解説

微生物反応のみでバイオマス変換を完結する生物触媒としての白色腐朽菌による脱リグニン同時糖化発酵

Conversion of Biomass by Fungal Reaction: Potential of Integrated Fungal Fermentation by White-Rot Fungi

Ichiro Kamei

亀井 一郎

宮崎大学農学部

Published: 2021-03-01

白色腐朽菌と呼ばれる一群の糸状菌は木材を白く腐らせることからその名がついたきのこの仲間であり,唯一植物細胞壁のすべての成分を分解できる.その最大の特徴は,植物細胞壁の中で,セルロースやヘミセルロースといった多糖類を守る鎧の役割を果たすリグニンを分解できることにある.バイオマスから有価物を生産する研究が盛んであるが,強固なバイオマスの変換に必要な脱リグニン・糖化・発酵すべての能力をもつ特殊な白色腐朽菌が存在することが明らかとなってきた.また,白色腐朽菌は他の微生物種と共培養できる組み合わせがあることもわかってきた.これら白色腐朽菌を用いたバイオマス変換研究について筆者の研究を中心に概説する.

Key words: 白色腐朽菌; バイオマス変換; 脱リグニン同時糖化発酵; リグニン; セルロース

はじめに

樹木などの植物性バイオマスは,光合成による二酸化炭素の固定を介した有機物の生合成によって形成され,役割を終えると枯死し分解されて二酸化炭素として再び大気に戻る.この際,分解者として重要な役割を果たすのが木材腐朽菌と呼ばれる木材を腐らせることができる一群の菌類である.木材腐朽菌は分類学上主に担子菌類に属するきのこの仲間である.植物細胞壁は,セルロース,ヘミセルロースおよびリグニンという反応性の低い天然高分子から構成されており,生物分解を受け難い.この反応性に乏しい材料を資化するために進化させてきた木材腐朽菌の強力な有機物分解能力は,細菌類など他の微生物種にはない特異なシステムから成り立っている.植物細胞壁中の芳香族高分子であるリグニンは,炭水化物であるセルロースを被覆することで,外来の分解者から身を守る鎧として機能している.一方,木材腐朽菌の中でも腐朽木を白色に変化させる特徴から白色腐朽菌と呼ばれる一群の菌類は,菌体外に特異な酸化還元酵素を分泌することで,リグニンを分解することを特徴としており,リグニンの一部を二酸化炭素と水まで無機化することが可能である.スーパーでよく見かけるシイタケ(Lentinula edodes)やエリンギ(Pleurotus eryngii)などが白色腐朽菌である.白色腐朽菌によるリグニンの分解機構は,菌体外に分泌されるリグニンペルオキシダーゼ,マンガンペルオキシダーゼ,ラッカーゼ,および多機能型ペルオキシダーゼの4つのリグニン分解酵素ファミリーが有する生化学的特長と関連付けて研究されており,高分子基質に対応した特異なメカニズムについて興味深い知見が数多く報告されている(1)1) K. E. Hammel & D. Cullen: Curr. Opin. Plant Biol., 11, 349 (2008)..また,白色腐朽菌は,多糖分解酵素群であるセルラーゼおよびヘミセルラーゼも菌体外に分泌することで,セルロースおよびヘミセルロースを菌体外で加水分解し,生成した単糖を細胞内に取り込むことで資化する.このように,白色腐朽菌は植物細胞壁のすべての成分を微生物単独で分解することができる唯一の生物群と考えられている.

近年,植物性バイオマスからさまざまな化成品を作り出すバイオリファイナリーの研究が注目されており,さまざまな化学処理および生物処理を駆使してバイオマスを分解・変換・再合成することで,有価物を生産する試みがなされている.植物細胞壁中のセルロースやヘミセルロースは,それぞれを酵素反応等によりグルコースやキシロースなどの単糖へと加水分解することで,エタノールやキシリトール,有機酸や他の化学製品の原料として使用可能である.バイオリファイナリーによるバイオマスからの有価物生産には,酵母や細菌などの種々の微生物を利用した発酵が基盤技術として利用されている.一方で,前述したバイオマス分解のスペシャリストである白色腐朽菌については,脱リグニンについての研究は比較的多いものの,発酵微生物としての可能性などバイオリファイナリーに利用可能な研究例は限られていた.

白色腐朽菌にバイオマス変換のすべてのステップを統合する

食料と競合しないセルロース系バイオマスからのバイオエタノール等発酵産物を生産する研究が盛んである.バイオマスからエタノールをはじめとする有価物を生産するためには,一般に1)糖化前処理(脱リグニン処理),2)糖化,3)発酵,の多段階の処理を必要とする(図1図1■リグノセルロースからのバイオエタノール生産上段).糖化により発酵可能な単糖を得ることが必要になるが,このとき使用されるセルロース分解酵素(セルラーゼ)の外部からの添加がプロセス全体の中でもコスト的に大きな割合を占める.これら多段階の処理を一つの生物反応へと統合していくことは,製造コスト削減につながるものと考えられる.実際に,セルロース加水分解能を付与した単独の微生物で,外部からのセルラーゼの添加なしにセルロースの糖化と発酵を同時に行うConsolidated bioprocessing(CBP)(2)2) L. R. Lynd, W. H. Van Zyl, J. E. McBride & M. Laser: Curr. Opin. Biotechnol., 16, 577 (2005).が広く研究されており,実用化が進められている(図1図1■リグノセルロースからのバイオエタノール生産中段).

図1■リグノセルロースからのバイオエタノール生産

筆者は前述したCBPに用いられる微生物がリグニン分解能力を保持していれば,リグニンを含むバイオマスから化学的な処理なしでエタノールを生成できるのではないかと漠然と考えていた.しかし,高分子リグニンの酵素分解はいまだに誰も成し得ていない難題であり,酵母等の発酵微生物にリグニン分解能力を付与することは,経験的にほぼ不可能に感じていた.そこで,前述した白色腐朽菌に着目した.従来,生物的なリグニン分解能力およびセルロース糖化能力をもつ白色腐朽菌が,エタノール発酵能力を保持すれば,従来法として多段階の処理が必要なリグノセルロースからのエタノール生産工程を,単独の白色腐朽菌で完結し得ると考えたためである(図1図1■リグノセルロースからのバイオエタノール生産下段).

担子菌によるリグノセルロースの直接発酵

子嚢菌を中心としたいくつかの糸状菌,たとえばAspergillusRhisopus, Monilia, Neurospora, Fusarium, Trichoderma属菌などは,エタノール発酵能をもつことが古くから知られていた.発酵微生物としてみれば,糸状菌は多細胞体であるため,酵母や細菌に比べて現行の発酵槽での使用には不利な面があり,エタノール耐性が低いことも解決すべき課題である.しかしながらセルロースのような固体バイオマスに直接接種可能であることや,発酵工程でそれほど厳密な嫌気条件を必要としないことなどが利点とされている.近年では前述した木材腐朽菌の中にもエタノール発酵能をもつものの存在が報告されている.白色腐朽菌Peniophora cinereaTrametes suaveolensが通気を遮断した条件下で単糖のエタノール発酵能に優れていることが報告され(3)3) K. Okamoto, K. Imashiro, Y. Akizawa, A. Onimura, M. Yoneda, Y. Nitta, N. Maekawa & H. Yanase: Biotechnol. Lett., 32, 909 (2010).P. cinereaはリン酸膨潤セルロースを糖化酵素の添加なしにエタノールに変換することが可能であり,セルロースの加水分解と発酵が同時に行われていることが示された.

筆者らの検討でセルロース材料から直接エタノール発酵が可能な菌として耐塩性白色腐朽菌Phlebia sp. MG-60が選抜された(4)4) I. Kamei, Y. Hirota, T. Mori, H. Hirai, S. Meguro & R. Kondo: Bioresour. Technol., 112, 137 (2012)..本菌は通気を遮断した条件下でバイオマスを形成する主要な六炭糖を高効率でエタノールに変換し,グルコースの次に多く含まれるキシロースの発酵も可能である.また,リグニンを含むセルロース材料として使用した広葉樹未晒クラフトパルプ(UHKP)および新聞紙を基質としてセルロースの直接発酵能力を調べたところ,2%のUHKPを発酵基質として半好気条件で培養した場合,0.42 gエタノール/g UHKPの変換率でエタノールが生成した.これは,糖組成から算出された理論収率の71.8%がエタノールへと変換されたことを意味する.さらに本菌はリグニンと不純物であるインクを含む新聞紙からも酵素添加なしに直接エタノールを生産可能であることが示された.

ちなみに,本菌をスクリーニングする過程で多くの白色腐朽菌がグルコースからエタノール発酵できることがわかってきたが,その生理的な意義ははっきりしていない.一般に,白色腐朽菌によるリグニン分解は好気的な条件での酸化反応であるため,嫌気的な条件下における白色腐朽菌の挙動はあまり調べられてこなかった.Phlebia sp. MG-60は液体培地で培養すると炭素源の多くをエタノール発酵に利用してしまう.本菌のピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子をノックアウトしてエタノール発酵能を欠損させた組み換え体は,リグニン分解に関与する細胞外のペルオキシダーゼ活性が上昇することが明らかとなった.おそらくピルビン酸を経由してエタノールへ流れていた炭素源の代謝経路が遮断され,TCA回路へと流入し,細胞外の各種ペルオキシダーゼのヘム合成が促進された結果ではないかと考察したが詳細は明らかではない.過去多くのリグニン分解酵素系の研究が液体培地で検討されてきたが,認識を改める必要があるのかもしれない.

さて,植物細胞壁の多糖類には,グルコースのホモポリマーであるセルロース以外に,複数種の単糖類からなるヘテロポリマーのヘミセルロースが存在する.構成として,五炭糖であるキシロースのポリマーを主鎖とするキシランが多く,セルロースに次いでバイオマス利用のターゲットとされてきた.したがって,木質バイオマスを微生物反応のみで有価物に変換するためには避けて通ることができない基質である.Phlebia sp. MG-60は,単糖であるキシロースの発酵能には優れていたが,ポリマーであるキシランの発酵能は低かった.そこで,16種22株のPhlebia属菌を含む63株の木材腐朽菌を対象としてキシロースの発酵試験を行った(5)5) I. Kamei, K. Uchida & V. Ardianti: Appl. Biochem. Biotechnol., 192, 895 (2020)..複数の木材腐朽菌でわずかにキシロースの発酵能力が観察された.一方で,変換率が80%を超えるような高いキシロース発酵能力がPhlebia属菌10種13株に集中しており,遺伝的に保存されていることが示された.それら選抜されたPhlebia属菌を用いてキシランの直接発酵を試みたが,その多くがPhlebia sp. MG-60より高い発酵能力を示した.結果的にキシランの直接発酵能をもつ菌株の選抜に至ったが,その能力が一部の遺伝的に近縁な種に集中していたのは興味深い.木材の腐朽においてヘミセルロースの分解は重要なイベントであることを考えると,Phlebia属菌による木材腐朽の特徴を整理して考察することで,キシロースおよびキシランの発酵能力が木材腐朽に及ぼす影響について何かわかるかもしれない.

白色腐朽菌による脱リグニン同時糖化発酵~Integrated Fungal Fermentation~

多糖類(セルロース・ヘミセルロース)を直接エタノールへと変換できる白色腐朽菌の選抜には至ったが,微生物反応のみでのバイオマス変換に残る課題はリグニン分解能力の発揮である.白色腐朽菌による脱リグニンに共通しているのは,好気的条件でかつ基質の含水率を低く抑えた固相培養条件下でリグニンが分解されることである.そこで,好気固相条件での脱リグニンと液体培養条件での糖化・発酵を組み合わせることを思いついた(6)6) I. Kamei, Y. Hirota & S. Meguro: Bioresour. Technol., 126, 137 (2012)..バイオリファイナリーに向けた生物的脱リグニン処理のポイントとなるのは,糖化発酵の原料となる炭水化物(セルロースおよびヘミセルロース)の損失を低く抑えることができる選択的リグニン分解菌を用いることにある.詳細は別の総説(7, 8)7) 亀井一郎:木材保存,38, 144 (2012).8) I. Kamei: “Fungi in fuel biotechnology: Chapter 6, Wood-rotting fungi for biofuel production,” Springer, 2020, p. 123.を参照していただきたいが,白色腐朽菌を用いた酵素糖化の前処理に関する研究は比較的古くから行われており,多くの種の白色腐朽菌がさまざまなバイオマスの酵素糖化前処理に使用されてきた.白色腐朽菌には大きく分けてリグニンを選択的に分解する(セルロースを多く残す)選択的リグニン分解菌と非選択的にリグニン分解を示す菌が存在するとされる.Phlebia sp. MG-60株はマングローブ林から分離された耐塩性白色腐朽菌であり,大量のマンガンペルオキシダーゼを生産することが示されている(9)9) I. Kamei, C. Daikoku, Y. Tsutsumi & R. Kondo: Appl. Environ. Microbiol., 74, 2709 (2008)..すなわち,本菌が好気固相培養条件下で選択的なリグニン分解能を発揮できれば,脱リグニン処理後に液体培養に切り替えることで糖化・発酵を行うことができるのではと考えた.

そこで,含水率を約77%に調整したコナラ木粉に本菌を接種し,好気的条件で培養を行ったところ,未処理木粉のリグニン含有率が23.1%であったのに対し,4週間および8週間培養を行うと,それぞれリグニン含有率は18.1,13.7%に減少した(図2A図2■白色腐朽菌を用いた脱リグニン同時糖化発酵).一方,硫酸加水分解物中の単糖から木粉中の多糖の割合を算出したところ,グルカンはほとんど減少しておらず,キシランの緩やかな減少が観察された(図2A図2■白色腐朽菌を用いた脱リグニン同時糖化発酵).すなわち,選択性の高いリグニン分解が行われていることが示された.培養基から抽出した粗酵素液中の酵素活性を調べたところ,主にマンガンペルオキシダーゼ活性が検出され,糖化関連酵素はほとんど検出されなかった.

図2■白色腐朽菌を用いた脱リグニン同時糖化発酵

A: 好気・固相培養条件における選択的脱リグニン B: 半好気・液体培養に切り替えた際のエタノール生成

本菌が好気固相培養条件で選択的なリグニン分解を行うことが示されたので,次に,固相条件下で培養した培養基に,それぞれ発酵用の液体培地を加えて培養した.その結果,好気固相培養(脱リグニン処理)したサンプルからのみエタノールが生成した(図2B図2■白色腐朽菌を用いた脱リグニン同時糖化発酵).また,脱リグニン処理の培養期間が長いサンプルほど,エタノール生成量は増加した(図2B図2■白色腐朽菌を用いた脱リグニン同時糖化発酵).木粉中の糖の含有量からのエタノール理論収率を100%とし,実際に得られたエタノールの収率を算出したところ,脱リグニン処理6週間の処理木粉から理論収率の37.7%,8週間の処理木粉から理論収率の43.3%のエタノールが,液体培養(20日間)に切り替えることで生じたことが明らかとなった.これらの結果は,Phlebia sp. MG-60株単独で脱リグニン処理と糖化・発酵を単一容器内で行うことが可能であることを示す結果であった.

発酵中の培養基より培養液を採取し,糖化関連酵素としてフィルターペーパー加水分解酵素(FPase)活性とキシラナーゼ活性を調べた.すると,前述のように好気固相培養時にほとんど検出されなかった両酵素が,発酵条件に切替えた後5日目には盛んに生産されていることが明らかとなった.これは,前処理中に選択的なリグニン分解を行っていたPhlebia sp. MG-60株の代謝系が,糖化発酵へと明確に切り替わったことを示している.余談ではあるが,この代謝が明確に切り替わるメカニズムはまだはっきりとはわかっていない.筆者らは含水率が要因の一つになっていると考えている.自然界においてこの切り替えがどのような役割を果たしているかがたいへん興味のもたれるところである.

このプロセスの仕組みを図3図3■脱リグニン同時糖化発酵の概念図にまとめる.Phlebia sp. MG-60株による好気固相培養によって,木粉中のリグニンが選択的に分解され白色化し,セルロースやヘミセルロースが多く残存した状態になる.この段階で,木粉に加えているのは水と菌糸だけであるということは強調したい.その後,発酵用に液体培地を加えるだけで,蔓延しているPhlebia sp. MG-60株の代謝が,選択的リグニン分解から切り替わり,多糖類の糖化と生じた単糖の発酵を開始する.好気固相培養,嫌気液体培養など培養条件を操れば,白色腐朽菌単独でのバイオマス変換が可能であることが示された.

図3■脱リグニン同時糖化発酵の概念図

白色腐朽菌と細菌との複合微生物系によるバイオマス変換

自然界における木材腐朽は複合微生物系であり,さまざまな細菌類も腐朽木材中に存在していることがわかっているが,その役割や関係性は不明なままである.筆者らは,同一腐朽木材から白色腐朽菌とその共存細菌とを分離し,共培養を行うことで細菌類が白色腐朽菌に与える影響について検討してきた.その結果,ある種の細菌と白色腐朽菌との組み合わせで白色腐朽菌の菌糸成長の促進や(10)10) I. Kamei, T. Yoshida, D. Enami & S. Meguro: Curr. Microbiol., 64, 173 (2012).,木材腐朽の促進が観察された(11)11) I. Kamei: Curr. Microbiol., 74, 125 (2017)..すなわち,白色腐朽菌と細菌との複合微生物化の可能性を示している.そこで,先に述べたPhlebia sp. MG-60と嫌気条件下でアセトン–ブタノール–エタノール発酵(ABE発酵)を行うClostridium saccharoperbutylacetonicumとの共培養を試み,未晒クラフトパルプからのブタノール生産を試みたところ,共培養区でのみ顕著なブタノール生産が確認された(12)12) C. L. Tri & I. Kamei: Bioresour. Technol., 305, 123065 (2020)..これはすなわち,Phlebia sp. MG-60によりクラフトパルプが加水分解され,生じたグルコースおよびセロビオースがC. saccharoperbutylacetonicumによりブタノールへ変換されたことを意味する(図4図4■白色腐朽菌と細菌複合微生物系によるリグノセルロースからのブタノール発酵).面白いことに,Phlebia sp. MG-60単独での培養よりも,C. saccharoperbutylacetonicumと共培養したほうが残存するグルカン量が少なかった.これは,共培養によりPhlebia sp. MG-60によるセルロースの加水分解が促進された可能性を示す.メカニズムについては詳細な研究が必要ではあるが,嫌気的な環境下で白色腐朽菌と嫌気性細菌を共培養し,異種微生物の代謝系を統合できたことは興味深い知見だと考えている.このように,白色腐朽菌と異種微生物との複合微生物系の構築が,新しいプロセスの提案につながると考えられる.同時に,自然界の木材腐朽を模倣していると考えれば,木材腐朽における複合微生物系の役割の解明につながるのではないかと期待している.

図4■白色腐朽菌と細菌複合微生物系によるリグノセルロースからのブタノール発酵

最後に

白色腐朽菌はその特異な形質であるリグニン分解を中心に研究が進んできた.一方で,今回紹介したエタノール発酵能のように,これまで見落とされてきたけれど注目に値する能力がまだまだ残っているように思われる.また,白色腐朽菌と細菌との相互作用や複合微生物化についても研究は始まったばかりであり,興味は尽きない.現在も応用を目指して木材をはじめとするリグノセルロースから,さまざまな物質をワンポットで生産可能なバイオプロセスの構築に取り組んでいる.しかし,それと同時に見いだした能力が,白色腐朽菌自身の生理的機能にどのような役割を果たしているかにも,自然科学者としては注目していきたい.さらに,白色腐朽菌を含むきのこは,薬用に用いられるものも多くさまざまな二次代謝物の宝庫である.現在バイオリファイナリーは,単に化石資源の代替品製造では経済的に成り立たないことが明白であり,バイオマス由来だからこその特性をもった材料か,化学合成では製造が困難な発酵生物独自の化合物製造プロセスの構築が鍵を握ると考えている.医薬品や健康食品,化粧品などに利用可能な価値の高い菌類独自の二次代謝物を非食性バイオマスから生産できれば,バイオマスの化学的利用を促進できるのではないだろうか.そのような観点からもう一度,木材を腐らせることができる小さな微生物たちに注目していきたいと筆者は考えている

Reference

1) K. E. Hammel & D. Cullen: Curr. Opin. Plant Biol., 11, 349 (2008).

2) L. R. Lynd, W. H. Van Zyl, J. E. McBride & M. Laser: Curr. Opin. Biotechnol., 16, 577 (2005).

3) K. Okamoto, K. Imashiro, Y. Akizawa, A. Onimura, M. Yoneda, Y. Nitta, N. Maekawa & H. Yanase: Biotechnol. Lett., 32, 909 (2010).

4) I. Kamei, Y. Hirota, T. Mori, H. Hirai, S. Meguro & R. Kondo: Bioresour. Technol., 112, 137 (2012).

5) I. Kamei, K. Uchida & V. Ardianti: Appl. Biochem. Biotechnol., 192, 895 (2020).

6) I. Kamei, Y. Hirota & S. Meguro: Bioresour. Technol., 126, 137 (2012).

7) 亀井一郎:木材保存,38, 144 (2012).

8) I. Kamei: “Fungi in fuel biotechnology: Chapter 6, Wood-rotting fungi for biofuel production,” Springer, 2020, p. 123.

9) I. Kamei, C. Daikoku, Y. Tsutsumi & R. Kondo: Appl. Environ. Microbiol., 74, 2709 (2008).

10) I. Kamei, T. Yoshida, D. Enami & S. Meguro: Curr. Microbiol., 64, 173 (2012).

11) I. Kamei: Curr. Microbiol., 74, 125 (2017).

12) C. L. Tri & I. Kamei: Bioresour. Technol., 305, 123065 (2020).