セミナー室

ポリフェノールと腸内細菌腸内細菌叢の変動を介した生体調節機能

Saeko Masumoto

升本 早枝子

福島大学食農学類

Published: 2022-03-01

はじめに

“飽食の時代”という言葉が生まれてから久しい現在では,食生活の多様化による脂質・糖質摂取量の増加や栄養バランスの悪化,野菜・果実摂取量の減少などにより肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病が増加している.先進国では平均寿命が伸び続ける一方で健康寿命との差が拡大し,医療費や介護給付費増大の原因となっており大きな社会問題となっている.

古代中国より伝承される「薬食同源」や「医食同源」の思想や,古代ギリシャの哲学者で“医学の祖”であるヒポクラテスの「汝の食を薬とせん,汝の薬を食とせん(Let food be thy medicine and medicine be thy food)」という言葉にあるように,食品に疾病予防機能を期待する考え方は古くから世界各地に根付いている.食品に含まれる栄養素を適切に摂取し,生体内で消化,吸収,代謝が正常に行われることにより健康状態は保たれる.日々の食生活において良好な栄養状態を保つことは,疾病を予防し健康を維持する為に非常に重要である.近年,多くの疫学調査や介入試験により,さまざまな食品や食品由来の機能性成分が疾病罹患リスクに与える影響や相関性が明らかになってきた.2型糖尿病や心血管疾患,肥満などの罹患リスクは,日常的な果実の摂取によって低減することが報告されており,果実に豊富に含まれるポリフェノール類やカロテノイド類などによる抗酸化作用や代謝調節機能などのさまざまな生体調節機能が寄与していると考えられている(1)1) I. Muraki, F. Imamura, J. E. Manson, F. B. Hu, W. C. Willett, R. M. van Dam & Q. Sun: BMJ, 347(aug28 1), f5001 (2013)..従来,食品中の機能性成分による生体調節機能の作用機序においては,機能性成分の腸管吸収性や体内動態,代謝などのBioavailability(生体利用性)が重要視されてきた.カテキン類やケルセチン,イソフラボン類など一部のポリフェノール類は,腸管における吸収率が比較的高く,肝臓や脂肪組織など各臓器・組織における生体調節機能の作用機序についても多くの報告がある(2)2) C. Manach, A. Scalbert, C. Morand, C. Remesy & L. Jimenez: Am. J. Clin. Nutr., 79, 727 (2004)..一方で,果実の主要な色素成分であるアントシアニン類や,リンゴやカカオに含まれるプロシアニジン類,ワインやウーロン茶など発酵食品に含まれる重合ポリフェノール類など,食品に含まれる多くのポリフェノール類は腸管での吸収率が極めて低いことが分かっている(3)3) T. Shoji, S. Masumoto, N. Moriichi, H. Akiyama, T. Kanda, Y. Ohtake & Y. Goda: J. Agric. Food Chem., 54, 884 (2006)..しかしながら,生体利用性が低いにもかかわらずさまざまな生体調節機能を示すことが分かっており,その作用機序については不明な点が多かった.近年,腸内細菌叢や腸内環境の改善が,肥満や2型糖尿病をはじめとするさまざまな疾病予防に寄与することが報告されている.食物繊維やオリゴ糖をはじめとする難消化性・非吸収性の食品成分が腸内環境の改善に寄与することから,非吸収性ポリフェノール類についても同様に腸内環境への影響が期待される.本稿では,近年報告されているポリフェノール類の摂取による腸内細菌叢の変動を介した生体調節機能について解説する.

ポリフェノール類と疾病予防

ポリフェノール類は,分子内にフェノール水酸基を複数もつ植物の二次代謝産物で,果実の色(赤,青,紫など)や渋み,褐変などに関連する成分である.また,その構造や性質によってフラボノイド類やフェノール類,縮合型タンニン類,加水分解型タンニン類など多岐に渡って分類され,その種類は8,000以上と言われている.中でもフラボノイド類は緑茶のカテキン類や大豆のイソフラボン類,果実や野菜の色素成分であるアントシアニン類など多くの種類があり機能性に関する報告も多い.

1990年代,フランスのS. Renaudらによって“赤ワインの消費量と虚血性心疾患による死亡率には負の相関関係がある”ことが報告された.さらに,その後の疫学調査によって赤ワインに含まれるカテキン,リスベラトロールなどが,LDLの酸化を軽減して動脈硬化の進行を抑制し,心血管疾患のリスクを軽減することが明らかになった.「フレンチパラドクス」説を裏付けるこの報告は,ポリフェノール類の機能性が注目される大きなきっかけとなった.現在に至るまで,ポリフェノール類の機能性についてはin vitroから大規模疫学調査に至るまで多くの研究が行われており,動脈硬化抑制作用,LDLコレステロール抑制作用,脂質代謝促進,抗炎症作用,血圧上昇抑制作用,血糖値上昇抑制作用などさまざまな報告がなされている.

アメリカの大規模疫学調査において,2型糖尿病の発症リスクと食事スタイルについて調査・解析した結果,果実を週3回摂取すると糖尿病の発症リスクが低下することが報告されている(1)1) I. Muraki, F. Imamura, J. E. Manson, F. B. Hu, W. C. Willett, R. M. van Dam & Q. Sun: BMJ, 347(aug28 1), f5001 (2013)..リンゴ,ブドウ,ブルーベリー,洋ナシなどの果実を週3回食べていた人は,食べていない人よりも2型糖尿病の発症率が約10%減少することが示されている.特にリンゴ,ブドウ,ブルーベリーを週2回以上食べた人は,糖尿病発症リスクが23%も減少していた.この報告では,リンゴをはじめとする果実には多くのポリフェノール類が含まれていることから,ポリフェノールが糖尿病発症リスクの低減に関係していると考察されている.また,デンマークにおける前向きコホート研究では,食事由来フラボノイド類の摂取量が500 mg/日以上の場合,心血管疾患およびガンに関連する死亡率や,糖尿病や肥満の罹患リスクが低下することを明らかにしている.さらに,フラボノイド類のうちフラボノール,フラバノール(モノマー,ポリマーいずれも)の摂取量が高いほど,糖尿病のリスクの低下と有意に相関したと報告している(4)4) N. P. Bondonno, F. Dalgaard, C. Kyro, K. Murray, C. P. Bondonno, J. R. Lewis, K. D. Croft, G. Gislason, A. Scalbert, A. Cassidy et al.: Nat. Commun., 10, 3651 (2019)..日本における高山コホート研究では,食事由来のポリフェノール摂取量が,心血管疾患および脳血管疾患,消化器疾患における死亡率と逆相関することが明らかになっている(5)5) C. Taguchi, Y. Kishimoto, Y. Fukushima, K. Kondo, M. Yamakawa, K. Wada & C. Nagata: Eur. J. Nutr., 59, 1263 (2020)..また,軽度の高コレステロール血症の被験者を対象とした介入試験では,プロシアニジン含有量の豊富なリンゴを1日2個(プロシアニジン類約850 mg/日)継続摂取することにより,血中脂質が減少して血管疾患のリスクを低減することが報告されている(6)6) A. Koutsos, S. Riccadonna, M. M. Ulaszewska, P. Franceschi, K. Trost, A. Galvin, T. Braune, F. Fava, D. Perenzoni, F. Mattivi et al.: Am. J. Clin. Nutr., 111, 307 (2020)..このように,近年の介入試験や疫学調査では,肥満や2型糖尿病,心血管疾患などの予防に対するポリフェノール類を含む食品の摂取の有効性だけではなく,有効なポリフェノール摂取量やポリフェノールの種類なども明らかになっている.

ポリフェノール類と腸内細菌

糖尿病や肥満,心血管疾患などの生活習慣病の発症には,肝臓や脂肪組織をはじめとする各臓器・組織における酸化ストレスの増大や,糖や脂質の代謝異常などによる炎症性サイトカインの増大などが影響している.そのため,ポリフェノール類の疾病予防効果に寄与する生体調節機能は,ポリフェノール類の有する強い抗酸化作用や抗炎症作用に起因するものと考えられていた.生体内で生じた異常に対しポリフェノール類が生体調節機能を発揮する為には,腸管から十分な量が吸収され,その分子構造が出来る限り保たれた状態で各臓器・組織・細胞へ到達することが望ましい.しかしながら,食事などで摂取されたポリフェノール類は,酵素や腸内細菌による分解や,腸管上皮や肝臓における抱合体化など,生体内での吸収代謝の過程でその構造が大きく変化し,機能性も変化する.また,食品中にはプロシアニジン類やアントシアニン類のように,消化管での吸収率が極めて低く,生体利用性がほとんど無いポリフェノール類も数多く存在している.こうしたことから,ポリフェノール類の生体調節機能が次々に明らかになる一方で,その作用機序については不明な点が多く残っていた.しかし近年,次世代シーケンサーや質量分析装置の発展により分析・解析能力が飛躍的に向上したことから,腸内細菌叢や腸内環境,代謝物などが免疫機能や代謝調節に与える影響や作用機序が明らかになってきた.Gordonらは,肥満者の腸内細菌を痩せ型の無菌マウスに移植すると体重が増加することを報告している.また,肥満者の腸内細菌叢では通常のヒトと比較してFirmicutes門の比率が高く,Bacteroidetes門の比率が減少していることを明らかにした(7)7) P. J. Turnbaugh, R. E. Ley, M. A. Mahowald, V. Magrini, E. R. Mardis & J. I. Gordon: Nature, 444, 1027 (2006)..このことからFirmicutes門とBacteroidetes門の比率(F/B値)は腸内環境を示す指標の一つとなっている.腸内環境は,免疫や脂質代謝に影響をおよぼし,肥満や2型糖尿病をはじめとするさまざまな疾病の発症にかかわっており,宿主の恒常性や健康維持において重要な役割を担っている.こうした背景から,食品成分の生体調節機能の新たな作用機序として「腸内細菌への影響」が注目されるようになってきた.

腸内環境の改善には,食物繊維やオリゴ糖をはじめとする難消化性・非吸収性の食品成分が寄与することが知られており,同様に非吸収性のポリフェノール類についても腸内環境改善の効果が期待される.リンゴ由来プロシアニジン類は,カテキンまたはエピカテキンが複数重合した構造をしており,in vivo試験において4量体以下では腸管から吸収されるが,5量体以上では吸収されないことが確認されている(3)3) T. Shoji, S. Masumoto, N. Moriichi, H. Akiyama, T. Kanda, Y. Ohtake & Y. Goda: J. Agric. Food Chem., 54, 884 (2006)..筆者らは,この重合度による生体利用性の違いに着目し,食餌性肥満モデルマウスにおける肥満抑制効果および作用機序の違いを検討した.C57BL/6jマウスに高脂肪・高ショ糖食を摂取させて食餌性肥満モデルとし,試験群にはリンゴ由来プロシアニジン類の4量体以下(低分子・吸収あり:OP)または5量体以上(高分子・吸収無し:PP)を20週間飲水投与した.その結果,OP摂取群およびPP摂取群のいずれにおいても,同程度の体重増加抑制や脂肪蓄積抑制が示された.リンゴ由来プロシアニジン類の抗肥満作用の作用機序として,脂質代謝やコレステロール合成,酸化ストレスに関与する遺伝子発現の変動やリパーゼ阻害活性が報告されている.しかしながら,PPは生体利用性が低いことから,これらの作用機序とは異なり,腸管内において生体調節機能にかかわる役割を果たしていると推測された.そこで,OP摂取群およびPP摂取群の盲腸内容物における腸内細菌叢を解析した結果,PP摂取群のみでBacteroidetes門の比率の増加が認められ,高脂肪・高ショ糖食のみを摂取した群と比較してF/B値が改善することが明らかになった.さらにPP群ではAkkermansia属の増加が顕著に認められた(8)8) S. Masumoto, A. Terao, Y. Yamamoto, T. Mukai, T. Miura & T. Shoji: Sci. Rep., 6, 31208 (2016)..肥満者や高コレステロール血症,高血糖などの症状を有するヒトは,正常なヒトと比べてAkkermansia属が少ないことが報告されている.また,Akkarmansia muciniphilaの増加により,胚細胞からの上皮性粘液(ムチン)の分泌が亢進することや,腸管上皮細胞のタイトジャンクション関連因子の遺伝子発現が増加し,バリア機能を向上させることが分かっている(9)9) A. Everard, C. Belzer, L. Geurts, J. P. Ouwerkerk, C. Druart, L. B. Bindels, Y. Guiot, M. Derrien, G. G. Muccioli, N. M. Delzenne et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 9066 (2013)..肥満や高血糖症では,腸内細菌叢の変化による腸管バリア機能の破綻により,腸内細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)の増加や血中への流入が起こる.これにより,LPSは肝臓をはじめとする各組織のToll様受容体に認識され,TNF-α, IL-6などの炎症性サイトカインが放出されることにより慢性炎症やインスリン抵抗性,耐糖能異常が亢進することが知られている(10)10) J. R. Turner: Nat. Rev. Immunol., 9, 799 (2009)..先の実験においてPP摂取群では,腸管上皮のタイトジャンクション関連因子の遺伝子発現の増加や,血中のLPSの減少,炎症性サイトカインの減少,ムチン層の増加などが示された.すなわち,PP摂取によりAkkarmansia属の増加に伴って腸管上皮のバリア機能が向上したことにより,血中へのLPS流入量が減少したと考えられる.その結果,肝臓や脂肪組織における代謝異常や炎症が抑制され,肥満抑制に寄与したと考えられる(図1図1■腸内細菌叢の変動を介したリンゴ由来プロシアニジンの抗肥満作用).また2型糖尿病モデル試験においても,リンゴ同様にプロシアニジン類を多く含むクランベリーやブドウの摂取により,体重増加や血糖値の上昇が抑制されることが明らかにされており,Bacteroidetes門の増加によるF/B値の改善やAkkarmansia属の増加のほか,タイトジャンクション関連因子の遺伝子発現増加や炎症抑制,酸化ストレスの減少なども確認されている(11, 12)11) F. F. Anhe, D. Roy, G. Pilon, S. Dudonne, S. Matamoros, T. V. Varin, C. Garofalo, Q. Moine, Y. Desjardins, E. Levy et al.: Gut, 64, 872 (2015).12) D. E. Roopchand, R. N. Carmody, P. Kuhn, K. Moskal, P. Rojas-Silva, P. J. Turnbaugh & I. Raskin: Diabetes, 64, 2847 (2015).

図1■腸内細菌叢の変動を介したリンゴ由来プロシアニジンの抗肥満作用

腸内細菌叢に変化を与える要因として,プレバイオティクスが挙げられる.プレバイオティクスは,「消化管上部で分解,吸収されない」「大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり,増殖を促進する」「大腸の細菌叢を健康的なバランスに改善し維持する」「宿主の健康に有益な効果をもたらす」といったこれらの条件を満たす食品成分とされている.これまでは,食物繊維や難消化性多糖類が主なプレバイオティクスとして考えられていたが,プロシアニジン類のような生体利用性の低いポリフェノール類も腸管内において同様の働きを担っていると考えられる(13)13) F. F. Anhe, T. V. Varin, M. Le Barz, Y. Desjardins, E. Levy, D. Roy & A. Marette: Curr. Obes. Rep., 4, 389 (2015)..また,腸管から分泌される内在性因子や腸内細菌由来の代謝物は,腸内細菌叢の変動に伴って変化し,宿主の代謝調節や恒常性の維持に影響を及ぼすことから,作用機序を解明する上では注目すべき要因の一つである.抗炎症作用を示すビフィズス菌由来の代謝物が,ポリフェノールによって分泌もしくは産生が促進され,ビフィズス菌単独培養よりも強い抗炎症作用を示すことが報告されており,腸内細菌とポリフェノールの新たな機能的相互作用として注目されている(14)14) K. Kawabata, Y. Yoshioka & J. Terao: Molecules, 24, 370 (2019)..ポリフェノールの種類や宿主の病態によって内在性因子や腸内細菌由来の代謝物が大きく異なることが明らかになっているが,それらが生体調節機能に寄与する作用機序については不明な点が多く,さらなる研究の進展が期待される.

ポリフェノールと認知機能

World Alzheimer Report 2015によると,2015年時点での全世界の認知症患者数は4,680万人であり,2030年には2倍の約7,470万人に達すると報告している.前向き追跡研究である久山町研究や舟形町研究によって,糖尿病や耐糖能異常が,虚血性心疾患やガンだけでなくアルツハイマー病を含めた認知症の発症リスクを高めることが明らかとなった(15)15) T. Ohara, Y. Doi, T. Ninomiya, Y. Hirakawa, J. Hata, T. Iwaki, S. Kanba & Y. Kiyohara: Neurology, 77, 1126 (2011)..アルツハイマー型認知症の発症原因は,アミロイドβの脳蓄積による神経細胞の破壊や脳萎縮によると言われている.糖尿病や耐糖能異常によるインスリン抵抗性では,血中のインスリン濃度が高くなることにより,アミロイドβの分解が抑制されることが明らかになっている.肥満や糖尿病による酸化ストレスや血中LPSの増加は,脳内のアミロイドβの増加を促進させるが,これには腸内細菌叢の多様性の低下によるDysbiosisが関与していることが報告されている(16)16) D. A. Butterfield: Free Radic. Res., 36, 1307 (2002)..また,認知症患者では健常者と比較してBacteroides門の割合が減少することなどが明らかになり,腸内細菌叢の認知機能への関与が解明されつつある(17)17) N. Saji, S. Niida, K. Murotani, T. Hisada, T. Tsuduki, T. Sugimoto, A. Kimura, K. Toba & T. Sakurai: Sci. Rep., 9, 1008 (2019)..腸内細菌叢の研究の進展により,多くの新しい知見が報告され,近年では脳と腸との双方向的な情報伝達(腸脳相関)における腸内細菌の役割を重視した「脳–腸–腸内細菌軸」Brain-gut-microbiota axisが注目されている.また,腸管や血液脳関門におけるタイトジャンクション関連因子(Zo-1, Occuludinなど)の発現が低下することでバリア機能が破綻し,LPSや炎症性サイトカインの流入を引き起こすことから,バリア機能の低下は認知機能低下の要因の一つとされている.

これまで,カテキンやケルセチンといったポリフェノール類の摂取が認知機能を改善することが報告されている.緑茶に含まれるカテキンの一種であるエピガロカテキンガレートを長期間マウスに与えると,認知機能低下抑制が示され,さらに血液脳関門を通過することから,脳内に到達し抗酸化作用を発揮することで認知機能が向上すると考えられている(18)18) M. Pervin, K. Unno, A. Nakagawa, Y. Takahashi, K. Iguchi, H. Yamamoto, M. Hoshino, A. Hara, A. Takagaki & F. Nanjo et al.: Biochem. Biophys. Rep., 9, 180 (2017)..またケルセチンの摂取も同様に認知機能改善に寄与する報告があり,抗酸化作用の他にも認知症発症の原因になる脳血流減少を抑制することで認知機能を改善することが示されている(19)19) F. Babaei, M. Mirzababaei & M. Nassiri-Asl: J. Food Sci., 83, 2280 (2018)..一方,筆者らの先行研究の結果より,リンゴ由来プロシアニジンの摂取が腸内細菌叢の変動や腸管バリア機能の向上により,肥満や炎症を抑制することが明らかになったことから,腸内細菌叢の変動を介して認知機能に影響を与える可能性が考えられた.そこで,老化促進モデルマウスを用いてリンゴ由来プロシアニジンの摂取が腸内細菌叢および認知機能に与える影響について検討を行ったので紹介する.

リンゴ由来プロシアニジンの摂取が認知機能および腸内細菌叢に与える影響

学習記憶障害および促進老化・短寿命を示すSAMP8マウスにリンゴ由来プロシアニジン(APC)を長期摂取させ,認知機能および腸内細菌叢に与える影響について検討した.飼育23週間後に,認知機能および老化の比較検討の為,受動回避試験および老化スコアによる検討を行った.受動回避試験は,暗い場所を好むマウスが明室から暗室へ進入したタイミングで電気刺激を与えて記憶させ,24時間後に再びマウスを明室に置き,暗室に移動するまでの時間を測定し,マウスの認知機能(受動回避能力)を評価する試験である.その結果,APC摂取群は非摂取群と比較して明室での滞在時間が有意に長く,受動回避能力が高いことが示された.さらに,各マウス個体にみられる加齢変化を0~4までの5段階で,数値が高くなるほど加齢変化が強いとする老化スコアとして評価した.脳機能の指標である探索行動(周囲を活発に探索する行動)および逃避行動について,APC摂取群は非摂取群と比較して有意に低スコアとなった.これらの結果から,APCの摂取により老化促進モデルマウスにおける認知機能の低下が抑制されることが示された.また,小腸,大腸および脳組織のバリア機能の指標としてタイトジャンクション関連因子の遺伝子発現を定量Real time PCRで解析した結果,APC摂取によりいずれの組織においてもZO-1遺伝子の発現量の有意な増加が認められた.さらにTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの血清中の濃度や,脳組織における遺伝子発現量がAPCの摂取により減少することが明らかになった.盲腸内容物による腸内細菌叢の解析を行ったところ,認知症患者において減少するBacteroides門の割合がAPC摂取群で非摂取群と比較して有意に増加し,F/B値の改善が認められた.また,LPS産生菌が多く属するProteobacteria門がAPC摂取群において有意に減少したことは,たいへん興味深い結果である.健常人におけるProteobacteria門の割合は細菌叢全体の約4.5%程度であるが,肥満者やがん患者では約14%前後にまで増加し,血中のLPS増加による慢性炎症を引き起こす要因となることから,認知機能にも関与していると推察される(20)20) N. R. Shin, T. W. Whon & J. W. Bae: Trends Biotechnol., 33, 496 (2015)..また属レベルでの解析では,APC摂取によりBacteroidesChristensenellaなど肥満抑制に関連する菌類の有意な増加が認められた.一方で,LactococcusLactobacillus(旧分類名),Clostridium, Desulfovibrioは減少するなど,APCの摂取により多くの菌に有意な変動が認められた.

これまでは,ポリフェノールが腸管で吸収代謝され,ポリフェノール代謝物として血液脳関門を通過する神経伝達物質として直接作用するか,脳血管系を間接的に調節するなどの作用機序が報告されてきた.一方,リンゴ由来プロシアニジンの摂取は,腸内細菌叢の変動を介し,タイトジャンクション関連因子の遺伝子発現の亢進により,腸管や脳組織のバリア機能の低下を抑制し,LPSの血中流入や脳組織における炎症を軽減した.その結果として認知機能の低下抑制に寄与したものと推測され,生体利用性の低いポリフェノール類による腸内細菌叢の変動を介した認知機能低下抑制の新しい作用機序が示された(図2図2■リンゴ由来プロシアニジンによる腸内細菌叢の変動および脳機能への影響).近年の疫学調査の報告により,ワインの日常的な摂取がアルツハイマー型認知症の発症リスクを軽減することや,腸内細菌叢に影響を及ぼすことが明らかになり,ワインに含まれるポリフェノール類の関与が示唆されている(21, 22)21) B. S. Klinedinst, S. T. Le, B. Larsen, C. Pappas, N. J. Hoth, A. Pollpeter, Q. Wang, Y. Wang, S. Yu, L. Wang et al.: J. Alzheimers Dis., 78, 1245 (2020).22) M. V. Moreno-Arribas, B. Bartolome, J. L. Penalvo, P. Perez-Matute & M. J. Motilva: Nutrients, 12, 3082 (2020)..リスベラトロールの投与がアルツハイマー病患者の血中アミロイドβを減少させることから,アルツハイマー型認知症に有効であるとする報告があるが,ワイン中のリスベラトロールの含有量はごくわずかであることから,主要な関与成分であるとは考え難い(23)23) C. Sawda, C. Moussa & R. S. Turner: Ann. N. Y. Acad. Sci., 1403, 142 (2017)..ワインに含まれる主要なポリフェノールは発酵過程で生成される高分子の重合ポリフェノールであり,プロシアニジンと類似した腸内細菌叢の変動を介した作用機序が推測される.APCの摂取においては,腸内細菌叢の変動だけでなく,チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸代謝物が大きく変化していることが分かった(24)24) S. Masumoto, S. Aoki, T. Miura & T. Shoji: Mol. Nutr. Food Res., 62, e1700867 (2018)..腸管におけるこれらの内在性因子は,生体の恒常性維持に大きくかかわっており,特にトリプトファンはセロトニンの前駆物質であることから脳機能への効果が期待されている.今後,腸内細菌叢および代謝物の変動とポリフェノールの影響を詳細に解析していく必要があると考えている.

図2■リンゴ由来プロシアニジンによる腸内細菌叢の変動および脳機能への影響

おわりに

ポリフェノール類による生体調節機能に関する研究は,抗酸化作用を主とする生体利用性に依存した作用機序から,腸内細菌叢や代謝物の変動を介した生体利用性に依存しない作用機序の解明へと変化している(25~27)25) F. A. Tomas-Barberan, M. V. Selma & J. C. Espin: Curr. Opin. Clin. Nutr. Metab. Care, 19, 471 (2016).26) M. C. Rodriguez-Daza, E. C. Pulido-Mateos, J. Lupien-Meilleur, D. Guyonnet, Y. Desjardins & D. Roy: Front. Nutr., 8, 689456 (2021).27) U. Shabbir, M. Rubab, E. B. Daliri, R. Chelliah, A. Javed & D. H. Oh: Nutrients, 13, 206 (2021)..腸管は多くの神経系・内分泌系組織を有する生物における最大の免疫組織であると同時に,神経系やホルモン,サイトカインなどの情報伝達物質と受容体を介して脳,肝臓,膵臓,脂肪組織などさまざまな器官とネットワークを形成し,生体恒常性を司っている.また,これには宿主の腸内細菌叢が密接に関与し,食習慣および加齢により大きく変動する.さまざまなオミックス解析技術が発展したことで,生体内で生じる変化について多くの情報を多角的に得ることが出来るようになった.さらに個々のオミックス解析の情報を元に各階層との関係性を解析するマルチオミックス解析により,複雑な生体反応や疾患の作用機序などを詳細に解明にすることが可能になった.果物や野菜をはじめ,ウーロン茶,ワイン,チョコレートなどポリフェノールを含有する食品は数多く,われわれが日常の食事で摂取しやすい機能性成分の一つである.ポリフェノール摂取による生体調節機能の詳細が明らかになることで,食育や予防医学の発展,新たな加工技術の開発や食品開発への応用に大きく貢献することが期待される.

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