プロダクトイノベーション

歯の修復およびその加速化に関する革新的技術開発生涯,自分の歯で食べるために

Hiroshi Kamasaka

釜阪

江崎グリコ株式会社

Tomoko Tanaka

田中 智子

江崎グリコ株式会社

Hiroshi Takii

滝井

江崎グリコ株式会社

Published: 2022-03-01

はじめに

我が国の平均寿命は,延び続けており,平成30(2018)年現在,男性81.3歳,女性87.3歳であり,令和47(2065)年には,女性は90歳を超えると見込まれている(1)1) 令和2年版高齢社会白書,内閣府.一方,80歳で自分の歯が20本以上ある高齢者の割合は,2018年には51.2%であった(2)2) 平成28年歯科疾患実態調査,厚生労働省.近年,残存歯数と健康寿命に関するコホート研究が複数報告されており,自身の歯で食べることが,生活の質を維持できる重要な因子であることが明らかとなってきた(3, 4)3) Y. Matsuyama, J. Aida, R. Watt, T. Tsuboya, S. Koyama, Y. Sato, K. Kondo & K. Osaka: J. Dent. Res., 96, 1006 (2017).4) P. E. Petersen: Community Dent. Oral Epidemiol., 31(Suppl 1), 3 (2003)..今後,伸び続ける寿命に,歯の寿命を並走させることが大きな課題の一つとなっている.その一方,食および食習慣は口内環境を乱し,う蝕(むし歯)や歯周病疾患を誘引または惹起しており,歯の喪失要因に繋がっている.つまり,食べ物の豊かさが,歯の寿命を短くしたと言っても過言ではない.本研究では,長寿化時代におけるこのパラドックスを解消し,自身の歯で生涯“食”をおいしく楽しめる社会を目指し,食品により歯質を強化する革新的な技術開発を目指した.

高水溶性カルシウム素材の開発

研究当初,カルシウムの生体利用性を向上させるため,水溶性の改変を図ることを研究目的とした.食品で利用できるカルシウム素材のほとんどは難水溶性であったためである.水溶性の高い塩化カルシウムは食品添加物であり,使用制限がある.そこで,カルシウム(Ca2+)というカチオンに対し,親和性の高いカウンターイオンを有する水溶性の高い物質を自然界に広く探索した.結果,リン酸基の親和性の高さに着目した.特に,馬鈴薯澱粉には結合リンが多く含まれていることが知られていた(5)5) Y. Takeda & S. Hizukuri: Carbohydr. Res., 102, 321 (1982)..そこで,リン酸エステル結合の箇所を濃縮する目的で,澱粉に酵素を作用させ,リン酸エステル結合を有するオリゴ糖を調製した(6)6) H. Kamasaka, K. To-o, T. Nishimura, T. Kimura, N. Matsuzawa & R. Sakamoto: J. Appl. Glycosci., 56, 47 (2009)..主画分はマルトトリオースからペンタオースにリン酸基が1個結合した構造物(図1図1■リン酸化マルトテトラオースのカルシウム塩の構造式)であり,マイナー画分として,マルトヘキサオース以上のオリゴ糖にリン酸基が2個結合した構造物も存在した.ブドウ糖への結合部位は6位あるいは3位の炭素原子であった.分子内に複数個のリン酸基を有するオリゴ糖は高いキレート力を示し,カルシウムと強力に結合し,カルシウム–リン酸の結合・不溶化を阻害し,高い水溶性を示した.しかし,分子内に単数のリン酸基を有する主画分のキレート力はこれに比べて低かった.一方,馬鈴薯澱粉からブドウ糖を生産する糖化工程の中で,副産物としてリン酸化オリゴ糖が生成していることが判明した.この幸運な発見が無ければ,リン酸化オリゴ糖の素材開発は成功していなかった.そして,リン酸化オリゴ糖をカルシウム塩(Phosphoryl Oligosaccharides of Calcium; POs–Ca)として回収・利用する技術開発を王子コーンスターチ㈱と共同で実施した.現在,北海道の馬鈴薯澱粉を用いて,糖化後の副産物としてPOs–Ca素材の生産が行われている.従来は廃棄されていた成分であったことから,本素材開発は農産物の有効利用に繋がった.単糖類や二糖類を含まないため,ノンシュガー・シュガーレス表示が可能な食品扱いの新規高水溶性カルシウム素材であり,欧州のEFSAのカルシウム剤のリストにも掲載された(7)7) EFSA: Calcium phosphoryl oligosaccharides (POs–Ca®) as a source of calcium added for nutritional purposes to food, food supplements and foods for special medical purposes, https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4488, 2016..なお,POs–Ca素材は2008年よりグリコ栄養食品株式会社から素材販売を行っている.オーラルケア用途以外にも,化粧品用途,食品用途,農業用途で特徴的な効果を見いだし,現在,さまざまな分野で活用されている.なお,医薬部外品の添加剤利用も可能である.

図1■リン酸化マルトテトラオースのカルシウム塩の構造式

POs–Ca素材のオーラルケア用途での適正評価

キシリトールが1997年に食品添加物として認可を受けて以降,う蝕の原因にならない甘味料(甘味剤)として注目が集まった.このような糖アルコール類を用いたむし歯の原因となる酸を産生しない食品は,日本トゥースフレンドリー協会の「歯に安心マーク」,その後,特定保健用食品の登場により一機に普及が加速した.砂糖を用いたガムや錠菓はむし歯の原因となる食品の代表であったが,むし歯の原因にならない糖質の普及により,これらはむし歯を予防する可能性を持つ食品へと大きな変化を遂げた.そこで,POs–Ca素材に関しても,オーラルケア素材としての有用性を調べた(8)8) 小林隆嗣,田中智子,釜阪 寛,栗木 隆:日本応用糖質科学会誌,4, 133 (2014).

1. 中性領域における可溶性

健康な歯を維持するために,エナメル質表面に穴の開いた「むし歯」に至る前の「初期むし歯」というエナメル質表層が維持された脱灰状態に着目した.初期むし歯は,むし歯の前段階を指すものであり,構造的に可逆的な状態にある(図2図2■初期むし歯の状態(写真提供:大阪歯科大学名誉教授神原正樹先生)).つまり,初期むし歯によって歯エナメル質から喪失したカルシウムは,唾液を介して補充されること(再石灰化)により,健全状態に回復できる(図3図3■脱灰・再石灰化サイクル(9)9) 飯島洋一,熊谷 崇:“カリエスコントロール—脱灰と再石灰化のメカニズム”,医歯薬出版,1999, p.48..ところが唾液のような中性でかつリン酸が含まれる環境において,カルシウム濃度を高めようとした場合,リン酸–カルシウムの結合による不溶物が形成され,一旦溶解の工程を経なければ初期むし歯部位に供給できなかった.これに対して,リン酸化オリゴ糖はそのリン酸基の負電荷がカルシウムイオンとイオン結合し,かつ,オリゴ糖の水酸基が高い親水性を持つことにより,高い水溶性を維持できた.フッ素イオンやリン酸イオンとの塩形成が抑制され,これらのイオン状態が唾液中で維持できた(6)6) H. Kamasaka, K. To-o, T. Nishimura, T. Kimura, N. Matsuzawa & R. Sakamoto: J. Appl. Glycosci., 56, 47 (2009).

図2■初期むし歯の状態(写真提供:大阪歯科大学名誉教授神原正樹先生)

(a)歯表面に白斑が認められる(点線円内) (b)エナメル質の断面図,エナメル質の表層(矢印箇所)下にミネラルの疎な部分が認められる

図3■脱灰・再石灰化サイクル

2. 非う蝕原性

POs–Ca素材は,オリゴ糖の一種であるが,リン酸基修飾のため,pH緩衝作用も有しており,う蝕原生細菌であるミュータンスレンサ球菌の栄養源とならないことがわかった(8)8) 小林隆嗣,田中智子,釜阪 寛,栗木 隆:日本応用糖質科学会誌,4, 133 (2014).

3. プラーク(バイオフィルム)形成阻害

POs–Ca素材がミュータンスレンサ球菌の産生するグルコシルトランスフェラーゼによるショ糖からのグルコシル基転移のアクセプターとなることで,プラークの原因となる不溶性グルカンの形成を阻害する作用があることがわかった(8)8) 小林隆嗣,田中智子,釜阪 寛,栗木 隆:日本応用糖質科学会誌,4, 133 (2014).

POs–Ca素材の初期むし歯の修復効果

1. 初期むし歯の再石灰化効果

POs–Ca素材はむし歯予防用途の基礎的特性を有していることがわかった.次に,初期むし歯の修復機能の評価を試みた.POs–Ca素材はカルシウムイオンとリン酸イオンの飽和濃度を高めることができるため,初期むし歯の再石灰化効果を高める効果が期待された.歯の再石灰化を促進する条件として,1. 唾液中の中性条件下でカルシウム–リン酸の不溶化を阻害し,イオン状態を維持して初期むし歯部位に到達・浸透すること,2. 歯の構造物であるハイドロキシアパタイト(Hap)へのカルシウムとリン酸の両イオンの取り込みを阻害しないこと,の2点が必要条件である.POs–Ca素材はこれらの両特性を保有していた.分子内にリン酸基を複数結合しているオリゴ糖が主画分であったならば,カルシウムイオンのキレート力が強く,この条件は満たさない.POs–Ca素材の主画分が,分子内リン酸基が単数であったことがカチオンとの適度な結合力を生み出すことに適していた.歯の再石灰化の評価は,歯の横断面薄片へ透過型X線照射することでミネラル量の回復として定量化するTransversal Microradiography(TMR)法が国際的な標準法として知られている(10)10) J. M. ten Cate, K. A. Dundon, P. G. Vernon, F. A. Damato, E. Huntington, R. A. Exterkate, J. S. Wefel, T. Jordan, K. W. Stephen & A. J. Roberts: Caries Res., 30, 400 (1996)..X線照射強度およびその焦点距離等,厳密な測定条件が規定された優れた評価方法である.Ca/Pモル濃度比を,歯エナメル質を構成するHap結晶と同等の1.67に高めることで再石灰化を著しく促進することがわかった.一般的に,唾液中のリン酸イオン濃度は高く,Ca/Pモル濃度比は低値(0.2~0.4)であった.そこで,カルシウムイオンのみを唾液に供給することで,Ca/Pモル濃度比の課題は解決できることがわかった.従来,リン酸とカルシウムの両イオン濃度を中性領域で高めることは困難であった.しかしながら,POs–Ca素材を用いることで,不溶化を防ぎ,唾液中の中性環境下で,Ca/Pモル濃度比を1.67付近へ高めることができた.

一方,フッ素イオンが歯質を強化することが広く知られている(11)11) M. S. McDonagh, P. F. Whiting, P. M. Wilson, A. J. Sutton, I. Chestnutt, J. Cooper, K. Misso, M. Bradley, E. Treasure & J. Kleijnen: BMJ, 321, 855 (2000)..いくつかの国で水道水へのフッ素添加が実施されている理由である.Ca/Pモル濃度比の1.67への上昇に加えて,フッ化物イオン濃度が0.5~1.0 ppmにおいて,再石灰化率が最も高まることがわかった.それ以上の高い濃度では,逆に再石灰化が阻害された.一般的にフッ素は電気陰性度が高く,反応性が高い.特に,カチオンであるカルシウム素材と共存ができなかった.しかし,POs–Ca素材を用いることで,フッ素剤との共存が可能となった.歯エナメル質の主成分であるカルシウムとリン酸の両イオンの補給による再石灰化反応時に,微量フッ素の結晶構造への取り込みが可能となり,高い効果が得られると考えた.しかしながら,その再石灰化部位の結晶性や配向性については,従来技術で評価することは困難であった.

2. 初期むし歯の再結晶化

歯エナメル質は,身体の中で最も硬い組織であり,その95%以上がHap結晶からなる.その結晶は歯の噛む方向に垂直に配列する配向性を有したエナメル小柱と呼ばれる構造物から形成されている(12)12) 青木秀希:“驚異の生体物質 アパタイト”,医歯薬出版,1999, p. 24..水晶と同等の硬さを示す理由である.しかし,酸性環境になると,その結晶が容易に溶解する.これがむし歯発症の主原因である.その結晶の組成はCa10(PO46(OH)2と表され,Ca/Pモル濃度比は1.67である.歯の結晶の質と量の変化を測定するため,初期むし歯における結晶量変化を捉える方法を検討した.脱灰・再石灰化部の変化領域はマイクロメートルレベルオーダーであること,生体試料である歯の個体差を考慮した場合,多くの試料分析が現実的な測定時間で実施できること,の2点が検討に必要な条件であった.しかし,通常のX線源では現実的な条件を見いだすことが難しかった.そこで,世界最大規模の放射光施設SPring-8(兵庫県)のBL40XUビームラインを利用し,X線を直径6 µmに調整し,5 µmステップで歯エナメル質サンプルの表層から深層にかけて照射し,広角X線回折(WAXRD)と小角X線散乱(SAXS)で同時に検出することで,その結晶性と配向性の測定に成功した(図4図4■放射光施設SPring-8のBL40XUビームラインにおける広角X線回折および小角X線散乱を用いた歯片分析の概略).結果,POs–Ca素材でCa/Pモル濃度比1.67に調整した溶液で処理をしたもの,さらに,フッ化物との併用処理を行ったものは,健全な歯エナメル質と同様の配向性を有した結晶構造の回復が確認できた(図5A図5■初期むし歯の再結晶化の概念図).他の塩の結晶やランダムな結晶の蓄積は認められなかった(図5B図5■初期むし歯の再結晶化の概念図(8)8) 小林隆嗣,田中智子,釜阪 寛,栗木 隆:日本応用糖質科学会誌,4, 133 (2014)..さらに,極低濃度である1 ppmのフッ化物の浸透性とその結晶性について検証するため,μ蛍光X線分析(XRF)とX線吸収端近傍構造(XANES)分析を行った.その結果,1 ppmのフッ化物とPOs–Ca素材の併用条件において,歯エナメル質に浸透しフルオロアパタイトとして結晶構造が回復していることが検証された.POs–Ca素材あるいはPOs–Ca素材とフッ素含有緑茶エキスで処理をした脱灰部位は,歯を構成するHap結晶の量と配向性が共に回復すること,つまり,「再結晶化」を促す特性が明らかになった.

図4■放射光施設SPring-8のBL40XUビームラインにおける広角X線回折および小角X線散乱を用いた歯片分析の概略

広角X線回折:結晶の原子レベル(0.1~1 nm)での構造解析ができる.小角X線散乱:より大きな(数~数十nm)構造解析ができる.

図5■初期むし歯の再結晶化の概念図

初期むし歯は,脱灰に要した同じ時間で直ちに回復できるわけではなく,その再石灰化には比較的長い反応時間を要すること,唾液に本質的な能力が備わっていること(9)9) 飯島洋一,熊谷 崇:“カリエスコントロール—脱灰と再石灰化のメカニズム”,医歯薬出版,1999, p.48.,の2点から,従来の短時間でのオーラルケア策では不十分だと考え,唾液の分泌を促す嗜好食品であるシュガーレスガムを介した合理的な歯質の維持向上策の検討を行った.つまり,POs–Ca素材とフッ素含有緑茶エキスをガム食品に配合し,咀嚼時の分泌唾液に成分を溶解させて,効果的に脱灰部位に届けることを考えた.

初期むし歯の再結晶化を促す機能性食品の開発

唾液の分泌を促しながら,口腔機能の維持向上を図るため,“噛む”ことを楽しみながら手軽に咀嚼を促すことができるシュガーレスガムにPOs–Ca素材を配合することを試みた.ガム摂取時に分泌される唾液中のリン酸イオンを活用し,カルシウムイオンをPOs–Ca素材で補給することで,Ca/Pモル濃度比を1.67付近に調整できる技術開発を行った.具体的には,POs–Ca素材の咀嚼唾液への平均溶出量とその速度から,ガムへの配合量を調整した.そして,食品で利用可能な茶抽出物由来のフッ化物を用いて,ガム咀嚼唾液中で1 ppm程度となるように配合量を調整した.なお,茶ポリフェノールがミネラルを吸着し,再石灰化に阻害的に働くことが開発途中でわかった.茶ポリフェノールを低減させた茶抽出物由来のフッ化物素材の開発を三井農林㈱と共同で実施し,課題解決を行った.

POs–Ca素材添加食品の効果を,ヒト試験で確かめる試験を実施した.初期むし歯を形成したエナメル質歯片を装着した口腔内装置を用いて,被験者に試験ガム1種につき1回2粒20分間,1日3回,14日間噛んでもらい,初期むし歯に対する再石灰化および再結晶化効果の評価を行った.その結果,POs–Ca素材配合シュガーレスガム咀嚼群は,プラセボガム咀嚼群に比べて有意に初期むし歯の再石灰化および再結晶化を共に促進した.回復した結晶について,健全部と同様の配向性も確認された.なお,POs–Ca素材に加えて茶抽出物を併用したガム摂取群の効果は,POs–Ca素材のみに比べて有意に上昇し,再結晶化に加え,硬度回復(再硬化)も確認できた(13)13) Y. Kitasako, A. Sadr, H. Hamba, M. Ikeda & J. Tagami: J. Dent. Res., 91, 370 (2012)..また,POs–Ca素材配合あるいは茶抽出物併用シュガーレスガムを小学校の給食後に摂取する調査研究を9年間継続し,その効果を生活者で検証した(14)14) 神原正樹:Dental magajin, 140, 36(2012)..乳歯から永久歯に生え変わる時期における歯のケアの大切さと開発ガム食品の効果が確認できた.

初期むし歯の修復を促す加速化技術の開発

初期むし歯の再石灰化・再結晶化を促すため,POs–Ca素材利用による唾液中のCa/Pモル濃度比の黄金比への調整に加え,低濃度フッ素イオンを併用することで効果が著しく高まった.そして,これらの技術を搭載する剤型として,唾液分泌を促すシュガーレスガムが最適であった.特に,唾液に高いpH緩衝能力が備わっており,飲食後の酸性に偏りがちな脱灰環境を,再石灰化を促す中性環境に戻す効果がヒト嗜好下pHの変化を測定することで検証できた(図6図6■ガム咀嚼刺激唾液によるpH緩衝効果).

図6■ガム咀嚼刺激唾液によるpH緩衝効果

阿部昌子,玉澤佳純,阿部一彦,高橋博信,東北大学大学院歯学研究科研究報告書(2001) (注)飲食の内容によっては,pHが中性まで回復しない場合がある.

図7■初期むし歯の修復メカニズム概要

POs–Ca素材利用による歯の再石灰化・再結晶化効果の製品応用として,口腔内での滞留時間が長いことに加え,唾液分泌を促す物性を有しているという利点からシュガーレスガムに応用した.今後,本技術を口腔内の滞留時間が短い食品や医薬部外品等で幅広く利用していくためには,より短い滞留時間でも同様の効果が得られることが重要な課題となった.エナメル質表面の荷電状態に影響を与え,ミネラルの脱灰部への浸透性を改善できる素材を広く探索した.結果,カチオン性ポリマーであるε-ポリリジン(EPL)に着目した.そして,EPLと併用することで,POs–Ca素材単独使用時より約3倍以上の速度で再石灰化を促進できる技術を開発した(15)15) T. Tanaka, H. Asakuma, H. Takii, H. Kamasaka & T. Kuriki: The 152nd meeting of Japanese society of conservative dentistry, 38 (2020)..この加速化技術により,口腔内での反応時間が限られるガム以外の剤型への応用が可能になった.今後,錠菓などの食品だけでなく,洗口剤や歯磨剤等の医薬部外品への技術応用も可能になると考えている.飲食後には,歯から失われたカルシウムイオンをフッ素イオンと共に効果的に補って,歯の健康寿命を長く保って頂きたい.そのため,歯科における定期健診に加え,日常的なセルフケアの新しい在り方を提案したい.

Acknowledgments

POs–Ca素材の量産化およびフッ素剤の開発研究でご協力いただきました王子コーンスターチ株式会社および三井農林株式会社の皆様に深く感謝申し上げます.また,本研究の推進において,ご指導を賜りました花田信弘先生,今井奨先生,米満正美先生,稲葉大輔先生,南健太郎先生,神原正樹先生,高江洲義矩先生,田上順次先生,北迫勇一先生,Alireza Sadr先生,池田正臣先生,八木直人先生,為則雄祐先生,河岸洋和先生,林英雄先生,小林隆嗣先生,高橋信博先生,山田正先生,JM ten Cate先生,故飯島洋一先生に感謝いたします.最後に,共に研究を推進くださった江崎グリコ株式会社生物化学研究所故岡田茂孝所長,健康科学研究所栗木隆所長および所員の皆様の長年にわたるご指導とご支援に感謝申し上げます.

Reference

1) 令和2年版高齢社会白書,内閣府

2) 平成28年歯科疾患実態調査,厚生労働省

3) Y. Matsuyama, J. Aida, R. Watt, T. Tsuboya, S. Koyama, Y. Sato, K. Kondo & K. Osaka: J. Dent. Res., 96, 1006 (2017).

4) P. E. Petersen: Community Dent. Oral Epidemiol., 31(Suppl 1), 3 (2003).

5) Y. Takeda & S. Hizukuri: Carbohydr. Res., 102, 321 (1982).

6) H. Kamasaka, K. To-o, T. Nishimura, T. Kimura, N. Matsuzawa & R. Sakamoto: J. Appl. Glycosci., 56, 47 (2009).

7) EFSA: Calcium phosphoryl oligosaccharides (POs–Ca®) as a source of calcium added for nutritional purposes to food, food supplements and foods for special medical purposes, https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4488, 2016.

8) 小林隆嗣,田中智子,釜阪 寛,栗木 隆:日本応用糖質科学会誌,4, 133 (2014).

9) 飯島洋一,熊谷 崇:“カリエスコントロール—脱灰と再石灰化のメカニズム”,医歯薬出版,1999, p.48.

10) J. M. ten Cate, K. A. Dundon, P. G. Vernon, F. A. Damato, E. Huntington, R. A. Exterkate, J. S. Wefel, T. Jordan, K. W. Stephen & A. J. Roberts: Caries Res., 30, 400 (1996).

11) M. S. McDonagh, P. F. Whiting, P. M. Wilson, A. J. Sutton, I. Chestnutt, J. Cooper, K. Misso, M. Bradley, E. Treasure & J. Kleijnen: BMJ, 321, 855 (2000).

12) 青木秀希:“驚異の生体物質 アパタイト”,医歯薬出版,1999, p. 24.

13) Y. Kitasako, A. Sadr, H. Hamba, M. Ikeda & J. Tagami: J. Dent. Res., 91, 370 (2012).

14) 神原正樹:Dental magajin, 140, 36(2012).

15) T. Tanaka, H. Asakuma, H. Takii, H. Kamasaka & T. Kuriki: The 152nd meeting of Japanese society of conservative dentistry, 38 (2020).