セミナー室

“胆汁酸”を介した腸内細菌と宿主のクロストーク胆汁酸が宿主と腸内細菌の関係を紐解く鍵になる

Masaru Tanaka

田中

JSR株式会社

Jiro Nakayama

中山 二郎

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門システム生物工学講座

Published: 2022-02-01

ヒトの腸管内には数百種,約40兆個に及ぶ腸内常在菌によって複雑なエコシステムすなわち腸内細菌叢が存在している.この腸内細菌叢が生産する代謝物は宿主の生体恒常性に関与し,腸内細菌叢を介した健康維持が注目されている.なかでも,胆汁酸は宿主の肝臓で生合成され,腸管に分泌され食脂質の吸収に働く一方,再吸収され全身をめぐり,宿主細胞の受容体を介してエネルギー代謝やコレステロール代謝などの制御に働くことが知られている.また,腸内では腸内細菌に代謝され構造変化し二次胆汁酸となる一方,腸内細菌そのものの定着にも影響している.本稿では,この胆汁酸を介した宿主−腸内細菌叢のクロストークに着目して,新生児における腸内細菌の定着から成人の生活習慣病との関係,さらには近年,百寿者特有の胆汁酸機能として明らかにされた宿主免疫系への影響にいたるまで,一連の研究を紹介する.

胆汁酸について

胆汁酸は24個の炭素からなるステロイド骨格を有する両親媒性の化合物であり,宿主と腸内細菌の両方から代謝を受ける(図1図1■胆汁酸の基本骨格表1表1■胆汁酸の名称と置換基).肝臓で17種類の酵素によってコレステロールからケノデオキシコール酸(CDCA)やコール酸(CA)といった一次胆汁酸が生合成される.さらに,一次胆汁酸はグリシンもしくはタウリンに抱合された抱合型胆汁酸へ変換され胆嚢に蓄えられる.食事摂取に応答して胆汁酸は胆管から十二指腸へと分泌され,胆汁酸は腸管内で脂質をミセル化しリパーゼによる分解を受けやすくすることで,食事成分中の脂質や脂溶性ビタミンの吸収を促進する(1)1) M. Begley, C. G. M. Gahan & C. Hill: FEMS Microbiol. Rev., 29, 625 (2005)..胆汁酸の大部分は回腸末端部に局在するトランスポーターによって能動的に吸収され,門脈中に取り込まれた後,肝臓に取り込まれ,胆汁に再分泌される.このような胆汁酸の肝臓と腸の循環は腸肝循環と呼ばれる.一部の胆汁酸は,この腸肝循環を逃れて全身循環に移行し,他の臓器や組織で胆汁シグナルとしてさまざまな生理活性を調整している(2)2) J. Y. L. Chiang: Compr. Physiol., 3, 1191 (2013)..一次胆汁酸の種類は脊椎動物によって異なり,ヒトはCAやCDCA,マウスやラットのようなげっ歯類ではCAやミュリコール酸(MCA)が主である(3)3) A. F. Hofmann, L. R. Hagey & M. D. Krasowski: J. Lipid Res., 51, 226 (2010)..これらの一次胆汁酸の違いは,その後の腸内細菌による代謝によって発生する二次胆汁酸の種類にも大きく影響を及ぼしている.

図1■胆汁酸の基本骨格

表1■胆汁酸の名称と置換基
胆汁酸略称R1 (C3)R2 (C6)R3 (C7)R4 (C12)R5
コール酸CAα-OHHα-OHα-OHOH
ケノデオキシコール酸CDCAα-OHHα-OHHOH
グリココール酸GCAα-OHHα-OHα-OHグリシン
グルコケノデオキシコール酸GCDCAα-OHHα-OHHグリシン
タウロコール酸TCAα-OHHα-OHα-OHタウリン
タウロケノデオキシコール酸TCDCAα-OHHα-OHHタウリン
α-ミュリコール酸αMCAα-OHβ-OHα-OHHOH
β-ミュリコール酸βMCAα-OHβ-OHβ-OHHOH
ω-ミュリコール酸ωMCAα-OHα-OHβ-OHHOH
デオキシコール酸DCAα-OHHHα-OHOH
リトコール酸LCAα-OHHHHOH
ウルソコール酸UCAα-OHHβ-OHα-OHOH
ウルソデオキシコール酸UDCAα-OHHβ-OHHOH
イソコール酸iCAβ-OHHα-OHα-OHOH
イソケノデオキシコール酸iCDCAβ-OHHα-OHHOH
イソデオキシコール酸iDCAβ-OHHHα-OHOH
イソリトコール酸iLCAβ-OHHHHOH
12-エピデオキシコール酸12-epiDCAα-OHHHβ-OHOH
12-オキソケノデオキシコール酸12-oxoCDCAα-OHHHoxoOH
7-オキソデオキシコール酸7-oxoDCAα-OHHoxoα-OHOH
7-オキソリトコール酸7-oxoLCAα-OHHoxoHOH
3-オキソコール酸3-oxoCAoxoHα-OHα-OHOH
3-オキソケノデオキシコール酸3-oxoCDCAoxoHα-OHHOH
フェニルアラノコール酸PheCAα-OHHα-OHα-OHフェニルアラニン
チロソコール酸TyrCAα-OHHα-OHα-OHチロシン
ロイコール酸LeuCAα-OHHα-OHα-OHロイシン

腸内細菌の胆汁酸代謝

胆汁酸の約95%は小腸下部で再吸収され,残りの5%(600~800 mg/day)の胆汁酸は約200~1000 μMという高濃度で,腸内細菌の代謝を受けながら糞便へと排出される(4)4) J. P. Hamilton, G. Xie, J. P. Hamilton, G. Xie, J. P. Raufman, S. Hogan, T. L. Griffin, C. A. Packard, D. A. Chatfield, L. R. Hagey et al.: Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 293, 256 (2007)..腸内細菌の働きによって生産される胆汁酸の種類は50種類以上存在するとされ,その数は質量分析計などの分析機器の発達により今後も増えていく可能性がある(5)5) K. D. R. Setchell, A. M. Lawson, N. Tanida & J. Sjovall: J. Lipid Res., 24, 1085 (1983)..腸内細菌による代表的な胆汁酸代謝を図2図2■胆汁酸分子種の種類と腸内細菌が行う胆汁酸代謝の代表的な種類に示した.腸内細菌による代表的な胆汁酸代謝には,脱抱合反応,脱水酸化反応,脱硫酸抱合反応および,酸化および還元反応を含む異性化反応がある(6)6) J. M. Ridlon, D. Kang & P. B. Hylemon: J. Lipid Res., 47, 241 (2006)..宿主から分泌された抱合型胆汁酸はグリシン基もしくはタウリン基が脱抱合され一次胆汁酸に変換される.一次胆汁酸CAやCDCAは7位の水酸基の脱水酸化により,それぞれデオキシコール酸(DCA),リトコール酸(LCA)といった二次胆汁酸へと変換される.また,CAやCDCAの7位の水酸基が異性化されたウルソコール酸(UCA)やウルソデオキシコール酸(UDCA),DCAやLCAの3位の水酸基が異性化されたiso-DCAやiso-LCAへと変換する.最新の報告では,一次胆汁酸にフェニルアラニン,チロシン,ロイシン抱合体と変換する腸内細菌も報告されている(7)7) R. A. Quinn, A. V. Melnik, A. Vrbanac, T. Fu, K. A. Patras, M. P. Christy, Z. Bodai, P. Belda-Ferre, A. Tripathi, L. K. Chung et al.: Nature, 579, 123 (2020)..これらの新規抱合型胆汁酸は質量分析計(MS)に機械学習,ディープラーニングを組み合わせたモルキュラースペクトラムネットワーキングによる未知物質の構造推定により発見されている(8)8) J. Watrous, P. Roach, T. Alexandrov, B. S. Heath, J. Y. Yang, R. D. Kersten, M. van der Voort, K. Pogliano, H. Gross, J. M. Raaijmakers et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 1743 (2012)..このような胆汁酸の代謝は,腸内細菌の酵素のみによって触媒され宿主の酵素では起こらないことから,腸内細菌に依存した代謝となる.以下では,代表的な腸内細菌の胆汁酸代謝について詳細に述べる.

図2■胆汁酸分子種の種類と腸内細菌が行う胆汁酸代謝の代表的な種類

1. 脱抱合

ステロイド骨格に結合しているグリシンまたはタウリンの間のアミド結合を加水分解する,この反応は脱抱合と呼ばれ,抱合型胆汁酸を遊離型胆汁酸に変換することで腸内細菌による修飾を受けやすくするもので,胆汁の生体内変化において重要な役割を果たしている.脱抱合はBile salt hydrolase(BSH)と呼ばれる酵素によって触媒される.BSHはLactobacillus, Bifidobacterium, Bacteroides, Clostridiumなどの幅広い腸内細菌の遺伝子にコードされている(9)9) B. Jones, B. Maire, H. Colin, G. M. G. Cormac & R. M. Julian: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 13580 (2008)..また古細菌の領域では,Methanobrevibacter smithiiMethanosphaera stadmanaeなどの腸内細菌の種でも報告されている.異なるドメインのBSH間で高い同一性が観察できることから,BSH遺伝子の水平伝播が示唆されている.BSH遺伝子は腸内環境において高い冗長性を示し,BSHパラログの数は菌株ごとに異なる.BSHは潜在的に細菌の胆汁酸耐性の向上に機能していると考えられている.また,脱抱合の際,抱合型胆汁酸は代謝で発生した電子の受容体として機能したり,一部の腸内細菌はグリシンやタウリンを栄養源として利用することで,腸内での生存率向上に寄与していると示唆されている(10)10) A. Y. Bustos, G. Font, D. Valdez, S. Fadda & M. P. Taranto: Food Res. Int., 112, 250 (2018).

2. 7α/β-脱水酸化

7α/β-脱水酸化は一次胆汁酸を二次胆汁酸へと変換する.たとえば, 7α-脱水酸化はCAをDCA, CDCAをLCAに変換し,7β-脱水酸化はUDCAをLCAへと変換する.7位の脱水酸化は脱抱合された一次胆汁酸を基質にすることから,主にヒトの大腸で起こると考えられている.7位の脱水酸化はbile acid inducible genes(bai)クラスターにコードされた8種の細胞内酵素によって変換される(11)11) J. M. Ridlon, S. C. Harris, S. Bhowmik, D. J. Kang & P. B. Hylemon: Gut Microbes, 7, 22 (2016)..Funabashiらは,baiオペロンの中からBaiB, BaiCD, BaiA, BaiE, BaiF, BaiHの6種の酵素の組み合わせによってCAからDCAへ変換することを報告した(12)12) M. Funabashi, T. L. Grove, M. Wang, Y. Varma, M. E. McFadden, L. C. Brown, C. Guo, S. Higginbottom, S. C. Almo & M. A. Fischbach: Nature, 582, 566 (2020)..脱水酸化する細菌は,少数のClostridia目細菌に保存され,Clostridium scindens, Clostridium hiranonis, Clostridium hylemonae, Clostridium sordelliiが特に研究が進んでおり,これらはClostridium cluster XIVaに属する(13, 14)13) J. E. Wells, K. B. Williams, T. R. Whitehead, D. M. Heuman & P. B. Hylemon: Clin. Chim. Acta, 331, 127 (2003).14) M. Kitahara, F. Takamine, T. Imamura & Y. Benno: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 50, 971 (2000)..メタゲノミクス的アプローチによりbaiクラスターの多様性を調査した結果,Ruminococcaceaeに最も多くコードされており,LachnospiraceaeやPeptostreptococcaceaeの一部の細菌も有していることが報告されているが,実際に活性を持つかは未検証である.(15)15) M. Vital, T. Rud, S. Rath, D. H. Pieper & D. Schlüter: Comput. Struct. Biotechnol. J., 17, 1016 (2019). 7α/β-脱水酸化細菌の潜在的なメリットは,二次胆汁酸に感受性のある微生物を排除して有利なニッチ競争を行うことであると示唆されている.

3. 異性化

一部の腸内細菌は,胆汁酸のα位の水酸基を,オキソ中間体を介してβ位に変換することでより親水性が高く,毒性の低い胆汁酸に変換している.これらの相互反応を触媒するのは,位置特異的(C-3, C-7, C-12)で立体特異的(α位,β位)特異的なhydroxysteroid dehydrogenase(HSDH)である(6)6) J. M. Ridlon, D. Kang & P. B. Hylemon: J. Lipid Res., 47, 241 (2006)..変換された胆汁酸は,7位が変化されたウルソ系,3位が変換されたイソ系,12位が変換されたエピ系が存在している.

ウルソ型胆汁酸の合成経路(7α-OH⇆7-keto⇆7β-OH)は7α-, 7β-HSDHによって触媒される可逆反応である.7α-HSDHについては,Escherichia coliを含む幅広い腸内細菌で保存されている,一方で,7β-HSDHについては,Ruminococcus gnavus, Clostridium absonum, Peptostreptococcus productusを代表とするごく一部の細菌に存在することが報告されている.α, β両方の酵素を有する細菌としてはClostridium absonum, Clostridium limosum, Stenotrophomonasなどの報告がある.

イソ型胆汁酸であるiso-DCAやiso-LCAは大腸内でDCAやLCAに次いで多く存在し(平均濃度50 μM),個人差が大きい胆汁酸である(4)4) J. P. Hamilton, G. Xie, J. P. Hamilton, G. Xie, J. P. Raufman, S. Hogan, T. L. Griffin, C. A. Packard, D. A. Chatfield, L. R. Hagey et al.: Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 293, 256 (2007)..また,他の二次胆汁酸よりもイソ型胆汁酸は腸肝循環による吸収が早いと考えられている(4)4) J. P. Hamilton, G. Xie, J. P. Hamilton, G. Xie, J. P. Raufman, S. Hogan, T. L. Griffin, C. A. Packard, D. A. Chatfield, L. R. Hagey et al.: Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 293, 256 (2007)..イソ型胆汁酸生産菌としてEggerthella lentaClostridium perfringensRuminococcus gnavusを含むLachnospiraceae科の細菌が報告されている(16~18)16) S. Hirano & N. Masuda: J. Lipid Res., 22, 1060 (1981).18) A. S. Devlin & M. A. Fischbach: Nat. Chem. Biol., 11, 685 (2015).E. lentaR. gnavusは3α-HSDH, 3β-HSDHの機能を有する酵素が特定され,DCA, LCA, CDCA, CAから変換される(18)18) A. S. Devlin & M. A. Fischbach: Nat. Chem. Biol., 11, 685 (2015)..iso-DCAはDCAよりも臨界ミセル濃度が増加し,界面活性作用が大きく低下することから,胆汁酸のイソ化反応は細菌に対する毒性を低下し,生育にメリットがあると示唆される.

エピ型胆汁酸の合成経路(DCA⇆12-oxoLCA⇆epi-DCA)は, 12α-HSDHと12β-HSDHによって相互変換される.12αHSDHは複数のEggerthellaC. scindens, C. hylemonaeなどのFirmicutes門に加えてActinobacteriaやアーキアでも同定されている(19)19) H. Doden, L. A. Sallam, S. Devendran, L. Ly, G. Doden, S. L. Daniel, J. M. P. Alves & J. M. Ridlon: Appl. Environ. Microbiol., 84, 1 (2018)..腸内細菌によるエピマー化は,7α水酸基に阻害されることやタウリンやグリシンと結合したDCAに対する活性が低下したことから,遊離型胆汁酸であるDCAを優先的に基質として利用することが報告された(19)19) H. Doden, L. A. Sallam, S. Devendran, L. Ly, G. Doden, S. L. Daniel, J. M. P. Alves & J. M. Ridlon: Appl. Environ. Microbiol., 84, 1 (2018)..一方で,12β-HSDHの活性は,Clostridium paraputrificumが有していることが報告され,遺伝子の特定に成功している(20)20) H. L. Doden, P. G. Wolf, H. R. Gaskins, K. Anantharaman, J. M. P. Alves & J. M. Ridlon: Gut Microbes, 13, 1 (2021)..さらに, Collinsella tanakaeiCollinsella stercorisは12α-, 12β-HSDHをコードする両方の遺伝子を持つことから,これらの細菌は12位のエピマー化を行う可能性が示唆されている.

4. その他の胆汁酸代謝

C5のβ位に位置するヒドロキシ基がエピマー化された5α-H胆汁酸はアロ型胆汁酸と呼ばれる.アロ型胆汁酸は7α/β-脱水酸化の反応途中で副産物的に生産されると考えられている.Satoらは,百寿者にiso-LCA, 3-oxo-LCA, iso-allo-LCAが特徴的な胆汁酸であることを見いだし,Parabacteroides merdaeやOdoribacteriaceae科細菌の特定の株によってiso-allo-LCAが生産されることや,iso-allo-LCAの生産には5αリアクターゼ(5AR)と3β-HSDHという酵素が関与することが明らかとなった(21)21) Y. Sato, K. Atarashi, D. R. Plichta, Y. Arai, S. Sasajima, S. M. Kearney, W. Suda, K. Takeshita, T. Sasaki, S. Okamoto et al.: Nature, 599, 458 (2021). doi: 10.1038/s41586-021-03832-5.Iso-allo-LCAは制御性T細胞の分化誘導に関与しており,宿主免疫系を制御する胆汁酸分子の一つとして注目されている(22)22) S. Hang, D. Paik, L. Yao, E. Kim, J. Trinath, J. Lu, S. Ha, B. N. Nelson, S. P. Kelly, L. Wu et al.: Nature, 576, 143 (2019).

一次胆汁酸のアミノ酸抱合化のうちフェニルアラニンおよびチロシン抱合型胆汁酸はClostridium bolteaeの特定の株によって合成されることが報告されているが,合成酵素についてはわかっていない(7)7) R. A. Quinn, A. V. Melnik, A. Vrbanac, T. Fu, K. A. Patras, M. P. Christy, Z. Bodai, P. Belda-Ferre, A. Tripathi, L. K. Chung et al.: Nature, 579, 123 (2020)..一方で,これらのアミノ酸抱合型胆汁酸の脱抱合についても検証されたが,便培養液に添加した研究では脱抱合されなかった.ロイシン抱合型胆汁酸については生産する細菌についても未知であり,今後明らかにされていくことが期待されている.これらの胆汁酸の機能についてもほとんど未知であるが,farnesoid X receptor(FXR)に対してCDCA以上のアゴニスト活性を有することが示唆されている(7)7) R. A. Quinn, A. V. Melnik, A. Vrbanac, T. Fu, K. A. Patras, M. P. Christy, Z. Bodai, P. Belda-Ferre, A. Tripathi, L. K. Chung et al.: Nature, 579, 123 (2020).

胆汁酸が腸内細菌に与える影響

1. 殺菌・静菌作用

元来,食事性脂質の吸収に働く胆汁酸は,高脂肪食により腸管への分泌が誘導される.Yokotaらは,コール酸をマウスに摂取させることにより,高脂肪食摂取下に類似した菌叢がマウスに形成されることを見出しており,胆汁酸が大きな腸内細菌叢の決定因子であることを直接的に示している(23)24) Y. Tian, W. Gui, I. Koo, P. B. Smith, E. L. Allman, R. G. Nichols, B. Rimal, J. Cai, Q. Liu & A. D. Patterson: Gut Microbes, 11, 979 (2020)..胆汁酸は両親媒性による界面活性作用により細胞膜の損傷を引き起こすことで,殺菌・静菌作用を示す.遊離型胆汁酸は抱合型胆汁酸よりも強力な殺菌作用を示す.また,遊離型胆汁酸の中では胆汁酸の親水性と疎水性のバランスが毒性に寄与し,CDCA, DCAは特に細菌毒性が強く,LCAは細菌毒性が弱い(24)24) Y. Tian, W. Gui, I. Koo, P. B. Smith, E. L. Allman, R. G. Nichols, B. Rimal, J. Cai, Q. Liu & A. D. Patterson: Gut Microbes, 11, 979 (2020)..その機構は,細胞に直接的に作用する細胞膜損傷である一次作用,胆汁酸が細胞内に侵入しタンパク質やDNAの損傷を引き起こす二次作用,胆汁酸の侵入による細胞内のpHやプロトンバランスの回復のために細胞のエネルギー代謝へ影響する三次作用がある.胆汁酸の作用に対する細菌の応答機構にはトランスポーターによる胆汁酸の排出,細胞膜脂質の成分変化,菌体外多糖の生産が報告されている.渡辺らは代表的な腸内細菌であるBifidobacterium breve, Blautia coccoides, Bacteroides thetaiotaomicronに対する14種の胆汁酸の殺菌作用について検証し,これらの腸内細菌に対してDCA=CDCA>UDCA>CAの順に殺菌作用が強いことを報告した(25)25) M. Watanabe, S. Fukiya & A. Yokota: J. Lipid Res., 58, 1143 (2017)..グラム陽性菌はグラム陰性菌よりも胆汁酸感受性が高く,LactobacillusBifidobacteriumなどの一部のプロバイオティクス細菌やClostridium scindensなどの7α脱水酸化細菌は解糖系の活性化に関連した胆汁酸耐性を有している(24)24) Y. Tian, W. Gui, I. Koo, P. B. Smith, E. L. Allman, R. G. Nichols, B. Rimal, J. Cai, Q. Liu & A. D. Patterson: Gut Microbes, 11, 979 (2020)..食中毒等の原因となるStaphylococcus aureusの胆汁酸耐性についても検証され,CAやDCAはそれぞれ20 mM, 1 mMの投与で殺菌作用を示した.さらに,殺菌作用を示す濃度よりも低濃度(CA: 8 mM, DCA: 0.4 mM, GCAとTCA: 20 mM)で生育阻害的作用を示すことが報告されている(26)26) T. H. Sannasiddappa, P. A. Lund & S. R. Clarke: Front. Microbiol., 8, 1 (2017)..胆汁酸の作用機序の多様性と細菌の胆汁酸耐性機構により,胆汁酸の低濃度時は静菌的に,高濃度時には殺菌的に腸内細菌叢を制御していると予想される.

2. 発芽誘導

腸内細菌叢の約半分を占めるFirmicutes門細菌には多くの芽胞形成細菌が存在している.芽胞は,アミノ酸や核酸,糖,胆汁酸などの環境シグナルに応答して発芽する複雑なメカニズムが備わっている.タウリン抱合型胆汁酸のTCAは,嫌気性病原性細菌であるClostridium difficile由来の芽胞を発芽誘導することが知られている(27)27) A. Shen: PLoS Pathog., 11, 1 (2015)..DCAも同様にC. difficileの発芽を促進するが,栄養細胞の生育を阻害し,CDCAは芽胞の発芽を阻害し,TCAの競合阻害剤となることが報告されている.広範な抗生物質を投与したマウスでは,二次胆汁酸量が減少すると,C. difficile感染症に対する感受性が高まり,環境中の胆汁酸の種類が,休眠状態を維持するか,芽胞の発芽を誘導するかの環境シグナルとして機能していることが示唆されている.C. difficileの胆汁酸を感知するシステムは3つのCspタンパク質からなるカスケードシグナル伝達系を有している.これらのCspプロテアーゼは,Clostridiaceae科やLachnospiraceae科,Peptostreptococcaceae科を含むClostridia綱の細菌に幅広く保存されていた.BrowneらはC. difficileと同様に,芽胞形成を行う腸内細菌の多くがTCAを発芽誘導因子として利用していることを明らかにした(28)28) H. P. Browne, S. C. Forster, B. O. Anonye, N. Kumar, B. A. Neville, M. D. Stares, D. Goulding & T. D. Lawley: Nature, 533, 543 (2016)..筆者らは他の胆汁酸分子も腸内芽胞形成菌の発芽誘導に関与すると予想し,検証した結果,グリシン抱合型胆汁酸(GCA, GCDCA, GDCA),タウリン抱合型胆汁酸TCDCAで発芽誘導を確認した(29)29) M. Tanaka, S. Onizuka, R. Mishima & J. Nakayama: Sci. Rep., 10, 15041 (2020)..さらに,タウリン抱合型胆汁酸はClostridiaceae科細菌,グリシン抱合型胆汁酸はLachnospiraceae科細菌をより選択的に発芽誘導する傾向にあることを報告した.この手法を用いて,7人の健常者から胆汁酸を発芽のシグナルとする新規候補種11種を含む72種の細菌の単離培養に成功した(図3図3■糞便由来の芽胞を抱合型胆汁酸の発芽誘導を利用して単離培養した細菌の系統樹).さらに,筆者らは一部の腸内細菌由来の芽胞が特定のアミノ酸と胆汁酸の組み合わせにより,より効率よく発芽誘導されることも報告している(30)30) S. Onizuka, M. Tanaka, R. Mishima & J. Nakayama: Microorganisms, 9, 1651 (2021)..便由来の芽胞細菌のもつ胆汁酸をシグナルとした発芽誘導機構は,腸管内への細菌の定着や腸内細菌叢の恒常性維持に寄与していることが示唆される.

図3■糞便由来の芽胞を抱合型胆汁酸の発芽誘導を利用して単離培養した細菌の系統樹

7人の健常者から11種の新規候補種を含む72種の細菌の単離培養に成功した.

3. 病原性遺伝子の発現制御

病原性を持つある種の細菌の遺伝子座の発現は,胆汁酸によって制御されており,腸内環境を識別するシグナルとして機能している可能性がある.たとえばShigellaSalmonellaの病原性形質を制御するPhoPQレギオンに属する遺伝子は胆汁酸存在下で発現が上昇する(31)31) C. S. Faherty, J. C. Redman, D. A. Rasko, E. M. Barry & J. P. Nataro: Mol. Microbiol., 85, 107 (2012)..一方で,Salmonellaの回腸上皮への侵入に必要なSPI-1三型分泌システムをコードする遺伝子は胆汁酸によって抑制される(32)32) PROUTY: Am. Soc. Microbiol., 68, 6763 (2000).Vibrio choleraeでは胆汁酸が病原性やフィルム形成に関与する遺伝子の転写を活性化する(33)33) D. T. Hung, J. Zhu, D. Sturtevant & J. J. Mekalanos: Mol. Microbiol., 59, 193 (2006)..他にも胆汁酸存在下での遺伝子発現やタンパク質合成の変化は,Campylobacter jejuniEnterococcus faecalis, Listeria monocytogenesでも報告されている(34)34) V. Urdaneta & J. Casadesús: Front. Med., 4, 1 (2017)..研究が進んでいる病原性細菌についてだけではなく,常在腸内細菌も同様に胆汁酸を環境シグナルとして腸管内での生存競争に利用しているかもしれない.

胆汁酸の宿主への機能

胆汁酸は核内受容体FXRや細胞膜受容体Takeda G protein-coupled receptor 5(TGR5)のリガンドとして代謝系や炎症を協調的に制御するシグナル分子である.これらの受容体は腸管,肝臓,末梢臓器に存在し,胆汁酸合成,脂質・糖代謝,エネルギー消費,炎症などに関与する遺伝子の発現や活性を制御する転写ネットワークやシグナル伝達カスケードを活性する(図4図4■胆汁酸によるFXRやTGR5を介した宿主の生理機能活性制御(35)35) O. Chávez-talavera, A. Tailleux, P. Lefebvre & B. Staels: Gastroenterology, 152, 1679 (2017)..FXRは肝臓,腸管,膵臓,副腎,白色脂肪組織,免疫細胞を含むいくつかの臓器で発現している.胆汁酸によるFXRの活性化は細胞内への侵入が必須であり,疎水性である遊離型胆汁酸は単純な拡散による侵入,親水性である抱合型胆汁酸の場合は活性輸送による侵入が必要となっており,FXRアゴニストとしての効力の順にLCA>DCA>CDCA>CAである(36)36) T. Q. D. A. Vallim, E. J. Tarling & P. A. Edwards: Cell Metab., 17, 657 (2013)..一方で,TGR5は腸内分泌系L細胞,褐色細胞組織,白色脂肪組織,骨格筋,胆嚢,肝非実質細胞群や脳で発現している.TGR5は直接胆汁酸と結合することが可能であり,TGR5アゴニストとしての効力の順にTLCA>LCA>DCA>CDCA>CAであると報告された(36)36) T. Q. D. A. Vallim, E. J. Tarling & P. A. Edwards: Cell Metab., 17, 657 (2013)..近年になって,さまざまな胆汁酸分子種が免疫系に対してそれぞれ異なる機能を持つことが報告されている.LCAの異性体であるiso-allo-LCAはCD4 T細胞内のミトコンドリアの活性化酵素の合成を高め,Foxp3のエピジェネティックな調整を介してFoxp3の発現量を上昇させ制御性T細胞(Treg)分化を促進する(22)22) S. Hang, D. Paik, L. Yao, E. Kim, J. Trinath, J. Lu, S. Ha, B. N. Nelson, S. P. Kelly, L. Wu et al.: Nature, 576, 143 (2019)..また,3-oxo-LCAはRORγ分子機能を直接阻害し,ヘルパーT細胞(Th)の1種であるTh17への分化を抑えることを示している(22)22) S. Hang, D. Paik, L. Yao, E. Kim, J. Trinath, J. Lu, S. Ha, B. N. Nelson, S. P. Kelly, L. Wu et al.: Nature, 576, 143 (2019)..さらに,iso-DCAは樹状細胞に作用し,免疫賦活作用を低下させることでFoxp3の誘導を増強し,末梢性誘導性Treg(pTreg)細胞の分化を促進することが報告された(37)37) C. Campbell, P. T. McKenney, D. Konstantinovsky, O. I. Isaeva, M. Schizas, J. Verter, C. Mai, W. B. Jin, C. J. Guo, S. Violante et al.: Nature, 581, 475 (2020)..胆汁酸は宿主—腸内細菌間のクロストークを担い,その影響は全身の臓器,器官の代謝,免疫を幅広く調整している.

図4■胆汁酸によるFXRやTGR5を介した宿主の生理機能活性制御

乳幼児期の腸内細菌叢の発達と胆汁酸代謝の獲得

乳幼児期の腸内細菌叢はヒトの一生において最もダイナミックに変化し,その機能も他の臓器と連携しながら次々に変化していく.特に肝臓は生後まもなく,腸内細菌の定着と同時期に,造血器官から代謝調節や免疫監視の中心器官へと機能的に変化することが知られている.われわれの研究グループでは腸内細菌叢発生過程における腸内細菌の胆汁酸代謝について調査するために,ヒト乳幼児を対象に追跡調査を行った(38)38) M. Tanaka, M. Sanefuji, S. Morokuma, M. Yoden, R. Momoda, K. Sonomoto, M. Ogawa, K. Kato & J. Nakayama: Gut Microbes, 11, 205 (2020)..その結果,生まれて3年間で便中の主要な胆汁酸の種類が抱合型胆汁酸→一次胆汁酸→ウルソ型胆汁酸→二次胆汁酸へと変化することを発見した(図5図5■乳幼児期の腸内細菌の定着と胆汁酸代謝の獲得).さらに,脱抱合はBifidobacterium,異性化はR. gnavus,脱水酸化は細菌叢多様性と関連性を示していた.この乳幼児期に見られる腸内細菌の定着と胆汁酸組成の変化が宿主の代謝系や免疫系の成熟化にどのように影響するか興味が持たれる.van Bestらはマウスの乳児期でも同様の現象を報告し,マウスではUDCAとGCA, TCAに加えマウス固有のTβMCAが生後初期の腸内細菌の定着に関与することを報告している(39)39) N. van Best, U. Rolle-Kampczyk, F. G. Schaap, M. Basic, S. W. M. Olde Damink, A. Bleich, P. H. M. Savelkoul, M. von Bergen, J. Penders & M. W. Hornef: Nat. Commun., 11, 3692 (2020)..またこれらの胆汁酸が生後まもない腸内細菌叢の成熟を促すドライビングファクターであることが実験的に示されている.

図5■乳幼児期の腸内細菌の定着と胆汁酸代謝の獲得

腸内細菌による胆汁酸代謝は4段階で変化し,ビフィズス菌の定着,R. gnavusの定着,Firmicutes型フローラの定着を期に,脱抱合,異性化,脱水酸化された胆汁酸が検出される様になる.m: 月齢

成人期の腸内細菌叢と胆汁酸組成

筆者らの研究グループでは日本人成人(20~80歳)の便中胆汁酸組成と腸内細菌叢の関連性を調査した.その結果,成人の多くがDCAやLCAが90%以上を占める胆汁酸組成であり,10%程度の成人で一次胆汁酸とウルソ型胆汁酸が多い群,5%程度の成人で抱合型胆汁酸が多い群が存在していた.一般的にDCAやLCAなどの二次胆汁酸は疎水性が高く,細胞毒性も強く,さらに発がん性も知られている.しかし,現状,日本の一般的な健常人の腸内細菌叢中では圧倒的にDCAやLCAが多く,CAやCDCAなどの一次胆汁酸は腸内細菌にて最終的には,ほぼ脱水酸化されている.そして,むしろCAやCDCAなどが便中に優先的に検出される被験者においては,腸内細菌コミュニティーの機能が何らかの理由で低下しており,胆汁酸代謝が滞っていることが示唆される.

上記の現象は,人類の食が高脂肪食・低食物繊維化した結果,腸内環境が変化し,より疎水性の高い二次胆汁酸を生産するようになり,大腸がんの罹患率が増加したと一般的に言われている(40)40) S. J. O’Keefe, J. V. Li, L. Lahti, J. Ou, F. Carbonero, K. Mohammed, J. M. Posma, J. Kinross, E. Wahl, E. Ruder et al.: Nat. Commun., 28, 6342 (2015)..確かに,長期的な人類の腸内細菌叢の変遷を考えれば,二次胆汁酸量は現代人に比べると低かったのかもしれない.ただし,今日の調査においては,今や人類の消化管胆汁酸は,糞便から排出される段階では二次胆汁酸がメインとなってしまっているといっても過言ではない.これは,日本のように半世紀も前から食の高脂肪食・高動物タンパク質・低食物繊維化が始まっている先進国に限らず,われわれのグループで現在,精力的に調査を行っているアジア諸国でも同様の傾向が見られる.たとえば,インドネシアの中規模都市,ジョグジャカルタの調査でも,二次胆汁酸メインの腸内細菌叢が確認されている(41)41) P. Therdtatha, Y. Song, M. Tanaka, M. Mariyatun, M. Almunifah, N. E. P. Manurung, S. Indriarsih, Y. Lu, K. Nagata, K. Fukami et al.: Microorganisms, 9, 1 (2021)..一方,興味深いことに,脂質を過剰に摂取している肥満患者においては,腸内細菌叢のバランスが崩壊した状態であるディスビオシス化により一次胆汁酸が多く検出されている(図6図6■インドネシア人(ジョグジャカルタ)における健常者(a),肥満者(b),2型糖尿病患者(c),メトフォルミン投薬の2型糖尿病患者(d)における腸管内での胆汁酸代謝).また,熊本大学の久野らは,マウスモデルで抗生物質により二次胆汁酸を生産できないディスビオシス状態を誘導すると,血糖値とトリグリセリド濃度が低下し,二次胆汁酸の添加で回復することを示し,二次胆汁酸が血糖値や血中脂質の濃度調整に重要な役割を果たしていることを示している(42)42) T. Kuno, M. Hirayama-Kurogi, S. Ito & S. Ohtsuki: Sci. Rep., 19, 1253 (2018).

図6■インドネシア人(ジョグジャカルタ)における健常者(a),肥満者(b),2型糖尿病患者(c),メトフォルミン投薬の2型糖尿病患者(d)における腸管内での胆汁酸代謝

(a)健常者では,胆汁酸代謝は滞りなく進み,DCA/LCAに変換される.(b)肥満者では,高いBSH活性を有すると推察されるRomboustia属細菌により一次胆汁酸に変換されるが,その先の7α脱水酸酵素を有するRuminococcaceae科の細菌が少なく,二次胆汁酸への変換率が減少する.(c)2型糖尿病患者では,宿主の胆汁酸の分泌量そのものが減少し,さらに脱抱合活性の強いB. fragilisが多く,FXR受容体のアンタゴニスト活性を介して血糖値制御に重要な働きをする抱合型胆汁酸が枯渇した状態になっている.(d)メトフォルミンを2型糖尿病患者に投与すると,まず胆汁酸輸送体であるASBTの機能が抑制され,胆汁酸の再吸収が阻害される.さらに,B. fragiliisの定着がメトフォルミンにより阻害される結果,抱合型胆汁酸量が回復し,FXRを介する血糖値制御が回復する.(文献41より引用)

また,興味深いことに,われわれのジャグジャカルタの研究では,2型糖尿病患者では,有意に抱合型胆汁酸が少なくなっていた(41)41) P. Therdtatha, Y. Song, M. Tanaka, M. Mariyatun, M. Almunifah, N. E. P. Manurung, S. Indriarsih, Y. Lu, K. Nagata, K. Fukami et al.: Microorganisms, 9, 1 (2021)..抱合型胆汁酸の中でもウルソデオキシコール酸(UDCA)の抱合型胆汁酸にはFXRに対するアンタゴニスト活性があり,その効果で抗糖尿病効果が得られるとされている.そしてさらに,バクテロイデス属細菌の一種,Bacteroides fragilisがUDCAの抱合型胆汁酸の脱抱合を行い,その量が減少し,2型糖尿病が惹起される.また,抗糖尿病薬であるメトフォルミンの機能としてこのB. fragilisの定着阻害が関連づけられている(43)43) L. Sun, C. Xie, G. Wang, Y. Wu, Q. Wu, X. Wang, J. Liu, Y. Deng, J. Xia, B. Chen et al.: Nat. Med., 24, 1919 (2018)..われわれのインドネシアの調査でも,メトフォルミンを投薬された患者ではB. fragilis量が減少し,それにともない,脱抱合型胆汁酸量が回復していることが観察されている(41)41) P. Therdtatha, Y. Song, M. Tanaka, M. Mariyatun, M. Almunifah, N. E. P. Manurung, S. Indriarsih, Y. Lu, K. Nagata, K. Fukami et al.: Microorganisms, 9, 1 (2021).

一方,肝臓で合成されるCAとCDCAのバランスの変化が疾病により起きることが知られている.非アルコール性脂肪性肝炎の患者ではDCAが便中から多く検出されることが報告されている(44)44) M. Mouzaki, A. Y. Wang, R. Bandsma, E. M. Comelli, B. M. Arendt, L. Zhang, S. Fung, S. E. Fischer, I. G. McGilvray & J. P. Allard: PLoS One, 11, 1 (2016)..一方,Inoueらは,最近,C型肝炎患者ではむしろ,DCAが少なく,LCAが多くなったり,あるいは上記のようにディスビオシスの影響から,一次胆汁酸が多くなることを報告している(図7図7■C型肝炎患者と健常者の胆汁酸プロファイルと菌叢プロファイル(45)45) T. Inoue, Y. Funatsu, M. Ohnishi, M. Isogawa, K. Kawashima, M. Tanaka, K. Moriya, H. Kawaratani, R. Momoda, E. Iio et al.: Liver Int., In press, (2021)..そして,LCAが増加する要因として,C型肝炎患者では肝臓におけるCA合成酵素遺伝子CYP8B1の発現量が低下していることを見いだしており,CDCA合成系が相対的に増えることによるものと考えている.

図7■C型肝炎患者と健常者の胆汁酸プロファイルと菌叢プロファイル

(a) C型肝炎患者と健常者の胆汁酸プロファイルをもとに主成分分析を行った.その結果,図のように3つのクラスターに分かれた.緑のクラスターは健常者のサンプルを多く含む.一方,紫とピンクのクラスターは肝炎患者(PNALT: 無症候性肝炎,CH: 肝炎患者,LC: 肝硬変患者,HCC: 肝臓がん患者)を多く含む.(b)それぞれのクラスターの胆汁酸組成(平均).(c)それぞれのクラスターの細菌組成(科レベル).*:3群間のペアクイズWilcoxon rank-sum Testで有意に群間差があることが示された項目.文献45よりデータを引用.

一方,Horiらは,高脂肪食投与ラットにおいて,肝臓にてコレステロールから胆汁酸を生産する酵素CYP7A1やCYP8B1遺伝子発現量が上昇し,その結果,体内のコール酸を初めとする12α水酸化胆汁酸量と,さらにはトリグリセリド量が上昇し,高脂肪食による脂肪肝誘導に12α水酸化胆汁酸の生合成向上が関係していることを示している(46)44) M. Mouzaki, A. Y. Wang, R. Bandsma, E. M. Comelli, B. M. Arendt, L. Zhang, S. Fung, S. E. Fischer, I. G. McGilvray & J. P. Allard: PLoS One, 11, 1 (2016).

Satoらは,百寿者と高齢者,若年層の腸内細菌と便中胆汁酸組成を調査し,100歳以上の長寿者はiso-LCA, 3-oxo-LCA, iso-allo-LCAなどの珍しい二次胆汁酸が多く検出され,これらの胆汁酸を生産するユニークな腸内細菌叢を有していることを報告した(21)21) Y. Sato, K. Atarashi, D. R. Plichta, Y. Arai, S. Sasajima, S. M. Kearney, W. Suda, K. Takeshita, T. Sasaki, S. Okamoto et al.: Nature, 599, 458 (2021). doi: 10.1038/s41586-021-03832-5.この腸内細菌叢がもつユニークな胆汁酸代謝が病原体の感染リスクの低減や慢性的な炎症疾患の抑制に寄与することが示唆されている.

まとめ

胆汁酸と腸内細菌の関連性についての研究は歴史が古く,1960年代にはすでに主要な胆汁酸代謝が明らかにされていた.しかし,近年の解析技術の革新により,解像度が高い研究が行われるようになり,胆汁酸と腸内細菌の新しい機能が次々に報告されている.宿主の胆汁酸プールは腸内細菌の多様性や増殖を制御し,腸内細菌は胆汁酸を代謝することで宿主の生理機能へ影響を与えていることは確実である.この意味で,胆汁酸はヒトと腸内細菌の間の複雑なクロストークの言語として機能していることが推察できる.今後も腸内細菌による胆汁酸代謝や修飾のメカニズム,胆汁酸の宿主の健康に果たす役割が明らかになることで,宿主と腸内細菌のコミュニケーションを読み取り,制御する時代になることを期待している.

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