Kagaku to Seibutsu 59(9): 477-481 (2021)
農芸化学@High School
シロアリが日本を救う!?間伐材を新たな資源に
Published: 2021-09-01
本研究はシロアリを利用した間伐材の資源化と飼料化を図ることを目的として行った.個体数と産卵数の関係を調べ,養殖に最も適切な個体数を明らかにした.また,シロアリ配合飼料を用いて魚を養殖したところ,配合割合を10%とした場合に最も体長が増加した.これは,現在配合飼料として用いられている魚粉と代替可能であることを示唆していた.また,シロアリの脂質成分は,落花生油に近いことも判明した.
© 2021 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2021 公益社団法人日本農芸化学会
日本にはスギ林やヒノキ林をはじめとする多くの人工林が存在するが,人工林を整備する過程で発生する間伐材はほとんどが放置されているのが現状である.間伐材の利用方法として木材腐朽菌を使用したバイオエタノールの生成が盛んに研究されているが,フリーラジカルを介す反応を有するため,制御が難しく分解がしにくいため実用化には至ってない(1)1) 渡部隆司:木材保存,33, 102–116 (2007)..木質バイオマスは,主にセルロース,ヘミセルロース,リグニンの3つの成分で構成されている.木質バイオマスは,リグニンがセルロース,ヘミセルロースに強固に結合しているため,これを引き剥がさないとセルロース分解酵素が基質であるセルロースにアプローチすることができない(2)2) シロアリから燃料を作成? シロアリがもつ驚異のメカニズムの謎に挑むEMIRA: https://emira-t.jp/ace/15892.しかし,家屋の木材を食害することで有名なシロアリは,自然界においては枯れ葉や朽木の分解を担っており,木材腐朽菌と比べて短期間で木質バイオマスを分解できる.その理由として,シロアリは大あごと磨砕器により,酵素を使用した処理でたいへん長い年月がかかる難分解性物質であるリグニンを含む結晶構造をすぐに壊すことができるためである.よって,シロアリを利用すれば,間伐材の分解に大きく貢献できるのではないかと考えた.
また,養殖魚の飼料として,カタクチイワシなどの天然魚を粉末にした魚粉が主原料として用いられているが,需要の高さから天然魚が乱獲されており,魚粉に代わる代替物として,イエバエやアメリカミズアブをはじめとする昆虫飼料が近年注目を集めている(3)3) 三浦 猛:昆虫サナギ飼料の耐病性,色揚げ効果を実証,新養殖システムを創出する株式会社愛南リベラシオを設立し,パイロット生産を計画中,A-STEP成果集(平成27年4月版),p. 25..またシロアリも栄養価の高さや繁殖能力の高さからしばしば候補として挙げられる.さらにシロアリを魚粉の代替として利用するメリットとして,木質バイオマスという他の飼料昆虫が利用できない資源を利用できることが挙げられる.そこで,私たちは廃棄される間伐材を餌としてシロアリを飼育,その後繁殖したシロアリを近年価格が高騰している魚粉の代替物として利用できるのではないかと考えた.このプロジェクトを実現するためには養殖に最適な個体数を調べる必要がある.また意外なことに,シロアリを飼料として魚体に与えた影響を調べた報告例は皆無であった.そこで私たちはネバダオオシロアリの最も養殖に最適な個体数,ネバダオオシロアリ配合飼料が魚体に及ぼす影響の2つを検証した.ネバダオオシロアリの養殖の可否を検証した試験では,間伐材上の空間に対する個体数と産卵数の関係を検証し,ネバダオオシロアリ配合飼料が魚体に及ぼす影響を検証した試験では,ネバダオオシロアリの配合率の変化に伴う魚体の体長の増加量の比較およびネバダオオシロアリを魚粉代替として利用した際に魚体に及ぼす影響の2つを検証したので,その結果を以下に記す.
高谷,森本らは当初,日本に広く分布するヤマトシロアリを試験に用いていた(4)4) 高谷佑生,森本大介:シロアリが日本を救う!? ~間伐材を新たな資源に~,坊ちゃん科学賞第11回,86 (2019)..しかしながら,角材を使用した飼育は困難であり,多くのコロニーが全滅してしまった.そこで私たちは,より環境の変化に強いオオシロアリを使用した.しかし在来のオオシロアリは沖縄などの南西諸島に分布するため,私たちは兵庫県川西市の一部の山林にのみ生息する,ネバダオオシロアリを代わりに試験に使用した.予備試験で検証したことは以下の2つである.一つ目として,間伐材が整備の過程で発生する人工林の中で多くの割合を占めるスギとヒノキのどちらをネバダオオシロアリは分解することができるのかを検証した.その結果,ヒノキを分解可能なことが判明した.2つ目として,ネバダオオシロアリ配合飼料が魚体に及ぼす影響を検証した.キョーリンフード工業株式会社が市販しているひかりデイリーをコントロール飼料として用い,体長70~90 mmのワキン型キンギョのコワキンを対象に体長に及ぼす影響を検証したところ,ネバダオオシロアリを20%以上配合すると体長の増加量が下がることが認められた.しかし,これらの試験において,コワキンの飼育には大量のネバダオオシロアリを要し,試行数を多く行えないという問題があった.そこで,より多くの試行数を行うために,餌であるネバダオオシロアリをあまり必要としない小型の魚を用いようと考えた.以上の結果を踏まえ,私たちは間伐材を使用したネバダオオシロアリの養殖に最適な個体数,ネバダオオシロアリが魚体の成長に及ぼす影響の2つを検証した.なお,全体の本文や試験方法におけるシロアリに関する基本事項の一部については,板倉らの「シロアリの事典」を参考にした(5)5) 板倉修司,吉村 剛,岩田隆太郎,大村和香子,杉尾幸司,竹松葉子,徳田 岳,松浦健二,三浦 徹:“シロアリの事典”,海青社,2012..
ネバダオオシロアリZootermopsis nevadensis(Hagen)(シロアリ目:オオシロアリ科)は2018年3月に兵庫県川西市において採集したものを清風高等学校生物準備室でヒノキChamaecyparis obtusa(Sieb. et Zucc.)間伐材(直径13 cm×高さ3 cm)を用いて飼育した個体を使用した.その一部を飼育室に移し,25±2°Cの条件で,個別にアクリルの飼育容器(幅16 cm×奥行22 cm×高さ4 cm)で,ヒノキ間伐材で繁殖したもののうち,体長13 mm内外の個体のみを使用した.飼育に使用したヒノキは高知県土佐郡にて栽培され,直径13 cm×高さ3 cmに製材された間伐材を購入したものである.供試個体は,試験開始前の72時間には水のみを与えて絶食させた.
ネバダオオシロアリを魚粉代替として使用するためには,効率よく大量に養殖する必要がある.そのためには個体数を増やさないといけないが,個体数が容器内の環境収容力を越えると繫殖力が下がることは明白であるため,養殖に適切な容器内の個体数が想定される.そこで,容器内のネバダオオシロアリの個体数と産卵数の関係を明らかにし,養殖に適切な個体数を算出した.アクリルの飼育容器(幅16 cm×奥行22 cm×高さ4 cm)と餌であるヒノキ間伐材のサイズを一定(直径13 cm×高さ3 cm)にし,25±2°Cの温度の条件下で図1図1■ネバダオオシロアリの個体数と1匹あたりの産卵数の関係に示したように個体数のみ試験区ごとに分けて飼育し,40日後に産卵数を計測した.なお,餌には十分な加水処理を行い,下に砂と,保水性に優れているバーミキュライトを4 : 1に配合したものを敷いて水を加え,水分量を一定に保った.
株式会社MASUKOより購入したシンガポール産のゼブラフィッシュDanio rerio(Hamilton, 1822)を対象に(1)(2)の試験を行った.試験ではプラスチック製の角型水槽(幅15 cm×奥行24 cm×高さ16 cm)を各試験区当たり4水槽ずつ用いた.各水槽に供試魚であるゼブラフィッシュを3匹ずつ収容し,ひかりデイリー(キョーリンフード工業株式会社,以下コントロール飼料)で2週間予備飼育した後,4週間各試験の飼料を給餌して飼育した.試験期間中の水槽内は水温23±2°C,pH 7.0±0.5であった.照明は蛍光灯により午前8時30分から午後5時の間点灯した.給餌は1週間に6日間,昼と夕方の計2回飽食するまで与えた.角型水槽1個を1反復とし,4反復行った.各水槽の対象魚の体長は試験開始時と2週間後と4週間後に,魚類用麻酔薬であるFA100(DSファーマアニマルヘルス株式会社)を所定の倍数に希釈した溶液で麻酔して各水槽とも個体別にノギスを用いて体長を測定した.また,本試験では体長が顕著に増加した2週間目から4週間目の体長の増加量を比較した.なお,予備飼育期間中にゼブラフィッシュが死亡した場合は,同じ条件で飼育していた個体と交換した.
最適なネバダオオシロアリの配合率を把握し,その際のゼブラフィッシュの成長を推定するため,各試験区のゼブラフィッシュに図2図2■シロアリの配合率の変化に伴う魚体の体長の増加量の比較(*は有意差が認められたことを示す)で示した試験飼料の餌を昼と夕方の計2回,体重の3%ずつ与え,開始時と2週間後と4週間後に体長を測定した.
ネバダオオシロアリが魚粉置換可能であるかを検証するため,各試験区のゼブラフィッシュに図3, 4図3■魚粉10%配合飼料の代替としてのシロアリ10%配合飼料の魚体に及ぼす影響図4■魚粉20%配合飼料の代替としてのシロアリ20%配合飼料の魚体に及ぼす影響で示した配合率の餌を昼と夕方の計2回,体重の3%ずつ与え,開始時と4週間後に体長を測定した.コントロール飼料の試験区は対照として導入した.試験に使用した魚粉は一般に養殖魚用,観賞魚用飼料に用いられる南米産イワシミールであり,キョーリンフード工業株式会社に提供していただいた.
ネバダオオシロアリ配合飼料は,105±1°Cに設定した乾燥機(DY300)で1日間乾燥させたネバダオオシロアリを乳鉢ですりつぶして粉末状(約0.1 mm)にし,同じく粉末状にしたひかりデイリーと均一に混ざるよう蒸留水を加え,噴出口の直径が約2 mmの注射器に詰め,絞り出した.その後,再度1日乾燥機で乾燥させ,乳鉢ですりつぶしたものを使用した.
私たちはネバダオオシロアリの飼料としての特性を検討するため,その脂質量および脂肪酸組成の分析を行った.ジエチルエーテルでソックスレー抽出器を用いて抽出し,溶媒を除去した後に残った残留物の質量を測定した.脂肪酸組成はジエチルエーテル抽出物から溶媒を除去した後にメチルエステル化した脂質を,ULBONHR-SS-10カラム(信和化工(株))を使用したガスクロマトグラフィー(GC-14A,島津製作所)により分析した.なお,30匹のネバダオオシロアリ(体長13 mm内外の職蟻)を1飼料として分析を行った.試行数は3とし,脂質成分を分析する際の1飼料に対する,繰返し数は2とした.脂質量の測定および脂肪酸組成は板倉ら(6)6) 板倉修司他:環動昆,17, 107 (2006)と同様の方法で行った.
統計計算は主としてエクセル統計(version 3.2)を使用した.間伐材上の空間に対する個体数と産卵数の相関関係の分析にはSpearmanの順位相関係数を使用した.また,ネバダオオシロアリ配合飼料が魚体の成長に及ぼす影響を検証した試験では,(1)では一元配置分散分析を行い,有意であった場合にはTukey–Kramer法により多重比較を行った.(2)ではシロアリ10%配合飼料と魚粉10%配合飼料およびシロアリ20%配合飼料と魚粉20%配合飼料それぞれ2区間の平均値の比較にWelchのt検定を使用した.データは平均値±標準誤差で示し,有意水準は5%未満とした.
図1図1■ネバダオオシロアリの個体数と1匹あたりの産卵数の関係に示したように,20~100匹の間では個体数と1匹あたりの産卵数には強い正の相関関係(Spearmanの順位相関係数r=0.7382, p<0.001)が認められ,個体数の増加に伴って,1匹あたりの産卵数も増加した.他方,100~140匹の間では個体数と1匹あたりの産卵数には強い負の相関関係(Spearmanの順位相関係数r=−0.7139, p<0.05)が認められ,個体数の増加に伴って産卵数が減少した.以上の結果から,100匹で産卵数が最大になり,その後,急激に減少することが明らかとなった.
図2図2■シロアリの配合率の変化に伴う魚体の体長の増加量の比較(*は有意差が認められたことを示す)に示したように,コントロール飼料,シロアリ10%配合飼料,シロアリ20%配合飼料の3区間でゼブラフィッシュの体長の増加量を比較した結果,シロアリ10%配合飼料を投与した魚体の体長は,シロアリ20%配合飼料やコントロール飼料を投与した魚体の体長と比べ,有意に増加した.(多重比較検定 p<0.05).また,シロアリ20%を投与した魚体の体長の増加量はコントロール飼料を投与した魚体の体長の増加量と比較しても有意な差があるとは言えなかった(多重比較検定 p>0.05).
魚粉とシロアリをひかりデイリーに同じ割合で配合し,ゼブラフィッシュの体長の増加量を比較した結果,シロアリ10%配合飼料を投与した魚体と魚粉10%配合飼料を投与した魚体では,体長の増加量に有意な差が認められなかった(図3図3■魚粉10%配合飼料の代替としてのシロアリ10%配合飼料の魚体に及ぼす影響. Welchのt検定 p>0.05).また,シロアリ20%配合飼料を投与した場合でも魚粉20%配合飼料を投与した魚体と比較して体長の増加量に有意な差を示さなかった(図4図4■魚粉20%配合飼料の代替としてのシロアリ20%配合飼料の魚体に及ぼす影響. Welchのt検定p>0.05).
ネバダオオシロアリ30匹を1飼料として,3飼料から脂質を抽出した結果,それぞれ37, 60, 91 mg抽出され,ネバダオオシロアリに含まれる脂質量は13~30%であった.また,GC分析を行った結果,脂肪酸組成は,オレイン酸49%,リノール酸22%,パルミチン酸22%,ステアリン酸5%であった(表1表1■ネバダオオシロアリに含まれる脂質成分のGC分析結果).
脂肪酸(g/ 100 g脂肪酸) | ||
---|---|---|
ネバダオオシロアリ | ||
構成脂肪酸 | (炭素数) | (職蟻) |
パルミチン酸 | C16:0 | 22 |
ステアリン酸 | C18:0 | 5 |
オレイン酸 | C18:1 | 49 |
リノール酸 | C18:2 | 22 |
図1図1■ネバダオオシロアリの個体数と1匹あたりの産卵数の関係における100~140匹での1匹あたりの産卵数が100匹に比べて減少していた理由として,間伐材上の空間に対する個体数が多いことによる密度効果が影響していることが考えられる.また,個体数が100匹よりも少ないケースでは,1匹あたりの産卵数が100匹に比べて減少していた.これらのケースでは間伐材にカビが蔓延していたことから,初期の個体数が少ないとカビの蔓延を防除できず,環境が悪化することが産卵数が減少する要因と考えられる.また,60匹のケースでカビの防除がうまくできたケースが一つあったが,産卵数が同試験区と比べて多かったことから,カビの蔓延を安定的に防除できる個体数が最適な個体数だと言える.以上のことから,ネバダオオシロアリがカビの蔓延の防除を安定的に行うことかでき,密度効果の影響が少ない100匹が,養殖に最適な個体数だと言える.また,間伐材に潜在するカビの防除を人為的に抑制することができれば,本実験で最適であることが判明した100匹より少ない個体数でも産卵数が増加することが見込まれる.
シロアリ10%配合飼料がコントロール飼料,シロアリ20%配合飼料と比べ魚体の体長が有意に増加したため,3区間の中ではシロアリ10%配合飼料が適切な配合率であることが考えられる.シロアリ10%配合飼料において体長が増加した理由として,シロアリを配合させることで成長に寄与しやすいタンパク質や脂質が増えた可能性が考えられる.一方,シロアリ20%配合飼料においてシロアリ10%配合飼料のような魚体の体長を増加させる効果が認められなかったのは,タンパク質や脂質が増え過ぎたことにより餌のバランスが崩れたためだと思われる.多くのシロアリには脂質が豊富に含まれていることが板倉らの研究で知られており,魚粉の代替としてシロアリを用いる際は脂質が影響する可能性が度々指摘されるが,本試験の結果からネバダオオシロアリ10%配合飼料と魚粉10%配合飼料,およびネバダオオシロアリ20%配合飼料と魚粉20%配合飼料での比較で有意な差が認められず同等の成長を促すことがわかった.本結果は,上述のシロアリ配合飼料の特性を考慮すると,魚粉配合飼料がコントロール飼料に対して10%の配合割合で体長を増加させ,20%の配合割合ではそのような増加効果を示さないことを意味しており,その要因もシロアリ配合飼料と同等のことが想定される.一方,これまでに魚の飼料を作成する工程で脂質が減少することが報告されており,ネバダオオシロアリ配合飼料を作製する段階でも脂質が減少し,タンパク質と比べると脂質は魚体の成長にそれほど大きく影響していない可能性も考えられる.いずれにしても,本研究結果から,ネバダオオシロアリが魚粉と代替可能であることが示された.
板倉らにより,ネバダオオシロアリと同じく下等シロアリに属すミゾガシラシロアリ科のイエシロアリとヤマトシロアリは乾燥重量の約50%脂質が含まれていることが知られている(6)6) 板倉修司他:環動昆,17, 107 (2006).本研究により,下等シロアリでありオオシロアリ科に属すネバダオオシロアリは乾燥重量の約13~30%であることがわかり,ネバダオオシロアリも多くの脂質を含んでいることがわかった.また,脂肪酸組成はオレイン酸,リノール酸が多かったことから植物性油に近く,特に落花生油に類似していることがわかった(7)7) 稲葉恵一,平野次郎“新版 脂肪酸化学”,幸書房,1977.(表2表2■落花生油とネバダオオシロアリに含まれている脂質の脂肪酸組成の比較).本試験の結果ではネバダオオシロアリに含まれる脂質の量が魚体の成長にあまり影響しないと考えられるが,体長だけでなく,体重や肥満度などを踏まえた上でより詳しく検証を行う必要がある.また,魚の飼料を作製する場合に脂質が余分に発生するとしても,ネバダオオシロアリの脂質は落花生油に性質が近いことから,化粧品,食料油,さらにはバイオ燃料などさまざまな物に利用できると考えられる.
油脂 | 脂肪酸(g/100 g-油) |
---|---|
落花生油 | オレイン酸(51),リノール酸(31),パルミチン酸(11),ステアリン酸(2),ドコサン酸(2) |
ネバダオオシロアリの脂質 | オレイン酸(49),リノール酸(22),パルミチン酸(22),ステアリン酸(5) |
落花生油については文献7より引用. |
ネバダオオシロアリを用いて,利用も廃棄も難しくほとんどが放置されたままとなっている間伐材を分解し,そこで発生するネバダオオシロアリを魚粉の代替品として養殖魚の飼料に利用することで,林業と水産業の抱える課題を同時に解決するというのが当初の目的であった.しかし,ネバダオオシロアリの飼料としての特性を知るために脂肪酸組成を分析したところ,予想外に落花生油に近いことが判明した.今後詳しく検証し,脂質成分がネバダオオシロアリの飼料としての特性に大きく関与しない場合には,落花生油の代替としてさまざまなものに利用可能になるのではないかと考えている.
さらに,これらの活動を里山をもつ地方などで行うことによって地域創成にも貢献できるものと思われる.以上のことから,シロアリは日本を救う生物になりうると考えている.
Acknowledgments
本研究の遂行にあたって,生物部顧問の高野良昭先生,池永明史先生,水谷誠先生,北嶋数樹先生,日本財団,株式会社リバネス,株式会社キョーリン,近畿大学農学部の板倉修二教授,澤畠拓夫准教授,理化学研究所の守屋繁春様,京都大学農学部の高谷佑生様,鳥取環境大学環境学部の森本大介様,に有益な助言を頂きました.また,魚粉などを提供してくださいましたキョーリンフード工業株式会社に感謝申し上げます.なお,本研究では中谷医工計測振興財団の助成を受けて行われたものです.
Note
本研究は、日本農芸化学会2021年度大会(仙台)における「ジュニア農芸化学会」(発表は新型コロナウイルス感染症対策のためオンライン形式で実施)に応募された研究のうち、本誌編集委員会が優れた研究として選定した6題の発表のうちの一つです。
Reference
1) 渡部隆司:木材保存,33, 102–116 (2007).
2) シロアリから燃料を作成? シロアリがもつ驚異のメカニズムの謎に挑むEMIRA: https://emira-t.jp/ace/15892
3) 三浦 猛:昆虫サナギ飼料の耐病性,色揚げ効果を実証,新養殖システムを創出する株式会社愛南リベラシオを設立し,パイロット生産を計画中,A-STEP成果集(平成27年4月版),p. 25.
4) 高谷佑生,森本大介:シロアリが日本を救う!? ~間伐材を新たな資源に~,坊ちゃん科学賞第11回,86 (2019).
5) 板倉修司,吉村 剛,岩田隆太郎,大村和香子,杉尾幸司,竹松葉子,徳田 岳,松浦健二,三浦 徹:“シロアリの事典”,海青社,2012.
7) 稲葉恵一,平野次郎“新版 脂肪酸化学”,幸書房,1977.