書評

北本勝ひこ(著)『47都道府県・発酵文化百科』(丸善出版,2021年)

鈴木 チセ

日本大学生物資源科学部

Published: 2022-06-01

47都道府県・発酵文化百科
北本 勝ひこ 著
丸善出版,2021年6月
四六判,330頁,本体価格4,000円
ISBN 978-4-621-30630-7

コロナ禍の影響で発酵食品がブームと言われる.微生物の研究者としてそれは追い風としてありがたいことなのだが,「味噌中の麹菌を生きたまま摂取したい」とか「酵素を生きたまま摂取したい」的なネット記事を見るにつけ,科学的に正しい情報が必要だと痛感する.本書はそんな発酵ラブな一般の方々にも,仮にも農芸化学会会員なのだから発酵の正しい知識や蘊蓄を身につけたいと思っている方々にも,また微生物や発酵に興味のある高校生・大学生にもぜひお勧めしたい一冊である.

著者の東大名誉教授北本勝ひこ先生は国税庁醸造試験所から東京大学農学部に移られて麹菌研究を牽引してこられた.著書には「食と微生物の事典」「醸造の事典」など多数の専門書があるが,本書は一般書として47都道府県の発酵文化を網羅し,しかもコンパクトに読みやすく書かれている.第I部発酵文化の基礎知識 を通読するだけで,発酵食品や発酵にかかわる微生物,発酵の種類について正しく幅広い知識が得られる.恥ずかしながら,酵母Saccharomyces cerevisiaecerevisiaeの語源がラテン語の「ビール」だとは,スペイン語のビールcervezaを何度も連呼していたのに知らなかった.食品以外の発酵も紹介されており,ペニシリンから藍,漆,塩硝まで発酵の奥深さを痛感する.

第II部では,47都道府県ごとに,「地域の特色」「発酵の歴史と文化」「主な発酵食品」「発酵食品を使った郷土料理など」「特色のある発酵文化」「発酵にかかわる神社仏閣・祭り」「発酵関連の博物館・美術館」「発酵関連の研究をしている大学・研究所」の項目が記載されている.本書は読者対象を高校生以上としており,微生物や発酵に興味のある高校生が進路を考える上でも役立つように配慮されている.全体を通読してもとても興味深いし,住んでいるところや出身地など興味のある都道府県だけ拾い読みしても楽しい.自分が知っている発酵食品が出て来ればうれしいし,知らないものは食べてみたくなる.どこか旅行に行くときは,行き先の都道府県について一読して,あるいは本書を携えて出かけると良いかもしれない.その地域の発酵文化について予備知識が増え,知らなければ見逃す特徴ある発酵食品・飲料が賞味できるかもしれないし,時間があれば博物館や美術館にも立ち寄る参考にもなる.

本文以外にも多数の発酵に関するコラムが挿入されているが,これは日本国内に留まらず世界各地に飛び,時間も過去から現在まで多岐に渡って楽しい読み物となっている.京都府の最後には「菌塚」のコラムがある.最近,「菌」とは何を指すか,という話題があり,真菌系の方は真菌だというが(菌学会は真菌が対象),バクテリアも細「菌」なのだから微生物を指すと私は思っている.その根拠として「菌塚」を調べたら,収められている遺灰は「枯草菌」とのこと.菌塚に書かれている「人類生存に大きく貢献し 犠牲となれる 無数億の菌」は真核微生物も細菌もアーキアも含むちいさき命,と広い心で捉えたい.まだ菌塚に参拝したことはないので,いつか行ってみたいものだ.