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尿酸の腸管排出を担うABCトランスポーターABCG2腸管からの尿酸排出を促進し痛風予防・治療を目指して

Hideo Satsu

秀夫

前橋工科大学工学部生物工学科

Published: 2021-07-01

尿酸はヒトにおけるプリン体の最終代謝産物であり,体内では主に肝臓・小腸にて産生される.霊長類以外の哺乳類では,尿酸を分解するするウリカーゼが肝細胞中に豊富に存在することから尿酸を分解・無毒化し排泄しているが,ヒトや霊長類はウリカーゼを欠損しているために他の哺乳類よりも血液中の尿酸値が高い状態となっている.尿酸は,体内では抗酸化作用を有する一方で血清尿酸値が高くなると高尿酸血症となり,痛風や尿路結石を発症しやすくなるのみならず,最近では心血管疾患や腎疾患,高血圧などの発症との関連も示されつつある.中でも生活習慣病として知られる痛風は西洋においては紀元前から記載があり,西洋史上の人物ではアレクサンダー大王,レオナルド・ダ・ヴィンチ,ニュートンなどが痛風患者として知られている.一方,日本では痛風は明治以前にはないとの記録があり,痛風が見られるようになったのは明治以降,実際に増加したのは1960年代になってからとされる.これは食生活の欧米化や生活習慣の変化などに起因するとされるが,またプリン体には旨味成分も含まれることからプリン体を多く含む食品は美味といわれる食品が多い.したがって痛風は,かつてはぜいたく病などとも呼ばれ,実際に肥満や高プリン体食の過剰摂取などの環境要因に起因すると考えられてきた.

しかしながら一方で痛風は,環境要因に加えて遺伝的な要因の存在も示唆されており,2004年に台湾の研究グループよりヒト第4染色体長腕に未知の痛風病因遺伝子が存在する可能性が報告されていた(1)1) L. S.-C. Cheng, S. L. Chiang, H. P. Tu, S. J. Chang, T. N. Wang, A. M.-J. Ko, R. Chakraborty & Y. C. Ko: Am. J. Hum. Genet., 75, 498 (2004)..その候補領域には多くの遺伝子が含まれており具体的な病因遺伝子は同定されていなかったが,そのなかで細胞膜上において低分子化合物の排出にかかわるATP-binding cassette transporter G2(ABCG2)/breast cancer resistance protein(BCRP)遺伝子が着目された.ABCG2は,もともと抗がん剤耐性を示したヒト乳がん細胞から発見されたトランスポーターであり(2)2) L. A. Doyle, W. Yang, L. V. Abruzzo, T. Krogmann, Y. Gao, A. K. Rishi & D. D. Ross: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 15665 (1998).,6回膜貫通型の膜タンパク質でホモ2量体を形成して機能する.ABCG2は多くの組織で発現しているが,なかでも腸管や肝臓,腎臓などでは特に高い発現が認められている.当初は抗がん剤耐性に関する研究が中心であり抗がん剤はじめ種々の医薬品が基質として知られたが,そのほか植物エストロゲンなども輸送することが報告されている.

そこでABCG2が実際に尿酸を基質として輸送しうるか解析が進められ,ABCG2発現細胞を用いた実験からABCG2は高容量性・低親和性の尿酸輸送を担うことが示された(3)3) H. Matsuo, T. Takada, K. Ichida, T. Nakamura, A. Nakayama, Y. Ikebuchi, K. Ito, Y. Kusanagi, Chiba, S. Tadokoro et al.: Sci. Transl. Med., 1, 5ra11 (2009)..さらにAbcg2欠損マウスを用いた解析では,Abcg2欠損マウスでは正常型と比べて高い血清尿酸値を示し,一方で尿中への尿酸排泄は増加する結果となり,これはヒトでABCG2に機能欠失型変異を有する痛風患者と同じ現象であった.さらにAbcg2欠損マウスでは正常型の半分しか腸管内に尿酸が排泄されていないことが明らかとなり,Abcg2欠損マウスにおける血清尿酸値の上昇は腸管からの尿酸排泄の低下によることが示唆された(4)4) K. Ichida, H. Matsuo, T. Takada, A. Nakayama, K. Murakami, T. Shimizu, Y. Yamanashi, H. Kasuga, H. Nakashima, T. Nakamura et al.: Nat. Commun., 3, 764 (2012)..なおゲノムワイド関連解析からも,日本人の痛風症例の約8割に機能低下型のABCG2変異がみられ,ABCG2が痛風の主要な病因遺伝子であることが示されている.

このような背景から,筆者らは食品成分によってABCG2を活性化することで体内の尿酸排出を促進し血清尿酸値を下げることができないかと考え,ABCG2を制御する食品成分の解析を進めた.ABCG2についてはその転写制御に関する研究が進んでおり,プロモーター領域にいくつかの転写因子の応答配列が推測されていた.その中でxenobiotics response element(XRE)配列がみられたことから,特にXRE配列に結合する芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor; AhR)に注目した.AhRは生体内に侵入した異物や薬物などを代謝,解毒するために必要な解毒代謝酵素の発現を制御することが知られる薬物受容体の一つであり,フラボノイドなどによってその活性が制御される(5)5) H. Satsu: Food Sci. Technol. Res., 25, 149 (2019)..当初はダイオキシン類の受容体としてダイオキシン類の毒性発現に関与する分子として知られていたが,その後E3ユビキチンリガーゼとしての機能や免疫系における作用も報告されるなど,多彩な生理機能が報告されている.そこで,AhR転写活性を制御する食品成分を探索するAhR安定応答細胞を構築することとし,4つのXRE配列をルシフェラーゼ遺伝子上流に含んだレポーターベクターを構築してヒトAhR発現ベクターとともに遺伝子導入し,薬剤選抜後に最も応答性の高いクローンをヒトAhR安定応答細胞とした(6)6) H. Satsu, K. Yoshida, A. Mikubo, H. Ogiwara, T. Inakuma & M. Shimizu: Cytotechnology, 67, 621 (2015)..構築したAhR応答株を用いて数十種類の野菜熱水抽出物がAhR転写活性に及ぼす影響を検討した結果,しょうがの熱水抽出物がAhR活性を有意に亢進した.さらに,しょうがの酢酸エチル抽出物に顕著なAhR亢進活性が見られ,その活性化成分の一つとして6-shogaolが明らかとなった.そこで6-shogaolがABCG2のmRNA発現に及ぼす影響を検討した結果,6-shogaolはABCG2のmRNA発現を有意に増加させ(7)7) K. Yoshida, H. Satsu, A. Mikubo, H. Ogiwara, T. Yakabe, T. Inakuma & M. Shimizu: J. Agric. Food Chem., 62, 5492 (2014).,この現象は腸管上皮モデル細胞でも確認された.さらに,XRE配列だけでなくヒトABCG2プロモーター領域約4kbpをルシフェラーゼ遺伝子上流に含んだレポーターベクターを用いて,ABCG2プロモーター活性を亢進するポリフェノールのスクリーニングを行った.その結果,ある種のフラボノイドがAhRなど転写因子を介してABCG2の転写活性,さらにはmRNA発現およびタンパク質発現を亢進することが見いだされた.

現在痛風の治療薬としては,腎臓での尿酸の再吸収トランスポーターであるurate transporter 1の阻害薬,あるいは尿酸合成に関与するxanthine oxidaseの酵素阻害薬などが知られている(8, 9)8) 髙田龍平,松尾洋孝:医学のあゆみ,245, 11 (2013).9) 安西尚彦:医学のあゆみ,245, 5–10 (2013)..しかし,いずれの治療薬にも腎機能障害,肝機能障害,投与直後の一次的な痛風発作などの副作用がある可能性が報告されており,新たな作用機序の新薬が求められている.一方食品分野においては,プリン体オフの飲料などに加え近年ではプリン体の吸収を低減する乳酸菌(10)10) 山田成臣,狩野 宏,浅見幸夫:化学と生物,54, 857 (2016).や体内の尿酸合成酵素を阻害するアンセリン,ルテオリンなどを機能性関与成分とした機能性表示食品なども開発されている.これらに加えてABCG2は,痛風の治療・予防に向けた新たなターゲット分子となることが期待できる.特にABCG2の発現する腸管上皮細胞は腸管の最表面に位置することから,食品成分が最も高濃度で作用することが可能である.今後,ABCG2を活性化する食品成分が機能性関与成分となり,「尿酸値が高めの方へ」向けた機能性表示食品の開発などへとつながることが期待される.

図1■フィトケミカルによるAhRを介したABCG2発現亢進

Reference

1) L. S.-C. Cheng, S. L. Chiang, H. P. Tu, S. J. Chang, T. N. Wang, A. M.-J. Ko, R. Chakraborty & Y. C. Ko: Am. J. Hum. Genet., 75, 498 (2004).

2) L. A. Doyle, W. Yang, L. V. Abruzzo, T. Krogmann, Y. Gao, A. K. Rishi & D. D. Ross: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 15665 (1998).

3) H. Matsuo, T. Takada, K. Ichida, T. Nakamura, A. Nakayama, Y. Ikebuchi, K. Ito, Y. Kusanagi, Chiba, S. Tadokoro et al.: Sci. Transl. Med., 1, 5ra11 (2009).

4) K. Ichida, H. Matsuo, T. Takada, A. Nakayama, K. Murakami, T. Shimizu, Y. Yamanashi, H. Kasuga, H. Nakashima, T. Nakamura et al.: Nat. Commun., 3, 764 (2012).

5) H. Satsu: Food Sci. Technol. Res., 25, 149 (2019).

6) H. Satsu, K. Yoshida, A. Mikubo, H. Ogiwara, T. Inakuma & M. Shimizu: Cytotechnology, 67, 621 (2015).

7) K. Yoshida, H. Satsu, A. Mikubo, H. Ogiwara, T. Yakabe, T. Inakuma & M. Shimizu: J. Agric. Food Chem., 62, 5492 (2014).

8) 髙田龍平,松尾洋孝:医学のあゆみ,245, 11 (2013).

9) 安西尚彦:医学のあゆみ,245, 5–10 (2013).

10) 山田成臣,狩野 宏,浅見幸夫:化学と生物,54, 857 (2016).