解説

メチオニン代謝異常は脂肪肝を惹起する改めてわかったコリン関連化合物の重要性

Disturbed Methionine Metabolism Causes Fatty Liver: Reevaluation of Importance of Choline Related Compounds

Takashi Hayakawa

早川 享志

名古屋女子大学短期大学部生活学科

Erina Kitagawa

北川 絵里奈

名古屋文理大学健康生活学部健康栄養学科

Published: 2021-08-01

肝臓へ脂質が多く溜まる現象が脂肪肝である.以前は,アルコール常習者に多く見られるアルコール性脂肪肝が多かったが,現在ではアルコール飲酒とは無関係な脂肪肝が増えている.進行すると肝炎や肝硬変にまで進むことから脂肪肝にならないように管理することが重要である.生活習慣病の要因となる肥満は脂肪肝を伴うことが多く,生活習慣病の予防の観点からも脂肪肝予防が重要である.脂肪肝にはいろいろな要因があるが,ここでは筆者らが調べてきたメチオニン代謝と関連した脂肪肝とその栄養学的改善およびその機構を中心に概説する.

Key words: 脂肪肝; ビタミンB6欠乏; メチオニン代謝; ホモシステイン; ホスファチジルコリン生合成

はじめに

日本でも欧米のように肥満が増えつつある.肥満は,各種生活習慣病のリスクを高める危険因子であり,肥満は脂肪肝の要因の一つでもある.脂肪肝はアルコール多飲者に多く見られ,アルコール性脂肪肝はさらに肝硬変や肝臓がんに進むことが知られていたが,近年はアルコール飲酒歴がそれほどでもないのに脂肪肝が見られる.こうした脂肪肝はアルコール飲酒を伴わないので非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease; NAFLD)と呼ばれている.NAFLDには単に肝臓に脂肪が蓄積する炎症を伴わない非アルコール性脂肪肝(NAFL: non-alcoholic fatty liver)と,炎症を伴う非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis; NASH)とがある.NASHは肝硬変,さらには肝臓がんに至るのでNASHの予防に多くの関心が集まっている.NASHの発症機序は完全に明らかにされたわけではないが,Dayらが提唱したtwo-hit theoryが広く認められてきた(1)1) C. P. Day & O. F. James: Gastroenterology, 114, 842 (1998)..First hitは肝臓への脂肪の蓄積であり,続いてsecond hitとして酸化ストレスなどの要因が加わって炎症が進むという考えである.その後NASHへの進展には複数の要因が関与するとされるmultiple hit hypothesisが提唱され,肝外組織との相互作用がNASHの進展に寄与しているとされている(2)2) H. Tig & A. R. Moschen: Hepatology, 52, 1836 (2010)..また,腸内細菌等の腸内環境の関与も指摘されており,新たなトピックとなっている(3)3) 鍛冶孝祐,吉治仁志:日本内科学会誌,109, 27 (2020)..こうした背景の下で,NAFLDやNASHを模した病態として,メチオニン,コリン欠乏食が脂肪肝作成に用いられて来た.メチオニン欠乏が肝臓脂肪蓄積を起こすことは以前から知られている.メチオニンは活性型メチオニンであるS-アデノシルメチオニン(SAM)としてホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化基質として働きホスファチジルコリン(PC)を生成するホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(PEMT)に必須である.肝臓はPCの要求性が高く,SAMの40%はPC合成に用いられるという.したがって,SAMのかかわるメチル化代謝の乱れはPCの合成低下による脂肪肝の発症要因の一つとなる(4)4) A. K. Walker: Trends Endocrinol. Metab., 28, 63 (2017)..一方,コリンは肝臓においてホスホコリンを経由したCDP–コリン経路によるPC合成の出発基質であり,コリン欠乏もPC合成に影響する(図1図1■メチオニン代謝と超低密度リポタンパク質分泌との関わり).CDP–コリン径路はSAMの関与するメチル化反応がかかわらない独立したPC合成経路である(5)5) L. K. Cole, J. E. Vance & D. E. Vance: Biochim. Biophys. Acta, 1821, 754 (2012)..したがってメチオニンとコリンの同時欠乏食では肝臓中PC合成に致命的なダメージを与える.肝臓は食事由来の脂質成分の搬入部位であると同時に脂質成分の血中への排出元でもある.肝臓からの脂質排出を担うのは超低密度リポタンパク質(VLDL)である.トリグリセリドをVLDLにアッセンブリするのにmicrosomal triglyceride transferring protein(MTP)の働きが必要であり(6)6) J. N. van der Veen, J. P. Kennelly, J. E. Vance, D. E. Vance & R. L. Jacobs: Biochim. Biophys. Acta Biomembr., 1859(9 Pt B), 1558 (2017).,これを阻害すると血漿脂質が低下し,肝臓脂質が蓄積する(7)7) C. F. Chandler, D. E. Wilder, J. L. Pettini, Y. E. Savoy, S. F. Petras, G. Chang, J. Vincent & H. J. Harwood Jr.: J. Lipid Res., 44, 1887 (2003)..PCはリポタンパク質のアッセンブリと分泌に必要であり,VLDLの形成には新たに合成されたPCが必要と言われている(6)6) J. N. van der Veen, J. P. Kennelly, J. E. Vance, D. E. Vance & R. L. Jacobs: Biochim. Biophys. Acta Biomembr., 1859(9 Pt B), 1558 (2017)..つまり,PC合成不全ではVLDL分泌低下を招き,肝臓からの脂質の排出が滞り肝臓に脂質が蓄積する.したがって,通常のラット飼料には見合った量のコリン化合物が添加されており機能不全は起こらない(はずである).しかし,生体が置かれている代謝状況により肝臓に脂質が蓄積する.筆者らはビタミンB6(以下B6)欠乏におけるメチオニン代謝を調べるなかで,肝臓が白っぽくなる脂肪肝の様相を呈する場合があることを観察し,脂質蓄積の観点からメチオニン代謝との関連について検討を行ってきた.本稿ではメチオニン代謝の観点から肝臓脂質蓄積とその栄養学的改善およびその機構について述べる.

図1■メチオニン代謝と超低密度リポタンパク質分泌との関わり

B6;ビタミンB6,B12;コバラミン,Hcy;ホモシステイン,MB12;メチルコバラミン,Met:メチオニン,PC:ホスファチジルコリン,PE:ホスファチジルエタノールアミン,5-MeTHF;5-メチルテトラヒドロ葉酸,5,10-MeTHF;5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸,SAH;S-アデノシルホモシステイン,SAM;S-アデノシルメチオニン,VLDL;超低密度リポタンパク質,BADH;ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ,BHMT;ベタイン-ホモシステインメチルトランスフェラーゼ,CBS;シスタチオニンβ-シンターゼ,CGL:シスタチオニンγ-リアーゼ,CHDH;コリンデヒドロゲナーゼ,CK;コリンキナーゼ,CPT:コリンホスホトランスフェラーゼ,CTP;ホスホコリンシチジリルトランスフェラーゼ,MTHFR;メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ,PEMT;ホスファチジルエタノールアミン N-メチルトランスフェラーゼ,PLD;ホスホリパーゼD,MS;メチオニンシンターゼ,SAHH;S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ,SHMT;セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ

メチオニン代謝にかかわる要因と脂肪肝の発生要因

メチオニンはATPにより活性化を受けてSAMになる.SAMは各種メチル化反応のメチル化基質として働くが,その一つとしてPEのPCへのメチル化がある.この反応を触媒するPEMTは,体内で合成されたPEのエタノールアミン部分を3回メチル化することによりPCを合成する(図1図1■メチオニン代謝と超低密度リポタンパク質分泌との関わり).その際,SAMはメチル基がとれたS-アデノシルホモシステイン(SAH)となり,次いで加水分解を受けてホモシステイン(Hcy)となる.Hcyは,再メチル化経路によるSAMの再合成と,硫黄転移経路によるシステインへの代謝経路の分岐点に位置し,どちらの経路も水溶性ビタミンが関与しており,関与するビタミンの栄養状態が代謝に影響を及ぼす.再メチル化経路においては,5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MeTHF)をメチル化基質としてビタミンB12を補酵素とするメチオニンシンターゼ(MS)によりメチル化を行いメチオニンが再生されるので,葉酸とビタミンB12のどちらが不足してもこの反応が影響を受けメチオニンの再生が滞る.また,硫黄転移経路においては,関与する二つの酵素,シスタチオニンβ-シンターゼ(CBS),シスタチオニンγ-リアーゼ(CGL)が共にB6酵素なので,B6不足になるとHcyのシステインへの代謝が低下する.なお,再メチル化経路においてベタインが利用できる場合は,ベタインを用いてHcyのメチル化を行うベタイン-ホモシステインメチルトランスフェラーゼ(BHMT)が働くので,関連物質の代謝動態によりHcy代謝は複雑に影響を受ける.HcyとSAHの平衡はSAHに偏っているのでHcy蓄積状態ではSAHの蓄積も起こる(8)8) Y. Isa, H. Tsuge & T. Hayakawa: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 52, 302 (2006)..SAHはメチル化反応の強力な阻害物質で,SAH蓄積はPEからのPC合成を強く阻害する(図1図1■メチオニン代謝と超低密度リポタンパク質分泌との関わり).

ビタミンB6欠乏下におけるメチオニン代謝異常と葉酸強化による影響

ホモシステイン蓄積と動脈硬化との関連について報文が多数発表されるようになったこともあり,筆者らは,当初B6欠乏時のメチオニン代謝異常であるホモシステイン血症の改善についてWistar系雄ラットを用いた動物実験により検討してきた.その過程においてB6欠乏時に脂肪肝が出現することを見いだし,メチオニン代謝の観点から脂質蓄積の栄養学的改善とその機構について研究を始めた.先に示したように,メチオニン代謝においてHcyの代謝には代表的な2つの経路がある.B6欠乏では,硫黄転移経路の2酵素活性が低下するが,通常の標準精製飼料のメチオニン添加レベル0.3%ではHcy代謝に支障はなくHcyの蓄積は生じない.しかし,メチオニン添加レベルが0.6%になると血症Hcyは増加し,同0.9%になると有意な増加を示した.この場合,肝臓のSAHもB6欠乏メチオニン0.9%添加飼料で有意に上昇した(9)9) K. Yamamoto, Y. Isa, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 1861 (2012)..このように,メチオニン負荷がかかった場合には,B6欠乏によるメチオニン代謝異常が惹起される.興味深いことに,B6欠乏飼料に葉酸を通常の5倍強化した飼料では,血症Hcyの増加は有意ではなくなり,肝臓SAHの蓄積は抑えられた(9)9) K. Yamamoto, Y. Isa, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 1861 (2012)..5-MeTHFはHcyのSAMへの再メチル化反応に使用されてTHFを生成するが,THFが5-MeTHFに再変換される過程にB6関与のセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)があり,そのためにB6欠乏時には5-MeTHF再生が影響を受けてHcy代謝を低下させる状況に拍車がかかると考えられる.なお,THFはSHMTにより5,10-メチレンTHFとなり,次いでメチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)により5-MeTHFに再生される.MTHFRの遺伝子多型はHcy蓄積の要因でもあるように,ビタミンB12とともに葉酸代謝もメチオニン代謝にかかわる要因である.

B6欠乏時の葉酸の影響を確かめるためにB6欠乏メチオニン0.9%添加飼料へ葉酸を2.5倍,10倍強化した.この場合,空腹時とメチオニン負荷後の血漿Hcyの蓄積は緩和され,低下した肝臓5-MeTHF含量の改善(増加)も認められた(10)10) K. Yamamoto, Y. Isa, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 378 (2013)..したがって,B6欠乏時には通常レベルの葉酸が含まれていてもHcy代謝に十分量ではないと言える.そこで,葉酸,PC,コリン,ベタインといったHcy代謝関連物質をメチオニン代謝にかかわる要因として捉え,これら物質の肝臓脂質蓄積の改善効果を調べるとともに,メチオニン代謝異常の改善効果についても合わせて解析することにより,これら物質の脂質蓄積改善機構について推定することを目指して以下の研究を進めた.

ビタミンB6欠乏下肝臓脂質蓄積とその改善

1. 飼料への葉酸,コリンの強化,PCの添加による改善効果について

B6欠乏時のメチオニン代謝異常は特にHcyの蓄積とそれに伴うSAHの蓄積が問題となる.そこで,これを改善する要因として飼料中への葉酸の強化,コリンの強化およびPCの添加について検討した.葉酸は,先の実験でB6欠乏時に肝臓5-MeTHFの低下が見られたことから,飼料への葉酸強化によるHcy代謝の改善が期待できる.コリンは飼料中に入っている量ではPC合成に十分ではないと考えられる.PCは直接供給することによる改善が得られるのかが不明である.具体的には,0.9%のメチオニン添加飼料をベースとして,B6欠乏飼料への葉酸強化(通常飼料の5倍),コリンの強化(通常飼料の2倍),リン脂質の添加(強化したコリンと同モルのPCの添加)がB6欠乏時の肝臓と血漿脂質に及ぼす効果について調べた(11)11) E. Kitagawa, T. Yamamoto, K. Yamamoto, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 1320 (2015)..その結果,肝臓トリグリセリドと総コレステロール濃度はB6欠乏で有意に増加し,コリン強化で低下傾向が,PC添加でさらなる低下が認められた.一方で,血漿脂質については,HDLコレステロールへの影響はなく,総コレステロール濃度はB6欠乏で有意に低下し,葉酸強化とコリン強化で改善(増加)傾向が,PC添加において有意な改善(増加)が認められた.この傾向はVLDL+LDLコレステロール濃度においてより顕著で,B6欠乏による有意な低下が見られ,コリン強化で改善(増加)傾向が,PC添加で有意な改善(増加)が認められた.肝臓と血漿の脂質の変化は相補的で肝臓で脂質濃度が増加する一方,血漿では低下が進んだ(図2図2■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対する葉酸,コリン,ホスファチジルコリンの改善効果).これらの結果より,肝臓における脂質蓄積の主な要因は肝臓からの脂質排出の低下にあると判断した.以上の結果から,PCの添加が肝臓脂質蓄積改善に最も有効であった.

図2■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対する葉酸,コリン,ホスファチジルコリンの改善効果

本解説の動物実験はすべてWistar系雄ラットを用い,ペアフィーディングによる.飼料はAIN-76標準飼料をベースとした0.9%のメチオニンを含む飼料を対照(記号C)とし,その他はすべてビタミンB6欠乏飼料である(記号D).同じ記号を含まない群間に有意差があることを示す(p<0.05).PGA10はD飼料に10 mg/kgの葉酸を,Ch2は2 g/kg飼料のコリンの強化を,PC6はCh2のコリンの強化に相当するホスファチジルコリン6 g/kgの添加を行った.■:肝臓総脂質,□:肝臓トリグリセリド,△:肝臓総コレステロール,●:血漿VLDL+LDLコレステロール,▲:血漿総コレステロール,*:血漿HDLコレステロール

2. ホスファチジルコリンの添加レベルに対する肝臓脂質蓄積の改善効果

肝臓からの脂質の排出はVLDLが担っており,PCは脂質のアッセンブリに必要と考えられている.先の実験でB6欠乏では肝臓脂質が蓄積する一方で血漿脂質は低下し,PC添加による改善効果が顕著であったのは,こうした事情が考えられる.PCの改善効果をより詳しくみるために,飼料へのPC添加レベルを変えて添加効果について検討を行った(11)11) E. Kitagawa, T. Yamamoto, K. Yamamoto, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 1320 (2015)..具体的には0.9%メチオニン負荷B6欠乏飼料にPCの添加レベルを先の添加レベルの半量,同量,倍量(通常飼料へのコリン添加相当量として半量,同量,倍量を添加)と変えて約5週間飼育し,肝臓脂質蓄積の抑制効果と血漿脂質低下の改善効果について調べた.PCの添加は,B6欠乏による肝臓トリグリセリド濃度,総コレステロール濃度上昇を改善(低下)し,血漿トリグリセリド濃度,VLDL+LDLコレステロール濃度低下を改善(上昇)した(図3図3■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するホスファチジルコリンの段階的添加による改善効果).また,血中のリン脂質濃度の低下も改善した.一般的にVLDL分泌には新たに合成されたPCが有効であるとされているが,一方で肝臓PCレベルもVLDL分泌には重要であるとの報告もあり(6)6) J. N. van der Veen, J. P. Kennelly, J. E. Vance, D. E. Vance & R. L. Jacobs: Biochim. Biophys. Acta Biomembr., 1859(9 Pt B), 1558 (2017).,PC合成不足の状況で食事由来のPCはVLDL分泌に貢献したと考えられる.

図3■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するホスファチジルコリンの段階的添加による改善効果

動物実験の基本的方法は図2図2■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対する葉酸,コリン,ホスファチジルコリンの改善効果脚注と同じである.PC3, PC6, PC12では,D飼料にそれぞれホスファチジルコリン3, 6, 9 g/kgの添加を行った.同じ記号を含まない群間に有意差があることを示す(p<0.05).□:肝臓トリグリセリド,△:肝臓総コレステロール,■:血漿トリグリセリド,●:血漿VLDL+LDLコレステロール,×:血漿リン脂質

3. 段階的コリン強化による肝臓脂質蓄積の改善効果

コリンはPCの合成基質であると同時に,代謝されてベタインを生成するので,Hcyの再メチル化への貢献と,PC供給の両者が期待できる.コリンは飼料には通常のAIN-76標準飼料の添加レベルが含まれているが,B6欠乏においては十分ではないため肝臓脂質蓄積が起こったと考えられる.そこでB6欠乏飼料に通常の添加量の2倍,3倍,4倍添加(通常の1倍,2倍,3倍量を強化)した場合,添加レベルに応じてどのような改善が見られるのかについて調べることにより,コリンの添加効果機序について調べた(12)12) E. Kitagawa, T. Yamamoto, M. Fujishita, Y. Ota, K. Yamamoto, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 316 (2017)..コリン強化群では,肝臓のトリグリセリドと総コレステロール濃度の有意な上昇抑制効果がみられた.また,血漿のVLDL+LDLコレステロール濃度の回復については添加レベルに応じた改善が認められた(図4図4■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するコリンの段階的強化による改善効果).それとともに,肝臓と血漿のHcy濃度の上昇抑制効果も認められた.これらの結果より,コリン強化の効果はPCの合成基質としてPC合成促進に寄与するとともに,コリンの一部は代謝されてベタインに変換され,Hcyの再メチル化の促進を通してHcy濃度の改善とPEからのPC合成改善に寄与し,VLDL分泌改善に寄与したと考えられた.

図4■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するコリンの段階的強化による改善効果

動物実験の基本的方法は図2図2■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対する葉酸,コリン,ホスファチジルコリンの改善効果脚注と同じである.Ch2, Ch4, Ch6では,D飼料にそれぞれコリン2, 4, 6 g/kgの強化を行った.同じ記号を含まない群間に有意差があることを示す(p<0.05).□:肝臓トリグリセリド,△:肝臓総コレステロール,●:血漿VLDL+LDLコレステロール

4. 段階的ベタインの添加による肝臓脂質蓄積の改善効果

ベタインはメチオニン合成酵素とは独立してBHMTのメチル化基質となりHcyのメチオニンへの再生に働くコリン代謝物である.したがって,メチオニン代謝異常の改善が期待できるがどの程度,どのように作用するのかは不明である.B6欠乏時の肝臓脂質蓄積への添加効果について先のコリン強化実験を参考に添加レベルを3段階(通常のコリン1倍,2倍,4倍量の強化に相当する量のベタイン)とし飼料に添加を行った(12)12) E. Kitagawa, T. Yamamoto, M. Fujishita, Y. Ota, K. Yamamoto, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 316 (2017)..その結果,肝臓トリグリセリドおよび総コレステロールの蓄積抑制効果は最小添加レベルでの効果は見られなかったが,添加レベルの増加に伴い改善され,一番添加レベルの高い場合には対照レベルにまで改善が見られた(図5図5■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するベタインの段階的添加による改善効果).また,ミクロソームのPC/PE比もベタインの添加レベルの上昇に伴い改善(上昇)し,2段階目の添加レベル以上で有意な改善(上昇)が認められた(12)12) E. Kitagawa, T. Yamamoto, M. Fujishita, Y. Ota, K. Yamamoto, T. Nakagawa & T. Hayakawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 316 (2017)..これらの結果から,肝臓脂質の蓄積改善効果はコリンよりもより多い添加条件下で改善がみられ,ベタインはコリンよりも改善効果は弱いと判断した.血漿の総コレステロール,VLDL+LDLコレステロールおよびリン脂質の各濃度の改善(上昇)に対するベタイン添加レベルの効果は肝臓トリグリセリドや総コレステロールに対する場合と同様であった.なお,この実験においては血漿中ApoB100濃度を測定したが,特に有意な変動は見られなかった.したがって,VLDL自体の分泌障害が起こっているわけではないようである.

図5■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するベタインの段階的添加による改善効果

動物実験の基本的方法は図2図2■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対する葉酸,コリン,ホスファチジルコリンの改善効果脚注と同じである.B1, B2, B4では,D飼料にそれぞれベタイン1, 2, 4 g/kgの添加を行った.同じ記号を含まない群間に有意差があることを示す(p<0.05).□:肝臓トリグリセリド,△:肝臓総コレステロール,▲:血漿総コレステロール,●:血漿VLDL+LDLコレステロール,×:血漿リン脂質

5. コリン強化とベタイン添加による肝臓脂質蓄積改善効果の比較

先の実験ではコリンとベタインはそれぞれ独立して強化・添加レベルを変えて調べたが,実際の効果を比較するには同条件同時実施下での比較が必要である.そこで,コリンとベタインについて同じ強化・添加量での比較を行い,同時に両者の同時追加の効果についても調べた(13)13) E. Kitagawa, Y. Ota, M. Hasegawa, T. Nakagawa & T. Hayakawa: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 65, 94 (2019)..まず,図4図4■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するコリンの段階的強化による改善効果のCh4D群飼料相当のコリン強化や図5図5■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するベタインの段階的添加による改善効果のB2D群飼料相当のベタイン添加では,飼料中の両物質が十分であったため効果に差を見いだせなかった.そこで,これらの半分量についての効果を比較した(この場合の飼料へのコリン強化量とベタイン添加量は,それぞれ8.5 mmol/kg dietである).肝臓トリグリセリド濃度はコリン(図6図6■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するベタイン添加とコリン強化による改善効果のCh2D群)では有意に低下したが同モルレベルのベタイン(同B1D群)では有意な低下は見られなかった.また総脂質,総コレステロールの各濃度の低下の程度もコリンの効果が強かった.血漿脂質の改善についても総コレステロール,VLDL+LDLコレステロールの各濃度はコリン(Ch2D群)で有意な改善が見られたが,ベタイン(B1D群)では有意な改善は見られなかった(図6図6■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するベタイン添加とコリン強化による改善効果).一方,メチオニン代謝物については,肝臓と血漿Hcy濃度の改善効果に有意差はないが,ベタイン(B1D群)よりもコリン(Ch2D群)の方が低下を示した(図7図7■ビタミンB6欠乏による肝臓と血漿のホモシステイン濃度に対するベタイン添加とコリン強化による改善効果).これらの結果より,肝臓脂質の改善(低下)効果,血漿脂質の改善(上昇)効果はベタインよりもコリンの方が強かった.

図6■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するベタイン添加とコリン強化による改善効果

動物実験の基本的方法は図2図2■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対する葉酸,コリン,ホスファチジルコリンの改善効果脚注と同じである.B1ではD飼料にベタイン1 g/kgの添加を,Ch2ではD飼料にコリン2 g/kgの強化を,B1Ch2ではD飼料にベタイン1 g/kgの添加とコリン2 g/kgの強化を行った.同じ記号を含まない群間に有意差があることを示す(p<0.05).■:肝臓総脂質,□:肝臓トリグリセリド,△:肝臓総コレステロール,●:血漿VLDL+LDLコレステロール,▲:血漿総コレステロール,×:血漿リン脂質

図7■ビタミンB6欠乏による肝臓と血漿のホモシステイン濃度に対するベタイン添加とコリン強化による改善効果

動物実験の基本的方法は図2図2■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対する葉酸,コリン,ホスファチジルコリンの改善効果脚注と,各群の飼料は図6図6■ビタミンB6欠乏による肝臓脂質蓄積に対するベタイン添加とコリン強化による改善効果の脚注と同じである.同じ記号を含まない群間に有意差があることを示す(p<0.05).◇:肝臓ホモシステイン,◆:血漿ホモシステイン

ビタミンB6欠乏下肝臓脂質蓄積のホモシステイン代謝関連物質による改善機序

今回紹介したB6欠乏時の肝臓脂質蓄積は,PEからのPC合成障害による脂質のVLDLとしての分泌低下により肝臓からの脂質排出が低下することに起因すると考えられた.すなわちB6欠乏によるメチオニン代謝異常ではHcy, SAHが蓄積し,SAHによるPEMT活性阻害によりPEからのPCの合成が低下し,そのためにVLDLによる肝臓からの脂質排出が低下した.したがって,この状況を改善するためにはSAHの蓄積解除によるPEからのPC合成の回復か,他の経路によるPCの供給かのどちらかが考えられる.これに関連する候補物質が今回使用した葉酸,PC,コリン,ベタインである.それぞれがメチオニン代謝異常の改善やVLDL分泌の改善にどのように働いたのかについて,①Hcy蓄積(=SAH蓄積)の改善,②PEからのPC合成低下の改善,③コリンからのPC合成の促進の観点から考えてみよう.

葉酸については,B6欠乏で5-MeTHFの再生が低下し,これがHcyの再メチル化のネックとなっていると考えられ,飼料への葉酸強化を行った.肝臓5-MeTHFレベルは改善したが,①の効果は限定的であった.THFからの5,10-メチレンTHFの変換にかかわるSHMTがB6酵素であるために葉酸強化の効果が発揮されにくいためと考えられる.

PCについては,肝臓はPCの約30%をPEから合成し,残りはCDP-コリン経路により合成するが,VLDL分泌には(どちらの経路によらず)新たに合成されたPCが関与すること,PCはVLDLのアッセンブリと分泌の両方に必要とされていること等(6, 14, 15)6) J. N. van der Veen, J. P. Kennelly, J. E. Vance, D. E. Vance & R. L. Jacobs: Biochim. Biophys. Acta Biomembr., 1859(9 Pt B), 1558 (2017).14) R. L. Jacobs, J. N. van der Been & D. E. Vance: Hepatology, 58, 1207 (2013).15) J. L. Sherriff, T. A. O’Sullivan, C. Properzi, J.-L. Oddo & L. A. Adams: Adv. Nutr., 7, 5 (2016).を鑑みるとPCの供給はPC改善を介してVLDL分泌を促進し,肝臓脂質蓄積の改善に寄与したと考えられる.PCの添加では,肝臓脂質と血漿脂質の有意な改善が見られ,コリンよりも少ない添加量で有効な改善が見られたことから,PCの直接的な供給効果によると考えられた.なお,PC添加量が多い場合には,PCのコリンへの分解がおこり,①,②,③の要因が総合的に働くと考えられる.

コリンの強化については,③によるPCの供給に加えて,ベタインへの代謝を介して①を介した②の改善によるPCの回復の総合効果と考えられた.

ベタインについては,①による改善を期待したが,実際にはコリンよりも多くの添加が必要であり改善効果は弱かった.ベタインは浸透圧調節物質として分配されてコリンほどは肝臓に到達せず,そのためにHcy蓄積改善効果がコリンに比べて低いこと,ベタイン自体はPCの合成に寄与できないことによると考えられた.

おわりに

メチオニン代謝異常に起因する高Hcy血症は動脈硬化要因の一つであり,高齢者では血漿Hcy濃度が高くなることが知られている.高Hcy血症は肝臓脂質蓄積とも関係するので,Hcyを低減化することは健康管理上,重要である.生活習慣病とともに肥満が増え,NAFLD予備軍も多くなりつつある昨今,コリンは抗脂肪肝因子として重要な食事成分である.コリンは生体に必須であることは明らかで,アメリカでは必要なビタミン様物質として目安量が定められており(16)16) 菅野道廣:オレオサイエンス,17, 217 (2017).,食物中のコリン含量についてはアメリカ農務省から情報提供されている.ラット標準精製飼料においてもコリン化合物は必要成分として添加されている.しかし日本ではまだコリンの食事摂取基準についての議論は進んでいる様子はない.本実験からは,生体のおかれている代謝状況によってはコリンの必要量は高まると考えられる.コリンについては注目された時期があるが(17, 18)17) 柘植治人:ビタミン,75, 421 (2001).18) 杉山公男:ビタミン,75, 427 (2001).,こうした状況もあり日本では再び“食物からのコリン摂取の重要性”が提唱されている(19)19) 大久保 剛:ビタミン,94, 539 (2020)..これを機会により多くの人にコリン関連化合物に興味をもっていただけたらと思う.

Reference

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16) 菅野道廣:オレオサイエンス,17, 217 (2017).

17) 柘植治人:ビタミン,75, 421 (2001).

18) 杉山公男:ビタミン,75, 427 (2001).

19) 大久保 剛:ビタミン,94, 539 (2020).