セミナー室

植物の低カリウム耐性カリウムの少ない環境を生き抜く術

Sho Nishida

西田

佐賀大学農学部植物栄養学分野

鹿児島大学大学院連合農学研究科

広島大学大学院統合生命科学研究科

Published: 2022-09-01

はじめに

カリウムは生物全般において必須な元素であると考えられており,ヒトの必須ミネラルとしてもよく知られている.また,カリ(K2O)は肥料の三要素の一つとして知られ,農業現場においても馴染みがある.細胞内においてカリウムはイオン(K)として存在し,細胞内に存在する主要な陽イオンとして細胞の浸透圧を維持している.また植物においては,細胞の浸透圧を変化させ膨圧を調節することで,気孔の開閉やオジギソウのお辞儀運動に代表される膨圧運動を担っている.これに加え,酵素の補因子として生体内の化学反応においても重要な役割を果たしている.

植物におけるカリウムの要求量は窒素に次いで高いとされる.健全に生育する植物では乾燥重量あたり数%のカリウムが含まれており,細胞内のカリウム濃度は100~200 mMの範囲で維持されている.一方,土壌溶液に含まれるカリウムの濃度は数mMであり,植物の体内に含まれるカリウム濃度と比較すると随分と低い.この事実は,植物がカリウム濃度の低い土壌から,どうにかしてカリウムを吸収していることを示している.また,カリウムの濃度は土壌によってかなりの幅がある.施肥を行っている農地と比較すれば,自然界の土壌に含まれるカリウムの濃度は有意に低いであろうし,Kが固定されてしまう2 : 1型粘土鉱物(例えば実験室で多用されるバーミキュライト)が多く含まれる土壌では,植物が利用できるカリウムは不足しやすい.しかし,植物は生育する土壌のカリウム濃度に応じて様々な反応を起こすことで低カリウム条件に適応する.本稿では,当該分野で最も研究の進んでいるシロイヌナズナで得られた知見を中心に,植物の低カリウム耐性のメカニズムについて紹介する.

根でKを吸収する

植物はカリウムをKとして根から吸収する.植物の根の表面には,Kを細胞内に吸収するために必要なK輸送体タンパク質が複数存在しており,外液のK濃度によってそれらを使い分けることにより,広範囲のK濃度条件に対応していると考えられている.根におけるK吸収を担う主要なK輸送体とその制御機構について以下に解説する.

1. AKT1

AKT1は根毛や表皮細胞の細胞膜に局在する電位依存性の内向き整流性Kチャネルであり,根におけるKの取り込みを担っている(図1A図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム).細胞外と比較し細胞内のK濃度が低下すると,AKT1を介して細胞外から細胞内へとKが取り込まれる(1)1) R. E. Hirsch, B. D. Lewis, E. P. Spalding & M. R. Sussman: Science, 280, 918 (1998)..一方,細胞内と比較し細胞外のK濃度が低下すると,AKT1を介してKが細胞外へと逆流しうることが実験的に示されている(2)2) D. Geiger, D. Becker, D. Vosloh, F. Gambale, K. Palme, M. Rehers, U. Anschuetz, I. Dreyer, J. Kudla & R. Hedrich: J. Biol. Chem., 284, 21288 (2009)..これでは低カリウム条件下においてむしろKが細胞外に流出してしまう.しかし植物体内では,AKT1はKC1という同じKチャネルファミリーに属するタンパク質とヘテロ4量体を形成することで性質を変化させ,低カリウム条件下における細胞外へのKの逆流を防いでいる.実際に,KC1を欠損したシロイヌナズナの変異体は低カリウム耐性が低下することからも,低カリウム条件下において根からのK流出を抑制することが重要であることが伺える(2)2) D. Geiger, D. Becker, D. Vosloh, F. Gambale, K. Palme, M. Rehers, U. Anschuetz, I. Dreyer, J. Kudla & R. Hedrich: J. Biol. Chem., 284, 21288 (2009).

図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム

AKT1はKC1以外にも複数のタンパク質と複合体を形成していると考えられている.AKT1(AKT1-KC1)だけではK輸送活性は低いのだが,リン酸化酵素であるCIPK23と,CIPK23を活性化するCBL1(またはCBL9)というタンパク質がAKT1と複合体を形成し,CIPK23-CBL1がAKT1をリン酸化することでK輸送が活性化する(3, 4)3) J. Xu, H. D. Li, L. Q. Chen, Y. Wang, L. L. Liu, L. He & W. H. Wu: Cell, 125, 1347 (2006).4) S. C. Lee, W. Z. Lan, B. G. Kim, L. Li, Y. H. Cheong, G. K. Pandey, G. Lu, B. B. Buchanan & S. Luan: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 15959 (2007)..一方,PP2Cという脱リン酸化酵素もまたAKT1と複合体を形成し,AKT1のK輸送活性を負に制御する(4)4) S. C. Lee, W. Z. Lan, B. G. Kim, L. Li, Y. H. Cheong, G. K. Pandey, G. Lu, B. B. Buchanan & S. Luan: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 15959 (2007)..これら以外にもAKT1と相互作用し機能を調節しているタンパク質がいくつか発見されており,AKT1と言いながらも,実際には「AKT1連合」でKの吸収を担っている.低カリウム条件に応じてこれらの相互作用タンパク質がAKT1のK輸送活性を調節しているのかはまだ明確とはなっていない.

2. HAK5

AKT1とは別に,HAK5という輸送体タンパク質もまた,根の表皮や根毛の細胞膜においてKの取り込みを担っている(5, 6)5) M. Gierth, P. Mäser & J. I. Schroeder: Plant Physiol., 137, 1105 (2005).6) Y. J. Pyo, M. Gierth, J. I. Schroeder & M. H. Cho: Plant Physiol., 153, 863 (2010)..HAK5は細胞内外のH濃度勾配を駆動力とするKトランスポーターであると考えられており,Kの輸送速度ではKチャネルのAKT1に劣るものの,Kに対する親和性ではAKT1よりも優れている.そのため,K濃度の低い条件下においてはHAK5の働きが重要となる.AKT1と同様に,HAK5もCIPK23とCBL1の複合体によるリン酸化によりK輸送が活性化する(7)7) P. Ragel, R. Ródenas, E. García-Martín, Z. Andrés, I. Villalta, M. Nieves-Cordones, R. M. Rivero, V. Martínez, J. M. Pardo, F. J. Quintero et al.: Plant Physiol., 169, 2863 (2015)..また,HAK5のK輸送を活性化するCIPKとCBLの組み合わせは他にも多数存在することも明らかとなっている(8)8) A. Lara, R. Ródenas, Z. Andrés, V. Martínez, F. J. Quintero, M. Nieves-Cordones, M. A. Botella & F. Rubio: J. Exp. Bot., 71, 5053 (2020).

HAK5遺伝子の転写は低カリウム条件において強く誘導される.この低カリウムに応答した転写誘導によりHAK5が増加し,Kの少ない環境から積極的にKを取り込む.低カリウムに応答したHAK5の転写誘導には,植物ホルモンの一つであるエチレンが関与する.シロイヌナズナの根が低カリウムに曝されると,根にエチレンが蓄積し,蓄積したエチレンが活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)の蓄積を誘導する.そして集積したROSがHAK5の転写を担うRAP2.11という転写因子の発現を誘導することでHAK5の発現量が上昇する,と考えられている(図1A図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム(9)9) M. J. Kim, D. Ruzicka, R. Shin & D. P. Schachtman: Mol. Plant, 5, 1042 (2012)..実際に,エチレン応答機構の一部に欠損を持つ変異体や,ROS合成に必要な遺伝子を失った変異体では,低カリウムに応答したHAK5の転写誘導が抑制されることが示されている(10, 11)10) R. Shin & D. P. Schachtman: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 8827 (2004).11) J.-Y. Jung, R. Shin & D. P. Schachtman: Plant Cell, 21, 607 (2009)..低カリウムに応答したエチレン蓄積,そしてROSによるRAP2.11の誘導の仕組みは未だ明らかにはなっていない.

HAK5の転写はARF2という別の転写因子によっても制御される.ただし,RAP2.11がHAK5の転写を促進するのに対し,ARF2はHAK5の転写を抑制するリプレッサーとして機能する(図1A図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム).カリウムが充足している条件下においては,ARF2がHAK5遺伝子の上流にある転写調節配列に結合しRAP2.11によるHAK5の転写を妨げているが,低カリウム条件になるとARF2がリン酸化されることで転写調節配列から外れ,代わりにRAP2.11が転写調節配列に結合しHAK5の転写が促進される.そして,HAK5の発現によりKの吸収活性が高まり,体内でカリウムが充足すると,再びARF2が登場しHAK5の転写促進にブレーキを掛けると考えられている(12)12) S. Zhao, M.-L. Zhang, T.-L. Ma & Y. Wang: Plant Cell, 28, 3005 (2016)..ARF2はAuxin Response Factor 2の略で,その名の通り,植物ホルモンであるオーキシンに応答して活性化する.低カリウム条件になると根のオーキシン蓄積が抑制されることが報告されていることから(13)13) R. Shin, A. Y. Burch, K. A. Huppert, S. B. Tiwari, A. S. Murphy, T. J. Guilfoyle & D. P. Schachtman: Plant Cell, 19, 2440 (2007).,この低カリウムに応答したオーキシン蓄積量の減少によってARF2の働きが抑えられ,HAK5の転写が上昇するのかもしれない.また,HAK5の発現はMYB77というまた別の転写因子によっても正に制御されており,この転写因子が低カリウムに応答したHAK5の発現上昇に部分的に関与することが報告されている(14)14) C.-Z. Feng, Y.-X. Luo, P.-D. Wang, M. Gilliham & Y. Long: New Phytol., 232, 176 (2021)..しかし,MYB77はこの報告よりも以前にオーキシン蓄積に関わる遺伝子の発現を誘導する転写因子として同定されており(13)13) R. Shin, A. Y. Burch, K. A. Huppert, S. B. Tiwari, A. S. Murphy, T. J. Guilfoyle & D. P. Schachtman: Plant Cell, 19, 2440 (2007).,低カリウム条件ではMYB77の働きは抑えられるという結果も示されていることから(10)10) R. Shin & D. P. Schachtman: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 8827 (2004).HAK5の発現制御におけるMYB77の役割はそう単純ではなさそうである.

HAK5の転写はエチレン,オーキシン以外に,サイトカイニンによっても制御される.サイトカイニンは根のROSの生成を抑制する働きがあり,低カリウム条件になると根のサイトカイニン蓄積量が減少することでROS蓄積量が増加し,HAK5の転写が誘導されると考えられている(15)15) Y.-J. Nam, L.-S. P. Tran, M. Kojima, H. Sakakibara, R. Nishiyama & R. Shin: PLoS One, 7, e47797 (2012)..以上のように,低カリウムに応答したカリウム吸収促進には複数の植物ホルモンが関与している.

3. その他の輸送体

HAK5と同じHAK/KUP/KTファミリーに属するいくつかのKトランスポーターが根毛で発現しており,K吸収に関わることが示唆されている(16)16) S. J. Ahn, R. Shin & D. P. Schachtman: Plant Physiol., 134, 1135 (2004)..一方,CHXファミリーに属するCHX13もまた,低カリウム条件下の根において発現が誘導され,根の細胞膜においてKを取り込む働きを有している(17)17) J. Zhao, N.-H. Cheng, C. M. Motes, E. B. Blancaflor, M. Moore, N. Gonzales, S. Padmanaban, H. Sze, J. M. Ward & K. D. Hirschi: Plant Physiol., 148, 796 (2008)..CHX13は陽イオンとHを対向輸送(反対方向に輸送)するトランスポーターファミリーに属するものの,KとHを共輸送(同じ方向に輸送)するような振る舞いをみせる(17)17) J. Zhao, N.-H. Cheng, C. M. Motes, E. B. Blancaflor, M. Moore, N. Gonzales, S. Padmanaban, H. Sze, J. M. Ward & K. D. Hirschi: Plant Physiol., 148, 796 (2008)..CHX13はCHXファミリーの中では風変わりな性格を持つもののようである.

根の形・性質を変化させる

植物は低カリウム条件に曝されると,根を低カリウム条件にあった形に変化させる.以下では「低カリウムモード」の根の特徴やその機能について解説する.

1. 根毛を増やす

植物の根が低カリウム条件に曝されると,根の表面に生える根毛の量が増える(図1B図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム).これにより根の表面積が大きくなり,根毛表面に存在するAKT1やHAK5によるK吸収量が増加する.この形態変化は,ヒトにおいて絨毛が腸の表面積を大きくし効率的に養分を吸収するのと同様の効果を持つと考えられる.

シロイヌナズナの根毛形成にはHAK5と同じトランスポーターファミリーに属するTRH1(KUP4やKT3とも呼ばれる)が関与している.根毛は表皮細胞が変形することで形成されるが,この変形のトリガーとなるのが植物ホルモンのオーキシンであり,TRH1は表皮細胞におけるオーキシンの蓄積に関与することが明らかとなっている(18, 19)18) D. Templalexis, D. Tsitsekian, C. Liu, G. Daras, J. Šimura, P. Moschou, K. Ljung, P. Hatzopoulos & S. Rigas: Plant Physiol., 188, 1043 (2022).19) F. Vicente-Agullo, S. Rigas, G. Desbrosses, L. Dolan, P. Hatzopoulos & A. Grabov: Plant J., 40, 523 (2004)..KトランスポーターであるTRH1がオーキシンの輸送活性を持ち,表皮細胞へオーキシンを輸送すると考えることもできるが,一方でオーキシン輸送体がKにより活性化するという報告もあり(20)20) L.-K. Huang, Y.-Y. Liao, W.-H. Lin, S.-M. Lin, T.-Y. Liu, C.-H. Lee & R.-L. Pan: J. Membr. Biol., 252, 183 (2019).,TRH1自身がオーキシンを輸送しているのか,あるいはTRH1によるK輸送がオーキシン輸送を活性化しているのかについてははっきりしていない.

TRH1が根毛形成に必要であることは間違いないものの,低カリウムに応答した根毛の増加にTRH1がどう関与するのかはよくわかっていない.TRH1の発現量は低カリウムに応答して上昇するという報告もあるが(21)21) L. Huang, Q. Jiang, J. Wu, L. An, Z. Zhou, C. Wong, M. Wu, H. Yu & Y. Gan: Plant Mol. Biol., 102, 143 (2020).,著者らによる実験では低カリウムに応答したTRH1の発現誘導は確認されていない(22)22) S. Nishida, Y. Kakei, Y. Shimada & T. Fujiwara: Plant J., 91, 741 (2017)..低カリウム応答においてエチレンが重要な働きをすることは上述の通りであるが,低カリウムに応答した根毛の発達にもエチレンが関わることが報告されている(21)21) L. Huang, Q. Jiang, J. Wu, L. An, Z. Zhou, C. Wong, M. Wu, H. Yu & Y. Gan: Plant Mol. Biol., 102, 143 (2020)..なお,TRH1は維管束におけるオーキシンの根端方向への輸送を促すことで,根の重力屈性にも寄与する(18, 19)18) D. Templalexis, D. Tsitsekian, C. Liu, G. Daras, J. Šimura, P. Moschou, K. Ljung, P. Hatzopoulos & S. Rigas: Plant Physiol., 188, 1043 (2022).19) F. Vicente-Agullo, S. Rigas, G. Desbrosses, L. Dolan, P. Hatzopoulos & A. Grabov: Plant J., 40, 523 (2004).

2. 根を伸ばす

根が低栄養条件に曝されると,栄養が十分にある場所を求めて,あるいは根の表面積を増やすために,根を伸ばすと考えられている.しかし,根がカリウム不足になると,根端の分裂組織(メリステム)において生長ホルモンのオーキシンの濃度が低下し,根の伸長が抑制されてしまう.KトランスポーターであるKUP9は,根端分裂組織の小胞体膜に局在し,小胞体から細胞質へのオーキシン供給を促すことでメリステムの細胞分裂活性を維持し,低カリウム条件においても根を伸長させる役割を果たすと考えられている(図1B図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム(23)23) M.-L. Zhang, P.-P. Huang, Y. Ji, S. Wang, S.-S. Wang, Z. Li, Y. Guo, Z. Ding, W.-H. Wu & Y. Wang: EMBO Rep., 21, e50164 (2020)..KUP9はKとオーキシンの両方を輸送するとされているが,前述のTRH1の場合と同様,KUP9のオーキシン輸送能には疑問が残る.また,KUP9の転写量はカリウム条件によって変化せず,低カリウムに応答してKUP9の働きがどのように活性化しているのかは未だわかっていない.

3. 根を伸ばさない

低栄養条件に曝された植物は根毛や根を伸ばすことで栄養吸収能を強化させる.しかし,極度の栄養欠乏状態に陥ると,植物はむしろ積極的に根の伸長をストップさせることがある.この応答は,栄養生長から生殖生長に切り替えて後代を残す方向に戦略転換しているからではないかと考えられている.数µMという極めてK濃度の低い条件下では,シロイヌナズナの側根伸長は著しく阻害される.この応答は,植物ホルモンの一つであるジベレリンの側根伸長効果が抑制されることで起こる.ジベレリンは生長促進作用を持つホルモンであり,器官の生長や発芽,結実など,様々な生長過程に関わる.根が数µMオーダーという著しい低いカリウム条件に曝されると,DELLAと呼ばれるジベレリン蓄積を抑える働きを持つタンパク質が安定化し,根のジベレリン濃度が低下することで側根伸長が抑制されると考えられている(図1B図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム(24)24) F. M. Hetherington, M. Kakkar, J. F. Topping & K. Lindsey: Plant Physiol., 185, 1198 (2021).

4. カスパリー帯を厚くする

シロイヌナズナの根では,外側から中心部の維管束に向かって,表皮→皮層→内皮→内鞘の順に細胞層が並ぶ.この内,内皮細胞にはカスパリー帯と呼ばれる帯状の構造が発達しており,このカスパリー帯がバリアとなり,細胞外に溶けているイオンは内皮よりも内側へ進むことが許されない.必要な養分は手前の表皮や皮層において細胞内に一度吸収してから,細胞間連絡を介して内皮より内側へ輸送し,維管束において導管へ積み出すことで地上の葉へと供給する.これは,「不要な物質は排除し必要な物質のみを吸収する」ために必須な仕組みとなっている.また,カスパリー帯があることで,内皮よりも内側にある養分が外側に漏れ出ないことにもなる.これは,地上の葉に送るために導管へ積み出した養分が根の外へ拡散してしまうことを防いでいる.

シロイヌナズナの根が低カリウム条件に曝されると,カスパリー帯の形成が促され厚くなることが報告されている(25)25) F.-L. Wang, Y.-L. Tan, L. Wallrad, X.-Q. Du, A. Eickelkamp, Z.-F. Wang, G.-F. He, F. Rehms, Z. Li, J.-P. Han et al.: Dev. Cell, 56, 781 (2021)..また,カスパリー帯が正常に形成されないと体内のカリウム濃度が減少し低カリウム条件に弱くなることも示されている(26)26) A. Pfister, M. Barberon, J. Alassimone, L. Kalmbach, Y. Lee, J. E. M. Vermeer, M. Yamazaki, G. Li, C. Maurel, J. Takano et al.: eLife, 3, e03115 (2014)..これらのことは,低カリウム耐性において根のカスパリー帯が極めて重要な役割を担うことを示している.低カリウム条件により発生した一連のシグナル伝達によって内皮の細胞膜に存在するNADPHオキシダーゼ(RBOHs)が活性化しROSが生成される.そして,内皮細胞の外側に居るペルオキシダーゼがROSを利用しアポプラスト空間に存在するモノリグノールを重合することでカスパリー帯の形成が促される(図1B図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム(25)25) F.-L. Wang, Y.-L. Tan, L. Wallrad, X.-Q. Du, A. Eickelkamp, Z.-F. Wang, G.-F. He, F. Rehms, Z. Li, J.-P. Han et al.: Dev. Cell, 56, 781 (2021)..上述のとおり,ROSはHAK5の転写も誘導するので,「K吸収を促進しつつ,取り込んだKは取りこぼさない」という応答がROSを介して起きていると言える.

地上部へKを供給する

根の表皮や根毛から吸収されたKは,細胞間連絡を介して維管束まで運ばれ,導管へと積み出される.そして,積み出されたKは蒸散流に乗って地上部の葉へと運ばれ,利用される.導管は細胞の外側(ヒトでいう食道のような器官)になるため,根においてKを導管へ積み出すためには,細胞外へKを排出する輸送体タンパク質が必要となる.

1. SKORとNPF7.3

導管へKを積み出す輸送体は2種類同定されており,その一つが導管周辺の維管束鞘細胞に存在するSKORという電位依存性の外向き整流性Kチャネルである(図1C図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム).SKORは細胞内外のK濃度を感受する仕組みを持っており,細胞内と比較し細胞外のKが一定の濃度より低くなるとSKORのゲートが開き,細胞内のKが導管へと流れ出す仕組みになっている(27, 28)27) I. Johansson, K. Wulfetange, F. Porée, E. Michard, P. Gajdanowicz, B. Lacombe, H. Sentenac, J.-B. Thibaud, B. Mueller-Roeber, M. R. Blatt et al.: Plant J., 46, 269 (2006).28) K. Liu, L. Li & S. Luan: Plant J., 46, 260 (2006)..導管にKを積み出すもう一つの輸送体としてNPF7.3というKトランスポーターがある(図1C図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム).NPF7.3は別名「Nitrate Transporter 1.5」と呼ばれ,元々は硝酸トランスポーターとして同定されたものであるが,その後に硝酸だけでなくKも輸送することが明らかとなった(29)29) H. Li, M. Yu, X.-Q. Du, Z.-F. Wang, W.-H. Wu, F. J. Quintero, X.-H. Jin, H.-D. Li & Y. Wang: Plant Cell, 29, 2016 (2017)..トランスポータータンパク質であるNPF7.3はチャネルタンパク質であるSKORとは輸送体としての構造や性質は異なるものの,維管束鞘細胞において導管へKを積み出すという役割は共通している.ただし,SKORおよびNPF7.3の欠損変異体を用いた解析から判断するに,導管へのK輸送はNPF7.3が主に担っているようである(29)29) H. Li, M. Yu, X.-Q. Du, Z.-F. Wang, W.-H. Wu, F. J. Quintero, X.-H. Jin, H.-D. Li & Y. Wang: Plant Cell, 29, 2016 (2017).

2. MYB59

NPF7.3の転写はMYB59という転写因子が担っており,MYB59を欠損した植物体ではNPF7.3の転写産物量が著しく低下するために,低カリウム耐性が低下する(30)30) X.-Q. Du, F.-L. Wang, H. Li, S. Jing, M. Yu, J. Li, W.-H. Wu, J. Kudla & Y. Wang: Plant Cell, 31, 699 (2019).MYB59の転写レベルは,どういうわけか,低カリウムに応答して低下する傾向にある.これでは低カリウム条件においてNPF7.3の転写量が低下し,むしろ低カリウム耐性が低下してしまうのではと心配になる.しかし筆者らは,転写の後に起こる「選択的スプライシング」というmRNAの配列調節メカニズムによって,MYB59が低カリウム条件化で活性化する可能性を見出している(22)22) S. Nishida, Y. Kakei, Y. Shimada & T. Fujiwara: Plant J., 91, 741 (2017).MYB59遺伝子から転写されたmRNAは選択的スプライシングを受けることで配列の異なる複数のmRNAが合成される.合成されたそれぞれのmRNAは,NPF7.3の転写活性を持つ「活性型」のMYB59タンパク質と転写活性を持たない「不活性型」のMYB59タンパク質をコードしているのだが,低カリウム条件になると活性型をコードするmRNAが増加し,不活性型をコードするmRNAが低下する.つまり,MYB59の転写量だけを見ているとMYB59は低カリウムによって働きが抑えられるように見えるのだが,mRNAの配列構造に着目すると実はMYB59は低カリウムに応答して働きが活発化していると予想される.現在も筆者らの研究室ではこの仮説の検証を進めている.

液胞からKを供給する

根から吸収し体内に分配されたKは,利用されつつ,その余剰は細胞内の液胞に貯蓄され,必要に応じて取り出され再利用される.液胞から細胞質へのKの輸送はTPK1という(KCO1とも呼ばれる)液胞膜に存在するKチャネルが担っており,低カリウム条件において細胞のK濃度が低下すると,TPK1を介して液胞に貯蓄されていたKが細胞質に供給される(図1D図1■シロイヌナズナにおける低カリウム耐性メカニズム(31)31) A. Gobert, S. Isayenkov, C. Voelker, K. Czempinski & F. J. M. Maathuis: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 10726 (2007)..AKT1やSKORとは異なり,TPK1に電位依存性は無く,細胞内のCa2+濃度に依存して活性化される.これは,細胞質内のCa2+濃度によって活性化したCBL-CIPK複合体がTPK1をリン酸化することでTPK1によるK輸送が活性化するためだと考えられている(32)32) R.-J. Tang, F.-G. Zhao, Y. Yang, C. Wang, K. Li, T. J. Kleist, P. G. Lemaux & S. Luan: Nat. Plants, 6, 384 (2020).

おわりに

植物は土壌溶液中のK濃度,あるいは体内のK濃度に応じて様々な反応を起こすことで,低カリウム条件にも適応して生きていくことができる.これは,植物が進化の過程で獲得した実に巧みな生存戦略である.では,いったい植物はどのようにして土壌溶液中の,あるいは体内のKの濃度を測っているのだろうか? 私たち研究者が試料中のK濃度を測定する場合,数万円から高いもので数千万円の分析装置を使用する.植物の体内にこのような装置が備わっているわけはないので,高感度で超小型のK測定装置を植物は有していることになる.今後,植物のK濃度の感知の仕組みが明らかになれば,新たなK濃度測定技術の開発のヒントになるかもしれない.また,植物の低カリウム耐性の分子機構を明らかにし,マーカー育種技術やゲノム編集技術によりそれらの性能を改変することで,作物の低カリウム耐性を強化することもできるかもしれない.カリ肥料は有限の鉱物資源であるカリ鉱石を原料とする.カリ鉱石は一部の国でしか産出されず(カナダ,ロシア,ベラルーシ,中国で8割を占める),カリ鉱石の国際価格の高騰は,世界,とりわけ貧困国の食糧安全保障に深刻な影響を与えてしまう.作物の低カリウム耐性の解明と強化技術の開発は,食糧生産におけるカリ肥料への依存度を低減し,SDGsの目標の一つである世界の飢餓の解決に貢献しうると著者は考えている.

Reference

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