Kagaku to Seibutsu 59(5): 247-253 (2021)
解説
電気化学的前処理/導電式担体充填による2段発酵を廃水・廃棄物処理へ適用微弱な通電前処理により後段でのセルロース系廃棄物のメタン生成速度を高める
Two-Stage Process by Bioelectrochemical Preprocessing/Conductive Carrier Filling Is Applied to Wastewater/Waste Treatment: Enhanced Methane Production from Cellulose Using a Bioelectrochemical System and a Fixed Film Reactor
Published: 2021-05-01
メタン発酵(嫌気性消化)は嫌気的な環境下で複雑な有機物をメタンと二酸化炭素に分解する方法であり,生ごみや余剰汚泥等の有機性廃棄物の処理に応用されている(1)1) D. Wu, L. Li, X. Zhao, Y. Peng, P. Yang & X. Peng: Renew. Sustain. Energy Rev., 103, 1 (2019)..回収されたメタンガスは発電等に利用されるため,メタン発酵はエネルギー資源回収技術として有効である(2)2) J. Meegoda, B. Li, K. Patel & L. Wang: Int. J. Environ. Res. Public Health, 15, 2224 (2018)..メタン発酵は加水分解・酸生成・酢酸生成・メタン生成の4つの過程に分けられ,各過程にかかわる微生物同士が物質のリレーをしながら進行する(図1図1■メタン発酵の過程と課題).メタン発酵の効率を高めるために微生物を保持する固定化担体を設置する発酵槽(fixed film reactor)が開発されており,筆者らは導電性付着担体である炭素繊維を充填した発酵を固定床式発酵と呼んでいる.
Key words: セルロース; メタン発酵; 電気化学システム; 導電性微生物付着担体; 2段発酵
© 2021 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2021 公益社団法人日本農芸化学会
セルロースは植物体を構成する主要な成分であり,農業残渣や食品残渣に多く含まれている.メタン発酵環境では,セルロースはClostridium cluster IIIに属するセルロース分解菌によって,特異的にオリゴ糖や単糖に分解され,後のエネルギー代謝の基質となる(3)3) M. D. Collins, P. A. Lawson, A. Willems, J. J. Cordoba, J. Fernandz-Garayzabal, P. Garcia, J. Cai, H. Hippe & J. A. E. Farrow: Int. J. Syst. Bacteriol., 44, 812 (1994)..一方で,水素資化性メタン菌が嫌気環境中の余剰還元力を消費することでギブスの自由エネルギーが正に傾き,中間代謝物である低級脂肪酸の酸化分解が進むことが報告されている(4)4) A. J. M. Stams: Antonie van Leeuwenhoek, 66, 271 (1994)..しかしながら,実際のメタン発酵環境において,セルロース分解菌と水素資化性メタン菌の共生的な生育(微生物間相互作用)が,セルロース分解に対してどのような影響があるのかは知られていなかった.そこで筆者らは,自らがメタン発酵槽から分離したセルロース分解菌:Clostridium clariflavum CL-1株と市販の水素資化性メタン菌:Methanothermobacter thermautotrophicus ΔH株とをセルロースを基質として嫌気的に共培養し,10 g/Lのろ紙(type 5A: Advantec)を主な炭素源として含む培地を用い,単菌培養時との比較を行った(5)5) D. Sasaki, M. Morita, K. Sasaki, A. Watanabe & N. Ohmura: J. Biosci. Bioeng., 114, 435 (2012)..その結果,セルロース分解量は2.9倍,CL-1株の菌体量は2.7倍に上昇し,併せて培養液中の酢酸濃度が増加した.つまり,水素資化性メタン菌によって水素が除去されることにより,図2図2■共培養におけるセルロース分解経路の促進の黒矢印の代謝が促進され,ATP生成に伴う菌体増殖および共生的なセルロース分解が促進されたと考えられた(5)5) D. Sasaki, M. Morita, K. Sasaki, A. Watanabe & N. Ohmura: J. Biosci. Bioeng., 114, 435 (2012)..
電気化学的な装置を微生物の培養に適用した電気培養が,近年,報告されている(6)6) J. C. Thrash & J. D. Coates: Environ. Sci. Technol., 42, 3921 (2008)..基本的には電気化学システムは(電子を受け取る)アノード・(電子を供給する)カソードから成り,必要に応じてアノードとカソードをイオン選択性膜で仕切ることもある.従来は微生物に直接,電極から電子を授受することにより微生物内の酸化還元バランスを変化させて代謝を変化させることが行われてきた.この方式では電極表面に近接した微生物しか制御することができない.ここではバルク溶液中の酸化還元状態を電気化学的に調整することで,電極から離れた微生物をも制御することを目指した(7)7) K. Sasaki, D. Sasaki, K. Kamiya, S. Nakanishi, A. Kondo & S. Kato: Curr. Opin. Biotechnol., 50, 182 (2018).(図3図3■バイオ電気化学システムにより溶液中の酸化還元状態を調整して電極から離れた微生物を制御するコンセプト).なお,もとのバルク溶液中の酸化還元電位は,おおよそ−0.4 V(銀/塩化銀電極に対して)であった.
電気化学システムでは,電極電圧を任意に制御できる.そこで,設定電圧が上記のセルロース共培養に与える影響について試験を行った.システムとしてはポテンシオスタットを使用した3電極方式を用い(図4図4■バイオ電気化学システムと通電培養時の微生物生育曲線),作用電極の電位を−0.8, −0.3,ないしは+0.6 V(銀/塩化銀電極に対して)に設定した培養と通電していない培養との比較を,10 g/Lのろ紙(type 5A: Advantec)を主な炭素源として含む培地を用いて行った(8)8) D. Sasaki, M. Morita, K. Sasaki, A. Watanabe & N. Ohmura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 1096 (2013)..その結果,−0.8 Vに通電したときにΔH株とCL-1株が,それぞれ6.0と2.2倍,培養終了時の菌体量が上昇していた(図4図4■バイオ電気化学システムと通電培養時の微生物生育曲線).それに合わせてセルロース分解量,メタンガス発生量の増加および培養液中の酢酸濃度の増加,エタノール濃度の減少が観察された.水素を利用するメタン菌の活性化は,電気学的なタンパク質分解環境でも報告されており(9)9) D. Sasaki, K. Sasaki, M. Morita, S. Hirano, N. Matsumoto & N. Ohmura: J. Biosci. Bioeng., 114, 59 (2012).,通電によるメタン菌の特異的な菌体増殖・メタン生成の活性化が明らかとなった(8)8) D. Sasaki, M. Morita, K. Sasaki, A. Watanabe & N. Ohmura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 1096 (2013)..その結果として,種々の加水分解を担う細菌との種間水素伝達の頻度が増加し,上流のセルロースやタンパク質の分解が促進されたと考えられた.
上述のように,メタン発酵槽内に微弱な電流を掛けることにより,セルロースからのメタン生成速度を増加させられる.嫌気処理を社会実装するためには発酵槽を大規模に運転することが望ましいが,バイオ電気化学システムをスケールアップするためには(安価な材料とはいえ)炭素電極の表面積を大きくしなければならない.そこで本研究では,前段のバイオ電気化学システムと,後段の導電性微生物付着担体(炭素繊維)を充填した固定床式高温メタン発酵槽とに分割した.前段のバイオ電気化学システムを小規模にするために短い滞留時間で運転して,後段の固定床式高温メタン発酵槽を大規模にするために比較的に長い滞留時間で運転した.前段のバイオ電気化学システムには3電極方式を使用して,水の電気分解による水素生成を防ぐために微弱な電流(2.7 µA/cm2-炭素電極)を掛けた.目的は後段の固定床式発酵槽でのメタン(CH4)生成を促進することである.前段の初期pHを酸性6.1に調整してバイオガス生成を抑制して,後段の初期pHを中性7.5にしてバイオガス生成に最適化した.前段についてはバイオ電気化学システムの比較対照として,バイオ電気化学システムに繋がっていない開回路の発酵槽を運転した(図5図5■2段発酵:バイオ電気化学システム→固定床式発酵槽(BES→FFR),開回路でのバイオ電気化学システム→固定床式発酵槽(NBES→FFR)の比較により電気化学的前処理の効果を明確化).嫌気性分解ではセルロースの分解が律速段階となるため,粉末セルロースを主要な炭素源として含む培地[20 g/Lセルロースパウダー(商品コード07748-75)製造元:ナカライテスク,他塩・ミネラル等を含む]を基質として使用した(10)10) K. Sasaki, D. Sasaki, Y. Tsuge, M. Morita & A. Kondo: Biotechnol. Biofuels, 14, 7 (2021).(なお,本研究ではバイオ電気化学システムとして作用極側と対極側が分かれているH型のリアクターを使用しているが,作用極側と対極側を一体にしても良い).
2種類の2段発酵,すなわちバイオ電気化学システム(bioelectrochemical system; BES)→固定床式発酵槽(fixed film reactors; FFR),および開回路でのバイオ電気化学システム(non-bioelectrochemical system; NBES)→FFRを比較した.まず17日間,前段および後段をそれぞれ低負荷である水理学的滞留時間4.0,8.3日で運転してスタートアップを行い,複合微生物系を導電性微生物付着担体(炭素繊維)上に付着させた.次に負荷を上げて前段および後段をそれぞれ水理学的滞留時間2.5,4.2日で13日間運転してパフォーマンスを比較した.この時の前段におけるセルロースの負荷は3555.6 mg-C/(L日)である(図5図5■2段発酵:バイオ電気化学システム→固定床式発酵槽(BES→FFR),開回路でのバイオ電気化学システム→固定床式発酵槽(NBES→FFR)の比較により電気化学的前処理の効果を明確化).前段のpHはBES(閉回路),NBES(開回路)ともに1日で初期pH 6.1から5.2まで減少していた.浮遊物質(主にセルロース)の除去率はBESとNBESで,それぞれ11.4,11.6%と変わらなかった.前段の廃液を後段に投入した.後段の2種類のFFR(BES→,およびNBES→)のpHは1日で初期pH 7.5からそれぞれ6.8, 6.4に減少していた.興味深いことに,浮遊物質の除去率はBES→FFRで高く(90.7%),NBES→FFRでは低かった(66.9%).電気化学的前処理は,セルロースの除去を促進しただけではなく,中間生成物である短鎖脂肪酸SCFAやエタノールの蓄積を低く抑えてメタン生成を増加させていた.その結果,2段発酵:BES→FFRではメタン収率37.5%(メタンガス含量52.8%)であったのに対して,2段発酵:NBES→FFRではメタン収率22.1%(メタンガス含量46.8%)であった.
われわれは電気化学的前処理による効果を明らかにすることを目的として次の実験を行った.セルロースを含む基質を使用して2段発酵:NBES→FFRを行い,そのメタン収率7.1%(メタンガス含量47.9%)であったものに対して,前段に通電を行い2段発酵:BES→FFRとして運転した.その結果,メタン収率は38.4%(メタンガス含量60.8%)に増加しており,電気化学的前処理の効果が明らかとなった(10)10) K. Sasaki, D. Sasaki, Y. Tsuge, M. Morita & A. Kondo: Biotechnol. Biofuels, 14, 7 (2021)..
同様に導電性微生物付着担体(炭素繊維)による効果を明らかにすることを目的として次の実験を行った.2段発酵:NBES→non-FFR(炭素繊維を充填していない)を行い,そのメタン収率13.4%(メタンガス含量48.8%)であったものに対して,後段に炭素繊維を充填して2段発酵:BES→FFRとして運転した.その結果,メタン収率は30.0%(メタンガス含量56.0%)に増加しており,炭素繊維充填の効果が明らかとなった.以上より,セルロースからの2段発酵において,電気化学的前処理および導電性微生物付着担体の充填のどちらの要素も必要であった.
2種類の2段発酵(BES→FFR,およびNBES→FFR)の複合微生物系の構造を解析した.それぞれのシステム(BESのカソード側とアノード側,およびNBESの左側と右側)やFFR中の発酵液より,さらにFFR中の導電性微生物付着担体よりDNAを抽出して,原核微生物の16S rRNA遺伝子を対象としたプライマーを使用してPCRを行い次世代シーケンサーに供した.同時に定量PCRを行い,微生物の16S rRNA遺伝子のコピー数を決定して微生物量を概算した.まず,微生物の量から説明する.前段(BESおよびNBES)は低pHのために微生物量は少なかったが,後段(FFR)では微生物量が増加していた(図6図6■バイオ電気化学システム(BES)による電気化学的前処理を行うことにより後段の固定床式発酵槽(FFR)でMethanobacterium sp. やMethanosarcina sp. が増加).興味深いことに後段の浮遊画分について,BES→FFRではNBES→FFRと比較して微生物量は増加していた.後段の導電性微生物付着担体への付着画分(C)では,どちらのFFRも微生物が濃縮していた.
複合微生物系の構造は種レベルで解析した.大半の微生物は,3つの門,すなわちFirmicutes, Chloroflexi, Euryarchaeotaに分類された.すべてのシステムや槽中より,セルロース分解菌として知られているClostridium spp.やRuminococcus spp.が検出されている.Thermoanaerobacterium saccharolyticumもすべてのシステムや槽中から検出されており,デンプンやグルコースのような炭水化物の資化能は知られているがセルロース分解能についての報告は得られていない.興味深いことにBES→FFRでは,浮遊画分において水素資化性メタン菌として知られているMethanobacterium sp.が増えており,付着画分では酢酸資化性メタン菌として知られているMethanosarcina sp.が増えており,NBES→FFRと比較して顕著であった.高温酢酸資化性メタン菌であるMethanosarcina thermophilaは水素を利用できることが可能であり,上記のMethanosarcina sp.は水素を利用できると考えられる.われわれの以前の研究でも,セルロース分解性の細菌と水素資化性メタン菌の共生はセルロースからメタンへの変換を効率化できることを報告している.電気化学的前処理を行い後段のFFRにおいて水素を利用するメタン菌の量が増えることにより,セルロースからのメタン生成が増加したと考えられる.
最後に微弱な電流(2.7 µA/cm2-炭素電極)が,次の式によりメタン生成に利用されたと仮定して,実際のメタン生成量と比較した.
電気化学的メタン生成量は0.27 mM/日に相当していたが,電気化学システムを利用した2段発酵では53.9~70.2 mM/日のメタンが生成していた.すなわち,電気化学的前処理は,メタン生成増に直接的に関与しているのではなく,システムや槽中の複合微生物系に作用して微生物種間の水素転移(interspecies H2 transfer)を促すことにより間接的に関与していた.
本稿では,バイオ電気化学システムにより微弱な電流を投入することによりバルク溶液中の酸化還元状態を下げた.セルロースを主要な基質として運転した結果,水素を利用するメタン生成菌の増殖を促すことで同時にセルロース分解菌と水素資化性メタン菌の種間水素転移(interspecies H2 transfer)が促進されてセルロース分解およびメタン生成が増加していた.興味深いことに,前段で電気化学的前処理を行い,後段に炭素繊維のような導電性微生物付着担体を充填していれば種間水素転移が促されセルロースからメタンへの変換が複合微生物系で増加していた.これは,前段と後段を分割することが可能であることを意味している.前段は比較的に短い滞留時間で,後段は長い滞留時間で運転できるために,前段を小規模で後段を大規模で運転することにより,2段発酵(BES→FFR)は社会実装への可能性を高めている.一方,前段での電気化学的前処理による効果が導電性微生物付着担体を充填した後段で発揮されるメカニズムについては未解明な部分があるものの,過去の知見でカーボンクロスが直接的種間電子伝達(direct interspecies electron transfer)を促すことが報告されており(11)11) Z. Zhao, Y. Zhang, Y. Li, Y. Dang, T. Zhu & X. Quan: Chem. Eng. J., 313, 10 (2017).,導電性物質は微生物種間の水素や電子の伝達を促進する効果があると考えられる.種間水素転移はセルロースの分解だけではなくタンパク質の分解やメタンへの変換を促進していることを筆者らは突き止めている(9)9) D. Sasaki, K. Sasaki, M. Morita, S. Hirano, N. Matsumoto & N. Ohmura: J. Biosci. Bioeng., 114, 59 (2012)..そのため上記の2段発酵はさまざまな種類の有機性廃棄物に適用できることが予測される.バイオ電気化学システムと導電性微生物付着担体を充填した固定床式発酵が社会実装されて有機性廃棄物からの燃料ガスの回収が効率化されることにより,持続可能社会の構築につながることが期待される.
Reference
1) D. Wu, L. Li, X. Zhao, Y. Peng, P. Yang & X. Peng: Renew. Sustain. Energy Rev., 103, 1 (2019).
2) J. Meegoda, B. Li, K. Patel & L. Wang: Int. J. Environ. Res. Public Health, 15, 2224 (2018).
4) A. J. M. Stams: Antonie van Leeuwenhoek, 66, 271 (1994).
5) D. Sasaki, M. Morita, K. Sasaki, A. Watanabe & N. Ohmura: J. Biosci. Bioeng., 114, 435 (2012).
6) J. C. Thrash & J. D. Coates: Environ. Sci. Technol., 42, 3921 (2008).
10) K. Sasaki, D. Sasaki, Y. Tsuge, M. Morita & A. Kondo: Biotechnol. Biofuels, 14, 7 (2021).
11) Z. Zhao, Y. Zhang, Y. Li, Y. Dang, T. Zhu & X. Quan: Chem. Eng. J., 313, 10 (2017).