解説

巨大ウイルスの一種メドゥーサウイルスそのゲノムならびに粒子構造に関する特殊性

Medusavirus, One of Giant Viruses: Its Genome and Particle Structure

Masaharu Takemura

武村 政春

東京理科大学教養教育研究院神楽坂キャンパス教養部

Sho Fukaya

深谷

公立諏訪東京理科大学工学部

Hiroyuki Ogata

緒方 博之

京都大学化学研究所

Kazuyoshi Murata

村田 和義

自然科学研究機構生命創成探究センター

Published: 2022-06-01

2003年以降,主にアカントアメーバ属を宿主として分離が相次いでいる「巨大ウイルス」は,粒子径,ゲノムサイズ,遺伝子数などがそれまでのウイルスに比べて大きく,バクテリアや真核細胞のそれに達するほど大きなものも存在する.これらのウイルスには,アミノアシルtRNA合成酵素など翻訳に関わる複数の遺伝子を自らコードするものも存在する.その中で,メドゥーサウイルスと名付けられた巨大ウイルスのゲノムには,ヒストンやサイクリンなど細胞核機能と密接に関わる遺伝子がコードされていること,粒子構造にもほかのウイルスにはない興味深い特徴が存在することが明らかとなってきた.メドゥーサウイルスとは,果たして何者なのだろうか.

Key words: 巨大ウイルス; メドゥーサウイルス; ヒストン; 真核生物の起源; 核細胞質性ウイルス門

メドゥーサウイルスの分類と感染サイクル

メドゥーサウイルス(Acanthamoeba castellanii medusavirus)は,2019年に筆者らの研究グループが日本の温泉水(泥や枯葉などを含むお湯だまり)から分離した核細胞質性ウイルス門(Phylum Nucleocytoviricota)に属する大型二本鎖DNAウイルスで,アカントアメーバ属の一種Acanthamoeba castellaniiを宿主とする(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019)..2021年,同じく筆者らにより,京都の河川水から姉妹株と思われるウイルスも分離され,ステノー株(Medusavirus stheno)と名付けられた(2)2) K. Yoshida, R. Zhang, K. G. Garcia, H. Endo, Y. Gotoh, T. Hayashi, M. Takemura & H. Ogata: Microbiol. Resources Announc., 10, e01323 (2021)..筆者らはこれらメドゥーサウイルスのゲノムの分子系統学的解析や感染サイクルの特殊性から,新たな科「Family Medusaviridae」を提唱している(1, 2)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).2) K. Yoshida, R. Zhang, K. G. Garcia, H. Endo, Y. Gotoh, T. Hayashi, M. Takemura & H. Ogata: Microbiol. Resources Announc., 10, e01323 (2021)..同じく2021年には,La ScolaとLevasseurの研究グループにより,別属のアメーバであるヴェルムアメーバ属(Vermamoeba vermiformis)を宿主とするクランデスティノウイルス(Clandestinovirus)が分離され,分子系統学的解析によりメドゥーサウイルスに近縁なウイルスであることが示唆されている(3)3) C. Rolland, J. Andreani, D. Sahmi-Bounsiar, M. Krupovic, B. La Scola & A. Levasseur: Front. Microbiol., 12, 715608 (2021).

メドゥーサウイルスという名は,宿主であるアカントアメーバが硬い殻で覆われた休眠状態であるシスト(嚢子)を形成したことがきっかけとなり発見されたため,見た者を石に変えるギリシャ神話の怪物メドゥーサにちなんで与えた.ただ,その後の研究でアカントアメーバをシストにするのは比較的力価が低い感染条件においてであり,力価が比較的高い通常の培養条件では細胞はいずれ死に至ることが明らかとなっている(4)4) S. Fukaya & M. Takemura: Microbiol. Spectr., 9, e00368 (2021)..筆者らが開発したアカントアメーバ用位相差顕微鏡画像動態解析プログラム(PKA3)(5)5) S. Fukaya, K. Aoki, M. Kobayashi & M. Takemura: Front. Microbiol., 10, 3014 (2020).を用いた解析により,感染したアカントアメーバはシスト化するより先に,同じ場所をぐるぐる回るように移動したり(図1図1■タイムラプス動態解析によるメドゥーサウイルス感染細胞の特徴的な動き(文献4より改変)),長い細胞間橋を形成して分裂が阻害されるように見えるなど,その行動や形態が特徴的な様相を呈した後,やがて潰れて死ぬことがわかっている(4)4) S. Fukaya & M. Takemura: Microbiol. Spectr., 9, e00368 (2021)..このような感染宿主の特徴的な表現型は,ほかの巨大ウイルス感染細胞ではほとんど見られないことから,その生物学的意義の解明が待たれるところである.

図1■タイムラプス動態解析によるメドゥーサウイルス感染細胞の特徴的な動き(文献4より改変)

(左)タイムラプス用の画像に,PKA3動態解析により細胞の輪郭を赤で,細胞の動き(軌跡)を青で示したもの.白矢印のアメーバが時間を追って回転運動をしている.スケールバー: 50 µm. (右)回転運動を示す図.青から赤にかけて時間を追ってメドゥーサウイルス感染アメーバが動き回った軌跡を表す.

メドゥーサウイルスは,アカントアメーバに感染すると,何らかの方法で脱殻し,感染後1時間ほどでゲノムDNAが細胞核へと移行する.感染後4時間くらいから細胞核内で複製が開始され,感染後8時間には,細胞核内がメドゥーサウイルスのゲノムDNAで満たされた状態となる(1, 6)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).6) M. Takemura: Front. Microbiol., 11, 571831 (2020)..一方,メドゥーサウイルスのカプシドは細胞質で合成され,細胞核で複製されたゲノムDNAが何らかの方法でパッケージングされた後,遅くとも感染24時間後には,アカントアメーバ外へと放出される(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019)..宿主の細胞核の形態が保たれたまま,その内部でゲノムDNAを複製する巨大ウイルスは,現在のところメドゥーサウイルスのみであると考えられる.さらにメドゥーサウイルスは,ヘルペスウイルス感染細胞で見られる細胞核内複製センター(ウイルス工場)のような「区画」も作らず,メドゥーサウイルスゲノムは細胞核全体に広がり,複製していると考えられる(1, 6)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).6) M. Takemura: Front. Microbiol., 11, 571831 (2020).

メドゥーサウイルスのゲノムと遺伝子の特徴

メドゥーサウイルスのゲノムサイズは381,277塩基対と,巨大ウイルスの中では比較的小さく,GC含量は61.68%と,核細胞質性ウイルス門の中でもパンドラウイルス属と並んで最も高い(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019)..ゲノム全体の遺伝子組成解析を行うと,メドゥーサウイルスは「正二十面体型ウイルス」で,形態的特徴は全く異なるがパンドラウイルスやモリウイルスなどの「つぼ型ウイルス」に類似した特徴を示す.しかし感染宿主の表現型や保有するいくつかの分子系統解析から,ほかの巨大ウイルスとは大きく異なる系統であることが示唆されている.

メドゥーサウイルスがもつ最も特徴的な遺伝子は「ヒストン」である(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019)..ヒストンは真核生物におけるヌクレオソームの構成要素で,H2A, H2B, H3, H4,そしてH1/H5の5種類が知られている.これまでウイルスにもヒストン遺伝子があり,マルセイユウイルスやパンドラウイルス,そしてイリドウイルスなどの核細胞質性ウイルス門のウイルスでは複数のヒストン遺伝子をコードすることが知られていたが,いずれも5種類のヒストン遺伝子をもつことはなかった.これに対してメドゥーサウイルスは,真核生物と同じ5種類のヒストン遺伝子をもつ(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019)..もっとも,その機能が真核生物と同じくヌクレオソームを構成することなのかは明らかではないが,メドゥーサウイルス粒子のプロテオーム解析により,粒子内にコアヒストンタンパク質4種(H2A, H2B, H3, H4)の存在が明らかとなっていることから,これらコアヒストンタンパク質は,メドゥーサウイルス粒子内でヌクレオソームを形成している可能性が示唆されている(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019)..トランスクリプトームを用いたメドゥーサウイルス遺伝子の宿主細胞内での発現解析によると,リンカーヒストンH1は感染後1時間から発現上昇が見られ,コアヒストンは感染後4時間から発現上昇することがわかった(図2図2■時間経過とともに変化する宿主細胞内で発現するメドゥーサウイルスmRNA(文献7より改変)).ヒストンH1はコアヒストンに先立って発現することで,宿主の細胞核内でメドゥーサウイルスのゲノム複製が起こりやすいように,何らかの調節が行われていることが示唆される(7)7) R. Zhang, H. Endo, M. Takemura & H. Ogata: Microbiol. Spectr., 9, e00064 (2021).

図2■時間経過とともに変化する宿主細胞内で発現するメドゥーサウイルスmRNA(文献7より改変)

Cluster 1はウイルス感染後0時間後から,Cluster 2は1時間後から,Cluster 3ならびに4は2時間後から,Cluster 5は4時間後から遺伝子発現が開始される遺伝子群であり,Cluster 3は4に比べて感染後8時間後の発現が高い.リンカーヒストンH1はCluster 1に,コアヒストン(H2A, H2B, H3, H4)はCluster 3に含まれる.縦軸は,遺伝子発現したもののうちアノテーションされた遺伝子の数を示す.

分子系統解析により,メドゥーサウイルスのDNAポリメラーゼ遺伝子は,真核生物のDNAポリメラーゼのうちDNAポリメラーゼδ遺伝子とより近縁であることがわかっている.このことから,真核生物の祖先とメドゥーサウイルスの祖先の間でDNAポリメラーゼ遺伝子が水平伝播したことが示唆されている(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).

これらのほかにも,メドゥーサウイルスゲノムには真核生物のRan遺伝子やサイクリンB遺伝子とホモロジーの高い遺伝子が存在することが明らかとなっており,その機能の解明が待たれるところである(1)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).

メドゥーサウイルスの粒子構造

メドゥーサウイルス粒子は,粒子径260ナノメートルの正二十面体構造を呈している(1, 8)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).8) R. Watanabe, C. Song, Y. Kayama, M. Takemura & K. Murata: J. Virol., 96, e0185321 (2022)..一層のカプシドは,主として一種類のMCP(主要カプシドタンパク質)とその表面にある長さおよそ14ナノメートルの無数のスパイクで構成されている.カプシドの内側には脂質二重層が存在し,さらにその内側にゲノムDNAが納められている.カプシド表面に存在するスパイクは,通常の14ナノメートル長のものがほとんどを占めるが,12箇所存在する正二十面体の頂点を中心とした五回対称軸の周囲には,この通常のスパイクよりも二倍弱長い27ナノメートル長のスパイクや,通常よりもやや太いスパイクなど,特殊な形をしたスパイクが放射状に並んでいる(8)8) R. Watanabe, C. Song, Y. Kayama, M. Takemura & K. Murata: J. Virol., 96, e0185321 (2022)..これらスパイク形状の多様性については,その意義はまだ明らかではない(図3図3■クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により3D再構築したメドゥーサウイルス粒子(文献8より改変)).

図3■クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により3D再構築したメドゥーサウイルス粒子(文献8より改変)

中心からの距離が近いほど青く,遠いほど赤く示している.正二十面体の各頂点付近には,やや長いスパイクが規則的に存在していることがわかる.(左)DNA-Empty粒子,(右)DNA-Full粒子

メドゥーサウイルス粒子には,宿主の細胞内で複製されている状態,細胞外に放出された状態のいずれの場合においても,カプシド内にゲノムDNAがパッケージングされたもの(DNA-Full),カプシド内にほとんど何も存在しないと思われるもの(DNA-Empty),カプシド内に何らかの足場タンパク質が認められるもの(pseudo-DNA-Empty),カプシド内にゲノムDNAが一部パッケージングされたもの(semi-DNA-Full)の4種類が観察される(8)8) R. Watanabe, C. Song, Y. Kayama, M. Takemura & K. Murata: J. Virol., 96, e0185321 (2022)..これらのうち,DNA-Emptyならびにpseudo-DNA-Emptyの状態のウイルス粒子では,カプシド内部にある脂質二重層が完全に閉じておらず,一部が開いた状態となっていることが明らかとなり,ウイルス粒子の成熟過程において,足場タンパク質の排出とゲノムDNAのパッケージングが,この脂質二重膜の開いた部分を通して行われることが示唆されている(8)8) R. Watanabe, C. Song, Y. Kayama, M. Takemura & K. Murata: J. Virol., 96, e0185321 (2022)..これらの細胞内における経時的な変化の観察から,メドゥーサウイルス粒子は,宿主細胞質内で,最初に粒子形成のために足場タンパク質を内側に含むpseudo-DNA-Empty粒子が形成され,続いて足場タンパク質が排出されてDNA-Empry粒子となり,そこにゲノムDNAが何らかのメカニズムによって粒子内に入り込んでsemi-DNA-Full粒子となる.そして最終的にDNA-Full粒子が形成されることが示唆された(8)8) R. Watanabe, C. Song, Y. Kayama, M. Takemura & K. Murata: J. Virol., 96, e0185321 (2022)..宿主からの放出は,すべての粒子がDNA-Fullの状態になってから起こるのではなく,この成熟過程の間にも起こるため,細胞外に放出されたメドゥーサウイルス粒子にはこれら4種類の粒子が見られると考えられた.

メドゥーサウイルスと真核生物との進化的関係

上述したように,メドゥーサウイルスゲノム上の遺伝子の中には,真核生物の遺伝子と相同性が高いものが多く存在する.とりわけDNAウイルスにとって最も重要な遺伝子の一つであるDNAポリメラーゼ遺伝子が,他の巨大ウイルスDNAポリメラーゼ遺伝子よりも真核生物DNAポリメラーゼδの遺伝子に近縁であることは,メドゥーサウイルスの真核生物との「親密さ」をより深く示唆している(1, 6)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).6) M. Takemura: Front. Microbiol., 11, 571831 (2020)..言い換えると,メドゥーサウイルスの祖先は真核生物が多様化するより前に,真核生物の共通祖先を宿主としていたことがうかがえる.たとえば,メドゥーサウイルスが宿主の細胞核でゲノム複製を行うことから,真核生物の共通祖先あるいは真核生物が誕生するより前の段階の細胞において,メドゥーサウイルスの祖先のDNAポリメラーゼ遺伝子が宿主へと水平伝播し,それが後に真核生物DNAポリメラーゼδへと進化した可能性も考えられる(1, 6)1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).6) M. Takemura: Front. Microbiol., 11, 571831 (2020).

メドゥーサウイルスが真核生物と同様にフルセットのヒストンをコードしている一方で,マルセイユウイルス(別種の正二十面体巨大ウイルス)のヒストンが作るヌクレオソーム構造が真核生物のそれと非常に似ているという報告がある(9)9) M. I. Valencia-Sánchez, S. Abini-Agbomson, M. Wang, R. Lee, N. Vasilyev, J. Zhang, P. De Ioannes, B. La Scola, P. Talbert, S. Henikoff et al.: Nat. Struct. Mol. Biol., 28, 413 (2021)..メドゥーサウイルスのヒストンは,マルセイユウイルスのヒストンほど真核生物に近いわけではなく,コアヒストンの推定分子量が真核生物と同様のヒストンオクタマー(八量体)を形成するとすれば,H2A-H2BダイマーがH3-H4ダイマーに比べて顕著に大きくなり,ヒストンオクタマーの構造自体が異なる可能性もある(論文準備中).分子系統解析からは,メドゥーサウイルスのいくつかのヒストン遺伝子がマルセイユウイルスのヒストン遺伝子よりも古い時代に分岐したことが示唆されており,メドゥーサウイルスヒストンが,真核生物や古細菌を含めたヒストンの分子進化を紐解く上で,非常に興味深い知見を提供してくれる可能性がある.

さらに,メドゥーサウイルスが宿主の細胞核を自らのウイルス工場としてDNAを複製するという,これまでの巨大ウイルスには見られなかった特徴は,上記の遺伝子の由来とともに,メドゥーサウイルスと真核生物の細胞核との進化的関係を示唆している(6)6) M. Takemura: Front. Microbiol., 11, 571831 (2020)..巨大ウイルスのウイルス工場と細胞核との進化的関係については言及されてきたが,宿主のゲノムとウイルスゲノムとの共局在が見られるメドゥーサウイルスは,これまでの巨大ウイルスに比べて細胞核とのつながりがより深いと考えられ,メドゥーサウイルスの祖先が作り出していたウイルス工場が,そのまま細胞核へと進化したとも考えられる(6)6) M. Takemura: Front. Microbiol., 11, 571831 (2020).

おわりに

メドゥーサウイルスは,粒子サイズこそ巨大ウイルスの中でも小さいが,その保有遺伝子や性状にはほかの巨大ウイルスにはない興味深い特徴がある.ヒストンやDNAポリメラーゼ遺伝子などに見られるように真核生物よりもその起源が古い可能性があること,宿主の細胞核でゲノムを複製すること,ゲノムを含まない不完全な粒子も合わせて放出されること,宿主であるアカントアメーバに対して特徴的な行動をもたらすことなど,その生物学的意義を解明すべき課題が山ほど残されている.その知見はメドゥーサウイルスのみならず,巨大ウイルス,そして真核生物の進化の謎を解く一助にもなるだろう.今後の研究が多いに期待される.

Reference

1) G. Yoshikawa, R. Blanc-Mathieu, C. Song, Y. Kayama, T. Mochizuki, K. Murata, H. Ogata & M. Takemura: J. Virol., 93, e02130 (2019).

2) K. Yoshida, R. Zhang, K. G. Garcia, H. Endo, Y. Gotoh, T. Hayashi, M. Takemura & H. Ogata: Microbiol. Resources Announc., 10, e01323 (2021).

3) C. Rolland, J. Andreani, D. Sahmi-Bounsiar, M. Krupovic, B. La Scola & A. Levasseur: Front. Microbiol., 12, 715608 (2021).

4) S. Fukaya & M. Takemura: Microbiol. Spectr., 9, e00368 (2021).

5) S. Fukaya, K. Aoki, M. Kobayashi & M. Takemura: Front. Microbiol., 10, 3014 (2020).

6) M. Takemura: Front. Microbiol., 11, 571831 (2020).

7) R. Zhang, H. Endo, M. Takemura & H. Ogata: Microbiol. Spectr., 9, e00064 (2021).

8) R. Watanabe, C. Song, Y. Kayama, M. Takemura & K. Murata: J. Virol., 96, e0185321 (2022).

9) M. I. Valencia-Sánchez, S. Abini-Agbomson, M. Wang, R. Lee, N. Vasilyev, J. Zhang, P. De Ioannes, B. La Scola, P. Talbert, S. Henikoff et al.: Nat. Struct. Mol. Biol., 28, 413 (2021).