解説

真核生物由来リボソーム環状ペプチド研究の最前線中分子デザイン系としての可能性と魅力

Cyclic Ribosomal Peptides from Eukaryotes: Attractive Target for Macrocyclic Peptide Construction

Maiko Umemura

梅村 舞子

産業技術総合研究所生物プロセス研究部門生物システム研究グループ

Published: 2022-06-01

植物や微生物が産生する環状ペプチドは生理活性を持つものが多く,構造多様性と安定性,膜透過性の観点から,化学合成可能な低分子薬とサイズが大きい抗体医薬の間を埋める中分子医薬品の重要な候補である.中でもリボソーム経由で生合成されるribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)は,その改変・修飾容易性から,デザイン可能な創薬ターゲットとして近年特に注目されている.本稿で取り上げる真核生物由来RiPPsは,側鎖間で環化し両親媒性を示すものを多く含むため,標的タンパク質と特異的に相互作用する環状ペプチドをデザインする系として期待される.

Key words: Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs); 環状ペプチド; 天然化合物; 両親媒性ペプチド化合物; シクロファン構造

はじめに

微生物や植物が産生する天然化合物は多くが生理活性を有し,抗生物質ペニシリンや高コレステロール血症治療薬ロバスタチンなど,市場に出ている医薬品の半数以上が天然物由来またはその派生品・模倣品である.化学合成では困難な,複雑で思いがけない構造を多数合成できることから,創薬資源として他に代替できない価値を持っている.中でも環状ペプチドは,直鎖状のペプチドに比して難消化性と構造安定性,高い膜透過性を示すことが多いため(1~3)1) W. M. Hewitt, S. S. Leung, C. R. Pye, A. R. Ponkey, M. Bednarek, M. P. Jacobson & R. S. Lokey: J. Am. Chem. Soc., 137, 715 (2015).2) A. A. Vinogradov, Y. Yin & H. Suga: J. Am. Chem. Soc., 141, 4167 (2019).3) D. J. Craik & N. M. Allewell: J. Biol. Chem., 287, 26999 (2012).,化学合成可能な低分子薬とサイズの大きい抗体医薬の間を埋める中分子医薬品の主な候補として精力的に研究が進められている(4, 5)4) F. Giordanetto & J. Kihlberg: J. Med. Chem., 57, 278 (2014).5) E. M. Driggers, S. P. Hale, J. Lee & N. K. Terrett: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 608 (2008).

天然化合物としての環状ペプチドの生合成経路には,大きく2種類が存在する.1つは非リボソームペプチド生合成酵素(non-ribosomal peptide synthetase; NRPS)によるもので,リボソームを介さずに酵素上でアミノ酸が連結されて生合成される.本稿のトピックであるもう1つの環状ペプチド生合成経路は,通常のタンパク質同様リボソームを介して生合成されるもので,ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)と総称される(6)6) P. G. Arnison, M. J. Bibb, G. Bierbaum, A. A. Bowers, T. S. Bugni, G. Bulaj, J. A. Camarero, D. J. Campopiano, G. L. Challis, J. Clardy et al.: Nat. Prod. Rep., 30, 108 (2013)..RiPPsの定義には必ずしも環状であることは含まれないが,これまでに報告された最終産物はすべて環化構造を含んでおり,ペプチド主鎖のN末とC末で環を巻くもの(head-to-tail型)と,側鎖間で環化するもの(side-chain型)に大別される.加えて,分子内でスルフィド結合やスルホキシド結合などの硫黄を介した結合を組むこともある.典型的には20から110程度のアミノ酸から構成されており,分子量が500程度のものから3000近いものまで知られている.

RiPPsの最大の特徴は,その化合物骨格を為すペプチド(コアペプチド)の配列が,前駆体遺伝子に直接コードされている点にある.前駆体遺伝子が前駆体ペプチドへとリボソームで翻訳された後,環化やメチル化,スルホン化,チアゾール化,プレニル化,クロロ化等の様々な修飾を受けて,最終的に前駆体ペプチドから切り出された形で生合成される(図1図1■Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)の一般的な生合成経路).修飾酵素の中には,L体アミノ酸をD体に変換するもの(7, 8)7) M. F. Freeman, C. Gurgui, M. J. Helf, B. I. Morinaka, A. R. Uria, N. J. Oldham, H. G. Sahl, S. Matsunaga & J. Piel: Science, 338, 387 (2012).8) B. I. Morinaka, A. L. Vagstad, M. J. Helf, M. Gugger, C. Kegler, M. F. Freeman, H. B. Bode & J. Piel: Angew. Chem. Int. Ed., 53, 8503 (2014).や,遺伝子にコードされておらずタンパク質を構成しない(非タンパク質原生)アミノ酸を付加するものまである.NRPSに比べてシンプルな生合成系でありながら高い構造多様性を示すこと,前駆体遺伝子への変異導入や豊富な修飾酵素により構造の改変・修飾が比較的容易と考えられることが,RiPPsをより魅力的な創薬標的としている.

図1■Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)の一般的な生合成経路

ペプチド鎖のN末とC末の間で環化するhead-to-tail型と,側鎖間で環化するside-chain型がある.コアペプチド以外の配列を持たない前駆体ペプチドもある.

自然界に広く保存されるRiPPsとその生理活性

RiPPs生合成経路は最初に原核生物において,1988年から1989年にかけて相次いで報告された.ブドウ球菌からのepidermin(9)9) N. Schnell, K. D. Entian, U. Schneider, F. Götz, H. Zähner, R. Kellner & G. Jung: Nature, 333, 276 (1988).,枯草菌からのsubtilin(10)10) S. Banerjee & J. N. Hansen: J. Biol. Chem., 263, 9508 (1988).,乳酸菌からのnisin(11)11) C. Kaletta & K. D. Entian: J. Bacteriol., 171, 1597 (1989).である.その後も藍藻からのcyanobactinsや放線菌・大腸菌からのlasso peptidesなど100を超える報告が続き,天然化合物のスーパーファミリーとして確立されるに至った(6)6) P. G. Arnison, M. J. Bibb, G. Bierbaum, A. A. Bowers, T. S. Bugni, G. Bulaj, J. A. Camarero, D. J. Campopiano, G. L. Challis, J. Clardy et al.: Nat. Prod. Rep., 30, 108 (2013)..RiPPsには抗菌活性を示すものも多く,例えばnisinは食品汚染菌を含むグラム陽性細菌に対して強い抗菌活性を示すため,ミルク等への食品保存剤として世界で広く用いられている(12)12) 益田時光,善藤威史,園元謙二:ミルクサイエンス,59, 59 (2010)..AborycinはHIV-1ウイルスのgp41プロテアーゼと配列相同性を示すため,HIV-1ウイルスの増殖を阻害する(13)13) G. Helynck, C. Dubertret, J. F. Mayaux & J. Leboul: J. Antibiot., 11, 1756 (1993).

真核生物からは,テングタケ属キノコが産生するキノコ毒成分α-amanitin(図2図2■代表的なキノコ由来RiPPs左)およびphallacidin(図2図2■代表的なキノコ由来RiPPs中)がRiPPsであることが,2007年に明らかにされた(14)14) H. E. Hallen, H. Luo, J. S. Scott-Craig & J. D. Walton: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 19097 (2007)..その後しばらく報告はなかったが,2014年に我々によるバイオインフォマティクスを用いた手法と実験により,稲こうじ病原因真菌Ustilaginoidea virensの産生するカビ毒ustiloxinがRiPPであることが示された(15, 16)15) M. Umemura, H. Koike, N. Nagano, T. Ishii, J. Kawano, N. Yamane, I. Kozone, K. Horimoto, K. Shin-ya, K. Asai et al.: PLoS One, 8, e84028 (2013).16) M. Umemura, N. Nagano, H. Koike, J. Kawano, T. Ishii, Y. Miyamura, M. Kikuchi, K. Tamano, J. Yu, K. Shin-ya et al.: Fungal Genet. Biol., 68, 23 (2014)..この報告を契機に,epichloëcyclin(17)17) R. D. Johnson, G. A. Lane, A. Koulman, M. Cao, K. Fraser, D. J. Fleetwood, C. R. Voisey, J. M. Dyer, J. Pratt, M. Christensen et al.: Fungal Genet. Biol., 85, 14 (2015).,asperipin-2a(18)18) N. Nagano, M. Umemura, M. Izumikawa, J. Kawano, T. Ishii, M. Kikuchi, K. Tomii, T. Kumagai, A. Yoshimi, M. Machida et al.: Fungal Genet. Biol., 86, 58 (2016).,phomopsin(19)19) W. Ding, W. Q. Liu, Y. Jia, Y. Li, W. A. van der Donk & Q. Zhang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 3521 (2016).,victorin(20)20) S. Kessler, X. Zhang, M. C. McDonald, C. L. M. Gilchrist, Z. Lin, A. Rightmyer, P. S. Solomon, B. G. Turgeon & Y. H. Chooi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 24243 (2020).と糸状菌RiPPsの報告が続いたが,これらは後に詳細するように,すべてustiloxinと同じファミリーに属する.また同時期に,キノコOmphalotus oleariusからomphalotin(図2図2■代表的なキノコ由来RiPPs右)およびそのファミリー(borosins)がRiPPsとして報告されている(21)21) S. Ramm, B. Krawczyk, A. Mühlenweg, A. Poch, E. Mösker & R. D. Süssmuth: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 9994 (2017).

図2■代表的なキノコ由来RiPPs

現在のところ報告されているものはすべてhead-to-tail型である.α-amanitinはスルフォキシド結合,phallacidinはスルフィド結合,omphalotinは多数のNメチル化修飾が特徴である.

これら真菌由来RiPPsも様々な生理活性を示す.テングタケは致死性の高い毒キノコだが,それはα-amanitinおよび類縁体(amatoxins)が持つRNAポリメラーゼII阻害活性による.Phallacidinおよびその類縁体(phallotoxins)はF-アクチンに結合して重合を阻害する.Ustiloxinとphomopsinは微小管のvincaドメインに結合して重合を阻害する(22)22) A. Cormier, M. Marchand, R. B. Ravelli, M. Knossow & B. Gigant: EMBO Rep., 9, 1101 (2008)..オート麦感染性病原真菌により産生されるvictorinは,宿主の酸化還元酵素チオレドキシンに結合して病原性を発揮する(23)23) J. Lorang, T. Kidarsa, C. S. Bradford, B. Gilbert, M. Curtis, S. C. Tzeng, C. S. Maier & T. J. Wolpert: Science, 338, 659 (2012)..Omphalotinは植物寄生線虫であるネコブセンチュウに対する強い選択的殺虫活性を示す(24)24) A. Mayer, M. Kilian, B. Hoster, O. Sterner & H. Anke: Pestic. Sci., 55, 27 (1999)..なお,植物共生真菌が産生するepichloëcyclinは植物感染時に多量に産生されるが,その生物学的機能は不明である.

現在のところ,キノコからはhead-to-tail型のみ,カビからはside-chain型のみが知られているのに対し,植物からはhead-to-tail型のcyclotides(25)25) C. Jennings, J. West, C. Waine, D. Craik & M. Anderson: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 10614 (2001).やorbitides(26)26) S. D. Ramalho, M. E. F. Pinto, D. Ferreira & V. S. Bolzani: Planta Med., 84, 558 (2018).に加えて,最近side-chain型のものが多数報告された(27, 28)27) R. D. Kersten & J. K. Weng: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, E10961 (2018).28) D. N. Chigumba, L. S. Mydy, F. de Waal, W. Li, K. Shafiq, J. W. Wotring, O. G. Mohamed, T. Mladenovic, A. Tripathi, J. Z. Sexton et al.: Nat. Chem. Biol., 18, 18 (2022)..その生理活性は構造同様多岐にわたる.Cyclotidesには殺虫性や抗ガン性を有するものが多く含まれているため,殺虫剤や抗ウイルス剤として開発が進められている(29)29) S. J. Veer, M. W. Kan & D. J. Craik: Chem. Rev., 119, 12375 (2019)..植物由来side-chain型RiPPsの最初の例であるlyciuminsは,アンジオテンシン変換酵素およびreninプロテアーゼ阻害活性を示す(30)30) S. Yahara, C. Shigeyama, T. Nohara, H. Okuda, K. Wakamatsu & T. Yasuhara: Tetrahedron Lett., 30, 6041 (1989).

キノコ由来head-to-tail型RiPPsの生合成機構

キノコ由来RiPPsとして現在報告されている3つのファミリー,amatoxins, phallotoxins, borosinsは,いずれもペプチド鎖のN末とC末が結合して環を巻くhead-to-tail型である.原核生物由来patellamide等と同様,amatoxins, borosinsとも,前駆体ペプチドを認識・切断するプロテアーゼがペプチド鎖の環化も行う.α-amanitinでは,プロリルオリゴペプチダーゼの1つPOPBによって35残基の前駆体ペプチドが2つのプロリン残基の位置で25残基へと切断された後,同じ酵素によって環化される(31, 32)31) H. Luo, S. Y. Hong, R. M. Sgambelluri, E. Angelos, X. Li & J. D. Walton: Chem. Biol., 21, 1610 (2014).32) C. M. Czekster, H. Ludewig, S. A. McMahon & J. H. Naismith: Nat. Commun., 8, 1045 (2017)..ただしこの切断・環化反応は同時に起こるのではなく,切断によって生じた25残基ペプチドは一旦酵素から乖離して,再度結合した後に環化される.本酵素の環化反応は切断反応よりも速く,head-to-tail型ペプチド環化酵素の中で最も反応効率がよいbutelase(33)33) G. Nguyen, S. Wang, Y. Qiu, X. Hemu, Y. Lian & J. P. Tam: Nat. Chem. Biol., 10, 732 (2014).と同等の速度を示す.

Borosinsの生合成経路は,omphalotinの骨格ペプチドをゲノム探索することで決定された(21, 34)21) S. Ramm, B. Krawczyk, A. Mühlenweg, A. Poch, E. Mösker & R. D. Süssmuth: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 9994 (2017).34) M. Quijano, C. Zach, F. S. Miller, A. R. Lee, A. S. Imani, M. Künzler & M. F. Freeman: J. Am. Chem. Soc., 141, 9637 (2019)..Borosinsは多数のN-メチル化を受けているが,前駆体ペプチドがS-adenosylmethionine(SAM)依存型N-メチルトランスフェラーゼのC末側に融合しており,融合酵素によってN-メチル化された後,別のペプチダーゼによって切り離されて環化される.ただしその切断・環化分子機構は未報告である.なお,ごく最近の報告によると,borosinファミリーはむしろ原核生物において保存されており,そこでは前駆体ペプチドとN-メチルトランスフェラーゼは融合していない(35)35) H. Cho, H. Lee, K. Hong, H. Chung, I. Song, J. S. Lee & S. Kim: Biochemistry, 61, 183 (2022).

糸状菌由来RiPP生合成経路の発見

糸状菌では,2014年に我々がustiloxin生合成経路を報告する(16)16) M. Umemura, N. Nagano, H. Koike, J. Kawano, T. Ishii, Y. Miyamura, M. Kikuchi, K. Tamano, J. Yu, K. Shin-ya et al.: Fungal Genet. Biol., 68, 23 (2014).まで,糸状菌が産生する環状ペプチドはNRPSによるものと考えられていた.そのustiloxin生合成経路の発見は,我々が開発した二次代謝遺伝子クラスター検出アルゴリズムMIDDAS-M(motif-independent de novo detection algorithm for secondary metabolite biosynthetic gene clusters)法によって行われた(15)15) M. Umemura, H. Koike, N. Nagano, T. Ishii, J. Kawano, N. Yamane, I. Kozone, K. Horimoto, K. Shin-ya, K. Asai et al.: PLoS One, 8, e84028 (2013)..MIDDAS-M法は,真菌において1つの二次代謝化合物の生合成に関わる複数の遺伝子がゲノム上で集まって存在し協調的に発現誘導される性質に基づいて,鋭敏かつ正確に二次代謝遺伝子クラスターを検出する手法である(図3図3■二次代謝遺伝子クラスター検出アルゴリズムMIDDAS-M法の原理).本手法による解析にはゲノム情報と化合物産生・非産生下で取得されたトランスクリプトーム情報を用いるが,既知の配列モチーフ情報を一切用いないため,全く新しい種類の二次代謝遺伝子クラスターを検出することができる.本アルゴリズムの概要は以下の通りである.最初に,ゲノム情報に基づき,コンピューター上で網羅的に仮想遺伝子クラスターを作成する.次に,化合物産生・非産生下で取得した遺伝子発現誘導比を,仮想遺伝子クラスター毎に足し合わせる.こうすることで,ゲノム上でクラスターを形成し協調的に発現している遺伝子群のみが,遺伝子がランダムに発現している他のクラスターでは値がゼロに近付くのに反して,有意に高い値を示すようになる.言い換えると,遺伝子発現誘導比は通常正規分布を取っているが,クラスターとして値を算出することで,内部で遺伝子が協調的に発現している遺伝子クラスターのみが正規分布から外れた高い値を示すようになる.こうして得られた遺伝子クラスター発現誘導比ともいうべき値に対して,正規分布からの外れを強調する統計処理を施すことで,最終的なMIDDAS-Mスコアを算出する.なお本手法では,遺伝子の発現誘導比だけでなく,発現量そのものを用いても,精度は落ちるが同様に遺伝子クラスターを検出できる.また,原核生物に対しても,オペロンを形成する二次代謝遺伝子クラスターを非常に感度よく検出することができる.

図3■二次代謝遺伝子クラスター検出アルゴリズムMIDDAS-M法の原理

真菌では,1つの二次代謝化合物の生合成に関与する複数の遺伝子が,ゲノム上でクラスターを形成して協調的に発現する.その性質を利用して,ゲノム情報上に網羅的に仮想遺伝子クラスターを作成し,それぞれについて遺伝子発現誘導比を足し合わせることで,協調的に発現している遺伝子クラスターを鋭敏・正確に検出する.

我々は,このMIDDAS-M法を糸状菌Aspergillus flavusのデータに適応することで,ustiloxin生合成遺伝子クラスターの同定に成功した(図4図4■糸状菌Aspergillus flavus由来RiPP ustiloxin Bの同定手順).A. flavusは発がん性物質であるマイコトキシンaflatoxinを始めとして多くの二次代謝物質を産生するが,それらの多くは28度付近では産生されるが,37度では産生されないことが知られている.そこで,28度および37度下で取得されたトランスクリプトーム情報から発現誘導比を算出し,MIDDAS-M法による解析を行った.その結果,3つの鋭いピークが検出され,そのうち1つは既知のaflatoxin生合成遺伝子クラスターであった(図4図4■糸状菌Aspergillus flavus由来RiPP ustiloxin Bの同定手順左上).そこで,これら3つのピークについて対応する遺伝子群をそれぞれ破壊し,培養物をLC-MS解析したところ,1つの遺伝子クラスターに対応する破壊株においてのみ消失するMSピークを見出した.このMSピークを単離精製したところ,糸状菌U. virensが産生する環状ペプチドとして構造が報告されていたustiloxin B(36)36) Y. Koiso, M. Natori, S. Iwasaki, S. Sato, R. Sonoda, Y. Fujita, H. Yaegashi & Z. Sato: Tetrahedron Lett., 33, 4157 (1992).であったことから,ustiloxin B生合成遺伝子クラスターの同定に至った.

図4■糸状菌Aspergillus flavus由来RiPP ustiloxin Bの同定手順

MIDDAS-M法で予測した遺伝子クラスターを破壊し,培養物からLC-MS測定において消失するピークがustiloxin Bであることを同定した.

Ustiloxin Bは5つのアミノ酸からなる環状ペプチドで,YAIGのTyr芳香環にIleの側鎖から直接エーテル結合で環化するside-chain型環化構造を持ち,さらにTyrに非タンパク質原生アミノ酸ノルバリンが修飾されている(図5図5■糸状菌由来RiPPs dikaritinファミリーとその前駆体タンパク質左上).同定したustiloxin B生合成遺伝子クラスター領域について,14種類のRNA-seqデータをゲノム配列にマッピングし,1つ1つ目で見ながら遺伝子領域の再アノテーションを行ったところ,2つの遺伝子としてアノテーションされていたものが実は1つの遺伝子であるなど複数の間違いが見つかったため,修正を行った.中でも最も重要な修正は,“NRPS-like”として登録されていたAFLA_095040遺伝子が,実際にはNRPSドメインを含まない点であった.一方クラスター内に2種類のペプチダーゼが含まれていたことから,その基質を探したところ,クラスター内に化合物骨格構造であるYAIGペプチドを含む16回の繰り返し構造を含む前駆体遺伝子が見出された(図5図5■糸状菌由来RiPPs dikaritinファミリーとその前駆体タンパク質左上配列).これにより,ustiloxin Bが糸状菌で最初のRiPPの例であることが明らかになった(16)16) M. Umemura, N. Nagano, H. Koike, J. Kawano, T. Ishii, Y. Miyamura, M. Kikuchi, K. Tamano, J. Yu, K. Shin-ya et al.: Fungal Genet. Biol., 68, 23 (2014).