解説

緑茶成分の免疫作用抽出温度の違いで機能が変わる

The Immune Effects of Green Tea Components: Functional Alterations Due to Extraction Temperature

Manami Monobe

物部 真奈美

農研機構 果樹茶業研究部門 茶品種育成・生産グループ

Published: 2021-10-01

緑茶(Camellia sinensis L.)には免疫に関与する成分が含まれているが,免疫を賦活する作用があるものや,またその逆の作用を示す成分もある.しかし,緑茶の淹れ方や品種を選ぶことで,そのバランスを大きく変えることができる.ここでは,免疫に関与する緑茶成分と報告されている生理活性,温度による緑茶成分の溶出性の違いについて解説する.

Key words: 免疫調節; 抽出温度; エピガロカテキン(EGC); テアニン; エピガロカテキンガレート(EGCG)

はじめに

茶(Camellia sinensis L.)の栽培法,製造法,摂取方法等は長い歳月をかけて変化,改良され,さまざまな茶種(緑茶,烏龍茶,紅茶など)が生まれた.香味等,洗練され続けながら世界中で飲用されている嗜好飲料である.茶の効能については1000年以上前から中国や日本のさまざまな書物の中で触れられているが,機能や機序のすべてが明らかになっているわけではない.茶はカフェイン,テアニン(アミノ酸),フラボノイドを含有しているが,緑茶はフラボノイドの中でも特にカテキン類を多く含有することを特徴とする.これまでの緑茶の生理機能は,熱湯で淹れた緑茶に多く含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)とカフェインの生理活性を中心に研究がなされてきたが,近年では,飲用水の衛生環境や冷蔵保存技術の進歩により,比較的容易に冷水を利用することが可能になり,茶の淹れ方の選択の幅も広がってきた.ここでは,緑茶を淹れる時に使用する水の温度で変化する茶成分の溶出特性に注目し,考えられる免疫効果について考察する.

緑茶葉から溶出される成分と水温との関係

緑茶に含まれる主要な水溶性成分はカテキン類,カフェイン,テアニンである.それぞれが茶葉乾物重量あたり,8~20%,2~4%,0.5~3%程度含まれている(1)1) 堀上秀樹,木幡勝則:“茶の機能”,学会出版センター,2002, p.27..カテキン類の約70%はEGCGとエピガロカテキン(EGC)で占められており,カテキン類の水への溶出性はガレート基の有無で異なる.熱水で抽出した場合,カテキン類をはじめ,ほぼすべての種類の水溶性成分が溶出してくるが,冷水ではEGCGなどのガレート型カテキンは溶出しにくい.そのため,EGCGなどのガレート型カテキンを十分に溶出させるためには熱湯を用いる必要がある.一方,非ガレート型カテキンであるEGCは10°C以下の冷水でも比較的よく溶出する.茶葉を約10°Cの冷水に浸し,冷蔵庫に1時間静置した場合,EGC, EGCG,カフェインの溶出率は,熱水(80°C,2分)を100%とすると,それぞれ約70%,20%,50%であり,1時間以上おいても大きく変わらない(図1図1■緑茶の冷水浸出液に含まれるEGC, テアニン,EGCG, カフェイン左)(2)2) 物部真奈美:農研機構技報,3, 26 (2019)..さらに低い温度である0.5°Cの冷水ではEGCGの溶出率は20%程度でそれほど変わらないものの,カフェインの溶出率はさらに下がり,20%以下となる(図1図1■緑茶の冷水浸出液に含まれるEGC, テアニン,EGCG, カフェイン右).カフェインの溶出率が低下する原因は,低温による溶解度の低下と考えられるが,EGCGの溶出率の低下の原因はよくわかっていない.茶の主要なアミノ酸であるテアニンの溶出率は,10°Cの冷水でも30分程でほぼ100%溶出しており,0.5°Cでも1時間静置した場合,熱水の約80%と,冷水でも十分に溶出することがわかる(図1図1■緑茶の冷水浸出液に含まれるEGC, テアニン,EGCG, カフェイン).

EGCGとカフェインは苦渋味成分であることから,緑茶を熱水で淹れると苦渋くなる.一方,冷水で淹れると苦渋味が減り,アミノ酸のうま味を感じやすくなる.緑茶の美味しい淹れ方として湯冷ましを使う理由はここにある.

図1■緑茶の冷水浸出液に含まれるEGC, テアニン,EGCG, カフェイン

80°Cの湯で2分間溶出させた各成分の溶出量を100%とした場合の,冷蔵庫10°Cまたは氷水0.5°Cでの各成分の溶出率2)2) 物部真奈美:農研機構技報,3, 26 (2019).

緑茶の免疫賦活関与成分

1. EGC

EGCはTRPM2(Transient Receptor Potential Melastatin 2)の活性を介してマクロファージの食作用を活性化する(3)3) M. Monobe, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Cytotechnology, 66, 561 (2014)..その結果,リンパ球による免疫グロブリン(Ig)の産生能が改善される可能性がある(4, 5)4) M. Monobe, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 2501 (2010).5) 物部真奈美,江間かおり,徳田佳子,山本(前田)万里:茶業研究報告,113, 71 (2012)..マクロファージの細胞表面には温度センサーであるTRPM2が発現しており,TRPM2が活性化することによりマクロファージの異物に対する反応性が高まることが報告されている(6)6) M. Kashio, T. Sokabe, K. Shintaku, T. Uematsu, N. Fukuta, N. Kobayashi, Y. Mori & M. Tominaga: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 6745 (2012)..TRPM2は通常48°C付近の高温にしか反応しないが,過酸化水素(H2O2)が作用すると濃度依存的にTRPM2の反応温度閾値が下がり,体温域で活性化することが可能になる.TRPM2の発現をノックアウトしたマクロファージをザイモザンで刺激しても食作用活性は上昇しない.さらに顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF),インターロイキン(IL)-1などのサイトカイン産生も低下する(6)6) M. Kashio, T. Sokabe, K. Shintaku, T. Uematsu, N. Fukuta, N. Kobayashi, Y. Mori & M. Tominaga: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 6745 (2012)..このことから,TRPM2の感度が下がっている場合,粘膜などからの抗原の侵入に対してマクロファージの初動が遅れ,自然免疫系による感染初期の防御能が落ちることが推測される(図2図2■粘膜免疫系による生体防御のイメージ図).入来ら(7)7) 入来正躬,小坂光男,村上 悳,村田成子:日本老年医学会雑誌,12, 172 (1975).の報告によると,65歳以上の腋窩温の平均は36.66°Cであり,10~50歳の腋窩温の平均(36.89°C)と比べると,やや低くなる傾向が示されている.厚生労働省が報告する年齢階級別のインフルエンザ重症患者数を見ると,小児を除くと60歳あたりから急激に上昇する(8)8) 厚生労働省:今冬のインフルエンザの発生動向 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/120525-02.pdf (2012)..腋窩温とインフルエンザの重症化率との因果関係は不明であるが,感染初期の防御に重要な役割を果たすマクロファージの活性化が温度センサーであるTRPM2の活性に影響を受けることを考えると,感染初期の防御に体温が影響している可能性がある.

図2■粘膜免疫系による生体防御のイメージ図

前述したように,TRPM2はH2O2が作用すると濃度依存的に反応温度閾値が下がる.緑茶に含まれるEGCは水と反応してH2O2を発生させる.マクロファージ様細胞にEGCを作用させると,EGCから発生するH2O2によりTRPM2の活性化を介してマクロファージ様細胞の食作用活性が増強される(3)3) M. Monobe, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Cytotechnology, 66, 561 (2014)..また,EGCを継続的に摂取していたマウスの小腸パイエル板細胞の食作用活性が増強することも確認されており(9)9) 物部真奈美:食品と容器,56, 578 (2015).,それに伴いパイエル板細胞のIgA産生(獲得免疫)が増強される(4)4) M. Monobe, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 2501 (2010)..これについては,EGCの摂取によりパイエル板の抗原提示細胞(APC)のTRPM2の感度が上昇し,APCの食作用活性が増強され,獲得免疫が成立しやすくなった可能性が推察される(図3図3■緑茶成分による免疫作用のイメージ図).ちなみに,EGCGもH2O2を発生させるが,パイエル板細胞のIgA産生は増強しない.むしろ,EGCの効果を抑制する(4)4) M. Monobe, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 2501 (2010)..これについては,「緑茶の抗炎症成分」の項で詳述する.

図3■緑茶成分による免疫作用のイメージ図

IPP: イソペンテニルピロリン酸 IL-12: インターロイキン12

2. テアニン

テアニンはストレスを緩和する成分としてよく知られている(10)10) 小林加奈理,長戸有希子,青井暢之,L.R. ジュネジャ,金武祚,山本武彦,杉本助男:日本農芸化学会誌,72, 153 (1998)..ストレスの緩和が間接的に免疫の働きに影響する可能性も考えられるが,テアニンが免疫に直接関与していることを示す報告がある.

テアニンを摂取すると代謝されグルタミン酸とエチルアミンに分解される(11)11) A. M. Asatoor: Nature, 210, 1358 (1966)..エチルアミンはメバロン酸代謝経路を阻害することによりAPC内にイソペンテニルピロリン酸(IPP)の蓄積を引き起こす(12)12) C. T. Morita, C. Jin, G. Sarikonda & H. Wang: Immunol. Rev., 215, 59 (2007).図4図4■エチルアミンによる抗原提示細胞のIPP蓄積と分泌).末梢血T細胞の2~5%を占めるγδ型T細胞のうち,Vγ2Vδ2型はAPCからIPPを受け取り,プライミング(臨戦態勢)状態になる(12)12) C. T. Morita, C. Jin, G. Sarikonda & H. Wang: Immunol. Rev., 215, 59 (2007).図3, 4図3■緑茶成分による免疫作用のイメージ図図4■エチルアミンによる抗原提示細胞のIPP蓄積と分泌).γδT細胞は小腸粘膜上皮直下にも存在しており(13)13) J. Kunisawa, I. Takahashi & H. Kiyono: Immunol. Rev., 215, 136 (2007).,プライミングされたγδ型T細胞が,APCから放出されたIL-12に刺激されるとIFN-γを産生し,感染初期の防御に重要な役割を果たすと考えられている(14~18)14) J. F. Bukowski, C. T. Morita & M. B. Brenner: Immunity, 11, 57 (1999).15) Y. Mokuno, T. Matsuguchi, M. Takano, H. Nishimura, J. Washizu, T. Ogawa, O. Takeuchi, S. Akira, Y. Nimura & Y. Yoshikai: J. Immunol., 165, 931 (2000).16) F. Miyagawa, Y. Tanaka, S. Yamashita & N. Minato: J. Immunol., 166, 5508 (2001).17) A. B. Kamath, L. Wang, H. Das, L. Li, V. N. Reinhold & J. F. Bukowski: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 6009 (2003).18) J. F. Bukowski & S. S. Percival: Nutr. Rev., 66, 96 (2008).図3図3■緑茶成分による免疫作用のイメージ図).実際にヒトがテアニンを含む(2.2 mM)茶を2週間以上継続飲用することによりプライミングされたγδ型T細胞が有意に増加することが報告されている(17)17) A. B. Kamath, L. Wang, H. Das, L. Li, V. N. Reinhold & J. F. Bukowski: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 6009 (2003)..エチルアミンの供給源としてさまざまな食材が調べられているが,茶は主要な供給源の一つであることが示されている(19)19) S. C. Mitchell, A. Q. Zhang & R. L. Smith: Chim. Acta., 302, 69 (2000).

図4■エチルアミンによる抗原提示細胞のIPP蓄積と分泌

3. 一本鎖RNA

緑茶浸出液には一本鎖RNAが含まれている.この一本鎖RNAは冷水でも熱水でも容易に葉から溶出してくる(一杯分の乾燥新芽2.5 gからは1 mg前後溶出する).一本鎖RNAは新芽の浸出液に多く含まれており,葉の成熟に伴い減少し,茎にはほとんど含まれない(20)20) M. Monobe, A. Ogino, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Cytotechnology, 64, 145 (2012)..緑茶浸出液中の一本鎖RNAは比較的安定であり,理由の一つとしてカテキン類によりRNA分解酵素の活性が阻害される可能性が考えられる(21)21) K. S. Ghosh, T. K. Maiti & S. Dasgupta: Biochem. Biophys. Res. Commun., 325, 807 (2004)..現時点ではいまだ培養細胞レベルではあるが,この一本鎖RNAを含む水溶性高分子画分が,トル様受容体(Toll-like receptor: TLR)7を介してマクロファージ様細胞の食作用活性を増強し,I型インターフェロンであるIFN-αを産生誘導することが確認されている(20)20) M. Monobe, A. Ogino, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Cytotechnology, 64, 145 (2012)..TLR7はインフルエンザウイルス等の一本鎖RNAウイルスの認識に関与し,獲得免疫に重要な役割を果たしていることから,ウイルス感染症予防に有用である可能性があるが,現時点では緑茶の飲用による有効性は不明である.

緑茶の抗炎症成分

1. EGCG,エピカテキンガレート(ECG)などのガレート型カテキンとそのメチル化体

ガレート型カテキンについては,緑茶の主要成分の一つであるEGCGに関する報告が多いが,免疫に関連する報告の多くは抗炎症作用のように免疫系に対して抑制的に作用する報告である.炎症は,病原体などの異物が侵入してきた場合などに起こる重要な生体防御反応であり,基本的には一過性の反応である.そのため,無闇に炎症を抑えてしまうと逆効果になりかねない.しかし,炎症を起こす原因が排除されず留まり続けると慢性炎症となりさまざまな不具合が引き起こされる.慢性炎症に対してはその原因を取り除くことが最も重要であるが,環境中にある本来無害な物質を異物として認識し,過剰な免疫反応を起こし続ける場合,たとえば花粉の場合,くしゃみ,鼻水,鼻つまりが続き,生活の質が落ちてしまう.この場合,免疫系の誤認を解く必要があり,治療法としては「減感作療法」があるが簡単ではない.

花粉に対してIgE抗体を誤って産生してしまい,目や鼻の粘膜にある肥満細胞にIgEとともに花粉が付着すると,肥満細胞が炎症性物質であるヒスタミンを放出する.ヒスタミンは知覚神経や血管に作用して,くしゃみ,鼻水,鼻つまりなどの症状を引き起こす(図5図5■ヒスタミン放出メカニズムと緑茶成分の作用点).EGCGなどのガレート型カテキンは67 kDaラミニンレセプター(67LR)に作用して肥満細胞などからのヒスタミンの放出を抑制することがわかってきた(22)22) Y. Fujimura, D. Umeda, K. Yamada & H. Tachibana: Arch. Biochem. Biophys., 476, 133 (2008)..EGCGなどのガレート型カテキンが肥満細胞表面に発現する67LRに結合すると,ミオシン軽鎖のリン酸化を阻害し,ヒスタミン放出が抑制される(23)23) Y. Fujimura, D. Umeda, Y. Kiyohara, Y. Sunada, K. Yamada & H. Tachibana: Biochem. Biophys. Res. Commun., 348, 524 (2006).図5図5■ヒスタミン放出メカニズムと緑茶成分の作用点).さらに,肥満細胞表面に発現するIgE受容体であるFcεRIの発現を抑制することも報告されている(24)24) Y. Fujimura, H. Tachibana & K. Yamada: FEBS Lett., 556, 204 (2004).図5図5■ヒスタミン放出メカニズムと緑茶成分の作用点).生体においては,マウスのI型,IV型アレルギー反応試験で,EGCGよりもエピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(EGCG3″Me)などEGCGのメチル化体の方が,アレルギー抑制効果が有意に高いことが報告されている(25, 26)25) M. Sano, M. Suzuki, T. Miyase, K. Yoshino & M. Maeda-Yamamoto: J. Agric. Food Chem., 47, 1906 (1999).26) M. Suzuki, K. Yoshino, M. Maeda-Yamamoto, T. Miyase & M. Sano: J. Agric. Food Chem., 48, 5649 (2000)..また,ヒト介入試験の結果でも,EGCG3″Meを含有しない茶品種である「やぶきた」緑茶の飲用に比べて「べにふうき」緑茶の飲用群で症状が有意に抑えられることが報告されている(27)27) 安江正明,池田満雄,永井 寛,佐藤克彦,光田博充,山本万里,薮根光晴,中川聡史,梶本佳孝,梶本修身:日本臨床栄養学会誌,27, 33 (2005)..その理由の一つとして,EGCGよりもEGCG3″Meなどメチル化体の方が,経口摂取後の吸収や血中での安定性が高いことが考えられている(28)28) 佐野満昭,宮瀬敏男,立花宏文,山本(前田)万里:Frangrance Journal, 28, 46 (2000).EGCG3″Meはすべての茶品種に含まれる成分ではなく,「べにふうき」「べにふじ」「べにほまれ」に特に多く含まれている(29)29) 山本万里,佐野満昭,松田奈帆美,宮瀬敏男,川本恵子,鈴木直子,吉村昌恭,立花宏文,袴田勝弘:日本食品科学工学会誌,48, 64 (2001).

図5■ヒスタミン放出メカニズムと緑茶成分の作用点

EGCGがEGCの免疫効果を抑制することについてここで考察する.マウスにEGCGを継続摂取させてIgA産生について調べた結果,小腸パイエル板細胞の食作用活性やIgA産生を増強することはなく,むしろEGCの作用を抑制した(4)4) M. Monobe, K. Ema, Y. Tokuda & M. Maeda-Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 2501 (2010)..マクロファージなどのAPCは,細胞表面のTLR2やTLR4等で病原体等の構成成分を認識し,さらにライソソーム内に存在するTLR7やTLR9などで病原体等の核酸を認識し,I型インターフェロンの産生誘導や細胞表面の共刺激分子の発現を増強させ,T細胞を活性化し獲得免疫を誘導する(30)30) 植松 智,審良静男:ウイルス,56, 1 (2006)..IgAが産生されるためには,APCが異物を取り込んだ後,その抗原情報がリンパ球に提示され,TLRの活性化を介して獲得免疫が誘導される必要がある.EGCGはマクロファージの細胞膜表に発現する67LRに作用してTLR2とTLR4の活性を抑制することが報告(31, 32)31) E. H. Byun, Y. Fujimura, K. Yamada & H. Tachibana: J. Immunol., 185, 33 (2010).32) E. H. Byun, T. Omura, K. Yamada & H. Tachibana: FEBS Lett., 585, 814 (2011).されている.そのため,EGCGが共存するカテキン溶液やEGCGが溶出してくる緑茶熱水抽出液(図6図6■緑茶浸出液に含まれるEGCとEGCG量)ではIgA産生が抑制されたと考えられる.

図6■緑茶浸出液に含まれるEGCとEGCG量

2.5 gの「やぶきた」茶葉に100 mLの4°Cまたは80°Cの水を注いで静置

2. ストリクチニン,G-ストリクチニン,テオガリン

培養細胞レベルの試験ではあるが,ストリクチニン,G-ストリクチニン(1,2-di-O-galloyl-4,6-O-(S)-hexahydroxydiphenoyl-β-D-glucopyranose),テオガリンが,ヒト末梢血Bリンパ球からのIgE産生を抑制することが報告されている(33)33) D. Honma, M. Tagashira, T. Kanda & M. Maeda-Yamamoto: J. Sci. Food Agric., 90, 168 (2010)..G-ストリクチニンは茶中間母本農6号に多い成分であり(33)33) D. Honma, M. Tagashira, T. Kanda & M. Maeda-Yamamoto: J. Sci. Food Agric., 90, 168 (2010).,茶葉乾物重量あたり約8%含有しているが,一般に多く流通する緑茶には含まれてない.テオガリンとストリクチニンについては最も多く流通している「やぶきた」にも含まれるが,テオガリンは1%以下,ストリクチニンは1%前後である(33)33) D. Honma, M. Tagashira, T. Kanda & M. Maeda-Yamamoto: J. Sci. Food Agric., 90, 168 (2010)..これら3成分の機能については,生体での効果が未確認であり,現時点では緑茶の飲用による有効性は不明である.

3. 没食子酸

茶葉中に没食子酸はほとんど含まれないが,摂取されたEGCGが腸内細菌によりEGCと没食子酸に分解される(34)34) T. Kohri, N. Matsumoto, M. Yamakawa, M. Suzuki, F. Nanjo, Y. Hara & N. Oku: J. Agric. Food Chem., 49, 4102 (2001)..また,茶飲料を製造する際に混濁を防ぐなどの理由でタンナーゼを使用した場合,タンナーゼはEGCGをEGCと没食子酸に加水分解する酵素であることから,没食子酸が増加する.没食子酸は,p65のアセチル化を阻害することによりNFκBの活性化を抑制し,LPS刺激されたマクロファージのシクロオキシゲナーゼ(COX)2,一酸化窒素合成酵素(NOS)2, IL-6, IL-1βの発現を抑制することが報告されている(35)35) K. C. Choi, Y. H. Lee, M. G. Jung, S. H. Kwon, M. J. Kim, W. J. Jun, J. Lee, J. M. Lee & H. G. Yoon: Mol. Cancer Res., 7, 2011 (2009)..ちなみに,没食子酸は67LRに作用しないことが確認されている(22)22) Y. Fujimura, D. Umeda, K. Yamada & H. Tachibana: Arch. Biochem. Biophys., 476, 133 (2008)..生体レベルでは,没食子酸を摂取することにより,デキストラン硫酸ナトリウム誘発マウス潰瘍性大腸炎の軽減,家畜として飼育されている子豚の下痢の低下,雛鳥の空腸(栄養吸収領域)の形態が改善されるなどの抗炎症作用による腸内環境改善効果が報告されている(36~38)36) A. K. Pandurangan, N. Mohebali, M. E. Norhaizan & C. Y. Looi: Drug Des. Devel. Ther., 9, 3923 (2015).37) K. G. Samuel, J. Wang, H. Y. Yue, S. G. Wu, H. J. Zhang, Z. Y. Duan & G. H. Qi: Poult. Sci., 96, 2768 (2017).38) L. Cai, Y. P. Li, Z. X. Wei, X. L. Li & X. R. Jiang: Anim. Feed Sci. Technol., 261, 114391 (2020).

緑茶の淹れ方と免疫機能性

1. 緑茶の冷水浸出液と機能性

緑茶冷水抽出液,すなわち「水出し緑茶」には上記の免疫賦活に寄与する成分であるEGGやテアニンは溶出してくるが,免疫抑制的に働く成分,特にガレート型カテキンが溶出しにくい.そのため,活性化したAPCによりT細胞へ情報が流れやすくなり,免疫バランスが改善される可能性がある.実際に唾液IgA濃度が低め(100 µg/mL未満)の被験者に,「水出し緑茶」1杯分の溶出物(3~4 g茶葉から得られる溶出物)を水に溶解して1日2回飲んでもらった結果,飲用し始めて1~2週間後から唾液IgA濃度が徐々に上昇することが観察された(図7図7■水出し緑茶摂取前後の唾液sIgA濃度の経時的変化(5)5) 物部真奈美,江間かおり,徳田佳子,山本(前田)万里:茶業研究報告,113, 71 (2012)..しかし,唾液IgA濃度が一般的な濃度範囲である100~200 µg/mLの被験者では「水出し緑茶」の飲用前後で唾液IgA濃度に変化はなかった(5)5) 物部真奈美,江間かおり,徳田佳子,山本(前田)万里:茶業研究報告,113, 71 (2012)..「水出し緑茶」の飲用は単に抗体産生を増強するのではなく,抗体産生能を改善する可能性が示唆される.しかしながら,「水出し緑茶」の飲用と唾液IgA濃度の改善について詳細を明らかにするためには引き続き調査を続ける必要がある.