セミナー室

日本人のビタミンD不足・欠乏の実態骨および種々の疾患リスクとの関連

Naoko Tsugawa

津川 尚子

大阪樟蔭女子大学健康栄養学部健康栄養学科

Published: 2021-12-01

はじめに

栄養素として摂取されたビタミンDは,体内で2段階の代謝を受けて活性型ビタミンDとなりCa代謝調節などの生理作用を発揮する.また,活性型ビタミンDの前駆物質であり重要な栄養指標となる25-ヒドロキシビタミンD(25OHD)の血中レベルが骨代謝や心血管系,免疫系,脂質代謝に影響し,最近ではCOVID-19の重症化に関与する可能性も報告されている.血中25OHD濃度を指標とするビタミンDの栄養状態は,充足・不足・欠乏で評価され,近年は潜在的な不足・欠乏の頻度が高くなっている.本項では,日本人のビタミンD栄養状態の実態とともにビタミンD栄養と疾患リスクについて概説する.

ビタミンDの供給と代謝

食品に含まれるビタミンDには,きのこ類に含まれるビタミンD2と魚類に多く含まれるビタミンD3がある.日本人が摂取するビタミンDはその90%以上は魚から摂取されるビタミンD3であり,他に卵から3%,肉類から1.7%,きのこ類から摂取されるビタミンD2は4.4%である(1)1) K. Nakamura, M. Nashimoto, Y. Okuda, T. Ota & M. Yamamoto: Nutrition, 18, 415 (2002)..一方,生体内ではプロビタミンD3である7-デヒドロコレステロール(7-DHC)が皮膚に存在し,これに日光の紫外線が照射されるとステロイド骨格B環が開裂し,プレビタミンD3となり熱異性化を経てビタミンD3が生成する.

皮膚および食事から供給されたビタミンD(ビタミンD2, D3を含む)は肝臓の25位水酸化酵素により代謝され,その大部分が25OHDとなる.25OHDはビタミンD結合蛋白質(DBP)と結合して血中を循環し,腎臓で1α位水酸化酵素(CYP27B1)によって活性型である1α,25-ジヒドロキシビタミンD[1,25(OH)2D]に代謝され,核内のビタミンD受容体(VDR)との結合を介して生理作用を発揮する(図1図1■ビタミンDの供給と代謝).25OHDはビタミンDの栄養状態を最もよく反映し,血中半減期が約3週間と長い.通常,10~30 ng/mL付近の濃度で血中に存在する.一方,1,25(OH)2Dはカルシウムやリンの血中濃度に応じてPTH,線維芽細胞増殖因子23(FGF23)などのカルシウム・リン代謝調節ホルモンによって厳密に産生調節され,血中半減期は約1日と短く,血中濃度は約50 pg/mL付近に調節される.ビタミンDの活性本体は1,25(OH)2Dであるが,栄養指標である25OHDの血中濃度低下は血中1,25(OH)2D濃度やカルシウム濃度の低下を伴わずにして血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を上昇させ,破骨細胞を刺激することによって骨吸収を促進させる方向に働く.

図1■ビタミンDの供給と代謝

ビタミンDの基本的な生理作用と作用発現機構

ビタミンDの主な生理作用は,VDRを介した1,25(OH)2Dの作用である(2)2) M. R. Haussler, G. K. Whitfield, I. Kaneko, C. A. Haussler, D. Hsieh, J. C. Hsieh & P. W. Jurutka: Calcif. Tissue Int., 92, 77 (2013)..VDRはほぼ全身の組織に検出され,その作用は小腸・腎臓・骨を標的組織としたCa代謝調節作用にとどまらず,さまざまな組織における細胞増殖・分化調節作用,免疫調節作用(3)3) F. Sassi, C. Tamone & P. D’Amelio: Nutrients, 10, 1656 (2018).,骨格筋機能(4)4) B. Dawson-Hughes: J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 173, 313 (2017).,血圧調節作用,心血管系疾患の関与など多岐にわたる(graphical abstract参照).

1,25(OH)2Dは,核内でVDRと結合したのちにレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体(VDR/RXR)を形成し,染色体DNA上のビタミンD応答配列(vitamin D response element: VDRE)と結合する.この結合によって,活性型ビタミンD依存的にヒストン修飾酵素複合体やコアクチベーター複合体がリクルートされ,転写促進によりビタミンD依存性蛋白質が合成される.小腸や腎臓の細胞質内Ca輸送を担うCalbindin-D9k,Calbindin-D28kや刷子縁膜に局在するTransient receptor potential vanilloid subfamily member 6(TRPV6)とTRPV5は典型的なビタミンD依存性蛋白質で,これらの発現を介して能動的Ca輸送を促進する.骨芽細胞ではODF/RANKL(osteoclast differentiation factor/receptor activator of NF-κB ligand)の発現が促進され,破骨細胞の分化・成熟を促す.ビタミンD依存的な転写調節にはPTHやCYP27B1にみられるような負の制御もあり,エピゲノム制御にも関与する.

一方,25OHDは活性型ビタミンDではないが,25OHDのPTH分泌抑制作用や骨折・転倒予防,心血管系・免疫系疾患などとの関係が疫学研究で数多く報告されている.25OHDの作用メカニズムついては,局所に存在するCYP27B1による活性化の関与が有力と考えられるが,VDRを介さない新たなメカニズムも報告されている(5)5) L. Asano, M. Watanabe, Y. Ryoden, K. Usuda, T. Yamaguchi, B. Khambu, M. Takashima, S. I. Sato, J. Sakai, K. Nagasawa et al.: Cell Chem. Biol., 24, 207 (2017).

ビタミンDの栄養状態を判定する指針

日本骨代謝学会,日本内分泌学会による「ビタミンD不足・欠乏の判定指針」では,米国内分泌学会のガイドラインなどに準じて,比較的軽度のビタミンD非充足状態をビタミンD不足(vitamin D insufficiency),さらに進んだビタミンD非充足状態をビタミンD欠乏(vitamin D deficiency)と呼び,以下に示す判定基準(「診断基準」ではない)が提案された(6)6) R. Okazaki, K. Ozono, S. Fukumoto, D. Inoue, M. Yamauchi, M. Minagawa, T. Michigami, Y. Takeuchi, T. Matsumoto & T. Sugimoto: J. Bone Miner. Metab., 35, 1 (2017)..1.血中25OHD濃度30 ng/mL以上をビタミンD充足状態と判定する.2.血中25OHD濃度30 ng/mL未満をビタミンD非充足状態と判定する.さらに,a)血中25OHD濃度が20 ng/mL以上30 ng/mL未満をビタミンD不足,b)血中25OHD濃度20 ng/mL未満をビタミンD欠乏と判定する(図2図2■血清25OHD濃度とビタミンD充足度および骨・ミネラル関連事象の関係).

図2■血清25OHD濃度とビタミンD充足度および骨・ミネラル関連事象の関係

文献6)より引用

日本人のビタミンD栄養状態

欧米のランダム化比較試験(11試験4383名)のメタ解析では,ベースラインの血中25OHD濃度は24%が12 ng/mL未満,62%が20 ng/mL未満(欠乏),88%が30 ng/mL未満(不足)(7)7) H. A. Bischoff-Ferrari, W. C. Willett, E. J. Orav, P. Lips, P. J. Meunier, R. A. Lyons, L. Flicker, J. Wark, R. D. Jackson, J. A. Cauley et al.: N. Engl. J. Med., 367, 40 (2012).であり,半数以上は欠乏領域に入る.最近の日本人においても成人の血中25OHD濃度は平均的に20 ng/mL付近かそれ以下にある場合がほとんどである(8~10)8) J. Tamaki, M. Iki, Y. Sato, E. Kajita, H. Nishino, T. Akiba, T. Matsumoto & S. Kagamimori & JPOS Study Group: Osteoporos. Int., 28, 1903 (2017).9) H. Ohta, T. Kuroda, N. Tsugawa, Y. Onoe, T. Okano & M. Shiraki: J. Bone Miner. Metab., 36, 620 (2018).10) A. Kuwabara, N. Tsugawa, K. Mizuno, H. Ogasawara, Y. Watanabe & K. Tanaka: J. Bone Miner. Metab., 37, 854 (2019)..骨粗鬆症患者や日照の曝露機会が非常に乏しい施設入所高齢者ではさらにビタミンD欠乏頻度が高く(11, 12)11) A. Kuwabara, N. Tsugawa, K. Tanaka, M. Fujii, N. Kawai, S. Mukae, Y. Kato, Y. Kojima, K. Takahashi, K. Omura et al.: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 55, 453 (2009).12) A. Kuwabara, M. Himeno, N. Tsugawa, M. Kamao, M. Fujii, N. Kawai, M. Fukuda, Y. Ogawa, S. Kido, T. Okano et al.: Asia Pac. J. Clin. Nutr., 19, 49 (2010)..また,妊婦においても平均血中25OHD濃度10 ng/mLであることや季節間変動が緩やかになっていることが報告されている(13, 14)13) M. Shiraishi, M. Haruna, M. Matsuzaki & R. Murayama: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 60, 420 (2014).14) H. Yoshikata, N. Tsugawa, Y. Watanabe, T. Tsuburai, O. Chaki, F. Hirahara, E. Miyagi, H. Sakakibara, K. Uenishi & T. Okano: J. Bone Miner. Metab., 38, 99 (2020)..約30年前の日本人の血中25OHD濃度には明らかな季節変動があり,平均値として冬で約15 ng/mL,夏では30 ng/mLを超えていた(15)15) T. Kobayashi, T. Okano, S. Shida, K. Okada, T. Suginohara, H. Nakao, E. Kuroda, S. Kodama & T. Matsuo: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 29, 271 (1983).が,近年の日本人のビタミンD栄養の低下は食生活だけでなく夏季の日光曝露からのビタミンD供給をも疑わせるものである.母親のビタミンD栄養状態は,臍帯血や母乳中のビタミンDあるいは25OHD濃度に影響する.このことから,筆者らは1989年と2016–2017年の母乳中ビタミンD濃度をLC-MS/MS法で同時分析したところ,2016–2017年の夏季のビタミンD3および25OHD3の母乳中濃度は1989年の1/2程度にまで低下していることが明らかになった(図3図3■母乳中ビタミンD3および25OHD3濃度の経年比較(16)16) N. Tsugawa, M. Nishino, A. Kuwabara, H. Ogasawara, M. Kamao, S. Kobayashi, J. Yamamura & S. Higurashi: Nutrients, 13, 573 (2021)..オゾンホールの発見から日光紫外線の影響が危惧されるようになり,1998年には母子手帳から日光浴推奨の記載が無くなった.これによりビタミンD栄養に配慮する妊婦・授乳婦が少なくなり,むしろ現在では乳児に対しての紫外線回避対策を積極的に行う母親も増え,時代の変化がビタミンD栄養の低下を招く一因になっていると推察される.成長期のビタミンD栄養状態はカルシウム摂取量とともに骨密度にも影響を与える(17)17) N. Tsugawa, K. Uenishi, H. Ishida, R. Ozaki, T. Takase, T. Minekami, Y. Uchino, M. Kamao & T. Okano: J. Bone Miner. Metab., 34, 464 (2016)..思春期男女の血中25OHD濃度は食事摂取基準の目安量以上のビタミンDを平均的に摂取していても(約10 µg/日),男子で平均24 ng/mL,女子で平均21 ng/mLであり,ビタミンD欠乏頻度は男子でも30%,女子では47%と約半数に上る(17)17) N. Tsugawa, K. Uenishi, H. Ishida, R. Ozaki, T. Takase, T. Minekami, Y. Uchino, M. Kamao & T. Okano: J. Bone Miner. Metab., 34, 464 (2016).

図3■母乳中ビタミンD3および25OHD3濃度の経年比較

文献16)より引用,改変

ビタミンDと骨

血清25OHD濃度低下が骨吸収を亢進させる血中PTH濃度上昇や骨密度低下,骨折と関連することは数多く報告されている.日本人を対象とした研究では,Yokogoshi研究において頸部骨密度と血清25OHD濃度が正相関することが示され,20 ng/mL未満群は28 ng/mL以上群に比べて骨粗鬆症域になる対象が多くなる(18)18) K. Nakamura, N. Tsugawa, T. Saito, M. Ishikawa, Y. Tsuchiya, K. Hyodo, K. Maruyama, R. Oshiki, R. Kobayashi, M. Nashimoto et al.: Bone, 42, 271 (2008)..一方,長野県の閉経後女性における平均追跡期間7.2年間のコホート研究では,血清25OHD濃度25 ng/mL以上群に対する25 ng/mL未満群の長管骨骨折に対する相対危険度は2.20となり,骨粗鬆症性骨折リスクを増加させることが示された(19)19) S. Tanaka, T. Kuroda, Y. Yamazaki, Y. Shiraki, N. Yoshimura & M. Shiraki: J. Bone Miner. Metab., 32, 514 (2014)..思春期男女においても25OHD濃度が20 ng/mL以上群の踵骨骨量は20 ng/mL未満群より有意に高く,さらに推奨量以上のカルシウム摂取量を摂取しているか否かで女子の踵骨骨量は大きく影響されることから,ビタミンD栄養の適正な維持はどのライフステージにおいても重要であることがわかる(17)17) N. Tsugawa, K. Uenishi, H. Ishida, R. Ozaki, T. Takase, T. Minekami, Y. Uchino, M. Kamao & T. Okano: J. Bone Miner. Metab., 34, 464 (2016).

転倒予防・骨格筋におけるビタミンDの役割

転倒は高齢者において頻繁に起こる骨折の重要なリスク因子である.転倒の原因は,平衡維持機能や神経筋機能の低下であり,それの機能低下は加齢や認知症をはじめとする疾患,薬剤服用や栄養低下が原因となる.ビタミンD不足も転倒と関連する一要因でビタミンDはVDRを介して直接的に筋力に影響することが報告され(20, 21)20) H. A. Bischoff-Ferrari, M. Borchers, F. Gudat, U. Dürmüller, H. B. Stähelin & W. Dick: J. Bone Miner. Res., 19, 265 (2004).21) H. Glerup, K. Mikkelsen, L. Poulsen, E. Hass, S. Overbeck, H. Andersen, P. Charles & E. F. Eriksen: Calcif. Tissue Int., 66, 419 (2000).,重度のビタミンD欠乏症では,筋力低下と筋肉痛があり(22)22) G. D. Schott & M. R. Wills: Lancet, 1, 626 (1976).,ビタミンD補給によって回復する(21)21) H. Glerup, K. Mikkelsen, L. Poulsen, E. Hass, S. Overbeck, H. Andersen, P. Charles & E. F. Eriksen: Calcif. Tissue Int., 66, 419 (2000)..高齢者のビタミンD栄養に関する研究においてビタミンD補給が筋力の増加と機能,平衡機能の維持に働き,転倒リスクの減少につながることを報告している(22~25)22) G. D. Schott & M. R. Wills: Lancet, 1, 626 (1976).23) H. A. Bischoff, H. B. Stähelin, W. Dick, R. Akos, M. Knecht, C. Salis, M. Nebiker, R. Theiler, M. Pfeifer, B. Begerow et al.: J. Bone Miner. Res., 18, 343 (2003).24) M. Pfeifer, B. Begerow, H. W. Minne, K. Suppan, A. Fahrleitner-Pammer & H. Dobnig: Osteoporos. Int., 20, 315 (2009).25) M. Pfeifer, B. Begerow, H. W. Minne, C. Abrams, D. Nachtigall & C. Hansen: J. Bone Miner. Res., 15, 1113 (2000)..Bischoff-FerrariらはビタミンD3補給と転倒のメタ解析において,700–1000 IU(17.5–25 µg)/日のビタミンD補給が転倒を19–26%減少させると報告した(26)26) H. A. Bischoff-Ferrari, B. Dawson-Hughes, H. B. Staehelin, J. E. Orav, A. E. Stuck, R. Theiler, J. B. Wong, A. Egli, D. P. Kiel & J. Henschkowski: BMJ, 339(oct01 1), b3692 (2009)..別のメタ解析でもビタミンDの200~1,000 IU/日の摂取は,転倒を14%減少させるとしている(27)27) R. R. Kalyani, B. Stein, R. Valiyil, R. Manno, J. W. Maynard & D. C. Crews: J. Am. Geriatr. Soc., 58, 1299 (2010)..一方,2014年,BollandらはビタミンD補給は15%以上の転倒の減少を起こさないというメタ解析の結果を示している(28)28) M. J. Bolland, A. Grey, G. D. Gamble & I. R. Reid: Lancet Diabetes Endocrinol., 2, 573 (2014)..疫学研究におけるアウトカムとしての「転倒」にはさまざまな要因が絡むことから,その評価は十分に精査されなければならず,さらなる検討が必要と思われる.

一方,転倒に深く関与すると考えられる骨格筋の増殖分化にビタミンDが関与することが,骨格筋細胞C2C12やVDR遺伝子欠損マウスを用いた基礎研究で報告されている.筋細胞のVDRは腎臓や小腸の細胞に比べると非常にわずかにしか発現していないが,GirgisらはC2C12に発現するVDRがビタミンD依存的に応答し,25OHDと1,25(OH)2Dが共にC2C12の増殖,分化と筋サイズを調節することを報告している(29)29) C. M. Girgis, R. J. Clifton-Bligh, N. Mokbel, K. Cheng & J. E. Gunton: Endocrinology, 155, 347 (2014)..また,ビタミンDによるC2C12のRbタンパク質のリン酸化抑制およびmyostatin低下による筋管の横断面の増加が観察された(29)29) C. M. Girgis, R. J. Clifton-Bligh, N. Mokbel, K. Cheng & J. E. Gunton: Endocrinology, 155, 347 (2014)..筋力とビタミンDの関係については,末期腎臓病(ESRD)患者の筋力が年齢,性別と独立して血25OHD濃度と関連する報告がある(30)30) N. Zahed, S. Chehrazi & K. Falaknasi: Saudi J. Kidney Dis. Transpl., 25, 998 (2014)..骨格筋の構造・機能に対するビタミンDの影響は非常に興味深いが,いまだ研究数が少なく,さらなる研究結果の蓄積が必要である.

ビタミンDの心血管保護作用(レニン–アンジオテンシン系の関与)

VDRやCYP27B1遺伝子欠損マウスでは,高レニン血症や心肥大が観察され(31, 32)31) Y. C. Li, J. Kong, M. Wei, Z. F. Chen, S. Q. Liu & L. P. Cao: J. Clin. Invest., 110, 229 (2002).32) C. Zhou, F. Lu, K. Cao, D. Xu, D. Goltzman & D. Miao: Kidney Int., 74, 170 (2008).,ヒトVDRを傍糸球体細胞で過剰発現させたトランスジェニックマウスではレニン発現が抑制される(33)33) J. Kong, G. Qiao, Z. Zhang, S. Q. Liu & Y. C. Li: Kidney Int., 74, 1577 (2008).との報告がある.また,健常人において低ビタミンD栄養状態がレニンーアンジオテンシン系(RAS)を活性化させること(34)34) J. P. Forman, J. S. Williams & N. D. Fisher: Hypertension, 55, 1283 (2010).,血液透析患者では活性型VD誘導体が血漿レニン活性を抑制(35)35) J. Kong, G. H. Kim, M. Wei, T. Sun, G. Li, S. Q. Liu, X. Li, I. Bhan, Q. Zhao, R. Thadhani et al.: Am. J. Pathol., 177, 622 (2010).することが報告されている.また,透析前のCKD患者(ステージ3–4)を血中25OHD濃度中央値17.2 ng/mLで2群に分けて比較すると,低ビタミンD栄養群で有意な血圧上昇がみられる(36)36) R. Pillar, M. G. G. Lopes, L. A. Rocha, L. Cuppari, A. B. Carvalho, S. A. Draibe & M. E. Canziani: Hypertens. Res., 36, 428 (2013)..これらのことから,ビタミンDの心血管系保護作用を説明する最も基礎となるメカニズムは,RASの抑制と考えられている.

ビタミンDの抗RAS作用はレニンの発現抑制であり,これを介してビタミンDはアンジオテンシンII(AngII)受容体阻害剤による治療効果を増強する(37)37) W. F. Keane & G. Eknoyan: Am. J. Kidney Dis., 33, 1004 (1999)..また,活性型ビタミンD製剤であるパリカルシトールはACE阻害剤との併用で,5/6腎摘CKDモデルラットにおいて実質細胞への炎症性マクロファージの浸潤を抑制した(38)38) I. H. de Boer, G. N. Ioannou, B. Kestenbaum, J. D. Brunzell & N. S. Weiss: Am. J. Kidney Dis., 50, 69 (2007)..AngIIは血圧上昇とは別に遠位尿細管細胞表面においてメタロプロテアーゼであるTACE(Tumor necrosis alpha converting enzyme, ADAM17)の活性を上昇させる.TACEはTGFαの放出に関与し,受容体EGFRの活性化を介して尿細管過形成,線維化,糸球体硬化,タンパク尿,腎実質細胞における炎症性浸潤を引き起こす.このためTGFα欠損マウスあるいは腎特異的EGFR不活化マウスにTACE阻害剤を用いると,高血圧は発症するものの腎実質細胞におけるこれらの病変は顕著に減少する(39)39) A. Lautrette, S. Li, R. Alili, S. W. Sunnarborg, M. Burtin, D. C. Lee, G. Friedlander & F. Terzi: Nat. Med., 11, 867 (2005)..このことから,AngIIの抑制は,腎臓や血管の炎症性浸潤病変を抑制すると考えられる.ヒトにおいても,TACE/TGFαの活性化は腎臓の傷害に関係することが報告されている(40)40) W. B. Melenhorst, L. Visser, A. Timmer, M. C. van den Heuvel, C. A. Stegeman & H. van Goor: Am. J. Physiol. Renal Physiol., 297, F781 (2009).

栄養的なビタミンDおよび活性型ビタミンDのTACE抑制効果は腎臓および血管の炎症を抑制し,血管病変の進行を抑制するとともに腎保護効果が期待できる.

免疫・感染防御とビタミンD

2006年,LiuらはToll様受容体(Toll like receptor: TLR)を介した細菌感染防御機構において,ビタミンD受容体とCYP27B1の発現誘導が関与することをScienceに報告した(41)41) P. T. Liu, S. Stenger, H. Li, L. Wenzel, B. H. Tan, S. R. Krutzik, M. T. Ochoa, J. Schauber, K. Wu, C. Meinken et al.: Science, 311, 1770 (2006)..彼らの報告では,TLR2/1を刺激する結核菌由来合成リポタンパクでヒトマクロファージを活性化すると,VDRとCYP27B1のmRNAが増加し,細胞内抗菌ペプチドであるカテリシジンの誘導が促進される.アフリカ系アメリカ人の結核菌に対する感受性は白人よりも高く,その原因が血中25OHD濃度の低さにあると推測されていることから,血中25OHD濃度約8 ng/mLのアフリカ系アメリカ人血清と約32 ng/mLの白人血清を培地に添加したところ,白人血清を添加したTLR2/1活性化マクロファージでカテリシジンmRNAが有意に高く誘導された.この報告は,細菌感染防御におけるビタミンDの関与を示唆し,25OHDがマクロファージのCYP27B1によって代謝されて作用することを示す結果でもある.また,臍帯血の25OHDと1,25(OH)2D濃度が正相関し,臍帯血をTLR活性化マクロファージに添加すると臍帯血中の25OHD濃度に依存してカテリシジンmRNA量が変化することや(42)42) V. P. Walker, X. Zhang, I. Rastegar, P. T. Liu, B. W. Hollis, J. S. Adams & R. L. Modlin: J. Clin. Endocrinol. Metab., 96, 1835 (2011).,BCGワクチン接種後の乳児の免疫調節に血中25OHD濃度が関与することが報告され(43)43) M. K. Lalor, S. Floyd, P. Gorak-Stolinska, R. E. Weir, R. Blitz, K. Branson, P. E. Fine & H. M. Dockrell: PLoS One, 6, e16709 (2011).,新生児,乳児においてもビタミンD栄養が感染防御に関与することが示唆されている.ウイルス感染との関係では,ビタミンD3を1200 IU(30 µg)/日補給するとインフルエンザ感染率が有意に低下することや(44)44) M. Urashima, T. Segawa, M. Okazaki, M. Kurihara, Y. Wada & H. Ida: Am. J. Clin. Nutr., 91, 1255 (2010).,呼吸器感染症を頻発する患者に対してビタミンD3 1400 IU(35 µg)/日を補給すると呼吸器感染症への罹患率が23%低下,抗生剤の使用日数が半減することが報告され(45)45) P. Bergman, A. C. Norlin, S. Hansen, R. S. Rekha, B. Agerberth, L. Björkhem-Bergman, L. Ekström, J. D. Lindh & J. Andersson: BMJ Open, 2, e001663 (2012).,呼吸器疾患に関するRCTのメタ解析も行われている(46)46) P. Bergman, A. U. Lindh, L. Björkhem-Bergman & J. D. Lindh: PLoS One, 8, e65835 (2013).

ビタミンDと脂質代謝

脂質代謝の中心的調節因子であるSterol Regulatory Element-binding Protein(SREBP)は,SREBP Cleavage-activating Protein(SCAP)と複合体を形成して小胞体膜上に存在するが,脂質やステロールレベルが低いときはゴルジ体へと移行し,プロテアーゼによるプロセシングを受けて活性型となり脂質生合成に関与する遺伝子発現を促進する(5)5) L. Asano, M. Watanabe, Y. Ryoden, K. Usuda, T. Yamaguchi, B. Khambu, M. Takashima, S. I. Sato, J. Sakai, K. Nagasawa et al.: Cell Chem. Biol., 24, 207 (2017)..また,コレステロール等の生合成産物は,SREBP-SCAP-Insig複合体の形成を促進してネガティブフィードバック機構を働かせる.これに対して,新規のSREBP阻害機構として25OHDがSCAPのプロセッシングとユビキチン化を介してSREBPとSCAPの分解を促進し,脂質合成を阻害することが報告された(5)5) L. Asano, M. Watanabe, Y. Ryoden, K. Usuda, T. Yamaguchi, B. Khambu, M. Takashima, S. I. Sato, J. Sakai, K. Nagasawa et al.: Cell Chem. Biol., 24, 207 (2017)..この作用は1,25(OH)2Dに比べて25OHDのほうが高く,VDRを介さない25OHDの新たな生理的役割を知るうえで非常に重要な知見である.

ビタミンDとがん

ビタミンDが一部のがんのリスクを下げる可能性が国立がん研究センターより発表された(47)47) S. Budhathoki, A. Hidaka, T. Yamaji, N. Sawada, S. Tanaka-Mizuno, A. Kuchiba, H. Charvat, A. Goto, S. Kojima, N. Sudo et al.; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group: BMJ, 360, k671 (2018)..この研究では,対象者(n=4044)を血中25OHD濃度4分位で分け,平均15年間追跡された.各群の血中25OHD濃度中央値は,最低位群14.8 ng/mL,第2位群19.4 ng/mL,第3位群22.8 ng/mL,最高位群29.0 ng/mLであり,25OHD濃度の最高位群は最低位群と比較して全がんリスクが22%低く,部位別リスク評価では最高位群の肝がん発症リスクは最低位群に比べて55%低いことが示されている.

ビタミンDとCOVID-19

2020年以降,ビタミンDとCOVID-19感染予後に関する論文が数多く発表されている.Charoenngamらは,65歳以上のCOVID-19入院患者のビタミンD充足状態(血中25(OH)D濃度≥30 ng/mL以上)は,交絡因子調整後の多変量解析において死亡率,急性呼吸器症状,重症敗血症/敗血症性ショックの低下と有意に関連したことを報告している(48)48) N. Charoenngam, A. Shirvani, N. Reddy, D. M. Vodopivec, C. M. Apovian & M. F. Holick: Endocr. Pract., 27, 271 (2021)..興味深いことに65歳以上やBMI 30 kg/m2未満の対象者では,ビタミンDの栄養状態と死亡率低下に有意な関連がみられたものの,65歳未満またはBMI 30 kg/m2以上のグループでは有意な関連は見られない.一方,ShahらはCOVID-19による「集中治療室(ICU)での治療」と「死亡」に対するビタミンD経口補給効果をメタ解析した結果,3つの研究(ランダム化比較試験2件,症例対照研究1件)における入院患者532人(ビタミンD補給189人,通常ケア/プラセボ343人)のうち,ビタミンD補給群は補給なし群に比べてICUでの治療率が低かったと報告している(49)49) K. Shah, D. Saxena & D. Mavalankar: QJM, 114, 175 (2021)..ただし,これらの研究にも不均一性があり,死亡率ではビタミンD補給効果は認められていない.また,解析に加えた研究数が少ないため用量・期間依存的効果の評価もされていない.一方でビタミンDの効果を否定する報告もあり(50~52)50) C. E. Hastie, J. P. Pell & N. Sattar: Eur. J. Nutr., 60, 545 (2021).51) B. Szeto, J. E. Zucker, E. D. LaSota, M. R. Rubin, M. D. Walker, M. T. Yin & A. Cohen: Endocr. Res., 46, 66 (2021).52) E. Cereda, L. Bogliolo, C. Klersy, F. Lobascio, S. Masi, S. Crotti, L. De Stefano, R. Bruno, A. G. Corsico, A. Di Sabatino et al.; NUTRI-COVID19 IRCCS San Matteo Pavia Collaborative Group: Clin. Nutr., 40, 2469 (2021).,疫学研究からの結果の確実性はいまだ乏しく一貫した結論を得るには至っていない.

ビタミンDとCOVID-19の重症化予防のメカニズムには,自然免疫の活性化や獲得免疫におけるTh2/Th1バランス調節,レニン・アンジオテンシン系への影響などが考えられている.重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は,細胞膜上のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)との結合を介して宿主細胞に侵入する(53)53) R. Lu, X. Zhao, J. Li, P. Niu, B. Yang, H. Wu, W. Wan, H. Song, B. Huang, N. Zhu et al.: Lancet, 395, 565 (2020)..ACE2は膜タンパクでありAng IIをAng1–7に変換して不活化する酵素である.SARS-CoV-2感染によりACE2の発現が低下すると,結果としてAng IIが増加し,血管内皮障害や炎症性サイトカインストームを招いて急性呼吸促迫症候群(Acute respiratory distress syndrome ARDS)への進展を促進する.また,Ang1–7はNADPHオキシダーゼによる活性酸素種(ROS)の減少に寄与し,抗炎症に働く.マウスへのビタミンD投与実験では,ビタミンDがACE2の発現を促進し(54)54) J. Xu, J. Yang, J. Chen, Q. Luo, Q. Zhang & H. Zhang: Mol. Med. Rep., 16, 7432 (2017).,レニンの産生を低下させることが報告されている(55)55) Y. C. Li, G. Qiao, M. Uskokovic, W. Xiang, W. Zheng & J. Kong: J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 89-90, 387 (2004)..これらの報告は,ビタミンDがAngIIの減少を介して血管内皮障害抑制と抗炎症効果を発揮することを期待させる.しかし,逆にACE2に対しては発現抑制を介してウイルス侵入に対する保護効果をもたらすと仮定する報告もあり(56)56) J. F. Arboleda & S. Urcuqui-Inchima: Front. Immunol., 11, 1523 (2020).,一貫した結論は得られていない.

一方,ビタミンDはウイルス感染時の呼吸器上皮細胞における適応免疫応答の抑制を介して免疫調節の役割を果たす可能性が示唆されている(57, 58)57) S. Azrielant & Y. Shoenfeld: Isr. Med. Assoc. J., 19, 510 (2017).58) C. L. Greiller & A. R. Martineau: Nutrients, 7, 4240 (2015)..炎症性サイトカインを分泌するTヘルパー1型(Th1)とB細胞の活性化に役割を持つTヘルパー2型(Th2)の存在比Th2/Th1は過剰な炎症回避に重要であることが知られるが,ビタミンDは分化の方向をTh1細胞からTh2細胞へ移行させることや(59)59) C. Daniel, N. A. Sartory, N. Zahn, H. H. Radeke & J. M. Stein: J. Pharmacol. Exp. Ther., 324, 23 (2008).,炎症性Tヘルパー17型(Th17)の発生を抗炎症性の制御性T細胞(T-reg細胞)に向けることが報告されている(57, 59)57) S. Azrielant & Y. Shoenfeld: Isr. Med. Assoc. J., 19, 510 (2017).59) C. Daniel, N. A. Sartory, N. Zahn, H. H. Radeke & J. M. Stein: J. Pharmacol. Exp. Ther., 324, 23 (2008)..これらは過剰炎症の回避の理由の一つになるが,一方でTh1の低下は獲得免疫応答の低下につながる可能性もある.COVID-19とビタミンDの関係についてはいまだ十分なデータが得られておらず確信を与えるものではないため,今後,疫学データとともに基礎研究によるメカニズム解明が待たれる.

おわりに

潜在的なビタミンD不足・欠乏の状態は気づかぬうちに進行し,骨折リスクとともに各種疾患リスクとなる.日本では経年的なビタミンD栄養低下が危惧され,日光紫外線の積極的な回避や,日光に当たり難い現代の生活スタイルが主な原因となる.2020年以降はCOVID-19の感染対策による自粛生活とマスク着用がビタミンD栄養低下に拍車をかける.よって,魚類の積極的な摂取や適切なサプリメント利用によるビタミンD栄養改善を心がける必要がある.サプリメントを利用する際は,信頼できる製品の利用と指示された用量の遵守が過剰症回避のために必要となる.本稿で紹介したビタミンD欠乏・不足に関連する疾患リスクはいまだ確定的でないものも多いが,これらのリスクを考慮しつつ少なくともビタミンD欠乏(血中25OHD濃度20 ng/mL未満)を回避することはwell-beingにとって重要なことである.

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