解説

真核細胞における核のサイズ制御の仕組み細胞のサイズを感知して核のサイズを制御するメカニズムとは?

Nuclear Size Control in Eukaryotic Cells: What is the Mechanism That Senses Cell Size and Controls Nuclear Size?

Kazunori Kume

久米 一規

広島大学大学院統合生命科学研究科,広島大学健康長寿学研究拠点

Published: 2022-08-01

真核生物において核と細胞のサイズ比は一定に維持される.これは,1世紀以上も前から報告されている細胞現象であるが,それを実現するメカニズムには不明な点が多く,生物学における大きな謎である.本稿では,謎に包まれた核サイズ制御メカニズムについて,これまでに明らかになった核サイズ制御に関わる分子や細胞内プロセスとそれらによる核サイズ制御の予想モデルを紹介する.

Key words: 膜型オルガネラ; 細胞核; サイズコントロール; 分裂酵母

はじめに

細胞という限られた空間の中で,膜型オルガネラの最適なサイズが,いかにして決定され,制御されているのかは生物学における大きな謎である.細胞核は,遺伝情報の担体であるゲノムDNAを収納して保護するうえで重要な膜型オルガネラであり,そのシンプルな形態と細胞内で単一に存在することから,膜型オルガネラの成長やサイズを研究するうえで有用なモデルである.1世紀以上も前に,ウニ胚を用いた研究から,核と細胞のサイズ比は一定であることが示された(1)1) R. Hertwig: Biol. Centralbl, 23, 49 (1903)..それ以降,酵母やテトラヒメナなどの単細胞生物から植物や動物などの多細胞生物にいたる多くの細胞タイプにおいても,核と細胞のサイズ比は一定であることが示されてきた(2~6)2) E. G. Conklin: J. Exp. Zool., 12, 1 (1912).3) L. J. Edens, K. H. White, P. Jevtic, X. Li & D. L. Levy: Trends Cell Biol., 23, 151 (2013).4) T. Gregory: “Genome size evolution in animals.,” ed. by T. Gregory, Elsavier Academic Press, London, 4, 2005.5) P. Jorgensen, N. P. Edgington, B. L. Schneider, I. Rupes, M. Tyers & B. Futcher: Mol. Biol. Cell, 18, 3523 (2007).6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007).

核と細胞のサイズ比を一定に維持するためには,細胞が自身の細胞サイズと核サイズを認識したうえで,核と細胞のそれぞれのサイズを連動させて制御しなければならない.このことから,核と細胞のサイズ比の維持は,複雑な制御プロセスであるといえる.このプロセスを可能にする分子メカニズムには不明な点が多いが,最近の研究から核サイズ制御に関わる遺伝子産物が複数同定された.そして,その解析から核サイズ制御に関わる細胞内プロセスが明らかになってきた.本稿では,これらの細胞内プロセスによる核サイズ制御のモデルを紹介する.

Nucleoskeletal theory(核骨格理論)

核サイズや細胞サイズは細胞の倍数性と相関があることから,核サイズを決定する理論として,Nucleoskeletal theoryが提唱されている(4, 7)4) T. Gregory: “Genome size evolution in animals.,” ed. by T. Gregory, Elsavier Academic Press, London, 4, 2005.7) T. Cavalier-Smith: Annu. Rev. Biophys. Bioeng., 11, 273 (1982)..このモデルでは,DNA含量が核サイズの決定因子である.つまりは,核内で折りたたまれたDNAの圧縮具合が核サイズを決定するというモデルである.このモデルでは,核膜の内側で核構造を支える核ラミナが重要な役割を担う.核ラミナは適切におりたたまれたDNAと結合し,結合した核ラミナが核膜となるリン脂質をリクルートすることで核サイズを規定するという理論である.しかし,このモデルでは,同一生物種において異なる細胞種(ゲノムDNA量は同じ)の間でみられる細胞サイズや核サイズの違いを説明することはできない.では何が核サイズを決定しているのか?

DNA含量ではなく細胞サイズが核サイズを決定する

核サイズは,DNA含量ではなく,細胞サイズもしくは細胞サイズ関連因子により決定されることを示唆するエビデンスが複数の生物で示されてきた.例えば,分裂酵母を用いた研究から,異なる細胞サイズにおける核サイズを調べたところ,核の体積が細胞の体積と高い相関を示すことがわかった(6)6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007)..分裂酵母では,遺伝子変異の導入や栄養源の変化により細胞の体積を約35倍の範囲で変化させられる.このサイズスケールで細胞サイズを変化させても,核の体積は細胞の体積と連動して変化すること,そして,核と細胞の体積比(以下N/C ratio: a ratio between nuclear and cellular volumes)が0.08で維持されることが示された(6)6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007).図1図1■分裂酵母の核サイズと細胞サイズの関係).さらに細胞周期のS期において,ゲノムDNAが複製されてDNA含量が2倍に増加してもN/C ratioの急激な増加はみられず,N/C ratio=0.08は細胞周期を通して一定に維持されることが示された(6)6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007)..また,細胞周期における細胞の成長と連動した核の成長はヒト子宮頸がん由来HeLa細胞でも観察されている(8)8) K. Maeshima, H. Iino, S. Hihara & N. Imamoto: Nucleus, 2, 113 (2011)..これらの結果は,DNA含量が核の体積の直接の決定因子ではないことを示唆している.さらに分裂酵母の細胞において,遺伝子操作によりDNA含量を16倍にまで増加させた細胞でさえも,N/C ratioはコントロールの細胞とほぼ同じ値を示したことから,DNA含量とは異なる因子が核サイズを決定していることが示唆された(6)6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007).

図1■分裂酵母の核サイズと細胞サイズの関係

核サイズがDNA含量ではなく細胞サイズに依存するというさらなるエビデンスは核の移植実験により示されている(9)9) H. Harris: J. Cell Sci., 2, 23 (1967)..赤血球の核を細胞サイズの大きいHeLa細胞に移植すると赤血球の核は肥大化する.また,HeLa細胞の核を細胞サイズの大きいカエルの卵母細胞に移植しても核の肥大化が観察される(10)10) J. B. Gurdon: J. Embryol. Exp. Morphol., 36, 523 (1976)..移植実験の結果に加えて,マウス肝細胞の細胞増殖を促進すると,細胞サイズと核サイズが同時に増加することや(11)11) S. Kim, Q. Li, C. V. Dang & L. A. Lee: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 11198 (2000).,線虫の胚発生における卵割の際に,細胞サイズの減少に応じた核サイズの変化が観察されている(12)12) Y. Hara & A. Kiumra: Curr. Biol., 19, 1549 (2009)..これらの結果から,DNA含量は一定であるものの核サイズは細胞サイズの変化に応答していることがわかる.このことからも,DNA含量や倍数性の変化は核サイズの直接の決定因子ではないことがうかがえる.では,なぜ倍数性の高い細胞は核サイズが大きいのか? そのもっともらしい説明は,倍数性の高い細胞は大きな細胞サイズをもち,そして大きな細胞ほど大きな核をもつから,である.

細胞質の因子が核の体積に影響を及ぼす

いかにして細胞サイズは核サイズを決定しているのか? この問いの答えにつながる結果は,生細胞を用いた研究および細胞抽出液から核を再構築する実験系を用いた研究により示されている.細胞分裂のできない分裂酵母の遺伝子変異体細胞でみられる多核の細胞において,それぞれの核の大きさは,核周辺の細胞質の空間と連動していることが示されている(6)6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007)..つまり,狭い細胞質の空間に存在する複数の核は,大きな細胞質の空間で存在する単一の核と比べると,核の成長速度は遅く,小さな核サイズになる.同様の結果が核の移植実験でも確認されている(10)10) J. B. Gurdon: J. Embryol. Exp. Morphol., 36, 523 (1976)..カエルの卵母細胞に移植された核は,移植後の細胞内の場所によってサイズが異なることが示されている.細胞の中央部分で密集した核は核周辺の空間が狭くなり,細胞質の端で核周辺の空間が広い核に比べて,核の成長速度が遅くなる.これらの実験結果は,細胞質に存在する因子が核サイズに影響を及ぼすことを示唆している.

また,サイズの異なる2種類のカエル(4倍体で細胞サイズの大きいXenopus laevisと2倍体で細胞サイズの小さいXenopus tropicalis)の卵抽出液を用いた核の再構築実験から興味深い結果が示されている(13)13) D. L. Levy & R. Heald: Cell, 143, 288 (2010)..すなわち,再構築された核のサイズは,それぞれの種がもつゲノムDNAではなく,細胞質の抽出液に依存していたのである.これは,先述した細胞質で分散する因子が核サイズを決定するという仮説をサポートする結果である.また同実験系において,緑色蛍光タンパク質(GFP: Green Fluorescent Protein)に核内輸送シグナル(NLS: nuclear localization signal)を連結したタンパク質を用いて,2種類の卵抽出液から形成されたサイズの異なる核におけるGFP-NLSの核内集積速度を比較すると,X. laevisの卵抽出液から形成された大きいサイズの核の方が,X. tropicalisの卵抽出液から形成された核よりも速くGFP-NLSが核内に集積した.このことから,核と細胞質間の物質輸送が核の再構築系における核サイズの違いを生む要因であることが示唆された.さらに最近の研究から,カエルの卵母細胞やヒトの細胞において,核内輸送に重要なタンパク質であるインポーチンαが細胞の表面積と体積の比を感知するセンサータンパク質として機能することが示され,この機能が細胞サイズと連動して形成されるスピンドル微小管(染色体の分配装置)や核のサイズを制御するというモデルが提唱された(14)14) C. Brownlee & R. Heald: Cell, 176, 805 (2019)..以上のことから,核と細胞質間の物質輸送が核のサイズ制御に重要な役割を担っていることが考えられる.

分裂酵母を用いた核サイズ制御遺伝子のゲノムワイドスクリーニング

分裂酵母は生細胞での核サイズを研究するうえで扱いやすいモデル生物である.その理由としては,分裂酵母の細胞形態は円筒形であること,核はシンプルな球形かつ単一コピーで存在することから,それぞれの体積計算が容易であることがあげられる.さらに,分裂酵母は遺伝学的操作が容易であることに加え,分裂酵母のORF(open reading frame)の99%を網羅した遺伝子破壊株コレクションが利用可能であることから,ゲノムワイドな遺伝子スクリーニングに適している.われわれは分裂酵母を用いてN/C ratioが異常になる変異体のスクリーニングを世界に先駆けて実施し,核サイズ制御に関わるさまざまな因子や細胞内プロセスを明らかした(15, 16)15) K. Kume, H. Cantwell, F. R. Newmann, A. W. Jones, A. P. Snijders & P. Nurse: PLoS Genet., 13, e1006767 (2017).16) H. Cantwell & P. Nurse: PLoS Genet., 15, e1007929 (2019)..すなわち,遺伝子を破壊しても生育可能である非必須遺伝子破壊株と遺伝子を破壊して生育できない必須遺伝子破壊株をそれぞれ用いたスクリーニングから,N/C ratioが異常になる変異体を同定した.これらのゲノムワイドなスクリーニングから,核サイズ制御には,核と細胞質間の物質輸送,LINC(The linker of nucleoskeleton and cytoskeleton)複合体,膜成長が関わることがわかってきた.次項から各プロセスと核サイズ制御との関連性について詳しく紹介する.

核と細胞質間の物質輸送と核サイズ制御

核と細胞質間の物質輸送の破綻は,核外輸送に重要なエクスポーチンを阻害するレプトマイシンB(LMB)処理により引き起こすことができる(17)17) N. Kudo, N. Matsumori, H. Taoka, D. Fujiwara, E. P. Schreiner, B. Wolff, M. Yoshida & S. Horinouchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 9112 (1999)..LMB処理は,分裂酵母およびヒトの細胞において核サイズを増加させる(6, 18)6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007).18) A. Ganguly, C. Bhattacharjee, M. Bhave, V. Kailaje, B. K. Jain, I. Sengupta, A. Rangarajan & D. Bhattacharyya: FEBS Lett., 590, 631 (2016)..われわれは,分裂酵母の非必須遺伝子破壊株を用いたN/C ratio異常変異体のスクリーニングから,mRNAの核外輸送を担う複合体を構成する5つの因子のうち2つの構成因子(Dss1-Mlo3)の遺伝子欠損株を,N/C ratioを増加させる変異体として選抜した(15)15) K. Kume, H. Cantwell, F. R. Newmann, A. W. Jones, A. P. Snijders & P. Nurse: PLoS Genet., 13, e1006767 (2017)..さらに,mRNAと結合したDss1-Mlo3の核外輸送に必要な3つ目の構成因子であるRae1は必須遺伝子であり,その温度感受性変異株のrae1-167は,25°Cにおいて正常細胞と同じN/C ratioを示すのに対し,36°Cの制限温度で培養すると核が肥大化してN/C ratioが上昇した.rae1-167変異体の肥大化した核の内部では,mRNAに加えてタンパク質の核内蓄積がみられた.薬剤処理により,転写や翻訳を阻害するとmRNAやタンパク質の核内蓄積が解消され,N/C ratioの上昇が抑えられたことから,核内蓄積したmRNAやタンパク質が核肥大化の原因であることが示唆された.さらに,rae1-167変異体において,タンパク質の核内輸送に重要なインポーチンαの遺伝子を欠損させると,mRNAは核内に蓄積したままで,タンパク質の核内蓄積が解消され,N/C ratioの上昇が大幅に抑えられた.このことから,核内蓄積したタンパク質が核サイズに影響を及ぼす因子であることが示唆された.では,どの種類のタンパク質が核サイズに影響をおよぼすのだろうか? われわれは野生株とrae1-167変異体から核を単離して,核内に蓄積するタンパク質を質量分析により調べた.その結果,rae1-167変異体の肥大化した核の中には,500以上の異なるタンパク質が蓄積しており,それらのほとんどは,正常細胞において核内に局在するものや核と細胞質間をシャトルするものが豊富に含まれていた.これらの結果から,核と細胞質間の物質輸送の破綻により核内蓄積した多種多様なタンパク質が核サイズの増加を引き起こすことが示唆された.しかしながら,特定のタンパク質が核サイズ増加に関与する可能性も考えられるため,その点について今後の検証により明らかにする必要がある.

核と細胞質間の物質輸送の破綻がN/C ratioや核サイズに影響を及ぼすことが分裂酵母だけでなくさまざまな細胞システムにおいて観察されており,そのメカニズムには,核膜構造に特異的な因子や核ラミナの構成タンパク質であるラミンの核内輸送が関わることが示されている.カエルの卵抽出液を用いた核の再構築実験において核膜孔複合体の構成因子であるNup188の遺伝子欠損は,膜タンパク質の核膜孔を介した輸送を増加させ,核サイズの増加を引き起こす(19)19) G. Theerthagiri, N. Eisenhardt, H. Schwarz & W. Antonin: J. Cell Biol., 189, 1129 (2010)..また,先述した異なる2種類のカエルの卵抽出液を用いた研究から,核内輸送因子であるインポーチンαファミリーのImpα2と,核と細胞質間の物質輸送において重要なRanのレセプターであるNtf2が,ラミンB3の核内輸送を制御することにより,再構築した核のサイズ決定に関わることが示されている(13)13) D. L. Levy & R. Heald: Cell, 143, 288 (2010)..その後の解析から,Ntf2による核サイズへの影響は,Ntf2とRanとの相互作用が重要であることが示された(20)20) L. D. Vukovic, P. Jevtic, Z. Zhang, B. A. Stohr & D. L. Levy: J. Cell Sci., 129, 1115 (2016)..さらに,ラミンB3を含む核内に存在するその他のラミンについて,カエルの卵抽出液由来の核再構築系やヒト細胞の核サイズに影響を及ぼすのは,特定のラミンではなく,核内に存在する全てのラミンの量であることが示されている.カエルの卵抽出液を用いた核の再構築実験において,ラミンの量を減少させると核サイズは大きくなり,ラミンの量を増加させると核サイズは小さくなる(21)21) P. Jevtic, L. J. Edens, X. Li, T. Nguyen, P. Chen & D. L. Levy: J. Biol. Chem., 290, 27557 (2015)..また,Classical Protein Kinase C(cPKC)によるラミンB3のリン酸化は,核サイズの減少(収縮)をもたらす.これらの結果から,核内のラミンの濃度やリン酸化状態を制御することにより,細胞は核の肥大化と収縮のバランスをとることで核サイズの恒常性を維持している,という核サイズ制御のモデルが示唆されている(22)22) L. J. Edens, M. R. Dilsaver & D. L. Levy: Mol. Biol. Cell, 28, 1389 (2017)..しかしながら,ラミンの存在しない酵母や植物においても核サイズの恒常性が維持されていることから,ラミンに依存しない普遍的な核サイズ制御メカニズムの存在が示唆されている.

LINC(linker of nucleoskeleton and cytoskeleton)複合体と核サイズ制御

LINC複合体は,進化上保存されたタンパク質複合体であり,核膜に局在して核内のクロマチンと細胞骨格とを橋渡しする働きをもつ.分裂酵母では,C末端に進化上保存された30以下のアミノ酸からなるKASHドメインをもつ核外膜タンパク質であるKms2と核内腔にてKASHタンパク質と相互作用するSUNドメインを持つ核内膜タンパク質であるSad1がLINC複合体の核膜での橋渡しの役割を担う(23)23) M. C. King, T. G. Drivas & G. Blobel: Cell, 134, 427 (2008)..Kms2やSad1の遺伝子欠損株は,N/C ratio異常変異体として同定され,これらの欠損株は両株とも核が肥大化していたことから,LINC複合体によるクロマチンと細胞骨格の連結がN/C ratioの制御に重要であることが示唆された(16)16) H. Cantwell & P. Nurse: PLoS Genet., 15, e1007929 (2019)..LINC複合体は,核膜上で生じる力を緩衝することで核の形を正常に維持することが示唆されていることから(23)23) M. C. King, T. G. Drivas & G. Blobel: Cell, 134, 427 (2008).,LINC複合体が核の膨張(肥大化)を抑えることにより,核サイズを正常に維持できていると考えられる.このモデルをサポートする結果が,複数のKASHドメインタンパク質を持つヒト細胞を用いた研究で示されている(24)24) W. Lu, M. Schneider, S. Neumann, V. M. Jaeger, S. Taranum, M. Munck, S. Cartwright, C. Richardson, J. Catrhew, K. Noh et al.: Cell. Mol. Life Sci., 69, 3493 (2012)..C末端に膜貫通のKASHドメインを持つネスピリンと呼ばれるタンパク質はN末端にアクチン結合ドメイン(ABD)を持ち,核膜の細胞質側において,アクチンと結合してフィラメント状のネットワークを形成していると考えられている.ヒト表皮角化(HaCaT)細胞において,ネスピリン間のネットワークが寸断されると核サイズが増加する.一方,ネットワークを強化すると核サイズが減少する.これらの結果から,KASHドメインを持つタンパク質により形成される相互作用ネットワークが,これらの細胞種における核サイズ制御に重要であると示唆されている.

核膜拡張と核サイズ制御

核の成長には核膜の拡張が必要である.出芽酵母や分裂酵母は,分裂期において核膜崩壊がおこらず核膜を維持したままで染色体を含む核を娘細胞へと均等に分配する(この分裂様式をclosed mitosisとよぶ).その際,核の表面積(核膜)を成長させることにより,均等な分配を可能にしている.分裂期における核膜成長のメカニズムとしては,ホスファチジン酸(PA)をジアシルグリセロール(DAG)に変換するホスファチジン酸ホスファターゼであるLipinが分裂期突入時にリン酸化されることによる不活性化が知られている(25)25) M. Makarova, Y. Gu, J. S. Chen, J. R. Beckley, K. L. Gould & S. Oliferenko: Curr. Biol., 26, 237 (2016).図2図2■脂質代謝と核サイズ制御).Lipinの不活性化は,PAの貯蔵脂質への変換率を低下させ,核膜や小胞体(ER: endoplasmic reticulum)膜の成長に必要なリン脂質の合成を促す.Lipinをリン酸化するプロテインキナーゼは複数存在することが報告されており,特に分裂期突入時のリン酸化はサイクリン依存性キナーゼ(CDK)が担う.一方,Lipinは脱リン酸化されることにより活性化する.Lipinの脱リン酸化を担うプロテインホスファターゼはNem1-Spo7複合体である.Lipinの欠損やLipinの活性化因子であるNem1-Spo7を欠損させるとER膜が定常的に拡張する(25)25) M. Makarova, Y. Gu, J. S. Chen, J. R. Beckley, K. L. Gould & S. Oliferenko: Curr. Biol., 26, 237 (2016)..ER膜は核外膜とつながっていることから,拡張したER膜から核膜へと膜の異常な流入がおこり,核の表面積が顕著に増加して核の異常形態を引き起こす.分裂酵母のNem1およびSpo7の遺伝子欠損は,N/C ratioが増加する変異体として選抜され,核の異常形態に加え,核の肥大化を引き起こす(15)15) K. Kume, H. Cantwell, F. R. Newmann, A. W. Jones, A. P. Snijders & P. Nurse: PLoS Genet., 13, e1006767 (2017).図2図2■脂質代謝と核サイズ制御).Nem1欠損およびSpo7欠損による核形態とN/C ratioの異常は,膜の合成を阻害することで抑圧されたことから,Lipinの制御を介した膜合成の適切な制御が核サイズ制御に重要であることが示唆された.

図2■脂質代謝と核サイズ制御

ER膜は,脂質二重膜からなるシート構造とチューブ構造により形成されており,核の外膜と核内腔は直接ERと連結している.核膜の拡張制御には,ER膜のシート構造をチューブ構造へと変換するレティキュロンタンパク質が関わることが報告されている.実際,ヒト骨肉腫(U2OS)細胞において,レティキュロンタンパク質であるRtn4を過剰発現すると,チューブ構造が増加することにより,核膜の拡張を制限することができる.しかし,ERに局在するRtn4の遺伝子欠損だけでは,核膜の拡張を促進することはできない(26)26) D. J. Anderson & M. W. Hetzer: J. Cell Biol., 182, 911 (2008).ことから,核膜とER膜の間で膜の流入を制御する因子の存在が予想される.

ERを含む核以外の膜型オルガネラと核膜の間の膜の流入および流出は,核サイズに影響を及ぼすと考えられる.われわれは核膜タンパク質に注目した解析から,進化上高度に保存された核膜タンパク質であるLem2が,核膜への膜の流入および流出の際のバリアとして機能することを明らかにした(27)27) K. Kume, H. Cantwell, A. Burrell & P. Nurse: Nat. Commun., 10, 1871 (2019)..Lem2の遺伝子が欠損した分裂酵母細胞の核は,核サイズの摂動による影響を受けやすくなる(図3図3■バリアタンパク質の機能欠損による核サイズへの影響).実際に,LMB処理によりLem2欠損細胞での核外輸送を阻害すると,野生株細胞よりも核の肥大化が大幅に進み,N/C ratioが顕著に上昇する.このことは,バリアタンパク質であるLem2の欠損により,核への膜流入が促進したことを示している.一方,Lem2欠損細胞において,膜の合成を阻害すると,核から膜が流出して,核の急激な収縮がおこる.Lem2欠損細胞でみられる膜の流出による核収縮は野生株細胞ではおこらないことから,野生株細胞ではLem2が核から膜の流出をブロックしていることが示唆される.さらにわれわれは,分裂酵母を用いた遺伝学的解析から,Lem2の機能欠損を相補する遺伝子として,ER膜タンパク質であるLnp1を同定した.すなわち,Lnp1がバリアタンパク質としてLem2と同じ機能を有することを示した(27)27) K. Kume, H. Cantwell, A. Burrell & P. Nurse: Nat. Commun., 10, 1871 (2019).図4図4■バリアタンパク質によるオルガネラ間の膜輸送の制御).バリアタンパク質による核サイズ制御の役割にせまるために,Lem2やLnp1を過剰発現することによる核サイズへの影響を調べた.その結果,Lem2やLnp1の過剰発現により,核膜の成長が抑えられ,細胞サイズと連動した核サイズの成長がみられずN/C ratioが減少した.このことから,バリアタンパク質はそれぞれが局在するオルガネラにおいて適切な量で存在することにより,核への膜の流入を制御していることが示唆された.これらの結果から,われわれは,バリアタンパク質の存在による核と核以外の膜型オルガネラ間の膜の流れの制御がN/C ratioを一定に維持するために必要な核サイズの恒常性維持メカニズムではないかと考えている.

図3■バリアタンパク質の機能欠損による核サイズへの影響

図4■バリアタンパク質によるオルガネラ間の膜輸送の制御

核サイズ制御は重要か?

出芽酵母と分裂酵母の進化上分岐した2種類の酵母において,N/C ratioが特定の値で維持される(5, 6)5) P. Jorgensen, N. P. Edgington, B. L. Schneider, I. Rupes, M. Tyers & B. Futcher: Mol. Biol. Cell, 18, 3523 (2007).6) F. R. Neumann & P. Nurse: J. Cell Biol., 179, 593 (2007).ことは,重要な意味をもつことが予想される.例えば,N/C ratioを一定に維持することにより,核内での転写と細胞質での翻訳をうまく連動させられると考えられる.実際,mRNAの数は細胞サイズと正の相関関係にあり,一定の濃度で維持されることが示されている(28)28) X. M. Sun, A. Bowman, M. Priestman, F. Bertaux, A. Martinez-Segura, W. Tang, C. Whilding, D. Dormann, V. Shahrezaei & S. Marguerat: Curr. Biol., 30, 1217 (2020)..また,N/C ratioの変化はカエルの胚発生やT細胞の活性化時において重要であることが示されている(29)29) P. Jevtic & D. L. Levy: Curr. Biol., 25, 45 (2015)..さらに,核サイズや核形態の異常は,細胞機能の異常と関連して観察されるケースが多く,老化細胞や癌細胞において核の肥大化が散見される(3)3) L. J. Edens, K. H. White, P. Jevtic, X. Li & D. L. Levy: Trends Cell Biol., 23, 151 (2013)..核の肥大化は癌の進行とともに深刻になることが知られており,核サイズはバイオマーカーとしても利用されている.これらのことは,細胞にとって適正な核サイズが細胞の生理状態の維持に重要であることを示している.しかし,核サイズの異常が癌や関連する疾患を引き起こす原因なのかそれとも結果なのかについては不明であることから,この点を明らかにするための詳細な解析が期待されている.同時に,核サイズ制御と核を含む細胞機能との関連性を明らかにすることは,核サイズ制御の生物学的意義を解明するうえで重要な課題といえる.これらの解明は,老化や癌などの疾患と関連する核サイズの異常を改善するための治療薬開発に資すると期待される.

おわりに

本稿において紹介した研究から,核サイズ制御に関わる分子や細胞内プロセスが明らかになってきた.その一方で,細胞サイズと連動した核サイズ制御のメカニズムについては不明な点が多いのが現状である.今後の課題としてあげられるのは,これらの分子やプロセスが細胞内でどのように調整・統合されて核サイズ制御を可能にしているのか,そのメカニズムを細胞スケールのグローバルなレベルで理解することである.これらのメカニズムにせまる洞察は,核サイズに摂動を与える方法を提供し,核サイズ異常がもたらす細胞への生理的効果や疾患病理学のための研究促進への貢献が期待できる.

Reference

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