解説

嗅神経細胞における匂いの混合物の受容メカニズムIn Vivoイメージングによって明らかになった拮抗作用と相乗効果の役割

Odor Mixture Coding in Olfactory Sensory Neurons: Roles of Antagonism and Synergy Revealed by in vivo Calcium Imaging

Takeshi Imai

今井

九州大学大学院医学研究院疾患情報研究分野

Published: 2021-06-01

匂いは嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体によって検出される.個々の匂い分子は,高々1,000種類程度の嗅覚受容体の応答の組み合わせによって識別されると考えられている.一方で,自然界の匂いの多くは匂い分子の混合物である.本研究では,2光子励起顕微鏡を用いてin vivoカルシウムイメージングを行い,嗅神経細胞の応答が,個々の匂い分子とその混合物とでどのように異なるのかを解析した.その結果,匂い分子を混合すると,その反応が拮抗作用によって抑制されたり,相乗効果によって増強されたりすることを見いだした.こうした末梢レベルでの現象が匂いのハーモニーを生み出す上で重要な役割を果たしていると考えられる.

Key words: 嗅覚受容体; 組み合わせコード; 抑制性応答; 拮抗作用; 相乗効果

われわれは環境中の多様な化学物質を匂いとして受容している.鼻腔に取り込まれた匂い分子は嗅上皮の嗅粘膜に溶け込んだ後,嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体によって検出される.嗅覚受容体はGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり,ヒトで約390種類,マウスで約1,000種類存在する.個々の嗅神経細胞はそのうちの1種類のみを発現している(1)1) L. Buck & R. Axel: Cell, 65, 175 (1991)..また,同種の嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞の軸索は,その投射先である嗅球において,同じ糸球体へと収斂することが知られている.個々の嗅覚受容体と匂い分子とは必ずしも1対1に対応するわけではない.しばしば1種類の嗅覚受容体は複数の匂い分子を検出し,また1種類の匂い分子は複数の嗅覚受容体によって受容される.こうした嗅覚受容体の「組み合わせコード」によって,数十万種類にものぼるとされる多様な匂い分子の検出と識別が可能となっている(2)2) B. Malnic, J. Hirono, T. Sato & L. B. Buck: Cell, 96, 713 (1999).

従来,嗅覚系における匂い応答の研究は単一の匂い分子を用いて行われることが多かった.一方で,自然界の匂いの多くは多数の匂い分子の混合物である.匂い分子を混ぜ合わせるとその感じ方にさまざまな変化が生じることは日常生活でも経験する.たとえば,肉や魚料理にレモンやハーブを添えると臭みが抑えられておいしく頂くことができる.ワインの香りも800種類以上の揮発性化学物質からなるとされており,その魅力は多様な匂い分子の組み合わせの妙にあると言える.したがって,匂い分子の混合物が嗅覚系でどのように受容されるのか,特に生体内でどのように受容されるのかを知ることは,嗅覚系における感覚情報処理や行動の原理を理解するうえで極めて重要である.

匂い分子を嗅がせると多くの嗅神経細胞が興奮することから,長らく,匂い分子は複数の嗅覚受容体の「活性化パターン」として認識されていると考えられてきた(3)3) K. Mori, Y. K. Takahashi, K. M. Igarashi & M. Yamaguchi: Physiol. Rev., 86, 409 (2006)..また,匂い分子の混合物の応答は,各匂い分子に対する応答の線形和になるという考え方が支配的であり,混合物の匂いがその各成分とは変わって感じられることがあるのは脳内の神経回路による演算の結果であるというのが通説であった(4)4) D. Y. Lin, S. D. Shea & L. C. Katz: Neuron, 50, 937 (2006)..しかしながら,これらのモデルは,生きた動物個体で十分な数の嗅神経細胞の応答に基づいて検証されていた訳ではない.そこで,本研究では2光子励起顕微鏡を用いたin vivoカルシウムイメージングを行い,これらのモデルの妥当性について再検討を行った.

嗅神経細胞のin vivoカルシウムイメージング

近年,遺伝子によってコードされた高感度なカルシウムセンサーが開発され,同時に多数の神経細胞の活動を計測することが可能となった.さらに,生体深部の高解像蛍光イメージングが可能な2光子励起顕微鏡が普及したことで,生きた動物における神経活動の高感度計測が可能となった.本研究では,嗅神経細胞における匂い応答を解析するため,嗅神経細胞特異的にGCaMP3を発現するトランスジェニックマウスを作製した.嗅神経細胞の匂い応答について,本研究はその軸索が投射している嗅球で計測を試みた.

酢酸アミルに対する匂い応答を計測したところ,31%の糸球体でGCaMP3の輝度上昇,すなわち活性化が観察された一方で,予想外なことに,9%の糸球体ではGCaMP3の輝度の減少が観察された(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020)..一般的に,神経細胞には自発発火があるため,GCaMP3の輝度減少は自発発火の抑制によって生じたものと考えられる.

嗅神経細胞の軸索には,嗅球のGABA・ドーパミン作動性介在ニューロンからの抑制性入力が入ることから,これらが抑制性応答に寄与した可能性について検討した.嗅神経細胞特異的なGABAB受容体・ドーパミンD2受容体ノックアウトマウスを作製し,解析したが,抑制性応答は半減程度にとどまり,完全に消失することはなかった.同様の結果は,嗅神経細胞軸索末端からの神経伝達を遮断した(すなわち介在ニューロンからのフィードバック・フィードフォワード入力も起こりえない)変異マウスにおいても観察された(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020)..こうしたことから,嗅球で観察された抑制性の匂い応答の一部は嗅神経細胞の細胞体で生じたものではないかと考えた.

嗅神経細胞で見いだされた抑制性応答

そこで,本研究では,嗅上皮に存在する嗅神経細胞の細胞体における匂い応答のin vivo計測を試みた.嗅上皮の上に位置する骨を薄く削ることで光学窓を作製し,2光子励起顕微鏡で嗅神経細胞を蛍光観察することに成功した.この方法を用いて,嗅神経細胞の細胞体における匂い応答の計測を行ったところ,全体の約5%において,酢酸アミルに対する抑制性匂い応答が観察された(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020).図1図1■嗅神経細胞の細胞体のin vivoカルシウムイメージングにおいて観察された抑制性匂い応答).嗅覚受容体は3量体Gタンパク質Golfと共役してcAMP産生を促し,嗅神経細胞を興奮させるとされている.また,嗅上皮に抑制性の神経回路の存在は知られていない.したがって,匂い分子は一部の嗅覚受容体に対して逆作動薬効果(inverse agonism)を示すのではないかと考えた.Gタンパク質共役型受容体の多くは基礎活性を有しており,一部の受容体においては逆作動薬が知られている.嗅覚系においては,発生期に嗅覚受容体の基礎活性が転写制御を介して軸索投射の制御を行っていることも知られている(6, 7)6) T. Imai, M. Suzuki & H. Sakano: Science, 314, 657 (2006).7) A. Nakashima, H. Takeuchi, T. Imai, H. Saito, H. Kiyonari, T. Abe, M. Chen, L. S. Weinstein, C. R. Yu, D. R. Storm et al.: Cell, 154, 1314 (2013).

図1■嗅神経細胞の細胞体のin vivoカルシウムイメージングにおいて観察された抑制性匂い応答

多くの嗅神経細胞が活性化応答を示す一方,一部の嗅神経細胞においては抑制性応答が観察された.文献55) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020).より改変.

嗅覚受容体の逆作動薬効果

この可能性についてより直接的に検討するため,培養細胞を用いた再構成系で嗅覚受容体の匂い刺激応答を計測した.嗅覚受容体をシャペロン分子とともにHEK293細胞に発現させ,匂い刺激に伴う細胞内cAMPシグナルの強度をCREプロモーター制御下にある発光レポーターを用いて計測した.176種類の嗅覚受容体に対し,9種類の匂い分子を用いてスクリーニングを行った結果,Olfr644とOlfr160の2種類の嗅覚受容体において逆作動薬効果が確認された.Olfr644においては,ベンズアルデヒドに対してcAMPシグナルの活性化を示した一方,酢酸アミルとヘプタナールに対しては抑制を示した(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020)..抑制の程度(約50%)はβ2-アドレナリン受容体とそれに対する既知の逆作動薬ICI-118,551の反応と同程度であった.したがって,匂い分子は多くの嗅覚受容体に対して作動薬として作用し,活性化させる一方,一部の嗅覚受容体に対しては逆作動薬として作用し,反応を抑制していると考えられる.

今回の発見により,従来の「組み合わせコード」説は修正を要する.すなわち,嗅神経細胞において,個々の匂い分子は,「嗅覚受容体の活性化と抑制の組み合わせ」によって表現されている(図2図2■「組み合わせコード」説の修正モデル).

図2■「組み合わせコード」説の修正モデル

嗅神経細胞において,個々の匂い分子は,「嗅覚受容体の活性化と抑制の組み合わせ」によって表現される.

匂いの混合物に対する応答:拮抗作用と相乗効果

次に,匂いの混合物が生体内の嗅神経細胞においてどのように受容されるのかについて検討を行った.個々の匂い分子に対しても興奮性と抑制性の反応を示すことから,匂いの混合物に対する応答が個々の匂い分子に対する応答の単純な線形和にはならないであろうと考えたからである.実際に計測を行ったところ,多くの嗅神経細胞において,一方の匂い分子が他方の匂い分子に対する応答を抑制する拮抗作用が観察された(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020)..嗅覚受容体において拮抗作用が生じる例はすでに報告されていたものの(8)8) Y. Oka, M. Omura, H. Kataoka & K. Touhara: EMBO J., 23, 120 (2004).,本研究によって,拮抗作用が実際の生体内で広範に生じていることが明らかになった.

図3図3■嗅神経細胞の細胞体において観察された拮抗作用と相乗効果に嗅神経細胞の細胞体における酢酸アミル,バレルアルデヒド,その混合物への応答(いずれも0.5%に希釈)を示す.細胞Aにおいては,混合物の応答がバレルアルデヒドの応答よりも小さくなった.予想外であったのは,匂いを混ぜることでその反応が線形和よりもはるかに大きくなる嗅神経細胞が多く見いだされたということである.たとえば,図3図3■嗅神経細胞の細胞体において観察された拮抗作用と相乗効果の細胞Bにおいては,酢酸アミルは小さな応答を生じ,バレルアルデヒドはほとんど反応を生じない.しかしながら,両者を混合して嗅がせることで大きな反応が観察された(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020)..匂い分子を混合することで匂いの感じ方が増強される例はヒトにおいても経験的に知られており,相乗効果(シナジー)として知られていたが,その仕組みは不明であった.今回の実験によって,嗅神経細胞ですでに相乗効果が生じていることが明らかとなった.

図3■嗅神経細胞の細胞体において観察された拮抗作用と相乗効果

酢酸アミル,バレルアルデヒド,これらの混合物に対する応答をin vivoカルシウムイメージングによって計測した.細胞Aにおいてはバレルアルデヒドに対する匂い応答が酢酸アミルによって拮抗阻害された.一方,細胞Bにおいては酢酸アミルに対する応答がバレルアルデヒドによって増強された.文献55) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020).より改変.

拮抗作用と相乗効果の濃度依存性

匂い分子を混合させることで生じる拮抗作用や相乗効果について,何らかの法則はあるのだろうか? これらの点について検討するため,異なる濃度の匂い分子(0.3% vs. 3%)を混合させた際の嗅神経細胞の応答を解析した.

酢酸アミルとバレルアルデヒドを低濃度(0.3%)で混合させた際には拮抗作用はほとんど観察されなかった(全体の0.3%)のに対し,高濃度(3%)で混合させた際には多くの嗅神経細胞で拮抗作用による抑制効果が観察された(15.6%).一方,相乗効果による反応増強については,高濃度(3%)で混合させた際にはあまり観察されなかった(2.5%)のに対し,低濃度(0.3%)で混合させた際には多くの嗅神経細胞で観察された(28%).同様の傾向は別の匂い分子のペアにおいても観察された(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020)..こうしたことから,高濃度の匂い分子を混合した際には拮抗作用によって互いに反応を抑制し合う傾向があり,高濃度の匂い分子を混合した際には相乗効果によって反応が増強されやすい傾向があると言える.

拮抗作用・相乗効果が匂い情報のコーディングに与える影響

匂いの混合物において観察される拮抗作用・相乗効果は匂い情報処理においてどのような意味をもつのであろうか?実験的に拮抗作用や相乗効果をなくしてその機能を調べることは困難であるが,拮抗作用や相乗効果がない単純な足し算モデル(線形和モデル)と比較することでも機能的な示唆が得られると考えられる(図4図4■「組み合わせコード」説の修正モデル.嗅神経細胞において,個々の匂い分子は「嗅覚受容体の活性化と抑制の組み合わせ」によって表現される).高濃度の匂い分子を嗅がせると,全嗅神経細胞の6-9割の嗅神経細胞が応答を示す.このような高濃度の匂い分子を混合した場合,足し算モデルにおいてはほとんどすべての嗅神経細胞が応答してしまうこととなり,異なる匂いの混合物の識別が困難になってしまうと考えられる.一方,拮抗作用が存在すると,しばしば混合物に対する応答は個々の匂い分子に対する応答よりも小さくなることから高濃度域においても嗅神経細胞の応答が飽和することはなく,異なる匂い分子の識別が可能となる.一方,低濃度の場合,ごく一部の嗅神経細胞が弱い応答を示すに過ぎないため,足し算モデルにおいては混合させたところでその応答は弱く希薄なままである.しかしながら,混合させることで相乗効果が生じるとすると,より強力な反応を生じ,匂いの認識・識別が容易になるものと考えられる.このように,匂いを混合させることは,嗅神経細胞の応答を適度な反応強度・密度のレンジに調節する効果があるものと考えられる(図4図4■「組み合わせコード」説の修正モデル.嗅神経細胞において,個々の匂い分子は「嗅覚受容体の活性化と抑制の組み合わせ」によって表現される).

図4■「組み合わせコード」説の修正モデル.嗅神経細胞において,個々の匂い分子は「嗅覚受容体の活性化と抑制の組み合わせ」によって表現される

文献55) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020).より改変.

おわりに

これまで,匂い刺激に対する抑制性応答や,混合臭に対する非線形効果は嗅球以降の神経細胞では観察されていたものの,これらは中枢の神経回路レベルの演算の結果であるという考え方が支配的であった.これに対し,本研究では,こうした現象が最も末梢の嗅神経細胞においても生じることを明らかにした(5)5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020)..抑制性応答の一部は逆作動薬効果であることが示された.拮抗作用については一部の嗅覚受容体において観察されている(8)8) Y. Oka, M. Omura, H. Kataoka & K. Touhara: EMBO J., 23, 120 (2004)..一方,相乗効果についてはどのような分子機構によって生じるのかは不明である.味覚の旨味受容体においてはアロステリック効果によって旨味の相乗効果が生じることが知られており,同様の仕組みが嗅覚受容体にも存在する可能性が考えられる.われわれが本研究成果を発表したのとほぼ同時期に,他の4研究室からも同様の結果が報告され,拮抗作用や相乗効果が嗅神経細胞における普遍的な仕組みであること明らかとなった(9~13)9) P. Pfister, B. C. Smith, B. J. Evans, J. H. Brann, C. Trimmer, M. Sheikh, R. Arroyave, G. Reddy, H.-Y. Jeong, D. A. Raps et al.: Curr. Biol., 30, 2574 (2020).10) L. Xu, W. Z. Li, V. Voleti, D. J. Zou, E. M. C. Hillman & S. Firestein: Science, 368, 154 (2020).11) C. De March, W. B. Titlow, T. Sengoku, P. Breheny, H. Matsunami & T. S. McClintock: Mol. Cell. Neurosci., 104, 103469 (2020).12) J. D. Zak, G. Reddy, M. Vergassola & V. N. Murthy: Nat Comms, 11, 3350 (2020).13) S. M. Kurian, R. G. Naressi, D. Manoel, A. S. Barwich, B. Malnic & L. R. Saraiva: Cell Tissue Res., 383, 445 (2021).

これまでによく研究されてきたGPCRの多くはリガンド特異性が高く,異なるリガンド間の相互作用が生体内で生じる例は少ない.一方,嗅覚受容体は限られた種類で構造的にも多様な化学物質をカバーする必要があり,リガンド特異性が極めて広いという特徴を有する.さらに,そのために基礎活性が高いということもあるのかもしれない.今回見いだされた逆作動薬効果や拮抗作用・相乗効果はこうした嗅覚受容体のリガンド特異性に関する特性がかかわっている可能性がある.最近,昆虫が有するイオンチャネル型の嗅覚受容体の結晶構造が明らかになったが(14)14) J. A. Butterwick, J. del Mármol, K. H. Kim, M. A. Kahlson, J. A. Rogow, T. Walz & V. Ruta: Nature, 560, 447 (2018).,哺乳類が有するGPCR型の嗅覚受容体の構造はいまだ解明されていない.近い将来,嗅覚受容体の結晶構造解析によって多様な匂い識別の分子基盤が明らかになるものと期待される.

色覚においては,多様な色相を生み出す仕組みは三原色の原理に基づいて確立されている一方,匂いの調和を合理的に設計することはまだできていない.実際,香料の設計においては,調香師が経験則に基づいて香りの配合を決めているというのが実情である.たとえば,なぜ納豆の匂い(イソ吉草酸)とバニラの匂い(バニリン)を混ぜるとチョコレートの匂いになるのか,なぜ不朽の名作と言われる香水シャネルの5番は不快なはずのアルデヒドを加えることで魅力的になったのだろうか.その鍵は嗅神経細胞で生じる拮抗作用や相乗効果にあると考えられるが,分子・構造レベルの理解はこれからである.今後,匂いの混合物の応答を嗅覚受容体の構造レベルで理解することができれば,豊かな匂いのハーモニーを合理的に設計することも可能になるかもしれない.

Reference

1) L. Buck & R. Axel: Cell, 65, 175 (1991).

2) B. Malnic, J. Hirono, T. Sato & L. B. Buck: Cell, 96, 713 (1999).

3) K. Mori, Y. K. Takahashi, K. M. Igarashi & M. Yamaguchi: Physiol. Rev., 86, 409 (2006).

4) D. Y. Lin, S. D. Shea & L. C. Katz: Neuron, 50, 937 (2006).

5) S. Inagaki, R. Iwata, M. Iwamoto & T. Imai: Cell Rep., 30, 107814 (2020).

6) T. Imai, M. Suzuki & H. Sakano: Science, 314, 657 (2006).

7) A. Nakashima, H. Takeuchi, T. Imai, H. Saito, H. Kiyonari, T. Abe, M. Chen, L. S. Weinstein, C. R. Yu, D. R. Storm et al.: Cell, 154, 1314 (2013).

8) Y. Oka, M. Omura, H. Kataoka & K. Touhara: EMBO J., 23, 120 (2004).

9) P. Pfister, B. C. Smith, B. J. Evans, J. H. Brann, C. Trimmer, M. Sheikh, R. Arroyave, G. Reddy, H.-Y. Jeong, D. A. Raps et al.: Curr. Biol., 30, 2574 (2020).

10) L. Xu, W. Z. Li, V. Voleti, D. J. Zou, E. M. C. Hillman & S. Firestein: Science, 368, 154 (2020).

11) C. De March, W. B. Titlow, T. Sengoku, P. Breheny, H. Matsunami & T. S. McClintock: Mol. Cell. Neurosci., 104, 103469 (2020).

12) J. D. Zak, G. Reddy, M. Vergassola & V. N. Murthy: Nat Comms, 11, 3350 (2020).

13) S. M. Kurian, R. G. Naressi, D. Manoel, A. S. Barwich, B. Malnic & L. R. Saraiva: Cell Tissue Res., 383, 445 (2021).

14) J. A. Butterwick, J. del Mármol, K. H. Kim, M. A. Kahlson, J. A. Rogow, T. Walz & V. Ruta: Nature, 560, 447 (2018).