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栄養飢餓に応じてTORC1の活性を制御する仕組み酵母から知る栄養応答の機序

Tomoyuki Fukuda

福田 智行

新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野

Published: 2022-11-01

細胞は栄養環境に応じて生体分子を合成あるいは分解し,増殖や分化を制御する.この栄養応答で中心的な役割を果たすのは,TOR(Target of Rapamycin)キナーゼを中心とした複合体TORC1(TOR Complex 1)である.真核生物間で広く保存されるTORC1は,栄養,成長因子,ストレスなどに応じて活性が変動し,様々な基質のリン酸化を介して代謝,輸送,遺伝子発現など多様な細胞機能を制御する(1)1) G. Y. Liu & D. M. Sabatini: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 21, 183 (2020)..TORC1は細胞増殖や分化に加え,老化や寿命にも影響し,制御の破綻が代謝異常や癌に関連することから,アンチエイジング,抗肥満,抗癌剤の標的として注目される(2)2) D. Mossmann, S. Park & M. N. Hall: Nat. Rev. Cancer, 18, 744 (2018).

哺乳類細胞のTORC1活性制御には,リソソームに局在するRhebとRagという2種の低分子量GTPaseが主要な役割を果たす(図1A図1■TORC1の活性制御).GTP結合型のRhebはTORキナーゼに直接作用して活性を促進する(3)3) H. Yang, X. Jiang, B. Li, H. Yang, M. Miller, A. Yang, A. Dhar & N. P. Pavletich: Nature, 552, 368 (2017)..Ragはヘテロ二量体(RagAあるいはRagBと,RagCあるいはRagDとからなる)を形成し,GTP結合型のRagA/BはTORC1をリソソームに局在化させ,Rhebによる活性化を促す(4)4) Y. Sancak, T. R. Peterson, Y. D. Shaul, R. A. Lindquist, C. C. Thoreen, L. Bar-Peled & D. M. Sabatini: Science, 320, 1496 (2008)..RhebとRagA/Bには,それぞれTSC(Tuberous Sclerosis Complex)とGATOR1(GTPase-activating protein towards Rags complex 1)というGTPase活性促進因子複合体が作用し,負の制御因子として機能する.成長因子の刺激がない時はTSCがRhebをGDP型に,アミノ酸飢餓時にはGATOR1がRagA/BをGDP型にすることで,それぞれTORC1を抑制する.すなわち,成長因子はTSCを,アミノ酸はGATOR1を阻害することでTORC1を活性化する.これまでに,哺乳類TORC1経路がロイシン,アルギニン,メチオニンに応答する機構が報告されている.これらのアミノ酸あるいはその代謝物がGATOR1の上流因子に直接作用することで最終的にGATOR1を阻害し,Rag二量体を通じてTORC1を活性化する(5)5) R. L. Wolfson & D. M. Sabatini: Cell Metab., 26, 301 (2017).

図1■TORC1の活性制御

(A)哺乳類細胞におけるTORC1制御.TORC1活性化因子であるRag二量体とRhebが,それぞれGATOR1とTSCによって負に制御される.(B)分裂酵母細胞では,アミノ酸飢餓によって生じるuncharged tRNAによりGcn2経路が活性化し,その下流でTORC1が抑制される.

TORC1は高度に保存されるため,哺乳類の他にも様々な生物種を用いて研究が行われている.単細胞真核生物である分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)のTORC1は液胞(リソソームに相当する細胞小器官)に局在し,Rhb1(Rhebに相当)とGtr1-Gtr2二量体(Rag二量体に相当)に制御される.分裂酵母は,哺乳類と同様に負の調節因子GATOR1とTSCを有するため,TORC1制御の研究モデルとして有用である(6)6) K. H. Chia, T. Fukuda, F. Sofyantoro, T. Matsuda, T. Amai & K. Shiozaki: eLife, 6, e30880 (2017).

分裂酵母は培地からアンモニウムなどの窒素源を取り込み,アミノ酸を合成する.筆者らは,特定のアミノ酸の合成経路に変異をもつ栄養要求性株や合成経路の阻害剤を利用してアミノ酸飢餓を誘導し,TORC1の活性を評価した(7)7) T. Fukuda, F. Sofyantoro, Y. T. Tai, K. H. Chia, T. Matsuda, T. Murase, Y. Morozumi, H. Tatebe, T. Kanki & K. Shiozaki: eLife, 10, e60969 (2021)..その結果,アミノ酸飢餓時にTORC1は不活化するものの,この制御にGATOR1とTSCは関与していないことが分かった.そこで,これら以外のTORC1抑制因子を探索し,アミノ酸センサーのGcn2を同定した.Gcn2は真核生物間で高度に保存されたキナーゼで,アミノ酸飢餓時に生じるuncharged tRNAと結合して活性化する.Gcn2は翻訳開始因子eIF2αをリン酸化することでタンパク質合成を阻害するとともに,特定の転写因子(分裂酵母ではFil1)の翻訳を促進して活性化することで知られる.Gcn2欠損株では,ロイシン,ヒスチジン,アルギニン,グルタミンといったアミノ酸の欠乏に応じたTORC1の不活化が見られなかったため,分裂酵母TORC1はGcn2を介してアミノ酸飢餓を認識するといえる.また,Gcn2の結合因子やeIF2αのリン酸化,下流のFil1もTORC1の抑制に必須であったため,これらGcn2経路によって転写誘導される因子がTORC1を阻害すると考えられる(図1B図1■TORC1の活性制御).

筆者らは,窒素源飢餓応答についても解析した.アンモニウムを欠いた窒素源飢餓培地で分裂酵母を培養すると,TORC1が不活化してオートファジーが誘導される.このTORC1抑制には,GATOR1, TSC, Gcn2がいずれも独立して貢献することを見いだした.中でもGATOR1の貢献が最も高く,その欠損はTORC1抑制の遅延を引き起す.一方,窒素源飢餓の際にGcn2は活性化せず,Gcn2を単独で欠損した場合にはTORC1に影響しない.これはGATOR1とTSCが速やかにTORC1を阻害することでオートファジーによるタンパク質の分解が生じ,細胞にアミノ酸が供給されるためであると考えられる.これを裏付けるように,GATOR1やTSCが欠損した際と,オートファジーによるタンパク質分解を阻害した際にはGcn2が著しく活性化する.以上から,窒素源飢餓時には主にGATOR1とTSCがTORC1を抑制するが,この応答が十分に機能せずにアミノ酸が不足すると,Gcn2が活性化してTORC1阻害をバックアップするといえる.

Gcn2はあらゆる種類のアミノ酸飢餓に対応できるため,各アミノ酸が個別にGATROR1上流へ直接作用する哺乳類細胞の応答に比べ,分裂酵母のアミノ酸応答は効率が良いといえる.一方で,哺乳類細胞でもGcn2経路がTORC1を負に制御することを示す報告が複数あり(8)8) J. Ye, W. Palm, M. Peng, B. King, T. Lindsten, M. O. Li, C. Koumenis & C. B. Thompson: Genes Dev., 29, 2331 (2015).,酵母と類似した制御があるかもしれない.今後の課題は,分裂酵母のGcn2経路下流でTORC1を阻害する因子を同定することであろう.また,窒素源飢餓時にGATOR1とTSCを活性化する鍵因子も今のところ不明である.今後,真核細胞における栄養応答の詳細や,種間の普遍性と多様性が明らかになり,TORC1制御機構の包括的な理解,ひいてはTORC1の人為的制御を介した癌治療やアンチエイジングが可能になることを期待する.

Reference

1) G. Y. Liu & D. M. Sabatini: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 21, 183 (2020).

2) D. Mossmann, S. Park & M. N. Hall: Nat. Rev. Cancer, 18, 744 (2018).

3) H. Yang, X. Jiang, B. Li, H. Yang, M. Miller, A. Yang, A. Dhar & N. P. Pavletich: Nature, 552, 368 (2017).

4) Y. Sancak, T. R. Peterson, Y. D. Shaul, R. A. Lindquist, C. C. Thoreen, L. Bar-Peled & D. M. Sabatini: Science, 320, 1496 (2008).

5) R. L. Wolfson & D. M. Sabatini: Cell Metab., 26, 301 (2017).

6) K. H. Chia, T. Fukuda, F. Sofyantoro, T. Matsuda, T. Amai & K. Shiozaki: eLife, 6, e30880 (2017).

7) T. Fukuda, F. Sofyantoro, Y. T. Tai, K. H. Chia, T. Matsuda, T. Murase, Y. Morozumi, H. Tatebe, T. Kanki & K. Shiozaki: eLife, 10, e60969 (2021).

8) J. Ye, W. Palm, M. Peng, B. King, T. Lindsten, M. O. Li, C. Koumenis & C. B. Thompson: Genes Dev., 29, 2331 (2015).