Kagaku to Seibutsu 60(1): 38-43 (2022)
バイオサイエンススコープ
食品安全と食品防御食の安全の全体像とHACCP, 食品防御の概観
Published: 2022-01-01
© 2022 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2022 公益社団法人日本農芸化学会
FAO(Food and Agriculture Organization)による食品保障(Food Security)の定義は「活動的で健康な生活に必要な,十分な量の安全かつ栄養のある食品を,すべての人が物理的,経済的にいつでも入手できること」である.食品保障は後述の「食品安全」「食品防御」に加えて,安定的な食糧の確保・組換え作物や放射性物質汚染の安全性など,安全性の有無・毒性の程度の検証を行う.食品安全(Food Safety)は不作為の事故,不注意,手抜きなどで損なわれる食品の安全性の確保を,一方食品防御(Food Defense)では意図的に食品の安全性を脅かす犯罪への対応を行う.
HACCP(ハサップ)とはHazard Analysis and Critical Control Point(ハザード分析と必須管理点)の略称であり,現代社会において科学的に食品の安全性を確保するための優れた管理手法である.安全な食を提供することは食品企業の義務であり,またブランドの毀損を防ぐための自己防衛としても最重要の課題であろう.HACCPの導入は対外的な安全性のアピールにもなり,取引先の確保にもつながっていく.また食のグローバル化が進んでいく中で,海外への食品の輸出にも必須となっている.
HACCPの起源は1960年代,NASAの宇宙食への高度な食品安全の保証への要求から始まった.この場合最終製品の検査による安全確保は実質実行不可能である.なぜならサンプリングに依る病原微生物の検出効率は低く,分布にも偏りがあるためである.この難問の解決のために開発されたのがHACCPである.HACCPでは検査の代わりに製造プロセスをコントロールすることで食品の安全を確保する.具体的には食品製造に関する知識・経験によって「何が失敗の原因となるか」「どうすれば失敗が起きるのか」「どのプロセスで失敗するか」を科学的・論理的に予測し,当該プロセスを適切にコントロールする.不幸にして人類は数多くの食中毒を経験しており,失敗に関する知見は十分に蓄積されている.したがって,起こりやすい(想定しうる)食中毒に対しては予測が可能であり,適切な対策を取ることができる.このように,HACCPは失敗の芽を予測して事前に摘み取る,予防的なシステムである.
このような経緯で誕生したHACCPは,低酸性缶詰,水産食品,食肉食鳥肉,ジュースの製造に応用され,法的な規制にも採用されていった.1997年には,国連Codex委員会によってPRP(後述)とHACCPのガイドラインが発表され(1)1) Codex Alimentarius Food Hygiene Basic Texts Fourth Edition. Available from: https://www.fao.org/3/a1552e/a1552e00.htm, 2009.,安全な食品を製造する手法として国際的な標準となり,欧州では全食品に対し義務化されている.日本は遅れを取っていたが2020年にようやく義務化され(2)2) 厚労省:食品衛生法の改正について(公布:平成30年6月13日)Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197196.html,現在は飲食店から食品製造工場に至るまで,食品製造・調理にかかわるあらゆる業種がその対象となっている.
HACCPは食品製造プロセスにおける工程を管理する手法であり,他にHACCPを支える周辺プログラムも必要である.これを前提条件プログラム(Prerequisite Program, PRP)という.HACCPとPRPの関係についてはR. グラバーニのピラミッドとして図示されることが多い(図1図1■R. グラバーニのピラミッド).PRPは安全な食品を生産するための基礎的な衛生管理のことで,カナダ食品検査局(Canadian Food Inspection Agency, CFIA)の提言が発端となっている.一次生産から製造工場の立地,交差汚染の防止,従業員の衛生管理・教育,輸送に至るまで,製造工程には加えにくい多数の管理項目がある.それらの中でも特に清浄化(クリーニング),衛生化(サニテーション)に重点が置かれている.PRPとHACCPの違いと役割分担を表1表1■PRPとHACCPの比較に示した.
ここに示すようにHACCPは不安定であり,PRPの支えがないと倒れてしまう.PRPはHACCPに必須と言える.この図においてPRPは,最上部の「経営者のコミットメント」および逆三角形で示された「HACCP」以外のすべてを指す.*1ハザード:ここで示されている「ハザード」は,HACCPで集中的に取り扱う「真のハザード」以外の「潜在的なハザード」のことである.潜在的ハザードのコントロールはPRPで行う.*2ペスト:食品安全での「ペスト」とはネズミ,ハエなどの有害小動物を指す.ペストコントロールとはそれらを駆除することである
PRP | HACCP |
---|---|
食品安全を間接的に扱う | 食品安全を直接的に扱う |
複数の生産ライン,工場全体にわたる | 1生産ライン(1製品)に1つの計画 |
比較的重要度が低いハザードを扱う | 起こりやすく,起きた場合の結果が深刻なハザードを扱う |
失敗があっても,食品安全の危害要因になることは滅多にない | 逸脱は食品安全の潜在的な危害要因と考えなければならない |
例)清掃と消毒 | 例)食品の加熱調理 |
HACCPを遂行するには文書化と記録が必須であり,後述の原則1~7を記したHACCP計画書がその中核となる.しかしまずはHACCP計画書を作成する前に準備が必要である.これを前手順という.
任命されたコーディネーターはHACCPチームのメンバーを選定する.人数は6~7人程度が適切で,製造現場に詳しい人や,原料や製造過程,製造機器の清浄化/衛生化,微生物学など,それぞれの分野の知識を備えた人,品質管理やメンテナンスに携わる人に加え,コスト面から助言できるように,経営者側からも1名程度参加することが望ましい.活発な議論を介してそれぞれが長所を活かして弱点を補いあえることが理想的である.
HACCP計画を立てる食品について,特に安全性に関する特徴を記述する(図2図2■製品説明書の例).これはHACCP計画立案の基準になり,チーム内で認識を共有する助けになる.たとえば製品の性格(どのような製品か),また材料と成分については,原料はもちろん副原料や包装材,使用する水等,完成品に含まれないものも記述する.消費期限・賞味期限も明記する.加工・調理の工程についても概略を記述する.
消費者側で加熱してから喫食するのか,それともRTE食品(Ready To Eat,加熱なしでそのまま喫食する食品)なのか.1回で食べきらず残すものか否か.小売向けか,それとも施設向けなのか,等を記述する.対象とする消費者によっても要求される安全性は異なる.健康な一般的消費者を対象とするのか,それとも乳幼児か,高齢者か,免疫不全者を対象とするのか等である.流通についてはどのような方式(常温・冷蔵・冷凍)で輸送するのかを記述する.輸送にかかる時間の分,消費期限・賞味期限も短くなるため,流通範囲についても記述したほうが良い.
すべての原料およびプロセスをブロックで示し,食品製造の流れ(フロー)を具体的に図で示したものである(図3図3■フロー・ダイアグラムの例).フローチャートとも呼ぶ.食材だけでなく加工助剤・副原料・包装材も含め当該食品製造に関係するすべての加工フローを記述する.
フローチャートを製造現場に持っていき,実際の製造プロセスと比較して齟齬や見落としがないかを確認する.
前手順で準備を整えた上でHACCP計画の立案に入る.HACCPの原則は当初はハザード分析とCCPの決定,モニタリングの3つしかなかったが,これまでの検討により,現在は7原則に拡大された.原則1・2で何をどこで,原則3~5で実際にどのようにハザード(後述)をコントロールするかを定め,原則6・7でコントロールの妥当性を証明し記録に残す.
ハザード(Hazard,危害要因)とは,コントロールされずに消費者の口に入った場合,危害を及ぼす可能性のある「モノ」のことである.生物的・化学的・物理的ハザードの3つに分けて考える.食中毒の9割以上は微生物性,つまり生物的ハザードによるものであり,その分析には病原微生物に関する知識が必須となる.化学的ハザードには農薬や包装材の残留有毒化学物質に加え,キノコ毒・フグ毒などの自然毒も含まれる.物理的ハザードは金属片などの口や消化管を傷つける硬質異物が中心となる.
ハザード分析ではフロー・ダイアグラムと製品説明書を元に,まずすべてのステップにおいてハザードを分類しつつ列挙していく.次に挙げられた各ハザードについて,HACCPで取り扱う「真のハザード」とするのか,それともPRPによる対処で十分かを科学的・客観的に検討していく.ここでは食中毒のリスクを起こりやすさ・起こったときの被害の深刻さを掛け合わせて考え,リスクの高いハザードについてはHACCPで取り扱う.
HACCPで扱うと決めたハザードについては,そのステップもしくは,それ以降の加工ステップのいずれかで確実にコントロールする必要がある.このステップをCCP(Critical Control Point,必須管理点)という.たとえば製品に加熱ステップがあるなら,胞子を形成しない有害菌についてはこの加熱ステップがCCPの有力候補であろう.CCPが増えすぎると管理が大変になる.限られたリソースを有効に活用するためにも,CCPはその名の通り必須なものにとどめる.ただしHACCPで扱うと決めた真のハザードについては,必ずそれを受け止める1つ以上のCCPが存在する.
以上原則1・2がHACCPの中核であり,議論のおよそ半分を占める.特にハザードの見落としは致命的なミスとなるため,十分に時間を尽くして検討する.
CCPにおいてハザードをコントロールするためのパラメータ,たとえば加熱条件を何°C以上,何分以上などと科学的根拠をもとに定める.これを許容限界(Critical Limit, CL)という.許容限界は必ずしも数値で示す必要はなく,たとえばアレルゲンや消費期限の表示確認がCCPならば,目視での確認を許容限界にしても良い.
許容限界を定めたら,それが守られていることを監視しなくてはならない.これをモニタリングという.モニタリングにおいては4つの要素(何を・どうやって・どの頻度で・誰が)をあらかじめ定めHACCPプランに記載する.また出荷時および将来の検証のために測定,観察,確認の記録を残す.
モニタリングで監視していたパラメータが許容限界を守れなかったケースは逸脱と呼ばれる.この場合製品の安全性は保証できず,何らかのアクションを取らねばならない.これを是正措置と言い,誰が何をするのか,従業員が取るべき行動をあらかじめ定めて計画書に記載する.是正措置では,逸脱した製品の確実な排除と再発防止に重点が置かれる.
検証ではHACCP計画が正しいものであり,システムが計画通りに運営されているかを科学的・論理的に示す.すなわち「やっていることが正しいか」「やると言ったことをきちんとやっているか」の2つを証明する.前者は計画自体の妥当性の証明であり,妥当性確認またはバリデーションと呼ばれる.後者は間違いや手抜きがなく計画通りにHACCPが実施されているかの検証で,遵守検証と呼ばれる.
CCPにおける検証はi).CCPでのモニタリングと是正措置の記録の確認,ii).測定機器の較正等からなる.前者は出荷する製品が「ハザードをコントロールされて製造された」安全な食品かどうかの確認で,これなしでは製品を出荷できない.後者の較正はCCPで使っている温度計やタイマー等が正しい値を示すために定期的に必要である.その他適宜追加される検証活動としては,モニタリングとは別の方法での妥当性確認があり,たとえば殺菌を温度と時間の測定でモニターしているなら,製品の菌数検査がこれに当たる.またモニタリング担当者が正しい作業しているか観察することなども必要となる.
これに加え,外部の監査官等による検証が行われる.これには計画書も含めHACCPの活動記録のレビュー,現場での査察,妥当性確認の見直しなどが含まれる.監査は1~3年ごとに定期的に行われる.
正確な記録付けとその保管はHACCP計画に必須である.逆に記録がなければ証拠がなく,やってないのと同じとみなされてしまう.モニタリング・是正措置・出荷前検証の記録やPRPの実施記録などが主なものである.目的は第一にHACCP計画が計画通りに行われていることを証明するためであるが,ロット管理の記録としても重要である.日々の記録だけでなく,HACCP計画書やPRPの作業手順書なども,監査の際にすぐに提出できるよう,整理して保存しておく.
HACCPは食品の安全を守る優れた手法であるが,弱点も存在する.一つはサプライチェーンの問題である.食材を供給する業者(川上),自社製品の出荷後の輸送業者や取引相手の顧客(川下)は自分でコントロールできない.川上・川下がしっかりしていないと食品安全が保証できないのである.アレルゲンのコントロールも難しい問題である.HACCP計画は原則1ライン1製品ごとに作成するので,ライン間のアレルゲンの交差接触の防止はPRPで行うしかない.機器の清浄化や衛生化についても,リアルタイムで清浄度のモニタリングが難しい問題があり,PRPで対処することになる.しかし工場環境下で長く生存する病原細菌もいることから,コントロールに不安が残る.
米国では半世紀に渡ってHACCPを行ってきた結果,上記の弱点が明らかになってきた.これらの弱点を埋めるのが米国食品安全強化法(Food Safety Modernization Act, FSMA)で定められた予防コントロール(Preventive Controls, PC)である.本稿では詳細を記述しないが,予防コントロールでは上記のHACCPの弱点をカバーし,より高度な食品安全を実現している.米国に食品を輸出する場合はFSMAの規則である予防コントロールを実施しなくてはならない.また関連の講習を受けるか,一定期間の実務経験を経て資格を得た予防コントロール有資格者(Preventive Controls Qualified Individuals, PCQI)を配置する必要がある.
食品防御は2001年の同時多発テロ以後に急速に広まった概念で,「意図的に食品の安全姓を脅かす犯罪への対応」を目的としている.いっぽう食品安全は「不作為の事故,不注意,手抜きなどで損なわれる食品の安全性の確保」を目指している.どちらも消費者の健康被害を予防するものであるが,意図的であるか不作為であるかが大きく異なっている.食品防御は,米国の食品安全強化法(FSMA)により食品安全規則である予防コントロールと並んで義務化され,米国内の企業だけでなく,米国に輸出する他国の食品企業にも適用される(3, 4)3) Food and Drug Administration: Mitigation Strategies To Protect Food Against Intentional Adulteration. Available from: https://www.federalregister.gov/documents/2016/05/27/2016-12373/mitigation-strategies-to-protect-food-against-intentional-adulteration, 2016.4) 日本貿易振興機構:米国食品安全強化法『意図的な食品不良からの食品防御』に向けたリスク低減策:産業界向けガイダンス案(仮訳).Available from: https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/n_america/us/foods/fsma/201902-fsma_fdp_guide3-202003.pdf, 2020..国際標準化機構(ISO)が発行する食品安全規格で,日本にも取得企業が多いFSSC22000でも食品防御が要求されているが,消費者の健康被害だけでなく,FSMAが対応しない金銭目的の食品偽装(5)5) L. Manning & J. M. Soon: J. Food Sci., 81, R823 (2016).や企業ブランドの失墜にまで対応する.この部分は冒頭に述べたFAOの食品保証からは逸脱する.ここでは,FSMAの食品防御について述べる.
食品防御の手順はHACCPと類似する点が多く,食品防御チームの編成,食品の説明やフローダイアグラムの作成から始まる.フローダイアグラム内の各ステップに沿って,後で述べる基準で脆弱性(vulnerability)を評価してゆく.そして脆弱性が高い場合には,それを低減する緩和戦略(mitigation strategy)を立て,食品防御計画として文書化する.
脆弱性は次の3つの要素から評価される.1.想定される被害者数,2. 攻撃者の食品へのアクセスの可能性,3. 汚染に成功する可能性,の3点である.食品防御は9・11なみのテロへの備えであり,想定する規模は大きい.1では,死者を含む被害者が1万人以上で最高点となる.一度に多数の製品を汚染できる製造工程や保管設備を重点的に監視する.液体の貯蔵タンクは毒物が拡散するので要注意であり,穀物などの固形物では巨大なサイロであっても毒物の拡散は限定的なので監視のランクは低くなる.ほかには大量の原料を混合する工程や多数の製品にコーティングを施す工程などが監視の対象となる.2では,貯蔵タンクに誰でも近づけるか,その投入口には施錠がしてあるかなど,攻撃者が食品に触れることができるかを評価する.3では,攻撃者が食品の前まで来た時に実際に汚染できる可能性であり,周囲に他の従業員がいるか,汚染する十分な時間があるか,などが問題になる.さまざまな毒物が想定されるが,典型的な毒物としてヒトでの半数致死量を40 mgと想定し,たとえば1000人分の40 gを持ち込めるか,それが1000人分の製品に拡散するか,毒物の投入を許すスキがあるか,そういった観点からリスクを評価してゆくのである.
その際考慮に入れる必要があるのが,内部からの攻撃である.米国の諜報機関の調査によれば,食品防御の攻撃者として最も可能性が高いのは内部攻撃者である.したがって,採用時に履歴を調べ,脆弱な工程に新人を従事させない,またそれぞれの従業員に工場内でアクセスできる区域を定め,制服の色を変えて違反を発覚し易くする,などの方策をとる.加えて,ステップや手順に固有の特性も重視される.固有の特性は脆弱性にかかわる因子であり,他の従業員の目に付かない単独での作業,高温のため攻撃者も無傷で毒物を投入できない装置,完全に密閉された装置などである.
各ステップの3要素の脆弱性評価の合計が高い場合には,重大な脆弱性を有すると判定され,実施可能なプロセスステップ(APS: Actionable Process Step)として,脆弱性を緩和する戦略を実施することになる.
緩和戦略は,脆弱性を許容できるレベルにまで低下させる合理的な対策である.緩和戦略の多くは意図的な汚染の完璧な防止はできず,そのため食品安全のようにコントロールという言葉は使わず,「緩和」という表現になる.緩和には3つの要素の点数を下げることが有効であるが,「被害者数を減らす」ことは,貯蔵や加工の工程の規模を縮小することを意味し,大量生産をしている工場では取りづらいことが多い.そのため,攻撃者の食品へのアクセス可能性,および汚染が成功する可能性を下げる戦略が中心となる.貯蔵タンクのハッチに施錠する,タンクへの注入は複数の従業員で行う,などが挙げられる.これらの軽減戦略が,ひとつのAPSに複数設定されることもある.これらが既に規則化されているならば,それを食品防御の緩和戦略として食品防御計画に折り込めばよい.それぞれの従業員にアクセス可能な区域を定めること,制服の色や身分証などで立ち入りを制限することなど,食品安全と共通する項目もある.緩和戦略を決めたらば,その戦略が有効である理論的,科学的な根拠を文書化する必要がある.これは第三者による査察や3年毎に行う再分析の際に役に立つことは,食品安全での再評価と同じである.
緩和戦略が決まったら,そのそれぞれにモニタリング,是正措置,検証の3つのコンポーネントを考える.それぞれ行う内容は食品安全と似ているが,是正措置が製品に対して行われることは稀で,逸脱の再発防止に重点が置かれる.検証は,決められた事が実施されているかを確認する作業であり,食品安全での妥当性確認に相当する活動は含まれない.これは,緩和戦略の多くは汚染の可能性を低減するだけであり,食品安全のようにその手段を科学的に評価することができないためである.
以上の内容を文書化して食品防御計画とする.計画の作成にあたっては,食品防御計画ビルダー(6)6) Food and Drug Administration: Food Defense Plan Builder version 2.0. Available from: https://www.fda.gov/food/food-defense-tools-educational-materials/food-defense-plan-builder, 2016.というソフトウェアが公開されており,これと連動して緩和戦略データベース(7)7) Food and Drug Administration: Mitigation Strategies Database. Food and Drug Administration. Available from: https://www.fda.gov/food/food-defense-tools-educational-materials/mitigation-strategies-database, 2016.は具体的な戦略の例を示してくれる.
本稿で食品安全と食品防御の現況について概説したが,いずれにおいても計画を立案できる実力をつけるには演習が欠かせない.HACCP計画の演習題材としては文科科学省委託事業「専門高校の魅力発信に関する調査研究」の一環として作成された農業高校・水産高校HACCP副教材(8, 9)8) 全国農業高等学校校長協会:HACCP農業高等学校テキスト・手引書,Available from: http://www.zennokocyokai.org9) 全国水産高等学校校長協会:HACCP水産高等学校テキスト・手引書,Available from: http://zensuikyo2018.g2.xrea.com/HACCP.htmlが校長協会のホームページから無料でダウンロードできるので,そちらを参照されたい.それぞれ2つの製品についてHACCP計画を立てるための演習を行うことができる.よりシステマティックに学びたい人は日本HACCPトレーニングセンター(http://www.jhtc-haccp.org)で定期的に講習会を開いているので,そちらに参加するのが良いだろう(現在はオンラインでの開催).食品防御計画については実例が豊富な文献7を参照されたうえで,先述の食品防御計画ビルダー(6)6) Food and Drug Administration: Food Defense Plan Builder version 2.0. Available from: https://www.fda.gov/food/food-defense-tools-educational-materials/food-defense-plan-builder, 2016.をダウンロードし,実際に動かしてみてはどうだろうか.
Reference
1) Codex Alimentarius Food Hygiene Basic Texts Fourth Edition. Available from: https://www.fao.org/3/a1552e/a1552e00.htm, 2009.
2) 厚労省:食品衛生法の改正について(公布:平成30年6月13日)Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197196.html
3) Food and Drug Administration: Mitigation Strategies To Protect Food Against Intentional Adulteration. Available from: https://www.federalregister.gov/documents/2016/05/27/2016-12373/mitigation-strategies-to-protect-food-against-intentional-adulteration, 2016.
4) 日本貿易振興機構:米国食品安全強化法『意図的な食品不良からの食品防御』に向けたリスク低減策:産業界向けガイダンス案(仮訳).Available from: https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/n_america/us/foods/fsma/201902-fsma_fdp_guide3-202003.pdf, 2020.
5) L. Manning & J. M. Soon: J. Food Sci., 81, R823 (2016).
6) Food and Drug Administration: Food Defense Plan Builder version 2.0. Available from: https://www.fda.gov/food/food-defense-tools-educational-materials/food-defense-plan-builder, 2016.
7) Food and Drug Administration: Mitigation Strategies Database. Food and Drug Administration. Available from: https://www.fda.gov/food/food-defense-tools-educational-materials/mitigation-strategies-database, 2016.
8) 全国農業高等学校校長協会:HACCP農業高等学校テキスト・手引書,Available from: http://www.zennokocyokai.org
9) 全国水産高等学校校長協会:HACCP水産高等学校テキスト・手引書,Available from: http://zensuikyo2018.g2.xrea.com/HACCP.html