解説

真核生物由来リボソーム環状ペプチド研究の最前線中分子デザイン系としての可能性と魅力

Cyclic Ribosomal Peptides from Eukaryotes: Attractive Target for Macrocyclic Peptide Construction

Maiko Umemura

梅村 舞子

産業技術総合研究所生物プロセス研究部門生物システム研究グループ

Published: 2022-06-01

植物や微生物が産生する環状ペプチドは生理活性を持つものが多く,構造多様性と安定性,膜透過性の観点から,化学合成可能な低分子薬とサイズが大きい抗体医薬の間を埋める中分子医薬品の重要な候補である.中でもリボソーム経由で生合成されるribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)は,その改変・修飾容易性から,デザイン可能な創薬ターゲットとして近年特に注目されている.本稿で取り上げる真核生物由来RiPPsは,側鎖間で環化し両親媒性を示すものを多く含むため,標的タンパク質と特異的に相互作用する環状ペプチドをデザインする系として期待される.

Key words: Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs); 環状ペプチド; 天然化合物; 両親媒性ペプチド化合物; シクロファン構造

はじめに

微生物や植物が産生する天然化合物は多くが生理活性を有し,抗生物質ペニシリンや高コレステロール血症治療薬ロバスタチンなど,市場に出ている医薬品の半数以上が天然物由来またはその派生品・模倣品である.化学合成では困難な,複雑で思いがけない構造を多数合成できることから,創薬資源として他に代替できない価値を持っている.中でも環状ペプチドは,直鎖状のペプチドに比して難消化性と構造安定性,高い膜透過性を示すことが多いため(1~3)1) W. M. Hewitt, S. S. Leung, C. R. Pye, A. R. Ponkey, M. Bednarek, M. P. Jacobson & R. S. Lokey: J. Am. Chem. Soc., 137, 715 (2015).2) A. A. Vinogradov, Y. Yin & H. Suga: J. Am. Chem. Soc., 141, 4167 (2019).3) D. J. Craik & N. M. Allewell: J. Biol. Chem., 287, 26999 (2012).,化学合成可能な低分子薬とサイズの大きい抗体医薬の間を埋める中分子医薬品の主な候補として精力的に研究が進められている(4, 5)4) F. Giordanetto & J. Kihlberg: J. Med. Chem., 57, 278 (2014).5) E. M. Driggers, S. P. Hale, J. Lee & N. K. Terrett: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 608 (2008).

天然化合物としての環状ペプチドの生合成経路には,大きく2種類が存在する.1つは非リボソームペプチド生合成酵素(non-ribosomal peptide synthetase; NRPS)によるもので,リボソームを介さずに酵素上でアミノ酸が連結されて生合成される.本稿のトピックであるもう1つの環状ペプチド生合成経路は,通常のタンパク質同様リボソームを介して生合成されるもので,ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)と総称される(6)6) P. G. Arnison, M. J. Bibb, G. Bierbaum, A. A. Bowers, T. S. Bugni, G. Bulaj, J. A. Camarero, D. J. Campopiano, G. L. Challis, J. Clardy et al.: Nat. Prod. Rep., 30, 108 (2013)..RiPPsの定義には必ずしも環状であることは含まれないが,これまでに報告された最終産物はすべて環化構造を含んでおり,ペプチド主鎖のN末とC末で環を巻くもの(head-to-tail型)と,側鎖間で環化するもの(side-chain型)に大別される.加えて,分子内でスルフィド結合やスルホキシド結合などの硫黄を介した結合を組むこともある.典型的には20から110程度のアミノ酸から構成されており,分子量が500程度のものから3000近いものまで知られている.

RiPPsの最大の特徴は,その化合物骨格を為すペプチド(コアペプチド)の配列が,前駆体遺伝子に直接コードされている点にある.前駆体遺伝子が前駆体ペプチドへとリボソームで翻訳された後,環化やメチル化,スルホン化,チアゾール化,プレニル化,クロロ化等の様々な修飾を受けて,最終的に前駆体ペプチドから切り出された形で生合成される(図1図1■Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)の一般的な生合成経路).修飾酵素の中には,L体アミノ酸をD体に変換するもの(7, 8)7) M. F. Freeman, C. Gurgui, M. J. Helf, B. I. Morinaka, A. R. Uria, N. J. Oldham, H. G. Sahl, S. Matsunaga & J. Piel: Science, 338, 387 (2012).8) B. I. Morinaka, A. L. Vagstad, M. J. Helf, M. Gugger, C. Kegler, M. F. Freeman, H. B. Bode & J. Piel: Angew. Chem. Int. Ed., 53, 8503 (2014).や,遺伝子にコードされておらずタンパク質を構成しない(非タンパク質原生)アミノ酸を付加するものまである.NRPSに比べてシンプルな生合成系でありながら高い構造多様性を示すこと,前駆体遺伝子への変異導入や豊富な修飾酵素により構造の改変・修飾が比較的容易と考えられることが,RiPPsをより魅力的な創薬標的としている.

図1■Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides(RiPPs)の一般的な生合成経路

ペプチド鎖のN末とC末の間で環化するhead-to-tail型と,側鎖間で環化するside-chain型がある.コアペプチド以外の配列を持たない前駆体ペプチドもある.

自然界に広く保存されるRiPPsとその生理活性

RiPPs生合成経路は最初に原核生物において,1988年から1989年にかけて相次いで報告された.ブドウ球菌からのepidermin(9)9) N. Schnell, K. D. Entian, U. Schneider, F. Götz, H. Zähner, R. Kellner & G. Jung: Nature, 333, 276 (1988).,枯草菌からのsubtilin(10)10) S. Banerjee & J. N. Hansen: J. Biol. Chem., 263, 9508 (1988).,乳酸菌からのnisin(11)11) C. Kaletta & K. D. Entian: J. Bacteriol., 171, 1597 (1989).である.その後も藍藻からのcyanobactinsや放線菌・大腸菌からのlasso peptidesなど100を超える報告が続き,天然化合物のスーパーファミリーとして確立されるに至った(6)6) P. G. Arnison, M. J. Bibb, G. Bierbaum, A. A. Bowers, T. S. Bugni, G. Bulaj, J. A. Camarero, D. J. Campopiano, G. L. Challis, J. Clardy et al.: Nat. Prod. Rep., 30, 108 (2013)..RiPPsには抗菌活性を示すものも多く,例えばnisinは食品汚染菌を含むグラム陽性細菌に対して強い抗菌活性を示すため,ミルク等への食品保存剤として世界で広く用いられている(12)12) 益田時光,善藤威史,園元謙二:ミルクサイエンス,59, 59 (2010)..AborycinはHIV-1ウイルスのgp41プロテアーゼと配列相同性を示すため,HIV-1ウイルスの増殖を阻害する(13)13) G. Helynck, C. Dubertret, J. F. Mayaux & J. Leboul: J. Antibiot., 11, 1756 (1993).

真核生物からは,テングタケ属キノコが産生するキノコ毒成分α-amanitin(図2図2■代表的なキノコ由来RiPPs左)およびphallacidin(図2図2■代表的なキノコ由来RiPPs中)がRiPPsであることが,2007年に明らかにされた(14)14) H. E. Hallen, H. Luo, J. S. Scott-Craig & J. D. Walton: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 19097 (2007)..その後しばらく報告はなかったが,2014年に我々によるバイオインフォマティクスを用いた手法と実験により,稲こうじ病原因真菌Ustilaginoidea virensの産生するカビ毒ustiloxinがRiPPであることが示された(15, 16)15) M. Umemura, H. Koike, N. Nagano, T. Ishii, J. Kawano, N. Yamane, I. Kozone, K. Horimoto, K. Shin-ya, K. Asai et al.: PLoS One, 8, e84028 (2013).16) M. Umemura, N. Nagano, H. Koike, J. Kawano, T. Ishii, Y. Miyamura, M. Kikuchi, K. Tamano, J. Yu, K. Shin-ya et al.: Fungal Genet. Biol., 68, 23 (2014)..この報告を契機に,epichloëcyclin(17)17) R. D. Johnson, G. A. Lane, A. Koulman, M. Cao, K. Fraser, D. J. Fleetwood, C. R. Voisey, J. M. Dyer, J. Pratt, M. Christensen et al.: Fungal Genet. Biol., 85, 14 (2015).,asperipin-2a(18)18) N. Nagano, M. Umemura, M. Izumikawa, J. Kawano, T. Ishii, M. Kikuchi, K. Tomii, T. Kumagai, A. Yoshimi, M. Machida et al.: Fungal Genet. Biol., 86, 58 (2016).,phomopsin(19)19) W. Ding, W. Q. Liu, Y. Jia, Y. Li, W. A. van der Donk & Q. Zhang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 3521 (2016).,victorin(20)20) S. Kessler, X. Zhang, M. C. McDonald, C. L. M. Gilchrist, Z. Lin, A. Rightmyer, P. S. Solomon, B. G. Turgeon & Y. H. Chooi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 24243 (2020).と糸状菌RiPPsの報告が続いたが,これらは後に詳細するように,すべてustiloxinと同じファミリーに属する.また同時期に,キノコOmphalotus oleariusからomphalotin(図2図2■代表的なキノコ由来RiPPs右)およびそのファミリー(borosins)がRiPPsとして報告されている(21)21) S. Ramm, B. Krawczyk, A. Mühlenweg, A. Poch, E. Mösker & R. D. Süssmuth: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 9994 (2017).

図2■代表的なキノコ由来RiPPs

現在のところ報告されているものはすべてhead-to-tail型である.α-amanitinはスルフォキシド結合,phallacidinはスルフィド結合,omphalotinは多数のNメチル化修飾が特徴である.

これら真菌由来RiPPsも様々な生理活性を示す.テングタケは致死性の高い毒キノコだが,それはα-amanitinおよび類縁体(amatoxins)が持つRNAポリメラーゼII阻害活性による.Phallacidinおよびその類縁体(phallotoxins)はF-アクチンに結合して重合を阻害する.Ustiloxinとphomopsinは微小管のvincaドメインに結合して重合を阻害する(22)22) A. Cormier, M. Marchand, R. B. Ravelli, M. Knossow & B. Gigant: EMBO Rep., 9, 1101 (2008)..オート麦感染性病原真菌により産生されるvictorinは,宿主の酸化還元酵素チオレドキシンに結合して病原性を発揮する(23)23) J. Lorang, T. Kidarsa, C. S. Bradford, B. Gilbert, M. Curtis, S. C. Tzeng, C. S. Maier & T. J. Wolpert: Science, 338, 659 (2012)..Omphalotinは植物寄生線虫であるネコブセンチュウに対する強い選択的殺虫活性を示す(24)24) A. Mayer, M. Kilian, B. Hoster, O. Sterner & H. Anke: Pestic. Sci., 55, 27 (1999)..なお,植物共生真菌が産生するepichloëcyclinは植物感染時に多量に産生されるが,その生物学的機能は不明である.

現在のところ,キノコからはhead-to-tail型のみ,カビからはside-chain型のみが知られているのに対し,植物からはhead-to-tail型のcyclotides(25)25) C. Jennings, J. West, C. Waine, D. Craik & M. Anderson: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 10614 (2001).やorbitides(26)26) S. D. Ramalho, M. E. F. Pinto, D. Ferreira & V. S. Bolzani: Planta Med., 84, 558 (2018).に加えて,最近side-chain型のものが多数報告された(27, 28)27) R. D. Kersten & J. K. Weng: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, E10961 (2018).28) D. N. Chigumba, L. S. Mydy, F. de Waal, W. Li, K. Shafiq, J. W. Wotring, O. G. Mohamed, T. Mladenovic, A. Tripathi, J. Z. Sexton et al.: Nat. Chem. Biol., 18, 18 (2022)..その生理活性は構造同様多岐にわたる.Cyclotidesには殺虫性や抗ガン性を有するものが多く含まれているため,殺虫剤や抗ウイルス剤として開発が進められている(29)29) S. J. Veer, M. W. Kan & D. J. Craik: Chem. Rev., 119, 12375 (2019)..植物由来side-chain型RiPPsの最初の例であるlyciuminsは,アンジオテンシン変換酵素およびreninプロテアーゼ阻害活性を示す(30)30) S. Yahara, C. Shigeyama, T. Nohara, H. Okuda, K. Wakamatsu & T. Yasuhara: Tetrahedron Lett., 30, 6041 (1989).

キノコ由来head-to-tail型RiPPsの生合成機構

キノコ由来RiPPsとして現在報告されている3つのファミリー,amatoxins, phallotoxins, borosinsは,いずれもペプチド鎖のN末とC末が結合して環を巻くhead-to-tail型である.原核生物由来patellamide等と同様,amatoxins, borosinsとも,前駆体ペプチドを認識・切断するプロテアーゼがペプチド鎖の環化も行う.α-amanitinでは,プロリルオリゴペプチダーゼの1つPOPBによって35残基の前駆体ペプチドが2つのプロリン残基の位置で25残基へと切断された後,同じ酵素によって環化される(31, 32)31) H. Luo, S. Y. Hong, R. M. Sgambelluri, E. Angelos, X. Li & J. D. Walton: Chem. Biol., 21, 1610 (2014).32) C. M. Czekster, H. Ludewig, S. A. McMahon & J. H. Naismith: Nat. Commun., 8, 1045 (2017)..ただしこの切断・環化反応は同時に起こるのではなく,切断によって生じた25残基ペプチドは一旦酵素から乖離して,再度結合した後に環化される.本酵素の環化反応は切断反応よりも速く,head-to-tail型ペプチド環化酵素の中で最も反応効率がよいbutelase(33)33) G. Nguyen, S. Wang, Y. Qiu, X. Hemu, Y. Lian & J. P. Tam: Nat. Chem. Biol., 10, 732 (2014).と同等の速度を示す.

Borosinsの生合成経路は,omphalotinの骨格ペプチドをゲノム探索することで決定された(21, 34)21) S. Ramm, B. Krawczyk, A. Mühlenweg, A. Poch, E. Mösker & R. D. Süssmuth: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 9994 (2017).34) M. Quijano, C. Zach, F. S. Miller, A. R. Lee, A. S. Imani, M. Künzler & M. F. Freeman: J. Am. Chem. Soc., 141, 9637 (2019)..Borosinsは多数のN-メチル化を受けているが,前駆体ペプチドがS-adenosylmethionine(SAM)依存型N-メチルトランスフェラーゼのC末側に融合しており,融合酵素によってN-メチル化された後,別のペプチダーゼによって切り離されて環化される.ただしその切断・環化分子機構は未報告である.なお,ごく最近の報告によると,borosinファミリーはむしろ原核生物において保存されており,そこでは前駆体ペプチドとN-メチルトランスフェラーゼは融合していない(35)35) H. Cho, H. Lee, K. Hong, H. Chung, I. Song, J. S. Lee & S. Kim: Biochemistry, 61, 183 (2022).

糸状菌由来RiPP生合成経路の発見

糸状菌では,2014年に我々がustiloxin生合成経路を報告する(16)16) M. Umemura, N. Nagano, H. Koike, J. Kawano, T. Ishii, Y. Miyamura, M. Kikuchi, K. Tamano, J. Yu, K. Shin-ya et al.: Fungal Genet. Biol., 68, 23 (2014).まで,糸状菌が産生する環状ペプチドはNRPSによるものと考えられていた.そのustiloxin生合成経路の発見は,我々が開発した二次代謝遺伝子クラスター検出アルゴリズムMIDDAS-M(motif-independent de novo detection algorithm for secondary metabolite biosynthetic gene clusters)法によって行われた(15)15) M. Umemura, H. Koike, N. Nagano, T. Ishii, J. Kawano, N. Yamane, I. Kozone, K. Horimoto, K. Shin-ya, K. Asai et al.: PLoS One, 8, e84028 (2013)..MIDDAS-M法は,真菌において1つの二次代謝化合物の生合成に関わる複数の遺伝子がゲノム上で集まって存在し協調的に発現誘導される性質に基づいて,鋭敏かつ正確に二次代謝遺伝子クラスターを検出する手法である(図3図3■二次代謝遺伝子クラスター検出アルゴリズムMIDDAS-M法の原理).本手法による解析にはゲノム情報と化合物産生・非産生下で取得されたトランスクリプトーム情報を用いるが,既知の配列モチーフ情報を一切用いないため,全く新しい種類の二次代謝遺伝子クラスターを検出することができる.本アルゴリズムの概要は以下の通りである.最初に,ゲノム情報に基づき,コンピューター上で網羅的に仮想遺伝子クラスターを作成する.次に,化合物産生・非産生下で取得した遺伝子発現誘導比を,仮想遺伝子クラスター毎に足し合わせる.こうすることで,ゲノム上でクラスターを形成し協調的に発現している遺伝子群のみが,遺伝子がランダムに発現している他のクラスターでは値がゼロに近付くのに反して,有意に高い値を示すようになる.言い換えると,遺伝子発現誘導比は通常正規分布を取っているが,クラスターとして値を算出することで,内部で遺伝子が協調的に発現している遺伝子クラスターのみが正規分布から外れた高い値を示すようになる.こうして得られた遺伝子クラスター発現誘導比ともいうべき値に対して,正規分布からの外れを強調する統計処理を施すことで,最終的なMIDDAS-Mスコアを算出する.なお本手法では,遺伝子の発現誘導比だけでなく,発現量そのものを用いても,精度は落ちるが同様に遺伝子クラスターを検出できる.また,原核生物に対しても,オペロンを形成する二次代謝遺伝子クラスターを非常に感度よく検出することができる.

図3■二次代謝遺伝子クラスター検出アルゴリズムMIDDAS-M法の原理

真菌では,1つの二次代謝化合物の生合成に関与する複数の遺伝子が,ゲノム上でクラスターを形成して協調的に発現する.その性質を利用して,ゲノム情報上に網羅的に仮想遺伝子クラスターを作成し,それぞれについて遺伝子発現誘導比を足し合わせることで,協調的に発現している遺伝子クラスターを鋭敏・正確に検出する.

我々は,このMIDDAS-M法を糸状菌Aspergillus flavusのデータに適応することで,ustiloxin生合成遺伝子クラスターの同定に成功した(図4図4■糸状菌Aspergillus flavus由来RiPP ustiloxin Bの同定手順).A. flavusは発がん性物質であるマイコトキシンaflatoxinを始めとして多くの二次代謝物質を産生するが,それらの多くは28度付近では産生されるが,37度では産生されないことが知られている.そこで,28度および37度下で取得されたトランスクリプトーム情報から発現誘導比を算出し,MIDDAS-M法による解析を行った.その結果,3つの鋭いピークが検出され,そのうち1つは既知のaflatoxin生合成遺伝子クラスターであった(図4図4■糸状菌Aspergillus flavus由来RiPP ustiloxin Bの同定手順左上).そこで,これら3つのピークについて対応する遺伝子群をそれぞれ破壊し,培養物をLC-MS解析したところ,1つの遺伝子クラスターに対応する破壊株においてのみ消失するMSピークを見出した.このMSピークを単離精製したところ,糸状菌U. virensが産生する環状ペプチドとして構造が報告されていたustiloxin B(36)36) Y. Koiso, M. Natori, S. Iwasaki, S. Sato, R. Sonoda, Y. Fujita, H. Yaegashi & Z. Sato: Tetrahedron Lett., 33, 4157 (1992).であったことから,ustiloxin B生合成遺伝子クラスターの同定に至った.

図4■糸状菌Aspergillus flavus由来RiPP ustiloxin Bの同定手順

MIDDAS-M法で予測した遺伝子クラスターを破壊し,培養物からLC-MS測定において消失するピークがustiloxin Bであることを同定した.

Ustiloxin Bは5つのアミノ酸からなる環状ペプチドで,YAIGのTyr芳香環にIleの側鎖から直接エーテル結合で環化するside-chain型環化構造を持ち,さらにTyrに非タンパク質原生アミノ酸ノルバリンが修飾されている(図5図5■糸状菌由来RiPPs dikaritinファミリーとその前駆体タンパク質左上).同定したustiloxin B生合成遺伝子クラスター領域について,14種類のRNA-seqデータをゲノム配列にマッピングし,1つ1つ目で見ながら遺伝子領域の再アノテーションを行ったところ,2つの遺伝子としてアノテーションされていたものが実は1つの遺伝子であるなど複数の間違いが見つかったため,修正を行った.中でも最も重要な修正は,“NRPS-like”として登録されていたAFLA_095040遺伝子が,実際にはNRPSドメインを含まない点であった.一方クラスター内に2種類のペプチダーゼが含まれていたことから,その基質を探したところ,クラスター内に化合物骨格構造であるYAIGペプチドを含む16回の繰り返し構造を含む前駆体遺伝子が見出された(図5図5■糸状菌由来RiPPs dikaritinファミリーとその前駆体タンパク質左上配列).これにより,ustiloxin Bが糸状菌で最初のRiPPの例であることが明らかになった(16)16) M. Umemura, N. Nagano, H. Koike, J. Kawano, T. Ishii, Y. Miyamura, M. Kikuchi, K. Tamano, J. Yu, K. Shin-ya et al.: Fungal Genet. Biol., 68, 23 (2014).

図5■糸状菌由来RiPPs dikaritinファミリーとその前駆体タンパク質

配列中,下線は小胞体へのシグナルペプチド,太字はコアペプチド,斜体はKex2認識配列を示す.化合物構造中,dikaritinsの特徴であるC-O結合でのシクロファン構造を円でマークしてある.

Ustiloxinの生合成機構

Ustiloxin B前駆体ペプチドUstAは,N末側に小胞体へのシグナルペプチドを有し,コアペプチドを含む配列がゴルジ体局在ペプチダーゼKex2の認識サイトKRで16回繰り返す一次構造を持つ(図5図5■糸状菌由来RiPPs dikaritinファミリーとその前駆体タンパク質左上配列).コアペプチドの繰り返し構造はcyanobactinsやborosins Type IIに見られるが,16回もの繰り返し構造は珍しい.また,小胞体へのシグナルペプチドを有する点も細胞内小器官を有する真核生物特有である.UstAの配列における特徴およびkex2ホモログ遺伝子破壊実験から,ustiloxin前駆体ペプチドは小胞体へ輸送された後,ゴルジ体へ移行してKex2プロテアーゼで繰り返し配列がコアペプチドを含むペプチドへと切断されることが分かった(37)37) A. Yoshimi, M. Umemura, N. Nagano, H. Koike, M. Machida & K. Abe: AMB Exp., 6, 9 (2016)..おそらく酵母同様(38)38) A. Dmochowska, D. Dignard, D. Henning, D. Y. Thomas & H. Bussey: Cell, 50, 573 (1987).,Kex2での切断に続いて,エキソ型ペプチダーゼKex1によりKRが端から取り除かれると考えられる.なお真核生物由来RiPPsであっても,キノコ由来amatoxins, phallotoxins, borosinsの前駆体ペプチドはシグナルペプチドを持たない.

Ustiloxin Bのより詳細な生合成機構を明らかにするため,我々は15個の生合成遺伝子をそれぞれ破壊して化合物中間体の蓄積をLC-MS解析により調べた.既に報告されているものを含む環化構造を有する5種類の中間体を同定したが,興味深いことに,その破壊によりどの環状中間体も含まなくなる遺伝子が5つあった.そのうち2つは前駆体ペプチドUstAとustiloxin生合成遺伝子クラスターの誘導を制御する転写因子UstRのものだったが,残り3つはチロシナーゼUstQおよび機能未知タンパク質UstYa/Ybの遺伝子であった.UstYa/Ybは互いに相同な255および259アミノ酸からなるタンパク質で,膜貫通領域1つとHX2HCモチーフを2つ持つ.Pfamにより機能未知のDUF3328ファミリーとアノテートされていたが,最近UstYaファミリーと改名された.詳細な生合成機構を明らかにするため,各生合成遺伝子を順に麹菌へ異種発現したところ,たしかにUstYa/Yb/Qは環化に必須であること,またメチルトランスフェラーゼUstMによりTyr主鎖アミノ基がメチル化され,さらに残り4つの酵素(UstC,シトクロムP450; UstF1/F2,フラビン含有モノオキシゲナーゼ;UstD,ピリドキサールリン酸依存性酵素)によってTyr芳香環にタンパク質を構成しない分岐鎖アミノ酸であるノルバリンが修飾されることが分かった(39)39) Y. Ye, A. Minami, Y. Igarashi, M. Izumikawa, M. Umemura, N. Nagano, M. Machida, T. Kawahara, K. Shin-ya, K. Gomi et al.: Angew. Chem. Int. Ed., 55, 8072 (2016)..UstYaファミリー酸化還元酵素の詳細な分子機構はまだ明らかになっていないが,ペプチド側鎖の環化だけでなく,クロロ化,水酸化,トランスアルキル化,アミノ酸不飽和化を触媒することが報告されている(40, 41)40) Y. Jiang, T. Ozaki, C. Liu, Y. Igarashi, Y. Ye, S. Tang, T. Ye, J. I. Maruyama, A. Minami & H. Oikawa: Org. Lett., 23, 2616 (2021).41) K. Sogahata, T. Ozaki, Y. Igarashi, Y. Naganuma, C. Liu, A. Minami & H. Oikawa: Angew. Chem. Int. Ed., 60, 25729 (2021).

DikaritinsのFungi界での広く多様な保存

Ustiloxin生合成経路を特徴づけるのは,前駆体ペプチドの一次構造(小胞体へのシグナルペプチドとKex2認識サイトでの高度な繰り返し配列)とUstYaファミリー環化因子である.なお我々は,ustiloxin前駆体ペプチドの特徴を有する因子をust-RiPS因子,そこからUstYaファミリー環化因子を介して生合成される化合物をust-RiPS化合物と呼んでいたが,他の研究者らによる提案に従い,それぞれKex2-processed repeat proteins(KEPs)(42)42) M. Marquer et al.: BMC Genomics, 20, 64 (2019).およびdikaritins(19)19) W. Ding, W. Q. Liu, Y. Jia, Y. Li, W. A. van der Donk & Q. Zhang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 3521 (2016).とする.KEPsの特徴を元にFungi界に属する1461株のゲノム探索を行ったところ,838種類に分類される7878個のKEPsが検出され,92%の株に一株平均5.4個保存されており,その遺伝子の22%がゲノム上でUstYaファミリー遺伝子と近接していた(43)43) M. Umemura: Fungal Biol. Biotechnol., 7, 11 (2020)..興味深いことに,子嚢菌門と担子菌門の双方において,菌糸を形成しない酵母では1株1つ程度しかKEP因子を持たず,かつUstYaファミリー遺伝子を近傍に持たない.このことは,dikaritinsは真菌が菌糸形成能を獲得した際(44)44) E. Kiss, B. Hegedüs, M. Virágh, T. Varga, Z. Merényi, T. Kószó, B. Bálint, A. N. Prasanna, K. Krizsán, S. Kocsubé et al.: Nat. Commun., 10, 4080 (2019).に作られるようになったことを示唆しており,victorinが植物感染時に宿主免疫系を攪乱するエフェクター因子であることからも,他生物への侵入時に有利に機能する化合物群である可能性を想像させて興味深い.なお担子菌門からはまだdikaritinの報告はないが,KEP因子は子嚢菌門同様一株平均5.3個,UstYaファミリー遺伝子も数は少ないものの保存されていることから,今後の報告が期待される.

先に述べたように,ustiloxin生合成経路同定を契機として,epichloëcyclin(17)17) R. D. Johnson, G. A. Lane, A. Koulman, M. Cao, K. Fraser, D. J. Fleetwood, C. R. Voisey, J. M. Dyer, J. Pratt, M. Christensen et al.: Fungal Genet. Biol., 85, 14 (2015).,asperipin-2a(18)18) N. Nagano, M. Umemura, M. Izumikawa, J. Kawano, T. Ishii, M. Kikuchi, K. Tomii, T. Kumagai, A. Yoshimi, M. Machida et al.: Fungal Genet. Biol., 86, 58 (2016).,phomopsin(19)19) W. Ding, W. Q. Liu, Y. Jia, Y. Li, W. A. van der Donk & Q. Zhang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 3521 (2016).,victorin(20)20) S. Kessler, X. Zhang, M. C. McDonald, C. L. M. Gilchrist, Z. Lin, A. Rightmyer, P. S. Solomon, B. G. Turgeon & Y. H. Chooi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 24243 (2020).が糸状菌RiPPsであると報告された(図5図5■糸状菌由来RiPPs dikaritinファミリーとその前駆体タンパク質).これらはすべてdikaritinファミリーに属しており,KEPとしての前駆体タンパク質がKex2による切断後UstYaファミリー因子によって環化される.その環化構造はすべてside-chain型で,ustiloxin同様,芳香環に直接エーテル結合を介して環を巻く形式である.またこれらの化合物はすべて親水性でありつつ弱い疎水性を示す両親媒性である.このうちasperipin-2aは,我々が生理活性からではなくゲノム情報から新たに見出したRiPPである(18, 45)18) N. Nagano, M. Umemura, M. Izumikawa, J. Kawano, T. Ishii, M. Kikuchi, K. Tomii, T. Kumagai, A. Yoshimi, M. Machida et al.: Fungal Genet. Biol., 86, 58 (2016).45) Y. Ye, T. Ozaki, M. Umemura, C. Liu, A. Minami & H. Oikawa: Org. Biomol. Chem., 17, 39 (2019)..Ustiloxin, phomopsin,およびそれらの類縁隊ではTyr芳香環上の水酸基は直接環化に関与していないが,asperipin-2aではTyr芳香環の水酸基がそのまま環化に使われており,かつ2箇所で環を巻いている点に特徴がある.

RiPPsにおけるシクロファン環化構造

DikaritinsのC-O結合を介した芳香環とアミノ酸側鎖での環化構造は天然化合物においても珍しく,C-CおよびC-N結合によるものと合わせて近年注目を集めるシクロファン環化構造の先駆的なものである(46)46) T. Quynh et al.: Nat. Chem., 12, 1042 (2020)..アミノ酸側鎖から水素を引き抜き,芳香環を酸化して環化構造を形成するこの反応は,非常にエネルギー障壁が高い.原核生物RiPPsでは,darobactin(47)47) Y. Imai, K. J. Meyer, A. Iinishi, Q. Favre-Godal, R. Green, S. Manuse, M. Caboni, M. Mori, S. Niles, M. Ghiglieri et al.: Nature, 576, 459 (2019).やstreptide(48)48) K. R. Schramma, L. B. Bushin & M. R. Seyedsayamdost: Nat. Chem., 7, 431 (2015).など,シクロファン構造の形成をradical S-adenosylmethionine(rSAM)酵素(49)49) J. B. Broderick, B. R. Duffus, K. S. Duschene & E. M. Shepard: Chem. Rev., 114, 4229 (2014).が担う例が複数報告されている(46, 50)46) T. Quynh et al.: Nat. Chem., 12, 1042 (2020).50) Ma, H. Chen, H. Li, X. Ji, Z. Deng, W. Ding & Q. Zhang: Angew. Chem. Int. Ed., 60, 19957 (2021)..rSAM酵素は典型的にはCX3CX2Cモチーフを有するが,この3つのCysが[4Fe-4S]クラスターを配位し,さらにSAMを認識・切断して5′-deoxyadenosylラジカルを生成する.このラジカルが基質から水素を引き抜き,さらに酸化反応を引き起こすことで環化反応が進行する.

Dikaritinsの特徴であるC-O結合を介したシクロファン構造は,Kerstenらのグループにより最近植物からも多数報告された(28)28) D. N. Chigumba, L. S. Mydy, F. de Waal, W. Li, K. Shafiq, J. W. Wotring, O. G. Mohamed, T. Mladenovic, A. Tripathi, J. Z. Sexton et al.: Nat. Chem. Biol., 18, 18 (2022)..きっかけは,クコの実から見出されたlyciuminsである(27)27) R. D. Kersten & J. K. Weng: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, E10961 (2018)..Lyciuminsは8アミノ酸からなる環状ペプチドで,8番目のTrpインドール環と4番目のGly側鎖間のC-N結合で環を巻く(図6図6■植物由来RiPPsの例とlyciumin前駆体タンパク質左).植物ゲノムはNRPS遺伝子を持たないことから,lyciuminsがRiPPsであると仮定してゲノム探索を行ったところ,前駆体ペプチド候補が見出された.そこではdikaritin前駆体ペプチド同様,N末側の小胞体への移行シグナルペプチドに続いて,コアペプチドがKex2ペプチダーゼ認識配列で高度に繰り返している.さらにそれだけではなく,C末側に,環化因子であるBURPドメインと呼ばれるモチーフを有するタンパク質が融合している(図6図6■植物由来RiPPsの例とlyciumin前駆体タンパク質左下).この前駆体融合タンパク質をタバコの葉に異種発現させたところlyciuminsが産生されたことから,本化合物がRiPPsでありBURPドメインタンパク質がその環化因子であることが示された.さらにlyciumin生合成系の特徴に基づき植物のゲノムと代謝物を網羅的に探索し,候補遺伝子を大腸菌に異種発現することで,TyrまたはTrp芳香環とのC-C結合,C-O結合,あるいはN-C結合を介したシクロファン構造を持つ多数のRiPPsが報告されている(図6図6■植物由来RiPPsの例とlyciumin前駆体タンパク質右)(28)28) D. N. Chigumba, L. S. Mydy, F. de Waal, W. Li, K. Shafiq, J. W. Wotring, O. G. Mohamed, T. Mladenovic, A. Tripathi, J. Z. Sexton et al.: Nat. Chem. Biol., 18, 18 (2022).

図6■植物由来RiPPsの例とlyciumin前駆体タンパク質

配列中,下線は小胞体へのシグナルペプチド,太字はコアペプチド,斜体はKex2認識配列,点線下線はペプチド環化を担うBURPドメインタンパク質を示す.化合物構造中,シクロファン構造を円でマークしてある.

BURPドメインはCHX10CHX25-27CHX25-26CHモチーフを有するタンパク質で,その反応には銅(II)イオンが必要である.BURPドメインタンパク質による詳しい環化分子機構は明らかになっていないが,この植物RiPPsの前駆体ペプチド配列構造および環化因子モチーフは,dikaritin生合成系と極めて類似性が高い.植物RiPPsでは,C-O結合だけでなく,C-CおよびC-N結合を介したシクロファン構造を持つものがあるため,dikaritinsからもそのようなものが見出される可能性がある.

シクロファン型RiPPsの創薬への応用と展開

これまで見てきたように,近年新たなRiPPsが真核生物から次々と報告されており,中でもdikaritinsを始めとするside-chain型シクロファン生合成系は大きな展開を見せている.我々はdikaritin生合成系,特にUstYaファミリー因子を利用した環状ペプチドのデザイン・生合成系構築に取り組んでいるが,ここではdikaritins同様C-O結合シクロファン構造を持つ原核生物由来RiPP darobactin(47)47) Y. Imai, K. J. Meyer, A. Iinishi, Q. Favre-Godal, R. Green, S. Manuse, M. Caboni, M. Mori, S. Niles, M. Ghiglieri et al.: Nature, 576, 459 (2019).の例について紹介したい.

Darobactinは,線虫の腸内共生細菌Photorhabdus属から抗菌活性アッセイにより最近見出されたside-chain型RiPPである(47)47) Y. Imai, K. J. Meyer, A. Iinishi, Q. Favre-Godal, R. Green, S. Manuse, M. Caboni, M. Mori, S. Niles, M. Ghiglieri et al.: Nature, 576, 459 (2019)..コアペプチドWNWSKSFのうち,1番目Trp芳香環と3番目Trp β炭素の間のC-O結合,3番目Trp芳香環と5番目Lys β炭素の間のC-C結合を介して2箇所で環を巻く.Pseudomonas属細菌,Klebsiella属細菌,Salmonella属細菌,大腸菌など幅広いグラム陰性細菌に対して2~4 μg/mLの最小生育阻止濃度を示すが,ヒトの腸内共生細菌や細胞には毒性を示さない.マウスを用いた各種グラム陰性細菌感染実験においても,darobactinの投与により生存率の著しい改善が確認された.その作用標的は,細菌外膜タンパク質の折り畳みと膜内配位に寄与するBAM複合体の主要なユニットであるBamAである(47, 51)47) Y. Imai, K. J. Meyer, A. Iinishi, Q. Favre-Godal, R. Green, S. Manuse, M. Caboni, M. Mori, S. Niles, M. Ghiglieri et al.: Nature, 576, 459 (2019).51) H. Kaur, R. P. Jakob, J. K. Marzinek, R. Green, Y. Imai, J. R. Bolla, E. Agustoni, C. V. Robinson, P. J. Bond, K. Lewis et al.: Nature, 593, 125 (2021)..BamAには典型的な活性中心が存在しないが,darobactinは2つのシクロファン環化構造により強固なβシート様構造を形成することで,BamA主鎖に強固に貼りついてその活性を抑える.なお,環化構造を持たない直鎖状のdarobactinコアペプチドは抗菌活性を持たない.

Darobactinがside-chain型RiPPsであること,シクロファン環化構造により強固な構造を形成すること,そして標的タンパク質の主鎖を認識する作用機序は,シクロファン型RiPPsの創薬開発対象としての可能性を存分に表している.Dikaritinsだけでも800種類以上の豊富なコアペプチド遺伝子資源が存在するが,さらにin vitroでの各種生理活性ペプチド合成・スクリーニング技術(52)52) 後藤佑樹,井上澄香,菅裕 明:ファルマシア,55, 662 (2019).や膜透過性ペプチドとの融合(53)53) E. Böhmová, D. Machová, M. Pechar, R. Pola, K. Venclíková, O. Janoušková & T. Etrych: Physiol. Res., 67(Suppl 2), s267 (2018).などにより,極めて広い応用展開が可能になると期待される.

おわりに

天然化合物の一種であるRiPPsは,化合物骨格構造の情報が遺伝子に直接書き込まれており,また多様な修飾酵素を有するため,望みの化合物をデザイン・合成する系として適している.RiPPsは糸状菌・キノコ・植物に広く多様に保存されており,特にside-chain型シクロファン構造を持つものは創薬対象として広く適している可能性がある.生理活性を持つ天然化合物はバイオアッセイによって見出されることがほとんどだが,増え続けるRiPPsの遺伝子資源と進化を続けるin vitro/in silico化合物スクリーニング技術等を組み合わせることで,標的タンパク質に合わせた網羅的でありつつ合理的な生理活性物質のデザインが可能になるかもしれない.

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