プロダクトイノベーション

パセノール™(ピセアタンノール)の生理作用“パッション(情熱)”を込めた独自素材

Shinpei Kawakami

川上 晋平

森永製菓株式会社 研究所 健康科学研究センター

Adrianus David Tanzil

森永製菓株式会社 研究所 健康科学研究センター

Sadao Mori

貞夫

森永製菓株式会社 研究所 健康科学研究センター

Toshihiro Kawama

川馬 利広

森永製菓株式会社 研究所 健康科学研究センター

Minoru Morita

守田

森永製菓株式会社 研究所 健康科学研究センター

Published: 2021-03-01

はじめに

パッションフルーツは南米原産の果物であり,代表的な品種にクダモノトケイソウ(Passiflora edulis)がある.厚い果皮の中に,黄色い果肉と果肉に覆われた黒い種子が詰まっていて,種子ごと果肉を食べて種の食感も楽しむことができる,甘酸っぱいフルーツである(図1図1■パッションフルーツ写真).日本でも沖縄や鹿児島などで栽培されており,近年では,夏の日差しを防ぐための緑のカーテンとして都内でも見かけることができる.当社はパッションフルーツの種子中にポリフェノールの一種である「ピセアタンノール」が多く含まれるのを発見したことをきっかけに,パッションフルーツ種子エキスの原料化に取り組み,森永製菓の独自素材として2013年に「パセノール™」と命名した.原料開発と並行してピセアタンノールの機能性研究にも取り組み,今回はパセノール™およびその有効成分であるピセアタンノールの生理作用について紹介する.

図1■パッションフルーツ写真

ピセアタンノールとその特徴

ピセアタンノールは,分子内に水酸基を4つ有するスチルベン骨格をもつポリフェノールの一種であり,類似の化合物として,アンチエイジング作用で有名なレスベラトロールがある(図2図2■ピセアタンノールとレスベラトロール構造).ピセアタンノールはほかのポリフェノール類と同様,それ自身が強い抗酸化活性を示すが,さらに生体内の酸化ストレス防御機構にも作用して,生体内抗酸化能を増強させる効果も明らかになっている.われわれは,マウス骨格筋由来C2C12細胞にピセアタンノールを作用させると,生体内抗酸化酵素であるheme oxygenase-1(Ho-1)やsuperoxide dismutase 1(Sod1)の遺伝子発現が上昇すること,特にHo-1誘導効果については,エピガロカテキンガレートやレスベラトロールなどほかの抗酸化作用のあるポリフェノール類と比較して,ピセアタンノールによる誘導効果が顕著に高いことを明らかにしてきた(1)1) S. Nonaka, S. Kawakami, H. Maruki-Uchida, S. Mori & M. Morita: Biochem. Biophys. Rep., 18, 100643 (2019)..われわれの体内では酸素を使ってエネルギーを生み出しており,常に活性酸素も産生されている.特に骨格筋内では筋収縮時に活性酸素種(ROS)が生成され,通常は生体内の抗酸化防御機構によってROSは低いレベルに保たれているが,過激な運動時や加齢などに伴う生体内抗酸化能の低下によりROSが十分に消去できずにROS量が高い状態が続くと,過酸化物の蓄積が生じたり,筋疲労や運動能力の低下が現れ(2)2) S. K. Powers & M. J. Jackson: Physiol. Rev., 88, 1243 (2008).,生活の質(QOL)の低下の一因にもなると考えられる.ピセアタンノールは自身の抗酸化活性のみでなく,生体内での酸化ストレス防御機能を増強させることで,過剰なROSを消去し,筋疲労や運動能力の低下を抑制してQOLを維持するのに寄与すると期待される.

図2■ピセアタンノールとレスベラトロール構造

ピセアタンノールによるSIRT1の活性化

ピセアタンノールの類縁体であるレスベラトロールは,長寿遺伝子サーチュイン(SIRT1)を活性化するアンチエイジング素材として有名である.構造が類似のピセアタンノールにもレスベラトロールと同様の効果があるのではと考え,細胞での検証を行った.ヒト単球由来細胞株にピセアタンノールやパセノール™を作用させると,レスベラトロールと同様に,SIRT1発現を遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで誘導することを見いだした(3)3) S. Kawakami, Y. Kinoshita, H. Maruki-Uchida, K. Yanae, M. Sai & T. Ito: Nutrients, 6, 4794 (2014)..さらに,ピセアタンノールおよびレスベラトロールの生体内代謝物でのSIRT1誘導効果を検証したところ,ピセアタンノールの生体内代謝物であるイソラポンチゲニンにもSIRT1発現誘導効果が認められた(3)3) S. Kawakami, Y. Kinoshita, H. Maruki-Uchida, K. Yanae, M. Sai & T. Ito: Nutrients, 6, 4794 (2014)..一方で,レスベラトロールの主要な生体内代謝物には顕著なSIRT1誘導効果が見られなかったことから,ピセアタンノールは,生体内にて代謝された後もSIRT1誘導効果が維持され,レスベラトロールよりも強いSIRT1誘導効果を発揮する可能性が示唆された.

SIRT1は,カロリー制限による寿命延長効果のメカニズムの重要な因子の一つであると考えられており,エネルギー代謝や生体内のさまざまなシグナル伝達系に影響を与える因子であることが明らかとなっている.ピセアタンノールを有効成分とするパセノール™は,SIRT1の発現調節作用により,SIRT1を介したさまざまな健康機能の維持増進に寄与する可能性が期待される(図3図3■長寿遺伝子活性化とその健康効果).血管機能改善効果については,SIRT1は内皮型一酸化窒素合成酵素であるendothelial nitric oxide synthase(eNOS)を活性化することで血管拡張に寄与すると考えられている(4)4) I. Mattagajasingh, C. S. Kim, A. Naqvi, T. Yamamori, T. A. Hoffman, S. B. Jung, J. DeRicco, K. Kasuno & K. Irani: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 14855 (2007)..われわれは血管内皮細胞にピセアタンノールを作用させるとeNOSを活性化すること(5)5) S. Kawakami, Y. Kinoshita, H. Maruki-Uchida, K. Yanae, M. Sai & T. Ito: Nutrients, 6, 4794 (2014).,またラット血管を用いた検証により,ピセアタンノールが一酸化窒素を介して血管を拡張することを明らかにしており(6)6) S. Sano, K. Sugiyama, T. Ito, Y. Katano & A. Ishihata: J. Agric. Food Chem., 59, 6209 (2011).,ピセアタンノールはSIRT/eNOS pathwayを介して血管拡張に寄与する可能性が期待される.ピセアタンノールの代謝改善効果についても検討を進めており,本稿の後半に,特に脂質代謝に着目した研究事例を紹介する.

図3■長寿遺伝子活性化とその健康効果

肌への効果

肌は常に紫外線などの刺激にさらされており,紫外線を浴びることによってROSが産生され,過剰にメラニン合成が促進されることでシミやそばかすが生じたり,コラーゲン量が低下することによって肌の老化が進んでしまう.ピセアタンノールはその高い抗酸化作用により,肌にも良い効果があるのではと考え,各種細胞での検討に着手した.ヒト表皮角化細胞にピセアタンノールを作用させると,生体内抗酸化物質である還元型グルタチオン(GSH)濃度が上昇し,紫外線照射によって生じるROS産生量が抑制された(7)7) H. Maruki-Uchida, I. Kurita, K. Sugiyama, M. Sai, K. Maeda & T. Ito: Biol. Pharm. Bull., 36, 845 (2013)..また,ピセアタンノールを線維芽細胞に作用させると,線維芽細胞でのコラーゲン産生量が増加した(8)8) Y. Matsui, K. Sugiyama, M. Kamei, T. Takahashi, T. Suzuki, Y. Katagata & T. Ito: J. Agric. Food Chem., 58, 11112 (2010)..さらに,紫外線照射した表皮角化細胞の培養上清を線維芽細胞に作用させるとコラーゲン分解酵素であるmatrix metalloproteinase(MMP-1)活性が上昇するが,ピセアタンノールをあらかじめ表皮角化細胞に作用させると,線維芽細胞でのMMP-1活性上昇が抑制されたことから(7)7) H. Maruki-Uchida, I. Kurita, K. Sugiyama, M. Sai, K. Maeda & T. Ito: Biol. Pharm. Bull., 36, 845 (2013).,ピセアタンノールはコラーゲン産生を促進し,分解を抑制すると考えられた.コラーゲンやエラスチンを主成分とする膠原線維や弾性線維からなる真皮の構造は,加齢や過度の紫外線暴露によってその構造が崩れ,皮膚の水分保持能力や弾力が低下してしまうが,ピセアタンノールによってコラーゲンが維持されると,水分保持や弾力の維持に貢献できると考えられる(図4図4■推定されるピセアタンノールの肌へ作用).

図4■推定されるピセアタンノールの肌へ作用

こうした知見をもとに,ピセアタンノールの肌への効果をヒト試験にて検証した.30~59歳の肌の乾燥に悩む健常成人男女19名を対象に,1日当たりピセアタンノールとして30 mg含むパセノール™含有飲料を8週間飲用してもらい,肌水分量や弾力の変化を,ピセアタンノールを含まないプラセボ飲料を対照としたランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較にて検証した.その結果,飲用8週間後の肌水分量の変化量が,プラセボ群と比較してピセアタンノール群で有意に上昇した(9)9) 山本貴之,瀬戸口裕子,森 貞夫,守田 稔,矢野正一郎,前田憲寿:薬理と治療,46, 1191 (2018)図5図5■ピセアタンノール摂取による肌水分および肌弾力への効果).また弾力指標の一つである,退縮時の弾性部の割合であるR7においても,飲用前後の変化量がプラセボ群に対してピセアタンノール群で有意に高い値を示した(図5図5■ピセアタンノール摂取による肌水分および肌弾力への効果).以上の結果から,肌の乾燥に悩む健常な男女において,ピセアタンノールを含む飲料の摂取により肌水分量が維持されるとともに,肌の弾力を保つ効果が確認された.この知見をもとに,肌のうるおいを守る機能や弾力の維持に関して機能性表示食品の届け出が受理されている.

図5■ピセアタンノール摂取による肌水分および肌弾力への効果

脂質代謝への効果

ピセアタンノールは,先に述べたSIRT1への作用や,エネルギー代謝において重要な役割を担うAMP-activated protein kinase(AMPK)を活性化するとの報告もあり,エネルギー代謝に影響を与える可能性が考えられた.特に脂質代謝においては,卵巣摘出手術を施したマウスに高脂肪食を与えたマウスと比較して,ピセアタンノール0.05%を添加した高脂肪食を与えた場合に体重増加や内臓脂肪蓄積が抑制されることが確認できた(10)10) Y. Fujiwara, M. Shiokoshi, R. Kawawa, T. Ishikawa, I. Ichi, S. Mori & M. Morita: Ann. Nutr. Metab., 75(suppl. 3), 307 (2019)..こうした知見をもとに,ヒトにおいてピセアタンノール摂取が脂質代謝に影響を及ぼすかどうかを検証した.20~39歳の健常な成人男女12名に,1日当たりピセアタンノール10 mgを含むパセノール™配合ゼリー飲料を7日間摂取させ,安静時および日常活動レベルの運動時の呼気中酸素濃度,二酸化炭素濃度を測定し,測定時の代謝変化をピセアタンノールを含まない対照飲料(プラセボ)摂取の場合と比較した.その結果,ピセアタンノール含有飲料の摂取により,プラセボ摂取時と比較して呼吸商が有意に低下し,脂肪燃焼の割合が高まることを見いだした(11)11) A.D. Tanzil, S. Kawakami, S. Mori, M. Morita & S. Yano: 薬理と治療,48, 1235 (2020).特に,安静時における呼吸商もピセアタンノール摂取により有意な低下が認められ,同時に酸素消費量および二酸化炭素排出量から算出される脂肪燃焼量においても,ピセアタンノール摂取時に有意な上昇が認められた.安静時の平均脂肪燃焼量は,プラセボ摂取時に比べてピセアタンノール摂取時には約39.5%増加していた(図6図6■ピセアタンノール摂取による脂肪燃焼促進効果).この結果から,ピセアタンノール摂取が,安静時および日常活動程度の運動時において脂質代謝を促進することをヒト試験にて実証できた.ピセアタンノールは,脂肪酸β酸化の調節因子であるperoxisome proliferator-activated receptor alpha(PPARα)やCarnitine palmitoyltransferase I alpha(CPT1α)を誘導する効果が報告されており(12)12) J. S. Yang, J. Tongson, K. H. Kim & Y. Park: Curr. Res. Nutr. Food Sci., 3, 92 (2020).,ピセアタンノールはβ酸化を促進することで,脂肪燃焼を促進する可能性が推察される.また近年,時計遺伝子発現と糖・脂質代謝の関連性について研究がなされており,時計遺伝子Period2(Per2)はPPARαと相互作用して脂質代謝に影響を与えると報告されている(13)13) I. Schmutz, J. A. Ripperger, S. Baeriswyl-Aebischer & U. Albrecht: Genes Dev., 24, 345 (2010)..われわれはピセアタンノールにPer2の発現調節作用があることをin vitroおよびin vivoにて確認しており(14)14) T. Yamamoto, S. Iwami, S. Aoyama, H. Maruki-Uchida, S. Mori, R. Hirooka, K. Takahashi, M. Morita & S. Shibata: J. Funct. Foods, 56, 49 (2019).,ピセアタンノールは,時計遺伝子調節作用を介して脂質代謝に影響を与えているかもしれない.さらに,SIRT1はその脱アセチル化作用によってPer2などの時計遺伝子変動に影響を与えることが明らかになりつつあり,ピセアタンノールのSIRT1誘導効果も脂質代謝促進に関与している可能性が考えられる.

図6■ピセアタンノール摂取による脂肪燃焼促進効果

おわりに

ピセアタンノールという特徴的なポリフェノールを豊富に含むパセノール™は,今回紹介した肌への効果(水分量および弾力の改善)や脂肪燃焼促進効果がヒト試験にて実証されている素材である.現在は,自社製品に配合するだけでなく,原料としての販売も実施しており,パセノール™を配合した製品が広がることで,人々のQOLの改善に少しでも寄与できることを願っている.ピセアタンノールにはまだ明らかにできていない多くの機能性があると考えており,今後もパセノール™およびピセアタンノールの新たな機能性解明や作用メカニズム解明にむけた研究に取り組んでまいりたい.

Reference

1) S. Nonaka, S. Kawakami, H. Maruki-Uchida, S. Mori & M. Morita: Biochem. Biophys. Rep., 18, 100643 (2019).

2) S. K. Powers & M. J. Jackson: Physiol. Rev., 88, 1243 (2008).

3) S. Kawakami, Y. Kinoshita, H. Maruki-Uchida, K. Yanae, M. Sai & T. Ito: Nutrients, 6, 4794 (2014).

4) I. Mattagajasingh, C. S. Kim, A. Naqvi, T. Yamamori, T. A. Hoffman, S. B. Jung, J. DeRicco, K. Kasuno & K. Irani: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 14855 (2007).

5) S. Kawakami, Y. Kinoshita, H. Maruki-Uchida, K. Yanae, M. Sai & T. Ito: Nutrients, 6, 4794 (2014).

6) S. Sano, K. Sugiyama, T. Ito, Y. Katano & A. Ishihata: J. Agric. Food Chem., 59, 6209 (2011).

7) H. Maruki-Uchida, I. Kurita, K. Sugiyama, M. Sai, K. Maeda & T. Ito: Biol. Pharm. Bull., 36, 845 (2013).

8) Y. Matsui, K. Sugiyama, M. Kamei, T. Takahashi, T. Suzuki, Y. Katagata & T. Ito: J. Agric. Food Chem., 58, 11112 (2010).

9) 山本貴之,瀬戸口裕子,森 貞夫,守田 稔,矢野正一郎,前田憲寿:薬理と治療,46, 1191 (2018)

10) Y. Fujiwara, M. Shiokoshi, R. Kawawa, T. Ishikawa, I. Ichi, S. Mori & M. Morita: Ann. Nutr. Metab., 75(suppl. 3), 307 (2019).

11) A.D. Tanzil, S. Kawakami, S. Mori, M. Morita & S. Yano: 薬理と治療,48, 1235 (2020)

12) J. S. Yang, J. Tongson, K. H. Kim & Y. Park: Curr. Res. Nutr. Food Sci., 3, 92 (2020).

13) I. Schmutz, J. A. Ripperger, S. Baeriswyl-Aebischer & U. Albrecht: Genes Dev., 24, 345 (2010).

14) T. Yamamoto, S. Iwami, S. Aoyama, H. Maruki-Uchida, S. Mori, R. Hirooka, K. Takahashi, M. Morita & S. Shibata: J. Funct. Foods, 56, 49 (2019).