解説

DNA二本鎖切断から始まる,遺伝情報を守るしくみと書き換えるしくみDNA二本鎖切断の光と影

Molecular Mechanisms to Protect or Rearrange Genetic Information, Causing by DNA Double-Strand Breaks: Yin and Yang of DNA Double-Strand Breaks

Miki Shinohara

篠原 美紀

近畿大学農学部生物機能科学科,アグリ革新技術研究所

Published: 2021-04-01

DNA二本鎖切断(DSB)修復は,放射線や活性酸素などによって生じる重篤なDNA損傷からゲノムの遺伝情報を守るだけではなく,次世代の遺伝情報の多様性の創出,免疫グロブリンの多様性など生理的にも重要な役割を担っている.さらに,バイオテクノロジーを支える技術面でも遺伝子標的やゲノム編集といった遺伝情報の改変の際に,改変する宿主における基本反応である.遺伝情報の堅牢性と可塑性という,一見相反する性質を生み出すDNA二本鎖切断修復機構は,細胞の中でどのように制御されているのだろうか?

Key words: DNA損傷修復; 減数分裂期組換え; ゲノム不安定化; ゲノム改変技術

DNA二本鎖切断(DSB)とは?

細胞内ではDNAは通常,方向の異なるオリゴヌクレオチドが相補的に水素結合を作ることによって物理的に安定な二本鎖を形成している.単鎖DNAの構造は不安定で,たとえば,引き伸ばしたセロハンテープのようにベタベタとお互いくっつきとても扱いにくいが,お互いにのり面(水素結合)同士を合わせてしまえば,DNA二本鎖として安定するような様子を想像してもらいたい.そしてもう一つ,DNAが二本鎖であることの遺伝情報媒体としての機能面でのメリットは,片方のDNA鎖の情報が失われても,もう一方の相補鎖が残っていれば,複製によって元どおりに失われた情報を再生できることである.ところがDNA損傷の一つであるDNA二本鎖切断は,二本鎖の両方の鎖が同時に切れてしまう損傷でDNA両鎖の情報が一度に失われてしまうためDNA損傷で最も重篤な損傷の一つである(図1図1■細胞環境によるDSB修復方法の違いとその結果得られる結果の違い).DSBを引き起こす原因としては電離放射線が挙げられる.放射線がDNA分子のリン酸骨格に直接当たるとDNAを切断してしまう.つまり,DNA二本鎖の両方を同時に切断すればDSBになるが,しかし,そのように直接DNAにヒットする確率は低く,放射線によるDSBの多くは細胞内の水分子に放射線がヒットすることによって生じるヒドロキシラジカルなど活性酸素種(Reactive oxygen species; ROS)によって引き起こされると考えられている.また,ROSは呼吸鎖など内的要因によっても発生し,またROS以外にもDNA複製の過程でも,リーディング鎖とラギング鎖の合成の連携が崩れると単鎖DNAが露出することからDSBが生じると考えられており,われわれのゲノムDNAやミトコンドリアDNAは常にDSBによって遺伝情報を失う危険にさらされている.もちろん,私たちの細胞はこれら内的あるいは外的要因によって生じたDSBを修復することができる.

図1■細胞環境によるDSB修復方法の違いとその結果得られる結果の違い

DSBはアクシデントとして引き起こされるDNA損傷としてのDSBと生理的に必要なプログラムされたDSBの2つに大別される.前者はさらに細胞周期によってNHEJあるいはHRによって修復されるが,分裂期にはそのどちらもが行われない.一方,プログラムDSBは免疫系細胞の受容体形成にはNHEJが使われ,生殖系細胞におけるキアズマ形成に必須の減数分裂期組換えにはHRが用いられる.

DNA損傷としてのDSBからゲノム情報を守るしくみ

では,細胞はDSBをどうやって元どおりに修復するのか? DSBを修復する方法として,大きく分けて非相同末端結合(Non-homologous end joining; NHEJ)と相同組換え(Homologous recombination; HR)の2つの修復経路があると考えられている(図2図2■DSB修復方法の選択とDNA構造).NHEJは切れたDSBの末端同士を近づけてそのままDNAリガーゼで再結合するという単純な方法である.一方,HRは損傷を受けたDNA配列と相同配列をもつ無傷の鋳型DNAを用いて,その相同配列の情報をコピーすることによって修復することができる.そのときに鍵になるのがDSB末端の単鎖化で,単鎖化された領域と同じ配列をリコンビナーゼが無傷の鋳型DNAから探し当て(相同鎖検索反応),鋳型の相補鎖同士の水素結合を解消してDSB末端との間で新たな水素結合を形成する(DNA鎖交換反応).NHEJとHRどちらの方法を用いるかの経路選択は,細胞の状況によって異なると考えられている(図1図1■細胞環境によるDSB修復方法の違いとその結果得られる結果の違い).たとえば,細胞周期は経路選択するうえで非常に大きな要因であることが知られている.つまり,HRは,修復の際の鋳型DNAが必要なことから,DNA配列が同一であるDNA複製後の姉妹染色分体が存在する,DNA合成期から分裂期直前のG2期にしか用いることができない.一方,NHEJは末端を再結合する反応であることから細胞周期の制約を受けないように思われるが,鋳型なしで末端同士をつなぐことから,常に末端の遺伝情報が失われる危険と隣り合わせである.つまり,切れたDNA末端は修復できても必ずしも元どおりのDNA配列に修復できるとは限らない.このことから,より正確なHRを用いることができるS-G2期にはHRが優先的に用いられるしくみが存在する.また,ヒトの分裂期細胞ではNHEJもHRも抑制されているため,修復が起こらないことが知られている.つまり,分裂期の細胞は非常に放射線やそれに似た効果を示す化学物質に弱く,これらががん治療に用いられる理由である.いずれにしても修復をする場合は,元どおりに修復することが原則であることから,本来は正確性が求められることになる.それが破綻すると,ゲノム不安定化が起こり細胞のがん化を引き起こしたり,ゲノム編集による遺伝子破壊に用いられたりする.あるいは,「わざと」元どおりにならないようにDSB修復のしくみを変化させて遺伝情報の多様性を生むだす原動力として用いたりしている.

図2■DSB修復方法の選択とDNA構造

ゲノムDNA上でDSBが生じたときにはさまざまな修復方法がある.①DSB末端を保護したのち必要に応じてDNA末端を整えて,DNAリガーゼによってそのまま末端同士を再連結する正確な末端結合.②DSB末端を3′-OH末端が突出するように単鎖化し,その単鎖部分の情報を元に相同配列を検索する.次に,塩基間の水素結合の掛け替え(DNA鎖交換反応)を行うことで無傷の鋳型に3′-OH末端が入り込むD-loop構造ができる.侵入した3′-OH末端はプライマーの働きをしてDNAポリメラーゼが鋳型の遺伝情報をコピーする.③単鎖化されたDNA末端は鋳型がなければHRができず,またそのままDNAリガーゼで再連結できない.フラップエンドを取り除くなど末端の大幅なプロセスを伴った末端結合は決して遺伝情報を元通りにできないので不正確な末端結合と呼ばれる.それぞれの経路によって引き起こされる結果や生理反応を青字で示している.

NHEJの基本反応

まずはNHEJの基本反応について紹介したい.前述のとおりNHEJは断裂したDSB末端をそのまま再結合する反応である(図2図2■DSB修復方法の選択とDNA構造).そのため,DSB末端で塩基の欠失や塩基の付加,DNA断片の挿入が起きたとしてもそのまま再結合してしまうことでこれら変異が固定されてしまう危険性がある,後述のHRと比較すると「誤りがちな」修復方法であることが知られている.DSB末端再結合に働くDNAリガーゼはNHEJ専用のDNA ligase IVである.断裂末端にはまず,Ku70/80複合体が結合しヌクレアーゼによる消化から末端の遺伝情報を守っていると考えられている(図3図3■DSB末端単鎖化のモデル).同時にMre11, Rad50,そしてNbs1/NBN(酵母ではXrs2)タンパク質からなるMRN(X)複合体が結合し,その際にMre11とKu複合体が相互作用する(1)1) P. L. Palmbos, J. M. Daley & T. E. Wilson: Mol. Cell. Biol., 25, 10782 (2005)..さらに,MRN(X)複合体はNbs1(Xrs2)に依存してチェックポイントセンサーキナーゼであるATM(酵母ではTel1)をリクルートする(2, 3)2) J. Falck, J. Coates & S. P. Jackson: Nature, 434, 605 (2005).3) D. Nakada, K. Matsumoto & K. Sugimoto: Genes Dev., 17, 1957 (2003)..Rad50がコヒーシン等と同じSMCファミリーに属するタンパク質で2量体を形成し,まるでサクランボのような形をしており(4)4) D. E. Anderson, K. M. Trujillo, P. Sung & H. P. Erickson: J. Biol. Chem., 276, 37027 (2001).,断裂DNA末端同士が物理的に遠くに離れてしまわないようにつなぎ止める役割もあると考えられている(5)5) A. Seeber, A. M. Hegnauer, N. Hustedt, I. Deshpande, J. Poli, J. Eglinger, P. Pasero, H. Gut, M. Shinohara, K. P. Hopfner et al.: Mol. Cell, 64, 951 (2016)..この過程は細胞のゲノム情報の維持には非常に大事な過程で,ヒトでATMやMre11, Nbs1はゲノム不安定化を特徴とする,つまり高発がん性を特徴とする遺伝病の責任遺伝子であり,また多くのがん細胞で変異が見つかることからがん抑制遺伝子として重要な因子である(6)6) A. Syed & J. A. Tainer: Annu. Rev. Biochem., 87, 263 (2018).

図3■DSB末端単鎖化のモデル

DSB末端にはKu等のNHEJに必要な因子がリクルートされ,NHEJで修復される場合はこの時点で修復が行われる.HRを用いて修復する場合には,Sae2(哺乳類ではCtIP)とMre11の両方の機能に依存してDSB末端から少し離れたところにエンドヌクレアーゼ活性によりニックが導入されDSB末端の単鎖化が開始する.次にニックから5′→3′方向へはExo1あるいはSgs1–Dna2複合体が単鎖漁期を拡大し,Mre11は3′→5′方向のDSB末端へ向かって単鎖領域をひろげる.

さらに脊椎動物等ではDNA-PKcsがNHEJの反応を活性化すると考えられている(7)7) A. N. Blackford & S. P. Jackson: Mol. Cell, 66, 801 (2017).が,酵母にはDNA-PKcsのホモログは存在しない.そして最後に断裂末端を連結するためにDNA ligase IVが呼び込まれるが,酵母からヒトまでDNAリガーゼとしての酵素活性をもつDNA ligase IVタンパク質が細胞内で働くためには,さらに2つの制御サブユニット(ヒトXRCC4とXLF,酵母Lif1とNej1)が加わった複合体を形成する必要がある(8)8) B. L. Mahaney, M. Hammel, K. Meek, J. A. Tainer & S. P. Lees-Miller: Biochem. Cell Biol., 91, 31 (2013)..酵母2倍体細胞ではNej1の発現が転写レベルで抑制されることでNHEJが抑制されている(9)9) M. Valencia, M. Bentele, M. B. Vaze, G. Herrmann, E. Kraus, S. E. Lee, P. Schar & J. E. Haber: Nature, 414, 666 (2001)..また,分裂期細胞でNHEJによる修復が抑制されるが,DSB末端でのATMの活性化までは正常に起こり,その後のNHEJに必要なDNA-PKcsとXRCC4が抑制される.つまり,NHEJ因子は分裂期に活性化するサイクリン依存性キナーゼCDK1と分裂期PLK1キナーゼによってリン酸化を受けることで何らかの形で活性が抑制されていると考えられている(10, 11)10) M. Terasawa, A. Shinohara & M. Shinohara: PLOS Genet., 10, e1004563 (2014).11) P. Douglas, R. Ye, L. Trinkle-Mulcahy, J. A. Neal, V. De Wever, N. A. Morrice, K. Meek & S. P. Lees-Miller: Biosci. Rep., 34, e00113 (2014)..私たちはヒト細胞において制御サブユニットであるXRCC4の256番目のセリン残基がPLK1によってリン酸化されることでDNA ligase IVの機能を著しく低下させることを明らかにしている.さらに,この分裂期のNHEJの抑制には53BP1とRNF8というNHEJを促進するための因子もCDK1とPLK1によってリン酸化されることで多段階的にNHEJを分裂期染色体DNA上で抑制する必要があると考えられる(12)12) A. Orthwein, A. Fradet-Turcotte, S. M. Noordermeer, M. D. Canny, C. M. Brun, J. Strecker, C. Escribano-Diaz & D. Durocher: Science, 344, 189 (2014).

この分裂期におけるNHEJの抑制をキャンセルすると,RNF8あるいは53BP1の分裂期の活性化はテロメア融合から染色体の断裂と不安定化を引き起こし,XRCC4の分裂期の活性化は2動原体染色体の形成によって分裂期に染色体の断裂を引き起こす.

HRの基本反応

HRはDNA二本鎖切断で断裂したDNA末端で失われた情報を,同じDNA配列をもつ鋳型DNAの情報をコピーすることから非常に「正確な」修復方法である.HRの初期過程でまず行うことは,断裂DNA末端の周辺領域の単鎖化である.相同組換えはRecA様リコンビナーゼ,つまりバクテリアのRecA,真核生物のRad51が行うが,これらリコンビナーゼは単鎖DNAに結合し,修復の鋳型となる相同な塩基配列をもつ二本鎖DNAを見つけ出し(相同鎖検索),鋳型二本鎖DNAの鎖間水素結合を単鎖DNAと掛け替える(鎖交換)という反応を担っている(図2図2■DSB修復方法の選択とDNA構造).その後,鋳型と水素結合を形成した断裂DNA末端からDNA合成が開始する(損傷部分の遺伝情報のコピー)ので,単鎖化したあとの断裂末端は3′-OH末端でなければならない.つまり,DSB末端で起きるDNAの単鎖化は3′-OH突出末端を形成する必要がある.この単鎖化の開始にはMRN(X)複合体とSae2(哺乳類CtIP)が必須であることがわかっていて,DSB末端の少し内側にエンドヌクレアーゼ活性を用いてDNAニックを導入することによって開始する(図3図3■DSB末端単鎖化のモデル).その後,そのDNAニックから5′→3′方向への単鎖領域の拡張には酵母ではExo1あるいはSgs1ヘリカーゼ/DNA2エンドヌクレアーゼが機能し,ニックからDSB末端に向かって3′→5′方向へのエキソヌクレアーゼとしてはMre11が働くことで両方向的にHRを行うために十分な単鎖DNA領域が形成される(13)13) L. S. Symington: Nature, 514, 39 (2014)..しかしながら,MRN(X)複合体とSae2/CtIPがどのように協調してエンドヌクレアーゼとしての活性をもち,その後,さらにMre11がエキソヌクレアーゼとして機能を切り替えることができるのかなど,不明な点が多く残っている.そもそも,DSB末端を単鎖化するのにこのように2段階の反応にどうしてする必要があるのかまだわかっていない(コラム参照).また,この過程でNHEJに必要なKu複合体がDSB末端から解離すると考えられ,この過程がNHEJとHRの最終的な分水嶺となっていると考えられる(14)14) D. Iwasaki, K. Hayashihara, H. Shima, M. Higashide, M. Terasawa, S. M. Gasser & M. Shinohara: PLOS Genet., 12, e1005942 (2016)..そのため,DSB末端の単鎖化開始に必要なSae2/CtIPは細胞周期依存的にその活性が制御され,HRを行うべきではないG1期には活性とタンパク質発現が抑制されている(15, 16)15) Q. Fu, J. Chow, K. A. Bernstein, N. Makharashvili, S. Arora, C. F. Lee, M. D. Person, R. Rothstein & T. T. Paull: Mol. Cell. Biol., 34, 778 (2014).16) P. Huertas, F. Cortes-Ledesma, A. A. Sartori, A. Aguilera & S. P. Jackson: Nature, 455, 689 (2008)..この単鎖DNAを形成する過程が上記のように秩序だって起こらない場合には,本来,NHEJを行うべきではない単鎖化されたDSB末端同士をDNAリガーゼによって再結合することによるDSB部位での塩基欠失や挿入を伴うような不正確な末端結合が不正に上昇することが知られている.これが細胞がん化にいたるゲノム不安定化の原因の一つであると考えられている(17)17) S. F. Bunting, E. Callen, N. Wong, H. T. Chen, F. Polato, A. Gunn, A. Bothmer, N. Feldhahn, O. Fernandez-Capetillo, L. Cao et al.: Cell, 141, 243 (2010).

さて,DSB末端が単鎖化されたあとにはまず単鎖DNA結合タンパク質が結合するが,そこにリコンビナーゼが結合するためにはメディエーターと呼ばれる因子が必要である.特に真核生物のRad51リコンビナーゼはメディエーターがなければ,単鎖DNA結合タンパク質RPAが結合した単鎖化DNA上に結合することができない.酵母ではRad52がメディエーターとして機能するが,脊椎動物ではその役割はBRCA2が担っている.BRCA2は,家族性乳がんの責任遺伝子であり,がん抑制因子としてよく知られている.BRCA2が機能しない細胞では本来,HRによって正確に修復するべきDNAの傷が正しく修復できないために不正確な修復が行われ,その結果としてゲノムの不安定化が起こり,細胞のがん化を引き起こすと考えられている(17)17) S. F. Bunting, E. Callen, N. Wong, H. T. Chen, F. Polato, A. Gunn, A. Bothmer, N. Feldhahn, O. Fernandez-Capetillo, L. Cao et al.: Cell, 141, 243 (2010).

さらに,細胞中で単鎖化DNA上でRad51が機能するためには,Rad51はDNAに結合して,らせん状フィラメント構造を取る必要があるが,それを促進・安定化するのがRad51パラログだと考えられている.Rad51パラログは,構造的にはRad51と類似し,Rad51との間に直接的な相互作用が存在するがリコンビナーゼとしての機能を単独ではもたない.酵母ではRad55–Rad57複合体,PCSS(Psy3–Csm2–Shu1–Shu2)複合体が知られており,ヒトではそれぞれRad51B–Rad51C–Rad51D–XRCC2複合体とRad51C-XRCC3複合体,さらにSWS1–SWSAP1と,種を超えて似たような機能をもつタンパク質群が見つかっていることから機能的に保存されていると考えられている(18~20)18) M. R. Sullivan & K. A. Bernstein: Genes (Basel), 9, 629 (2018).20) H. Sasanuma, M. S. Tawaramoto, J. P. Lao, H. Hosaka, E. Sanda, M. Suzuki, E. Yamashita, N. Hunter, M. Shinohara, A. Nakagawa et al.: Nat. Commun., 4, 1676 (2013).

一方で,リコンビナーゼは相同配列間の組換えによりゲノム情報の再編が可能であることから使い方を誤ると非常に危険な酵素であると言える.そのため,酵母ではSrs2やSgs1,哺乳類ではWRN, BLM, RTEL, PARI, FIGNL1・・・など実に多くの抗リコンビナーゼが存在する.そして,前述のRad51の構造を守るためのパラログと抗リコンビナーゼのバランスによって不必要なHRを抑制することで修復の正確性を担保し,ゲノム情報の安定化に機能していると考えられる(21)21) J. Liu, L. Renault, X. Veaute, F. Fabre, H. Stahlberg & W. D. Heyer: Nature, 479, 245 (2011)..また,実際の細胞内のゲノムDNA上でのHRはクロマチン構造上で行う必要があることから,リコンビナーゼが機能するためにはRad54などのHR専用のクロマチンリモデラーや,DSB周辺のクロマチン構造を緩めるためのヒストンの翻訳後修飾なども必要である.

DNA損傷としてのDSBの修復だけではなく,DNA複製の途中で複製フォーク停止を起こした際の,DNA複製フォークの再活性化にもHRは必要だと考えられている.

プログラムされたDNA二本鎖切断修復による遺伝情報多様性の創出

DSBは修復すべき重篤なDNA損傷という側面だけではなく,生物が生きていくために必須の機能を果たしている(図1図1■細胞環境によるDSB修復方法の違いとその結果得られる結果の違い).つまり,生物は本来,恐ろしいはずのDSBを巧みに利用して,遺伝情報の多様性を獲得している.たとえば,免疫系細胞である,B細胞,およびT細胞において,多様な病原体に対応するための抗原受容体の多様性を生み出すために貢献をしている.B細胞の抗原受容体である免疫グロブリンの遺伝子はV, D, Jの3つの遺伝子パーツから成り立っており,44個のV, 27個のD, 6個のJ遺伝子パーツを切り貼りすることによって作られている.この過程はV(D)J組換えと呼ばれるRAG1-RAG2タンパク質複合体によるDNA二本鎖切断とNHEJによるV, D, Jそれぞれのランダムな組合せによる再結合によって遺伝情報の再編成を行うことで多様性を得ている(図1図1■細胞環境によるDSB修復方法の違いとその結果得られる結果の違い).

また別の機構として,生殖細胞系列において有性生殖を行う生物が単数体配偶子,つまり卵子や精子等を作る過程である減数分裂期に特異的な減数分裂期組換えが挙げられる(図1図1■細胞環境によるDSB修復方法の違いとその結果得られる結果の違い).減数分裂期は1回のDNA複製の後に2回の分裂を行うことで,ゲノムを半減し単数体配偶子を形成する過程である.その最大の特徴は減数第一分裂期に相同染色体を分配する過程である.体細胞の分裂期,あるいは減数第二分裂期には姉妹染色分体を分配するが,これらとは全く異なるシステムを用いていており,そこに減数分裂期組換えが必要である.減数第一分裂期前期のレプトテン期には,トポイソメラーゼVI様のSpo11複合体(以降Spo11)がゲノムDNAに数百ものDSBを導入する.そのDSBを遺伝情報が異なる(他人である)父母由来の相同染色体の間で乗換え型の相同組換え(crossover)を行うことで,染色体レベルでの遺伝情報の再編が起こる.その結果,配偶子,つまり子孫の遺伝的多様性を生み出すことになる.しかし,本来の目的はもともと物理的接着の存在しない相同染色体の間にキアズマを形成することで,減数第一分裂期での相同染色体の分配を可能にすることである.さて,Spo11による積極的なDSB導入が組換え部位を決めることになるが,DSB導入部位に塩基特異性はなく,ヒストンの翻訳後修飾がDSB導入部位の決定に重要な機能を果たすことが知られている.Spo11のDSB導入部位の決定には転写活性化にかかわるヒストンH3の4番目のリジン残基のメチル化が重要な機能を果たしている.そのため,個体や雌雄によってもSpo11によるDSB導入部位は異なっている.また,哺乳類ではヒストン修飾に加えて一部の組換え部位ではZinc-fingerモチーフで塩基特異的認識・結合能をもつPrdm9などが機能する.

Spo11タンパク質によって導入されたDSBはHRによって修復されるが,その際にリコンビナーゼとしてはRad51ではなく,減数分裂期特異的に発現するDmc1が使われる.また,体細胞でのHRとは,鋳型として相同染色体を選択する以外にも,DSBの両末端が生化学的に異なる反応によって非対称な組換え中間体(SEI: single-end invasion)を形成する,SEIは乗換え型の組換え体に選択的に変換されるなど異なる点が数多くある.これらの減数分裂期特異性は,組換えの場となる減数分裂期特異的な染色体構造がHRに間接的・直接的にかかわることによって生じると考えられるがそのメカニズムの詳細についてはいまだわからないことが多く残されている.さらに,数百にも及ぶSpo11によるDSBによって開始される減数分裂期組換えは,最終的にキアズマに変換される時には数が絞り込まれ,近傍で乗換え型組換えが起きないように厳密に制御されている.そのため,哺乳類では相同染色体ペアあたりほぼ1カ所に数が絞り込まれる.しかし,どのようにして染色体上で遠く離れて存在する組換え中間体のどれを選んで,将来キアズマとして残すと決めるのか? そして,それ以外の中間体を乗換えではない,体細胞型のHRによって修復するが,その選択のメカニズムについてもあまりよくわかっていない.このメカニズムがわかって,人為的にコントロールすることができれば掛け合わせによる育種も,今よりもっと効率よくできるようになるかもしれない.

ゲノム編集のIN/DEL変異形成とDSB修復

元々はバクテリアの獲得免疫システムの一つであるCRISPR/Cas9システムの技術応用により安価かつ容易になったゲノム編集技術は,エンドヌクレアーゼであるCas9蛋白質をガイドRNA部分の配列によって標的遺伝子部位に特異的に連れて行き,DSBを導入させる技術である.しかしながら,CRISPR/Cas9によってDSBを導入した後は,導入された宿主の修復システム任せであるため,ゲノム編集のしやすさには生物によって差がある.CRISPR/Cas9によるDSBは,主にNHEJによって修復されるが,本来は変異が入らないように元どおりに修復されるべきである.しかし前述のように稀に,誤りがちなNHEJは,「DSB末端で塩基の欠失や塩基の付加,DNA断片の挿入が起き」るために標的配列に変異が導入されることになる.さらに,正確に元どおりに直すと何度でもCRISPR/Cas9の標的になってDNA損傷が入ることから,変異が入って標的とならなくなったクローンが選択的に生きてくることで編集が起きたクローンを比較的高確率で得ることができる.

しかしながら,先述のとおり,ゲノム編集のしやすさとともに,どのような変異を導入するかについても,現状では使う側はコントロールすることができない.では,どのようにすればゲノム編集を高確率で起こすことができるだろうか? 酵母では,誤りがちなNHEJがsae2変異株において野生株の10~20倍の頻度で,一方で,tel1変異株では数倍程度の上昇があることがわかっている(22)22) K. Matsuzaki, M. Terasawa, D. Iwasaki, M. Higashide & M. Shinohara: Genes Cells, 17, 473 (2012)..Sae2はHRの初期段階でDSB末端の単鎖化に必要で(図3図3■DSB末端単鎖化のモデル),さらにsae2変異株ではKu複合体のDSB末端からの除去が効率よく起こらない.つまりsae2変異株では,変異を伴う間違ったNHEJだけではなく,正確なものも含めてNHEJ全体の頻度が上昇するので,大きな欠失を伴うような間違ったNHEJはあまり起こらない(22)22) K. Matsuzaki, M. Terasawa, D. Iwasaki, M. Higashide & M. Shinohara: Genes Cells, 17, 473 (2012)..一方で,tel1変異の場合は塩基の欠失を伴う様な間違ったNHEJが高頻度でおこるが,この場合は末端の単鎖化は正常に行われるのに,Ku複合体のDSB末端からの除去が効率よく起こらないことに起因する(14)14) D. Iwasaki, K. Hayashihara, H. Shima, M. Higashide, M. Terasawa, S. M. Gasser & M. Shinohara: PLOS Genet., 12, e1005942 (2016)..Tel1は哺乳類のATMキナーゼの酵母オルソログで,DSBによって活性化し,損傷修復を含め細胞内でDSBに起因するさまざまな反応を協調的に引き起こすために必要な中心因子である.また,ヒトATM遺伝子はゲノム不安定化を伴う高発がん性疾患であるataxia telangiectasia(AT:毛細血管拡張性運動失調症)の責任遺伝子であり,また,さまざまながん細胞で変異が多く見つかるがん抑制遺伝子としても知られる.一方,Sae2はヒトのCtIPオルソログで,CtIPの機能欠損もゲノム不安定化を特徴とするSeckel症候群を引き起こし,こちらはATと同様に神経症状を引き起こすががんは引き起こさない(23)23) M. O’Driscoll & P. A. Jeggo: DNA Repair (Amst.), 7, 1039 (2008)..これらの先天性疾患の症状の違いが,酵母でのNHEJの性質の違いによって説明できるかもしれない.

疾患との関係からもわかるように,ゲノム編集を効率よく行うことができるということは,ゲノム不安定化を高頻度で引き起こすということと同義であるといえる.ゲノム編集のために常にATMやCtIPの機能を抑えておくことは宿主のゲノム不安定化を引き起こすことになるため適当ではない.しかし,ゲノム編集を行うその場限りのピンポイントで用いることができればゲノム編集の効率や変異の質を変化させるために役立つかもしれない.実際にCtIPをCRISPR/Cas9近傍に人為的に集合させることでゲノム編集を促進することができるという報告がある(24)24) S. Nakade, K. Mochida, A. Kunii, K. Nakamae, T. Aida, K. Tanaka, N. Sakamoto, T. Sakuma & T. Yamamoto: Nat. Commun., 9, 3270 (2018)..DSB修復のメカニズムを知ることでゲノム編集をどの生物でも効率よく,また,導入する変異もどのような変異を導入するのか選択できるようになるかもしれない.

おわりに

DNA二本鎖切断は,生物にとって脅威であるにもかかわらず,自らの遺伝情報,そして次世代の遺伝情報の多様性を創出するためにうまく利用している.その二面性がとても面白く,その魅力にとりつかれ「DNA二本鎖切断を巡る冒険」と自身の研究を呼び,大学院生のときにこの分野の研究を始めてからその分子機構の解明に取り組んでいる.この総説は,細胞がん化から,免疫,ゲノム編集,配偶子形成と盛りだくさんの内容で,その結果,浅く広くの情報になってしまったかもしれない.この総説が皆さんの(難しいと敬遠されがちな)DNA二本鎖切断修復に興味をもつきっかけになれば幸いである.

Reference

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