書評

平田普三(編著)『ゼブラフィッシュ実験ガイド』(朝倉書店,2020年)

竹中 麻子

明治大学

Published: 2021-07-01

生命科学研究の推進には,これまでさまざまなモデル生物の実験系が用いられてきた.その中でも,小型魚類の実験系は基礎生物学に限らず,医学,薬学,そして農学などの実学あるいは境界生物学の分野でも広く用いられている.ゼブラフィッシュは,世界的に最も多く科学研究で用いられている小型魚類だが,この小さな脊椎動物は農芸化学分野でも(栄養素や化合物の機能アッセイ系として,また,新規機能性物質の発見の材料として)大きな可能性を示していることは疑う余地の無いところだろう.今回紹介する「ゼブラフィッシュ実験ガイド」は,初めて日本語で書かれたゼブラフィッシュ実験の専門書だが,同時に傑出した入門書でもある.ゼブラフィッシュのモデル動物としての素晴らしさを知り,近年自身の研究に取り入れるようになった本書評の筆者も,この本の出版を歓ぶ一人である.

本書は全17の章からなる.まず第1章ではゼブラフィッシュがモデル生物として科学界に登場した歴史,この実験動物の特徴(強みと弱み),国際的な研究コミュニティーに関する情報などが広く導入的に紹介される.第2–5章では,ゼブラフィッシュの系統・飼育・交配と採卵・発生から成魚の解剖アトラスまで,このモデル動物の実験系の立ち上げと維持に必要な情報とプロトコールを余さず示してくれている.続く第6–8章ではさまざまなライフステージにおけるゼブラフィッシュの運動・行動・学習に関する研究方法や最新の知見が実に精緻に記載されており,「動き」や「学び」という高次生命現象の理解や,関連する実験遂行の大いなる助けになることは間違いない.また,ゼブラフィッシュは,ゲノム編集実験は勿論,確立されたトランスジェニック技術にさまざまな遺伝子プロモーターと蛍光タンパク質を組み合わせて特定の細胞の挙動を可視化する研究にも有用で,第9–12章ではそれらの技術の基礎・応用が実例を交えてわかりやすく解説されている.本の終盤では,第13および14章でゼブラフィッシュを用いた個体レベルの毒性試験や創薬研究の応用例とポイントについて,第15–17章でデータベースやリソース事業とその活用方法,さらに遺伝子組換え実験等に関する各種法令に関する諸手続きまでもが網羅されており,この一冊でゼブラフィッシュ実験に関するさまざまな「知りたい」が満たされるようになっている.

加えて,上記の17章の中にはコラムの形で,ゼブラフィッシュ研究にまつわる歴史や疑問が掘り下げられ,発展著しい技術も取り上げられている.また,QRコードにアクセスして解剖の手技などが動画で見られる仕掛けにより,「百聞は一見に如かず」の部分がより容易かつ正確に学べる工夫があることも嬉しい.ご一読頂ければこのモデル動物がぐっと身近に感じられるはずである.

本書はゼブラフィッシュを用いて各分野を牽引する研究者によって執筆され,特に実用的項目が幅広く丁寧にカバーされるように編まれている.ゼブラフィッシュ研究を始められる方,興味を抱かれている方,また,経験者で理解を深めたい・実験法を再確認したい方にとっても,まさに最適の書だろう.本学会員の皆様にも是非手にしていただきたい一冊である.