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ポリフェノールの機能作用についての最近のアプローチなぜ腸内細菌に注目するべきなのか?

Kyu-Ho Han

圭鎬

帯広畜産大学生命・食料科学研究部門

Ryuji Nagata

永田 龍次

帯広畜産大学生命・食料科学研究部門

Michihiro Fukushima

福島 道広

帯広畜産大学生命・食料科学研究部門

Published: 2022-04-01

・はじめに

ポリフェノールは,紫外線や微生物感染などに対する防御メカニズムの一つとして植物によって合成される二次代謝産物であり,フェノール酸,フラボノイド,ポリフェノールアミドなどに大別される.これまでに確認されたポリフェノールは8,000個程度であり,そのうち半分以上がフラボノイド系である.さまざまな植物に含まれるフラボノイドの大部分は糖が結合した配糖体型で存在しており,糖が除かれたアグリコン型はわずかである.食事性ポリフェノールは小腸上皮細胞の糖輸送担体を経由して吸収される.その後,肝臓での薬物代謝反応により抱合体ポリフェノールとして胆汁と共に小腸へ分泌・排泄されると,その一部は脱抱合反応後にアグリコン型として再吸収されると言われている(1)1) 冨森菜美乃:化学と生物,58, 164(2020)..ポリフェノールの摂取は抗酸化,抗炎症,免疫調節,抗がん,血管拡張などの健康に有益な効果を示すことが期待される.しかし,ポリフェノールの小腸における吸収率は化学構造および分子量によって異なるものの約5–10%とされており,大部分が小腸で吸収されない(2)2) 小酒井貴晴:化学と生物,55, 426(2017)..したがって,従来の小腸での消化吸収を前提とする研究だけでは食事性ポリフェノールの生体調節機能を説明できず,いまだ不明な点が多く残されている.最も吸収されにくい高分子ポリフェノールであるタンニン(加水分解型・縮合型)の摂取においても(2)2) 小酒井貴晴:化学と生物,55, 426(2017).健康に有益な影響を与えることが示されていることから,ポリフェノールの生体調節機能には小腸での吸収を介さない作用機序も存在する可能性が示唆される.近年,ポリフェノール研究の新たな展開として消化管においてポリフェノールが特定の役割に関与することが推測されており,特に大腸内の腸内細菌との関連性が提起されている(2)2) 小酒井貴晴:化学と生物,55, 426(2017)..たとえば,腸内細菌叢にはβ-グルコシダーゼを産生する細菌が存在し,小腸で消化吸収されないポリフェノールは細菌由来β-グルコシダーゼの作用により大腸からアグリコン型で体内へと吸収され,生体調節機能が発揮されると期待されている.ここでは,ポリフェノールの作用メカニズムに関する最近のアプローチについて紹介する.

・ポリフェノールの代謝変換物

腸内細菌はさまざまな代謝産物を産生することが観察されている.たとえば,腸内細菌によってビタミンK2などが生産されることが古くから知られている.現在では,試験管内で微生物を用いた酵素反応によって有機化合物を構造的に変換する手法(バイオ-トランスフォーメーション)が提案されており,特定の乳酸菌とポリフェノールの培養による代謝変換物の分析を通して,ポリフェノールからフェノール酸や新規化合物へ転換されることが少しずつ明らかになってきている.たとえば,プロアントシアニジンを含むクランベリー抽出物をLactobacillus rhamnosusと共に嫌気培養を行うと,4-ヒドロキシフェニル酢酸,3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸,カテコール,フェニルプロパン酸およびピロガロールなどが主代謝物として生成される(3)3) H. P. Rupasinghe, I. Parmar & V. N. Sandhya: Oxid. Med. Cell. Longev., 17, 4750795 (2019).

前述したように,腸内細菌はβ-グルコシダーゼによるO-グリコシドおよびO-グルクロニドを切断する能力があり,それ以外にもフラボノイド(C6-C3-C6)の複素環および芳香族環の炭素-炭素開裂,脱ヒドロキシル化,脱炭酸およびアルケン部分を水素化する代謝能力を持っている(4)4) J. F. Stevens & C. S. Maier: Phytochem. Rev., 15, 425 (2016)..したがって,大腸でのポリフェノールの代謝変換の一部にはこれらの酵素反応が関与している可能性が考えられる.しかし,すべての細菌が同様の代謝酵素を持っているわけでなく,ポリフェノールと単一菌種による培養(純粋培養)により発見された代謝変換物は,実際の腸管内とは異なるかもしれない.最近では,間接手法として糞便試料を用いた混合培養により代謝変換物を分析すると共に,その機能性を評価する研究も進んでいる.糞便細菌叢を用いた実験系においてケルセチンまたはその配糖体は,主にプロトカテク酸および2-(3,4-ジドロキシ)-フェニル酢酸に変換されることが明らかになった(5)5) M. L. Y. Wan, V. A. Co & H. El-Nezami: Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 61, 690 (2021)..また,レスベラトロールがルヌラリンへ変換される際に,中間体としてジヒドロ-レスベラトロールまたは3,4-ジヒドロキシスチルベンの存在も明らかにされている(4)4) J. F. Stevens & C. S. Maier: Phytochem. Rev., 15, 425 (2016)..さらに,このような低分子化合物の一部が大腸から吸収される場合,生体調節機能に関与している可能性も提起されている.たとえば,大豆イソフラボンのエストロゲン様作用の活性本体は,摂取した大豆イソフラボン(ダイゼイン)の一部が腸内細菌(Eggerthella属やSlackia属)(4)4) J. F. Stevens & C. S. Maier: Phytochem. Rev., 15, 425 (2016).により代謝されて生じたエクオールであると考えられている.最近では,腸内細菌によるエラギタンニンの変換から生じる代謝産物ウロリチンAは,骨格筋でマイトファジーを促進して個体の健康な老化を誘導することも報告されている(6)6) D. Ryu, L. Mouchiroud, P. A. Andreux, E. Katsyuba, N. Moullan, A. A. Nicolet-Dit-Félix, E. G. Williams, P. Jha, G. Lo Sasso, D. Huzard et al.: Nat. Med., 22, 879 (2016)..しかしながら,腸内細菌のポリフェノール代謝による新規化合物産生に関する知見は一部しか解明されておらず,関連する腸内細菌の酵素・遺伝子機能の解明にはかなりのデータ蓄積が必要である.

・ポリフェノールの腸内細菌叢への影響

近年になって,次世代シーケンサーによる遺伝子配列解読能力を背景に,腸内共生微生物がさまざまな生理現象と密接に関連している研究が報告されている.特に,腸内細菌叢の不均衡は,腸炎や慢性腸疾患はもちろん,肥満,糖尿病,および自閉症スペクトラム障害の発生に関連していることが提起されている(7)7) A. K. DeGruttola, D. Low, A. Mizoguchi & E. Mizoguchi: Inflamm. Bowel Dis., 22, 1137 (2016)..たとえば,炎症性腸疾患では腸内細菌叢の多様性の減少や,同時にLactobacillus, Ruminococcaceaeなどの特定の細菌の減少,またGammaproteobacteriaおよびEnterobacteriaceaeの増加が観察されている(8)8) A. D. Kostic, R. J. Xavier & D. Gevers: Gastroenterology, 146, 1489 (2014)..このような腸内細菌叢の変化が腸内代謝物(短鎖脂肪酸,リポ多糖,インドール化合物など)の変化および腸上皮粘膜層の損傷を引き起こし,さらには悪玉菌に感染された上皮細胞から異常な免疫応答が誘発され組織損傷が誘導されると考えられる(9)9) E. Martini, S. M. Krug, B. Siegmund, M. F. Neurath & C. Becker: Cell. Mol. Gastroenterol. Hepatol., 4, 33 (2017).

一方で,従来からポリフェノールの特定細菌の生育への影響に関連して,いわゆる悪玉菌に対する抗菌活性の研究が純粋培養または混合培養で多く行われてきた.その結果,ポリフェノールの抗菌活性は化学構造に依存している可能性が高いことが示された.たとえば,カテキン類はグラム陽性菌に対してより高い抗菌活性を示すが,アントシアニン類はグラム陰性菌に対してより効果的であると報告されている(5)5) M. L. Y. Wan, V. A. Co & H. El-Nezami: Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 61, 690 (2021).

また,ポリフェノールによる腸内細菌叢の調節と結腸上皮粘液層の回復についても研究されている.たとえば,ブルーベリー由来のポリフェノールの補給は,高脂肪食を与えられた実験動物において腸内細菌叢の多様性に明確な違いを示した(10)10) S. Lee, K. I. Keirsey, R. Kirkland, Z. I. Grunewald, J. G. Fischer & C. B. de La Serre: J. Nutr., 148, 209 (2018)..さらに,高分子の縮合型タンニンは他のポリフェノールより腸管のムチン分泌細胞である杯細胞数を増加させたことが報告されている(11)11) M. C. Rodríguez-Daza, L. Daoust, L. Boutkrabt, G. Pilon, T. Varin, S. Dudonné, É. Levy, A. Marette, D. Roy & Y. Desjardins: Sci. Rep., 10, 2217 (2020)..その他にも,キチン-グルカンとザクロのポリフェノールが腸内細菌叢を調節したことにより内皮機能障害を改善したことが報告されている(12)12) A. M. Neyrinck, E. Catry, B. Taminiau, P. D. Cani, L. B. Bindels, G. Daube, C. Dessy & N. M. Delzenne: Sci. Rep., 9, 14150 (2019)..さらに,著者らは食物繊維がポリフェノールと細菌の相互作用に影響を及ぼす可能性について注目している.実際に,紫色サツマイモ由来のポリフェノールがラットの腸内細菌叢を調節したことを示したが,その効果は同時に摂取した食物繊維の種類に依存していることが示唆された(13)13) A. Kilua, K. H. Han & M. Fukushima: Food Funct., 11, 10182 (2020).

このように,腸内細菌とポリフェノールの相互作用を評価するためにはある程度の動物実験が必要であり,それによりポリフェノールと腸内細菌叢の相互作用が宿主の健康に潜在的に寄与する可能性が提起されている.しかし,近年,実験動物福祉の考え方が国際的に普及したことで動物実験に対する法律遵守強化および動物実験代替法に対する要求がより強くされている.一方で,ヒトの介入試験において,ポリフェノールの摂取は健康な成人の腸内細菌におけるBacteroidetesとFirmicutesの割合を調節することが示されているが(14)14) R. Rastmanesh: Chem. Biol. Interact., 189, 1 (2011).,動物実験でよくみられる腸内環境を整える効果はあまり観察されていない.通常,腸内細菌叢組成は日々の食事に強く影響されることから,ヒト介入試験の報告はおそらく被験者の異なる食事習慣による腸内細菌叢の個体差の影響であると考えられる.さらに,実験動物の腸内細菌組成はヒトのものとはかなり異なるため,動物実験での結果からヒトに応用することは難しい.そのため,著者らは動物実験代替法として糞便試料を利用した消化器系の生理学的状態をシミュレートする「腸管モデル」システム(図1図1■in vitroにおける糞便を利用した腸管モデルシステム)を新たに考案・開発し,ポリフェノール添加による腸内細菌叢の変化を調べている.このシステムに細菌源としてヒト糞便を用いることで,動物実験およびヒト介入試験よりも比較的容易にヒトの腸内細菌叢へのポリフェノールの影響を評価できる.さらに,培養液を経時的に採取することでポリフェノールによる腸内細菌叢組成や発酵代謝物の産生パターンの変化をその過程から詳細に明らかにできる.

図1■in vitroにおける糞便を利用した腸管モデルシステム

腸内細菌を嫌気培養し,細菌の動態を把握できるスマートエコシステム装置である.さらに,動物実験代替法として大腸の生理学的状態をシミュレートすることができる.本装置には微生物接種口,温度調節装置,pH電極,アルカリ注入口,炭酸ガス注入口,試料採取口,培地注入口,ガス排出口などがある.CEL, セルロース;CELP, セルロース+ポリフェノール;INU, イヌリン;INUP, イヌリン+ポリフェノール.

・おわりに

現在,腸内細菌が老人性,筋肉系,代謝系,消化器系,炎症系,自己免疫系,および変性神経系の疾患に直接または間接的に関与している可能性が挙げられている.したがって,腸内細菌により産生されたポリフェノールの代謝変換物の腸管内や体内での役割を理解することは,疾病に対するポリフェノールのパラドックスの解明につながるかもしれない.

Reference

1) 冨森菜美乃:化学と生物,58, 164(2020).

2) 小酒井貴晴:化学と生物,55, 426(2017).

3) H. P. Rupasinghe, I. Parmar & V. N. Sandhya: Oxid. Med. Cell. Longev., 17, 4750795 (2019).

4) J. F. Stevens & C. S. Maier: Phytochem. Rev., 15, 425 (2016).

5) M. L. Y. Wan, V. A. Co & H. El-Nezami: Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 61, 690 (2021).

6) D. Ryu, L. Mouchiroud, P. A. Andreux, E. Katsyuba, N. Moullan, A. A. Nicolet-Dit-Félix, E. G. Williams, P. Jha, G. Lo Sasso, D. Huzard et al.: Nat. Med., 22, 879 (2016).

7) A. K. DeGruttola, D. Low, A. Mizoguchi & E. Mizoguchi: Inflamm. Bowel Dis., 22, 1137 (2016).

8) A. D. Kostic, R. J. Xavier & D. Gevers: Gastroenterology, 146, 1489 (2014).

9) E. Martini, S. M. Krug, B. Siegmund, M. F. Neurath & C. Becker: Cell. Mol. Gastroenterol. Hepatol., 4, 33 (2017).

10) S. Lee, K. I. Keirsey, R. Kirkland, Z. I. Grunewald, J. G. Fischer & C. B. de La Serre: J. Nutr., 148, 209 (2018).

11) M. C. Rodríguez-Daza, L. Daoust, L. Boutkrabt, G. Pilon, T. Varin, S. Dudonné, É. Levy, A. Marette, D. Roy & Y. Desjardins: Sci. Rep., 10, 2217 (2020).

12) A. M. Neyrinck, E. Catry, B. Taminiau, P. D. Cani, L. B. Bindels, G. Daube, C. Dessy & N. M. Delzenne: Sci. Rep., 9, 14150 (2019).

13) A. Kilua, K. H. Han & M. Fukushima: Food Funct., 11, 10182 (2020).

14) R. Rastmanesh: Chem. Biol. Interact., 189, 1 (2011).