解説

明らかになってきた光合成のしくみ—C3植物での例を中心に—活性酸素(ROS)生成抑制のための巧妙な分子メカニズムを備えたC3型光合成の進化

How Photosynthesis is Carried Out?: The Well-Established Molecular Mechanism to Suppress the Production of Reactive Oxygen Species

Riu Furutani

古谷 吏侑

神戸大学農学研究科

Chikahiro Miyake

三宅 親弘

神戸大学農学研究科

Published: 2021-07-01

光合成は,光エネルギーを化学エネルギーに変換し,大気中の二酸化炭素(CO2)を有機化合物へ固定し,糖を生成する反応である.しかし,光エネルギーを化学エネルギーへ変換する光合成電子伝達反応は,常に活性酸素種(ROS)生成の危険性を伴う.ROSは,光合成器官に酸化傷害を与えることで,光合成活性ならびに生育を大きく低下させる.近年,植物は光合成電子伝達反応におけるROS生成を抑制するメカニズム—P700酸化システム—を備えていることが明らかとなってきた.本稿では,C3植物において“P700酸化”を担う分子メカニズムについて紹介する.

Key words: 酸化障害; 光合成電子伝達反応; 活性酸素; 光呼吸; P700酸化

はじめに—酸素と光合成—

現在,地球の大気には約21%の酸素(O2)が含まれている.ヒトを含む好気性生物が生存していくなかで,生体エネルギーであるATP生合成の際の呼吸における電子受容体として,また細胞内のさまざまな反応の基質として,O2は必須である.単にO2と言うと,大気中のO2のうち99%以上を占める三重項酸素分子(3O2)を指すが,この三重項酸素分子は他の分子と比べ少し変わった性質をもつ.2つ以上の原子同士が結合する際には,原子同士の電子軌道が組み合わさり,分子が生成する際に新たな電子軌道が生み出され,それぞれの原子がもつ電子はこれらに再分配される.生体分子を含む多くの分子では,最高被占軌道(HOMO: Highest Occupied Molecular Orbital)において不対電子をもたないように電子が分配される一重項状態が最も安定な状態である.しかしながら,O2分子では電子の数や結合への関与の影響により,2つの不対電子をもつ状態(三重項状態)をとることで電子運動範囲が拡大し,一重項であるよりも安定になる(図1図1■三重項酸素分子(3O2)の電子軌道と,活性酸素種(ROS)生成の概要図).したがって,それぞれの軌道のいずれかに電子を受け入れようとする高い求電性を示しながらも,そのためのエネルギーを要するために,一重項状態の生体分子を無作為に酸化する可能性は低い(1)1) 浅田浩二:化学と生物,37, 251 (1999).

図1■三重項酸素分子(3O2)の電子軌道と,活性酸素種(ROS)生成の概要図

今でこそ大気中に豊富に存在するO2であるが,およそ30億年前の地球には現在の約100分の1のO2しか存在していなかった(2)2) L. R. Kump: Nature, 451, 277 (2008)..当時の光合成生物は,有機酸や硫化水素などを電子供与体とし,光合成反応を行っていた.しかし,地球上に無尽蔵に存在する水を電子供与体とし,副産物としてO2を発生する光合成を行うシアノバクテリア(ラン藻)の誕生以降,地球上のO2濃度は徐々に上昇していき,O2を利用することでそれまでの20倍近くのエネルギーを呼吸により得ることができる好気性細菌が進化していった.後にシアノバクテリアや好気性細菌は真核生物に共生し,それぞれ葉緑体・ミトコンドリアとして,その後の生物の進化に大きく寄与した.このように,O2発生型の光合成様式の誕生とそれによる大気へのO2の供給は,地球史から見ても重要な出来事であった.

しかし,光合成反応を考えるうえで“O2を発生する光合成”は,リスクの大きいものであったと言える.先ほど述べたように,O2は安全かつ好都合な性質をもち合わせている一方で,危険な側面ももち合わせる.三重項酸素は,一重項の分子とは容易に反応しないものの,不対電子を一つ有する(二重項)ラジカル分子に付加しペルオキシド(–OO–あるいは–OOH),さらに,酸化還元電位の低い化合物により一電子還元され,スーパーオキシドラジカル(O2)となる.O2は,自発的不均化反応により過酸化水素(H2O2)となり,さらにH2O2はフェントン反応により最も反応性が高いヒドロキシラジカル(・OH)を生成する.これらO2, H2O2, ・OHは,三重項酸素と比べ高エネルギー状態であるために高い反応性を示し,DNAやタンパク質,脂質といった生体内分子を無作為に酸化することから,“活性酸素種 (ROS: Reactive Oxygen Species)”と呼称される(図1図1■三重項酸素分子(3O2)の電子軌道と,活性酸素種(ROS)生成の概要図).

光合成電子伝達反応では,太陽光のエネルギーを吸収し,水分子を酸化することにより“電子”を抽出し,CO2同化のための化学エネルギー化合物を生成する(詳細は後述する).そこでは,電子伝達体の酸化還元電位の差を利用して電子を伝達する反応が進行する.光エネルギーを吸収する2つの光化学系タンパク質複合体内の電子伝達体の酸化還元電位はおよそ−1,200~−600 mVであり,(3)3) R. E. Blankenship & R. C. Prince: Trends Biochem. Sci., 10, 382 (1985). O2からO2が生成する際の酸化還元電位(およそ−300 mV)を下回る.つまり,酸化還元電位の低い電子伝達体が還元状態で蓄積する状況では,容易にO2が一電子還元され,ROSであるO2が生成する(4)4) S. Khorobrykh, V. Havurinne, H. Mattila & E. Tyystjärvi: Plants, 9, 91 (2020)..このように,光合成電子伝達反応は常に,ROSによる酸化障害のリスクが高いといえる.しかしながら,私たちの身の回りで健康に生育している植物や作物を見ていると,ROSによる酸化障害を回避するメカニズムを進化の過程で獲得し,今日まで生きぬいてきたことが容易に想像できる.

以降の項では,まず,酸素発生型光合成を行うC3植物の“光合成のしくみ”を説明したのち,実際に光合成電子伝達系でO2が還元されROSが生成すること,そしてその蓄積が酸化障害を与えることを紹介する.つまり,O2発生型光合成生物は予想どおり非常に危険な状況を伴いながら光合成の営みを行っていることを示す.一方で植物はROS生成そのものを抑制できるシステム“P700酸化システム”を有していることを概観する.さらに,最新の研究から明らかになったC3植物における“光合成のしくみ”が“P700酸化誘導のメカニズム”を解明するカギとなったことを紹介する.本稿では,これまで未解明であった“P700酸化”の全容を紹介し,C3植物での安全な光合成の進行を達成するための制御メカニズム,またそれらと進化の繋がりや今後の展望について紹介したいと思う.

酸素発生型光合成の概要

まずは酸素発生型光合成の概要を記す(図2図2■C3植物における,酸素発生型光合成の概要図).光合成は,葉緑体チラコイド膜上で行われる光合成電子伝達反応と,それにより生成された化学エネルギーを用いて糖生成のための初期代謝物質を生成する反応系に大別される.後者の反応としては,カルビン・ベンソン・バッシャム回路(CBB回路)によるCO2同化と,CBB回路およびC2サイクルによる光呼吸代謝系があり,いずれもCBB回路の過程で,糖類を生成するためのトリオースリン酸(TP)を抽出し,細胞質へ輸送する.

図2■C3植物における,酸素発生型光合成の概要図

まずは光合成電子伝達反応の概要を説明する.葉緑体内のチラコイド膜には,光合成電子伝達反応にかかわるタンパク質が存在している.光合成電子伝達反応の始まりは,光化学系II(PSII)で吸収された太陽光のエネルギーによる,反応中心クロロフィルP680の光励起である.PSIIに存在する多数のクロロフィル分子は光エネルギーにより励起され,連鎖的に反応中心クロロフィルに光エネルギーを集め,P680をP680*へ励起する.P680*は高い還元力を有し,PSII内の電子伝達体を還元したのち,酸化型となる(P680).生成したP680は,PSIIのMnクラスターを介して水を酸素分子(O2)とプロトン(H)へ酸化し,基底状態に戻る.

P680から生じた電子は,PSII内の電子伝達体を介してプラストキノン(PQ)を還元する.PQが還元される際,ストロマ側のHが付加され,還元型PQ(PQH2)が生成する.このように,P680は光酸化還元サイクルをするなかで,水を酸化し,PQを還元している.その後,PQH2は,シトクロム(Cyt)b6f複合体により酸化され,このときチラコイド膜内膜(ルーメン)へHが放出される.PQH2の酸化による電子伝達とHの取り込みは,Qサイクルという特殊な電子伝達方式(後述)により行われ,1電子に対して2Hがルーメン側に取り込まれる.水の光酸化とQサイクルによりチラコイド膜ルーメンに供給されたHは,ストロマ-ルーメン間でのH濃度勾配(ΔpH)を生み出す.ΔpHによるエネルギーを利用し,チラコイド膜に存在するATP合成酵素によりATP合成が行われる.Cyt b6f複合体は,続けてプラストシアニン(PC)へ電子を伝達する.ここまで,Hの取り込みによるATP合成のために電子を伝達してきたが,電子の伝達は酸化還元電位の差を利用し,還元力の高いものから低いものへと行われる.すなわち伝達の過程で還元力が少しずつ減少していき,PCではNADPを最終産物であるNADPHへ還元するための還元力が失われている.そこで,もう一つの光化学系である光化学系I(PSI)において再度光エネルギーを吸収するとともに高い還元力をもつ物質を生成する.PSIでもPSII同様,その反応中心クロロフィルP700が光酸化還元サイクルをとることで,電子を伝達する.基底状態のP700は,光エネルギーを受け取って励起され,励起P700(P700*)はPSI内の電子伝達体に電子を渡したのち酸化型(P700)となり,PCからの電子を受け取って基底状態へ戻る.P700*から放出された電子は,次いでフェレドキシン(Fd)へと伝えられ,Fd-NADPレダクターゼ(FNR)を介してNADPHを生成する.光合成電子伝達反応では以上の一連の反応により,CO2同化および光呼吸を駆動するための化学エネルギーであるATP, NADPHおよび還元型Fdを生成する.

一方CO2同化は,CBB回路の初発反応であるリブロース-1,5-ビスリン酸(RuBP)カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Ribulose-1,5-bisphospate carboxylase/oxygenase; Rubisco)によるRuBPのカルボキシル化に始まる.CBB回路の代謝中間体であるRuBPは,Rubiscoのカルボキシラーゼ反応よりCO2を付加され,2分子の3-ホスホグリセリン酸(PGA)へと変換される.そしてPGAからRuBPを再生産する際に,電子伝達系で生成されたATPおよびNADPHが利用される.

一方で,大気条件下(40 Pa CO2/2 kPa O2)では,RubiscoはRuBPのカルボキシラーゼ反応と同時に,RuBPのオキシゲナーゼ反応を競合的に触媒する.RuBPのオキシゲナーゼ反応では,1分子のPGAと1分子の2-ホスホグリコール酸(2-PG)が生成する.この2-PGはCBB回路に直接利用できないために,ペルオキシソームやミトコンドリアを通じたC2サイクルにより,PGAとして再生産することで“炭素源”を回収する.このC2サイクルでは,光合成電子伝達反応により生成した還元型のFdやATPが利用され,2-PGの一部の炭素はCO2として放出されるが,再度Rubiscoによるカルボキシラーゼ反応により,PGAへと固定される.この一連の反応系はO2を吸収しCO2を放出するため,“光呼吸”と呼称される.本稿では,光呼吸とは独立して機能する,CBB回路によるCO2同化反応系を“CO2同化”,Rubiscoのオキシゲナーゼ反応を初発としたC2サイクルによるPGAの再生産,およびC2サイクルの副産物であるCO2を捕捉し,Rubiscoのカルボキシラーゼ反応によって同化する反応を総じて“光呼吸”と定義する.前述のとおり,Rubiscoのカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ反応は互いに競合しており,CO2/O2分圧比に依存してこれらの反応比が決定される.植物種によるが,イネやコムギなどのC3植物では,大気条件(CO2 40 Pa, O2 21 kPa)でのカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ反応はおよそ3 : 1の割合で同時進行している.すなわち,21 kPa O2の大気条件下では,CO2同化と光呼吸が同時に進行する.

C3植物での光合成のしくみ~光合成電子伝達反応とCO2同化/光呼吸の強固な関係~

酸素発生型光合成の概要は上に示したとおりであるが,その詳細なモデルに関しては現在も盛んに議論が行われており,まだその全容は明らかになっていない部分が多い.しかしながら,われわれは,光合成電子伝達反応とCO2同化/光呼吸が“密なカップリング”による強固な関係を築いていることを,明らかにすることができた(5, 6)5) C. Miyake: Antioxidants, 9, 230 (2020).6) R. Furutani, K. Ifuku, Y. Suzuki, K. Noguchi, G. Shimakawa, S. Wada, A. Makino, T. Sohtome & C. Miyake: Adv. Bot. Res., 96, 151 (2020)..以下では,コムギやシロイヌナズナ,ヒマワリ,タバコなどの主要なC3植物において観測されてきた,“密なカップリング”の下光合成が機能していることを示す実験事実を紹介する(図3図3■C3植物における,光合成のしくみの概念図).

図3■C3植物における,光合成のしくみの概念図

a~fは,これまで得られた実験事実に基づいて作成した各光合成パラメーターの関係を示した概要図.gは,a~fの関係を等式で表したものと,各要素をモデル図に当てはめて示したものである.Furutani et al.: 20206)6) R. Furutani, K. Ifuku, Y. Suzuki, K. Noguchi, G. Shimakawa, S. Wada, A. Makino, T. Sohtome & C. Miyake: Adv. Bot. Res., 96, 151 (2020).およびMiyake: 20205)5) C. Miyake: Antioxidants, 9, 230 (2020).より改編.

1. [事実1](図3a)

大気条件下において,クロロフィル蛍光解析から求めたPSIIでの電子伝達速度(Jf)と,ガス交換解析から見積もられた,CO2同化/光呼吸による電子の消費速度(Jg)は原点を通る正の直線関係にある(7~10)7) B. Genty, J. Harbinson, J. M. Briantais & N. R. Baker: Photosynth. Res., 25, 249 (1990).8) J. Ghashghaie & G. Cornic: J. Plant Physiol., 143, 643 (1994).9) S. A. Ruuska, M. R. Badger, T. J. Andrews & S. von Caemmerer: J. Exp. Bot., 51(suppl_1), 357 (2000).10) S. M. Driever & N. R. Baker: Plant Cell Environ., 34, 837 (2011).

これは,光合成電子伝達系により供給されるほぼすべての電子がCO2同化/光呼吸を駆動し,逆にCO2同化/光呼吸がPSIIの電子伝達反応を駆動していることを意味する.

2. [事実2](図3b)

PSIIにおける電子伝達反応速度と,ATP合成酵素によるHの利用速度(vH)は原点を通る正の直線関係にある(11–14)11) A. Kanazawa & D. M. Kramer: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 12789 (2002).12) T. J. Avenson, J. A. Cruz & D. M. Kramer: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 5530 (2004).13) T. J. Avenson, J. A. Cruz, A. Kanazawa & D. M. Kramer: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 9709 (2005).14) A. Kanazawa, E. Ostendorf, K. Kohzuka, D. Hoh, D. D. Strand, M. Sato-Cruz, L. Savage, J. A. Cruz, N. Fisher, J. E. Froehlich et al.: Front. Plant Sci, 8, 719 (2017).

kHは光合成電子伝達反応に伴う水の光酸化およびQサイクルによるチラコイド膜ルーメンへのHの蓄積における見かけの速度定数,gHはATP合成酵素によるATP生成の見かけの速度定数であるHコンダクタンス,そしてpmf(proton motive force)は強光下ではΔpHを反映する.光合成電子伝達反応によるストロマからチラコイド膜ルーメンへのHの取り込み速度(=kH×Jf)と,ATP合成酵素によるHの消費速度(=vH=gH×pmf)が等しいということは,CO2同化/光呼吸によるHの消費速度が,光合成電子伝達反応によるストロマからルーメンへのH取り込み速度と等しいことを示唆する.

3. [事実3](図3c)

実際に,CO2同化/光呼吸の両反応によるHの消費速度(JgH)と,ATP合成酵素によるH流出速度(vH)は原点を通る正の直線関係にある(15)15) T. Sejima, H. Hanawa, G. Shimakawa, D. Takagi, Y. Suzuki, H. Fukayama, A. Makino & C. Miyake: Physiol. Plant., 156, 227 (2016).

JgHは,ATP合成のためのADPの再生産速度と見ることもできる.すなわち,CO2同化と光呼吸によるATP消費効率が,ATP生成速度を決めているということであり,逆もまたしかりである.

等式[2],[4]より

という関係が成り立つ.これは,光合成電子伝達反応によるストロマからルーメンへのHの取り込みが最終的なHの消費速度を決定しており,逆もまたしかりということである.

4. [事実4](図3d)

CO2同化および光呼吸による電子の消費速度(Jg)とHの消費速度(JgH)は原点を通る直線関係にある(15~17)15) T. Sejima, H. Hanawa, G. Shimakawa, D. Takagi, Y. Suzuki, H. Fukayama, A. Makino & C. Miyake: Physiol. Plant., 156, 227 (2016).16) A. N. Tikhonov: Plant Physiol. Biochem., 81, 163 (2014).17) S. Wada, Y. Suzuki & C. Miyake: Plants, 9, 319 (2020).

kJgは見かけの速度定数である.実際にJgHとJgの商から求めるkJgは,大気条件におけるCO2飽和点と補償点の間で5~10%ほどの差があるが,ここでは定数として取り扱うこととする.この等式は,CO2同化および光呼吸による電子の消費速度が,これらによるHの消費速度を決定しており,逆もまたしかりということである.

5. [事実5](図3e)

PSIIでの電子伝達速度と,Fdの酸化還元速度は原点を通る正の直線関係にある(18)18) K. Kadota, R. Furutani, A. Makino, Y. Suzuki, S. Wada & C. Miyake: Plants, 8, 152 (2019).

kFdは還元型Fd(Fd)の酸化反応における,見かけの速度定数である.等式[8]および[9]は,Fdの酸化還元反応速度が,PSIIでの電子伝達速度により決まることを示す.また等式[1]から,CO2同化/光呼吸が,Fdの酸化還元速度を決定していることを示している.

6. [事実6](図3f)

PSIIでの電子伝達活性とクロロフィル蛍光解析によって見積もられるPQプールの還元状態(1-qLというパラメータで評価する)は,負の線型関係にある(19, 20)19) G. Shimakawa & C. Miyake: Plant Direct, 2, e00073 (2018).20) G. Shimakawa, K. Shaku & C. Miyake: Front. Microbiol., 9, 886 (2018).

kqLは還元型PQの酸化反応における見かけの速度定数である.すなわち,還元型PQの酸化反応速度がPSIIの電子伝達速度を決定するということを示すと同時に,kqLを制御することで,PSIIでの電子伝達が調節されうることを示す.

ここまでの等式を整理すると以下のような関係が得られる(図3g図3■C3植物における,光合成のしくみの概念図).

光合成電子伝達反応での電子およびHの生成と,CO2同化/光呼吸による電子およびHの消費は,ほぼ完全な相互依存関係にある.すなわち,光エネルギーを吸収する光合成電子伝達反応と,酵素反応によるCO2同化/光呼吸は,“密にカップル”して進行していることを示し,電子とHのいずれに対してもJf(=Jg)を介して一つの等式に落とし込むことができる.この“密なカップル”がゆえに,一つの要素がストレスや制御により変化すれば,その他すべての要素にも影響を及ぼす.このことは,CO2同化/光呼吸の抑制が光合成電子伝達反応の滞りに直結することを示している.光合成電子伝達反応が滞ることは,酸化還元電位の低い電子伝達体が還元状態で保たれることを意味し,O2と反応することによるROS生成の可能性が大きく上昇する.次の項では,光合成電子伝達系でのROS生成メカニズムに関して説明する.

光合成のしくみは必然的にROS生成の危険を伴う

前章で説明したとおり,光合成電子伝達反応とCO2同化/光呼吸はATP, NADPHそしてFdを通じた密接な関係にある.吸収した光エネルギーにより生成したATP, NADPHおよび還元型FdがすべてCO2同化や光呼吸の代謝により消費されるよう,これらの活性を光合成電子伝達反応の活性より十分大きく保つことができれば,無駄のない安全な光合成が進行する.しかしながら,常に変化していく野外環境においては,そのような理想的な光合成は不可能に近い.実際に,ガス交換解析によりCO2同化速度を測定すると,その速度は太陽光の4分の1から2分の1程度の光強度のもとで飽和してしまい,日中の晴れ間などでは植物に過剰な光エネルギーが供給されていることがわかる(21)21) K. Asada: Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol., 50, 601 (1999)..また,乾燥条件では,蒸散を通じた植物体内の水の損失を防ぐために気孔を閉じる.しかし,気孔を閉じることは同時に,生葉へのCO2の取り込みが抑制されることになり,結果的にCO2同化の効率は低下してしまう(22, 23)22) J. Flexas & H. Medrano: Ann. Bot., 89, 183 (2002).23) D. W. Lawlor & W. Tezara: Ann. Bot., 103, 561 (2009)..高/低温ストレスにおいては,CO2同化や光呼吸代謝に関与する酵素群の活性が変化し,これらの反応系による光エネルギー利用効率の低下が生じる(24)24) R. F. Sage & D. S. Kubien: Plant Cell Environ., 30, 1086 (2007).

これらの環境ストレスに共通するのが,光合成電子伝達系に供給される光エネルギーに対して,CO2同化および光呼吸による光エネルギー利用効率が低くなってしまうという点である.前章で紹介したとおり,光合成電子伝達反応とCO2同化/光呼吸は密にカップルして進行する.すなわち,CO2同化/光呼吸による光エネルギー利用効率の低下は同時に,光合成電子伝達反応の滞りによる,光合成電子伝達系への電子の蓄積の可能性が高まることを意味する.

では光合成電子伝達系に電子が蓄積することはどのような意味をもつのか.近年,われわれは光合成電子伝達系への電子の蓄積がもたらす影響を実験的に観測することに成功した(25)25) T. Sejima, D. Takagi, H. Fukayama, A. Makino & C. Miyake: Plant Cell Physiol., 55, 1184 (2014)..そのなかで用いられたのが,Sejimaらによって開発されたrSP(repetitive short-pulse)法である.rSP法では,暗順応させた葉に,暗黒下においてCBB回路の活性化が生じないほどの短い飽和光パルス(SP: Saturated pulse, 300 ms, 10,000–20,000 µmol photons m−2 s−1)を10秒おきに照射する.SP照射直後,P700光酸化還元サイクルが駆動し,一過的にP700が蓄積する.しかしながら,PSIIから際限なく電子が伝達される.一方で,PSIからの電子を利用するCBB回路は,暗黒下で駆動しないため,PSI内に電子が蓄積し,P700は減少していきやがて励起型のP700*が蓄積する(図4a図4■PSIにおける活性酸素生成メカニズムの概念図).rSP処理を施した葉では,処理時間に応じてPSIの最大電子伝達活性が大きく低下した.この方法によるPSI失活は,ROS生成の基質となるO2を大気の1/10に下げた2 kPa O2環境下で緩和される.すなわち,電子伝達系における電子の蓄積は,ROSの生成によるPSI失活を引き起こしうるということを強く示唆した.また,rSP処理により一度PSIを失活させてしまうと,処理後のCO2同化速度が低下したことから,PSIの失活は生育にも大きく影響することが示唆された(25)25) T. Sejima, D. Takagi, H. Fukayama, A. Makino & C. Miyake: Plant Cell Physiol., 55, 1184 (2014).

図4■PSIにおける活性酸素生成メカニズムの概念図

(a)暗所下での飽和光パルス(SP)照射時の,P700の変化.Sejima et al.: 201425)25) T. Sejima, D. Takagi, H. Fukayama, A. Makino & C. Miyake: Plant Cell Physiol., 55, 1184 (2014).より改編.(b)SP照射中のROS生成メカニズムの概念図.

CO2同化や光呼吸によるPSIで生成した電子の消費が行われない状況で,PSIIから電子が供給され続けると,PSI内の電子伝達体(A0, A1, FX, FA/FB)やFdが還元状態となる.これらの電子伝達体は,酸化還元電位が低く,O2をO2へと還元してしまう(4, 26~28)4) S. Khorobrykh, V. Havurinne, H. Mattila & E. Tyystjärvi: Plants, 9, 91 (2020).26) M. Takahashi & K. Asada: Plant Cell Physiol., 23, 1457 (1982).27) M. Takahashi & K. Asada: Arch. Biochem. Biophys., 226, 558 (1983).28) D. A. Cherepanov, G. E. Milanovsky, A. A. Petrova, A. N. Tikhonov & A. Y. Semenov: Biochemistry (Mosc.), 82, 1249 (2017)..このO2は自発的不均化によりH2O2となり(メーラー反応),またH2O2が,遊離あるいはタンパク質に結合するFe2+やCu2+などと反応する(フェントン反応)ことにより,・OHが生成する(図1, 4b図1■三重項酸素分子(3O2)の電子軌道と,活性酸素種(ROS)生成の概要図図4■PSIにおける活性酸素生成メカニズムの概念図).これらのROSによりPSIは酸化的に失活し,CO2同化能や生育に多大な被害が生じる(25, 29, 30)25) T. Sejima, D. Takagi, H. Fukayama, A. Makino & C. Miyake: Plant Cell Physiol., 55, 1184 (2014).29) K. Sonoike: Physiol. Plant., 142, 56 (2011).30) M. Zivcak, M. Brestic, K. Kunderllikova, O. Sytar & S. I. Allkahverdiev: Photosynth. Res., 126, 449 (2015).

野外環境において常に存在するさまざまな環境ストレスは,CO2同化能を抑制し,光合成電子伝達系に電子が蓄積する危険性を高める.しかしながら,窓の外を覗くと多くの植物が活き活きと生育する姿が目に入る.昨今の気候変動や夏場の強い太陽光,雨が