農芸化学@High School

バクテリアによるバイオプラスチックの合成と分解

二宮 妃奈多

愛媛大学附属高等学校理科部プラガールズ

門屋 知里

愛媛大学附属高等学校理科部プラガールズ

美空

愛媛大学附属高等学校理科部プラガールズ

Published: 2021-10-01

私たちは海洋性細菌に生分解性プラスチックを作らせることで,海洋マイクロプラスチック問題を解決しようと考えた.その結果,天日塩から海洋性細菌を単離でき,菌株の最適培養条件下で生分解性プラスチックの合成を確認した.その物質は細菌の貯蔵栄養分であるPHB(ポリヒドロキシ酪酸)であると推定された.また,バイオマスプラスチック配合レジ袋の土壌中での分解性についても調べたところ,ほとんど分解されないことがわかった.

本研究の目的・方法および結果

【目的】

現在,海洋には毎年1000万トン以上のプラスチックごみが流入し,マイクロプラスチックによる汚染が問題になっている(1)1) 中嶋亮太:“海洋プラスチック汚染-『プラなし』博士,ごみを語る”,岩波書店,2019..私たちは,海洋性細菌に生分解性プラスチックを効率よく経済的に合成させる方法を考えた.すでに存在するマイクロプラスチックを減らすことはできないが,海洋性細菌が作る生分解性プラスチックなら海の微生物によって確実に分解されるはずである.今後,日常生活で利用するプラスチックを海洋性細菌が作る生分解性プラスチックに置き変えることで,上の問題の解決につながることが期待される.そこで本研究では,生分解性プラスチックを作る海洋性細菌の単離とその産生条件の検討を目的とした.

また,2020年7月からのレジ袋有料化に伴って普及したバイオマスプラスチック配合レジ袋が本当に環境にやさしいのかを調べることにした.なお,バイオプラスチックには,資源循環型だが生分解性があるとは限らないバイオマスプラスチックと,二酸化炭素と水に自然分解される生分解性プラスチックがある.

本研究はSDGsの17の目標のうち,「産業と技術革新の基盤をつくろう」,「つくる責任 つかう責任」,「海の豊かさを守ろう」,「陸の豊かさも守ろう」等に関係する.

【方法および結果】

1. 天日塩からの海洋性細菌の単離

海洋性細菌を単離する試料として,市販の天日塩を用いた.天日塩は加熱されていないので耐塩性・好塩性細菌が休眠しており,世界中の産地とする試料が入手できるからである.海洋性細菌用のマリンブロス培地(塩分2%含有)に天日塩5%を溶解させて37°Cで2日間(液体培地が濁るまで),液体培養した.次に寒天2%添加で固化させたマリンブロス平板培地に液体培養で増殖した細菌を塗布して培養し,形成されたコロニーの形状(輪郭の形,立体感,表面の滑らかさなど)や色調(白色・有色,透明感など)をもとに目視で菌株の単離を行った.

その結果,12種類の天日塩から66種の菌株を得ることができた(ゲノム解析ができなかったので同一種を別種に分類している可能性もある).なお,使用した天日塩の産地は,日本(2種),中国,オーストラリア(2種),メキシコ,アルゼンチン,南アフリカ,スペイン,イタリア,フランス(2種)であり,いずれの天日塩からも種数の差はあるが菌株を得ることができた.

2. 培養条件の検討

得られた各菌株の最適培養条件を調べるためにpH,栄養分のC/N比,塩分濃度を変化させた培地で培養した.まず,生分解性プラスチックの材料になるポリヒドロキシ酪酸(PHB)やポリ乳酸(PLA)を菌体内に合成・蓄積させる際,アルカリ性の環境だと酸を合成して菌体内を中和すると考え,炭酸ナトリウムで培地をpH 7.5, 9.5, 10.5に調整して比較した.次に,培地養分のC/N比改変を行った.これは酸合成の材料になるCを増やし,タンパク質合成が優先されるNを減らすためである.そこで,マリンブロス培地を5倍,10倍に希釈し(N減),糖を5%添加した(C増).グルコース添加だと滅菌時にメイラード褐変が起こり観察しにくくなったのでスクロース添加とした.なお,マリンブロス培地は希釈後も塩分濃度が2%になるように調整した.培地を希釈しても問題がなければ生産の経済性が向上する.さらに,食塩を5%,10%,15%添加した高浸透圧培地でも比較した.菌体内の浸透圧を上げるために貯蔵物質を蓄積しやすくなると考えたからである.

その結果,弱アルカリ性が最適条件の菌株が多かったが,pH 10.5を最適とする好アルカリ性細菌も比較的多かった.これは細菌の細胞膜における耐アルカリ性と耐塩性の獲得過程で水素イオンを輸送するNa/Hイオンポーターの仕組みが似ているからではないだろうか.また,C/N比改変では糖を添加した方の増殖が良好であり,培地の5倍希釈まで増殖には影響がない菌株が多く,10倍希釈でも増殖が良好な菌株もあった.多くの海洋性細菌は貧栄養性の環境に生育しているためだと考えられる.さらに,いずれの菌株も耐塩性細菌ばかりであり,塩分15%添加の方が最適となる好塩性細菌もあった.得られた菌株は天日塩5%添加培養による単離であり,天日塩中(飽和食塩水中)でも死滅していないことから,これは当然と思われる.最も多くの菌株で最適であったpH 7.5の弱アルカリ性,培地5倍希釈+スクロース5%添加,塩分5%添加を基本条件として培養し,増殖に優れた10株を選抜した.(表1表1■培養条件の検討

表1■培養条件の検討
①アルカリ性培地における代表的10菌株の増殖
pHI3-3I3-1SA3-6SF3-3C3-14C10-4SA3-1F3-1C3-12C3-13
7.5+++++++++
9.5++++++
10.5+++++++++++
(+:増殖速度小,++:増殖速度中,+++:増殖速度大)<目視による>
②C/N比改変培地における代表的10菌株の増殖
N濃度I3-3I3-1SA3-6SF3-3C3-14C10-4SA3-1F3-1C3-12C3-13
100%+++++++++++
20%++++++++++
10%++
(+:増殖速度小,++:増殖速度中,+++:増殖速度大)<目視による> N量を減らすために培地を5倍および10倍希釈し,未希釈の培地を100%とした相対量(N濃度)で表記した.C量を増やすためにスクロースを5%添加した.
③高浸透圧培地における代表的10菌株の増殖
塩分I3-3I3-1SA3-6SF3-3C3-14C10-4SA3-1F3-1C3-12C3-13
7%+++++
12%++++++++++
17%++++++++
(+:増殖速度小,++:増殖速度中,+++:増殖速度大)<目視による>塩分を2%含有するマリンブロス培地に食塩5%,10%,15%を添加した.

3. 菌体内蓄積物質の抽出と物質の特定

菌体内の蓄積物質はレフレルメチレンブルー染色,菌体外への分泌物は墨汁染色を行った後,顕微鏡観察で確認した.菌体内蓄積物質の抽出には特許公報で公開されていた方法(0.5 M水酸化ナトリウムで溶解後,エタノールで沈殿)を用いた(2)2) 海洋研究開発機構,信州大学,東京海洋大学:「特許公報(B2)第5887062号」(2016)..その結果,多くの菌株から菌体内蓄積物質を抽出できたが,分泌物からの抽出物はなかった.ここで上記の選抜10株のうち,蓄積物質の収量が多かった3株(イタリア由来のI3-1株,I3-3株,南アフリカ由来のSA3-6株)を最優良株として選抜した.

抽出物の特定は本校の設備では不可能だったので,タンパク質,セルロース,デンプン等である可能性を除去するためにプロテアーゼ,セルラーゼ,アミラーゼ等の各種分解酵素を作用させた.その後も抽出物が分解されずに残っていたことから,タンパク質,セルロース,デンプン等ではないことを確認した.ただし,エタノールによる抽出物なので核酸の混入が避けられないと思われたため,メチルグリーン・ピロニン染色を行ったところ,I3-1株の抽出物にDNAの混在が認められた.そこで,デオキシリボヌクレアーゼで処理した後に再度染色を行うとDNAが混在していない抽出物が得られた.最後に,どの菌株からの抽出物もクロロホルムに完全に溶解し,メタノールで析出したことから,この物質はPHBであると推定された.

4. PHB生産性の向上

選抜した最優良3株について,マリンブロス培地の希釈濃度とスクロース添加量を変えて培養し,菌体内にPHBが蓄積されやすい条件を調べた(塩分は培地2%+食塩5%添加に固定した).その結果,I3-1株,I3-3株とも培地を希釈しても菌体の増殖には影響がなかったがPHBの収量は低下する傾向が認められた.しかし,培地希釈時にスクロースを添加するとPHBの収量が回復した.I3-1株,I3-3株とも培地10倍希釈+スクロース5%および10%添加で経済的なPHB生産が可能になった(表2表2■培地希釈とスクロース濃度によるPHB収量).それに対して,SA3-6株は通常の培養でのPHB収量はI3-1株,I3-3株より多かったが,培地を希釈するとPHB収量が大幅に低下し,スクロースを添加しても効果がなかった.また,培養時間がI3-1株,I3-3株の1~2日に対してSA3-6株は3~4日と長時間を要するという欠点があった.

表2■培地希釈とスクロース濃度によるPHB収量
<I3-1株>培地へのスクロース添加率<I3-3株>培地へのスクロース添加率
培地の希釈0%5%10%15%培地の希釈0%5%10%15%
培地希釈なし++++++培地希釈なし++++++
培地5倍希釈++培地5倍希釈++
培地10倍希釈++++培地10倍希釈++
(-:抽出なし,+:抽出少量,++:抽出多量)<目視による>

5. 抽出したPHBの性能と生分解性

菌体から抽出したPHBをビニールの表面に薄く塗り広げ,乾燥してから曲げ伸ばしを行ったところ,プラスチックと同様の可塑性や伸縮性があった.また,抽出した沈殿状のPHBを寒天培地上に塗り広げ,その中央に堆肥中から単離した細菌を接種して培養したところ,数日後にコロニー周囲のPHBが分解されていた.さらに,抽出したPHBをプラスチックシート上に塗り広げて乾燥させた後に畑の土壌中に埋めておいたところ,3カ月後には完全に分解されていた.日本における生分解性プラスチックの定義(3)3) 日本化学会編:“持続可能社会をつくるバイオプラスチック-バイオマス材料と生分解性機能の応用化と普及に向けて”,化学同人,2020.は「コンポスト中で3カ月以内に6割以上の分解」(ヨーロッパの基準は2年以内に9割以上の分解)なので,抽出したPHBには十分な生分解性があると言える.

6. バイオマスプラスチック配合レジ袋の生分解性

バイオマスプラスチックの配合率が異なるレジ袋を5 cm四方に切ってプラスチックシートに貼り付け,畑の土壌中に埋めて分解速度を調べた.その結果,配合率10%,25%,30%の袋には3カ月でわずかな分解があり,30%配合の場合の分解性が最も高かったが,50%,90%といった高配合率の袋は分解が全く認められなかった(表3表3■畑の土壌下におけるレジ袋の分解レジ袋のバイオマスプラスチック配合率).バイオマスプラスチックの配合率が高い50%,90%の袋は,配合率が30%以下の袋に比べて手触りがごわごわと分厚く堅かったことから,頑丈に作られていることが推察された.

表3■畑の土壌下におけるレジ袋の分解レジ袋のバイオマスプラスチック配合率
土壌中10%25%30%50%90%
1カ月4 mmの穴1個
3カ月1 mmの穴数個1 mmの穴数個数個の穴に増
レジ袋を5 cm×5 cmに切り取ってプラスチックシートに貼り付け,畑の土壌中に埋めて経過を観察した.

そのため,私たちは植物材料から100%バイオマスプラスチックを実際に合成するため,デンプンと食酢とグリセリンを水に混ぜて加熱処理し,冷暗所で2日間静置して固化させた(4)4) wikiHow編集チーム:“バイオプラスチックを作る3つの方法”,https://www.wikihow.jp.この100%バイオマスプラスチックの薄膜は土壌中で分解した.このことから,バイオマスプラスチック配合レジ袋の生分解性は,バイオマスプラスチック以外の部分を占める「分解されにくいプラスチック成分」に左右されると推定された.バイオマスプラスチックはそのままではもろく,強度や耐久性を向上させる必要がある.配合率を高くするほど製品を頑丈に作る必要があり,配合率の高さが生分解性に反映されにくいのではないだろうか.実際,最も分解が速かった配合率30%のレジ袋でも,土壌中で分解されない製品もあった.

バイオマスプラスチックは二酸化炭素削減に効果があると宣伝されているが,実際にデンプンから自作してみると,安価に大量生産ができるが,製造過程に膨大なエネルギー(電力)が必要なことから,実際にどれだけの二酸化炭素削減につながるのか疑問に思った.その点,細菌によるPHB合成は多量の電力消費や加熱処理が不要なので環境負荷が少ないと感じた.また,最近ではPHBを医薬品や飼料に利用する特許も多数出願されており,バイオプラスチック以外の用途も多い.

本研究の意義と展望

細菌によるPHBの合成・蓄積は以前から知られていたが,海洋性細菌を利用したPHBの産業的な生産の前例はなかった.本研究では,世界中を産地とする市販の天日塩から優良な菌株を得られたこと,最適な培養・生産条件を検討できた.また,培地を希釈して培養しても糖の添加でPHB産生が良好になることから,経済的な生産が可能になる.さらに,レジ袋の土壌中における生分解性には,バイオマスプラスチックの配合率の高さが必ずしも反映されないという意外な結果も得られた.

今後は,菌株の種の同定やPHBと推定された抽出物質の分子量の測定を行いたい.また,プラスチックの生分解性の高さは,製品の強度や耐久性とは相反するので,早期の分解が望まれる使い捨ての小型プラスチックに応用したい.現在は徐放性肥料カプセルへの利用を考えている.これはポリエチレンで肥料をコーティングした直径2~3 mmの農業製品で,水田に散布されて肥料が溶出した後に河川・海洋に流出する.愛媛県の海浜に漂着するマイクロプラスチックの約4割(重量比)が本カプセル由来であり,水田面積が広い地域ほど多い(5)5) 愛媛県立東温高等学校 曽根 伸:“愛媛高校理科 愛媛県の海岸におけるマイクロプラスチックの汚染調査”,愛媛県高等学校教育研究会・理科部会,57, 2020..今後,本カプセルの製造企業に対して生分解性プラスチック化の提案を行う予定である.

Acknowledgments

・本研究は(株)リバネスの「サイエンスキャッスル研究費2020アサヒ飲料賞」に採択され,2020年6月~12月にアサヒ飲料(株)商品開発研究所の竹内曜様からリモートで定期的にアドバイスをいただきました.

・(株)日立ハイテクノロジーズの「理科教育支援プログラム」により,2020年6月~8月に卓上小型電子顕微鏡の無償貸与を受けました.

・本研究のメンバーは,愛媛大学GSC(グローバルサイエンスキャンパス)で研究指導を受けています.

Note

本研究は、日本農芸化学会2021年度大会(仙台)における「ジュニア農芸化学会」(発表は新型コロナウイルス感染症対策のためオンライン形式で実施)に応募された研究のうち、本誌編集委員会が優れた研究として選定した6題の発表のうちの一つです。

Reference

1) 中嶋亮太:“海洋プラスチック汚染-『プラなし』博士,ごみを語る”,岩波書店,2019.

2) 海洋研究開発機構,信州大学,東京海洋大学:「特許公報(B2)第5887062号」(2016).

3) 日本化学会編:“持続可能社会をつくるバイオプラスチック-バイオマス材料と生分解性機能の応用化と普及に向けて”,化学同人,2020.

4) wikiHow編集チーム:“バイオプラスチックを作る3つの方法”,https://www.wikihow.jp

5) 愛媛県立東温高等学校 曽根 伸:“愛媛高校理科 愛媛県の海岸におけるマイクロプラスチックの汚染調査”,愛媛県高等学校教育研究会・理科部会,57, 2020.