特別寄稿

抗酸化ビタミンのヒト研究の最新情報酸化ストレスに対する抗酸化ビタミンの働き

Koichi Abe

阿部 皓一

三菱ケミカル株式会社,武蔵野大学薬学部SSCI研究所

Published: 2021-12-01

はじめに

13種類のビタミンの中で,主作用として,抗酸化作用をもつビタミンを抗酸化ビタミンといい,代表的なものとしてビタミンA(カロテン類を含む),ビタミンC,ビタミンEがある.これらは,総称してビタミンACE(エース)と呼ばれている.他に抗酸化作用をもつビタミンにはビタミンK,ビタミンB2,ビタミンB6などが知られている.因みに,抗酸化作用をもつ他の生体内物質としては,ビタミン様物質としてコエンザイムQ,リポ酸およびピロロキノリンキノンなどがあり,食事由来では植物ポリフェノールがある.

本総説では抗酸化ビタミン,特にビタミンEとビタミンCを中心に取り上げて,最近のヒト研究の流れをまとめる.

1. 酸素,活性酸素,過酸化脂質

まず,抗酸化作用を議論する前に,酸素・活性酸素・過酸化脂質を簡単に説明する.酸素は酸素分子として存在して,標準状態において,2つのラジカルをもつビラジカル分子であり,反応性が高く,多くの化合物を酸化し,酸化物を作る.ミトコンドリアは電子伝達系で,大量の酸素を消費してATP(アデノシル三リン酸)というエネルギーを産生して代謝水(ヒトにおいて1日0.2–0.3リットル)を創り出す.その際に,97~99%の酸素はエネルギー変換に利用されるが,1~3%の酸素は電子伝達系から漏出した電子を捉えて活性酸素であるスーパーオキサイドに変化する.産生されたスーパーオキサイドは鉄や一酸化窒素(NO,一酸化窒素合成酵素によってアルギニンと酸素から合成される)が存在すると,さらに反応性の高い活性酸素であるヒドロキシラジカル,過酸化水素,パーオキシナイトライトなどに変化し,組織・細胞を障害する.また,活性酸素は,リン脂質や中性脂肪中の不飽和脂肪酸やコレステロールなどの不飽和脂質を酸化して,それらの過酸化物質などを産生する.生理活性のある過酸化物質としては,プロスタグランジン類,ロイコトリエン類,レゾルビン,プロテクチン,オキシコレステロールなどがある(1, 2)1) 有田 誠,磯部洋輔:生化学,80, 1042 (2008).2) W. Kulig, L. Cwiklik, P. Jurkiewicz, T. Rog & I. Vattulainen: Chem. Phys. Lipids, 199, 144 (2016).

2. 生体内における抗酸化ネットワーク

次いで,生体内における酸化促進作用と抗酸化作用のバランスを簡単に述べる.現代社会では,新規な細菌・ウィルス感染,公害の問題,紫外線・放射線暴露,過度のストレスなどの体外要因で,さらに偏食,ダイエット,高齢化などによる栄養不足に由来する抗酸化能の低下,過度の運動によるミトコンドリアからの活性酸素の漏出,白血球からの異常な活性酸素の放出などの体内の要因も加わり,さらに加齢に伴い活性酸素と過酸化脂質が蓄積されて,抗酸化ネットワークが壊れて生体のホメオスタシスが乱れて,種々の不調・疾病を引き起こすリスクが高くなっている(3)3) I. Liguori, G. Russo, F. Curcio, G. Bulli, L. Aran, D. Della-Morte, G. Gargiulo, G. Testa, F. Cacciatore, D. Bonaduce et al.: Clin. Interv. Aging, 13, 757 (2018)..健康な体内では,過剰な活性酸素や過酸化脂質が生じても,種々の抗酸化酵素・抗酸化物質が,酸化還元電位に準じて(マイナスからプラスへ),抗酸化ネットワークを形成して(図1図1■主な生体内物質のネットワーク(数字は酸化還元電位)),活性酸素を処理して,「酸化促進」系と「抗酸化」系のバランスを保っている(4)4) P. T. Krizman, A. Smidovnik, A. G. Wondra, K. Cernelic, D. Kontik, M. Krizman, M. Prosek, M. Volk, A. Holcman & A. N. Svete: J. Biomed. Sci. Eng., 5, 743 (2012)..少量の活性酸素と過酸化脂質は代謝・殺菌・免疫作用にとって必須なものであるが,それらが過剰に産生されると,体内の抗酸化システムがオーバーフローして正常に作動しにくくなる.その結果,酸化促進/抗酸化バランスが酸化促進側に偏り,酸化ストレス(酸化反応が生体に対して悪影響を及ぼしている状態)が亢進して(図2図2■健康状態から酸化ストレス亢進状態への陥入),不調・生活習慣病などの原因となる.なお,生体内の抗酸化ネットワークの防御には,第1次システムと第2次システムがある.第1次システムとしては,活性酸素・過酸化脂質の処理反応速度が大きい酵素(スーパーオキサイドディスムターゼ,グルタチオンペルオキシダーゼ,カタラーゼなど)が働き,第2次システムでは生体内抗酸化物質(グルタチオン,抗酸化ビタミンなど)が担当する.抗酸化ビタミンの中では,体内貯蔵量が大きいビタミンE(体内貯蔵量約3 g)とビタミンC(体内貯蔵量約1.5 g)が主に働く.ビタミンEやビタミンCは,安全域が広く,抗酸化ネットワークの拠点として働くので特に注目されている(5)5) T. Miyazawa, G. C. Burdeos, M. Itaya, K. Nakagawa & T. Miyazawa: IUBMB Life, 71, 430 (2019).

図1■主な生体内物質のネットワーク(数字は酸化還元電位)

図2■健康状態から酸化ストレス亢進状態への陥入

3. 身体の健康と抗酸化ビタミン

抗酸化ビタミンは抗酸化作用を主軸にさまざまな作用をもち,健康維持に必要であるが,ここでは,免疫・脳・歯・心臓・肝臓の健康に絞って,その関連性を中心にまとめる.

免疫と抗酸化ビタミン

現在では,キラーウィルスとして考えられる新型コロナウィルスが世界で蔓延して,主役としてワクチン・治療薬が重要視されているが,身体の免疫を正常に保つビタミンの摂取も大切である.免疫は自然免疫(異物または非自己と同定したすべての物質に対する非特異的防御で「分または時間」単位の短時間反応)と獲得免疫(病原体を同定して分子構造で区別する特異性をもつ日単位の遅延反応)があり,免疫細胞が各ステージで機能を発揮する.ビタミン類は,他の栄養成分と協調して,それぞれの免疫細胞を各ステージで活性化または抑制化をして,免疫を正常に保っている(表1表1■ビタミンによる免疫細胞機能性に対する影響(6)6) 阿部皓一:食品と容器,61, 769 (2020)..免疫と関係が深いビタミンはビタミンC,ビタミンD,ビタミンE,ビタミンA,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸などである.特に注目されているビタミンはビタミンDであり,①抗ウィルスタンパク質産生,②新型コロナウィルスの細胞内侵入阻止作用,③サイトカインストーム抑制作用などの作用を持ち,最近COVID-19の感染率の低下が報告されている(7)7) M. Iddir, A. Brito, G. Dingeo, S. S. F. D. Campo, H. Samouda, M. R. L. Frano & T. Bohn: Nutrients, 12, 1562 (2020)..抗酸化ビタミンでは,ビタミンCやビタミンEが注目され,直接的に免疫細胞に活性化することに加えて,活性酸素の産生を抑えて免疫システムを護って間接的に免疫賦活化している.つまり,①病原体の除去時に発生する過剰の活性酸素・フリーラジカルに対する自己細胞の庇護,②グルタチオンなどの生体内抗酸化物質の復元,③活性酸素・過酸化脂質による免疫細胞障害の保護などを発揮して,免疫の賦活化に寄与している.抗酸化ビタミンとウィルス感染の関係を図3図3■ウィルス感染時の酸化ストレスと免疫システムに示す.ヒト試験において,ビタミンCでは,①高用量投与で①食作用,Tリンパ球活性を上昇され(8)8) S. Maggini, S. Beveridge, P. J. P. Sorbata & G. Senatore: Perspect. Agric. Vet. Sci. Nutr. Nat. Resour., 2, 1 (2008).,②集中治療室の重症患者をより早く治療できる(9)9) H. Hemilä & E. Chalker: Nutrients, 11, 708 (2019).などことが報告され,ビタミンEでは免疫機能全般を改善すし,高齢者で遅延型過敏反応(DTH)応答を増強して抗体価を上昇する(10)10) S. N. Meydani, S. N. Han & D. H. Hamer: Ann. N. Y. Acad. Sci., 1031, 214 (2004).ことなどが報告されている.

表1■ビタミンによる免疫細胞機能性に対する影響
免疫細胞機能性ビタミン
CDAEB6B12FA
NK細胞細胞傷害性
好中球遊走
抗菌ペプチド
食作用
単球・MΦ増殖
化学走性
食作用↑↓
抗菌ペプチド
PGE2
IL-1, TNF-α, IL-6
NF-kB
樹状細胞分化
成熟
MHCII
IL-12
T細胞増殖
IL-2
IFN-γ
DTH応答
Th1細胞
Th2細胞
Treg細胞
B細胞MHCII
活性化
腸管IgA
IgM
抗体価
増殖
↑亢進↓抑制 FA; 葉酸,NK細胞;ナチュラルキラー細胞,MΦ; マクロファージ,PGE2; プラスタグランジンE2, IL-1; インターロイキン1, TNF-α; ガン壊死因子,NF-κB; 核内因子κB, MHCII; 主要組織適合抗原クラスII, IFN-γ; インターフェロンγ, DTH応答;遅延型過敏反応応答,Th細胞;ヘルパーT細胞,Treg細胞;制御性T細胞,IgA; イムノグロブリンA

図3■ウィルス感染時の酸化ストレスと免疫システム

脳の健康と抗酸化ビタミン

脳は脂質が多く(全体の約55%),エネルギー代謝も活発であり,酸化ストレスが亢進しやすい臓器である.脳虚血・再灌流・有害物質脳内移行などを繰り返されると活性酸素が多量に生成されて酸化ストレスが亢進し,さまざまな脳神経系疾患のリスクが高まる(11, 12)11) T. Miyazawa: Proc. Jpn. Ser. B., 4, 161 (2021).12) 大澤俊彦,丸山和佳子:“脳内老化制御とバイオマーカー”,シーエムシー出版,2009, p. 141..ここでは,酸化ストレスと関係が深いアルツハイマー病を中心にまとめる.

アルツハイマー病の病因には,β-アミロイドの蓄積,神経原線維形成およびオートファージーの機能不全などがあり,抗酸化ビタミンとの関係をまとめると図4図4■酸化ストレスとアルツハイマー病のようになる.

図4■酸化ストレスとアルツハイマー病

アルツハイマー症の患者は,健常者と比べて,赤血球・脳組織中の過酸化脂質が高く(3, 13)3) I. Liguori, G. Russo, F. Curcio, G. Bulli, L. Aran, D. Della-Morte, G. Gargiulo, G. Testa, F. Cacciatore, D. Bonaduce et al.: Clin. Interv. Aging, 13, 757 (2018).13) M. A. Bradley-Whitman & M. A. Lovell: Arch. Toxicol., 89, 1035 (2015).,抗酸化ビタミンの血漿中濃度も低下している(14)14) S. L. Silva, B. Vellas, S. Elemans, J. Luchsinger, P. Kamphuis, K. Yaffe, J. Sijben, M. Groenendijk & T. Stijnen: Alzheimers Dement., 10, 485 (2014)..特にビタミンEの血漿中濃度を比較すると,非認知症群>軽度認知障害群>アルツハイマー病群の順となり,認知症が進むとビタミンE濃度が低下している(15)15) F. Mangialasche, W. Xu, M. Kivipelto, E. Costanzi, S. Ercolani, M. Pigliautile, R. Cecchetti, M. Baglioni, A. Simmons, H. Soininen et al.; AddNeuroMed Consortium: Neurobiol. Aging, 33, 2282 (2012)..高齢者では,ビタミンCとビタミンEの摂取量の低下がアルツハイマー病のリスクの増加と関連し(16)16) M. C. Morris, L. A. Beckett, P. A. Scherr, L. E. Hebert, D. A. Bennett, T. S. Field & D. A. Evans: Alzheimer Dis. Assoc. Disord., 12, 121 (1998).,ビタミンCとビタミンEの摂取で相乗効果も確認されている(17)17) M. Fotuhi, P. P. Zandi, K. M. Hayden, A. S. Khachaturian, C. A. Szekely, H. Wengreen, R. G. Munger, M. C. Norton, J. T. Tschanz, C. G. Lyketsos et al.: Alzheimers Dement., 4, 223 (2008)..アルツハイマー病に対するビタミンEの効果を検討した大規模介入試験としては,5試験が報告されている(18)18) A. Lloret, D. Esteve, P. Monllor, A. Cervera-Ferri & A. Lloret: Int. J. Mol. Sci., 20, 879 (2019)..認知機能マーカーで評価すると,ビタミンEの低用量投与(400 mg–2000 mg/日)ではアルツハイマーの遅延効果が認められていない.しかしながら,日常生活動作スコアを評価項目にしている高用量投与(2000 mg/日)の2試験では,ビタミンEの遅延効果が認められている.また,日常生活動作スコアの改善と同時に介護時間も減少している.ビタミンCは血液からトランスポーターで脳組織に積極的取り込まれるので,脳内濃度は血漿中濃度の10倍ほど高く,ビタミンCの摂取でアルツハイマー病の予防効果や,不安レベルの低減効果が報告されている(19)19) I. J. L. Oliveira, V. V. Souza, V. Motta & S. L. Da-Silva: Pak. J. Biol. Sci., 18, 11 (2015)..特に喫煙ではビタミンCの消耗が激しいので,喫煙者のアルツハイマー病予防には特に多量のビタミンCが必要となる(20)20) M. J. Engelhart, M. I. Geerlings, A. Ruitenberg, J. C. Swieten, A. Hofman, J. C. M. Witteman & M. M. B. Breteler: JAMA, 287, 3223 (2002).

ビタミンEやビタミンCの高用量投与試験において,認知機能マーカーとは異なった日常生活動作マーカー,介護時間などを指標とするとそれらの効果の期待度は高くなる.脳老化とそれに伴う疾患が酸化ストレスの亢進と関与している可能性があり,抗酸化作用をもつビタミンEとビタミンCなどは脳内老化制御という面で,大切な役割を果たしていると考えられると考えられる.

将来,未病者の血液を採取して,赤血球中の過酸化リン脂質,血漿中のmiRNA濃度(21)21) T. Kiko, K. Nakagawa, T. Tsuduki, K. Furukawa, H. Arai & T. Miyazawa: J. Alzheimers Dis., 39, 253 (2014).またはビタミンE血漿中濃度とMRIの組み合わせ(22)22) F. Mangialasche, E. Westman, M. Kivipelto, J.-S. Muehlboeck, R. Cecchetti, M. Baglioni, R. Tarducci, G. Gobbi, P. Floridi et al.: Intern. Med., 273, 602 (2013).などを測定することで認知症の進行具合などがチェックできるようになる可能性もあるだろう.

パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症患者などの脳神経関連疾患の予防に関しては,非臨床試験,疫学調査では,ビタミンEとビタミンCは有効であることは報告されているが,その介入試験の数は少なく,成績も賛否両論あり,結論には達していない.

歯の健康と抗酸化ビタミン

「ヒトは血管または脚から老いる」といわれているが,「ヒトは歯から老いる」可能性は高い.加齢とともに過酸化脂質が増加して歯周病が発症しやすくなると考えられている(23)23) F. W. M. G. Muniz, S. B. Nogueira, F. L. V. Mendes, C. K. Rösing, M. M. S. M. Moreira, G. M. Andrade & R. S. Carvalho: Arch. Oral Biol., 60, 1203 (2015)..歯周病状態では血液・歯肉溝浸出液・歯肉組織中の過酸化脂質が異常に高いことが報告されている(24, 25)24) K. Panjamurthy, S. Manoharan & C. R. Ramachandran: Cell Mol. Let., 10, 255 (2005).25) C. C. Tsai, H. S. Chen, S. L. Chen, Y. P. Ho, K. Y. Ho, Y. M. Wu & C. C. Hung: J. Periodontal Res., 40, 378 (2005)..その主な原因は,バイオフィルム中の歯周病原菌が常に産生している代謝物・酵素などにより組織が常に破壊されて,酸化ストレスが亢進していることと考えられる(26)26) 落合智子:日本歯周病学会会誌,50, 11 (2008)..歯周病では,歯茎などの細胞の栄養状態が悪く,ビタミンなどが不足・欠乏している.その結果,抗酸化力の低下,細胞のエネルギー代謝の低下などにより,正常な代謝・修復・増殖が出来ず,術後の創傷治癒も遅くなる(27)27) K. Abe, T. Terukina & M. Otsuka: J. Biol-Integr., 7, 115 (2017)..歯周病とビタミンの関係をまとめると図5図5■酸化ストレスと歯周病のようになる.抗酸化ビタミンであるβ-カロテン,ビタミンC,ビタミンEの血中濃度が低いと歯周病になりやすく,抗酸化ビタミンの摂取により,歯周ポケットが改善されたことが報告されている(28)28) S. Najeeb, M. S. Zafar, Z. Khurshid, S. Zohaib & K. Almas: Nutrients, 8, 530 (2016)..システマティックレビューでは,ビタミンCの摂取・血中濃度と歯周病との間に負の相関があり(29)29) A. Tada & H. Miura: Int. J. Environ. Res. Public Health, 16, 2472 (2019).,ビタミンEとリコペンの摂取でも歯周病が改善し(23)23) F. W. M. G. Muniz, S. B. Nogueira, F. L. V. Mendes, C. K. Rösing, M. M. S. M. Moreira, G. M. Andrade & R. S. Carvalho: Arch. Oral Biol., 60, 1203 (2015).,歯周病治療をすると,歯肉浸出液・唾液で酸化ストレスが軽減する(30)30) J. C. Silva, F. W. M. G. Muniz, H. J. R. Oballe, M. Andrades, C. K. Rösing & J. Cavagni: J. Clin. Periodontol., 45, 1222 (2018).ことが報告されている.

図5■酸化ストレスと歯周病

心臓の健康と抗酸化ビタミン

心脈管系疾患は主として心筋細胞に栄養を送っている冠動脈などの動脈硬化によって発症する.古くは,コレステロールが動脈硬化の促進因子であると考えてられていたが,酸化LDL(酸化障害をうけた低密度タンパク質,つまり酸化された悪玉コレステロール)であるというBeyond Cholesterol仮説が発表されている.本仮説には賛否両論があるが,抗酸化ビタミンにより,動脈硬化の進行が抑制される成績も得られているので,酸化ストレスが動脈硬化の主たる原因の一つとして考えられている(31)31) D. Steinberg: J. Lipid Res., 50(Suppl), S376 (2009)..ビタミンEやビタミンCの抗動脈硬化効果のメカニズムはLDLの酸化抑制作用,血管内皮細胞への白血球の吸着阻害,内皮細胞機能不全と考えられている(32)32) A. C. Carr, B. Z. Zhu & B. Frei: Circ. Res., 87, 349 (2000)..酸化ストレスと心疾患との関係をまとめると図6図6■心疾患と酸化ストレスのようになる(33)33) 国友 勝:薬学雑誌,127, 1997–2014 (2007).

図6■心疾患と酸化ストレス

ビタミンEの効果は,抗酸化力が低い群(タンパク質ハプトグロビン遺伝子多型2-2型群や末期腎不全患者群など)で明確である(34, 35)34) I. Hochberg, E. M. Berinstein, U. Milman, C. Shapira & A. P. Levy: Curr. Diab. Rep., 17, 42 (2017).35) M. Boaz, S. Smetana, T. Weinstein, Z. Matas, U. Gafter, A. Iaina, A. Knecht, Y. Weissgarten, D. Brunner, M. Fainaru et al.: Lancet, 356, 1213 (2000)..つまり,抗酸力が弱い集団ではビタミンEが心脈管系疾患を予防する可能性が高いと言える.

ビタミンCまたはカロテノイドと心脈関係疾患との間では,食事由来の摂取量の増加または血中濃度の上昇により心脈関係疾患の発症リスクを軽減している(36)36) D. Aune, N. Keum, E. Giovannucci, L. T. Fadnes, P. Boffetta, D. C. Greenwood, S. Tonstad, L. J. Vatten, E. Riboli & T. Norat: Am. J. Clin. Nutr., 108, 1069 (2018).

肝臓の健康と抗酸化ビタミン

肝臓は生体内の化学工場といわれる臓器であり,生体内代謝の中心であり,その代謝過程で,活性酸素を多量に産生する.亢進した酸化ストレス状態が長期間継続すると,正常な肝臓は,非アルコール性脂肪性肝(NAFL),非アルコール性肝炎(NASH),肝硬変,肝がんとなり,肝障害・肝疾患が進行していく(図7図7■肝疾患と抗酸化ビタミンの機能).肝硬変や肝がんは不可逆であり,元に戻らないが,非アルコール性肝疾患(NAFLD)のNAFLとNASHは,可逆的であるので,その予防・治療に抗酸化ビタミンの作用が注目されている.うっ血性肝疾患患者では対照群と比較して,血中のビタミンA,ビタミンE,総カロテン,ルテイン,ゼアキサンチン,α-カロテンとβ-カロテン濃度が低いことが報告されている.初期ステージの肝疾患患者が抗酸化物質の血漿濃度が低いことは,脂溶性ビタミンの吸収が悪い可能性もあり,サプリメントからの十分な摂取が有用と考えられる(37)37) A. Florean, A. Baragiotta, D. Martines & A. D’Odorico: Aliment. Pharmacol. Ther., 14, 353 (2000)..NASH患者にビタミンE投与すると,肝細胞障害マーカーである血中アラニントランスフェラーゼ(ASTまたはGPT)値とアスパラギン酸トランスフェラーゼ(ALTまたはGOT)値が改善されて,NASHの肝病理形態である脂肪肝,小葉の炎症,バルーン形成が軽減される(38)38) A. J. Sanyal, N. Chalasani, K. V. Kowdley, A. McCullough, A. M. Diehl, N. M. Bass, B. A. Neuschwander-Tetri, J. E. Lavine, J. Tonascia, A. Unalp et al.; NASH CRN: N. Engl. J. Med., 362, 1675 (2010)..ビタミンCについては,肥満と血漿中ビタミンC濃度の低下と負の相関があり,NAFLDやNASHはビタミンC不足状態で進展する.NAFLD患者にビタミンC,ビタミンEなどの抗酸化ビタミンを投与すると,肝障害マーカーが減少し,脂肪肝の進行が抑制する(39)39) D. H. Ipsen, P. Tveden-Nyborg & J. Lykkesfeldt: Nutrients, 6, 5473 (2014)..なおNAFLD/NASH診療ガイドライン2020には「NASH患者においてビタミンE投与が血液の生化学検査と肝組織を改善させるために投与することを提案する」ことが記載されている.

図7■肝疾患と抗酸化ビタミンの機能

その他の疾患と抗酸化ビタミン

従来,がんは酸化ストレスと関係が深く,抗酸化物質の効果が期待され,抗酸化ビタミン(β-カロテンとビタミンE)投与で肺がんの予防を検討した大規模試験が行われたが,抗酸化ビタミンの効果は確認されていない(40)40) D. Albanes, O. P. Heinonen, J. K. Huttunen, P. R. Taylor, J. Virtamo, B. K. Edwards, J. Haapakoski, M. Rautalahti, A. M. Hartman & J. Palmgren: Am. J. Clin. Nutr., 62(Suppl), 1427S (1995)..その後も,賛否両論の議論があり,混迷が深まっている.抗酸化作用で細胞を護る機構は正常細胞と同時に癌細胞も守る可能性があるので,予防効果には期待できるが,治療効果には問題が残る可能性がある.最近では,ビタミンEの同族体であるトコトリエノールが腫瘍性血管新生抑制,テロメナーゼ活性抑制作用などで抗がん物質として注目されている(41, 42)41) T. Miyazawa, A. Shibata, P. Sookwong, Y. Kawakami, T. Eitsuka, A. Asai, S. Oikawa & K. Nakagawa: J. Nutr. Biochem., 20, 79 (2009).42) T. Eitsuka, N. Tatewaki, H. Nishida, K. Nakagawa & T. Miyazawa: Int. J. Mol. Sci., 17, 1605 (2016).

また,健康寿命と関係することで注目されているフレイル状態でも体内の酸化ストレスが亢進しており(43)43) P. Soysal, A. T. Isik, A. F. Carvalho, B. S. Fernandes, M. Solmi, P. Schofield, N. Veronese & B. Stubbs: Maturitas, 99, 66 (2017).,他の栄養素とともに,抗酸化ビタミンの血漿中濃度が低下している(44)44) K. Tamaki, H. Kusunoki, S. Tsuji, Y. Wada, K. Nagai, M. Itoh, K. Sano, M. Amano, H. Maeda, Y. Hasegawa et al.: Nutrients, 10, 1982 (2018).

加えて,関節炎,糖尿病,不妊症などの酸化ストレスが亢進している疾患に対する抗酸化ビタミンの有用性が検討されている(45, 46)45) P. Rajendran, N. Nandakumar, T. Rengarajan, R. Palaniswami, E. N. Gnanadhas, U. Lakshminarasaiah, J. Gopas & I. Nishigaki: Clin. Chim. Acta, 436, 332 (2014).46) A. Majzoub & A. Agarwal: Arab J. Urol., 16, 113 (2018).

終わりに

人類は酸素を利用してエネルギーを産生し生命活動をしている限り,酸化ストレスに晒されている.特に,現代社会は,図8図8■酸化ストレス疾患と抗酸化ビタミンで示したように種々のトリガーで酸化ストレス亢進状態に陥入している.亢進した酸化ストレスは疾患の発症・重症化に大きく関与している.酸化ストレスを軽減するために,身体は抗酸化酵素・抗酸化物質などの抗酸化力で対抗しているが,抗酸化力は栄養状態,摂取条件,遺伝子多型,加齢などで,大きく変動する.その結果,抗酸化ビタミンのヒトにおける効果には賛否両論がある.酸化ストレスが亢進して,体内の抗酸化力が欠乏している母集団では,比較的良い成績が得られている.最適な状態であれば,抗酸化ビタミンは,抗酸化ネットワークの司令塔として,身体の抗酸化酵素やグルタチオンなどの抗酸化物質と連携して,酸化ストレスを軽減し,細胞内情報伝達を正常にして,種々の疾患に対する抵抗性を保つことができる可能性がある.「私たちの身体は私たちが食べたもので出来ている(You are what you eat.)」ことを再認識して,適切に抗酸化食品・サプリメントなどを摂取して,不調・疾患を予防することが大切である.

図8■酸化ストレス疾患と抗酸化ビタミン

Reference

1) 有田 誠,磯部洋輔:生化学,80, 1042 (2008).

2) W. Kulig, L. Cwiklik, P. Jurkiewicz, T. Rog & I. Vattulainen: Chem. Phys. Lipids, 199, 144 (2016).

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4) P. T. Krizman, A. Smidovnik, A. G. Wondra, K. Cernelic, D. Kontik, M. Krizman, M. Prosek, M. Volk, A. Holcman & A. N. Svete: J. Biomed. Sci. Eng., 5, 743 (2012).

5) T. Miyazawa, G. C. Burdeos, M. Itaya, K. Nakagawa & T. Miyazawa: IUBMB Life, 71, 430 (2019).

6) 阿部皓一:食品と容器,61, 769 (2020).

7) M. Iddir, A. Brito, G. Dingeo, S. S. F. D. Campo, H. Samouda, M. R. L. Frano & T. Bohn: Nutrients, 12, 1562 (2020).

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9) H. Hemilä & E. Chalker: Nutrients, 11, 708 (2019).

10) S. N. Meydani, S. N. Han & D. H. Hamer: Ann. N. Y. Acad. Sci., 1031, 214 (2004).

11) T. Miyazawa: Proc. Jpn. Ser. B., 4, 161 (2021).

12) 大澤俊彦,丸山和佳子:“脳内老化制御とバイオマーカー”,シーエムシー出版,2009, p. 141.

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