解説

ポリフェノールの機能性研究とその商品応用抗酸化物質の幅広い機能性

Research on Polyphenol Functions and Application on Products: Wide Functionality of Antioxidants

Hiroko Maruki-Uchida

内田(丸木) 裕子

森永製菓(株)研究所健康科学研究センター

Published: 2022-05-01

食品では一次機能(栄養),二次機能(美味しさ)以外にも三次機能(生体調節),いわゆる“食品の機能性”が注目を浴びるようになってきた.多くの機能性が研究されるポリフェノールのうち,ピセアタンノール,および,酵素処理イソクエルシトリンについての機能を紹介する.

Key words: 食品の機能性; ポリフェノール; 抗酸化物質; ピセアタンノール; 酵素処理イソクエルシトリン

ポリフェノールとは

野菜や果物などの植物が紫外線や乾燥など周りのストレスから身を守る為に生成される抗酸化物質で,苦味,渋み,色素の成分となっているフェノール基が複数ある化合物の総称である.フィトケミカル(phytochemical)の一種で自然界に8000以上の種類が報告され,必須栄養素ではないものの,その抗酸化力で老化,生活習慣病から腸内細菌までさまざまな非感染性疾患に対する健康効果が知られている(1)1) C. G. Fraga, K. D. Croft, D. O. Kennedy & F. A. Tomás-Barberán: Food Funct., 10, 514 (2019)..WHOも野菜や果物の消費を推奨しており(2)2) WHO Technical Series Report: Report of WHO Study Group, https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/39426/WHO_TRS_797_(part1).pdf?sequence=1. 1990.,日本人でもポリフェノールの摂取量は死亡率との逆相関が報告されている(3)3) C. Taguchi, Y. Kishimoto, Y. Fukushima, K. Kondo, M. Yamakawa, K. Wada & C. Nagata: Eur. J. Nutr., 59, 1263 (2020)..また日本の特定保健用途食品や機能性表示食品ではポリフェノールを関与成分とするものが多数届けられている.

ポリフェノールはその骨格からフラボノイド(Flavonoids),フェノール酸(Phenolic acid),リグナン(Lignans),スチルベン(Stilbenes)等に分けられるが,その中でもスチルベン類に含まれるピセアタンノール(図1(a)図1■構造式)とフラボノイド類に含まれケルセチンへの代謝が知られている酵素処理イソクエルシトリン(図1(b)図1■構造式)に着目して研究を進めた結果を紹介する.

図1■構造式

ピセアタンノール

1. ピセアタンノールの吸収と遺伝子発現

ピセアタンノール(Piceatannol)は赤ワインに含まれフレンチパラドックスで有名になったレスベラトロール(Resveratrol)にヒドロキシ基が一つ付加した構造をしており,どちらも長寿遺伝子(Sirtuin)の活性化が報告されている(4)4) K. T. Howitz, K. J. Bitterman, H. Y. Cohen, D. W. Lamming, S. Lavu, J. G. Wood, R. E. Zipkin, P. Chung, A. Kisielewski, L. L. Zhang et al.: Nature, 425, 191 (2003)..豊富に含まれる食品が見つかっていなかったが,パッションフルーツ種子中に豊富に存在することを初めて見いだし(5)5) Y. Matsui, K. Sugiyama, M. Kamei, T. Takahashi, T. Suzuki, Y. Katagata & T. Ito: J. Agric. Food Chem., 58, 11112 (2010).,研究を進めた.まず,ラットを用いて,レスベラトロールと比較して吸収を調べ,未変化体としてピセアタンノールの血中濃度時間曲線下面積(AUC)はレスベラトロールの約2倍高いこと,ラポンチゲニン(Rhapontigenin)やイソラポンチゲニン(Isorhapontigenin)が代謝産物として検出されることを見いだした(6)6) Y. Setoguchi, Y. Oritani, R. Ito, H. Inagaki, H. Maruki-Uchida, T. Ichiyanagi & T. Ito: J. Agric. Food Chem., 62, 2541 (2014)..また,遺伝子発現への影響を検討し,ヒト単球THP-1細胞でピセアタンノールはレスベラトロールと同様にSirtuin1の遺伝子発現を誘導すること(7)7) S. Kawakami, Y. Kinoshita, H. Maruki-Uchida, K. Yanae, M. Sai & T. Ito: Nutrients, 6, 4794 (2014).,筋管に分化させたマウスC2C12細胞ではレスベラトロールを含め他のポリフェノールと比べ酸化ストレス応答Heme oxygenase-1(HO-1)の遺伝子発現を極めて高く誘導すること(8)8) S. Nonaka, S. Kawakami, H. Maruki-Uchida, S. Mori & M. Morita: Biochem. Biophys. Rep., 18, 100643 (2019).を見いだした.

2. ピセアタンノールの代謝性疾患への作用

フレンチパラドックスとして着目されている血管に対する作用を検討した.内皮細胞を用いた検討により,ピセアタンノールの長時間処理は内皮型一酸化窒素合成酵素の発現を増加させることが明らかとなった(9)9) Y. Kinoshita, S. Kawakami, K. Yanae, S. Sano, H. Uchida, H. Inagaki & T. Ito: Biochem. Biophys. Res. Commun., 430, 1164 (2013)..そこで高脂肪食負荷ラットを用いて,ピセアタンノール高含有パッションフルーツ種子エキス(以下PFSE)の心血管保護作用について検討した.その結果,通常食と比較して16週間の高脂肪食負荷は,コレステロールや中性脂肪値の上昇,血小板凝集能の増加を示したが,PFSEの同時摂取によりそれらは抑制された.また高脂肪食負荷による血管弛緩能の減弱についても,PFSEの摂取により改善が見られた(10)10) A. Ishihata, H. Maruki-Uchida, N. Gotoh, S. Kanno, Y. Aso, S. Togashi, M. Sai, T. Ito & Y. Katano: Food Funct., 7, 4075 (2016)..また,糖代謝に与える影響も検討した.高脂肪食負荷マウスや糖尿病モデルdb/dbマウスを用いて,ピセアタンノールやPFSEの血糖値に与える影響を検討し,有意な血糖降下作用を見いだした(11)11) H. Uchida-Maruki, H. Inagaki, R. Ito, I. Kurita, M. Sai & T. Ito: Biol. Pharm. Bull., 38, 629 (2015).

そこでプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験でピセアタンノールのヒト代謝性疾患への効果を検討した.39人の過体重・正常体重の男女にパッションフルーツ種子から抽出したピセアタンノール10 mgを1日2回8週間摂取させた結果,過体重男性において血中インスリンやHOMA-IRの変化量を有意に改善した(図2図2■血圧とインスリン,HOMA-IRの変化量).摂取前後で血圧や心拍数も低下した(12)12) M. Kitada, Y. Ogura, H. Maruki-Uchida, M. Sai, T. Suzuki, K. Kanasaki, Y. Hara, H. Seto, Y. Kuroshima, I. Monno et al.: Nutrients, 9, 1142 (2017)..一方,正常体重男性や女性ではそういった効果は見られず,ピセアタンノールはレスベラトロールと同様に糖代謝や血管異常に有効である可能性を示したが,ヒトにおいては性差など更なる検討が必要と考えられた.

図2■血圧とインスリン,HOMA-IRの変化量

3. ピセアタンノールの脂質代謝への作用

老化への影響を25カ月齢の老齢マウスを用いて検討した.その結果,4カ月齢の若齢マウスに比べ,老齢マウスでは運動時の脂肪の代謝が低下するが,6カ月間のピセアタンノールの摂取は運動時の脂肪燃焼低下を改善する作用を見いだした(13)13) S. Tsukamoto-Sen, S. Kawakami, H. Maruki-Uchida, R. Ito, N. Matsui, Y. Komiya, Y. Mita, M. Morisasa, N. Goto-Inoue, Y. Furuichi et al.: Food Funct., 12, 825 (2021).

そこでプラセボ対照無作為化二重盲検クロスオーバー試験でピセアタンノールのヒト脂肪燃焼への効果を検討した.ピセアタンノール10 mgを1日1回2週間摂取させた結果,中高年男女の中強度運動時の脂肪燃焼と呼吸商(RQ)が有意に改善されることがわかった(図3図3■脂肪燃焼量,呼吸商(14)14) 松井直子,内田(丸木)裕子,山本貴之,伊藤良一,海老原淑子,守田 稔:薬理と治療,49, 731 (2021)..また同様に,1日1回1週間摂取させた結果でも安静時や低強度運動時のRQが有意に改善された(15)15) A. D. Tanzi, S. Kawakami, S. Mori, M. Morita & S. Yano: Jpn. Pharmacol. Ther., 48, 1235 (2020)..この結果をもとに,脂肪消費にかかわる機能性表示を取得した.

図3■脂肪燃焼量,呼吸商

4. ピセアタンノールの肌への作用

ピセアタンノールは線維芽細胞でのコラーゲン合成促進,メラニン抑制作用が報告されていたので,化粧品を想定し,角化細胞への影響を検討した.その結果,ピセアタンノールは抗酸化作用を示すグルタチオン(GSH)を濃度依存的に増加させた.また角化細胞にUVBを照射し発生する活性酸素種(ROS)をピセアタンノールは濃度依存的に抑制した.さらに,UVBを照射した角化細胞の培養上清を線維芽細胞に添加するとコラーゲン分解酵素のMatrix metalloproteinase-1(MMP-1)活性が線維芽細胞で上昇するが,ピセアタンノールはそれを抑制した(16)16) H. Maruki-Uchida, I. Kurita, K. Sugiyama, M. Sai, K. Maeda & T. Ito: Biol. Pharm. Bull., 36, 845 (2013)..この結果をもとに,米国パーソナルケア製品評議会(Personal Care Products Council)に抗酸化,肌調節作用などの機能でPassiflora Edulis Seed Extractの名称を登録し,INCI名を取得,種々の安全性試験を実施して,日本で初めてパッションフルーツ種子エキスの化粧品を発売した.

また内外美容を考え,プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験でピセアタンノールのヒト肌への効果を検討した.ピセアタンノール5 mg配合PFSEを1日1回8週間摂取させた結果,肌の水分量の増加が示唆された.また主観的評価であるVASアンケートでは,発汗や疲れにおいてPFSE摂取群で有意な改善が見られた(17)17) H. Maruki-Uchida, M. Morita, Y. Yonei & M. Sai: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 64, 75 (2018)..これらの結果からPFSEの摂取は肌の水分量を保つ機能を有する可能性が示唆された.

5. ピセアタンノールのその他の作用とメカニズム

脳機能関連としてはレスベラトロールより強いアストロサイトへの分化促進作用(18)18) D. Arai, R. Kataoka, S. Otsuka, M. Kawamura, H. Maruki-Uchida, M. Sai, T. Ito & Y. Nakao: Food Funct., 7, 4432 (2016).,抗癌作用としてはスチルベン類の中でも高いGlyoxalase(GLO)1酵素の阻害作用(19, 20)19) T. Yamamoto, A. Sato, Y. Takai, A. Yoshimori, M. Umehara, Y. Ogino, M. Inada, N. Shimada, A. Nishida, R. Ichida et al.: Biochem. Biophys. Rep., 20, 100684 (2019).20) R. Takasawa, H. Akahane, H. Tanaka, N. Shimada, T. Yamamoto, H. Uchida-Maruki, M. Sai, A. Yoshimori & S. I. Tanuma: Bioorg. Med. Chem. Lett., 27, 1169 (2017).,時計遺伝子への作用(21)21) T. Yamamoto, S. Iwami, S. Aoyama, H. Maruki-Uchida, S. Mori, R. Hirooka, K. Takahashi, M. Morita & S. Shibata: J. Funct. Foods, 56, 49 (2019).,脂肪細胞の炎症抑制作用(22)22) T. Yamamoto, Y. Li, Y. Hanafusa, Y. S. Yeh, H. Maruki-Uchida, S. Kawakami, M. Sai, T. Goto, T. Ito & T. Kawada: Food Sci. Nutr., 5, 76 (2017).などを見いだしている.残念ながら,それぞれの機能への詳細なメカニズムが十分には検討できていないが,長寿遺伝子や時計遺伝子といった上流の遺伝子への作用が考えられる(23)23) R. Hosoda, H. Hamada, D. Uesugi, N. Iwahara, I. Nojima, Y. Horio & A. Kuno: J. Pharmacol. Exp. Ther., 376, 385 (2021)..他にもKeap1/Nrf2システムによる酸化ストレス防御機構や,古くから知られているSpleen tyrosine kinase(Syk)kinase(24)24) R. L. Geahlen & J. L. McLaughlin: Biochem. Biophys. Res. Commun., 165, 241 (1989).やCyclooxygenase(COX)2などの阻害効果(25)25) H. Piotrowska, M. Kucinska & M. Murias: Mutat. Res., 750, 60 (2012).の影響がある可能性もある.ピセアタンノールの研究はまだ少ないものの右肩上がりで伸びており,今後も更なる機能解明が待たれる.

酵素処理イソクエルシトリン

1. 酵素処理イソクエルシトリンの筋肥大への作用

酵素処理イソクエルシトリン(Enzymatically modified isoquercitrin以下EMIQ)は,ソバ,タマネギ,エンジュのつぼみなどに豊富に含まれるルチンなどケルセチン配糖体の吸収を酵素処理することで高めたポリフェノールで,ケルセチンやその代謝物の抱合体として血中で観察されるが,ルチンやケルセチンに比べその吸収が高いことがヒトでも報告されている(26)26) K. Murota, N. Matsuda, Y. Kashino, Y. Fujikura, T. Nakamura, Y. Kato, R. Shimizu, S. Okuyama, H. Tanaka, T. Koda et al.: Arch. Biochem. Biophys., 501, 91 (2010)..当社ではアレルゲンの懸念のないエンジュ(マメ科)由来ルチンを処理したものを用いている.

協働筋を切除した過負荷の運動モデルマウスを用いて,ポリフェノール素材を探索したところ,3週間のEMIQ摂取が足底筋の肥大を促進することを見いだした.さらに協働筋を切除しない偽切除のマウスにおいても,EMIQ摂取が足底筋の肥大を促進することを見いだし,EMIQの筋肥大作用は餌中のタンパク源をアスリートが運動時に摂取するタンパク質であるホエイに変更しても維持された(27)27) A. Kohara, M. Machida, Y. Setoguchi, R. Ito, M. Sugitani, H. Maruki-Uchida, H. Inagaki, T. Ito, N. Omi & T. Takemasa: J. Int. Soc. Sports Nutr., 14, 32 (2017)..また,マウスに泳運動を行った際のEMIQ摂取の影響を検討した結果,11週間の投与により,腓腹筋の有意な重量増加が見られた.また酸化度(dROMs)や潜在的抗酸化指標(BAP/dROMs)の有意な改善も見られた(28)28) 伊藤良一,川上晋平,松井直子,野中詩織,内田(丸木)裕子,守田 稔:日本運動生理学雑誌,27, 27 (2020).

そこでプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験でEMIQの筋肥大効果を検討した.39人のアメリカンフットボール選手に,4カ月間42 mgのEMIQ配合/非配合ホエイプロテインを週6回摂取してもらい,体組成をDual Energy X-ray Absorptiometry(DEXA)で調べた.その結果,EMIQ配合プロテイン摂取群ではEMIQ非配合プロテイン摂取群に比べ,下肢の筋肉変化量が有意に増加することが示された(図4図4■下肢筋肉変化量(29)29) N. Omi, H. Shiba, E. Nishimura, S. Tsukamoto, H. Maruki-Uchida, M. Oda & M. Morita: J. Int. Soc. Sports Nutr., 16, 39 (2019)..また,抗酸化能(BAP)と酸化度(dROMs)から求めた潜在的抗酸化指標(BAP/dROMs)もEMIQ配合プロテイン摂取群で改善が見られた.

図4■下肢筋肉変化量

また同時に摂取したタンパク質へのEMIQ同時摂取の影響を,プラセボ対照無作為化二重盲検クロスオーバー試験で検討した.その結果,EMIQ配合ホエイプロテインの摂取は,EMIQ非配合に比べてプロテイン摂取により上昇する血中のアミノ酸濃度を高く維持することが明らかとなった(30)30) 麻見直美,角谷雄哉,西村栄作,松井直子,内田(丸木)裕子,渡部厚一,守田 稔:薬理と治療,48, 51 (2020).

2. 酵素処理イソクエルシトリンの老化への影響

老化への影響を,25カ月齢の老齢マウスを用いて検討した.その結果,4カ月齢の若齢マウスに比べ,老齢マウスでは運動時の脂肪の代謝が低下するが,6カ月間のEMIQ摂取で,脂肪の代謝が改善した.また,老齢マウスで低下する活動量を改善し,骨格筋での抗酸化酵素の遺伝子発現や酸化(カルボニル化)が改善されることが示された(13)13) S. Tsukamoto-Sen, S. Kawakami, H. Maruki-Uchida, R. Ito, N. Matsui, Y. Komiya, Y. Mita, M. Morisasa, N. Goto-Inoue, Y. Furuichi et al.: Food Funct., 12, 825 (2021).

そこでプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験でEMIQの老化への効果を検討した.24人の高齢者に,3カ月間42 mgのEMIQを摂取してもらい,身体機能を測定した.その結果,10 m歩行時の速度やケイデンス(歩数/時間)が有意に改善した(図5図5■歩行時間,歩行速度,ケイデンスの変化量(31)31) T. Yamamoto, S. Kawakami, H. Maruki-Uchida, M. Akanuma & M. Morita: Jpn. Pharmacol. Ther., 49, 1487 (2021).

図5■歩行時間,歩行速度,ケイデンスの変化量

3. 酵素処理イソクエルシトリンのメカニズム

EMIQの筋肉や老化への詳細なメカニズムは分かっていない.EMIQ摂取による体内での抗酸化作用が確認できており,同時摂取時にはタンパク質の血中アミノ酸濃度上昇が見られている.酸化ストレス自体は筋肥大に必要という報告もあるが,過度な酸化ストレスは筋疲労につながる(32)32) E. C. Gomes, A. N. Silva & M. R. de Oliveira: Oxid. Med. Cell. Longev., 2012, 756132 (2012)..また酸化ストレスの抑制は筋萎縮抑制への効果が報告されている(33)33) Y. Kim, C. S. Kim, Y. Joe, H. T. Chung, T. Y. Ha & R. Yu: J. Med. Food, 21, 551 (2018)..ミトコンドリア活性化作用(34)34) J. M. Davis, E. A. Murphy, M. D. Carmichael & B. Davis: Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol., 296, R1071 (2009).やAdiponectin受容体を介したAMP-activated protein kinase(AMPK)活性化作用で筋線維のTypeIとIIのスイッチングが起こるという報告(35)35) X. Chen, D. Liang, Z. Huang, G. Jia, H. Zhao & G. Liu: Food Funct., 12, 2693 (2021).がケルセチンではある.運動パフォーマンス改善への報告も多く(36)36) P. Ruiz-Iglesias, A. Gorgori-González, M. Massot-Cladera, M. Castell & F. J. Pérez-Cano: Nutrients, 13, 1132 (2021).,今後の研究の発展が望まれる.

研究成果の商品応用

ピセアタンノールを高含有したPFSEは当社で初となる独自素材の研究開発であり,情熱をこめて“パセノール™”と命名し,配合した商品を現在まで販売している.また研究成果をもとに肌弾力,肌水分や脂肪消費に関する機能性表示を取得し,機能素材として,他社に外販も行っている.

EMIQ配合プロテインの摂取は筋肉に有効であると考えられ,当社のタンパク製品に横断的にEMIQ(パッケージではEルチンと表記)を配合している.

ポリフェノールはお茶のカテキンなど多くの方々に馴染みが深いものである一方で,種類によっては,その複雑な代謝や名称,幅広い作用など研究成果が分かりにくい面もある.食品での機能性は機能性表示食品制度ができ以前よりお客様に伝えやすくなったとはいえ,伝えられる情報は限られ,また多くの商品があふれる中でお客様の方も理解が十分でないことも多い.企業での機能性研究はその研究成果はもちろん,その後どう伝えてお客様の方に選んでいただけるか,という点も重要である.社内では多くの関係部署と最適な伝え方についても協議がされている.現在どちらの商品も知名度の面で苦戦している部分もあるが,今後さらに検討を積み重ねることで選んでいただけるような商品となり,食品を通じて多くの人の健康に貢献でき,笑顔を未来につなげられるように研究を進めていきたい.

おわりに

当社では甘酒(37-39)37) H. Maruki-Uchida, M. Sai & K. Sekimizu: Drug Discov. Ther., 11, 288 (2017).38) S. Kawakami, R. Ito, H. Maruki-Uchida, A. Kamei, A. Yasuoka, T. Toyoda, T. Ishijima, E. Nishimura, M. Morita, M. Sai et al.: Nutrients, 12, 449 (2020).39) H. Maruki-Uchida, M. Sai, S. Yano, M. Morita & K. Maeda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 84, 1689 (2020).やカカオ製品(40)40) 稲垣宏之,川上晋平,松島昂史,松井悠子,川馬利広,海老原淑子,間藤 卓:薬理と治療,49, 1507 (2021).など一般区分の食品についても健康効果を検討している.“滋養豊富”の森永ミルクキャラメルが当社の原点であり,当時に比べ飽食の時代になったものの,現在でも食品には栄養や美味しさの価値も含めて,人々の健康に貢献できる力があると思う.医薬品と比べると食品の効果は弱く,運動など生活習慣にも気を配る必要がある.ただ,私たちの体は私たちが食べたものでできているので,今後も森永製菓の企業理念「おいしく,たのしく,すこやかに」に基づき,食品を通じて多くの人の健康に貢献できるような研究を進めていきたい.

Acknowledgments

本研究は,森永製菓株式会社の健康科学研究センターにて行われたものです.また,多くの大学とも共同研究をさせていただきました.ご指導,ご支援いただいた,センターのメンバーの皆様,先生方に深く感謝致しますとともに,御礼申し上げます.

Reference

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