Kagaku to Seibutsu 59(6): 267-271 (2021)
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昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体の機能的発現の成功が拓く新たな世界ネオニコチノイドの科学における画期的な発見
Published: 2021-06-01
© 2021 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2021 公益社団法人日本農芸化学会
農薬には農作物から病害虫から護り,食料生産を維持する使命がある.一方,ヒトに対する安全性,残留性に加えて,天敵や花粉媒介昆虫などの有益生物,水生生物,野生の鳥などの環境生物への影響に関する膨大な試験データをもとに登録されているにもかかわらず,農薬には常に厳しい目が向けられている.こうした状況を踏まえて,筆者は「高選択的昆虫制御」を哲学として天然昆虫活性物質の生合成や標的受容体の解明のみならず,合成昆虫制御剤の選択毒性の分子機構についても研究してきた.その中でネオニコチノイドと呼ばれる昆虫制御剤の標的ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の機能的発現*1*1 本記事ではアセチルコリンの濃度・処理時間依存的に,かつ生体の神経系と同様なアセチルコリン依存性を示しながら,活性化・脱感作するnAChRを生体外で発現させ,再現することを意味する.が,脊椎動物に由来するものでは容易であるのに,昆虫に由来するものではどうしてもできないという問題を抱えていた.それは他の研究者も同じで,この問題は本剤や類縁化合物の作用機構を解明するうえで解決すべき最重要課題の一つであると,たびたび論文や総説の中で記されてきた.
今から遡ること四半世紀前,筆者は英国ケンブリッジで,勃興期にあったネオニコチノイドの作用機構研究に参画したとき初めてこの問題に遭遇した.同時に,線虫Caenorhabditis elegansのnAChRの研究でも昆虫のnAChRと同様の問題に苦しみながら,本線虫のゲノムデータベースが整備されていく現場を見て,いずれこの問題を解く日が必ずくると確信した.
nAChRに作用するタバコに含まれるニコチンは,かつて害虫防除に使用されたが,残効性・効力においてニコチンを凌駕する有機リン剤やピレスロイドの登場とともに,登録リストから除かれた.そのためnAChRは殺虫剤の標的であるという考えは一時衰退した.しかし,従来の昆虫制御剤にはないニトロメチレン構造をもち哺乳類に低毒性のニチアジン(図1図1■ニチアジンをリード化合物として開発されたネオニコチノイド)がnAChRに作用することがわかると(1~3)1) M. E. Schroeder & R. F. Flattum: Pestic. Biochem. Physiol., 22, 148 (1984).2) D. B. Sattelle, S. D. Buckingham, K. A. Wafford, S. M. Sherby, N. M. Bakry, A. T. Eldefrawi, M. E. Eldefrawi & T. E. May: Proc. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 237, 501 (1989).3) K. Matsuda, S. D. Buckingham, D. Kleier, J. J. Rauh, M. Grauso & D. B. Sattelle: Trends Pharmacol. Sci., 22, 573 (2001).,本物質を起点とする昆虫制御剤の開発研究が活発化し,まずイミダクロプリドが上市された.次いで,イミダクロプリドのピリジン環,イミダゾリジン環,ニトロイミン構造に手が加えられるとともに,防除対象での差別化が検討され,類縁昆虫制御剤が開発された(図1図1■ニチアジンをリード化合物として開発されたネオニコチノイド).これらは当初クロロニコチニル系昆虫制御剤と呼ばれたが,その括りでは収まらなくなり,ネオニコチノイドと総称されるようになった(3, 4)3) K. Matsuda, S. D. Buckingham, D. Kleier, J. J. Rauh, M. Grauso & D. B. Sattelle: Trends Pharmacol. Sci., 22, 573 (2001).4) K. Matsuda, M. Ihara & D. B. Sattelle: Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 60, 241 (2020)..
ネオニコチノイドの標的nAChRはシステインループをもつイオノトロピック型受容体に属し,興奮性の神経シナプス伝達を媒介する.nAChRは4回膜貫通構造を有する5つのサブユニットが中央のカチオンチャネルの周りに集合した構造をもち,隣接するサブユニットの間に形成されるオルソステリック部位にアセチルコリンが結合すると,カチオンチャネルを開く(図2A図2■nAChRの構造と機能).すると,膜電位が上昇し,活動電位が誘発される.
(A)横から見た模式図;(B)上から見た模式図.(A)nAChRは4回膜貫通構造(TM1, TM2, TM3, TM4)をもつ5つのサブユニットが集合して構築される.隣接するサブユニットの境界に形成されるオルソステリック部位にアセチルコリンが結合すると受容体中央のイオンチャネルが開き,カチオンが透過する.(B) Principal subunitが提供するloop A~CとComplementary subunitが提供するloop D~Gによってオルソステリック部位が形成される.
サブユニットはαサブユニットとそれ以外のβサブユニットをはじめとするnon-αサブユニットに分かれ,前者はloop Cに連続したシステインをもち(図2A図2■nAChRの構造と機能),後者はそれを欠く.脊椎動物の骨格筋ではα1, β1, γ(胎児のみ),δおよびεサブユニット(成人になるとγサブユニットとεサブユニットが入れかわる)が発現するのに対して,神経細胞ではα2~α10(ただしα8サブユニットは鳥類に限定される)およびβ2~β4サブユニットが発現する.nAChRの多くはαサブユニットとnon-αサブユニットからなるヘテロ5量体構造をとるが,例外的にα7, α8およびα9サブユニットは単独でホモ5量体型のnAChRを形成し,α10サブユニットはα9サブユニットとαサブユニットのみからなるヘテロ5量体型のnAChRを形成する.
アセチルコリンが結合するオルソステリック部位は主サブユニット(Principal subunit)のloop A~Cと補サブユニット(Complementary subunit)のloop D~Gにより構築される(5)5) J. P. Changeux: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 373, 20170174 (2018).(図2B図2■nAChRの構造と機能).αサブユニットがPrincipal subunitの役を,non-αサブユニットがComplementary subunitの役を務めることが多いが(図2B図2■nAChRの構造と機能),α7サブユニットのようにαサブユニットが一人二役を演じることもある.
脊椎動物のnAChRと同様に,多くの昆虫のnAChRはαサブユニットとnon-αサブユニットからなると考えられている.昆虫のnAChRは脊椎動物のnAChRと共通する構造と機能を有するが,ネオニコチノイドが強く結合するという点で脊椎動物のnAChRとは異なる(3, 4)3) K. Matsuda, S. D. Buckingham, D. Kleier, J. J. Rauh, M. Grauso & D. B. Sattelle: Trends Pharmacol. Sci., 22, 573 (2001).4) K. Matsuda, M. Ihara & D. B. Sattelle: Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 60, 241 (2020)..筆者はイミダクロプリドのニトロ基がアンモニウムと相互作用すると分子内の電荷分布が顕著に変化することに注目し(3)3) K. Matsuda, S. D. Buckingham, D. Kleier, J. J. Rauh, M. Grauso & D. B. Sattelle: Trends Pharmacol. Sci., 22, 573 (2001).,昆虫のnAChRにはネオニコチノイドの結合を強化する特有の塩基性アミノ酸が存在すると予想した.この予想を証明する途上で,昆虫のnAChRの機能的発現が困難であるという問題が立ちはだかった.
ネオニコチノイドの選択毒性にかかわる昆虫nAChRの構造基盤
昆虫nAChRの機能的発現問題を回避する方法が全くないわけではなかった.昆虫のαサブユニットと脊椎動物のnon-αサブユニットを共発現させるとnAChR受容体を形成することを利用して,αサブユニットにはネオニコチノイドとの相互作用に有利に働く構造があり(6)6) K. Matsuda, S. D. Buckingham, J. C. Freeman, M. D. Squire, H. A. Baylis & D. B. Sattelle: Br. J. Pharmacol., 123, 518 (1998)..それはloop CとN末端からloop Bまでの中にあることを明らかにした(7, 8)7) M. Shimomura, M. Yokota, K. Matsuda, D. B. Sattelle & K. Komai: Neurosci. Lett., 363, 195 (2004).8) M. Shimomura, H. Satoh, M. Yokota, M. Ihara, K. Matsuda & D. B. Sattelle: Neurosci. Lett., 385, 168 (2005)..Loop Cには塩基性アミノ酸が無いので,後者の領域のどこかに求めている塩基性アミノ酸があるはずであるが,すぐにはわからなかった.並行して,脊椎動物のα7 nAChRを用いてloop Fの構造改変によるnAChRのネオニコチニド感受性の変化についても明らかにした(9)9) K. Matsuda, M. Shimomura, Y. Kondo, M. Ihara, K. Hashigami, N. Yoshida, V. Raymond, N. P. Mongan, J. C. Freeman, K. Komai et al.: Br. J. Pharmacol., 130, 981 (2000)..その直後,α7 nAChRのN末端領域と相同性を示し,5量体をつくるアセチルコリン結合タンパク質(Acetylcholine Binding Protein; AChBP)のX線結晶構造が解明された(10)10) K. Brejc, W. J. van Dijk, R. V. Klaassen, M. Schuurmans, J. van Der Oost, A. B. Smit & T. K. Sixma: Nature, 411, 269 (2001)..これらの知見をもとに,まずα7 nAChRで(11)11) M. Shimomura, H. Okuda, K. Matsuda, K. Komai, M. Akamatsu & D. B. Sattelle: Br. J. Pharmacol., 137, 162 (2002).,次いでα4β2 nAChRで(12)12) M. Shimomura, M. Yokota, M. Ihara, M. Akamatsu, D. B. Sattelle & K. Matsuda: Mol. Pharmacol., 70, 1255 (2006). loop Dの塩基性アミノ酸がネオニコチノイドの選択毒性の発現に重要な役割を果たしていることを明らかにした.さらに,loop DにQ55R変異を導入したAChBPとネオニコチノイドが形成する複合体のX線結晶構造内でArg55がネオニコチノイドのニトロ基やシアノ基と相互作用する像を得て(13)13) M. Ihara, T. Okajima, A. Yamashita, T. Oda, T. Asano, M. Matsui, D. B. Sattelle & K. Matsuda: Mol. Pharmacol., 86, 736 (2014).,本アミノ酸の役割を裏付けた.
昆虫のαサブユニットのloop Bより上流に存在するネオニコチノイドの結合に寄与するアミノ酸は最近までわからなかったが,AChBPのX線結晶構造内でLys34と本剤との相互作用を発見し,解明に至った(13)13) M. Ihara, T. Okajima, A. Yamashita, T. Oda, T. Asano, M. Matsui, D. B. Sattelle & K. Matsuda: Mol. Pharmacol., 86, 736 (2014)..Lys34はComplementary subunit側からネオニコチノイドと相互作用していた.調べてみると,昆虫のαサブユニットはことごとくLys34に相当する位置に塩基性アミノ酸を保有していた.また,一部のαサブユニットはloop Eにも塩基性アミノ酸を所持していた.すなわち,ネオニコチノイドは,αサブユニット/non-αサブユニット間のオルソリック部位ではloop Dの塩基性アミノ酸と,隣接αサブユニット間のオルソステリック部位ではloop Gや時にloop Eの塩基性アミノ酸と相互作用し,昆虫のnAChRを強力に阻害すると考えられた(4)4) K. Matsuda, M. Ihara & D. B. Sattelle: Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 60, 241 (2020)..
こうしてネオニコチノイドが昆虫のnAChRに選択的に作用するしくみの大要を解明したが,本剤に対して高い感受性を示す昆虫のnAChRを機能的に発現させることが難しいという状況は,1986年にショウジョウバエからDβ1サブユニット遺伝子がクローン化されて(14)14) I. Hermans-Borgmeyer, D. Zopf, R. P. Ryseck, B. Hovemann, H. Betz & E. D. Gundelfinger: EMBO J., 5, 1503 (1986).以来ずっと続いていた.そのため,いくらネオニコチノイドの作用機構を解明したと主張しても,説得力を欠いた.昆虫のnAChRに類似した機能的発現の問題は線虫C. elegansのnAChRでも見られ,アフリカツメガエル卵母細胞で発現させたLev-1/UNC-29/UNC-38 nAChRのアセチルコリンに対する応答は小さく(15)15) J. T. Fleming, M. D. Squire, T. M. Barnes, C. Tornoe, K. Matsuda, J. Ahnn, A. Fire, J. E. Sulston, E. A. Barnard, D. B. Sattelle et al.: J. Neurosci., 17, 5843 (1997).,それを増強するには補助因子RIC-3, UNC-50, UNC-74が必要であった(16)16) T. Boulin, M. Gielen, J. E. Richmond, D. C. Williams, P. Paoletti & J. L. Bessereau: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 18590 (2008)..RIC-3とUNC-50はそれぞれ小胞体とゴルジ体からのタンパク質の搬出などにかかわると言われていたのに対して,UNC-74の実体はしばらくわからなかった.しかし,別の線虫でUNC-74の塩基・アミノ酸配列情報が公表されたので調べたところ,それに近い構造をもつショウジョウバエのタンパク質はチオレドキシンの一種TMX3であることがわかった.nAChRの機能発現にはシステインループの形成が必須である.これだと思い,Dα1サブユニットとDβ1サブユニットをTMX3と共発現させると,膜電位固定装置に連結したモニターにDα1/Dβ1 nAChRがアセチルコリンに応答したことを示す電流変化が表示された(17)17) M. Ihara, S. Furutani, S. Shigetou, S. Shimada, K. Niki, Y. Komori, M. Kamiya, W. Koizumi, L. Magara, M. Hikida et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16283 (2020)..RIC-3とUNC-50はそのサイズを調節した(17)17) M. Ihara, S. Furutani, S. Shigetou, S. Shimada, K. Niki, Y. Komori, M. Kamiya, W. Koizumi, L. Magara, M. Hikida et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16283 (2020)..
ショウジョウバエの神経細胞でDα1, Dα2, Dβ1およびDβ2サブユニットが共存することを証明し,Dα1/Dβ1, Dα1/Dα2/Dβ1, Dα1/Dβ1/Dβ2およびDα1/Dα2/Dβ1/Dβ2 nAChRに対するネオニコチノイドのアゴニスト活性を測定した.その結果,ネオニコチノイドはnAChRごとに異なる親和性と活性化効率を示した.またDβ1サブユニットのloop DのArg81を変異させるとこれらのnAChRのネオニコチノイド感受性が低下したことから,ネオニコチノイドの選択毒性に本塩基性アミノ酸が寄与していることが確証された(17)17) M. Ihara, S. Furutani, S. Shigetou, S. Shimada, K. Niki, Y. Komori, M. Kamiya, W. Koizumi, L. Magara, M. Hikida et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16283 (2020).(図3図3■Dα1/Dβ1 nAChRのオルソステリック部位におけるイミダクロプリドのニトロ基とDβ1サブユニットのloop Dに存在するArg81との静電的相互作用).
文献4の方法により作成したDα1/Dβ1 nAChR-イミダクロプリド(IMI)複合体において,Dα1サブユニットとArg81を除くDβ1サブユニットはそれぞれライトブルーとペールシアンで,イミダクロプリド(IMI)とArg81の炭素,窒素,酸素および塩素はそれぞれ灰色がかった白,青,赤および緑で表示.
ショウジョウバエのDβ2サブユニットに対応するサブユニットはハナバチ類ではα8サブユニットであることに留意してセイヨウミツバチ(Apis mellifera)やセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)のnAChRの機能的発現にも挑んだ.果たして,セイヨウミツバチのAmα1/Amα8/Amβ1 nAChRおよびAmα1/Amα2/Amα8/Amβ1 nAChR,セイヨウオオマルハナバチのBtα1/Btα8/Btβ1 nAChRおよびBtα1/Btα2/Btα8/Btβ1 nAChRもRIC-3/UNC-50/TMX3を加えることによりアフリカツメガエルの卵母細胞で機能的に発現させることができた.これらのnAChRに対してネオニコチノイドのアゴニスト活性を評価したところ,化合物によってはショウジョウバエのnAChRよりもハナバチ類のnAChRに対して高い活性を示した(17)17) M. Ihara, S. Furutani, S. Shigetou, S. Shimada, K. Niki, Y. Komori, M. Kamiya, W. Koizumi, L. Magara, M. Hikida et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16283 (2020)..
ネオニコチノイドは死に至らない低濃度でハナバチ類に対して摂食抑制,学習の異常,行動異常などを引き起こすと報告されている(本稿ではこれをsublethal effectsと呼ぶ)(4)4) K. Matsuda, M. Ihara & D. B. Sattelle: Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 60, 241 (2020)..アゴニスト活性を示さない濃度であっても長時間ネオニコチノイドに被爆すると,昆虫のnAChRは脱感作し,アセチルコリンに対する応答を弱める.この作用はsublethal effectsにつながる可能性があり,極めて低い濃度で観察される.ゆえに花の蜜や花粉に残るネオニコチノイドがこの作用によってsublethal effectsを示しても不思議ではない.試験したネオニコチノイドは概してナノモル濃度でないとショウジョウバエのnAChRを阻害しないのに対して,ハナバチ類のnAChRはピコモル濃度で阻害した(17)17) M. Ihara, S. Furutani, S. Shigetou, S. Shimada, K. Niki, Y. Komori, M. Kamiya, W. Koizumi, L. Magara, M. Hikida et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16283 (2020)..
ネオニコチノイドは環境中の濃度よりも低い濃度でハナバチ類の体内に存在し,かつ代謝で分解される.また,ハナバチ類の中では,今回ネオニコチノイドの活性を測定したnAChRとは異なるサブユニット構成をもつnAChRも発現していることから,研究結果から言えることは高感受性を示すnAChRがハナバチ類の中で発現しているので,ネオニコチノイドの使用には注意を払う必要があるということまでである.ハナバチ類の減少の要因として,生息に適した土地の減少,気候変動,ダニの寄生,ウイルス感染などに加えてネオニコチノイドの使用が挙げられている(4)4) K. Matsuda, M. Ihara & D. B. Sattelle: Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 60, 241 (2020)..そのためEUはイミダクロプリド,チアメトキサムおよびクロチアニジンの使用を禁止した.それに対して,残留基準を守り使用する限り,ハナバチ類に対するネオニコチノイドの影響はないとする意見もある.だからこそ,最新の技術と指標で化合物ごとに影響を精密に評価する必要があるのだ.有益生物はハナバチ類だけではない.天敵もそうである.水系生物も含めて非標的生物への影響も調べなくてはならない.その一方で,昆虫のnAChRを標的とする新たな昆虫制御剤が開発されている.このようなときに,昆虫のnAChRを機能的に発現させることができるようになった意義は極めて大きい(18)18) K. Matsuda: Pest Manag. Sci., doi: 10.1002/ps.6182, 受領..
最後に,別の視点からネオニコチノイドについて記す.昆虫制御剤は植物保護のみならず,感染症を媒介する蚊をはじめとする吸血昆虫の防除にも使用されている.蚊に対して持続的に防除効果を示す昆虫制御剤の壁への吹き付け(Indoor Residual Spraying)や,それらを含有する繊維で編んだ蚊帳(Long Lasting Insecticidal Net)はマラリアの抑制に貢献している.これまで,ピレスロイドがそのために使われてきたが,抵抗性の発達によりマラリア抑制効果を失いつつある.その中で今,ネオニコチノイドに光が当てられている.
Reference
1) M. E. Schroeder & R. F. Flattum: Pestic. Biochem. Physiol., 22, 148 (1984).
4) K. Matsuda, M. Ihara & D. B. Sattelle: Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 60, 241 (2020).
5) J. P. Changeux: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 373, 20170174 (2018).
7) M. Shimomura, M. Yokota, K. Matsuda, D. B. Sattelle & K. Komai: Neurosci. Lett., 363, 195 (2004).
*1 *1 本記事ではアセチルコリンの濃度・処理時間依存的に,かつ生体の神経系と同様なアセチルコリン依存性を示しながら,活性化・脱感作するnAChRを生体外で発現させ,再現することを意味する.