巻頭言

BBBのこと

Yoshihito Suzuki

鈴木 義人

茨城大学

Published: 2021-05-01

英文誌(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry; BBB)の編集委員長を4年近く務めましたが,本年2月をもって退任致しました.編集委員や事務局担当者など多くの方々にご協力いただきましたことに御礼申し上げます.ABC(Agric. Biol. Chem.)の頃からお世話になってきたBBBについて,数年前からの課題と今後について少し書かせていただきます.

数年前のBBBの課題は投稿数の減少傾向への対応でした.すでにImpact Factor(IF)至上主義ではなかったものの,やはりIFは著者が投稿先を選ぶ際の重要な基準となっているので,IFを上げることが効果的だろうという結論で,前任の委員長のときから特集号を組み,一定期間フリーアクセスを可能にするという方策を採りました.特集号の論文は全体として引用回数が高い傾向が見られましたので,一定の効果はあったものと思われます.一方,学術誌全般的な問題としてはいわゆるハゲタカジャーナルの存在が挙げられます.本来の学術誌のもつ理念とはかけ離れた,掲載料を稼ぐことのみを目的としており,偽りのエディター名を掲載している詐欺まがいのものもありました.さらに,最近ではPaper millsという捏造論文製造組織の存在が明らかになってきました.全くの捏造データで論文を仕上げ,それを売って商売をしているというのですが,現時点では,ポジションを維持するために論文を出すことが必須の中国の病院関係者が利用しているらしく,それらの論文の内容に関する典型的なパターンも示されています.しかし,どこまで利用者が広がっているのか,またどこまで巧妙な変化球があるのかは不明です.性善説に立った査読者には見極めることは不可能ですので,現状BBBとしては,エディターに審査をお願いする前の入り口の段階でしっかりと守りを固めるという対応策で応じています.ハゲタカジャーナルやPaper millsなど,詐欺行為で出版されるいい加減な論文に世の中のpeer reviewシステムが悪影響を受け,また,IFを含めたジャーナルの評価基準となる数値そのものがねじ曲げられかねない状況にあります.

もう一点,今後,考えるべきこととしてはオープンアクセス(OA)ジャーナル化への対応が挙げられます.寡占状態にある出版社からのジャーナル購読価格が高騰し,大学等の研究機関の財政を圧迫しています.その対抗策として,すべてのジャーナルがOA化すれば良いという考え方があります.ジャーナル購入にかかっている研究機関の支出を,OAジャーナルへの掲載料に振り向け,最終的にすべての論文がOAになればジャーナル購入費がかからなくなるという理屈で,それへ向けた動きが海外では従来から活発化しています.しかし,その過程で,既存の多くのジャーナルが,部分的にOAとして論文を公開するハイブリッド型のジャーナルになりました.BBBもその一つですが,この場合,出版社はOA論文として投稿する著者から掲載料を取り,さらにその研究者が所属する研究機関から購読料も取るという二重取りの問題があります.明らかにねじれた構造ですし,OAジャーナルへの投稿を義務化する海外での動きなどを見ると,BBBも現在のハイブリッドの形はいずれ再考の必要があるでしょう.BBBを直ちにOA化しても,高い掲載料で投稿者数が激減する可能性は否定できません.出版社からのパッケージ化されたジャーナルの購読を止め,構成員である研究者のOA論文への掲載料を支出するといった思い切った決断をする研究機関はないものでしょうか.

これからもジャーナルの取るべき形態は変化し続けることでしょうし,それを絶えず注視していく必要があります.BBBとしての使命は,投稿論文が正しく評価され,また詐欺まがいの論文が載るようなジャーナルではないと学会員が安心して投稿・購読できるジャーナルであり続けることでしょう.