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様々な脊椎動物における味覚受容体と食性の関連魚類から鳥類,霊長類における食の進化戦略

Yasuka Toda

戸田 安香

明治大学農学部農芸化学科食品機能化学研究室

Yoshiro Ishimaru

石丸 喜朗

明治大学農学部農芸化学科食品機能化学研究室

Published: 2022-08-01

味覚は,何を食べるかを決定する上で重要な役割を果たしている.口腔内には,甘味・旨味・苦味・酸味・塩味の五基本味にそれぞれ対応した味センサー(味覚受容体)が存在する.近年,味覚受容体のレパートリーや機能が動物の食性と深く関わることが分かってきた.例えば,肉食恐竜を祖先とする鳥類は,甘味を感じるセンサー(甘味受容体,T1R2/T1R3)を失っている.一方,筆者らは,花の蜜を主食とするハチドリでは,ヒトが昆布だしや鰹だしの旨味を感じるセンサー(旨味受容体,T1R1/T1R3)の機能が変化し,糖を感知する能力を獲得していることを明らかにした(図1(A)図1■味覚受容体の機能の動物種差(1, 2)1) M. W. Baldwin, Y. Toda, T. Nakagita, M. J. O’Connell, K. C. Klasing, T. Misaka, S. V. Edwards & S. D. Liberles: Science, 345, 929 (2014).2) G. Cockburn, M. C. Ko, K. R. Sadanandan, E. T. Miller, T. Nakagita, A. Monte, S. Cho, E. Roura, Y. Toda & M. W. Baldwin: Mol. Biol. Evol., 39, msab367 (2022)..しかし,ハチドリは近縁種のアマツバメと分岐した後に糖受容能を獲得したため,ハチドリ以外の鳥類が花蜜の味をどう検出しているかは不明であった.

図1■味覚受容体の機能の動物種差

(A)ニワトリ(穀物食)の旨味受容体はアミノ酸に応答する.一方,花の蜜を食糧源として多く利用する鳥類(ヒヨドリ,ハチドリなど)の旨味受容体は糖に強く応答する.(B)昆虫を主要タンパク質供給源とする小型霊長類(マーモセット,リスザルなど)の旨味受容体は,昆虫に豊富に含まれるヌクレオチドに強く応答する.一方,ヒトの祖先を含む大型霊長類の旨味受容体は,葉に豊富に含まれるグルタミン酸に対する感度が向上した.(C)筆者らの研究により,コイの苦味受容体(ccT2R200-1)に対する天然リガンドが新たに同定された.ゼブラフィッシュにおけるオルソログの苦味受容体では,ピクロトキシンに対する応答は検出されなかった(Behrens et al., 2021)(9)9) M. Behrens, A. Di Pizio, U. Redel, W. Meyerhof & S. I. Korsching: Genome Biol. Evol., 13, evaa264 (2021).

そこで,筆者らは,鳥類最大の種数を誇るスズメ目を対象に研究を行った(3)3) Y. Toda, M. C. Ko, Q. Liang, E. T. Miller, A. Rico-Guevara, T. Nakagita, A. Sakakibara, K. Uemura, T. Sackton, T. Hayakawa et al.: Science, 373, 226 (2021)..その結果,スズメ亜目(鳴禽類)に属する鳥類では,花蜜以外を主食とする鳥類も食糧源として花蜜を多く利用していることが分かった.また,旨味受容体の機能を解析したところ,スズメ亜目では花蜜食の鳥類に加え,メジロ(雑食),ヒヨドリ(果実食),カナリア(穀物食)など多様な食性の鳥類の旨味受容体が糖に応答した(図1(A)図1■味覚受容体の機能の動物種差).さらに,祖先型の旨味受容体を復元し,機能を調べた結果,スズメ亜目鳥類の祖先が,ハチドリとは異なる分子機構で糖受容能を獲得したことが明らかになった.以上の結果から,祖先に生じた旨味受容体の遺伝子変異によって,長距離移動(渡り)時や主食が不足する季節に重要な食糧源として花蜜を利用するようになり,スズメ亜目が鳥類最大のグループへと繁栄するのに貢献したことが示唆された.

旨味は,栄養となるアミノ酸(タンパク質)が食物中にあることを知る手がかりとなる.私たちヒトの旨味受容体は,アミノ酸の一種であるグルタミン酸に強く応答する特徴をもつ.一方,霊長類を用いた行動実験から,グルタミン酸の味を好ましく感じる霊長類とそう感じない霊長類がいることが示された(4)4) M. Laska & L. T. Hernandez Salazar: J. Exp. Zoolog. A Comp. Exp. Biol., 301A, 898 (2004)..旨味受容体が霊長類の進化の過程でいつ,どのような理由でグルタミン酸に強く応答するようになったのかは不明であった.

筆者らは,ヒトを含む17種の霊長類を対象に解析を行い,アミノ酸センサーだと考えられていた旨味受容体が,霊長類の祖先ではイノシン酸やアデニル酸などのヌクレオチドを感度良く検出するセンサーとして機能していたことを見出した(5)5) Y. Toda, T. Hayakawa, A. Itoigawa, Y. Kurihara, T. Nakagita, M. Hayashi, R. Ashino, A. D. Melin, Y. Ishimaru, S. Kawamura et al.: Curr. Biol., 31, 4641 (2021)..霊長類が実際に採食する昆虫の成分を分析したところ,アデニル酸を始めとした遊離ヌクレオチドを豊富に含むことが分かった.つまり,ネズミくらいの大きさで昆虫を主食としていた霊長類の祖先においては,ヌクレオチドセンサー型の旨味受容体が,昆虫のおいしさ検出に役立っていたと考えられる(図1(B)図1■味覚受容体の機能の動物種差).

現在地球上には約500種類の霊長類がいる.そのうち,ヒトの祖先を含む,体が大きくなった一部の霊長類の旨味受容体は,葉に豊富に含まれるグルタミン酸に強く応答するよう進化したことが分かった(図1(B)図1■味覚受容体の機能の動物種差).これらの体が大きくなった霊長類は,昆虫では補え切れないタンパク質の量を確保するために,葉をたくさん食べるようになったと考えられている.本来,葉は苦くておいしくないはずだが,私たちの祖先が旨味受容体をヌクレオチドセンサーからグルタミン酸センサーへと変化させたことで,新たなタンパク質供給源として,葉をおいしく利用できるようになったと考えられる.

苦味は,自然界にしばしば存在する有害な化合物を避けるために重要な感覚である.多様な化学構造を持つ苦味物質は,T2Rファミリーによって検知される.T2Rファミリーをコードする遺伝子の数は,脊椎動物種ごとに様々である.餌を丸飲みするペンギンやクジラでは0~1種類,ニワトリやシチメンチョウでは2~3種類,ゼブラフィッシュなどの真骨魚では数種類,ヒトでは26種類,シーラカンスや洞窟魚,両生類のアホロートルでは数十種類存在する(6)6) S. P. Wooding, V. A. Ramirez & M. Behrens: Evol. Med. Public Health, 9, 431 (2021)..食性との関係については,一般に多数の苦味受容体を持つ動物ほど苦味感受性が高いと考えられている.しかし,1種類の苦味受容体が多くの化合物に応答する場合もあるため,ある動物種がどの程度幅広く苦味物質を感知できるかは苦味受容体の数だけでは決まらない.実際,ニワトリやシチメンチョウのT2Rは幅広いリガンド応答特性を持つことが報告されている(7)7) M. Behrens, S. I. Korsching & W. Meyerhof: Mol. Biol. Evol., 31, 3216 (2014).

筆者らは以前,オルソログ関係にあるゼブラフィッシュとメダカのT2Rが,人工の苦味物質デナトニウムに応答することを示した(8)8) H. Oike, T. Nagai, A. Furuyama, S. Okada, Y. Aihara, Y. Ishimaru, T. Marui, I. Matsumoto, T. Misaka & K. Abe: J. Neurosci., 27, 5584 (2007)..しかし,水棲動物である魚類T2Rの天然リガンドは長い間,不明であった.最近,2種類のシーラカンスT2Rと4種類のゼブラフィッシュT2Rの天然物を含むリガンド特性が示された(9)9) M. Behrens, A. Di Pizio, U. Redel, W. Meyerhof & S. I. Korsching: Genome Biol. Evol., 13, evaa264 (2021)..両種は4億年以上前に分岐したが,オルソログ関係にあるT2Rのリガンド特性は一致していた.

筆者らは,ゼブラフィッシュと同じコイ科で雑食性のコイに注目した.コイはゼブラフィッシュから5000万~1億2800万年前に分岐した後,さらに1回全ゲノム重複を経験したが,ゼブラフィッシュとほぼ同数(7種類程度)のT2Rを持つ(9)9) M. Behrens, A. Di Pizio, U. Redel, W. Meyerhof & S. I. Korsching: Genome Biol. Evol., 13, evaa264 (2021)..コイ苦味受容体の機能を解析したところ,特定の化合物にのみ応答する受容体から幅広い化合物に応答する受容体までが存在した.しかし,いずれの受容体も,既報のゼブラフィッシュのオルソログとは異なるリガンド特性を示した(10)10) T. Shimizu, T. Kubozono, R. Asaoka, Y. Toda & Y. Ishimaru: Biochem. Biophys. Rep., 28, 101123 (2021)..特に,魚毒として知られる果実(fishberry)に含まれる天然有毒物質ピクロトキシンに濃度依存的に応答するコイのT2Rを,魚類として初めて同定した(図1(C)図1■味覚受容体の機能の動物種差).

味覚受容体の遺伝子配列解析と培養細胞系を用いた機能解析を組み合わせることで,味覚受容体のリガンドの動物種差が明らかになってきた.味覚受容体のリガンド選択性は各々の動物の生態や食性に応じて柔軟に変化してきたようだ.近年では味覚受容体の口腔内以外でのはたらきにも注目が集まっており,今後より多くの動物の味覚受容体の機能を解明していくことで,味覚受容体を介した化学受容シグナルの未知なる役割を明らかにできると期待される.

Reference

1) M. W. Baldwin, Y. Toda, T. Nakagita, M. J. O’Connell, K. C. Klasing, T. Misaka, S. V. Edwards & S. D. Liberles: Science, 345, 929 (2014).

2) G. Cockburn, M. C. Ko, K. R. Sadanandan, E. T. Miller, T. Nakagita, A. Monte, S. Cho, E. Roura, Y. Toda & M. W. Baldwin: Mol. Biol. Evol., 39, msab367 (2022).

3) Y. Toda, M. C. Ko, Q. Liang, E. T. Miller, A. Rico-Guevara, T. Nakagita, A. Sakakibara, K. Uemura, T. Sackton, T. Hayakawa et al.: Science, 373, 226 (2021).

4) M. Laska & L. T. Hernandez Salazar: J. Exp. Zoolog. A Comp. Exp. Biol., 301A, 898 (2004).

5) Y. Toda, T. Hayakawa, A. Itoigawa, Y. Kurihara, T. Nakagita, M. Hayashi, R. Ashino, A. D. Melin, Y. Ishimaru, S. Kawamura et al.: Curr. Biol., 31, 4641 (2021).

6) S. P. Wooding, V. A. Ramirez & M. Behrens: Evol. Med. Public Health, 9, 431 (2021).

7) M. Behrens, S. I. Korsching & W. Meyerhof: Mol. Biol. Evol., 31, 3216 (2014).

8) H. Oike, T. Nagai, A. Furuyama, S. Okada, Y. Aihara, Y. Ishimaru, T. Marui, I. Matsumoto, T. Misaka & K. Abe: J. Neurosci., 27, 5584 (2007).

9) M. Behrens, A. Di Pizio, U. Redel, W. Meyerhof & S. I. Korsching: Genome Biol. Evol., 13, evaa264 (2021).

10) T. Shimizu, T. Kubozono, R. Asaoka, Y. Toda & Y. Ishimaru: Biochem. Biophys. Rep., 28, 101123 (2021).