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最先端イメージングで迫るトランスゴルジ網の積荷選別機構積荷タンパク質はどのように仕分けられる?

Yutaro Shimizu

清水 優太朗

理化学研究所環境資源科学研究センター

Tomohiro Uemura

植村 知博

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ライフサイエンス専攻

Published: 2022-05-01

私たちヒトを含めた動物や植物などの真核生物には,細胞の外側と内側を仕切る「細胞膜」に加えて,細胞内に小胞体,ゴルジ体,液胞/リソソームなど,膜で囲まれた様々な区画「オルガネラ」が存在する(図1図1■植物のオルガネラと膜交通).各膜区画が固有の役割を果たすことで生命の最小単位である細胞,ひいては個体の正常な生命活動が維持される.このためには,特有の機能を有するタンパク質が適切な膜区画へと局在しなければならない.このようなタンパク質の正しい配置を実現している仕組みの一つが「膜交通」である.膜交通とは,運ぶべき積荷タンパク質を積載した輸送中間体(膜でできた小胞や細管など)が供与側膜区画から生じ,標的となる膜区画へ融合することで,正しい場所に適切なタンパク質を送り届ける物質輸送システムである.膜交通は,積荷タンパク質を認識して適切な輸送中間体に積み込む被覆タンパク質adaptor protein(AP)複合体やクラスリン,そして輸送中間体と標的膜の膜融合を引き起こすSNAREタンパク質(soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor)など,進化的に保存されたタンパク質群により緻密に制御されている.

図1■植物のオルガネラと膜交通

(A) TGNを指し示すSYP61(黄色),細胞膜へ輸送される積荷VAMP721(マゼンタ)液胞膜へ輸送される積荷VAMP727(青緑色)を,それぞれ異なる蛍光タンパク質を用いて可視化した.(B)植物を含む真核生物の細胞内には様々なオルガネラが存在する.小胞体で合成されたタンパク質は,膜交通により適切なオルガネラに輸送される.単一のTGN上には分泌輸送を担うゾーンと液胞輸送を担うゾーンが存在する.分泌輸送ゾーンからは独立型TGNが生じる.

膜交通の起点となる小胞体で新規合成されたタンパク質は,ゴルジ体で修飾を受けた後にトランスゴルジ網(trans-Golgi network: TGN)に受け渡され様々な目的地へと運ばれる(図1図1■植物のオルガネラと膜交通).例えば,細胞内外の物質をやり取りするために,細胞膜や細胞外にタンパク質が供給されなくてはならないが,このようなタンパク質は一般的には小胞体→ゴルジ体→TGN→細胞膜/細胞外という順番で輸送される.また,液胞は多種多様な物質の貯蔵や分解を担うオルガネラであり,ここで機能するタンパク質は小胞体→ゴルジ体→TGN→液胞という順番で輸送される.前者を分泌輸送経路,後者を液胞輸送経路と呼ぶ.ここで,TGNが異なる2つの輸送経路の分岐点になっていることがご理解いただけるかと思う(図1図1■植物のオルガネラと膜交通).本項では,「TGNがどのように異なる輸送経路を制御する場として機能しているのか」,その実態が近年発達したイメージング技術により明らかになったので紹介したい.

現在TGNと呼ばれる膜構造の研究は,哺乳動物の組織細胞を電子顕微鏡で観察した1960年代の形態学・細胞化学的研究に端を発し,1986年にGriffithsとSimonsがその名称と定義を報告している(1)1) G. Griffiths & K. Simons: Science., 234, 438 (1986)..ゴルジ体には,小胞体から積荷を受け取る入り口に相当するシス面と出口に相当するトランス面というはっきり異なる極性が存在する.TGNはその名の通り,ゴルジ体のトランス面に隣接して存在し,多数の小胞や細管様構造からなるオルガネラであることから,ゴルジ体を通過してきたタンパク質を最終目的地に向けて仕分けるプラットフォームであるとの考えが広く受け入れられてきた.しかしながら,生細胞中の単一TGNに局在する複数のタンパク質を同時かつ高い時空間分解能で観察することは従来の顕微鏡を用いた研究では困難であり,「異なる目的地に輸送される積荷タンパク質がTGNにおいてどのように仕分けられるのか」,その実態は不明であった.我々は,顕微鏡下で単一のTGNを容易に識別できるモデル植物シロイヌナズナの根の表皮細胞を対象に,「高速超解像ライブイメージング顕微鏡SCLIM(2)2) K. Kurokawa & A. Nakano: Bio Protoc., 10, e3732 (2020).」を用いて,TGNで機能する膜交通タンパク質の詳細な局在とその動態を直接観察することで,この謎を明らかにすることを試みた.

これまでのシロイヌナズナを用いた研究において,TGNが少なくとも2つの輸送経路(分泌輸送経路と液胞輸送経路)の分岐点となる仮説と一致して,TGNから異なる目的地に積荷として輸送される2種類のR-SNAREタンパク質(VAMP721とVAMP727)がTGNに局在することが知られていた(3)3) T. Uemura, R. T. Nakano, J. Takagi, Y. Wang, K. Kramer, I. Finkemeier, H. Nakagami, K. Tsuda, T. Ueda, P. Schulze-Lefert et al.: Plant Physiol., 179, 519 (2019)..同様に,TGNにおいて異なる積荷タンパク質を選別すると考えられている複数の被覆タンパク質(AP-1・AP-4・クラスリン)がTGNに局在する(4)4) K. Fuji, M. Shirakawa, Y. Shimono, T. Kunieda, Y. Fukao, Y. Koumoto, H. Takahashi, I. Hara-Nishimura & T. Shimada: Plant Physiol., 170, 211 (2016)..TGNから積荷タンパク質がどのように目的地へ運ばれていくのかを理解するために,細胞膜へ輸送されるVAMP721と液胞膜へ輸送されるVAMP727を異なる色の蛍光タンパク質で標識し,TGN上での局在をSCLIMで観察したところ,これらの積荷タンパク質は同一のTGN上で分離して局在することが明らかになった(図1A図1■植物のオルガネラと膜交通(5)5) Y. Shimizu, J. Takagi, E. Ito, Y. Ito, K. Ebine, Y. Komatsu, Y. Goto, M. Sato, K. Toyooka, T. Ueda et al.: Nat. Commun., 12, 1 (2021)..この結果により,分泌輸送経路と液胞輸送経路が,単一のTGN上で区画化されて制御されている可能性が示唆された.そこで,上記積荷タンパク質の局在観察に加えて,積荷の選別を担うAP-1とAP-4とクラスリンを含めた包括的な観察をおこなった.その結果,細胞膜へ輸送されるVAMP721とAP-1とクラスリンが共局在する区画と,液胞膜へ輸送されるVAMP727とAP-4が共局在する区画が,同一のTGN上で相互排他的に存在することが分かった(5)5) Y. Shimizu, J. Takagi, E. Ito, Y. Ito, K. Ebine, Y. Komatsu, Y. Goto, M. Sato, K. Toyooka, T. Ueda et al.: Nat. Commun., 12, 1 (2021)..我々は,前者の区画を「分泌輸送ゾーン」,後者の区画を「液胞輸送ゾーン」として提唱した.また分泌輸送ゾーンに局在するタンパク質と液胞輸送ゾーンに局在するタンパク質はTGN上で空間的に分離して局在するだけでなく,独自の動態を示すことも分かった(5)5) Y. Shimizu, J. Takagi, E. Ito, Y. Ito, K. Ebine, Y. Komatsu, Y. Goto, M. Sato, K. Toyooka, T. Ueda et al.: Nat. Commun., 12, 1 (2021)..これらの観察結果から,細胞膜と液胞という異なる目的地に輸送される積荷タンパク質は,単一のTGN上に明確に区画化されて存在する「ゾーン」を介して仕分けられていることが初めて明らかになった(図1図1■植物のオルガネラと膜交通).

これらの輸送ゾーンにはどのような生理的な役割があるのだろうか? その答えの一つとして,分泌輸送ゾーンから形成される独立型TGNが植物免疫に関与することも明らかになっている(3)3) T. Uemura, R. T. Nakano, J. Takagi, Y. Wang, K. Kramer, I. Finkemeier, H. Nakagami, K. Tsuda, T. Ueda, P. Schulze-Lefert et al.: Plant Physiol., 179, 519 (2019)..独立型TGNは分泌輸送ゾーンの一部が出芽・分離して生じるゴルジ体とは独立したTGNである.シロイヌナズナに感染できないうどんこ病菌の菌接種後24時間では,菌接種前に比べて独立型TGNの割合が約10%上昇し,菌接種後48時間では菌接種前と同じ割合に戻る.これらの結果は,病原菌に感染直後に,植物が抗菌性物質を大量に生産し分泌することで植物免疫システムを機能させていることを示唆しており,輸送ゾーンは効率的な物質輸送をおこなうために必須なシステムであると我々は考えている.

近年,生命の階層の概念におけるオルガネラと生体分子群の間の階層として,オルガネラ内に存在する機能的区画「オルガネラ・ゾーン」が提唱され,生命現象におけるその機能解明が進んでいる(6)6) H. Nishitoh: J. Biochem., 165, 97 (2019)..今後,TGNにおける積荷選別機構の全容を理解するためには,「輸送ゾーン」がどのような分子基盤により形成,維持され,機能するのかを徹底的に解明する必要があるだろう.

Reference

1) G. Griffiths & K. Simons: Science., 234, 438 (1986).

2) K. Kurokawa & A. Nakano: Bio Protoc., 10, e3732 (2020).

3) T. Uemura, R. T. Nakano, J. Takagi, Y. Wang, K. Kramer, I. Finkemeier, H. Nakagami, K. Tsuda, T. Ueda, P. Schulze-Lefert et al.: Plant Physiol., 179, 519 (2019).

4) K. Fuji, M. Shirakawa, Y. Shimono, T. Kunieda, Y. Fukao, Y. Koumoto, H. Takahashi, I. Hara-Nishimura & T. Shimada: Plant Physiol., 170, 211 (2016).

5) Y. Shimizu, J. Takagi, E. Ito, Y. Ito, K. Ebine, Y. Komatsu, Y. Goto, M. Sato, K. Toyooka, T. Ueda et al.: Nat. Commun., 12, 1 (2021).

6) H. Nishitoh: J. Biochem., 165, 97 (2019).