解説

細菌のPersisterの特性とその制御ResistanceとPersistenceは似て非なるもの

Characteristics of Bacterial Persister and Its Control: Resistance and Persistence, Similar but Clearly Different Behavior

Yoshimitsu Masuda

益田 時光

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門

Published: 2022-05-01

細菌感染に苦しめられてきた人類の救世主として抗生物質が発見され,その黄金時代が幕を開けたその瞬間から,細菌たちはその効果を打ち消す術をすでに見つけていた.病原菌たちが耐性遺伝子の獲得,突然変異によって抗生物質を克服し,人類はまた新たな抗生物質を発見,開発して対抗する,というイタチごっこを続けてきたが,新たな抗生物質の発見,開発が追いついておらず,人類は今,劣勢に立たされている.この薬剤耐性菌問題はよく知られていることであるが,遺伝子変異による耐性菌とは似て非なる“もう一つの耐性菌”,“Persister”についてはあまり知られていない.本解説では,このPersisterについて薬剤耐性菌と比較しながら紹介したい.

Key words: 薬剤耐性菌; Persister; Toxin-Antitoxin

薬剤耐性菌

1928年にアレクサンダーフレミングが最初の抗生物質であるペニシリンを発見し,1941年にその臨床効果が証明され,翌年に実用化されたことで,梅毒や破傷風などの感染症に対する治療が劇的に改善された.しかし,喜びもほんの束の間であった.臨床効果が確認される前年の1940年にはすでにラボレベルにおいて耐性遺伝子の存在が確認されており,40年代後半には臨床現場からのペニシリン耐性菌の報告が相次いだ.以降,人類と薬剤耐性菌は,病原菌の耐性遺伝子の獲得と人類の新たな抗生物質の開発による,終わりなきイタチごっこを続けてきたが,近年では新しい抗生物質の開発が追い付いておらず,人類は苦境に立たされている(1)1) K. Hede: Nature, 509, S2 (2014)..2019年,国連は「2019年時点で薬剤耐性菌による死亡者数は年70万人に及ぶが,このまま薬剤耐性菌に対して対策を講じなければ,2050年までに年に1000万人が死亡し,がんの死亡者数を超え,リーマンショックによる金融危機に匹敵するようなダメージをもたらし得る」という,非常にショッキングな報告をしている(2)2) Interagency Coordination Group on Antimicrobial Resistance: No time to wait: SECURING THE FUTURE FROM DRUG-RESISTANT INFECTIONS. Rep. to Secr. United Nations (2019)..また,ここ数年,ワンヘルスという言葉を耳にすることが多くなっているが,これは大雑把に言えば「人の健康を守るためには,家畜などの動物や我々が生きる環境についても注意を払わなければならない」という概念である.このワンヘルスという考え方は当然,薬剤耐性菌問題においても重要であり,ヒトにおける抗生物質の利用だけでなく,家畜への不適切な使用による耐性菌の出現,その堆肥などからの環境中への抗生物質および耐性菌の流出などがヒトにおける耐性菌の問題に繋がってしまうことが考えられる.日本においても薬剤耐性ワンヘルス動向調査を毎年行っており,薬剤耐性菌を抑え込む努力を続けている(3)3) 薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会:薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書,資料1, 2020.

抗生物質は,ターゲットとする細菌の代謝活性等によってグループ分けされるが,薬剤耐性も抗生物質の作用機構に対応しており,大きく分けて,1)抗生物質の排出機構,2)副経路の作成,3)抗生物質の標的改変,4)抗生物質の不活性化の4つに分けられる(図1図1■抗生物質の標的と耐性機構(WIKIMEDIA COMMONSより改変転載)(4)4) WIKIMEDIA COMMONS: Antibiotic resistance mechanisms. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Antibiotic_resistance_mechanisms.jpg 2010..これらは,耐性遺伝子の獲得や,標的となるタンパクの遺伝子配列の改変などによって引き起こされ,遺伝子変異は次の世代へと受け継がれていく.このような耐性菌は,抗生物質存在化においても生育,増殖を行うことができるという点が重要である.この遺伝子変異によって耐性を獲得した薬剤耐性菌に対して,遺伝子変異によらない形のもう一つの耐性機構が近年注目を集めている.この耐性機構は,英語で「存続する,生き残る」といった意味を持つPersistからとって,Persisterと呼ばれている(5–7)5) N. Q. Balaban et al.: Nat. Rev. Microbiol., (2019).6) B. Gollan, G. Grabe, C. Michaux & S. Helaine: Annu. Rev. Microbiol., (2019).7) B. van den Bergh, M. Fauvart & J. Michiels: FEMS Microbiol. Rev., 41, 219 (2017).

図1■抗生物質の標的と耐性機構(WIKIMEDIA COMMONSより改変転載)

Persisterとは

Persisterという言葉が世に最初に出たのは1944年,抗生物質が世に出て間も無く,耐性菌の出現と同じようなタイミングである.名付け親はJoseph Biggerという科学者で,当時イギリスにてペニシリンの研究を行っていた.Biggerは,ペニシリンで黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を処理した際,完全に溶菌した状態の培養液をプレート上に塗抹してもコロニー形成が見られることに疑問を持った.また,このコロニーから培養した菌はペニシリンに対して耐性を持っておらず,試験管内で再び溶菌されるということを発見した.この現象は試験管内でのペニシリン処理,コロニー形成を繰り返しても何代にもわたってみられ,Biggerはこのような現象を「Antibiotic Persistence」と定義し,何らかの形で生き残ってしまう極小集団のことをPersisterと名づけた(8)8) J. W. Bigger: Lancet, 244, 497 (1944)..薬剤耐性菌に関する研究に比べ,Persisterについての研究の歩みは非常に遅いものであった.実際,Biggerが最初に定義してから39年後の1983年,初めてPersister関連遺伝子であるhipAについての報告がなされた(9)9) H. S. Moyed & K. P. Bertrand: J. Bacteriol., 155, 768 (1983)..Persisterの形成機構などについてもそこから現在に至るまで多くのことが明らかとなってきている(5, 7, 10)5) N. Q. Balaban et al.: Nat. Rev. Microbiol., (2019).7) B. van den Bergh, M. Fauvart & J. Michiels: FEMS Microbiol. Rev., 41, 219 (2017).10) M. Huemer, S. Mairpady Shambat, S. D. Brugger & A. S. Zinkernagel: EMBO Rep., 21, 1 (2020).

Persisterの定義としては,自身の代謝や細胞活性を低下させ休眠状態のようになることで抗生物質などのストレスに耐性を示す細菌細胞である.そのため,遺伝子変異による耐性菌と違って抗生物質存在下では増殖することはなく,じっと耐えている.Persisterの特徴として,細菌の死滅曲線をとったときに,2段階のカーブを描くことが言える(図2図2■Persisterが存在するときの死滅曲線(5)5) N. Q. Balaban et al.: Nat. Rev. Microbiol., (2019)..一般的に,同一遺伝子を持つクローン集団であっても,集団中には様々な細胞形態が存在しており,細菌集団が抗生物質に晒されると,集団の大部分を占める正常な菌体は死滅し,一部のPersisterが生き残る.生残したPersisterは,抗生物質が取り除かれ適当な栄養源を与えられると,代謝活性を回復させ,正常細胞となって増殖を再開する(図3図3■抗生物質処理に対する薬剤耐性菌とPersisterの違い(文献7より改変転載)(7)7) B. van den Bergh, M. Fauvart & J. Michiels: FEMS Microbiol. Rev., 41, 219 (2017)..さらに,再び抗生物質に晒されると,大部分を占める正常な菌体は死滅するが,やはり一部のPersisterは生き残ってしまい,抗生物質への曝露が繰り返され,その繰り返しの中で細菌集団中に遺伝子変異を蓄積させ,薬剤耐性菌の出現に寄与してしまう.

図2■Persisterが存在するときの死滅曲線

図3■抗生物質処理に対する薬剤耐性菌とPersisterの違い(文献7より改変転載)

また,最小殺菌時間(MDK99とMDK99.99)とは,細菌の99%または99.99%を死滅させるのに要する時間のことであるが,通常細菌集団中のPersisterの割合はおよそ0.1%ほどであるため,Persisterの存在はMDK99には影響を及ぼさない一方で,MDK99.99については極端に長くさせる.

Persister形成機構

Persisterの形成が共通性のある一つのメカニズムによって制御されているのか,もしくは複数の,個別かつ特殊な経路に沿っているのか,という議論は今なお続いているが,Persister形成につながる個別の事象についてはすでに複数報告されている.これまでに報告されている多くの観察結果によると,Persister集団は,ストレスシグナルによって形成が誘導されており,その代表例が飢餓ストレスとなる.このような刺激によって生み出されたPersisterは,その刺激が取り除かれた後にもある程度居残ってしまう.例えば,一晩培養後の培養液では飢餓状態によるPersisterが形成されており,それを新しい培地に希釈して再度培養を行った場合でも,たとえ対数増殖期に菌集団全体の生育が至った時点においてもPersister集団は増殖を再開しておらず,停滞期を維持してしまう.その後,通常よりも非常に長い時間をかけて増殖を再開するのだが,それまでは抗生物質耐性を維持したままとなってしまう(5)5) N. Q. Balaban et al.: Nat. Rev. Microbiol., (2019).

飢餓状態だけでなく多くのストレス条件がPersister形成の引き金となる.例えば,異なる栄養源の枯渇,高い菌密度,酸ストレス,ヒトの免疫細胞に晒されることなどがPersister形成を引き起こすことが報告されている(図4図4■Persister形成機構(文献10より改変転載)(10)10) M. Huemer, S. Mairpady Shambat, S. D. Brugger & A. S. Zinkernagel: EMBO Rep., 21, 1 (2020)..また,抗生物質処理によって生育が阻害されることでPersisterが誘導されるという,抗生物質誘導型Persisterも報告されており,このことによって,高濃度の抗生物質で処理した際の抗菌活性の方が,低濃度で処理した場合よりも抗菌活性が低下するというパラドックス的な現象も起こってしまうため,注意が必要である.環境ストレスによって引き起こされるPersister形成については,主に,環境ストレスに対する応答機構の一種である緊縮応答とDNAがダメージを受けた際に働くSOS応答の2つが対応しており,菌密度についてはクォーラムセンシングと呼ばれるシグナル物質を介した細菌コミュニケーション機構が関与している(図4図4■Persister形成機構(文献10より改変転載)).緊縮応答は,ほぼ全ての細菌種に存在するグアノシン4(5)リン酸((p)ppGpp)を介し,Persisterを制御する重要な役割を担っている.大腸菌では,(p)ppGppは,アミノ酸の不足と熱ショックによって活性化される合成酵素RelAによって,または炭素,窒素,鉄,リン酸および脂肪酸の飢餓時に活性化されるSpoTによって生産され(11)11) S. Ronneau & R. Hallez: FEMS Microbiol. Rev., 43, 389 (2019).,蓄積した(p)ppGppによってToxin-antitoxinシステム(TAシステム)が活性化し,Persister形成へとつながっていく.また,SOS応答は,抗生物質や活性酸素種などによって細菌のDNAがダメージを受けた際に,LexAやRecAなどの転写制御因子を介してDNA修復機構を活性化させる一方で,一時的にDNA合成を含めた代謝活性を抑制させる.この際に,LexAの制御が外れたSOS遺伝子の下流のTAシステムが活性化することで代謝活性が低下し,Persister形成へとつながっていく(10)10) M. Huemer, S. Mairpady Shambat, S. D. Brugger & A. S. Zinkernagel: EMBO Rep., 21, 1 (2020).

図4■Persister形成機構(文献10より改変転載)

ストレスシグナルが引き金となるPersister形成機構に比べて,その割合はあまり多くはないとされているが,ストレスに関係なく偶発的にPersister形成が起こることも知られている(5)5) N. Q. Balaban et al.: Nat. Rev. Microbiol., (2019)..これはある意味,細胞が増殖などを行っていく際に起こりうる事故のようなものと考えられる.例えば細菌の細胞分裂の際に,リボソームなどの必須成分は均等に2つの娘細胞へと分配されるはずだが,何らかのトラブルによってその分配が不均一となってしまったときに,著しく必須成分が少ない方の娘細胞は代謝活性等も全て低下した,Persister状態になってしまっている,という具合である.このような偶発性のPersisterもストレス起因性のPersisterも含め,Persister形成は細菌におけるリスク分散またはベットヘッジングの代表例として挙げられる.この考えは,細菌集団全体において,複数の極小集団が大多数の細胞とは異なる表現系に変換されることで,その時点で置かれた環境中では不利な性質だとしても将来的に起こりうる環境の変化に対応し,生き残る可能性を残しておくというものである(12)12) J. W. Veening, W. K. Smits & O. P. Kuipers: Annu. Rev. Microbiol., 62, 193 (2008)..Persisterについても,ストレスの無い環境中では,グータラなお荷物のような存在であるが,突然降りかかる脅威,例えば抗生物質処理や活性酸素ストレスなどに晒されても,その鈍感力で生き残るため,細菌集団自体が生き残るための保険として非常に重要な役割を担っているのである.

Toxin-antitoxinシステム(TAシステム)

緊縮応答とSOS応答の両者において,最終的にPersister形成を直接的に制御することが報告されているのがTAシステムである.TAシステムは細菌自体に毒性を持つtoxinと,その毒性を抑制するantitoxinにより構成されている(13)13) F. Hayes & L. Van Melderen: Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 46, 386 (2011)..toxinとantitoxinはオペロンを形成し,同時に発現して,通常は複合体を形成することでtoxinの毒性を抑制しているが,様々な環境ストレスに晒されると,プロテアーゼによりantitoxinが分解され,菌体内でtoxinが活性化する.活性化したtoxinは生理活性を阻害することでPersister形成を誘導する.例えば,最初にPersister形成に関連する遺伝子として報告されたhipAは後にHipABというTAシステムのtoxin構造遺伝子であることが明らかとなる.このHipABの制御機構において,まず緊縮応答から産生されたppGppによって活性化を受けたプロテアーゼLonがAntitoxinであるHipBを分解することでHipAが活性状態となる.その後,活性状態のHipAはリボソーム上での翻訳を阻害することで代謝活性を低下させ,Persister形成を促進する(図5図5■緊縮応答/プロテアーゼ/Toxin-antitoxinを介したPersister誘導機構(文献14より改変転載)(14)14) E. Maisonneuve & K. Gerdes: Cell, 157, 539 (2014)..そのほかにも,YafQ-DinJシステムは大腸菌で確認されたTAシステムの一つであり,toxinであるYafQはmRNAを切断するエンドリボヌクレアーゼ活性を持ち,種々の遺伝子の翻訳を阻害する.標的遺伝子の中には,リボソーム上での翻訳においてポリペプチド鎖の伸長を促進するタンパク質EF-Tuをコードする遺伝子tufAtufBが含まれており,YafQがそれらのmRNAを切断することでタンパク合成全般が阻害され,Persister形成が誘導される(15, 16)15) Y. Hu, B. W. Kwan, D. O. Osbourne, M. J. Benedik & T. K. Wood: Environ. Microbiol., 17, 1275 (2015).16) T. Maehigashi, A. Ruangprasert, S. J. Miles & C. M. Dunham: Nucleic Acids Res., 43, 8002 (2015)..また,トリプトファンからインドールを合成する酵素TnaAをコードする遺伝子tnaAも標的となっており,このインドールは細菌の運動性,バイオフィルム形成,抗生物質耐性,プラスミド安定性,病原性およびストレス応答を含む多様な生理的過程を制御するシグナル分子としての報告がなされている(17~19)17) H. Hirakawa, M. Hayashi-Nishino, A. Yamaguchi & K. Nishino: Microb. Pathog., 49, 90 (2010).18) J. Kim & W. Park: J. Microbiol., 53, 421 (2015).19) Q. Ma, X. Zhang & Y. Qu: Front. Microbiol., 9, 1 (2018).

図5■緊縮応答/プロテアーゼ/Toxin-antitoxinを介したPersister誘導機構(文献14より改変転載)

臨床におけるPersisterの重要性

これまでの話を理解しておけば,Persisterの存在が臨床の現場においても非常に重要なものであることは明白に感じられると思うが,1944年にBiggerが提唱して以降,Persisterの存在は感染症の治療において過小評価され続けていた.Persister集団など,大多数の細菌集団に比べれば正に微々たる存在であり,ヒトの免疫機構によって簡単に殺されるだろうというわけである.そもそも,抗生物質耐性菌があっという間に出現してしまうという大問題が人類においては何より重要な課題であり,Persisterは二の次にされていた.この考えが見直されたのは,バイオフィルム内のPersister集団の存在が明らかとなったことからである.バイオフィルムとは,例えば風呂場のヌメリや歯垢などが挙げられ,これは細菌が菌体外多糖などを用いてバリケードのようなものを形成し,その中で外的ストレスから身を守る仕組みである.そのため,バイオフィルム内の細菌に抗生物質が届きづらいといった問題があるのだが,この理由だけではバイオフィルム関連の感染症治療が難解であることの説明がつかないことが示され出した(20)20) H.-C. Flemming, J. Wingender, U. Szewzyk, P. Steinberg, S. A. Rice & S. Kjelleberg: Nat. Rev. Microbiol., 14, 563 (2016)..つまり,たとえバイオフィルム内に抗生物質が侵入して細菌の大多数を殺したとしても,Persisterはその内側で生き残り,抗生物質が取り除かれた後に,バイオフィルム内に残されていた栄養分を利用して再増殖を開始し,再発症につながってしまうのである.

感染症の治療の現場におけるPersisterの関与を直接的に証明することは未だ難しいと言える.2010年,Mulcahyらによって,嚢胞性線維症の長期間の治療中に患者から単離した緑膿菌においてPersisterの割合が上昇していることが示され,これが臨床現場においてPersisterが関連することが示された最初の報告である(21)21) L. R. Mulcahy, J. L. Burns, S. Lory & K. Lewis: J. Bacteriol., 192, 6191 (2010)..また,尿路感染性大腸菌において,多くの場合でhipAにPersister形成が促進される遺伝子変異を保持していることも報告されている(22)22) M. A. Schumacher, P. Balani, J. Min, N. B. Chinnam, S. Hansen, M. Vulić, K. Lewis & R. G. Brennan: Nature, 524, 59 (2015)..このようなPersisterの存在は感染症の治療において抗生物質投与の期間を引き伸ばしてしまい,長期にわたる抗生物質への曝露は細菌に突然変異による耐性遺伝子の獲得を促してしまう.ここにおいて,Persisterは結果として薬剤耐性菌という終着点にたどり着いてしまうため,その制御は薬剤耐性菌の制御と同じように重要な問題であると言える.

Persisterの制御方法

それでは,このようなPersisterをどのようにして制御するのか,ということについて次に述べたいと思う.Persisterの制御方法は主に,1)直接殺菌する方法,2)形成を阻害する方法,3)Persisterを活性化して抗生物質への感受性を再生させる方法,の3つに分けられる(図6図6■Persister制御のアプローチ(文献10より改変転載)(10)10) M. Huemer, S. Mairpady Shambat, S. D. Brugger & A. S. Zinkernagel: EMBO Rep., 21, 1 (2020)..直接殺菌するための候補として,細胞壁分解酵素(エンドライシンなど)や細菌の細胞膜を直接攻撃するレチノイド誘導体などが報告されている.また,ADEP4という新規の抗生物質は細胞内でClpPプロテアーゼを異常活性状態にし,ランダムなタンパク分解を引き起こすことが,他の抗生物質と併用することでPersisterをも殺菌することが可能であることが示されている.

図6■Persister制御のアプローチ(文献10より改変転載)

Persister形成の阻害については,例えば,ppGppの類似体であるレラシンは,ppGppを介したPersister形成に対して阻害活性を有することが知られている.また,インドールについても,大腸菌においてPersister形成を阻害することが報告されている.しかしながら,Persister形成は偶発的なものも含めて多様な経路を辿ることから,ある一定の経路を阻害するだけでは全体としての効果は低くなることが否めない.実際,単一のTAシステムを阻害するだけではPersisterの形成に大きな影響を及ぼさないことも知られている(7)7) B. van den Bergh, M. Fauvart & J. Michiels: FEMS Microbiol. Rev., 41, 219 (2017).

Persisterのストレス感受性を再生させる方法は,基本的に細胞の生育を促進することである.例えば,単糖類をPersisterに添加することで糖取り込みのためのポンプが活性化され,アミノグリコシド系の抗生物質が菌体内に取り込まれるようになり,Persisterの感受性が回復することが示されている.

上述のインドールについては,その誘導体を含めて近年特に注目を集めている(23)23) S. Song & T. K. Wood: Front. Microbiol., 11, 1 (2020)..インドールはPersister形成を阻害するだけでなく,抗生物質との併用によってPersisterを除去し得ることも報告されている.また,インドール添加によってPersisterの耐熱性をも低下させることも近年明らかとなっているが,これらの要因として,インドールによるタンパクのフォールディング阻害活性が挙げられている(24)24) Y. Masuda, E. Sakamoto, K. I. Honjoh & T. Miyamoto: Appl. Environ. Microbiol., 86, 1 (2020)..さらに,ハロゲンインドールの一種であるヨードインドールに至っては,単独でPersisterに対しても強い抗菌活性を持つことが示されている(25)25) J. H. Lee, Y. G. Kim, G. Gwon, T. K. Wood & J. Lee: AMB Express, 6, 123 (2016)..このように,誘導体を含め,インドールは3つ全ての方法でPersisterを制御し得るため,その応用が非常に期待されている.

終わりに

Persisterに関する研究は近年盛んに行われているが,一般的に見ればほとんどの方がその存在を知らないのではないかと思うので,本解説を読むことで少しでも多くの人に知ってもらえるとありがたい.Persisterは細菌集団においてごく少数であり,大多数の活発な菌集団の隅っこで大人しく隠れている.一見すると弱者のような振る舞いに見えるが,このずる賢い怠け者は非常に複雑で巧みな仕組みを用いて,突然の環境の変化や抗生物質に晒されても生き残るため,いざ根絶しようとすると非常に厄介な存在である.

Reference

1) K. Hede: Nature, 509, S2 (2014).

2) Interagency Coordination Group on Antimicrobial Resistance: No time to wait: SECURING THE FUTURE FROM DRUG-RESISTANT INFECTIONS. Rep. to Secr. United Nations (2019).

3) 薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会:薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書,資料1, 2020.

4) WIKIMEDIA COMMONS: Antibiotic resistance mechanisms. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Antibiotic_resistance_mechanisms.jpg 2010.

5) N. Q. Balaban et al.: Nat. Rev. Microbiol., (2019).

6) B. Gollan, G. Grabe, C. Michaux & S. Helaine: Annu. Rev. Microbiol., (2019).

7) B. van den Bergh, M. Fauvart & J. Michiels: FEMS Microbiol. Rev., 41, 219 (2017).

8) J. W. Bigger: Lancet, 244, 497 (1944).

9) H. S. Moyed & K. P. Bertrand: J. Bacteriol., 155, 768 (1983).

10) M. Huemer, S. Mairpady Shambat, S. D. Brugger & A. S. Zinkernagel: EMBO Rep., 21, 1 (2020).

11) S. Ronneau & R. Hallez: FEMS Microbiol. Rev., 43, 389 (2019).

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16) T. Maehigashi, A. Ruangprasert, S. J. Miles & C. M. Dunham: Nucleic Acids Res., 43, 8002 (2015).

17) H. Hirakawa, M. Hayashi-Nishino, A. Yamaguchi & K. Nishino: Microb. Pathog., 49, 90 (2010).

18) J. Kim & W. Park: J. Microbiol., 53, 421 (2015).

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20) H.-C. Flemming, J. Wingender, U. Szewzyk, P. Steinberg, S. A. Rice & S. Kjelleberg: Nat. Rev. Microbiol., 14, 563 (2016).

21) L. R. Mulcahy, J. L. Burns, S. Lory & K. Lewis: J. Bacteriol., 192, 6191 (2010).

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25) J. H. Lee, Y. G. Kim, G. Gwon, T. K. Wood & J. Lee: AMB Express, 6, 123 (2016).