解説

セルロースを生産する温泉微生物好熱性化学合成独立栄養細菌によるセルロース合成

Bacterial Cellulose Production in Hot Springs: Cellulose Synthesis by Thermophilic Chemoautotrophic Bacteria

Shin Haruta

春田

東京都立大学理学部生命科学科

Published: 2021-11-01

細菌のつくるセルロースはバクテリアセルロースとも称され,植物由来のセルロースと異なる物性があり,工業材料や医療用材料として注目されている.セルロース合成能は大腸菌や根粒菌をはじめとしてさまざまな中温性細菌にみつかっており,なかでも食酢醸造に使われる酢酸菌について研究がよく進んでいる(1)1) 田島健次,今井友也,姚閔:化学と生物,58, 453 (2020)..2003年に,温泉流水中の微生物集塊にセルロースが含まれることが報告され(2)2) K. Ogawa & Y. Maki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 2652 (2003).,好熱菌のつくるセルロースとして興味がもたれた.本稿では,高温硫黄泉にみられる微生物集塊を形成する化学合成微生物群集とそのセルロース合成に関する最近の知見を紹介する.

Key words: セルロース; 好熱菌; 温泉; 硫化水素; 微生物群集

高温硫黄泉の化学合成微生物群集

陸上温泉は身近な高温環境の一つで,未利用好熱菌の宝庫である.温泉流水中にはしばしば微生物が色とりどりの集塊をなして繁茂し,時に1 cm厚近くになる微生物被膜(バイオマット)を形成している(3)3) C. R. Everroad, H. Otaki, K. Matsuura & S. Haruta: Microbes Environ., 27, 374 (2012)..高温硫黄泉では,70~80°Cの温泉水中に白色~灰色のゲル状の微生物被膜・集塊が広く観察され(図1A-C図1■高温硫黄泉に観察される微生物集塊),流水の中で揺れる「硫黄芝(Sulfur-turf)」や「ストリーマー(Streamer)」,「糸状性微生物群集(filamentous microbial community)」などと称される.これらは光合成微生物を含まず,温泉水に含まれる硫化水素などを主なエネルギー源とし,Aquificae門細菌等の化学独立栄養細菌が優占化する化学合成微生物群集である(4)4) C. Takacs-Vesbach, W. P. Inskeep, Z. J. Jay, M. J. Herrgard, D. B. Rusch, S. G. Tringe, M. A. Kozubal, N. Hamamura, R. E. Macur, B. W. Fouke et al.: Front. Microbiol., 4, 84 (2013)..高温アルカリ硫黄泉のひとつ,長野県中房温泉での研究では,その炭酸固定速度は約5 mg of C h-1と見積もられ,光合成による炭酸固定をしのぐほどである(5)5) H. Kimura, K. Mori, H. Nashimoto, S. Hanada & K. Kato: Microbes Environ., 25, 140 (2010)..この微生物群集の主要構成微生物種として,特徴的な形態をもつ細胞が,古くから日本国内の温泉で観察されていた(6)6) Y. Maki: Bulletin of Japanese Society of Microbial Ecology, 6, 33 (1991)..それは,長く湾曲したソーセージ型(長さ約5~20 µm)をした形態(図1D図1■高温硫黄泉に観察される微生物集塊)からLarge Sausage-Shaped Bacteria(LSSB)と呼称されているが(6)6) Y. Maki: Bulletin of Japanese Society of Microbial Ecology, 6, 33 (1991).,いまだ分離培養されていない.しかし,環境DNAを対象にした非培養法による菌叢解析技術の発展により,その微生物種組成が調べられるようになり,優占化する細菌はAquificae門のSulfurihydrogenibium属細菌と推定されている(7, 8)7) T. Nakagawa & M. Fukui: Appl. Environ. Microbiol., 69, 7044 (2003).8) K. Kubo, K. Knittel, R. Amann, M. Fukui & K. Matsuura: Syst. Appl. Microbiol., 34, 293 (2011)..また構成微生物種として,同じくAquificae門の水素/硫黄酸化細菌Hydrogenobacter属,Thermocrinis属も検出されており,さらに,発酵細菌,硫酸還元細菌,好気従属栄養細菌,メタン生成アーキア等が共存し,微生物生態系を形成していることが知られるようになってきた(9)9) A. Nishihara, S. Haruta, S. McGlynn, V. Thiel & K. Matsuura: Microbes Environ., 33, 10 (2018).

図1■高温硫黄泉に観察される微生物集塊

A, 温泉流水中に発達する白色の微生物集塊(和歌山県湯の峰温泉).B, 色や形状の異なる微生物集塊(長野県中房温泉).C, 採取したゲル状集塊.D, 顕微鏡写真.

温泉微生物がつくるセルロース

高温アルカリ硫黄泉から採取したゲル状微生物集塊をカルコフルオロホワイトで染色すると,全体的に繊維状の多糖質で細胞が包まれている様子が顕微鏡観察される(図2A, B図2■化学合成微生物群集の光学顕微鏡観察).Ogawa & Makiは秋田県蟹場温泉から採取した試料について菌体外画分を抽出し,構成糖の質量分析およびNMR解析から,1,4グルカン構造を同定し,セルロースの存在を報告した(2)2) K. Ogawa & Y. Maki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 2652 (2003)..長野県や和歌山県の温泉流水中から採取した微生物集塊について解析した結果では,そのセルロース含量は湿重量1 gあたり10 mg程度と見積もられている(Yamaguchi & Haruta,未発表).これらゲル状微生物集塊から微生物細胞を除去し不溶性画分を抽出して(図3A, B図3■化学合成微生物群集から抽出した繊維),電子顕微鏡で観察すると約2 µm幅の繊維が折り重なっているように見える(図3C, D図3■化学合成微生物群集から抽出した繊維).このような形状は,酢酸菌のつくるナノファイバー状のセルロース(1)1) 田島健次,今井友也,姚閔:化学と生物,58, 453 (2020).とは異なるようである.

図2■化学合成微生物群集の光学顕微鏡観察

A. 明視野観察.B, カルコフルオロホワイトで染色した蛍光像.(A, Bは同一視野を観察)

図3■化学合成微生物群集から抽出した繊維

A, 細胞除去後の繊維懸濁液.B, 熱プレスで成形して得られたシート.C, D, 繊維の電子顕微鏡像.

好熱性硫黄酸化細菌のセルロース合成遺伝子

日本国内の高温アルカリ硫黄泉に観察されている化学合成微生物群集の主要構成種であるLarge Sausage-Shaped Bacteria(LSSB)について,前述したように分離培養に成功した報告はまだないが,Tamazawaらはメタゲノム解析によってLSSBの遺伝子塩基配列情報を取得し,生化学的にも解析して,その代謝特性を報告している(10)10) S. Tamazawa, K. Takasaki, H. Tamaki, Y. Kamagata & S. Hanada: PLoS One, 7, e49793 (2012)..本菌は北米,ポルトガル,ロシア,アイスランドの陸上温泉でこれまでに発見・分離培養されているSulfurihydrogenibium属細菌とは異なる新規のSulfurihydrogenibium属細菌であり,温泉水に含まれる硫化水素(HS)を酸化し,元素硫黄(S0)を生成すると考えられた.またこれらの反応にかかわる硫化水素デヒドロゲナーゼおよび呼吸鎖末端酸化酵素は,いずれも基質親和性が高いことが示されており(10)10) S. Tamazawa, K. Takasaki, H. Tamaki, Y. Kamagata & S. Hanada: PLoS One, 7, e49793 (2012).,本菌はこれらの特性によって硫化水素を含む硫黄泉でその生態的地位を確立していると予想される.

この新規Sulfurihydrogenibium属細菌(LSSB)のゲノムを調べたところ,セルロース合成にかかわる遺伝子群を見いだすことができた(図4A図4■Large Sausage-Shaped Bacteriaのセルロース合成関連遺伝子群(A)とセルロース合成関連タンパク質の推定局在(B)).LSSBも図4B図4■Large Sausage-Shaped Bacteriaのセルロース合成関連遺伝子群(A)とセルロース合成関連タンパク質の推定局在(B)に示すように中温性セルロース生産菌と類似のセルロース合成装置を持つと推定される(11)11) U. Rӧmling & M. Y. Galperin: Trends Microbiol., 23, 545 (2015)..内膜にある酵素(BcsA)がUDP-グルコースを重合し,外膜に局在する装置群によってグルカン鎖(=セルロース)は細胞外に運搬・分泌されると考えられる.DNAデータベースを検索すると,類似のセルロース合成関連遺伝子群はSulfurihydrogenibium azorenseAquifex aeolicusといった既知Aquificae門分離株にも見つかった(図5図5■さまざまな細菌のセルロース合成関連遺伝子群).Aquificae門細菌は好熱性硫黄/水素酸化細菌としてよく知られた系統群であるが,セルロース合成能を示した報告はない.セルロース合成細菌としてよく調べられてきた酢酸菌Komagataeibacter(=GluconacetobacterxylinusbcsD遺伝子をもつのに対し,Aquificae門細菌や大腸菌(E. coli),根粒菌(R. leguminosarum)にはbcsDに相同な遺伝子は見つかっておらず(図5図5■さまざまな細菌のセルロース合成関連遺伝子群),この違いが紡ぎだすセルロース繊維の構造に違いをもたらしている可能性が指摘される(1)1) 田島健次,今井友也,姚閔:化学と生物,58, 453 (2020)..また和歌山県の温泉から分離されている単細胞性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanusにもセルロース合成能が報告されたが(12)12) Y. Kawano, T. Saotome, Y. Ochiai, M. Katayama, R. Narikawa & M. Ikeuchi: Plant Cell Physiol., 52, 957 (2011).,そのセルロース合成関連遺伝子セットはAquificae門細菌やProteobacteria門細菌とは大きく異なる(13)13) K. Maeda, J. Tamura, Y. Okuda, R. Narikawa, T. Midorikawa & M. Ikeuchi: Mol. Microbiol., 109, 121 (2018).

図4■Large Sausage-Shaped Bacteriaのセルロース合成関連遺伝子群(A)とセルロース合成関連タンパク質の推定局在(B)

図5■さまざまな細菌のセルロース合成関連遺伝子群

LSSB, Large Sausage-Shaped Bacteria; S, Sulfurihydrogenibium; A, Aquifex; E, Escherichia; R, Rhizobium; K, Komagataeibacter; D, Dickeya; T, Thermosynechococcus.

グルコースを重合する糖転移酵素BcsAはシアノバクテリアにもみられるが,その一次配列を細菌間で比較すると,Aquificae門のSulfurihydrogenibium属細菌やAquifex属細菌の配列は,シアノバクテリアよりも,酢酸菌などのプロテオバクテリアに類似性がある.また,セルロース合成関連遺伝子は,Aquificae門細菌に共通してみられるわけではなく,Hydrogenothermaceae科とAquificaecea科の一部の属からしか見つかっていない(11)11) U. Rӧmling & M. Y. Galperin: Trends Microbiol., 23, 545 (2015)..これらの知見は,細菌界におけるセルロース合成能の獲得・欠失や進化を考えるうえで非常に興味深い.

Large Sausage-Shaped Bacteriaを取り巻く共存細菌

Large Sausage-Shaped Bacteria(LSSB)の特長を活かした温泉でのセルロース生産には,本菌の生理的性質の理解だけでなく,その微生物群集の理解と制御が必要である.図6図6■高温硫化水素泉の化学合成微生物群集における硫黄酸化細菌によるセルロース合成に示すように,群集を構成する共存細菌には,LSSBの代謝活性やセルロース合成量に影響を与えるものがある.硫黄不均化細菌(14)14) H. Kojima, K. Umezawa & M. Fukui: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 66, 1828 (2016).は,生成する単体硫黄を除去するS0 scavengerのひとつで,LSSBの生育を促進しているだろう.一方,発酵性のセルロース分解細菌(Cellulose degrader)の存在も知られる(15)15) A. Nishihara, V. Thiel, K. Matsuura, S. E. McGlynn & S. Haruta: Microbes Environ., 33, 357 (2018)..LSSBは微好気条件を好むが,これら嫌気性細菌は微生物集塊深部に分布していると予想される.

図6■高温硫化水素泉の化学合成微生物群集における硫黄酸化細菌によるセルロース合成

セルロース合成細菌において,窒素供給量が小さくなると,炭素過多になり,余剰の炭素はセルロースとして蓄えられると考えられる(16)16) H. Zhang, C. Chen, C. Zhu & D. Sun: Cellul. Chem. Technol., 50, 997 (2016)..一般に,地下から噴き出す温泉水の窒素化合物含量は限られており,温泉微生物群集は窒素固定により空気中の窒素ガスを取り込んでいると予想される.これまで70°C以上で生育する好熱性窒素固定微生物に関する知見は限られていたが(17, 18)17) M. P. Mehta & J. A. Baross: Science, 314, 1783 (2006).18) S. T. Loiacono, D. R. Meyer-Dombard, J. R. Havig, A. T. Poret-Peterson, H. E. Hartnett & E. L. Shock: Environ. Microbiol., 14, 1272 (2012).,近年,高温環境から多様な窒素固定細菌の存在が示唆されるようになってきた(15, 19)15) A. Nishihara, V. Thiel, K. Matsuura, S. E. McGlynn & S. Haruta: Microbes Environ., 33, 357 (2018).19) T. L. Hamilton, E. S. Boyd & J. W. Peters: Microb. Ecol., 61, 860 (2011)..長野県中房温泉の化学合成微生物群集を対象にした研究では,好気性硫黄/水素酸化細菌(好気呼吸)(20)20) A. Nishihara, K. Matsuura, M. Tank, S. E. McGlynn, V. Thiel & S. Haruta: Microbes Environ., 33, 394 (2018).,硫酸還元細菌(嫌気呼吸)(9)9) A. Nishihara, S. Haruta, S. McGlynn, V. Thiel & K. Matsuura: Microbes Environ., 33, 10 (2018).,発酵性細菌(発酵)(21)21) Y. Chen, A. Nishihara & S. Haruta: Microbes Environ., 36, ME21018 (2021).による窒素固定活性が検出されている.LSSBのセルロース合成量は,共存するこれらさまざまな窒素固定細菌によっても影響を受けていると考えられる.

以上のように,高温アルカリ硫黄泉の化学合成微生物群集では構成種同士の代謝相互作用があり,LSSBのセルロース合成効率の理解・制御には温泉水の温度,硫化水素濃度,流速,水深等による直接的な影響だけでなく,共存他種を介した間接的な影響を考慮する必要がある.

おわりに

70°Cを超える高温環境で生きる細菌によるセルロース合成に関する研究は始まったばかりであり,セルロースの合成機構や物性等,まだまだ不明な点が多い.しかしこれらの研究が発展することで,ジオパークにおいて持続的にセルロースが収穫できる「温泉微生物畑」の開拓も提案できるだろう.セルロースを合成する温泉細菌として,本稿で紹介した化学合成細菌だけでなく,光合成細菌(含シアノバクテリア)の組み合わせ利用も可能であろう.地下から湧き出る硫化水素や太陽からふりそそぐ光をエネルギー源とした二酸化炭素からのセルロース繊維合成は,環境負荷の小さい樹脂原料生産技術であり,エネルギー資源が少ない日本における未利用エネルギーの有効な活用方策のひとつとして期待される.

Acknowledgments

本稿執筆にあたり,データ解析や図表の作成に協力いただいた西原亜理沙博士(産業技術総合研究所)および山口真由氏(現北海道大学大学院)に感謝申し上げます.

Reference

1) 田島健次,今井友也,姚閔:化学と生物,58, 453 (2020).

2) K. Ogawa & Y. Maki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 2652 (2003).

3) C. R. Everroad, H. Otaki, K. Matsuura & S. Haruta: Microbes Environ., 27, 374 (2012).

4) C. Takacs-Vesbach, W. P. Inskeep, Z. J. Jay, M. J. Herrgard, D. B. Rusch, S. G. Tringe, M. A. Kozubal, N. Hamamura, R. E. Macur, B. W. Fouke et al.: Front. Microbiol., 4, 84 (2013).

5) H. Kimura, K. Mori, H. Nashimoto, S. Hanada & K. Kato: Microbes Environ., 25, 140 (2010).

6) Y. Maki: Bulletin of Japanese Society of Microbial Ecology, 6, 33 (1991).

7) T. Nakagawa & M. Fukui: Appl. Environ. Microbiol., 69, 7044 (2003).

8) K. Kubo, K. Knittel, R. Amann, M. Fukui & K. Matsuura: Syst. Appl. Microbiol., 34, 293 (2011).

9) A. Nishihara, S. Haruta, S. McGlynn, V. Thiel & K. Matsuura: Microbes Environ., 33, 10 (2018).

10) S. Tamazawa, K. Takasaki, H. Tamaki, Y. Kamagata & S. Hanada: PLoS One, 7, e49793 (2012).

11) U. Rӧmling & M. Y. Galperin: Trends Microbiol., 23, 545 (2015).

12) Y. Kawano, T. Saotome, Y. Ochiai, M. Katayama, R. Narikawa & M. Ikeuchi: Plant Cell Physiol., 52, 957 (2011).

13) K. Maeda, J. Tamura, Y. Okuda, R. Narikawa, T. Midorikawa & M. Ikeuchi: Mol. Microbiol., 109, 121 (2018).

14) H. Kojima, K. Umezawa & M. Fukui: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 66, 1828 (2016).

15) A. Nishihara, V. Thiel, K. Matsuura, S. E. McGlynn & S. Haruta: Microbes Environ., 33, 357 (2018).

16) H. Zhang, C. Chen, C. Zhu & D. Sun: Cellul. Chem. Technol., 50, 997 (2016).

17) M. P. Mehta & J. A. Baross: Science, 314, 1783 (2006).

18) S. T. Loiacono, D. R. Meyer-Dombard, J. R. Havig, A. T. Poret-Peterson, H. E. Hartnett & E. L. Shock: Environ. Microbiol., 14, 1272 (2012).

19) T. L. Hamilton, E. S. Boyd & J. W. Peters: Microb. Ecol., 61, 860 (2011).

20) A. Nishihara, K. Matsuura, M. Tank, S. E. McGlynn, V. Thiel & S. Haruta: Microbes Environ., 33, 394 (2018).

21) Y. Chen, A. Nishihara & S. Haruta: Microbes Environ., 36, ME21018 (2021).