro, M. Matsuura, K. Iwasaki, Y. Sugimoto, H. Miyake, H. Takikawa & M. Sasaki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2781 (2007)..
2008年頃にSLが植物ホルモンとして枝分かれを制御することが報告されると(7, 8)7) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).8) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takedda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008).,SLの生合成遺伝子に欠損をもつ変異体を用いて,その枝分かれ過剰形態を回復させる化合物が開発された.筆者らは,置換フェノールとD環を結合させたフェノキシフラノン類縁体が,SL生合成遺伝子欠損変異体植物の枝分かれ過剰形態を回復させることを見いだし,4BDを含む一連の化合物をdebranoneと名付けた(9)9) K. Fukui, S. Ito, K. Ueno, S. Yamaguchi, J. Kyozuka & T. Asami: Bioorg. Med. Chem. Lett., 21, 4905 (2011)..debranoneの発見により,植物ホルモンとしてのSL活性には,D環とフェノールやエノールなどがエーテル結合していれば十分であることが示され,SL様活性化合物のデザインにおける構造的制約が想定されていたよりも少ないことが示唆された.その後,D環エステル型の化合物20aや,チオエーテル型の化合物31も報告されている(10, 11)10) B. Zwanenburg & A. S. Mwakaboko: Bioorg. Med. Chem., 19, 7394 (2011).11) F. D. Boyer, A. de Saint Germain, J. P. Pillot, J. B. Pouvreau, V. X. Chen, S. Ramos, A. Stévenin, P. Simier, P. Delavault, J. M. Beau et al.: Plant Physiol., 159, 1524 (2012)..
植物ホルモンとしてのSLについては分子レベルでの理解が進み,2013年前後に植物ホルモンとしてのSLに対する受容体(ペチュニアDAD2/イネD14/シロイヌナズナAtD14)の結晶構造が相次いで報告され,SLの加水分解を伴う受容メカニズムも提唱された(12~15)12) C. Hamiaux, R. S. Drummond, B. J. Janssen, S. E. Ledger, J. M. Cooney, R. D. Newcomb & K. C. Snowden: Curr. Biol., 22, 2032 (2012).13) M. Kagiyama, Y. Hirano, T. Mori, S. Y. Kim, J. Kyozuka, Y. Seto, S. Yamaguchi & T. Hakoshima: Genes Cells, 18, 147 (2013).14) L. H. Zhao, X. E. Zhou, Z. S. Wu, W. Yi, Y. Xu, S. Li, T. H. Xu, Y. Liu, R. Z. Chen, A. Kovach et al.: Cell Res., 23, 436 (2013).15) H. Nakamura, Y. L. Xue, T. Miyakawa, F. Hou, H. M. Qin, K. Fukui, X. Shi, E. Ito, S. Ito, S. H. Park et al.: Nat. Commun., 4, 2613 (2013)..また,2015年にはストライガの一種Striga hermonthicaの発芽を制御するSL受容体が,D14のパラログであるShHTL/KAI2ファミリーであることが報告された(16)16) S. Toh, D. Holbrook-Smith, P. J. Stogios, O. Onopriyenko, S. Lumba, Y. Tsuchiya, A. Savchenko & P. McCourt: Science, 350, 203 (2015)..これらの知見から,in vitroでの化合物スクリーニングや組換え植物を用いたスクリーニングが可能となり,D環をもたないSL様活性化合物5や化合物8も報告されることとなった(16, 17)16) S. Toh, D. Holbrook-Smith, P. J. Stogios, O. Onopriyenko, S. Lumba, Y. Tsuchiya, A. Savchenko & P. McCourt: Science, 350, 203 (2015).17) R. Yasui, Y. Seto, S. Ito, K. Kawada, K. Itto-Nakama, K. Mashiguchi & S. Yamaguchi: Bioorg. Med. Chem. Lett., 29, 938 (2019)..それまで,SL様活性を示すすべての化合物にはD環に相当するメチルフラノン環が共通していたため,D環をもたなくても活性を示す化合物が見つかったことは非常に興味深い.しかしながら,依然としてD環構造が重要であることを示す実験結果は多く,フェムトモル/Lの濃度域でストライガの発芽を誘導するスフィノラクトン(SPL7)は,リード化合物の一部をD環構造に置換した結果得られたことが報告されている(18)18) D. Uraguchi, K. Kuwata, Y. Hijikata, R. Yamaguchi, H. Imaizumi, S. Am, C. Rakers, N. Mori, K. Akiyama, S. Irle et al.: Science, 362, 1301 (2018)..
今後の合成SL様活性化合物の探索には,スクリーニングなどとともに受容メカニズムに対する考察が鍵になると考えられる.現在もSLの受容メカニズムに関する議論は続いているが,D14やそのホモログについては,リガンドとの結合をきっかけとした受容体の構造変化がタンパク質相互作用の駆動力になると考えられている.したがって,合成コストが低く,D14による加水分解を受けずに構造変化を誘起できる化合物が見つかれば,合成SLの農業利用が現実味を帯びてくると期待される.サブサハラ地域や地中海沿岸で,ストライガ属やオロバンキ属による農作物への寄生が重大な損失をもたらしているが,合成SLによる発芽の誘導(自殺発芽)が有効な防除法となる日も近いのかもしれない.一方で,本セミナー室における秋山らにより紹介されたAM菌については,培養が困難であることなどの要因から試験系が一般的でなかったために,これまでAM菌を対象とした化合物開発はあまり進んでいなかった(19)19) K. Akiyama, S. Ogasawara, S. Ito & H. Hayashi: Plant Cell Physiol., 51, 1104 (2010)..しかしながら近年,SL活性を有するSL生合成中間体であるカーラクトン酸メチルの構造に基づいてデザインされた,安定かつ合成容易なMP1とその類縁体が,GR24と同様に植物ホルモン活性や根寄生雑草発芽誘導活性だけでなくAM菌の菌糸分岐誘導活性を示すことが報告されている(20, 21)20) M. Jamil, B. A. Kountche, I. Haider, X. Guo, V. O. Ntui, K. Jia, S. Ali, U. S. Hameed, H. Nakamura, Y. Lyu et al.: J. Exp. Bot., 69, 2319 (2017).21) B. Kountche, M. Noverob, M. Jamil, T. Asami, P. Bonfante & S. Al-Babili: Heliyon, 4, e00936 (2018)..AM菌との共生を制御する技術も,SLの農業利用における重要なポイントであるため,AM菌を志向した化合物デザインも今後さらに進んでいくことが期待される.
SL骨格を利用した化学プローブの合成は,約20年前から報告されており,当時はGR24にリンカーを介してビオチンを結合させ,未同定であったSLの受容体に結合させることを目的としていた(22)22) A. Reizelman, S. C. M. Wigchert, C. del-Bianco & B. Zwanenburg: Org. Biomol. Chem., 1, 950 (2003).(図2図2■SL関連の化学プローブ).残念ながら受容体は同定されなかったものの,SLを機能化して利用を試みた初めての報告であった.その後,GR24のABC環を模した構造の蛍光プローブも報告された(23)23) C. Bhattacharya, P. Bonfante, A. Deagostino, Y. Kapulnik, P. Larini, E. G. Occhiato, C. Prandi & P. Venturello: Org. Biomol. Chem., 7, 3413 (2009)..これらの物質は,SL様活性を有していたが,分子生物学的な研究にはあまり利用されなかった.これらの物質が利用されなかった要因の一つに,D14の加水分解活性によりプローブとして機能しなかったことが推測される.D14はSLを加水分解しABC環とD環を切り離してしまうため,ABC環とD14が安定な状態で結合を保つことは難しい.その結果,A環にリンカーを結合させてビオチン化したGR24をプローブとしても,D14が加水分解後に遊離してしまうため検出できなかったのだと推測される.また,同様に蛍光プローブもD14と乖離してしまうため,D14の局在を示す様な鮮明な像が得られなかったものと推測される.一方で,D14やHTL/KAI2の加水分解活性を利用して,D環が切り離されると蛍光を発するタイプの蛍光プローブが開発された.土屋らの開発したYoshimulactone green(YLG)は,フルオレセイン骨格をベースに,6′位の水酸基にD環を結合させた構造を有する(24)24) Y. Tsuchiya, M. Yoshimura, Y. Sato, K. Kuwata, S. Toh, D. Holbrook-Smith, H. Zhang, P. McCourt, K. Itami, T. Kinoshita et al.: Science, 349, 864 (2015)..YLGはシロイヌナズナやストライガに対してSL様活性を示し,SL受容体による加水分解に伴い緑色蛍光を発することで,受容体存在部位を可視化するプローブである.シロイヌナズナ内でAtD14依存的に蛍光が観察されただけでなく,ストライガの発芽誘導時にはYLGの加水分解に基づく蛍光のパルスが観察された.また,YLGの分解に伴う蛍光の増加は,SL受容体に拮抗して結合する化合物の共存下では阻害を受けるため,受容体に結合する化合物のスクリーニングや結合定数の導出にも用いることができる.同様に,Germainらの開発したGC242類縁体化合物は,クマリン骨格をベースに7位の水酸基にD環に相当するフラノン環を結合させた構造を有する(25)25) A. de Saint Germain, G. Clavé, M. Badet-Denisot, J. Pillot, D. Cornu, J. Le Caer, M. Burger, F. Pelissier, P. Retailleau, C. Turnbull et al.: Nat. Chem. Biol., 12, 787 (2016)..GC242は光学分割され,立体特異的にエンドウのD14オルソログであるRMS3に結合することが示された.受容体による加水分解に伴い発する蛍光が青色であるため,植物体を用いた顕微鏡観察には向かないが,分子がYLGと比較して小さいため,シロイヌナズナのHTL/KAI2などに対しても結合する可能性があると期待される.これら2つの化学プローブはSLの受容に伴う現象を可視化することに成功している点が興味深く,スクリーニング方法にも進歩をもたらした点が意義深い.今後の展開として,後述の共有結合型阻害剤を蛍光プローブ化することで,受容体そのものを永続的に蛍光標識したままにできるプローブのデザインなど,新たな目的の化学プローブが開発されることによりさらに広い知見が得られることが期待される.
受容体とSLの相互作用やその後の情報伝達経路が明らかになってきたことで,受容体アンタゴニストも近年いくつか見いだされてきている(図3図3■これまでに見いだされているSL受容体アンタゴニスト).現在までに見いだされた化合物はSL様活性化合物とは異なり構造に共通点は見られず,SL作用や受容機構で得られた知見をもとにケミカルライブラリーからのスクリーニングにより見いだされているものや,SL受容体の結晶構造や受容機構をもとにデザインされた化合物が報告されている.また,ストライガのD14オルソログShD14はストライガの発芽において機能せず,パラログであるShHTL/KAI2sがSL受容体として機能することから,選抜時にどの受容体,または形質をターゲットにするかによって,見いだされている化合物の活性も多様である.
DL1やTolfenamic acidはそれぞれシロイヌナズナのAtD14およびペチュニアDAD2に対するアンタゴニストとして見いだされた(26, 27)26) M. Yoshimura, A. Sato, K. Kuwata, Y. Inukai, T. Kinoshita, K. Itami, Y. Tsuchiya & S. Hagihara: ACS Cent. Sci., 4, 230 (2018).27) C. Hamiaux, R. S. M. Drummond, Z. Luo, H. W. Lee, P. Sharma, B. J. Janssen, N. B. Perry, W. A. Denny & K. C. Snowden: J. Biol. Chem., 293, 6530 (2018)..Tolfenamic acidはペチュニアやシロイヌナズナの枝分かれを増加させるがオロバンキの発芽は阻害しないことから,植物ホルモンとしてのSL受容体(DAD2/D14/AtD14)特異的なアンタゴニストと推測される.DL1もイネおよびシロイヌナズナの枝分かれ増加作用を示す.また根寄生雑草に対する発芽試験は行なわれていないが,AtHTL/KAI2に対するアンタゴニスト活性は非常に弱いことから,SL受容体(DAD2/D14/AtD14)特異的アンタゴニストであるものと推測される.一方,根寄生雑草のSL受容体(ShHTL/KAI2)特異的なアンタゴニストも見つかっている.合成SLであるGR24はShHTL/KAI2のオルソログであるAtHTL/KAI2を介してシロイヌナズナの胚軸伸長を抑制する.Soporodineは,このGR24による胚軸伸長の抑制を回復させる化合物として見いだされた(28)28) D. Holbrook-Smith, S. Toh, Y. Tsuchiya & P. McCourt: Nat. Chem. Biol., 12, 724 (2016)..SoporodineはシロイヌナズナやストライガのHTL/KAI2に対するアンタゴニスト活性を有しているため,シロイヌナズナやストライガのSL依存的な発芽を阻害する.ほかにもShHTL/KAI2特異的なアンタゴニストとしてTriton X-100が見いだされている(29)29) U. Shahul Hameed, I. Haider, M. Jamil, B. A. Kountche, X. Guo, R. A. Zarban, D. Kim, S. Al-Babili & S. T. Arold: EMBO Rep., 19, e45619 (2018)..この発見経緯は,ShHTL7のタンパク質精製時に使用したTriton X-100がX線結晶構造解析時にShHTL7のSL結合ポケットに入っていたことから見いだされた,という非常にユニークなものである.Triton X-100はShHTL7とGR24との結合を阻害することでストライガの発芽を抑える一方で,シロイヌナズナやイネのSL受容体にはアンタゴニスト活性を示さない.さらに別のグループから高濃度のTriton X-100がGR24によるオロバンキの発芽を阻害するという報告もあり(30)30) J. B. Pouvreau, Z. Gaudin, B. Auger, M. M. Lechat, M. Gauthier, P. Delavault & P. A. Simier: Plant Methods, 9, 32 (2013).,Triton X-100が根寄生雑草特異的なアンタゴニストとして機能していると考えられる.上記は枝分かれや根寄生雑草発芽それぞれの受容体に特異的なアンタゴニストであったが,筆者らのグループではストライガと植物のどちらに対してもアンタゴニスト活性を示す化合物をSL受容体の活性や結晶構造解析結果を基に複数デザインしている(31~33)31) O. Mashita, H. Koishihara, K. Fukui, H. Nakamura & T. Asami: J. Pestic. Sci., 41, 71 (2016).32) J. Takeuchi, K. Jiang, K. Hirabayashi, Y. Imamura, Y. Wu, Y. Xu, T. Miyakawa, H. Nakamura, M. Tanokura & T. Asami: Plant Cell Physiol., 59, 1545 (2018).33) H. Nakamura, K. Hirabayashi, T. Miyakawa, K. Kikuzato, W. Hu, Y. Xu, K. Jiang, I. Takahashi, R. Niiyama, N. Dohmae et al.: Mol. Plant, 12, 44 (2019)..2-Methoxy-1-naphthaldehydeは初めて報告されたSL受容体アンタゴニストであり,D14の結晶構造をもとにしたin silicoでのスクリーニングより選抜された化合物である.活性は弱いもののイネの分げつ誘導活性およびストライガの発芽阻害活性を示す.carba-SLはSL様活性化合物であるGR24やdebranoneを基に設計されたSL受容体アンタゴニストである.D14はSLの受容体として機能する一方でセリン加水分解酵素ファミリーに属するタンパク質であり,SLを分解する活性も有しているため,D14による分解を受けないSLアナログは受容体アンタゴニストとして機能するという仮説をもとに設計された.基質アナログであるため枝分かれの促進のほか,ストライガの発芽も抑制する.また,KK094はトリアゾールウレア誘導体が哺乳動物のセリン加水分解酵素を選択的に阻害することから設計された.SLの分解に必要なD14のセリン残基と共有結合することでD14とSLの相互作用や分解を阻害し枝分かれの増加やストライガの発芽抑制活性を示す.Xiangら(2017)が報告したTFQ0022もKK094と同様にD14のセリン残基と共有結合することによってSLシグナルを制御することが知られており,共有結合型阻害剤がSLシグナルの調節には有効であると考えられる(34)34) H. Xiang, R. Yao, T. Quan, F. Wang, L. Chen, X. Du, W. Zhang, H. Deng, D. Xie & T. Luo: Cell Res., 27, 1525 (2017)..
受容体アンタゴニストはSLの受容機構の一部が明らかになってから報告がなされているため,以前より研究されているSL様活性化合物のように根寄生雑草の防除研究やSL受容機構への応用研究はそれほど進められていない.しかし枝分かれは農作物の収量を決定する重要因子であること,根寄生雑草の発芽阻害は後述のSL生合成阻害剤と同様に作物育成時における根寄生雑草の作物への寄生を抑制可能であると考えられることから応用可能性は十分に考えられる.さらにSLアンタゴニストはSL様活性化合物に比べて構造に多様性があり,それゆえストリゴラクトンの受容機構の解明にも,強力なツールとして利用できる可能性がある.
植物が生産するSLは種によって異なる構造をもつがそれらはすべてカロテノイドからカーラクトンと呼ばれる中間体を経由して合成される(35)35) S. Al-Babili & H. J. Bouwmeester: Annu. Rev. Plant Biol., 66, 161 (2015).(図4図4■イネにおけるSL生合成経路とSL生合成阻害剤の作用部位).現在報告されているSL生合成阻害剤はカーラクトン合成までの3つの酵素の阻害剤と,その後のP450酸化酵素の阻害剤,内生植物ホルモンによるSL生合成遺伝子の発現抑制による阻害剤の3つに大きく分類することができる.
SL生合成酵素はその活性に鉄イオンを必要としている.ヒドロキサム酸はさまざまな金属結合酵素の阻害剤として知られていることから,構造活性相関の結果化合物D6がCCD(カロテノイド酸化開裂酵素:Carotenoid Cleavage Dioxygenase)の阻害剤として同定された(36)36) M. J. Sergeant, J. J. Li, C. Fox, N. Brookbank, D. Rea, T. D. Bugg & A. J. Thompson: J. Biol. Chem., 284, 5257 (2009)..化合物D6はシロイヌナズナにおいて枝分かれの増加を引き起こす.その後の詳細な解析により,化合物D6はCCD8の酵素活性を阻害すること,化合物D15がより高活性なCCD8阻害剤であることが報告されている(37)37) P. J. Harrison, S. A. Newgas, F. Descombes, S. A. Shepherd, A. J. Thompson & T. D. Bugg: FEBS J., 282, 3986 (2015)..また同時に化合物B2が弱いながらもカロテノイド異性化酵素D27に特異的な阻害活性を示すことからヒドロキサム酸を有する化合物群はSL生合成経路の種々の酵素阻害剤となる可能性を有している.一方,筆者らはトリアゾールやイミダゾールといった含窒素複素環を有する化合物がさまざまなP450酵素を阻害すること,ジベレリン生合成に関与するP450の阻害剤であるウニコナゾールを構造展開することで特異的なブラシノステロイド生合成阻害剤やアブシシン酸代謝阻害剤が合成されていることから,含窒素複素環からSL生合成阻害剤の創製を行っている.SLは枝分かれを制御する植物ホルモンであり,SL生合成変異体はイネの枝分かれである分げつ伸長を示すため,はじめにイネの分げつ伸長を誘導する化合物としてTIS13を見いだした(38)38) S. Ito, N. Kitahata, M. Umehara, A. Hanada, A. Kato, K. Ueno, K. Mashiguchi, J. Kyozuka, K. Yoneyama, S. Yamaguchi et al.: Plant Cell Physiol., 51, 1143 (2010)..TIS13はイネの主要なSLである4-デオキシオロバンコールの内生量を減少させるが,植物のP450阻害剤でよく観察されるジベレリン生合成阻害による矮化も観察されたため,構造展開により矮化を誘導しないTIS108が見いだされた(39)39) S. Ito, M. Umehara, A. Hanada, N. Kitahata, H. Hayase, S. Yamaguchi & T. Asami: PLoS ONE, 6, e21723 (2011)..TIS108は4-デオキシオロバンコールやオロバンコールを合成する酵素CYP711A2とCYP711A3を阻害することで4-デオキシオロバンコール内生量を減少させる.またTIS13に見られる矮化作用をほとんど示さない.一方で,イネにおいてはTIS13で観察された分げつ伸長がほとんど見られないという興味深い形態を示した.この結果は少なくともイネにおいては体内で多量に作られている4-デオキシオロバンコールの大部分が植物ホルモンとしてのSL活性に必須ではないことを示唆している.最近の筆者らの研究により,TIS108はイネの根で微量に検出されるSLであるカーラクトン酸メチルや構造未知のSLの内生量を変化させないことが明らかになった.植物ホルモンとしての活性にはこれらのSL類が関与しているのではないかと予想している.そのほか,ジベレリンやサイトカイニンなどがSL生合成遺伝子の発現を抑制することでSL生合成を阻害することが知られている(40, 41)40) S. Ito, D. Yamagami, M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, Y. Sasaki, S. Yajima, J. Kyozuka, M. Ueguchi-Tanaka, M. Matsuoka et al.: Plant Physiol., 174, 1250 (2017).41) K. Yoneyama, X. Xie, T. Nomura & K. Yoneyama: Front. Plant Sci, 11, 438 (2020)..
SL生合成変異体などのSL低生産植物はSLを根圏へ分泌しないためストライガが発芽せず,結果としてストライガ耐性となる(8)8) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takedda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008)..しかし,イネにおいてSL生合成変異体(d10/Osccd8, d17/Osccd7, d27)は収量の減少を引き起こすことも知られており(42)42) Y. Yamada, M. Otake, T. Furukawa, M. Shindo, K. Shimomura, S. Yamaguchi & M. Umehara: J. Plant Growth Regul., 38, 753 (2018).,ストライガ防除に利用するには不適当である.そこで筆者らはイネの形態に影響を及ぼさないSL生合成阻害剤であるTIS108を用いることで収量減を引き起こすことなくストライガ防除が可能となるのではないかと考えている.実際,ポット試験ではあるがTIS108を処理することでストライガのイネへの寄生が減少すること,このときのイネの収量が通常土壌で育てた野生型株と同程度であることを見いだしている(未発表).今後そのメカニズムの解析などをおこなっていく必要があるが,SL様活性化合物による自殺発芽だけでなく,SL生合成阻害剤を用いたストライガ発芽抑制法もストライガ防除に有用な手法の一つではないかと期待している.
Reference
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