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アミロイドタンパク質を認識する核酸アプタマーAβ42オリゴマーに対する初めてのRNAアプタマー

Kazuma Murakami

村上 一馬

京都大学大学院農学研究科

Kazuhiro Irie

入江 一浩

京都大学大学院農学研究科

Published: 2021-05-01

アミロイドタンパク質の凝集は,神経変性疾患の病態にかかわっていることが知られている.これまでに多くのアミロイドタンパク質が同定されており,これらの凝集体に結合する物質は,診断および治療に応用可能である.当初より,アミロイド凝集体に結合する抗体が精力的に開発されてきたが,中枢神経疾患特有の問題である血液脳関門への透過性の低さや免疫原性の高さなどから,抗体医薬としての実用化には至っていない.神経変性疾患の半分以上を占めるアルツハイマー病(AD)では,原因物質とされるアミロイドβタンパク質(Aβ)の凝集体に対する抗体医薬の臨床試験は,20年間にわたりチャレンジと失敗を繰り返している(1)1) R. Howard & K. Y. Liu: Nat. Rev. Neurol., 16, 63 (2020).

一方,抗体に匹敵する高い結合能と選択性を有する核酸アプタマーは,1本鎖のオリゴDNAあるいはオリゴRNAであり,分子内水素結合により多彩な高次構造を取ることによって標的分子を認識する.核酸アプタマーは抗体に比べて開発コストが低いという大きなメリットがあり,これまでにいくつかのアミロイドタンパク質(Aβ,プリオン,β2ミクログロブリン,α-シヌクレイン,タウ)の凝集体に対する核酸アプタマーがそれぞれ報告されている(2)2) A. Bouvier-Müller & F. Ducongé: Biochimie, 145, 73 (2018)..凝集体は,オリゴマー(準安定な中分子凝集体)とフィブリル(安定な最終凝集体:アミロイド線維)の2つに大別されるが,特にADでは凝集性が高い42残基のAβ42のオリゴマーが毒性本体とされている.Aβ42オリゴマーはさまざまな重合度のオリゴマーやモノマーと平衡状態にあるため,毒性を示すAβ42オリゴマーに特異的に結合するアプタマーの開発は原理的にきわめて困難であった.最近,筆者らはAβ42のオリゴマーの一つであり,AD病態との関連が指摘されているプロトフィブリル(PF)に対するRNAアプタマーの開発に成功したので(3, 4)3) K. Murakami, Y. Obata, A. Sekikawa, H. Ueda, N. Izuo, T. Awano, K. Takabe, T. Shimizu & K. Irie: J. Biol. Chem., 295, 4870 (2020).4) Y. Obata, K. Murakami, T. Kawase, K. Hirose, N. Izuo, T. Shimizu & K. Irie: ACS Omega, 5, 21531 (2020).,本稿ではその作製経緯と診断応用について紹介する.

Aβ42オリゴマーに対する核酸アプタマーを開発するためには,長時間かつ一定の範囲の重合度で存在できる毒性オリゴマーモデルの開発が不可欠である.Aβ42の毒性オリゴマー化の鍵を握っているのが,Glu22, Asp23付近におけるターン構造を特徴とした毒性コンホマーであるとの仮説が,入江らによって提唱されている(5)5) K. Irie: Biosci. Biotechnol. Biochem., 84, 1 (2020)..そこで,毒性オリゴマーを形成しやすいプロリン置換体(E22P-Aβ42)を利用して,オリゴマー化に重要なC末領域のVal40の部位で2価性アミノ酸で架橋した2量体モデル(1図1図1■試験管内人工進化における限外ろ過膜を用いたRNAアプタマーの分離法)を合成した.1はPFとして24時間以上安定に存在するとともに,培養神経細胞に対して細胞毒性を示した.試験管内人工進化法によるアプタマー選抜の標的分子として,1あるいは1から調製したPFを選び,RNAプールあるいはDNAプールとそれぞれ混ぜてインキュベーションしたところ,PFに対して結合したRNAプールの割合が増大したため,クローニングした.選抜の際には,従来から多用されているカラム法(固相–液相反応)ではなく,PFの溶液状態での立体構造をそのまま保持させるために限外ろ過膜法(液相–液相反応)で分子量の違いを利用して分離した(図1図1■試験管内人工進化における限外ろ過膜を用いたRNAアプタマーの分離法).PFに対する結合能が最も強かったモノクローン(RNAアプタマー)をE22P-AbD43と命名し,各種Aβ誘導体に対する結合試験を行ったところ,2量体モデルに対して最も強く結合した(KD=20 nM).この結合能は,野生型Aβ42とE22P-Aβ42のモノマー(KD=80, 50 nM)や凝集性ならびに神経細胞毒性をほとんど示さないAβ40のモノマーおよびAβ40から作成したPF(KD=130, 300 nM)よりも高かった.一方で,Aβ42やAβ40から作製したアミロイド線維(フィブリル)には全く結合しなかった.

図1■試験管内人工進化における限外ろ過膜を用いたRNAアプタマーの分離法

2量体モデル(1)を48時間プレインキュベーションして得られたプロトフィブリル(PF)とRNAプールを混ぜて,1時間インキュベーションする.その後,PFの溶液状態での立体構造をそのまま保持させるために,限外ろ過膜法(液相—液相反応)で分子量の違いを利用することによって,PF結合RNAとPF非結合RNAを分離する.

RNAアプタマーの最適化や分解耐性を考えるうえで,その立体構造情報は有用である.2次構造情報を簡便に得る手段であるCD測定から,E22P-AbD43は連続グアニン配列を特徴としたG四重鎖構造を形成している可能性が示唆された.全反射型FT-IRの測定結果も,G四重鎖構造の存在を支持した.またClustal OmegaとMultiple EMによるアライメントサーチからも連続グアニン配列の存在が示唆され,QGRS MapperによるG四重鎖構造の存在頻度の計算結果とも概ね一致した.最近DasとChiらはクライオ電子顕微鏡を用いてRNAアプタマーの高速3次構造解析を報告している(6)6) K. Kappel, K. Zhang, Z. Su, A. M. Watkins, W. Kladwang, S. Li, G. Pintilie, V. V. Topkar, R. Rangan, I. N. Zheludev et al.: Nat. Methods, 17, 699 (2020)..今後これらの高度分析装置の適用が期待される.

続いて,RNAアプタマーによるAβの凝集能評価には,多用されるチオフラビンT試薬が核酸自体に強く結合したため,本実験ではその誘導体であるチオフラビンSを用いた.その結果,オリゴマー形成に重要な核形成過程をE22P-AbD43が阻害したため,標的となるオリゴマー種を調べるためイオンモビリティー質量分析(IM-MS)測定を日本ウォーターズ(廣瀬賢治博士・川瀬泰司氏)の協力を得て行った.その結果,E22P-AbD43を加えることにより,Aβ42の2量体との付加体が検出され,それ以上のオリゴマー形成が阻害された.さらに,ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yを用いてMTT試験を行った結果,E22P-AbD43は1だけでなく,Aβ42とE22P-Aβ42の神経細胞毒性を緩和した.

最後に,ADのマウスモデルであるTg2576/PS2マウスの脳切片を用いたE22P-AbD43による免疫組織化学染色を,千葉大学の清水孝彦博士(現長寿研)と泉尾直孝博士(現富山大学)の協力を得て行った.その結果,大脳皮質ならびに海馬の領域において,PFに由来する沈着物が主として検出されたのに対して,フィブリルからなる老人斑はほとんど染色されなかった.さらに,顕著なPF形成を特徴としたArctic変異(E22G)をもつノックインマウス(AppNL-G-F/NL-G-F)の脳内の沈着物に対してもE22P-AbD43は顕著に結合した.

以上より,E22P-AbD43はAβ42の2量体に強く結合することにより,それ以上のオリゴマー化を抑制し,神経細胞毒性を緩和することが判明した.Aβ42とAβ40のフィブリルのいずれにも結合しなかったこと,Aβ40由来の各種凝集体に対する結合能は低かったことから,E22P-AbD43はAβ42のオリゴマーに対する初めてのRNAアプタマーと言える.さらにE22P-AbD43は,ADマウス脳のオリゴマーも顕著に捉えたことから,ADの治療および診断に役立つ新しい核酸医薬シーズになることが期待される.

核酸医薬には,アプタマー以外にアンチセンス核酸やsiRNAが知られている.近年,神経変性疾患への適用は広がりつつあり,デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するEteplirsenや脊髄性筋萎縮症に対するNusinersenが新たに医薬品として上市されている.RNA創薬で鍵になるのは,核酸分子の生体内における安定性および目的臓器への薬物送達である.前者に関しては,ヌクレアーゼ耐性をもつ修飾核酸の開発が精力的に進められているが,アプタマーの場合,結合能を維持させたまま修飾核酸を導入する必要がある.後者に関しては,リポソームやエクソソームを用いたドラッグデリバリーが有力視されている.主鎖にペプチド結合をもつ核酸アナログであるペプチド核酸(PNA)は,強い分解耐性と核酸認識能をもつが(7)7) P. E. Nielsen, M. Egholm, R. H. Berg & O. Buchardt: Science, 254, 1497 (1991).,ミスマッチ認識の回避に不可欠な長鎖合成が困難であった.最近,筆者らは20残基の長鎖PNAの合成法を確立しており(8)8) R. Yagita, K. Murakami, H. Ikeda & K. Irie: Tetrahedron Lett., 61, 151781 (2020).,関連領域の今後の展開が期待される.

Acknowledgments

科学研究費補助金[基盤研究S(26221202・入江),基盤研究C(22603006・村上),若手研究A(16H06194・村上)]からご援助を賜りました.実験を担当した小畑弥生氏,関川あさ氏,上田 遥氏に深謝いたします.

Reference

1) R. Howard & K. Y. Liu: Nat. Rev. Neurol., 16, 63 (2020).

2) A. Bouvier-Müller & F. Ducongé: Biochimie, 145, 73 (2018).

3) K. Murakami, Y. Obata, A. Sekikawa, H. Ueda, N. Izuo, T. Awano, K. Takabe, T. Shimizu & K. Irie: J. Biol. Chem., 295, 4870 (2020).

4) Y. Obata, K. Murakami, T. Kawase, K. Hirose, N. Izuo, T. Shimizu & K. Irie: ACS Omega, 5, 21531 (2020).

5) K. Irie: Biosci. Biotechnol. Biochem., 84, 1 (2020).

6) K. Kappel, K. Zhang, Z. Su, A. M. Watkins, W. Kladwang, S. Li, G. Pintilie, V. V. Topkar, R. Rangan, I. N. Zheludev et al.: Nat. Methods, 17, 699 (2020).

7) P. E. Nielsen, M. Egholm, R. H. Berg & O. Buchardt: Science, 254, 1497 (1991).

8) R. Yagita, K. Murakami, H. Ikeda & K. Irie: Tetrahedron Lett., 61, 151781 (2020).