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膜タンパク質の局在化における配送校正機構ミトコンドリアに誤局在した膜タンパク質が小胞体に再配送される機構

Shunsuke Matsumoto

松本 俊介

九州大学大学院農学研究院生命機能化学部門生物機能分子化学講座生物化学分野

Published: 2022-10-01

真核生物の細胞で作られるタンパク質の大部分は,サイトゾルのリボソームで合成され,たとえばヒトの細胞では,その内35%は小胞体(endoplasmic reticulum; ER),25%は核,5%はミトコンドリアそして1%未満でペルオキシソームや脂肪滴などの細胞小器官(オルガネラ)へ運ばれる(1)1) R. S. Hegde & E. Zavodszky: Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 11, a033902 (2019)..タンパク質を目的のオルガネラへ配送するメカニズムは多様であるが,基本的には目的地を指定する情報がタンパク質に書き込まれており,そのシグナルを認識する因子の働きによって,各オルガネラへの適切な配送が行われる.

C端に膜貫通配列を一つ持つタンパク質はテイルアンカー型(tail-anchored; TA)タンパク質と呼ばれ,リボソームでの翻訳が完了した後,ER,ミトコンドリアそしてペルオキシソームに配送され,そこで膜への組み込みが行われる(2, 3)2) R. S. Hegde & R. J. Keenan: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 12, 787 (2011).3) U. S. Chio, H. Cho & S. O. Shan: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 33, 417 (2017)..ERへ配送されるTAタンパク質は,出芽酵母ではthe guided entry of tail-anchored(GET)経路と呼ばれる進化的に保存された経路を介して,ERに標的化され,ER膜に組み込まれる(4)4) M. Schuldiner, J. Metz, V. Schmid, V. Denic, M. Rakwalska, H. D. Schmitt, B. Schwappach & J. S. Weissman: Cell, 134, 634 (2008)..GET経路を欠損した酵母細胞では,本来ERへ標的化するはずのTAタンパク質のいくつかがミトコンドリアに誤配送されることが報告されている(4)4) M. Schuldiner, J. Metz, V. Schmid, V. Denic, M. Rakwalska, H. D. Schmitt, B. Schwappach & J. S. Weissman: Cell, 134, 634 (2008).

2014年にRutterとWalterらは独立に,GET経路の構成遺伝子とMSP1の2重遺伝子欠損酵母株がミトコンドリアの形態異常や呼吸活性の低下,mtDNAの欠失を引き起こし,強い生育阻害を示すことを見出した(5, 6)5) Y. C. Chen, G. K. E. Umanah, N. Dephoure, S. A. Andrabi, S. P. Gygi, T. M. Dawson, V. L. Dawson & J. Rutter: EMBO J., 33, 1548 (2014).6) V. Okreglak & P. Walter: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 8019 (2014).MSP1遺伝子は,出芽酵母を用いた遺伝学的スクリーニングによってNakaiらが1993年に発見した遺伝子で,ミトコンドリア外膜に局在するAAA-ATPアーゼをコードする(図1図1■ミトコンドリアに誤配送されたTAタンパク質の分解経路と再配送経路(7)7) M. Nakai, T. Endo, T. Hase & H. Matsubara: J. Biol. Chem., 268, 24262 (1993)..GET経路が欠損すると,ペルオキシソーム局在のTAタンパク質Pex15やER経由でゴルジ体へ輸送されるv-SNAREタンパク質であるGos1がミトコンドリア外膜に誤配送され,ミトコンドリアの機能異常が引き起こされる.Msp1はそのような誤配送されたTAタンパク質をミトコンドリア外膜から除去するように働くことで,ミトコンドリアの機能を正常に維持する因子であることが報告された(5, 6)5) Y. C. Chen, G. K. E. Umanah, N. Dephoure, S. A. Andrabi, S. P. Gygi, T. M. Dawson, V. L. Dawson & J. Rutter: EMBO J., 33, 1548 (2014).6) V. Okreglak & P. Walter: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 8019 (2014).

図1■ミトコンドリアに誤配送されたTAタンパク質の分解経路と再配送経路

ミトコンドリア外膜に誤配送されたTAタンパク質は外膜上のAAA-ATPアーゼMsp1によってATP依存的に膜から引き抜かれた後,GET経路を介してERに移行する.ERに移行したPex15Δ30(マゼンタ色)は,ERの品質管理システム(Doa10によるユビキチン化)を介して,プロテアソームにより分解される.一方で,内在性のTAタンパク質(青色)は,本来の局在場所(ER膜,ゴルジ体等)まで移行する.

Msp1はミトコンドリア外膜に見出された唯一のAAA-ATPアーゼで酵母からヒトまで保存されている.Msp1は,N端に膜貫通配列を1つ持ち,C端AAAドメインをサイトゾル側に露出するトポロジーを持つタンパク質である(7)7) M. Nakai, T. Endo, T. Hase & H. Matsubara: J. Biol. Chem., 268, 24262 (1993)..AAA-ATPアーゼは,一般的にホモ6量体のリング構造を形成し,そのリング中央の穴に基質を通すことでアンフォールディングや膜引き抜きなど多彩な機能を発揮する.これまでに精製した全長Msp1と人工的なモデルTAタンパク質を人工リン脂質膜リポソームに再構成し,Msp1のATP依存的な膜からの引き抜き活性が示された(8)8) M. L. Wohlever, A. Mateja, P. T. McGilvray, K. J. Day & R. J. Keenan: Mol. Cell, 67, 194 (2017)..さらに,Msp1のAAA-ATPアーゼドメインのクライオEM構造からも,Msp1が螺旋階段に集合し,基質を中央の穴を通りながら基質を引き抜くモデルが提唱されている(9)9) L. Wang, A. Myasnikov, X. Pan & P. Walter: eLife, 9, e54031 (2020).

このように,Msp1による基質の膜引き抜きに関する研究は2014年以降進展したが,細胞内において誤配送されたTAタンパク質がどのようにして分解除去されるのかは,不明のままであった.そこで筆者らは,Msp1を介した誤配送TAタンパク質の分解経路の解明を目的として,Msp1と協同して誤配送タンパク質の分解に関わる因子を,出芽酵母の分子遺伝学的,細胞生物学的手法を用いて探索した.筆者らは,Pex15のC端のペルオキシソーム局在化シグナルを欠失した変異体Pex15Δ30や内在性のTAタンパク質を用いて解析した結果,Msp1が誤配送TAタンパク質をサイトゾルに引き抜くことで,本来の標的化される場所であるER膜への再移行を促すことを見出した(図1図1■ミトコンドリアに誤配送されたTAタンパク質の分解経路と再配送経路).そして,Pex15Δ30のような構造異常を持つTAタンパク質はERの品質管理システムを介してプロテアソームにより分解され,内在性の正常なTAタンパク質は本来の目的地に送られることを示した(図1図1■ミトコンドリアに誤配送されたTAタンパク質の分解経路と再配送経路(10)10) S. Matsumoto, K. Nakatsukasa, C. Kakuta, Y. Tamura, M. Esaki & T. Endo: Mol. Cell, 76, 191 (2019)..さらに,筆者らは,Msp1によって膜から引き抜かれた誤配送TAタンパク質がERに移行するメカニズムを理解するために,蛍光顕微鏡タイムラプス観察で誤配送TAタンパク質のオルガネラ間移動をリアルタイムで追跡できる実験系を新たに構築し,誤配送TAタンパク質のER移行にはGET経路が関与することを明らかにした(図1図1■ミトコンドリアに誤配送されたTAタンパク質の分解経路と再配送経路(11)11) S. Matsumoto, S. Ono, S. Shinoda, C. Kakuta, S. Okada, T. Ito, T. Numata & T. Endo: J. Cell Biol., 221, e202104076 (2022)..このシステムは,MSP1と誤配送TAタンパク質を異なる誘導型プロモーターで発現を制御できる点に特徴があり,これにより新規に合成されたTAタンパク質の移動ではなく,ミトコンドリア外膜に誤配送されたTAタンパク質がERに移動することを示すことができた.このように,Msp1によってミトコンドリア外膜から引き抜かれた誤配送TAタンパク質は単に分解だけ回るのではなく,本来の輸送経路であるGET経路へ受け渡されることで,本来の局在場所に再配送されることが明らかとなった.このように,筆者らは細胞には誤配送タンパク質の配送をやり直す仕組み,すなわち細胞内の「タンパク質輸送の校正システム」が存在することを報告した(10, 11)10) S. Matsumoto, K. Nakatsukasa, C. Kakuta, Y. Tamura, M. Esaki & T. Endo: Mol. Cell, 76, 191 (2019).11) S. Matsumoto, S. Ono, S. Shinoda, C. Kakuta, S. Okada, T. Ito, T. Numata & T. Endo: J. Cell Biol., 221, e202104076 (2022).

以上の述べた筆者らによる解析によって,タンパク質の配送には間違いが起こりうること,そして間違ってもその配送をやり直すことで,細胞はタンパク質の局在化の正確性を高め,機能障害を防いでいることが明らかになってきた.近年,ER膜上のP型ATPアーゼであるSpf1がERに誤配送されたミトコンドリア型TAタンパク質を引き抜くことで,配送のやり直しに関わることが報告された(12)12) M. J. McKenna, S. I. Sim, A. Ordureau, L. Wei, J. W. Harper, S. Shao & E. Park: Science, 369, eabc5809 (2020)..すなわち,Spf1はMsp1とは進化的に起源が異なるタンパク質だが,Msp1と同様に機能し,ミトコンドリアだけでなくERにも誤配送タンパク質の配送をやり直すシステムが備わっているらしいことは,興味深い.しかしながら,Spf1を介した誤配送タンパク質の配送のやり直しに関わる他の因子や経路などは謎として残されている.こうした問題の解明は,今後の課題である.

Reference

1) R. S. Hegde & E. Zavodszky: Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 11, a033902 (2019).

2) R. S. Hegde & R. J. Keenan: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 12, 787 (2011).

3) U. S. Chio, H. Cho & S. O. Shan: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 33, 417 (2017).

4) M. Schuldiner, J. Metz, V. Schmid, V. Denic, M. Rakwalska, H. D. Schmitt, B. Schwappach & J. S. Weissman: Cell, 134, 634 (2008).

5) Y. C. Chen, G. K. E. Umanah, N. Dephoure, S. A. Andrabi, S. P. Gygi, T. M. Dawson, V. L. Dawson & J. Rutter: EMBO J., 33, 1548 (2014).

6) V. Okreglak & P. Walter: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 8019 (2014).

7) M. Nakai, T. Endo, T. Hase & H. Matsubara: J. Biol. Chem., 268, 24262 (1993).

8) M. L. Wohlever, A. Mateja, P. T. McGilvray, K. J. Day & R. J. Keenan: Mol. Cell, 67, 194 (2017).

9) L. Wang, A. Myasnikov, X. Pan & P. Walter: eLife, 9, e54031 (2020).

10) S. Matsumoto, K. Nakatsukasa, C. Kakuta, Y. Tamura, M. Esaki & T. Endo: Mol. Cell, 76, 191 (2019).

11) S. Matsumoto, S. Ono, S. Shinoda, C. Kakuta, S. Okada, T. Ito, T. Numata & T. Endo: J. Cell Biol., 221, e202104076 (2022).

12) M. J. McKenna, S. I. Sim, A. Ordureau, L. Wei, J. W. Harper, S. Shao & E. Park: Science, 369, eabc5809 (2020).