Kagaku to Seibutsu 60(4): 176-181 (2022)
解説
アルツハイマー病の予防法開発に向けたプラズマローゲンの機能解明LC-MS/MSによる精密定量法を基盤とした研究
Elucidation of Plasmalogen Function in Alzheimer’s Disease: Aiming at Developing of Preventive Measure: Research Based on the Accurate Quantitative Analysis by LC-MS/MS
Published: 2022-04-01
プラズマローゲンは,アルツハイマー病予防の効果が期待されている生体脂質の一つである.細胞膜のリン脂質のうち約20%がプラズマローゲンであり,われわれにとってもたいへん身近な脂質である.にもかかわらず,プラズマローゲンの生体内での機能やアルツハイマー病病態への影響などの詳細はいまだ不明な点が多い.その理由として,高精度なプラズマローゲン分子種分析が達成されていなかったことが挙げられる.高精度な分析法構築には, 標準品や細かい作業の最適化などたいへん地味な工程が多いが,科学的根拠に基づく研究に不可欠である.そのような信念のもと行ってきたわれわれの研究について簡単に紹介したい.
Key words: リン脂質; プラズマローゲン; アルツハイマー病; LC-MS/MS
© 2022 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2022 公益社団法人日本農芸化学会
高齢化社会が進む現在,認知症患者が増加の一途を辿っている.厚生労働省によると,我が国の認知症有病者数は2020年に約602万人(65歳以上の有病率は約16.7%)であると推計され,65歳以上の人口が3500万人に達する2025年には,高齢者の認知症有病率は20%になると予測されている.超高齢化社会を目前とした我が国にとって認知症発症メカニズムの解明や治療法,食品機能性成分による予防法の開発が喫緊の課題である.アルツハイマー病は,認知症の約60-80%を占め,最も発症頻度の高い認知症である(1)1) M. J. Prince, A. Wimo, M.M. Guerchet, G.C. Ali, Y. Wu & M. Prina: “Alzheimer’s Disease International”, 2015..アルツハイマー病者の脳では,老人斑と呼ばれるアミロイドβタンパク質の蓄積や神経原線維変化がみられる.病理カスケードとしては,認知症発症前から大脳皮質にアミロイドβが蓄積し始め,次いでタウタンパク質のリン酸化による神経原線維変化が生じ,結果として細胞死,脳萎縮が進み,認知機能の低下に到ると考えられている(2, 3)2) H. Braak & E. Baak: Acta Neuropathol., 82, 239 (1991).3) S. W. Scheff, S. T. DeKosky & D. A. Price: Neurobiol. Aging, 11, 29 (1990)..治療法については,蓄積したアミロイドβを標的とした薬の臨床試験が行われているが,ほとんどフェーズ3で失敗に終わっており,いまだに根本的な治療法は構築されていない(4)4) K. Herrup: Nat. Neurosci., 18, 794 (2015).(最近話題の新薬ADUHEL(アデュカヌマブ)はアミロイドβプラークの低減を標的としているが,認知機能回復につながるかはいまだ不明である.今後の臨床試験に期待したい.).そのなかで,アルツハイマー病と膜リン脂質であるプラズマローゲンに関して興味深い知見が注目を集めつつある.
われわれの生体膜を構成するリン脂質は,グリセロール骨格のsn-1位の結合様式によって,ジアシル型とアルケニル型(プラズマローゲン)およびアルキル型の3つのサブクラスに分かれる(図1図1■グリセロリン脂質の構造)(5)5) G. V. Marinetti, J. Erbland & E. Stotz: Biochim. Biophys. Acta, 26, 429 (1957)..プラズマローゲンのグリセロール骨格のsn-1位は,C16 : 0, C18 : 0もしくはC18 : 1の脂肪族アルコールがビニルエーテル結合されており,sn-2位は,主にアラキドン酸(arachidonic acid; AA),ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid; DHA)などの多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid; PUFA)を含むさまざまな脂肪酸を有するため,極めて多種多様な分子種が存在する(6, 7)6) N. E. Braverman & A. B. Moser: Biochim. Biophys. Acta, 1822, 1442 (2012).7) P. Brites, H. R. Waterham & R. J. A. Wanders: Biochim. Biophys. Acta, 1636, 219 (2004)..プラズマローゲンの分析法としてさまざまな方法が報告されているが,従来,薄層クロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー,ガスクロマトグラフィーにて分析する方法が主流であった(6)6) N. E. Braverman & A. B. Moser: Biochim. Biophys. Acta, 1822, 1442 (2012)..これらの分析法は,プラズマローゲンの全量を把握できる一方で,構成脂肪酸の違いによる分子種を特定することは困難であった.こうした課題から,最近では,高感度かつ高選択的に構成脂肪酸の解析が可能であるHPLC-三連四重極型質量分析(LC-MS/MS)が活用されつつある.LC-MS/MSによる精密な定量法にはさまざまな観点からのバリデーションを行う必要がある.特に,①プラズマローゲンの構造情報を反映したプロダクトイオンの選択,②感度を著しく低下させるマトリックス効果の回避や,③安定した抽出法は定量性を担保するために不可欠である(8)8) P. Donato, F. Cacciola, P. Q. Tranchida, P. Dugo & L. Mondello: Mass Spectrom. Rev., 31, 523 (2012)..こうした問題は分析精度を著しく損なうにもかかわらず,これらの課題を解決したプラズマローゲン分子種の定量法は意外にもほとんどない.そこで,われわれは①~③を解決し,プラズマローゲン分子種分析を達成してきた.
これまで,プラズマローゲンの質量分析(MS/MS)には主にプロトン存在下において生じるリン酸基由来のプロダクトイオンが用いられてきた.たとえば,コリン型のプラズマローゲン(PlsCho)であれば,プロダクトイオンとしてホスホコリンが選択され,その検出が行われてきた.しかし,このプロダクトイオンは,ホスホコリンを有する他のリン脂質(ジアシル型,アルキル型)との共通構造であるため,プラズマローゲンを特異的に検出することは困難である(図2図2■プラズマローゲンのMS/MS解析).こうした背景の中,われわれは,MS/MS分析にナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンを用いると,プラズマローゲンから特異的なプロダクトイオンが生じることを見いだした(図2図2■プラズマローゲンのMS/MS解析)(9)9) Y. Otoki, K. Nakagawa, S. Kato & T. Miyazawa: J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci., 1004, 85 (2015)..本プロダクトイオンが生じるメカニズムとは,気相中でナトリウムイオンがLewis酸として作用することで,グリセロール骨格とsn-1位の脂肪族アルコールを含む構造(プラズマローゲンに特徴的なビニルエーテル基を有する構造)が,カチオンとして検出されたためと考えられた.また,本プロダクトイオンは,PlsChoのみならずエタノールアミン型プラズマローゲン(PlsEtn)からも生じることが分かったため,MS/MS部での,プラズマローゲンの検出に用いたところ,プラズマローゲンのみを高選択的に検出できることがわかった.次いで,LC部の最適化を行った.LC-MS/MS分析の特有な現象であるマトリックス効果は,イオンソースに分析対象化合物とともにイオン化阻害(促進)化合物が同時に流れ込んだ際に生じる.こうしたマトリックス効果は対象化合物の分析感度を~100%損なう可能性もあるため,精密定量には対策が必須であるが,プラズマローゲンの分析には必ずしもその評価が十分に行われてこなかった.そこで,マトリックス効果を回避したLC条件の最適化の他,ヒト血漿や脳などの生体サンプルからの抽出法の検討や種々のバリデーションを行ったところ,ヒト血漿および脳中のプラズマローゲン分子種を高感度(fmolレベル)・高精度に定量できるLC-MS/MS分析法を構築することができた(図3図3■プラズマローゲン分子種のMRMクロマトマトグラム)(10, 11)10) Y. Otoki, S. Kato, F. Kimura, L. Furukawa, S. Yamashita, H. Arai, T. Miyazawa & K. Nakagawa: J. Pharm. Biomed. Anal., 134, 77 (2017).11) Y. Otoki, M. Hennebelle, A. J. Livitt, K. Nakagawa, W. Swardfager & A. Y. Taha: Lipids, 52, 559 (2017)..なお,これらの最適化には,プラズマローゲン分子種それぞれの純品の標準品が必須であるため,有機合成(12)12) S. Maeda, T. Mohri, T. Inoue, Y. Asano, Y. Otoki, M. Enomoto, K. Nakagawa, S. Kuwahara & Y. Ogura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 85, 1383 (2021).および酵素を駆使して(13)13) Y. Otoki, S. Kato, K. Nakagawa, D. J. Harvey, L. W. Jin, B. N. Dugger & A. Y. Taha: Neuromolecular Med., 1, 161 (2021).,様々なプラズマローゲン分子種を合成し,これらを高精度に定量分析することが可能となった.
ゲノミクス,プロテオミクスに代表されるオミクス解析が台頭し,さらにLC-MS/MS技術の活用が進むにつれ,ここ10年ほどでリピドミクスも盛んになった.その感度や精度,選択性の高さはますます進化している一方で,選択性の向上は,マトリックスの影響やノイズが見えにくくなることを意味する.なおざりにされがちなこのことを十分に考慮しつつ,プラズマローゲンを分子種レベルで精密に定量することが重要である.
次に,アルツハイマー病とプラズマローゲンの関係や,摂取による影響に関する最近の知見と“精密定量”法を活用したわれわれの取り組みについて紹介する.
ヒトの脳は,乾燥重量の約60%が脂質と極めて非常に脂質に富んだ組織といえる(14)14) J. S. O’Brien & E. L. Sampson: J. Lipid Res., 6, 537 (1965)..総脂質の約半分がリン脂質であり,そのうち,70%を占めるのがホスファチジルエタノールアミン(PE;約40%)とホスファチジルコリン(PC;約30%)である.脳中PE, PCのうち,プラズマローゲンはそれぞれ約60%と3%であり,他の臓器(リン脂質のうち約20%)と比べると,脳には圧倒的にプラズマローゲンが多いことが分かる(14)14) J. S. O’Brien & E. L. Sampson: J. Lipid Res., 6, 537 (1965)..とりわけPUFAを有するプラズマローゲンは灰白質に多く,活発な神経細胞の膜融合やシグナル伝達に寄与していると考えられている(6, 15)6) N. E. Braverman & A. B. Moser: Biochim. Biophys. Acta, 1822, 1442 (2012).15) X. Han, D. M. Holtzman & D. W. McKeel Jr.: J. Neurochem., 77, 1168 (2001)..
1990年代にアルツハイマー病者の脳において,健常者と比較してPlsEtnの有意な減少が確認され(16)16) L. Ginsberg, S. Rafique, J. H. Xuereb, S. I. Rapoport & N. L. Gershfeld: Brain Res., 698, 223 (1995).,プラズマローゲンとアルツハイマー病の関連について注目されるようになった.しかし,これまでのヒトアルツハイマー病者の脳を用いた研究においては,PlsEtnの減少する報告が多いものの(15~17)15) X. Han, D. M. Holtzman & D. W. McKeel Jr.: J. Neurochem., 77, 1168 (2001).16) L. Ginsberg, S. Rafique, J. H. Xuereb, S. I. Rapoport & N. L. Gershfeld: Brain Res., 698, 223 (1995).17) Z. Guan, Y. Wang, N. J. Cairns, P. L. Lantos, G. Dallner & P. J. Sindelar: J. Neuropathol. Exp. Neurol., 58, 740 (1999).,PlsEtnは変化せず,PlsChoが減少する(18, 19)18) J. W. Pettegrew, K. Panchalingam, R. L. Hamilton & R. J. McClure: Neurochem. Res., 26, 771 (2001).19) M. Igarashi, K. Ma, F. Gao, H. W. Kim, S. I. Rapoport & J. S. Rao: J. Alzheimers Dis., 24, 607 (2011).,またはPlsEtnが増加するといった報告もあり(20, 21)20) T. L. Rothhaar, S. Grösgen, V. J. Haupenthal, V. K. Burg, B. Hundsdörfer, J. Mett, M. Riemenschneider, H. S. Grimm, T. Hartmann & M. O. W. Grimm: ScientificWorldJournal, 2012, 141240 (2012).21) R. B. Chan, T. G. Oliveira, E. P. Cortes, L. S. Honig, K. E. Duff, S. A. Small, M. R. Wenk, G. Shui & G. D. Paolo: J. Biol. Chem., 287, 2678 (2012).,一貫した見解に至っていない.もちろんそれぞれの研究において分析した部位や年齢,分析手法が異なるため,単純な比較はできないものの,アルツハイマー病者の脳においてプラズマローゲンの代謝異常が生じている可能性は高い.そこでわれわれは,構築した高精度なプラズマローゲン分子種分析法を用いてヒトアルツハイマー病者(n=21),および健常者の脳(n=20)中のプラズマローゲンおよびその関連リン脂質の定量解析を行った.その結果,多くのプラズマローゲン分子種では健常者と差がなく,PlsCho 18 : 0/22 : 6のみが健常者と比較して有意に低値となり,PlsEtn 18 : 0/20 : 4においては低値となる傾向が見られた(図4図4■アルツハイマー病(AD)者の脳のプラズマローゲン)(13)13) Y. Otoki, S. Kato, K. Nakagawa, D. J. Harvey, L. W. Jin, B. N. Dugger & A. Y. Taha: Neuromolecular Med., 1, 161 (2021)..PlsCho 18 : 0/22 : 6は,PlsEtn 18 : 0/22 : 6からホスホリパーゼCとホスホトランスフェラーゼにより合成されるが,ごく最近,軽度認知症者の脳においてこれらの活性低下が報告されている(22)22) L. Kleineidam, V. Chouraki, T. Prochnicki, S. J. van der Lee, L. Madrid-Marquez, H. Wagner-Thelen, I. Karaca, L. Weinhold, S. Wolfsgruber, A. Boland et al.; Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative (ADNI): Acta Neuropathol., 139, 1025 (2020)..また,PlsChoは,PlsEtnよりもターンオーバーが速いことが知られており(23)23) T. A. Rosenberger, J. Oki, A. D. Purdon, S. I. Rapoport & E. J. Murphy: J. Lipid Res., 43, 59 (2002).,PlsCho 18 : 0/22 : 6減少のため,アルツハイマー病者の脳において,抗炎症作用を発揮する遊離DHAおよびその代謝産物の供給源の減少が示唆された.一方で,アルツハイマー病者の脳にAAおよびその代謝産物が増え,炎症惹起に関与していること(24)24) G. Esposito, G. Giovacchini, J. S. Liow, A. K. Bhattacharjee, D. Greenstein, M. Schapiro, M. Hallett, P. Herscovitch, W. C. Eckelman, R. E. Carson et al.: J. Nucl. Med., 49, 1414 (2008).やプラズマローゲン特異的なホスホリパーゼA2の活性化が報告されている(25)25) A. A. Farooqui: Mol. Neurobiol., 41, 267 (2010)..さらに,本研究で見られたPlsEtn 18 : 0/20 : 4の低下は,他のリン脂質(ジアシル型やアルキル型)では見られなかったことからも,PlsEtnがAAの主な供給源になっていることが示唆された.以上のように,PUFAを有するプラズマローゲンが脳のターンオーバーや,脂質メディエーターの供給に重要な役割を担っていると考えられた.
アルツハイマー病者の脳におけるプラズマローゲンの減少が報告されて以降,プラズマローゲンの摂取による認知機能回復もしくはアルツハイマー病予防法の構築に期待がもたれるようになった.ただし,プラズマローゲンのビニルエーテル結合は酸によって加水分解するため,摂食後に胃酸によりその大半が分解されるものと考えられてきた.そのためもっぱらプラズマローゲンの合成中間体であるアルキルグリセロールの摂取が検討されてきた.たとえば,1-O-heptadecyl-sn-glycerolをラットに経口投与するとグリセロール骨格のsn-1位にC17 : 0を有するプラズマローゲンが増加することが確認されている(26)26) M. L. Blank, E. A. Cress, Z. L. Smith & F. Snyder: Lipids, 26, 166 (1991)..投与されたアルキルグリセロールの一部は,小胞体上でリン酸基が導入されて1-O-heptadecyl-sn-glycerol-3-phosphateに変換されプラズマローゲンの合成系に入ると考えられており(図3図3■プラズマローゲン分子種のMRMクロマトマトグラム)(7, 27)7) P. Brites, H. R. Waterham & R. J. A. Wanders: Biochim. Biophys. Acta, 1636, 219 (2004).27) S. Paul, A. A. Rasmiena, K. Huynh, A. A. T. Smith, N. A. Mellett, K. Jandeleit-Dahm, G. I. Lancaster & P. J. Meikle: Metabolites, 11, 299 (2021).,こういったアルキルグリセロールの摂取は特にプラズマローゲン合成酵素欠損症などの治療に有効であることが証明されている.一方で,健常なマウスにおいては,投与したアルキルグリセロール由来のプラズマローゲンが増加するが,総プラズマローゲンの増加には至らないことも確認されている(26)26) M. L. Blank, E. A. Cress, Z. L. Smith & F. Snyder: Lipids, 26, 166 (1991).(たとえば,1-O-heptadecyl-sn-glycerolはC17 : 0を有するプラズマローゲンを増加させるが,その分,他のプラズマローゲンが減少するため,結果として総プラズマローゲンの増加は見られない).こういったことから,プラズマローゲン濃度は,その合成系により厳密に制御されていると考えられる.
前述したようにプラズマローゲンは従来胃酸で大部分が分解されると考えられてきたが,ごく最近,Fallatahらによってプラズマローゲンが,pH 3-5下でビニルエーテル結合の分解率20%以下であることが示された(28)28) W. Fallatah, T. Smith, W. Cui, D. Jayasinghe, E. D. Pietro, S. A. Ritchie & N. Braverman: Dis. Model. Mech., 13, ••• (2020)..空腹時の胃酸は約pH 2であるが,摂食時にpH 5-7まで上昇することを考慮すると(29)29) J. B. Dressman, R. R. Berardi, L. C. Dermentzoglou, T. L. Russell, S. P. Schmaltz, J. L. Barnett & K. M. Jarvenpaa: Pharm. Res., 7, 756 (1990).,プラズマローゲンを食事中に摂取してもその大半が分解を免れると考えられる(28)28) W. Fallatah, T. Smith, W. Cui, D. Jayasinghe, E. D. Pietro, S. A. Ritchie & N. Braverman: Dis. Model. Mech., 13, ••• (2020)..実際に牛の脳や海産物由来のプラズマローゲンを経口投与したラットにおいて,プラズマローゲンの血中濃度の上昇することがわれわれ含めいくつかの研究グループにより確認されている(28, 30, 31)28) W. Fallatah, T. Smith, W. Cui, D. Jayasinghe, E. D. Pietro, S. A. Ritchie & N. Braverman: Dis. Model. Mech., 13, ••• (2020).30) M. Nishimukai, T. Wakisaka & H. Hara: Lipids, 38, 1227 (2003).31) S. Yamashita, K. Fujiwara, Y. Tominaga, E. Nguma, T. Takahashi, Y. Otoki, A. Yamamoto, O. Higuchi, K. Nakagawa, M. Kinoshita et al.: J. Oleo Sci., 70, 263 (2021)..さらに,ラットを用いた胸管リンパカニュレーション法によっても,確かにプラズマローゲンが腸管を経てリンパ液に吸収されること,投与されたプラズマローゲンの一部は腸管吸収の際に特徴的な構造変換(sn-2位へのAAの選択的な再エステル化とPlsEtnからPlsChoへの塩基変換)を受けることが示されている(32~34)32) H. Hara, T. Wakisaka & Y. Aoyama: Br. J. Nutr., 90, 29 (2003).33) M. Nishimukai, M. Yamashita, Y. Watanabe, Y. Yamazaki, T. Nezu, R. Maeba & H. Hara: Eur. J. Nutr., 50, 427 (2011).34) T. Takahashi, R. Kamiyoshihara, Y. Otoki, J. Ito, S. Kato, T. Suzuki, S. Yamashita, T. Eitsuka, I. Ikeda & K. Nakagawa: Food Funct., 11, 8068 (2020)..こういった構造変換は,腸管粘膜内に高発現しているリゾリン脂質のsn-2位にアラキドン酸を選択的に組み込むアシルトランスフェラーゼ(LPCAT3)により促進したと考えられる(35)35) I. Kabir, Z. Li, H. H. Bui, M. Kuo, G. Gao & X. Jiang: J. Biol. Chem., 291, 7651 (2016)..上述のように,PUFAを有するプラズマローゲンは脳において特に重要である考えられるため,こうした腸管での構造変換が,食事由来プラズマローゲンの機能性を調節する重要な役割を担うと考えられる.
このような吸収試験を踏まえ,最近,プラズマローゲンの経口摂取によるアルツハイマー病への影響について動物試験およびヒト試験によって検討されている(36~39)36) M. S. Hossain, A. Tajima, S. Kotoura & T. Katafuchi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 496, 1033 (2018).37) H. Che, Q. Li, T. Zhang, L. Ding, L. Zhang, H. Shi, T. Yanagita, C. Xue, Y. Chang & Y. Wang: Food Funct., 9, 3008 (2018).38) S. Yamashita, M. Hashimoto, A. M. Haque, K. Nakagawa, M. Kinoshita, O. Shido & T. Miyazawa: Lipids, 52, 757 (2017).39) T. Fujino, T. Yamada, T. Asada, Y. Tsuboi, C. Wakana, S. Mawatari & S. Kono: EBioMedicine, 17, 199 (2017)..いくつかの動物試験においては,認知機能の回復や神経炎症の緩和が報告されている(36~38)36) M. S. Hossain, A. Tajima, S. Kotoura & T. Katafuchi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 496, 1033 (2018).37) H. Che, Q. Li, T. Zhang, L. Ding, L. Zhang, H. Shi, T. Yanagita, C. Xue, Y. Chang & Y. Wang: Food Funct., 9, 3008 (2018).38) S. Yamashita, M. Hashimoto, A. M. Haque, K. Nakagawa, M. Kinoshita, O. Shido & T. Miyazawa: Lipids, 52, 757 (2017)..特に,Yamashitaらは,DHAを有するPlsEtnを多く含むホヤ由来のPlsEtnをアルツハイマー病モデルマウスに経口摂取(8 mg/kg)させると,認知機能の改善だけでなく,血中,肝臓や脳においてPlsEtnの上昇を報告している(38)38) S. Yamashita, M. Hashimoto, A. M. Haque, K. Nakagawa, M. Kinoshita, O. Shido & T. Miyazawa: Lipids, 52, 757 (2017)..このようにプラズマローゲンのアルツハイマー病予防に対するますます期待が高まっている一方で,ヒト試験の知見はまだまだ少なく,真にプラズマローゲンがアルツハイマー病予防に効果的あるか,その有効投与量や腸管吸収メカニズムを踏まえた評価が必要であろう.
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