農芸化学@High School

乳酸菌チョコレートは肥満マウスに体重の減少効果!

稲田 未来

山村学園山村国際高等学校生物部

Published: 2022-02-01

チョコレート(以下,チョコ)は,若い世代で最も人気のある菓子であるが,一般的に高カロリーで糖質が多い.一方,乳酸桿菌(以下,乳酸菌)の摂取は腸内フローラの改善作用により体重減少効果が報告されている.

そこで本研究では,20週齢(ヒトであれば10代の若い世代に相当)の肥満マウスに乳酸菌チョコを30日間投与する実験を行なった.その結果,高脂肪飼料のみを摂取した肥満マウスと比較し,高脂肪飼料と乳酸菌チョコを摂取した肥満マウスにおいて腸内フローラが改善されると共に,体重の有意な減少が認められた(−13%).このことから,肥満マウスにおいて乳酸菌チョコの投与は体重の減少効果がある可能性が示された.

本研究の背景,材料および方法,結果・考察,結論

【背景】

私たち生物部の研究は,微生物(真正菌類)を対象としている.ここ数年は,微生物をマーカーとした食品の抗菌効果やその機能性とマウス腸内フローラとの関係性を検証している.

2015年にマヌカハニーが食中毒原因菌に高い抗菌効果を示すことを報告し(1)1) 山村国際高等学校生物部:天然食品「マヌカハニー」の絶大な抗菌効果,第13回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞(神奈川大学),2015.,さらに2016年から2018年にかけて,マヌカハニーをマウスに投与すると乳酸菌が増加し,クロストリジウムが減少するなど腸内フローラを改善するのみならず潰瘍性大腸炎モデルマウスの炎症も改善することを報告してきた(2~5)2) 山村国際高等学校生物部:マウス腸内フローラから観察したマヌカハニーの機能性,第6回高校生バイオサミットin鶴岡慶應義塾大学先端生命科学研究所鶴岡市(農林水産大臣賞受賞),2016.3) 山村国際高等学校生物部:化学と生物,55, 68(2017).4) 山村国際高等学校生物部:マウス腸内フローラから健康食品の機能性を探る,第7回高校生バイオサミットin鶴岡慶應義塾大学先端生命科学研究所鶴岡市(審査員特別賞受賞),2017.5) 山村国際高等学校生物部:マウス潰瘍性大腸炎モデルから観察したマヌカハニーの機能性,第8回高校生バイオサミットin鶴岡慶應義塾大学先端生命科学研究所鶴岡市(審査員特別賞受賞),2018.

チョコは若い世代(10代)で最も人気のある菓子であるが(6)6) 10代男女1005名を対象にお菓子に関する調査,estee.co/teens-snacks, 2017.,高カロリーで糖質が多いため,毎日摂取すると体重増加が気になる菓子でもある.一方,乳酸菌やビフィズス菌は通称善玉菌と呼ばれ,増加すれば悪玉菌と呼ばれるクロストリジウムを減少させると共に,日和見菌の一種であるバクテロイデス(以下,日和見菌)を増加させて腸内フローラのバランスを改善することが知られている(7,8)7) 大野博司,服部正平編:常在細菌叢が操るヒトの健康と疾患,実験医学(増刊),32(5),羊土社,2014.8) もう1つの臓器~腸内細菌叢の機能に迫る~:太陽エージェンシー,2017..さらに日和見菌による短鎖脂肪酸の産生が脂肪細胞の脂肪の取り込みを防ぐなどして体重増加を抑制するとの報告がある(9)9) 安藤 朗編:“別冊・医学のあゆみ 腸内細菌と臨床医学”,医歯薬出版,2018..このような背景から,チョコに乳酸菌が添加されれば,腸内フローラのバランスを改善してマウスの体重減少につながるのではないかと考えた.しかもチョコは,(1)加工に高温を必要としない,(2)脂質により水分を含まない,さらに(3)硬化すれば空気を遮断する特性などを有し,乳酸菌の保存に適するとの報告もある(10)10) 米島靖記,久 景子,松原由以子:化学と生物,56, 47 (2018).

そこで本研究では,高脂肪飼料で強制的に肥満誘導させた肥満マウスに森永乳業が発見したヒト由来の殺菌乳酸菌が添加されたシールド乳酸菌チョコ(11)11) 森永製菓(株):たべる乳酸菌シリーズ,morinaga.co.jpを投与して体重の減少効果を検証した.

【材料および方法】

1. 肥満マウスに与えた試料

試料は,対照区は日本クレア(株)の「飼育繁殖用飼料CE-2(以下,普通飼料)」を摂取させ,実験区には同じく日本クレア(株)の「高脂肪飼料HFD-32(以下,高脂肪飼料)」を摂取させた.また,乳酸菌を含まないチョコとして,ロッテ(株)の「ガーナミルクチョコレート(以下,プレーンチョコ)」を投与した.一方,乳酸菌を含むチョコは,森永製菓(株)の「たべるシールド乳酸菌チョコレート(以下,乳酸菌チョコ)」を投与した(図1図1■肥満マウスに与えた各試料).また,今回実験に用いたプレーンチョコと乳酸菌チョコの栄養成分(推定値)は,乳酸菌の含量以外はほぼ同等であった(表1表1■プレーンチョコと乳酸菌チョコの栄養成分(50 gあたりの推定値)).

図1■肥満マウスに与えた各試料

表1■プレーンチョコと乳酸菌チョコの栄養成分(50 gあたりの推定値)
プレーンチョコ乳酸菌チョコ
エネルギー278 kcal273 kcal
タンパク質3.8 g2.8 g
脂質16.6 g15.8 g
炭水化物28.3 g30.0 g
食塩相当量0.08 g0.07 g
シールド乳酸菌乳酸菌100億個

2. 肥満マウスの飼育方法

試験マウスは,東京実験動物から購入したICRマウス(6週齢,オス,12匹)を20週齢(ヒトに換算すると10代の若い世代に相当)まで14週間高脂肪飼料のみを自由摂取させ,肥満誘導による肥満マウス(体重約55 g)を作成した(図2図2■肥満誘導されたマウス(オス)).

図2■肥満誘導されたマウス(オス)

その後,表2表2■肥満マウスの試料摂取とチョコの投与量に示した対照区と実験区に分けて30日間,対照区の肥満マウスには普通飼料を,すべての実験区①~③には高脂肪飼料のみを自由摂取(ケージの給餌口に10 g/日投与)させた.また実験区②にはプレーンチョコを,実験区③には乳酸菌チョコを,それぞれ1日1回「おやつ」として,ピンセットで直接マウスに15時頃に投与した.なお,実験区②と実験区③のチョコの投与量については,ヒトの体重(平均体重50 kg)を基準に,1日あたりのメーカー摂取目安量(25 g)を肥満マウスの平均体重(約55 g)に単純換算して,プレーンチョコおよび乳酸菌チョコを約28 mg投与した.肥満マウスは3匹を1群として設定し,照明は9時から17時まで,室温は24±3°Cの範囲とした.また実験の全期間は,文部科学省「研究機関等における動物実験等の実験に関する基本指針」に準じた.

表2■肥満マウスの試料摂取とチョコの投与量
対照区肥満マウス実験区①肥満マウス実験区②肥満マウス実験区③肥満マウス
普通飼料(CE-2)自由摂取
高脂肪飼料(HFD-32)自由摂取自由摂取自由摂取
プレーンチョコ投与量28.0 mg/日
乳酸菌チョコ投与量28.0 mg/日

3. 体重測定

体重は2日おきに毎回16時頃に電子天秤で測定した.

4. マウス腸内フローラの解析

腸内フローラの解析には,実験最終日(30日後)に飼育ケージから回収した糞便を冷凍(-18°C)し,分子生物学的手法である16S rRNAを用いたterminal-restriction fragment length polymorphism(T-RFLP)系統解析により検証した(テクノスルガ・ラボ委託).

【結果および考察】

図3図3■各試料による肥満マウスの体重変化に肥満マウスに各試料を投与した際の体重変化を示す.対照区は高脂肪飼料から普通飼料に変更したため,投与終了時の30日後には投与開始時と比べて約51 g(−7%)に体重は減少した.一方,実験区①のマウスは,そのまま高脂肪飼料のみを自由摂取させたため,投与終了時には投与開始時と比べて約61 g(+11%)まで体重が増加した.これを対照区のマウスと比較すると約1.7倍も体重増加が観察されたことから肥満型のマウスと考えた.また実験区②のマウスは,高脂肪飼料にプレーンチョコを与えた結果,投与終了時には投与開始時と比べて約59 g(+7%)の体重増加が観察された.しかし,このプレーンチョコに含有されるカカオ由来のポリフェノールなどの作用によるものかは不明であるが,実験区①のマウスよりも体重増加が抑えられていた.一方,高脂肪飼料に乳酸菌チョコを与えた実験区③のマウスは,投与開始10日後から体重の減少が観察され,投与終了時には投与開始時と比べて約53 g(−4%)の体重減少となった.また,投与終了時の実験区①のマウスの体重約61 gと比較すると,約8 g(−13%)の有意な体重の減少効果を示した(Mean±S.E., p<0.001).

図3■各試料による肥満マウスの体重変化

n=3, mean±S.E., ※p<0.001(Student’s t-test)

プレーンチョコと乳酸菌チョコは,表1表1■プレーンチョコと乳酸菌チョコの栄養成分(50 gあたりの推定値)に示したように,エネルギー,脂質,炭水化物量にはほとんど差はなく,乳酸菌の有無の違いが実験区①の高脂肪飼料に対する両者の体重の減少効果の差に大きく影響を与えていることが推察された.

よって,乳酸菌チョコの摂取による腸内フローラの改善により体重の減少効果が顕在化した可能性が考えられたことから,次に各試料の摂取によるマウス腸内フローラのプロファイルについて糞便を用いて検証した(図4図4■各試料による肥満マウスの腸内フローラのプロファイル).高脂肪飼料から普通飼料に変更した対照区は,日和見菌が全実験区で最も多かった.ワシントン大学のゴードン博士らの研究で「日和見菌は肥満を防ぐ可能性のある腸内細菌(やせ菌)であり,悪玉菌であるクロストリジウムは肥満の可能性のある腸内細菌(デブ菌)」と報告されていることから(12)12) P. J. Turnbaugh, R. E. Ley, M. A. Mahowald, V. Magrini, E. R. Mardis & J. I. Gordon: Nature, 444, 1027 (2006).,高脂肪飼料から普通飼料に変更したことにより,普通飼料に含まれる食物繊維などが日和見菌の餌となり,この日和見菌が増殖して腸内フローラのバランスが改善されたのではないかと考えた.一方,実験区①は,食物繊維などを多く含まない高脂肪飼料のみのため,食物繊維を餌とする日和見菌の減少により,悪玉菌が相対的に増加して腸内フローラのバランスが悪化したのではないかと考えた.またプレーンチョコを投与した実験区②は,このチョコに含まれるカカオ由来のポリフェノールなどによる腸内フローラの改善効果を期待したが,善玉菌や日和見菌が実験区①と比較して減少した.このことから実験区②のプレーンチョコのみでは,腸内フローラのバランスが改善されず,これが原因で乳酸菌チョコと比較してプレーンチョコの方が体重の減少効果が小さい可能性が考えられる.一方,肥満マウスの体重が有意に減少した乳酸菌チョコを投与した実験区③は,日和見菌が実験区①よりも増加すると共に,他の実験区ではほとんど認められなかった善玉菌であるビフィズス菌(約2%)も認められた.この理由としては殺菌乳酸菌でも腸内フローラに好影響を与えるとの報告があることから(13)13) 光岡知足:“人の健康は腸内細菌で決まる!”,技術評論社,2011.,乳酸菌チョコに含有されるシールド乳酸菌(殺菌乳酸菌)の菌体成分が,腸内フローラのバランス改善に機能してビフィズス菌が出現したのではないかと考えた.このビフィズス菌は,動物の腸管以外には生息しない腸内細菌で便通の改善を図り,ヒトでは便秘の解消につながるのはもちろんのこと,酢酸を産生して腸内を酸性に保ち悪玉菌の増殖を抑えることが知られている(7,8)7) 大野博司,服部正平編:常在細菌叢が操るヒトの健康と疾患,実験医学(増刊),32(5),羊土社,2014.8) もう1つの臓器~腸内細菌叢の機能に迫る~:太陽エージェンシー,2017..さらに悪玉菌の減少は,逆に日和見菌の増加による短鎖脂肪酸(酢酸・酪酸・プロピオン酸など)の産生から,脂肪の代謝促進や脂肪細胞による脂肪の取り込みを防ぎ,余分な脂肪の蓄積を防ぐため体重増加の抑制につながると報告されていることから(9)9) 安藤 朗編:“別冊・医学のあゆみ 腸内細菌と臨床医学”,医歯薬出版,2018.,実験区③の乳酸菌チョコの投与は,善玉菌であるビフィズス菌や日和見菌の増加に加え,悪玉菌の減少が体重の減少効果に大きく貢献していることが考えられた.

図4■各試料による肥満マウスの腸内フローラのプロファイル

n=3, ⓐ=善玉菌(乳酸菌・ビフィズス菌)ⓑ=日和見菌(バクテロイデス)ⓒ=悪玉菌(クロストリジウム)

【結論】

肥満マウスに乳酸菌チョコを,ヒトの体重あたりの摂取目安量をマウスの体重に単純換算して「おやつ」として投与すると,腸内フローラの善玉菌(ビフィズス菌・乳酸菌)と日和見菌(バクテロイデス)が増加し,悪玉菌(クロストリジウム)が減少して体重の減少効果が示唆された.

本研究の意義と今後の展望

乳酸菌による抗肥満作用は以前から知られているが,これに高カロリーで糖質が多いチョコレートを組み合わせた「乳酸菌とチョコレート」による抗肥満作用が本研究テーマであり,肥満マウスで体重の減少効果を検証することができた.

乳酸菌やチョコレートを変えれば,多数の組み合わせが考えられる.今後は,乳酸菌の種類や添加量はもちろんのこと,チョコレートに含まれるカカオポリフェノールの含有量の差異による変化を検討している.また,今回は肥満マウスによる検証であったが,同じ哺乳動物のヒトにおいても,乳酸菌チョコレートを「おやつ」として食べれば体重を気にすること無く,体重減少などのダイエット効果を示す可能性が考えられる.さらにオスマウスに加えてメスマウスでも検討を行い,若い世代の女子のダイエット効果への可能性についても明らかにしていきたい.

Acknowledgments

生物部の研究は,(公)武田科学振興財団の「(2019年度)高等学校理科教育振興助成」に採択され研究費の支援を受けております.この場をお借りしてお礼申し上げます.

Note

本研究は、日本農芸化学会2021年度大会(仙台)における「ジュニア農芸化学会」(発表は新型コロナウイルス感染症対策のためオンライン形式で実施)に応募された研究のうち、本誌編集委員会が優れた研究として選定した6題の発表のうちの一つです。

Reference

1) 山村国際高等学校生物部:天然食品「マヌカハニー」の絶大な抗菌効果,第13回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞(神奈川大学),2015.

2) 山村国際高等学校生物部:マウス腸内フローラから観察したマヌカハニーの機能性,第6回高校生バイオサミットin鶴岡慶應義塾大学先端生命科学研究所鶴岡市(農林水産大臣賞受賞),2016.

3) 山村国際高等学校生物部:化学と生物,55, 68(2017).

4) 山村国際高等学校生物部:マウス腸内フローラから健康食品の機能性を探る,第7回高校生バイオサミットin鶴岡慶應義塾大学先端生命科学研究所鶴岡市(審査員特別賞受賞),2017.

5) 山村国際高等学校生物部:マウス潰瘍性大腸炎モデルから観察したマヌカハニーの機能性,第8回高校生バイオサミットin鶴岡慶應義塾大学先端生命科学研究所鶴岡市(審査員特別賞受賞),2018.

6) 10代男女1005名を対象にお菓子に関する調査,estee.co/teens-snacks, 2017.

7) 大野博司,服部正平編:常在細菌叢が操るヒトの健康と疾患,実験医学(増刊),32(5),羊土社,2014.

8) もう1つの臓器~腸内細菌叢の機能に迫る~:太陽エージェンシー,2017.

9) 安藤 朗編:“別冊・医学のあゆみ 腸内細菌と臨床医学”,医歯薬出版,2018.

10) 米島靖記,久 景子,松原由以子:化学と生物,56, 47 (2018).

11) 森永製菓(株):たべる乳酸菌シリーズ,morinaga.co.jp

12) P. J. Turnbaugh, R. E. Ley, M. A. Mahowald, V. Magrini, E. R. Mardis & J. I. Gordon: Nature, 444, 1027 (2006).

13) 光岡知足:“人の健康は腸内細菌で決まる!”,技術評論社,2011.