解説

ワンポットペプチドセグメント縮合法を利用した糖タンパク質の化学合成精密化学合成で効率よくタンパク質を作り上げる

Chemical Synthesis of Glycoproteins by One-pot Peptide Segment Condensation Method:How Can we Make a Bigger Protein?

Yuya Asahina

朝比奈 雄也

大阪大学蛋白質研究所

Published: 2022-03-01

タンパク質の約半数は,糖鎖修飾を受けた糖タンパク質として存在する.この糖鎖は,さまざまな生命現象にかかわることが知られている.糖鎖構造を含めて純粋な糖タンパク質サンプルを得る方法として,われわれは化学合成法を選び,その研究を進めてきた.本解説では,糖タンパク質合成の方法論の開発過程で得られたワンポットペプチドセグメント縮合法について述べる.

Key words: (糖)タンパク質; ペプチド; ペプチドセグメント縮合法(ペプチドライゲーション法); ペプチドチオエステル

糖タンパク質とは

タンパク質は,DNAの転写から始まるセントラルドグマの最終産物であり,生命活動の根幹を担う.真核生物などでは,タンパク質はRNAからの翻訳後にさまざまな修飾を受け,さらなる機能を付与される.このときに糖鎖付加を受けたものは,糖タンパク質として生成される.この糖鎖は,知られているものを挙げると,細胞の接着,認識,シグナル伝達,ガン化,ウィルス感染など,さまざまな生命現象とかかわる.しかし,この糖タンパク質糖鎖の機能はいまだに不明瞭である.その原因は,天然糖タンパク質糖鎖のミクロ不均一性に起因している.糖タンパク質糖鎖は,同じタンパク質であっても分子間で糖鎖構造が少しずつ違っているため,糖鎖構造まで均一なサンプルを複雑な混合物から分離し,調製することが難しい.そのため,さまざまな糖鎖構造を持つタンパク質に対して系統的に機能を解析し,存在意義を解釈することができないためである.通常,タンパク質を調製する場合,大腸菌などの宿主細胞を利用した発現系が第一選択肢として利用されている.しかし,発現系では宿主細胞の翻訳システムを利用する以上,それにそぐわないタンパク質の発現は不可能である.たとえば,大腸菌はそもそも翻訳後修飾機構を持たないので,糖タンパク質の調製は不可能であるし,哺乳細胞を使った場合でも,得られる糖鎖構造は制限される.加えて,部位特異的修飾や宿主細胞に対する毒性を持つタンパク質の発現も難しい.そこで,筆者らは精密有機化学によって,糖鎖構造まで含めて純粋な糖タンパク質を合成する研究を行っている.化学合成なら,原理上,天然,非天然に限らず,純粋な目的化合物を構築することができるため,糖タンパク質を含め,さまざまな翻訳後修飾や化学修飾を含むサンプルを調製することが可能である.しかし,糖タンパク質化学合成はいまだ未開拓である点が多く,自在にサンプルを調製するためには,さまざまな問題が残っている.

糖タンパク質の化学合成とペプチドセグメント縮合法

一般的な糖タンパク質の化学合成では,図1図1■糖タンパク質の合成経路の概略に示すような合成経路が取られる.まずは,糖アミノ酸の合成である.無保護の単糖から順次,保護脱保護,グリコシル化を繰り返し,目的の糖鎖骨格を持った糖アミノ酸誘導体を得る.次に,その糖アミノ酸を固相合成法に応用し,糖ペプチドへと導く.固相法のペプチド鎖の伸長限界は,通常30~50残基程度と言われている.よって,これより長鎖のポリペプチドを合成する際には,まず,全長ペプチドを適切な箇所で分割したペプチドセグメントとして調製する.次に,ペプチドセグメント縮合法により連結することで,目的の全長ペプチドを構築する.効率的かつ汎用性の高い全合成を行うためには,解決すべき課題が糖鎖合成の工程だけでなく,ペプチド合成の工程でも多く存在した.それらの解決策として,われわれは新しい方法論を報告してきた.特に,本解説では,ペプチドセグメント縮合法の新規ワンポット法を主題にして議論させていただく.このペプチドセグメント縮合法の難しさは,反応の選択性を如何にして得るかに尽きる.すなわち,側鎖に遊離した求核,求電子性の官能基を豊富に持つペプチド同士を,ある特定の部位で選択的に連結しなければならない.そこで,いくつかのセグメント縮合法が開発されてきた.特にわれわれが利用してきたものは,チオエステル法(1, 2)1) H. Hojo & S. Aimoto: Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 111 (1991).2) S. Aimoto: Biopolymers, 51, 247 (1999).とネイティブケミカルライゲーション(NCL)法(3, 4)3) P. E. Dawson, T. W. Muir, I. Clark-Lewis & S. B. H. Kent: Science, 266, 776 (1994).4) P. E. Dawson & S. B. H. Kent: Annu. Rev. Biochem., 69, 923 (2000).である.どちらの方法も,チオエステルを反応の足場にすることで,ペプチド同士の選択的な縮合を可能にしている.

図1■糖タンパク質の合成経路の概略

チオエステル法は,1991年に相本らにより開発された方法である(1, 2)1) H. Hojo & S. Aimoto: Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 111 (1991).2) S. Aimoto: Biopolymers, 51, 247 (1999).図2図2■チオエステル法(左)とネイティブケミカルライゲーション法(右)左に示すように,この方法では,N末端セグメントの縮合点となる末端アミノ酸残基をアルキルチオエステルとして調製する.次に,DMSOなどの極性有機溶媒下,HOOBt共存下でAgを添加することで,チオエステルから活性エステルへ誘導する.ここに遊離の末端アミノ基を持つC末端セグメントが反応することで,選択的な縮合反応が進行し,連結ペプチドを得ることができる.本反応では,ペプチド側鎖に含まれる水酸基,グアニジノ基,カルボン酸,イミダゾールなどを保護する必要の無い一方,求核性が非常に高いアミノ基やチオールは保護する必要があるため,ペプチドセグメントの調製に若干の煩雑性がある.原理上,どの残基間でも縮合点として利用することができるが,不斉アミノ酸のカルボキシ基を活性化する場合,反応中に生じるエピマー化の懸念が拭えない.よって,通常は不斉中心のないGly,もしくはエピマー化が生じないPro残基をセグメントの分割点として利用し,縮合を行う.セグメントの分割点が限定されているように見えるが,GlyやProは一次配列中に普遍的に出現するアミノ酸である.よって,実務上で縮合点の選択に困ることはほぼ無く,セグメントの分割点を柔軟に選択できるという強い利点を持つ縮合法と言える.

図2■チオエステル法(左)とネイティブケミカルライゲーション法(右)

NCL法は,1994年にKentらによって報告されたペプチド縮合法である(3, 4)3) P. E. Dawson, T. W. Muir, I. Clark-Lewis & S. B. H. Kent: Science, 266, 776 (1994).4) P. E. Dawson & S. B. H. Kent: Annu. Rev. Biochem., 69, 923 (2000).図2図2■チオエステル法(左)とネイティブケミカルライゲーション法(右)右に示すように,この方法ではチオエステルを持つN末端セグメントと,末端遊離のCys残基を持つC末端セグメントを,中性水溶液下で混合するだけで,分子間チオエステル交換反応に続く,S to Nアシル転位を経て,目的の縮合体を得る方法である.本方法の最大の長所は,極めて官能基寛容性が高いことであり,ペプチド側鎖を全く保護することなく縮合の選択性が得られる.この簡潔さと簡便さから,現在で最も利用されているペプチドセグメント縮合法となった.この高い選択性は,チオエステルとCysとのチオエステル交換反応から生じる特異な反応機構から発現されている.反面,この長所は,セグメント分割点をXaa-Cys間に限定してしまう短所にもなる.タンパク質の一次配列中に含まれるCysは希少であり,加えて,都合の良い位置に存在しないこともあり,NCL法を適用できない場面も多い.この解決法として,縮合に利用したCys残基を,後に還元的脱硫することで,Ala残基に変換する方法論が報告された.特に,Danishefskyらにより開発されたホスフィンとラジカル開始剤による脱硫反応は,温和かつ効率よくAla残基へ変換することができるため,Xaa-Ala間も縮合点として利用することが可能になった(5)5) Q. Wan & S. J. Danishefsky: Angew. Chem. Int. Ed., 46, 9248 (2007)..この方法の発展により,Cysが1残基も無い,もしくは適当な位置にCys残基がないタンパク質の合成にも利用することが可能となり,ますますNCL法の適用範囲を広げた.一方,語られることも少ないが,NCL法では縮合アミノ酸残基の種類(Xaa-Cys)によって縮合効率が左右される(6)6) T. M. Hackeng, J. H. Griffin & P. E. Dawson: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 10068 (1999)..たとえば,XaaがVal, Ile, Thr, Proなど,立体障害などでカルボキシ基の反応性が低下しているアミノ酸残基の場合,縮合効率が大幅に低下することもある.加えて,Glu, Gln, Asp, Asnでは,分子内環化反応による副反応が生じる恐れもある.これら問題点に留意しながら,適切なセグメント分割点を計画しなければならない.

以上述べたように,チオエステル法とNCL法はそれぞれ一長一短であり,合成目標のタンパク質の一次配列などによって適切に縮合法を選ぶ必要がある.言い方を変えれば,適切に選択すれば,どちらの方法でも長鎖ポリペプチドを効率よく合成することのできる優れた方法である.

3セグメント縮合時の問題

前項で述べたペプチドセグメント縮合法の発展により,より長鎖のポリペプチドの合成が実現されるようになった.しかし,それに伴い,より多くのセグメントを複数回縮合することが求められるようになった.図3図3■従来の3セグメント縮合経路では,例として3つのペプチドセグメントを縮合する場合の合成経路を示している.1回目の縮合は,中央セグメントとC末端セグメントとの間で行われる.この際,自己環化反応やポリマー化などを防ぎ,選択的な縮合を進めるために,中央セグメントのN末端アミノ酸残基は,何らかの保護基を導入しておく必要がある.これは,チオエステル法やNCL法であっても変わらない.縮合完了後,さらなる連結反応に備え,末端アミノ酸残基の脱保護を行い,次いで中間体セグメントを逆相HPLCなどで一度単離する.次に,N末端セグメントと再度縮合を行うことで,目的の3連結縮合体を得ることになる.このように,従来法ではC to N末端方向へセグメント縮合を段階的に進めていく.しかし,この方法では,保護基の着脱に伴い,必ず中間体セグメントを精製しなければならない.ペプチドの精製は,一般的な有機化合物の精製と異なって回収率が低い.特に,疎水性の高いペプチドの場合,逆相クロマトグラフィーの担体に不可逆的な吸着を生じ,50%も回収できないこともある.また,ペプチド鎖が長鎖になればなるほど,回収率が低下する傾向がある.よって,1回でも精製工程を回避すれば,大幅に収率を向上させることができる.そこでわれわれは,3つのペプチドセグメントをワンポットで連続的に縮合する方法を検討し,この中間体の精製による収率の低下を防ごうと考えた.

図3■従来の3セグメント縮合経路

ワンポットチオエステル法の開発

まずは,チオエステル法でのワンポット化を目指した.前項で紹介したチオエステル法は,Agでアルキルチオエステルを活性化するAg-promoted型のものである.その後,われわれは,従来法で使用していたアルキルチオエステルを芳香族チオエステルにすることで,Agの添加がなくとも縮合反応が進行することを見いだした(7)7) H. Hojo, Y. Murasawa, H. Katayama, T. Ohira, Y. Nakahara & Y. Nakahara: Org. Biomol. Chem., 6, 1808 (2008)..芳香族チオールは,アルキルチオールよりも脱離能が高いため,Ag-free条件下でも直接HOOBtと交換反応が進み,活性エステルを生成することができる.これは,芳香族チオエステルとアルキルチオエステルの間には,反応性に大きな違いがあるということを示していた.そこでわれわれは,この反応性の差を利用して,新しいワンポット法を開発した(図4図4■ワンポットチオエステル法を利用した糖タンパク質Tim-3 Ig様ドメインの合成).この方法は,糖タンパク質Tim-3 Ig様ドメインの合成で初めて利用された(8)8) Y. Asahina, S. Kamitori, T. Takao, N. Nishi & H. Hojo: Angew. Chem. Int. Ed., 52, 9733 (2013)..目的の糖タンパク質の全長107残基をN末端セグメント(1–31),中央セグメント(32–68),C末端セグメント(69–107)の3つのセグメントに分割し,それぞれを固相法により調製した.この際,N末端セグメントを芳香族チオエステルとして,中央セグメントをアルキルチオエステルとしてそれぞれ調製した.次に,これらセグメント同士を,Ag-freeチオエステル法条件下に処した.そうすると,反応性の高いN末端セグメントの芳香族チオエステルのみが選択的に活性エステルへと導かれた.一方,中央セグメントのアルキルチオエステルは,この条件では全く活性化されなかった.つまり,N末端セグメントと中央セグメントの縮合反応が選択的に進み,望む中間体セグメント(1–68)を与えた.その反応液に,C末端セグメントとAgを添加することで次の反応を開始した.このAg-promotedチオエステル法条件下では,中間体セグメントのアルキルチオエステルを活性化することができ,続く縮合が進行した.その結果,Ig様ドメイン(1–107)のポリペプチド鎖を効率よく合成することに成功した.得られた全長ペプチドは,脱保護とフォールディング,糖転移反応を経て,均一な複合型糖鎖9糖を持つ糖タンパク質へと導かれた.以上のように,従来のC to N末端方向への段階的な縮合法とは逆の,N to C末端方向への連続的な3セグメント縮合法を確立した.また,縮合工程での保護基の着脱がなくなるだけでなく中間体の精製を回避できたことから,収率も従来法と比べると約2倍程度向上することもわかった.この方法は,Emmprin Ig様ドメイン(9)9) Y. Asahina, M. Kanda, A. Suzuki, H. Katayama, Y. Nakahara & H. Hojo: Org. Biomol. Chem., 11, 7199 (2013).(全長104残基)や糖付きインターロイキン-2(10)10) Y. Asahina, S. Komiya, A. Ohagi, R. Fujimoto, H. Tamagaki, K. Nakagawa, T. Sato, S. Akira, Y. Nakahara, H. Hojo et al.: Angew. Chem. Int. Ed., 54, 8226 (2015).(全長133残基)の全合成に応用され,効率よく目的の全長ポリペプチド鎖を得ることに成功している.加えて,さらに反応性の高いセレノエステル,芳香族チオエステル,アルキルチオエステルを利用することで,4セグメントワンポット縮合まで達成されている(11)11) T. Takei, T. Ando, T. Takao & H. Hojo: Angew. Chem. Int. Ed., 59, 15708 (2017)..中間体の精製工程を2度も減らし,巨大なポリペプチド鎖の合成が一挙に可能となった.しかし,あまりにもセレノエステルの反応性が高すぎるためか,誘導体の安定性が低く,一部副反応も生じるため,合成の適用範囲は限定されているかもしれない.今後の改善点の1つであると考える.

図4■ワンポットチオエステル法を利用した糖タンパク質Tim-3 Ig様ドメインの合成

ワンポットNCL法の開発

続いて,NCL法のワンポット化に着手した.われわれは,ペプチドセグメント縮合法の鍵化合物であるペプチドチオエステルの調製法を2種類開発している.それは,cysteinylprolyl ester(CPE)法(12)12) T. Kawakami & S. Aimoto: Chem. Lett., 36, 76 (2007).N-alkylcysteine(NAC)法(13, 14)13) H. Hojo, Y. Onuma, Y. Akimoto, Y. Nakahara & Y. Nakahara: Tetrahedron Lett., 48, 25 (2007).14) Y. Asahina, K. Nabeshima & H. Hojo: Tetrahedron Lett., 56, 1370 (2015).である(図5図5■2種類のペプチドチオエステル調製法).CPE法はでは,まず,C末端にCys-Pro-OR構造を導入されたペプチドを固相合成法により調製する.次に,このペプチドを弱塩基性水溶液(pH 7.8以上)に溶解すると,Cysのチオールが自発的にN to Sアシル転位を引き起こす.それと同時に,Cysの窒素がProのカルボニル基と分子内アシル転位をさらに起こし,CysとProのジケトピペラジンが形成される.このジケトピペラジン形成反応は,環状アミノ酸であるProがシス配座に傾き,Cysアミノ基の近傍に固定化することで,駆動するものと予想されている.上記の様な反応を経て,NCL法の反応基質であるチオエステルへと変換される.一方,NAC法では,C末端にN-アルキル化したCysが導入されたペプチドを弱酸性条件下(pH 4-6)に処すと,N to Sアシル転位平衡反応が生じる.ちなみに,ペプチド中の単純なCys残基は,NACの様に温和な条件でN to Sアシル転位を引き起こさない.以前の検討で,Leucyl-N-ethylcysteineジペプチドのX線結晶構造解析を行った結果,通常平面であるべきアミドがN-アルキル化による立体障害によって,緩やかに歪んでいることがわかった(15)15) Y. Nakahara, I. Matsuo, Y. Ito, R. Ubagai, H. Hojo & Y. Nakahara: Tetrahedron Lett., 51, 407 (2010)..この歪みにより,アミドの安定性に最も寄与する互変異性が妨げられているため,通常のアミドよりも求電子性が若干高まっている.加えて,近傍にあるチオールが求核する際,反応に最も有利な5員環を形成できることも大きい.事実,NACのチオールとα炭素間を1つ増炭したもの,すなわちN-アルキルホモシステインでは,この平衡反応は全く観測されなかった.NACは,これらの条件が重なったことでこのユニークな平衡反応を駆動しているものと推察している.転位体であるS-アシル体は,チオエステルであるため,NCLの反応基質となることができる.CPEとNACは,各々の至適pHを外れると全くチオエステル等価体として機能せず,不活性な状態のまま保持される.このことは,CPEとNACが別々のpHで直交して活性化できることを示していた.そこで,CPEとNACの直交性(orthogonality)を利用したワンポット縮合法を開発した.この方法は,ヒストンH4の合成に利用された(16)16) Y. Asahina, T. Kawakami & H. Hojo: Chem. Commun. (Camb.), 53, 2114 (2017).図6図6■2つのチオエステル等価体を利用したワンポットNCL法).ヒストンH4の全長配列を3つのセグメント(1–37),(38–68),(69–102)の3つのセグメントに分割し,それぞれを固相法によりペプチド鎖を伸長した.まずは,CPE付きN末端セグメントとNAC付き中央セグメントとのNCL反応をpH 7.8の条件で開始した.この弱塩基性条件下では,CPE部分のみが選択的に活性化され,縮合反応を駆動し,中間体セグメント(1–68)を与えた.この系内でNACは全く活性化されず,反応しないアミド型を保持し続けた.この反応液に対して直接C末端セグメント(69–102)を加えるとともに,系内pHを5.5まで下げ,次の反応を開始した.この弱酸性条件下では,NAC部分のN to Sアシル転位反応が促進され,生じたチオエステル中間体とC末端セグメントとの連結反応が進行した.その結果,ヒストンH4(1–102)の全長をワンポットで効率よく合成することに成功した.問題となっていた中間体の精製を回避できるだけでなく,実験操作も反応液のpHを変えるだけであるため,非常に簡便である.さらに,この2種類のチオエステル等価体に加え,中性域(pH 7.0)でも十分に反応性のある芳香族チオエステルを利用した4セグメントワンポット縮合まで拡張された(17)17) Y. Asahina, T. Kawakami & H. Hojo: Eur. J. Org. Chem., 2019, 1915 (2019)..この方法では,高い反応性を持つ芳香族チオエステルを第1縮合に利用し,次に上記で述べたCPE, NAC付きのペプチドセグメントと順次縮合を進めていった.この方法は,糖付きヒストンH2Aの合成に利用され,全長129残基,分子量12 kDaと長鎖の巨大分子を精密合成することに成功した.現在,得られたサンプルを基に,ヌクレオソーム形成における糖鎖付加の影響を調べている.ワンポット化により,収率や実験効率も飛躍的に向上し,単独の実験者が最終産物を20 mg調製することを可能にした.この方法により,長鎖ポリペプチド鎖の円滑な合成が可能になるであろう.

図5■2種類のペプチドチオエステル調製法

図6■2つのチオエステル等価体を利用したワンポットNCL法

おわりに

本解説では,われわれが開発したタンパク質の化学合成におけるペプチドセグメント縮合法のワンポット化について述べた.長年の研究の甲斐あり,より複雑かつ,より巨大な糖タンパク質分子を精密に合成することが可能になった.今後は,得られた糖タンパク質サンプルの生化学的評価に利用され,糖タンパク質機能の系統的解析への糸口となることを期待している.

Reference

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