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ヒト細胞内で翻訳途上のタンパク質にジスルフィド結合が形成される仕組みタンパク質立体構造形成の新規メカニズムを発見

Hiroshi Kadokura

門倉

東北大学多元物質科学研究所生体分子構造研究分野

Published: 2022-11-01

ジスルフィド結合は,2つのシステインが酸化されて形成される分子内架橋であり,分泌タンパク質や膜タンパク質(以後,両者を分泌タンパク質と呼ぶ)の立体構造形成に重要である(1)1) M. Okumura, H. Kadokura & K. Inaba: Free Radic. Biol. Med., 83, 314 (2015)..ヒトホルモンや抗体などヒト由来の有用タンパク質の多くは,分子内にジスルフィド結合をもつ分泌タンパク質である.これらを微生物で生産させる際には,正確な位置にジスルフィド結合が形成されないことが,しばしば問題になる.よってヒト細胞でタンパク質にジスルフィド結合が正確かつ効率よく形成される仕組みを解明することは応用の観点からも重要である.

真核生物ではジスルフィド結合の導入は,分泌タンパク質合成の場である小胞体で行われ,protein disulfide isomerase(PDI)ファミリーに属する酵素によって触媒されている(1, 2)1) M. Okumura, H. Kadokura & K. Inaba: Free Radic. Biol. Med., 83, 314 (2015).2) T. Fujimoto, O. Nakamura, M. Saito, A. Tsuru, M. Matsumoto, K. Kohno, K. Inaba & H. Kadokura: J. Biol. Chem., 293, 18421 (2018)..哺乳動物細胞の小胞体にはPDIファミリー酵素が約20種類存在し,基質上の2つのシステインを酸化する,あるいは基質上のジスルフィド結合を還元・異性化することによって,基質へのジスルフィド結合形成を促進する.後者の反応は非天然型の(間違った組み合わせのシステイン間に形成された)ジスルフィド結合の修復等に必要になる.

さて,ジスルフィド結合は,リボソーム上で翻訳合成されつつ小胞体内で伸長する新生ポリペプチド鎖(新生鎖)に導入されると考えられるが,個々のジスルフィド結合がどのような順番で,どのような機序のもと,基質に導入されるのかは,ほとんどわかっていない.筆者らは,大腸菌における解析で得たノウハウを活用し(3)3) H. Kadokura & J. Beckwith: Cell, 138, 1164 (2009).,ヒト細胞内でLDL受容体(LDLR)の新生鎖にジスルフィド結合が導入される過程を調べるための系を構築することに成功した(図1図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載)(4)4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020)..さらに,この系を用いた解析から,LDLRにおけるジスルフィド結合形成には予想外の興味深い仕組みが使われていることがわかった(4)4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020).ので,紹介する.

図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載)

(A) LDLRのドメイン構造とLDLR上に存在するジスルフィド結合.(B)LDLRの新生鎖を精製するためのタンパク質の構造.(C)放射能標識したLDLRの新生鎖を,シグナル配列の直後に挿入したFLAG配列を利用して精製,非還元・還元2次元電気泳動によって分離後,オートラジオグラフィーで検出した.ジスルフィド結合を形成した新生鎖は①から③の矢印で示したシグナル上に観察された.(D)R1ドメインに正しいジスルフィド結合を形成したLDLRの新生鎖を,立体構造特異的なC7抗体で精製後,(C)と同様の方法で検出した.R1ドメインに正しいジスルフィド結合が導入された新生鎖はフェーズ②の終端とフェーズ③に観察された.この結果などから,Rドメインに導入された非天然型のジスルフィド結合は,フェーズ②の間に,天然型の結合に組み換えられることがわかった.

LDLRは,血液中のLDLコレステロールを細胞内に取り込む膜タンパク質である.本タンパク質が正しく折り畳まれないと高コレステロール血症や脳梗塞などの原因になる.よって,その折り畳みの仕組みを知ることは医学的にも重要である.

LDLRは,多数のドメインからなるマルチドメインタンパク質であり,ジスルフィド結合は7個のRドメインと3個のEGFドメインに3本ずつ計30本存在する(図1A図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載)).LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が導入される過程を調べるためには,放射性アミノ酸で標識したLDLRの新生鎖を,シグナル配列の直後に挿入したFLAGタグ(図1B図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載))を利用して,ヒト由来培養細胞であるHeLa細胞中から精製し,2次元電気泳動で分離した(図1C図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載)).

このゲルでは,1次元目を非還元条件下で泳動し,2次元目を還元条件下で泳動している.ジスルフィド結合が形成すると一般にタンパク質の泳動度が大きくなるため,1次元目と2次元目の泳動度の違いからジスルフィド結合の形成を検出できる(3, 4)3) H. Kadokura & J. Beckwith: Cell, 138, 1164 (2009).4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020)..具体的には,ジスルフィド結合が導入されたポリペプチド鎖は,①から③の矢印に沿ったシグナル上に検出された(図1C図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載)).しかし,ジスルフィド結合が正しいシステイン間に形成されたかどうかは,この解析では,不明である.そこで,LDLRのN末端に存在するR1ドメインに正しいジスルフィド結合が形成されるとこれを認識する,C7抗体(5)5) A. T. Nguyen, T. Hirama, V. Chauhan, R. Mackenzie & R. Milne: J. Lipid Res., 47, 1399 (2006).を用いた免疫沈降法によって,R1ドメインに正しいジスルフィド結合が導入された新生鎖をHeLa細胞中から精製した後,2次元電気泳動で観察した(図1D図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載)).この結果などから,新生鎖が80 kDaの大きさに伸長し(図1D図1■LDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系(文献4より,改変転載)),β-プロペラ領域の約半分が翻訳されると,ジスルフィド結合の組み換え反応が誘起され,それまでにRドメインに導入された非天然型のジスルフィド結合が天然型の(正しい組み合わせの)結合に組み換えられることがわかった(図2図2■LDLRの折り畳みのメカニズム(文献4より,改変転載)).さらに,LDLRから,β-プロペラ領域を欠失させると,R1ドメインの折り畳みが阻害されることから,β-プロペラ領域内には,上流のR1ドメインの折り畳みを促進する配列が隠されていることが示唆された(図2図2■LDLRの折り畳みのメカニズム(文献4より,改変転載)(4)4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020).

図2■LDLRの折り畳みのメカニズム(文献4より,改変転載)

一般に,マルチドメインタンパク質は,各ドメインがリボソームあるいは膜透過装置から出現するごとに,N末端からC末端へと,ドメイン単位で折り畳まれる.これは,折り畳まれる前の配列間の相互作用によって,タンパク質が間違った構造に折り畳まれることを防ぐためであると考えられる(4, 6)4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020).6) A. N. Fedorov & T. O. Baldwin: J. Biol. Chem., 272, 32715 (1997)..一方,これに反して,LDLRのRドメインの場合には,その遥か下流に存在するβ-プロペラ領域までリボソームによる翻訳伸長が進行して初めて,正しい立体構造に折り畳まれる(図2図2■LDLRの折り畳みのメカニズム(文献4より,改変転載)).なぜ,このような「手の込んだ仕組み」を用いて,Rドメインが折り畳まれるのかは,不明であり,今後解決すべき重要な課題である(4)4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020).

大腸菌外膜でリポ多糖の輸送に働くLptD/LptE複合体を構成するLptDや,血液凝固に必要なフォン・ヴィレブランド因子も,非天然型のジスルフィド結合をもつ中間体をへて,折り畳まれる(7, 8)7) S.-S. Chng, M. Xue, R. A. Garner, H. Kadokura, D. Boyd, J. Beckwith & D. Kahne: Science, 337, 1665 (2012).8) X. Dong & T. A. Springer: Blood, 137, 1263 (2021)..いずれも複合体を形成するタンパク質であり,折り畳みの最終段階において相方のタンパク質と安定な複合体を形成する過程で,ジスルフィド結合が組み換えられる.一方,LDLRのRドメインとβ-プロペラドメインの,最終的な立体構造は,お互いに独立している.よって,LDLRは,自身の上流ドメインの折り畳みを「一過的に」促進できる配列を,自身のポリペプチド鎖の下流領域上に,進化の過程で獲得してきたと考えられる(4)4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020).

物質生産の観点からは,以上の結果は,マルチドメインタンパク質から必要なドメインだけを取り出して発現させても,うまく折り畳まれない場合があり得ることを示しており,発現実験をデザインする際には,留意が必要である.

また,ヒト細胞表層に存在する多くのタンパク質は,LDLRと同様に,分子内に多数のドメインと多数のジスルフィド結合をもつ.よって,今回の結果は,このようなタンパク質の折り畳み不全によって発症する疾患において,その折り畳み不全に至る機序を理解し対処法を考えるための,新たな視点を与えると期待される.

ジスルフィド結合形成は,一見すると極めて単純な反応であるが,そこにも未知の興味深い仕組みが隠されており,驚きである.LDLRに於ける反応に絞って考えた場合でも,①なぜ,非天然型のジスルフィド結合をもつ中間体をへて,折り畳まれる必要があるのか? ② β-プロペラドメインはどのようにしてRドメインの折り畳みを促進するのか? など,重要な問題が残されている.今後,本稿で紹介した方法を含む様々な手法を利用して,効率良いジスルフィド結合形成のために,生命が進化の過程で獲得してきた様々な仕組みを明らかにしていきたい.

Reference

1) M. Okumura, H. Kadokura & K. Inaba: Free Radic. Biol. Med., 83, 314 (2015).

2) T. Fujimoto, O. Nakamura, M. Saito, A. Tsuru, M. Matsumoto, K. Kohno, K. Inaba & H. Kadokura: J. Biol. Chem., 293, 18421 (2018).

3) H. Kadokura & J. Beckwith: Cell, 138, 1164 (2009).

4) H. Kadokura, Y. Dazai, Y. Fukuda, N. Hirai, O. Nakamura & K. Inaba: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 16401 (2020).

5) A. T. Nguyen, T. Hirama, V. Chauhan, R. Mackenzie & R. Milne: J. Lipid Res., 47, 1399 (2006).

6) A. N. Fedorov & T. O. Baldwin: J. Biol. Chem., 272, 32715 (1997).

7) S.-S. Chng, M. Xue, R. A. Garner, H. Kadokura, D. Boyd, J. Beckwith & D. Kahne: Science, 337, 1665 (2012).

8) X. Dong & T. A. Springer: Blood, 137, 1263 (2021).